※現代にゆっくりがいる設定です。
※特に罪の無いゆっくりが酷い目にあいます。(若干ゲスもあり)
※作者は冬山登山の経験など無いです。
■冬の山にて(前編)
◆ 【1日目】 ◆
季節は冬まっさかりの雪山
天気こそ晴れているものの雪はひざ上まで積もっている。
山道など殆ど見えないが俺は慣れた足取りでひたすら歩いていた。
「ふーむ、今年は雪が少ないなぁ温暖化の影響か?」
峠を越えた所で一息つきながら目的のポイントまでの道のりを再確認する
「こりゃ良い絵は期待できんかな・・・」
俺の趣味は雪山での写真撮影だ。
元々、学生時代山岳部で散々登山に明け暮れた経験を持ち
社会人になってからの趣味は冬の静かな雪山に泊り込み、日の出や自然の風景を撮影する事なのだ。
友人たちは「冬に登山など理解できん」と言うが北国出身にして、雪山登山で鳴らした俺にしてみれば
近所の冬の山など難易度の高い物では無いし、なにより静かな山を独占しているような感覚が大好きだった。
と、そんな事を自問しながら歩いていると昼過ぎに目的地に辿り着いた、今年のポイントは小さな泉が点在する平原。
夏の登山中に発見し、雪化粧されたらさぞや綺麗だろうと心に決めていたのだ。
「おお!!思ったとおりだ冬場は一層綺麗だ!!」
期待値が低かっただけに反動は大きい。
これで、渡り鳥とかが泉に来てくれればかなり期待できそうだ。
平原を一望でき、風雪を凌げそうな大木の根元にテントを張りカメラをセットする
後は、ひたすらシャッターチャンスを待つのみだ
気まぐれな自然相手の写真撮影は待つ時間がとても長い。
今回も4~5日は雪山に泊り込めるぐらいの準備はしてきている
だが、この待ち時間も俺は好きだ。しんしんとした世界でのんびりとチャンスを待ち続ける事にする。
「・・・ゆ~♪ゆ~♪ゆっくり~・・・」
「・・・ん?何か聞こえるぞ」
静かな世界に妙に耳障りな声が微かに聞こえてくる
俺はテントから顔を出しキョロキョロと辺りを見回すと
近くの倒木の下、不自然に雪が盛り上がっている箇所から声が出ていた。
「・・・もしかしてとは思うが」
テントを這い出し倒木の下に耳を澄ます
「ゆゆ~♪ゆ~♪ゆ~♪おちびちゃん、ゆっくりおうたをうたいましょ」
「「「「「「ゆ~♪ゆ~♪ゆっきゅりしちぇいってにぇ」」」」」」
「ことしはたくさんごはんがあるからすごくゆっくりすごせるよ!!」
予測した通り冬篭り中のゆっくり家族の巣があった。不快な事この上ない。
「・・・クソ饅頭達の巣があったか」
野生動物は好きな俺だが、ゆっくりは例外的に大嫌いだ
さわやか登山の空気を不愉快な言動でぶち壊された事が何度もある。
今回も静かな山の空気を早くも邪魔されてしまった。
「・・・撮影までの時間をこいつらで潰すか」
早速俺は巣の入り口まで近づき雪ですっかり覆われたバリケードを勢いよく蹴り飛ばす。
「ゆゆゆゆ!?さむいよ!!きゅうににかぜさんがはいってきたよ!!」
「どぼじでおうちのかべがなぐなっぢゃってるのぉーーーー!!!!!!!」
「さむいよおきゃーしゃん!!ゆっくちできにゃいよ!!」
「かぜしゃんゆっくりしてね!!れいむたちのおうちからでていっちぇね」
「ゆっくちできにゃいー!!」
突然の事に理解が追い付かない饅頭集団。すぐにパニックの渦の中だ。
巣を覗き込むと、まりさ種とれいむ種の両親と同種の子ゆっくり達が半々で6匹、計8匹住んでいた。
両親はハンドボールぐらい、子供たちはテニスボールぐらいのサイズだろうか。
こちらに気づいた親まりさが俺に叫ぶように問いかける
