※今までに書いたもの
神をも恐れぬ
冬虫夏草
神徳は
ゆっくりのために
真社会性ゆっくり
ありすを洗浄してみた。
ゆっくり石切
ありすとまりさの仲直り
赤ゆっくりとらっぴんぐ
ゆねくどーと
ゆっくり花粉症
※今現在進行中のもの
ゆっくりをのぞむということ1~
※注意事項
- まず、上掲の作成物リストを見てください。
- 見渡す限り地雷原ですね。
- なので、必然的にこのSSも地雷です。
- では、地雷原に踏み込んで謙虚ゲージを溜めたい人のみこの先へどうぞ。
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ある夏、ある日の昼下がり。
どこかの民家の縁側に、大小二匹のゆっくりがいた。
すりすり身を寄せ合う紅白饅頭、ゆっくりれいむの大人と赤子。
「ゆゆーん。ゆっきゅりー! おかーしゃん、ゆっきゅり!」
きょろきょろ、ちょこちょこ。落ち着かない。だってこんなに楽しいんだ。
小さなれいむがぴょこんと跳ねて、ぱあっと花咲く笑顔を大きなれいむへと向けた。
「おそと、ゆっきゅりできるねー!」
生まれて十日ほどの赤ちゃんれいむには、まだ見るもの全てが目新しい。
小さな小さな赤ゆっくりには、お庭の景色は広大無辺。
目にする限りの景色に飽きもせず、麗かなおひさまの光を一杯に浴びてお日様にも負けないほどの笑顔を
明るくにぎやかに輝かせている。
「……そうだね。『おそと』は、ゆっくりできるね」
だけれどそんな五月晴れの赤ちゃんの側には、一足早い梅雨曇り。
低気圧の雨雲が、どんより大人のれいむの周りに漂っていた。
「ゆぅ……? おかーしゃん、どうしたの? ゆっきゅり、してね?」
何も見えていないようでいて、子供は存外目ざといものだ。
ゆっくりしていない様子の『おかーしゃん』を案じ、くるりと振り向きことさら頬を擦り付ける。
成体れいむは暫く無言のまま、赤ちゃんれいむの頬擦りに応じる事も無くて。
「……ゆぐっ。おきゃーしゃん?」
「ゆふぅ……そうだね、おちびちゃん。ゆっくりしようね」
やがて赤ちゃんが泣きそうになってから、ようやく深く重く吐息を吐いて。
視線はお外―――赤ちゃんれいむが世界の全てと見るお庭の彼方、板塀の向こうにあるお空へに
固定し、やや億劫そうに頬擦りを返した。
億劫そうに、おざなりに。
心の篭らないその行為は、傷付いた赤ちゃんの心にさらに塩を塗りこめるようなもので。
「……ゆっ、ゆぐっ。おかーしゃん。れいみゅのこと……きらいにゃの?」
「ゆっ! なにいいだすの、おちびちゃん!」
いよいよ双眸に一杯の涙を溜め込む赤ちゃんの姿に、大人のれいむは心底慌てた表情を浮かべた。
それはもう、盛大に。不自然なほどの大慌て。
こんな理由で泣かせると、後でとっても困るから。
とってもゆっくりできないことに、自分と自分の家族だけがなってしまうから。
「おかーさんがおちびちゃんのこと、きらいなわけないでしょ! な、なにいってるの!」
「おかーさんはね、ちょっと疲れてるんだよ」
悲しいかな、語彙の決して多くない餡子脳では気の利いた言葉の一つも思い浮かばない。
それでも必死に弁解の言葉を並べ立てる内に、背中からそんな助け舟が出された。
……先ほどまでは、この場に二匹しかいなかったはずなのに。
「ゆゆんっ♪」
「ゆひぃっ!?」
見なくたって、ゆっくりわかる。赤ちゃんれいむは一転して満面の笑み、成体れいむは真っ青な表情。
赤ちゃんにとっての世界で一番ゆっくりできるそのお声、
成体れいむにとっての世界で一番ゆっくりできないそのお声、
いつの間にか戸口に立っていたその声の主の名を、二匹は異口同音に、だが正反対の感情を込めて呼ばわった。
「「おとーさん……ゆっくりしていってね!」」
ある夏、ある日の昼下がり。
