季節は初冬。
ゆっくり達にとって鬼門と言える、冬ごもりが始まる。
頭のいいゆっくりは、計画的に食糧の確保や巣の補修などを行う。
しかしそれに対し、頭のよろしくないゆっくりはまるで何も考えない。
いつも通りに狩りをして、むーしゃむーしゃと平らげる。
狭いおうちが傷んでいても気にしない。すっきりだってやり放題だ。
非常によろこb......嘆かわしいことに、そういうゆっくりは必ず存在する。
そこで、家の隣に建ててある小屋の入り口を薄く開けて放置しておくと――
「ここはまりさたちのおうちだよ! ゆっくりできないからおじさんはでていってね!」
「そのまえにれいむたちにごはんをもってきてね! あまあまでもいいよ!」
「あまあまちょーらいね!」
「ちょーらいね!」
――このように、頭のかわいそうなゆっくり達がやってくる。
自己紹介が遅れてしまった。僕は虐待お兄さん。みんな、元気に虐待してるかな?
今回のターゲットは、のこのこと小屋に侵入してきたゆっくり一家だ。
家族構成は親まりさ、親れいむ、子れいむ、子まりさの計4匹。
冬ごもりの準備が間に合わなくて、その辺にいいおうちでも転がってないかなーと探していたクチだろう。
現に転がっていたけどね。この一家は運がいい。
「ゆっ! きいてるのおじさん! まりさたちにごはんをもってきてね!」
「あまあまでもいいから、はやくしてね! れいむおこるよ! ぷくうう!」
「「ぷきゅううぅ!!」」
ヒャッハーと叫んで部屋の中心に躍り込みたいところだけど我慢する。
僕は今回、新たな虐待を思いついたんだ。そのために、この一家には少しだけゆっくりしてもらう。
「ああ、わかったよ。ご飯とあまあまだね」
「「ゆっ?」」
拍子抜けしたような一家の前に、僕は大きな青いバケツ2つをドンと置いた。
片方のバケツには市販のゆっくりフード。もう片方には最上級の上白糖。
どちらもバケツの一番上まで、ぎっしりと詰まっている。
「どうぞ。好きなだけ食べていいよ。まずご飯かな」
ゆっくりフードの方のバケツを蹴倒して、一家の目の前にぶちまける。
ゆっくり達は目をパチクリさせていたが、そのあとすぐに飛びついた。
「ゆっ! おじさんはゆっくりできるね! むーしゃむーしゃ!」
「むーしゃむーしゃ! し......しあわせー!!」
「「ちあわちぇー!!」」
ゆっくり達がご飯をむさぼっている間に、僕は小走りで家に帰った。
玄関に置いてある赤いバケツを手にとって、すぐさま踵を返す。
また小屋に戻って来てみると、一家はバケツの半分くらいを食べ終わっていた。
「ゆっ! おじさんありがとう! おれいにまりさたちのかわいいおちびちゃんをみていってもいいよ!」
「でもみたらさっさとでていってね! れいむたちはここでゆっくりするよ!」
「ゆー、ゆっくち!」
「きゃわいくてごめんね!」
勝手にヒャッハーの形に動こうとする唇を何とか抑える。
耐えろ。耐えるんだ僕の魂。
「ああ、ありがとう......ところでまりさ、お願いがあるんだ」
「ゆっ?」
「唐突だけど......君たちのおうちに、僕の荷物を置かせてくれないか?