「おにーさんだれ!?ゆっくりできるひと!!??」
「俺はゆっくりできるが、お前らはできん」
「ゆ?」
何がなんだか分からない。っと言った表情の親まりさをガッと片手で掴み上げ、平原の方へ思いっきりブン投げる
「ゆゆゆゆッッ!!!!おそらをとんでるみたいぃぃぃぃぃ」
まあ、実際飛んでいるのだが。20mぐらい先に墜落した。
「ゆーーー!!!!!!まりさがおそらをとんでいっじゃったぁぁ!!??」
「れいみゅもおそらをとびたいよ!!」
「まりしゃもゆっくりとびたいよ!!」
目を見開いて驚愕する母れいむと、キラキラした目で羨ましがる子ゆっくり達
「ならば、貴様らもボラーレヴィーア!!(飛んでっちまいな)」
続けざまに残った家族をブン投げる
「ゆゆゆうう!!!!!れいむおそらをとんでるぅぅぅ!!???」
「おしょらをとんでる~!!!」×6
家族がバラバラだとかわいそうなので同じ方向に投げてやった。優しいな俺は。
ついでに残った巣穴に手を突っ込み保存してある食料を根こそぎ平原とは逆方向の森へバラ撒いてやった。
ふははは、自然の厳しさを知るが良い。
「さて、テントに戻って本でも読むか」
いそいそとテントに戻り、暗くなるまで読書をして過ごした。
その後、晩飯を食べてる時に
「どぼじでごはんがなくなってるのぉぉぉぉ!!!!」
「ゆっぐりでぎないぃぃぃぃ!!!」
みたいな声が風に乗って聞こえたが無視して寝た。山の夜は早いのだ。
◆ 【2日目】 ◆
夜明け前に目を覚まし、日の出の写真と朝霧に浮かぶ平原の写真を何枚か取った。
まあまあの絵だがこれでは満足できない、今日も天候は晴れのようなのでチャンスを待つ事にしよう。
平原の泉で水を補給し、朝飯を済ます頃には完全に日は昇っていた
どれ、饅頭たちの様子でも見てみるか。
巣穴には再びバリケードが作られていたが、慌てて作ったのか隙間だらけで簡単に中が覗ける。
「ゆ~すぅ~・・・ゆっくりさむいよ・・」
「ゆ~ゆ~・・・おなかがすいたよ・・・」
「ゆゆゆ・・・さみゅいよ・・・」
一家が身を寄せ合ってブルブル震えながら眠っていた。
しかし、野生動物が人間より目覚めが遅いとは何事か。これは教育が必要と言わざるを得ない。
「ブオン・ジョルノ!!(おはよう!!)」
気合の入った掛け声とともに再びバリケードを蹴り飛ばす
「ゆゆゆゆ!!!きのうのくそじじい!!」
「どぼじでれいむたちのおうちをこわすのぉぉぉ!!??」
「「「さみゅいよぉぉぉ!!!」」」
朝から良い声で鳴く連中だ。そして俺の名前が『くそじじい』になってるな
ところで巣穴を覗くと昨日から子ゆっくりの数が2匹減って家族の合計が6匹になっていた。
(れいむとまりさが1匹ずつ減ってた)
「おいお前ら、子供が2匹減ってるじゃないか。親のくせに子供も守れなかったなのか?馬鹿なの死ぬの?」
「ゆ・・・じね!!くそじじい!!おまえがばでぃさたちをなげるからこどもたちがゆっくりできなくなったよ!!」
「おちびちゃんをかえじでね!!ゆっぐりじんでね!!」
「ゆっきゅりちね!!」
どうやら、2匹は昨日の遠投で行方不明(か凍死)になってしまったらしい
残った家族6匹揃って叫び声と共に俺の足にポヨンポヨンぶつかってくる。無論ダメージなど無いが
「ははは、ゆかいゆかい」
赤く膨らんだ饅頭どもが必死の形相で全く無意味な攻撃を仕掛けてくる様は、何とも言えず心を愉快な気分にしてくれた。
が、すぐにうっとおしくなったので家族を全員巣穴の中に蹴り飛ばし戻す。
「ゆぎゃん!!」
「ゆぶ!!」
「「「「ゆぎゅぅ!!」」」」