どこかの民家の縁側に、大小二匹のゆっくりがいた。
すりすり身を寄せ合う紅白饅頭、ゆっくりれいむの大人と赤子。
傍目にはとてもゆっくりと寄り添う仲睦まじい二匹の様子を、部屋の中から眺める中学生ぐらいの男の子。
れいむたちから「おとうさん」、と呼ばれた存在だ。赤ちゃんにとっては、少年と成体れいむが両親ということになる。
無論のこと、人間とゆっくりが子を成すことなどないのだから、その関係は飼い主とペットという真実の関係を覆い隠すだけの
かりそめのものでしかないのだが。
少年の視線は優しく、暖かい。赤ちゃんれいむを見るときに限れば。
少年の視線は冷たく、酷薄だ。成体れいむをみるときに限れば。
失敗したかな、と少年は思う。
赤ちゃんれいむだけにするべきだった。日向ぼっこのために縁側に出すのは。
ゆっくりはお日様の下でゆっくりすることをとても好む習性がある。
それを知識として知っているから、少年はペットショップで買ってきた頃より少し大きくなった赤ちゃんを
生まれて初めてのお外――縁側に出してあげた。
きっと、普段は狭い巣箱の中、世界が広がっても少年の部屋の中が精一杯だった赤ちゃんは、
初めて接する外の世界に大きな喜びを感じるんじゃないかと思っていた。
「やっぱりれいむに任せずに、僕がついててあげたらよかったなぁ……」
少年は小さく一人ごちる。
その声が聞こえたのか、おなかに寄りかかって眠る赤ちゃんをゆっくり舐めてあげていた成体れいむがびくりと震えた。
あの時、友達から電話が掛かってこなければ、自分が赤ちゃんをゆっくりさせてあげていたのだろう。
赤ちゃんと一緒の時間を過ごせたなら、赤ちゃんが目の当たりにする『初めての世界』への感動を共有するのは自分だったはずだ。
少年は赤ちゃんれいむを飼い主として、親代わりの存在として深く愛している。
だからこそ、そのことがひどく惜しく思われた。
だが、今、懸念しているのはそのことばかりというわけではない。
「れいむ。『おそと』はいいねぇ?」
声音だけが、穏やかだった。
少年が成体れいむに向ける瞳は、常と変わらず冷ややかなもの。
背を向け、決して彼へと振り向かず、だが震えまでは隠せぬ様子で、裏返った声の応えが少年へと返る。
「れ……れいむは、おちびちゃんがゆっくりそだつまでおそとにはでないよ!」
「ゆぅ? おかーしゃん?」
母と呼ぶものの明らかな異状に、赤ちゃんれいむが眉根を曇らせその身体を見上げていた。
その姿が微笑ましく、同時に少年の癇に障った。
「そっか。やっぱりおとーさんのれいむはゆっくりえらいなぁ」
その為に連れて来たモノだったけど、だからといって感情が許すものでもなかった。
わざとらしく、朗らかに、少年は成体れいむの『覚悟』を称える。
久方ぶりに『おそと』に触れた成体れいむがよからぬことを考えぬように。
自分同様、赤ちゃんれいむに無条件の信頼を寄せられる彼女が、そのことを嵩に着て思い上がらぬように。
「おちびちゃん、おかーさんはおちびちゃんが一人で外に出ることができるぐらい立派になるまで、
おうちでおちびちゃんを守ってくれるんだよ」
さらりと一言、成体れいむの心に太い釘を深々と打ち込む。
「ねぇ、れいむ。じゃないと大切なおちびちゃんが危ないものねぇ」
「……ゆっくり、りかいしてるよ。れいむはたいせつなおちびちゃんのためだけにがんばるよ」
少年は背を向けたままの成体れいむが息を呑み、目を見開く気配を確かに感じた。
伝わるのは、憤怒と恐怖。胸中に広がる想いを見て取られたことへの動揺。
赤ちゃんれいむは両親の字面ばかりが優しい言葉に目をぱちくりと瞬かせると、
「ゆぅ……おかーしゃん? だいしゅき、だよ?」
とことさらぐいっと強く身体を母へと押し当てた。