僕の家、物が多すぎて、もう置く場所がないんだ」
そう言って、白い布が被さっている赤いバケツを突き出した。
この小屋は6畳あるし、家具も小物もなにも置いてないから、バケツ1個など造作もなく置くことができる。
「ゆっ! なにいってるの!? おうちがせまくなっちゃうよ!」
「おうちがせまくなったら、ゆっくりできないよ!」
しかし、ゆっくり達からは拒否されてしまった。
「そう言うなよ......隅っこでいいからさ、このバケツだけ......」
「ゆううぅぅ! おじさんはわがままだね!」
「本当に頼むよ。これからもずっと、ご飯とあまあまを持ってきてあげるから」
「ゆ!? ど、どうしようれいむ?」
「ゆー......わかったよ! れいむはやさしいから、とくべつにゆるしてあげるよ!」
「そうか! ありがとうれいむ!」
「はやくそれをおいてでていってね! れいむたちがゆっくりできないよ!」
僕は部屋の隅にバケツを置いた後、すぐに扉まで戻った。
「あの赤いバケツは、絶対に中を見ちゃいけないよ。見たらゆっくりできなくなるからね」
「ゆっ! わかったよ!」
「あと、ご飯かあまあまが足りなくなったらすぐに言ってくれ。僕は隣に住んでるから、大きな声を出せば分かるよ」
「わかったよ! じゃあ、はやくでていってね!」
小屋から追い出され、扉も閉められる。
「これでやっとゆっくりできるね!」
「そうだね! おちびちゃんたち、れいむとすーりすーりしようね!」
「「しゅーりしゅーり!」」
扉の向こうからかすかに声が聞こえる。
僕はそれに近づいて、外側から静かにかんぬきを掛けた。
「クックックッ......」
自然に笑いがこみ上げてくる。あの一家がゆっくりできなくなるまで、あと1週間くらいか。
「アッハッハッハ!!」
察しのいい人はもう分かっていると思うけど、この小屋は虐待のための専用家屋だ。
あらゆる虐待に耐えうるように、防火防音耐水耐震、全て最高レベルの水準で設計されている。
もちろんカメラとマイクも仕込まれており、自宅の観賞部屋で中の様子を楽しむこともできる。
僕は笑いながら家へとスキップしていく。空から初雪がふわふわと舞い降りてきた。
まりさは暖かい空気の中で目を覚ました。
「ゆっくりおはよう!」
大きな声で朝の挨拶をすると、他の家族もゆっくりと目を覚ました。
「ゆっくりおはよう、まりさ!」
「「ゆっくちおはよう!」」
みんな晴れやかな顔をしている。それも当然だろう。
ここは前のおうちとは比べようもない、夢のようなゆっくりプレイスなのだから。
「ゆっ? おかーしゃんのあたまに、あかちゃんがいるよ!」
「ほんとだ! れいみゅたちのいもーちょだね!」
そう。愛しのれいむの頭から生えた茎に、5人くらいの赤ちゃんがすやすやと眠っている。
昨晩子ども達が寝静まった後に、れいむと久しぶりに『すっきりー!』したのだ。
最近はおうち探しだの何だのですっきりする暇もなかったが、こうして素晴らしいおうちを手に入れることができた。
『すっきりー!』してしまっても何の問題もない。
「そうだよ! まりさとれいむのあたらしいあかちゃんだよ!」
「おちびちゃんたち、うまれたらゆっくりあそんであげてね!」
「「ゆーっ!」」
本当に、ここは夢のようなゆっくりプレイスだった。
以前は寒くて寒くて家の中でも震え、狩りも満足な量が取れず、全然ゆっくりできなかった。
今では一変した。いつも暖かくて広い部屋の中で、ゆっくりしていればいいのだ。
おうたを歌ったり、子ども達と遊んであげたり、すーりすーりしていれば時間が過ぎていく。
「ゆっ! おじさーん! あまあまがたりないよ! ゆっくりしないでもってきてね!」
......と叫べば、すぐにおじさんがやってきて、扉とは反対側の窓から重たいバケツを差し入れてくれる。
「はい、あまあまだよ」
「ゆっ! ありがとう!」
おじさんが持ってきてくれるご飯もおいしかったが、あまあまは輪を掛けておいしかった。
きめ細やかな白い粒で、口の中に入れれば一瞬で溶ける。
さらさらした蜜となって喉の奥に滑り込み、上品な甘味を体全体で感じることができる。
喉はとてもなめらかになり、おうたの調子も絶好調だ。
「おれいにまりさたちのおうたをきかせてあげるよ! ゆ〜ゆゆ〜♪」
「はは......そういえばまりさ、僕の荷物の中は覗いてないだろうね?」
「ゆっ? そんなことしてないよ!」
「そうか。それならいいんだ......ククッ」
おじさんはたまに不気味な声を発するが、それ以外はとてもゆっくりしたおじさんだった。
おじさんの置いていった荷物も、部屋の隅に置いておけば何も気にならない。
『ゆっくりできない物が入っている』と言われたので覗く気もない。
たとえ何か入っていたとしても、今のゆっくりした生活を邪魔する物でなければ何だっていい。
次の日、赤ちゃんが生まれ落ちると一層にぎやかなゆっくりプレイスとなった。
「ゆー! おとーしゃん、ゆっくちちていっちぇね!」
「ゆゆぅ! おちびちゃんもゆっくりしていってね!」
「おねーちゃん、ゆっくちまっちぇよー!」
「ゆゆん、れいむにはつかまらないよ!」
「おきゃーしゃん、あみゃあみゃおいしいね!」
「ゆゆ、そうだね! たくさんあるから、たくさんたべてね!」
「「「ゆゆー!!」」」
幸せだった。みんなみんな、とってもゆっくりしていた。
しかし、数日後。
その日々は、終わりを告げることになる。
「みんな、ごめん......あまあまが、もう無くなっちゃったんだ......」
窓を開けたおじさんが、申し訳なさそうにこう言った。
「ゆううううぅぅ!? おじさん! どういうことなの!?」
「言ったとおりだ。あまあまが、もう僕の家から無くなってしまった......」
信じられない言葉。あれだけたくさんくれたあまあまが、なくなっちゃった?