小さな巣穴を覗き込むようにしゃがみながら目を回してる饅頭どもに声をかける
「ところで、お前達お腹がすいてるのか? 俺があまあまなお菓子をあげるぞ」
俺の言葉に子ゆっくり達がものすごい勢いで反応し、飛び上がった。
「ほんちょ!!かわいいまりしゃにすぐにあまあまちょうだいね!!」
「れいみゅにもあまあまさっさとちょうだいね!!」
「ゆ!!だめだよおちびちゃんたち!!ばかなにんげんにだまされないでね!」
「そうだよ!!くそじじいのいうことなんてきいちゃだめだよ!!ゆっくりりかいしてね」
図々しさを隠さない態度でお菓子を要求する子ゆっくり達。
対して両親は俺に対しての警戒を強め、子供たちを必死に咎めている。
「ゆぅ~でもれいみゅはおにゃきゃがすいてがまんできないよ!!」
「まりしゃもがまんできないよ!!」
「しょうだよ!!」
成体ゆっくりの場合一日食事を抜いたぐらいではまだ体が持つのであろうが
育ち盛りの子ゆっくりにとってみれば致命的な問題だ。口々に不満の声を出し始める。
「おやおや、子供にご飯もやれない馬鹿な親を持つと子供は苦労するね~
せっかくのあまあまなのに勿体無いね。お兄さんが全部たべちゃおうかな」
我ながら良い大人とは思えない喋り方だが、ゆっくり相手に程度を合わせるならばこんな物だろう。
「ゆ!!まりしゃはあまあまほしいよ!!たべりゅよ!!」
「れいみゅもだよ!!ごはんをくれないおきゃーしゃんたちはゆっきゅりだまっちぇね」
「まりしゃたちにごはんをくれないおきゃーしゃんなんてきりゃいだよ!!」
「れいみゅたちはおにゃかがすいてゆっきゅりできにゃいんだよ!!」
「「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉ!!!???」」
必死に説得する親に背を向け悪態をつきまくる子ゆっくり達。
両親たちは悲しげな表情で涙を流しながら(これ以上嫌われたく無いのか)子供達を眺めるだけだった。
「ははは、親不孝な子供達は素直だな。素直な子には特別にあまあまをあげるぞ。
沢山あげるから地べた這いずり回って卑しく食べろ」
俺はいい加減ストレスも溜まってきたので適度に言いたい事を言いながら、子ゆっくり達の前に雪玉を差し出した。
「ゆ?こりぇがあまあまなの?」
「こりぇはゆきさんだよ?」
「ふふふ、とにかく食べてみなよ。下賎な生物向けの特別あまあまだよ」
「ゆ~ゆ~!!れいみゅたちはときゅべちゅなんだね!!」
「きっとまりしゃたちがきゃわいいゆっくりだからとくべつにゃんだよ!!」
『特別』と言う単語に見事に踊らされる子ゆっくり達。ああ・・・なんと愚鈍な生物か。
ところでこの雪玉、実はさっき後ろ手でコンデンスミルクをたっぷりかけておいたのだ
言うなれば練乳アイスで、人間が食べても美味しいと感じるだろう。
ちなみに、チューブ入りのコンデンスミルクはチョコレートと並んで冬登山の必需品だ
携帯に便利で高カロリー、お湯に溶かして飲む事もできるので非常食の意味も兼ねて最低2つは常備していた。
「さあ、食ってみろ」
巣穴の真ん中に置き、子ゆっくり達に食べるよう促す。
子ゆっくり達は最初雪玉を舐める程度だったが、コンデンスミルクの甘さに気づき徐々にかじり付き始めた。
「しゃ~りしゃ~り、ちゅめたいけど・・・・ちあわちぇ~!!」
「しょ~りしょ~りほんちょだ!!ゆきさんちゅめたいけど、すごいあまあまだよ!!」
「ちゅめたいけど、へぶんじょうたい!!」
「まじっぴゃねぇ!!」
あっと言う間に雪玉を平らげる子ゆっくり達