訳のわからない不安に突き動かされるように、すりすりと頬を母にすり寄せる赤ちゃんは知る由もないだろう。
おとーさんとおかーさん、二人がいう「大切なおちびちゃん」が彼女のことではないことなど。
一月もして赤ゆっくりから子ゆっくりと呼ばれるほどに彼女が育てば、母との「死別」の運命が待ち構えていることなど。
少年はそんな二匹の姿を眺め、今度こそ心からの笑みを浮かべる。
それでいい。これでいい。
成体れいむはもうしばらくはと、お外―――家の外に逃げ出すことなど願うまい。
自分に与えられたたった一つの役割、あの子を立派な子ゆっくりにまで育てるという仕事に一層真剣になるだろう。
それが、成体れいむのおちびちゃんを守る唯一の手立て。
成体が再びゆっくりを手に入れるたった一つの道筋なのだから。
成体れいむは野良だった。
つい一週間前まで、つがいのまりさと五匹の子供たちを抱える野良だった。
恐らく元は飼いゆっくりだったのだろう、人と付き合う術を備え、人の社会の理を知り、
人との距離感をきっちり推し量って公園に暮らす彼女の一家は周辺の住民に好ましく受け入れられていた。
だから、少年は友人と謀り、ある夜彼女を連れ去った。
何のために?
そう、新たに少年たちが実ゆっくりの状況からの飼いゆっくりを買うにあたって、難しいその幼児期の養育を任せるためにだ。
昔、少年の家で飼っていたブンチョウの卵を、ジュウシマツに抱かせたことがあった。
それをふと少年が思い出し、同じようにゆっくりを飼うことを考えていた友達へと持ちかけたのだ。
出来た野良と人間の間でも評判のゆっくりならば、きっと赤ちゃんを巧く育てられるはず。
ましてや、それがゆっくりの中でも母性豊かで育児に聡いとされるれいむ種ならばなおのこと。
少年たちはことをその程度に捉えて、ためらうことなく実力行使に及んだ。
あとあと、おうちを壊された状態で突然行方知れずになった一家の話題が公園常連の幼い子供たちやその親を悲しませたが、
少年たちにしてみればたかだか野良のことなど気に留めるようなこととも思わなかった。
成体れいむは信じている。
少年たちが彼女に与えた、たった一つの約束を。
四匹の赤ちゃんを、順番に子ゆっくりまで育てたならば。そのあときっと、つがいと子供のもとに戻してやると。
四人の少年と取り交わしたその約束だけを頼りに、愛らしい、だが決して自分の子ではない赤ちゃんの育児に取り組んでいる。
少年たちは守るつもりでいる。
少年たちが彼女に与えた、たった一つの約束を。
四匹の赤ちゃんを、順番に子ゆっくりまで育てたならば。そのあと成体れいむを川に流し、つがいと子供のもとに送ってやると。
仮初の出産と死別を繰り返し、本当の死別となる四度目の後には冥府での本当の家族との再会をセッティングしてやるのだ。
殺す必要があるのか。仲間の少年の一人がひるんだ様子を見せたとき、こともなげに少年は頷いたものだ。
当然だろう、ゆっくりは人の言葉を解するのだから。
家まで追いかけてこられても困るし、連れ去られた旨を公園の常連の住民たちに訴えられても困る。
必要な個体だけを確保し、他を処分するのはおかしなことでもなんでもない。
家族はとうに川に投げ込まれて死んでいたことを、いずれ同じ川へと投げ込む前に教えてやればどんな顔をするか。
少年は、二匹が交わす偽りの愛情表現を眺めつつ、悪意に満ちた笑みを口元に浮かべた。
自分でそう仕向けたにも拘らず、飼い主たる自分よりも赤ちゃんと親しく接する成体れいむへの純然たる嫉妬という名の悪意。
「再会が楽しみだよね、れいむ」
その積もる嫉妬を晴らす日は、長くてせいぜい四ヵ月の後。
本当に、その日が楽しみだ。
少年は最後にじっとりとした一瞥を二匹に投げて、どこか悲しげなおうたが聞こえる縁側を後にした。
最終更新:2009年06月08日 02:03