「ゆううっ! なにいってるの? あまあまがないと、ゆっくりできないよ!」
「はやくあまあまをとってきてね! れいむたちをゆっくりさせてね!」
「しょーだしょーだ! はやくとっちぇきちぇね!」
「まりしゃたちをゆっくちさしぇないおじしゃんは、ゆっくちちね!」
みんなで一斉に文句を言っても、おじさんは「ごめん......」というばかり。
「ごめんはいいから、さっさとあまあまをとってきてね! ぷくううぅぅ!!」
「はやくしてね! ぐずはきらいだよ! ぷくううぅぅ!!」
「「「ぷきゅうううぅぅ!!」」」
そんな時、1人の赤ちゃんれいむが咳き込みながら小さく声を上げた。
「こほっ......こほっ......おかーしゃん、れいみゅ、のどかわいちゃよ......」
「ゆっ......」
まりさはそれを聞いて抗議の口を休めた。
まりさも、最近のこの部屋の空気は乾燥していると感じていた。肌がかさかさしてきたし、喉も乾きやすくなった。
そのために、喉を潤してくれるあまあまを多く食べていたのだ。
しかしそのあまあまも、もう無くなってしまったらしい。
しょうがない。ここは大人のゆっくりした対応を取ろう。大幅に譲歩してやる。
「ゆっ......わかったよ! じゃあ、あまあまはあきらめるから、いますぐにおみずさんをちょうだいね!」
その言葉に、おじさんはピクンと反応した。
「お水......さん?」
「そうだよ! おちびちゃんも、まりさも、のどがかわいたんだよ!」
「お水さん......ククッ、水......」
「あまあまはゆるしてあげるから、ゆっくりしないでおみずさんをもってきてね!」
「クククッ......水、クックックッ......」
「なにわらってるの!? さっさとおみずさんを――」
「無いよ! そんなもの!」
おじさんが叫んだ。ついさっきまでと明らかに違う、自信に満ちあふれた声色で、唇を三日月型につり上げて。
「ゆ、ゆぅ!?」
「アッハッハッハッ! だって、最初に言ったでしょ? ご飯とあまあまを持ってきてあげるって。
クククッ、ハッハッハッ!! おみずさんを持ってきてあげるなんて、一言も言ってないよ!?」
「ゆううぅぅ!?」
そうだったっけ。覚えてない。覚えてるはずがないよ、そんなこと。
「あまあまは無くなっちゃったけど、これからもご飯は持ってきてあげるよ!
喉が渇いたとか、そんなのは僕の知ったこっちゃないけどね!」
「ゆ、ゆ、ゆっ! おじさん、なにいって」
「じゃ、みんな! ゆっくりしていってね!! あっはっはっはっはっ!」
おじさんは窓をぴしゃりと閉めた。笑い声が遠ざかっていく。
まりさ達は呆然としてその窓を見つめていた。
カラカラに乾いた部屋の中。でも、それを潤す物は何もない。
口にできる物は、ここ最近ずっと食べてきたご飯だけ。
ちょっと前まではおいしく感じたのに、今ではちっとも感じない。
だって、こんなぱさぱさのごはんなんて、たべられるわけないよ!