「もっちょあまあまたべたいよ!!」
「ゆっくりしないでかわいいれいみゅたちにあまあまもっとちょうだいね!!」
「さっさとちょうだいね」
ピョンピョン跳ねながら口々に「追加をよこせ」と要求する。
「もっとあまあま欲しければ、家の外の雪を食べればいいんだよ。これは全部あまあまだよ」
「「「「ほんちょ!?」」」」
俺の大嘘にあっさり引っかかった子ゆっくり達は我先に巣穴を飛び出そうとする
しかし、両親が前方を遮り子供たちを咎める。
「おちびちゃんたち、だまされちゃだめだよ!!ゆきさんをたべすぎるとゆっくりできなくなっちゃうよ」
「そうだよ。ばかなじじいにだまされないでね。ゆっくりりかいしてね」
前に立ち塞がる両親に一瞬たじろぐ子供達。しかし、子れいむの一匹が口を開く
「ゆぅぅ~でもおきゃーさんれいみゅたちにごはんくれないよ!!にんげんさんはれいみゅたちにごはんをくれたよ
おきゃーさんのいうことなんてしんじられないよ!!」
「「ゆっ!!??」」
子供の反論に驚く両親、子供達の抗議は続く
「しょーだよ!!おきゃーさんはきのうだっておうちにきゃえれば、ごはんがあるっていっちぇたのになきゃったよ!!」
「もうまりしゃたちはがまんできないよ。じゃましゅるおきゃーさんなんてだいっきりゃいだよ」
「おきゃーさんはゆっきゅりだまってどっかいってね!!」
「「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉ!!!???」」
両親は本日2度目の子供達の裏切りに再び涙を流した。
「ははは、本当に馬鹿な親を持つと子供は苦労するね。子供達はお腹壊すまであまあまさんを食べなさい」
「「「「ゆっきゅりりかいしたよ!!」」」」
しかし、両親は決して子供達の進路から動こうとしない。
子供に何と言われようと雪を食べ過ぎればどうなるかぐらいは理解していたので、
無言の壁となって子供達の前に立ちはだかる。
しばし親子間での膠着状態が続く
が、俺は色々とめんどくさくなったので両親を掴み上げると再び平原方向へブン投げた
「ゆゆぅぅぅぅおちびちゃぁぁぁぁ!!!」
「じじぃぃぃぃじねぇえっぇえぇ!!!」」
「「「「「おきゃーさんはゆっきゅりどっかいってね!!」」」」
自分勝手なセリフに見送られ昨日と同じぐらいの場所に墜落した。2~3時間もあれば巣穴まで戻ってくるだろう。
障害も無くなった事もあり子ゆっくり達は巣穴を出てすぐの新雪地帯の雪を貪り始めた
「しゃ~りしゃ~り、ちあわちぇ~!!」
「しゃ~りしゃ~り。まじっぴゃねぇ!!」
雪に顔を突っ込んで甘い雪に舌鼓を打つ子ゆっくり達
今食べてる雪の周辺にはコンデンスミルクがかけられているが逆に言えば『その周辺以外は普通の雪』だ。
「まりしゃ、かおにゆきさんがついてるよ。れいみゅがぺーろぺーろしてあげるよ!!」
「ゆぅゆぅ~ん、まりしゃもれいいみゅにぺーろぺーろするよ!!」
「「ゆっきゅりちあわちぇ~!!」」
身をクネクネ曲げながら喜ぶ様は不気味だった。
さて、止める両親が居なくなった今、欲の皮が突っ張った子ゆっくり達がどうなるか楽しみだ
俺は踵を返し、幸せ宣言を後ろに聞きながら一旦自分のテントに戻ることにした。
時刻は午前9:00過ぎ。天気は快晴の見込み
今日は、平原ではなく森の方に出てみるとしよう。
俺は愛用のデジタル一眼レフを肩にゆっくり達の巣穴の後方に広がる森林へと足を踏み入れていった。
(ちなみに、子ゆっくり達は未だ必死に雪を貪り食べていた。疑問は無いらしい)
雪に埋もれた森の中を歩き回ること2時間ほど
