「ゆっゆっゆ~っ」
そこは、
ゆっくりプレイス。
「ゆゆゆっ、まりしゃ、まっちぇ~」
本当の、ゆっくりプレイス。
「むーしゃむーしゃ、しあわせー」
正に、ゆっくりプレイスであった。
屋外で、思い思いにゆっくりするゆっくりたち。
れいむ、まりさ、ありす、ちぇん、みょん、ぱちゅりーの通常種たちである。皆、一様
にゆっくりしている。
「ぽかぽかでゆっくりできるよ!」
日向ぼっこするもの。
「ゆゆっ、つかまえちゃよ!」
「ゆゆーん、それじゃ、まりしゃがおにさんになりゅよ!」
おにごっこに興じるもの。
「ゆっゆゆゆ~」
「ゆゆん、おじょうずおじょうず」
おかあさんに、おうたを披露するもの。
「ゆぴぃ~」
ゆっくり眠るもの。
一匹として、ゆっくりしていないものはいないゆっくりの楽園。
丸々と太った姿から、食事には全く困っていないことが一目でわかるゆっくりたち。
「うー!」
だが、その楽園に迫る影。
「うー! あまあまー!」
通常種の天敵、捕食種のれみりゃだ。
「ゆっ、れみりゃが来たよ」
「れみりゃもゆっくりしていってね!」
危機感が全く無いその台詞。誰もが予想する未来――れみりゃが飛来し、ゆっくりに噛
み付き餡を吸う。それを見てようやく危険を悟って騒ぎ出すゆっくりたち、後は阿鼻叫喚
の地獄。
しかし、ここでは、そんなことは起こらない。れみりゃは、ある程度まで近付くと、そ
こから先に進むことができない。何度か、どしん、どしん、と見えない壁に当たって、ど
うしてもそれを破れないことを悟り、物欲しげな顔をしつつ、しょんぼりと去っていく。
それを、ゆっくりたちはもはや見慣れた光景だとでも言うように、ほとんど無視してい
る。
「おおい、ゆっくりたち、ごはんの時間じゃぞぉ」
その声に、眠っていたゆっくりたちも一斉に跳ね起きて、その声がした方へと嬉しそう
にと跳ねていく。
そこには、白髪の好々爺の姿。
「ドスおじいさん、ゆっくりごはんちょうだいね!」
「おう、まずはおちびちゃんたちからじゃ」
そう言って、老人は手に持っていた袋を傾ける。そこからざざーっと音を立てて落ちた
のは、市販されているゆっくりフードだ。ゆっくり好みの甘味をたっぷり配合した栄養満
点の食べ物で、これだけ食べていれば、ゆっくりは必要な栄養素を全て摂取することがで
きる。
「ゆっきゅちいただきまちゅ!」
小さな赤ゆっくりたちが元気に老人に言ってから、むーちゃむーちゃと食べ始める。も
ちろん、その後に来るのは、
「ち、ち、ち、ちあわちぇ~!」
の、大合唱だ。
その間、大人ゆっくりや少し大きくなった子ゆっくりたちは、それをゆっくりした笑顔
で眺めている。大人はともかく、子ゆっくりたちがのんびりと見ているのは、この後にち
ゃんと自分たちの分のごはんが貰えることを確信しているからに他ならない。
「そーら、お次はおねえちゃんたちじゃ」
老人が子ゆっくりたちが待ちに待った台詞を言って、また別の袋を傾ける。やはり同じ
ゆっくりフードだが、先ほどのよりも少し大きい。あちらは、赤ゆっくり用のものだった
からだ。
「よし、おかあさんとおとうさんの番じゃ」
最後に、大人たちへのゆっくりフードをばらまいてから、老人は椅子に座って、ゆっく
りたちの食事を眺めている。
「ドスおじいちゃん、ゆっくちごちちょうしゃま! ありがちょう!」
「ドスおじいさん、ゆっくりごちそうさま! ありがとう!」
食べ終わったゆっくりたちにお礼を言われると、
「ほっほっほっ、どういたしまして」
と、言って、老人は去っていく。
その姿が見えなくなるまで、ゆっくりたちは見送っていて、その後はまた思い思いにゆ
っくりするのだ。
ドスおじいさんと呼ばれているその老人。もちろん、れっきとした人間である。
ただ、ゆっくりをゆっくりさせてくれることから、いつしかゆっくりたちから、
「おじいさんは、まるでゆっくりをゆっくりさせてくれるというドスまりさのようだ」
という声が上がり、なんとなくドスおじいさんと呼ぶようになり、老人もそう呼ばれる
のを喜んだために、それが定着した。
実際、老人はここのゆっくりたちにゆっくりを与えた。
はじめは、街から離れた郊外に居を構えて隠居したこの老人の所に、腹を空かせた野性
のゆっくりたちが現れ、老人が食べ物を与えたのが始まりだった。
食べ物をくれる優しい人間さんの噂を聞き付け、付近のゆっくりたちがやってきて、老
人も「いい加減にしろ」とか「いくらなんでももう無理だ」とも言わずに、ゆっくりが来
れば来るだけ食べ物を上げた。そのうちに、ゆっくりフードを大量にまとめ買いするよう
になった。
転機は、れみりゃの襲撃だった。老人の家の周りに住むようになったゆっくりを狙って
れみりゃが現れるようになり、何匹かのゆっくりが食べられてしまった。
老人は、その場にいればれみりゃを追い払ったが、老人ももう決して健康ではなく、歩
くのには杖を必要としていたから、少し遠くにいれば間に合わなかった。
「ゆっくりできないよぉぉぉぉ!」
と、泣き喚くゆっくりたちを見ていた老人、力強く頷き、
「よし、ゆっくりさせてあげよう」
と、請け合ってから数日後、作業着姿の人間がたくさん現れた。一体何が起こるのかと、
重機の音に脅かされてゆっくりできなくなったゆっくりたちは不安そうにしていたが、や
がてそこには、立派なおうちが出来ていた。
おうちは、人間の家と同じ造りであり、中は三十畳ほどのスペースがあり、たくさんの
ゆっくりがゆっくりできる広さであった。そこから表に出ると、やはり相当なスペースが
あり、そこには自然がそのまま残されている。しかし、そこは透明の壁と屋根によって区
切られており、れみりゃの侵入を許さない。
まるで魔法だとゆっくりたちは思った。このおじいさんは魔法使いだ、と。
もちろん、老人は魔法使いではなくただの人間である。その魔法の種は簡単で、金であ
る。今はこうして隠居しているものの、かつてはとある企業の社長をしており、かなりの
財産を老人は持っていた。
「おお、そうじゃ」
去ったと思った老人が、ひょいと家の窓から顔を出した。
「おいしいケーキが、三日後に届くからのう、楽しみにしとれ」
「ゆゆゆゆゆっ!」
老人の言葉に、ゆっくりたちは感極まったような鳴き声を上げる。老人の言うおいしい
ケーキ。それは有名な菓子店が通販で取り扱っているケーキのことで、ゆっくりたちは後
にも先にもそんな美味しいものは食べたことがなかった。
「ゆわーい、ケーキたべりぇるね!」
「あのケーキはしあわせーになれるんだぜ」
「ゆゆゆっ、たのしみだよぉ~」
口々に歓喜の声を上げるゆっくりたち。
「ドスおじいさん、ありがとう! ケーキたのしみにしてるね!」
「たのちみにちてるね!」
「ほっほっほっ」
ゆっくりたちの感激した声を聞き、老人は嬉しそうに笑って、窓を閉めた。