「おじざあ゛あ゛ん! あまあまか、ごほっ、おみずざんをもっでぎでね゛え゛え゛え!!」
「へい、お待ち!」
そう言っておじさんが降ろしてきたバケツの中身は、ぎっしりと詰まったカラカラのご飯。
「ごれじゃないでじょお゛お゛お゛お゛ぉぉ!!」
バケツに思いっきり体当たりする。ざらざらとこぼれる無味乾燥のご飯。
あの日から、喉の渇きは強くなる一方だった。
おまけに体もがさがさだ。
「ゆ゛ー、ゆ゛ーゆ゛ー、ごほっ、ごほっ!」
「ずーりずーり......いだい、いだいよ゛お゛お゛お゛!」
おかげでおうたも歌えないし、すーりすーりもできない。
子ども達も全員、干からびる寸前だ。
「まりざ......なんどがじで......」
「ゆ゛、ゆ゛ぅ......」
愛しのれいむにそう言われても、まりさはどうすることもできなかった。
扉は何故か開かなくなっている。窓にはジャンプしても届かない。
脱出不可能。以上。
「お待たせ! ここ3日間呼んでくれないから、勝手に持って来ちゃったよ!」
突然やってきたおじさん。持ってきたバケツの中身は、充ち満ちに満ちたパラパラのご飯。
「ぢがうっでいっでるのに゛い゛い゛い゛い゛いぃぃ!!」
バケツに渾身の力で体当たりする。床に広がる忌々しいご飯。
「アッハッハッハ、何してんだい! 食べ物を粗末にしてはいけないよ!」
「おじざんのぜいでじょお゛おぉぉ!! な゛んなの゛!? ばかなの゛!?」
「それは心外だなぁ! アッハッハッハ......ん?
あれれー? ねえまりさ、なんかおちびちゃんが少し減ってない?」
「ゆぅ?」
「僕の見間違いかなぁ。この前来たときより、何か数が減ってるように見えるよ」
「ゆ゛ゆっ!?」
まりさは急いで子ども達を見回した。
減ってる......のか? 減ってるような気もするが、子ども達は数が多いのでよく分からない......
「まあ、注意した方がいいね! 例えば、夜に寝てるときとかね!」
よく意味の分からない言葉を残して、おじさんは窓を閉めた。
だが、その言葉の意味はその日の夜に明らかになる。
「ゆ゛ぎゃぁぁ!! やべで、おでーじゃん!」
「む゛ーじゃ、む゛ーじゃ、ぢあわぜえ゛え゛え!!」
まりさは不穏当な悲鳴で目を覚ました。そして、戦慄の光景を見てしまった。
月明かりの射す部屋の中で、子まりさが赤れいむを食べている光景を。
「ぢあ、ぢあわぜえ゛え゛え!!」
「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅ!! なにじでるのぼお゛お゛お゛!!」
とっさに子まりさに体当たりを喰らわす。
子まりさは吹っ飛んだが、食べられていた赤れいむは半分以上からだが無くなっていた。
「もっど、ゆっくち......ちたかったよ」
「ゆがあ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁ!! おちびぢゃんん゛!」
他の家族も何事かと次々と目を開けた。
「あのくぞまりざが、おちびちゃんをたべちゃったんだよ゛お゛お゛お!!」
「「「ゆ゛ゆう!?」」」
まりさの訴えを聞いたゆっくり達が、即座に子まりさに攻撃を加え始めた。
「かぞくをたべるようなゆっくりは、れいむのこどもじゃないよ!」
「ゆっくちできないゆっくちはさっさとちんでね!」
「おねーちゃんはさっさとちんでね!」
その攻撃の渦の中から、子まりさは声を上げた。
「ま、まっで! あがじゃんはおいじいんだよ! たべたらとってもゆ゛っぐり......」
「なにいってるのお゛お゛お!! いもーどをたべるようなまりざはじね゛えっ!」
親れいむがひときわ大きく跳ねて子まりさの頭に跳び乗る。
パァン、と乾いた音がして子まりさは爆ぜた。
「ゆ゛ぅ、ゆ゛ぅ......」
親れいむの足下から黒い液体が染み出てくる。
まりさは、おじさんが言っていた言葉を思いだしていた。
赤ちゃんの数が減っていた、というのはこのことだったんだ......でも何で知ってるんだ?
「む゛ーじゃ、む゛ーじゃ、ぢあわぜえ゛え゛え!!」
その時、背後から聞き捨てならない台詞が聞こえてきた。
振り返ると、子れいむが子まりさの食べ残した赤れいむを食べている。
「ゆっ! あかじゃんはおいじいよ! とっでもゆっぐりできるよ!」
子れいむまでゆっくりできないゆっくりになってしまった!