景色ばかりを写真に撮っていた中、雪の上に真新しい狐の足跡を発見した。
日も高くなってきたこの時間帯、野生動物は動きが活発になる。
刹那、15m程先に狐がさっと木の陰に隠れるのが視界に入った。
風の方向を確認する、自分は風下。ポジションはちょうど狐を見下ろせるような射角だ。
これはいいチャンスかも知れない。俺は急ぎ雪の上にうつ伏せ状態になりカメラを固定させる
ズームで狐を観察するとジリジリと木の陰から出てきた、狩の途中なのだろうこちらを一切気にしない。
いや、人間など眼中に無いと言った方が正確かもしれない。
狐は用心深く身を屈めながら、鋭い目つきで前方を睨む。その視線の先にあるのは・・・一匹の兎。
兎は一心不乱に冬には少ない植物の緑葉を食べている、兎とて食わねば死ぬ。必死だ
また一歩狐が歩を進める。
兎は察したのか身を一瞬屈める。
ッパァッン
瞬間、両者の足元の雪が爆ぜた
狐は一直線に獲物へ襲い掛かる、対する兎は迫る狐を横っ飛びに回避し
着地と同時に思いっきり足にバネを溜め、狐の進行方向とは逆に向かって走り始める。
狐が兎を追いかけるには体の方向を180度反転しなければならない。
勢いが付いてる分、方向転換には大きなカーブを要する。致命的なタイムロスだ。
その間を活かして兎は全速力で逃走する。文字通り脱兎の如くだ。
しかし、追う狐の全速力に兎が得たアドバンテージは2秒も経たず消滅する。もう両者の距離は無い。
跳躍で勢いを付けた狐の牙が兎の首筋に食い込み、容赦なく雪へと押し付けられた。
だが、兎は最後まで走り続ける意思があったのか後ろ足をばたつかせる。
そんな兎の後足の一掻きが狐の目に当たった。執念か偶然かは分からない。
狐は驚きと痛みで兎を口に銜えたまま、首を思いっきり横に振った。勢いで兎が口から外れ横に飛ぶ。
距離にして2mも無かろうが首から血を流した兎が空を飛び、落ちる。兎はもう動かない。
白い雪の上に不気味なぐらいに鮮やかな血のラインが引かれた。
落ち着いた狐は2度3度首を振ると、たった今できた赤のラインに沿うように兎の元に行き
絶命した獲物の首筋を銜えると、悠々とした足取りで歩き出す。狐は今日の糧を手に入れたのだ。
途中、狐は一度こちらを振り向き俺を睨んできた。その目は兎を狙っていた時と全く同じ鋭い目
『邪魔はするなよ』
言葉にならずとも目は強く語っていた。そして狐は森の奥へと消えた。
「・・・・ふぃ~」
緊張から一気に解放される。
時間にして30秒も無かっただろうが寝そべってカメラを固定してた体中の関節が痛い。
俺は身を起こし一旦伸びをしてからその場に胡坐をかいて座り込む
「まさかこんな良い物が見れるとは思わなかった・・・・」
固まってしまった首と肩をグリグリ回しながら呟く。
一部始終、連続撮影で撮っていたので中には一枚ぐらい当りの絵はあると思う。
「しかし、野生動物の生き様には毎度の事ながら頭が下がるな」
これは本音だ。例え狐や兎のような有触れた野生動物でも
生死をかけたドラマには善悪・損得等を一切無視した生命の美しさが感じられる。
人間の日常生活では絶対に見られない物の一つだ。
「いくら写真に収めてもこればっかりは生で見ないと分からんよな」
狐が消えていった森の奥を見つめながら畏敬の念を覚える。
これだから山の趣味は止められない。
「さて!!いい物も見れたしテントに戻るとするか。戻ったら昼にしよう!」
俺は勢い良く立ち上がると、冷たい空気を胸一杯に吸い込んで
これ以上ないぐらいに晴れ晴れとした気分でテントへの帰路を歩き出した。
ムニュゥゥゥムニュゥゥゥビュジョッ
「おきゃぁぁしゃぁぁぁんん!!!まりしゃのうんうんがとまりゃないいよぉぉぉ!!」
ブジュブジュゥゥゥゥ~~~ッブッビ
「しーしーとうんうんとまってね!!ゆっくりうんうんとまっちぇね!!」
ジュビュビュビュビュブゥゥゥージョッボボボボ
「れいみゅう、きちゃないよぉぉぉきちゃにゃいょっぉぉぉ!!」
ブビュッブビュッブッブッブビュゥ
「おきゃぁぁあんんまりしゃたちをたしゅけてね。うんうんとまらにゃくてゆっきゅりできないょぉぉ」
「「だがらゆぎさんを食べちゃだめだっていっだのにぃぃぃ!!!」」
「・・・・・・汚い。本当に汚い」
俺は森を出たところで最悪の出迎えを受けた。
ゆっくり達の巣穴では、子ゆっくり達が雪の食べすぎで下痢を起こし
泣きながら、うんうんとしーしーを垂れ流し続けていた。巣穴の中に薄汚れた餡子汁の水溜りが出来ている。
巣穴に戻ってきた両親は泣いてオロオロしながら、子供達を叱っていたがそんな事言っても後の祭りだ。
「・・・・・・・こいつらやっぱ絶滅するべき種だよな」
自分が仕掛けておいて何なんだが、さっきまでの大自然の爽快感に
それこそ餡子でもなすり付けられたような感覚に陥りちょっと欝になった。
もう良い、無視してさっさとテントに戻ろう。
「にんげんさん!!!まっで!!でいぶだぢをたすけてぐだざい!!」
「なんでもじまずがらばでぃざだぢのごどもをだずげでぐだざいいいい!!」
「ああぁん?」
巣穴を通り過ぎようとした時、親ゆっくり達から声をかけられた。
見ると二匹とも涙と涎で顔をグシャグシャにしながら必死に懇願している
が、人の爽快感に餡子を塗りつけるような奴らを助ける気は無い。
「なんでだよ。てめーらの子供だろ?てめーらでなんとかしろ。クソ饅頭」
「でぼ、だべなんです!!このままじゃおちびちゃんだぢのあんごがぜんぶでぢゃって
ゆっぐりでぎなぐなっぢゃうんですぅ!!」
「知るか。ボケ」
足元で、涙と涎を撒き散らしながら必死におでこを雪面にこすり付ける親れいむに言い放つ。
すると今度は親まりさが、やはり顔をグシャグシャに濡らしながら懇願してきた。気持ち悪い顔だ。
「ぞんなごどいわないでおねがいじまずぅぅ。ばでぃさなんでもじまずがら。でいぶとのかわいいごどもなんでずぅぅ」
「ふむ・・・・」
2匹の行動は正直意外だった。
子ゆっくりが親に反発した上で自業自得で腹を壊せば両親は子供を見捨てる、と予測していたが
こんな状況でも親は子供の心配をしている。思ったよりこの両親は愛情が深いのかも知れない。
では、もう少しその愛情の強さを確かめてやろう。
「わかったよ・・・要は子供たちの餡子がうんうんやしーしーで出ちゃって死にそうだって話か?」
「「ぞうでず!!」」
二匹は話を聞いて貰えたのが嬉しかったのか、こっちを必死に見ながらゆっくりらしからぬ口調で答えた。
「じゃ、話は簡単だ。そのうんうんやしーしーをもう一度子供達の中に入れてあげればいいじゃん」
「「ゆ、どうやっで!?」」
希望が見えたと思ったのか、物凄い勢いで詰め寄ってくる。・・・ウザイ
「お前ら、子供が助かるなら何でもするって言ったような?」
「「じまず!!なんでもじまず!!」」
「じゃ、お前らが子供のうんうんとしーしーを口に含んで、それを子供達に口移しで飲ませてやればいい。」
「「なにいっでるのぉぉ!?ぞんなごどでぎるわげないでしょ!!」」
親子間での生死を賭けたスカトロプレイ提案を流石に全力で拒否する2匹。が、俺は詰め寄る。
「さっき何でもやるって言ったような?」