「ゆ゛ゆ゛う゛うう! みんな、やっつけるよ......ゆ゛ゆ゛!?」
子れいむも粛正しようと再度振り返って家族に声をかけた、が――
「ぺーろぺーろ、ぢあわぜー!!」
「「「ぺーりょぺーりょ、ぢあわぜー!」」」
みんな、子まりさの死体を舐めていた。
目をらんらんと輝かせ、親れいむまでもが必死になって舐めていた。
まずい。これはまずい。なんだかこのままではゆっくりできなくなる気がする。
なにか、みんなの目を覚ますようなこと。なにか、ないか......
「......ゆ?」
まりさは、見つけた。
部屋の中に点々と転がっている青いバケツ。全て倒されて、ゆっくりできないご飯を吐き出している。
しかし、1つだけ倒されてないバケツがあった。
部屋の隅に置いてある、白い布が掛けてある赤いバケツだ。
あれだ!
まりさはそこまで跳ねていった。
『ゆっくりできなくなる』物が入っているらしいが、今の状況だって相当ゆっくりできない。
何か、みんなの目を引きつけるような物が入ってればいい......!
「ゆっ!」
体当たりするとバケツは横倒しになった。
白い布を飲み込んで、ザラザラという音と共に出てきたのは......白い顆粒。
まりさの理性も飛んだ。
「あまあまだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
夢にまで見た、あまあま。何が『ゆっくりできなくなる』だ。とってもゆっくりできるじゃないか。
体内に残ったわずかな水分が、唾液となって口内に満ちる。
その口でかぶりついた。
口の中であっという間に溶け、喉に、体に、潤いを与えてくれ――
「ぢっ、ぢあわ、ぢぶぶbbぶぶれrれぶべあばばばばばば!?」
――なかった。
何だ、なんだ、なんだこれは!! あまあまじゃない!!
「ゆあばばばばっばっぱっぽうぷあじゃじゃじゃばあばばばあ!!」
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いゆっくりできないゆっくりできないあづいあづいあじゅい!
「ゆっっゆゆゆゆぶぶbっゆゆぶゆべあびゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!」
体全身が熱い。視界が真っ白な光に包まれる。
ただひたすらに、熱い。
僕は両手にバケツを持ち、口にランタンをくわえて、雪の中を疾走した。
あいつら、こんな夜中に、やってくれる!
小屋のかんぬきを外し、扉を大きく開く。
「ゆぎゃああばばばばばばああああばあべれれらばあああ!!」
「ば、ばりざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!」
親まりさが、火だるまになってピョコピョコと跳びはねていた。
「アッハッハッハッハッハッハッハッ!!」
赤いバケツの中身が何なのか分かった人はいるだろうか。
答えは酸化カルシウム。俗に言う生石灰。
もっと身近なところで例えるならば、海苔缶に入っている乾燥剤だ。
この小屋の中が乾燥していたのは、冬だからということもあるが、主にバケツの中のそれのせいだ。
普段はゆっくりと水分を吸収するが、多量の水を一度に与えると急速に反応し、一気に数百℃にまで発熱する。
数百℃と言ってもピンと来ないかもしれないが、まりさの唾液と反応して、
全身を火だるまにするほど......と言えば分かるだろうか。
「ゆばあ゛あ゛ああづあづあづいゆぶるぁああ゛あ゛あ゛ああ!!」
「おじさあ゛あ゛あ゛あ゛ん! ばりざが、ばりざがあ゛あ゛あ゛あ!!」
「アッハッハッハッ! いやー、楽しそうだね! あんなに跳びはねちゃって」
「ちがう゛う゛う゛う゛う゛う゛!!」
燃えるまりさのおかげで、小屋の中はランタンが要らないくらいに明るい。
「でもねえ。僕が赤いバケツの中身はゆっくりできないって言ったのに、ひっくり返しちゃうなんてねえ」
「あばっ! ばっ! だずげ......で......」
「ばりざあ゛あ゛あ!! しっかりじでえ゛え゛え!!」
「あろうことか、それを食べちゃうなんて」
「ぼっど......ゆっぐり......じだがっだ......」
「ばりざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!」
「でも、本当に楽しそうに、元気に跳びはねてるよね」
「どごがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!! ばりざ、ずっどゆっくりじぢゃっだよ゛お゛お゛お゛お゛お!!」
あれ? 本当だ。
まりさはいつの間にか光を発さずに、真っ黒な炭になってしまっていた。
「アッハッハッハッハッ! 完全燃焼だね! まりさも幸せな最期だったね!」