「っゆ!!でもぞんなのきたなくてゆっくりできないよ!!」
「じゃ、子供達は死ぬ。結局お前らの子供対する愛情はその程度って事だろ」
「ゆ!?」
「さっき『なんでもじまずぅぅぅ』なんて言うからせっかく教えてあげたが、所詮ゆっくりなんてこんなもんか」
本当に安っぽい挑発だと言ってる本人が一番思う。しばしの沈黙の後れいむが声を上げた。
「・・・・れいむはやるよ!!おちびちゃんがたすかるならやるよ!!」
「れ、れいむ!!でもでも、そんなのゆっくりできない・・・」
「まりさはおちびちゃんがかわいそうじゃないの!?あんなにゆっくりできてないのに!!」
「・・・ゆぅ。ゆっくりわかったよ!!まりさもやるよ!!」
2匹は泣くのを止め、決意の瞳でお互いの頬をすり寄せる
「話はまとまったみたいだな。後はご自由に」
「「ゆ!!ゆっくりありがとう!!」」
ほぼ全ての原因は俺にあるのだが餡子脳の2匹は律儀にも礼をしていった、
ポヨンポヨン飛び跳ねて巣穴に戻る2匹を見送りテントに戻る
「昼飯何にすっかなぁ・・カレーで良いか簡単だし」
テントの中で昼飯の準備を始めたところでゆっくり達の絶叫が聞こえて来た。
「やめちぇぇぇぇ!!!おきゃぁぁぁさんん!!れいみゅうんうんなんてたべちゃくにゃぃぃぃ!!」
「がまんしてうんうんたべてね!!たべないとおちびちゃんゆっくりできなくなっちゃうよ!!」
「れいむ!!まりさがおちびちゃんをおさえておくからいまのうちに!!」
「ゆっきゅりやめちぇね!!ゆっきゅりやめちぇね!!ゆぶぅぅぅぅ??ゆゅゅぅうぅゆげぇぇがっは!!」
「うんうんをはきだしちゃだめだよ!!たべるまでなんどでもやるからね!!」
「ゆびゅぅぅぅ!!???ゆびゅぅぅぅーーーーーーーー!!」
カレーは変更だ。ラーメンにしよう。
その後、ゆっくり達の悲鳴は食事中も延々と響き渡り
あまりにも下品な騒音に食事後さっさとテントを出た。本当にハタ迷惑な奴らだ。
午後はテントから平原方面を望遠で撮影しようと考えていたが、あんな耳レイプの隣で落ち着いて写真を撮れる訳も無いので
平原に点在する泉周辺まで出向いて水鳥の写真でも撮る事にした。
平原を歩き回る事2~3時間
泉の水鳥や、水中生物を狙って狩りに出てくる小動物を撮影したりして過した。
そう言えば、泉の中って冬はどんなんなってるんだろうか?
今度のボーナスが入ったら水中撮影用の機材を買ってもいいかもしれない。
そんな事を考えながら、日も傾き始めたのでテントへ戻る事にする。冬は日の入りが早いので急がないと行けない。
帰宅途中、テントまで後少しと言った箇所で足元に変な物を見つけた。
雪から一部飛び出ているそれは、赤と黒のビニールのきれっぱしのように見える。何にせよ自然物の色ではない。
「ったく誰だよ。マナーがなって無いな。ゴミはちゃんと持ち帰れ」
山にゴミが捨てられているのを見ると良い気分はしない。持って帰ろうと雪を掘り返す。
「・・・・あ、お前らだったんだ」
掘り返して出てきたのは、デスマスクのまま凍死した子れいむと子まりさだった。
先日投げられた後、2匹で合流することはできたが、家族と合流することができずここで死んだらしい。
「しょうがない、家族に合わせてやるよ」
冷凍子ゆっくり達をポケットに入れ巣穴に向かう。同情ではなく好奇心から。
もはや馴染みとなった隣人の巣穴に近づく。さすがに騒音公害は収まり静かになっていた
「よ、元気か?」
俺が巣穴の中に向かって努めてフランクに声をかけるが反応は無い。
中を覗くと両親と子供達が巣の両端に完全に分かれて、それぞれ憔悴しきった身を寄せ合っている。
両親はよく見るとほっぺた中に細かな噛み傷が幾つもあり
親まりさは帽子のツバの一部が完全に噛み千切られていた。噛み口から見て子ゆっくり達の抵抗の後だろう。
2匹とも疲れきっているらしく焦点が合ってなさそうな目で向かいの子供達を見つめていた。
対して子ゆっくり達は両親の荒療治のおかげか全員存命だが顔は青ざめゲッソリとしている。
しかし、4匹揃って「ゆーひゅーゆーひゅー」と荒い息で身をプルプル震わせ、
鋭く血走った(餡走った?)目に細い涙を流しながら親を睨み付けていた。
何か午前中に見た狐を思い出させたが、こっちの場合完全に『拒絶』の眼差しだ。
親れいむがのっそりと動いて子供達に声をかける
「おちびちゃん、それじゃさむくてゆっくりできないよ。こっちにきておかーさんと「きょないでっ!!!!」
親れいむの誘いを物凄いソプラノでボリュームのでかい声が遮る。
言うまでも無く子ゆっくりの声だ。体の大きさから想像も付かない。頭に響いてうるさい。
「で、でもおちび「「「「きょないでっ!!!きょないでっ!!!きょないでっ!!!きょないでぇぇぇぇっ!!!」」」」
今度は全子ゆっくりによる大ボリュームソプラノの4重奏だ。とっさに耳を塞いだがかなり脳にキタ。
子供達の反応を見て親れいむは黙って顔を伏せると隣のまりさに身を寄せ小さく「ゆっゆぅぅぅ」と泣き始めた。
まりさもれいむの目元を舐め取りながら自分自身も静かに泣き始めた。
子ゆっくり達は未だ「ゆーひゅーゆーひゅー」と荒い息遣いで親達を睨み続ける。
ゆっくり一家にも何か生死をかけたドラマがあったらしい。
大体想像は付くが『生命の美しさ』とか『畏敬の念』とかは感じない。全く全然。確実に。
とりあえず声をかけよう。渡す物もあるわけだし。
「おい饅頭共」
「・・・ゆ?・・・なに・・?ようがないならゆっくりでていってね」
「・・・そうだよ・・ゆっくりほっといてね・・・まりさたちはつかれてるんだよ」
「ゆーひゅーゆーひゅー」
全員一応こちらに気づいたようだが何か関心が薄い。視線をこちらに一瞬向けただけで動こうともしない。
ならば、無理やり関心を引き付ける秘密道具をポケットから出そう。
「土産だ。受け取れ。食うなり何なり好きにしろ」
ポイッ、ゴロゴロゴロ・・・・・・
両親と子供達の中間に丸い二つの物体が転がり込む。よく見れば家族にとって馴染みのある顔。
「「おおおおおお、おぢびぢゃぁぁぁぁぁんんんん!!!!!」」
「「「「「ゆっぎゃぁぁぁぁぁっおねぇぇぇぢゃぁぁぁぁぁんんんん!!!!」」」」
響くソプラノ6重奏。止めておけば良かったと若干後悔。
さっきの対立を忘れ氷結饅頭に駆け寄る家族。
「おかーさんがぺーろぺーろすーりすーりしてあげるからねぇぇぇそんなにゆっくりしてないでおめめあけてねぇぇぇ!!」
「れいみゅも・・・・れいみゅもぺーりょぺーりょするからぁぁぁおねぇぇちゃぁぁぁんん」
「ゆっぐりしないでぇぇぇおべべあげでよぉぉぉぉ」
「おねぇぇちゃぁぁぁんんおねえええぢゃぁぁぁぁんん!!」
秘密道具のおかげで家族の心が一つになった。やはり俺は優しいな。
声がやんだ頃また覗きに来ようと一旦テントに引き上げる。
「晩飯は今度こそカレーで」
晩御飯を食べ終える頃、外は雪が降り始めた。
静かに吹く風の間にゆっくりの泣き声が聞こえた様な気もしたが多分気のせいだろう。
外に出るのももう億劫だ。今日も早く寝よう。
───────────────
作:六人
最終更新:2009年04月03日 03:07