「なにいっでるの゛お゛お゛お゛お゛お!?」
「よーし、じゃあみんなにプレゼントだ!」
足元に置いてあったバケツの片方を掴み、扉の外から小屋全体に向けて中身を盛大にぶちまけた。
「ほーら! おとーさんと同じようにゆっくりできるよ!」
バラバラと飛び散る白い顆粒が、呆然とまりさが燃える様を見ていた子ども達の頭に降りかかる。
「ゆっ? ゆっ! あ、あみゃあみゃだあ゛あ゛ああ!」
「むーちゃむーちゃするよ!」
僕の話を聞いていなかったのか、我に返った赤ゆっくり達はぶちまけられた粒に反射的に口を付ける。
「ゆ゛う゛う゛うぅぅ!! おちびちゃんたち! それはあまあまじゃないよ゛お゛お!!」
ポッ、ポッ、ポッと。
「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ!!」
「あじゅい゛い゛い゛い゛い゛い!!」
「だずげでえ゛え゛え゛え゛え゛え!!」
親れいむの制止も届かず、小さな灯りが立て続けに点灯した。
「アッハッハッハッハッ!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! おちびちゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛!!」
赤ゆっくり達は燃えながら跳び回っている。
いいねえ。お兄さんも燃えてきたよ!
足元に置いてあった、もう一つのバケツを掴む。
「ヒャッハー! ゆっくりは消毒だああああ!!」
そして同じように、小屋の中に水をぶちまけた。
それにより、燃えていた赤ゆっくり達の火は消えた。
「ゆひぃ......ゆひぃ......」
「あちゅかったよおぉ......」
「おみずさん、ありがちょ......」
しかし、床に絨毯のように敷き詰められた生石灰を、水が波と化して飲み込む。
「おちびちゃあああん! よかっだああちあづいあづいあづづづづづ!!」
小屋の中の気温が跳ね上がる。その温度、およそ数百℃。
「あづいよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛おお!!」
「も゛う゛い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「だずげでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
もうもうと立ちこめる水蒸気。それを切り裂いて跳ね回るゆっくり達。
「アッハッハッハッハッハッハッ!! いいねえ、楽しそうだねえ!!」
「ゆぎい゛い゛い゛い!! しんじゃうよ゛おお゛お゛お!!」
「とげる゛う゛う゛う!! でいぶのめが、めがあ゛あ゛あ゛あ!!」
「おがーじゃん、だずげ、だず、あぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ!!」
「おみずさん!! おみずさんちょーだい゛い゛い!!」
「え!? お水さん!? いいよいいよ、いくらでもあげるよ!
ああでも、取りに行く時間はないし、ええと、そうだ!
雪だ! 雪も溶ければ水になるよ! 大丈夫、すぐ溶けるから!」
雪なら周りにいくらでも積もっている。大急ぎで雪玉を作った。
「ヒャッハー!! 雪合戦だあああ!!」
跳ね回っているゆっくり目がけて剛速球を投げつける。
「ゆびゅっ! つ、つめた、あっ! あづ、あぢゃあづづうううう!!」
親れいむに当てたら5点! 赤ゆっくりに当てたら30点!
「いだぁ! ゆ、ゆ、あぢゃあああああ!!」
「もっど......ゆっぐぢ......ぢだがっ......」
「おでーちゃああああぶッ! いだい、いだいよおおお!!」
「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」
すげぇ、楽しすぎる! 笑いが止まらねえ!
「どぼじでごんなごどにい゛い゛い゛い゛い!!」
「ゆっぐりじだいよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お!!」
僕はれいむ達が動かなくなるまで、灼熱の雪合戦に興じ続けた。
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あとがき
手巻き寿司作ってて思いつきました。
乾燥剤は生ゴミと一緒に捨てて火事になった事例があるのでみなさんも気をつけて下さい。
あと、今更ですが俺のつける題名にセンスを求めてはいけません。
過去作品
- ゆっくりバルーンオブジェ
- 暗闇の誕生
- ゆっくりアスパラかかし
- 掃除機
- 野菜の生え方について本気出して叩き込んでみた 前 後 おまけ
最終更新:2011年07月29日 02:54