「ゆっゆ~♪」
「ゆ~♪」
れいむは巣の中で子ども達と一緒に宝物を眺めてにやにやと笑いあっていた。
「おや、なんだいそれは?」
「ゆ!?」
その時、突然巣の入り口から人間が覗き込んだ。
人間はゆっくり達の宝物を面白そうに眺めていた。
「あんなガラクタ大事にしてんのか…」
ゆっくりの宝物というのは比較的まるくて綺麗な小石や人間が出したゴミといったものだった。
こんなものでもゆっくりにとっては珍しく大事なのだ。
「ゆー!ここはれいむのおうちでこれはれいむのたからものだよ!
ゆっくりでていってね!」
れいむは勝手に巣をのぞく男に対してぷんすかと怒り男はそれを無視して
顎に手を当てて考え込みながらぱっとひらめいたかのように自分のかばんの中を漁って
母れいむ二匹分くらいの箱を手渡した。
「宝物をそのまま置いておくなんて無用心だろ
こっからこの中に入れるといいよ
そうすれば取られない」
そう言って箱の上部の500円玉くらいの大きさの穴を指差した。
「ゆ!?おにいさんありがとう!ゆっくりもらっていくね!」
「ゆっくちありがちょう!」
男はゆっくり立ちに御礼を言われると笑顔で返して
箱を置いて去っていった。

「ゆ~♪これであんしんしてゆっくりできるよ☆」
れいむは嬉しそうに宝物の小石やゴミクズを口に咥えると箱の中にいれていった。
「おかーしゃんおかーしゃん!たかりゃものだけぢゃなくちぇごはんもだいぢだよ!」
「ゆ!ほんとだ!れいむのあかちゃんはやっぱりあたまがいいよ!」
子れいむにいわれてれいむは今度は食べ物を箱の中に入れていく。

食料を全て入れてれいむはほっと一息ついた。
「ゆ~こんどこそゆっくりできるよ…」


「う~~~~☆たーべちゃうぞー☆」

「ゆううううううう!?」
そんなれいむの巣に突如ゆっくりれみりゃが襲い掛かった。
「たーべちゃうぞー!」
「たちゅけておかあしゃああああああん!!!」
このままでは子れいむ達が真っ先にれみりゃに食べられてしまうだろう。
迫り来るれみりゃを見ながられいむははっと思いつく。
この大事なものを入れる箱の中に子ども達を入れれば子ども達は安全だ尾t。
「あかちゃんたちはこのはこのなかにはいってね!」
さっと子れいむ達を咥えると穴にぺっとだしてさらに上から押し込んだ。
「ゅぅぅぅぅぅう!?いちゃいよおかあしゃあああああん!!」
「がまんちてねえええええ!!」
穴が小さすぎたのか子れいむ達は痛みに悲鳴を上げるが今はそんなことを構っている暇は無い。
れいむは三匹の子れいむ達を即座に押し込んでいった。

「う、うー?」
れみりゃはさっきまでいた子れいむ達が箱の中に隠れてしまい困ったように辺りを探した。
「ゆううう!ここはぜったいにとおさないからゆっくりでていってね!」
立ちふさがるれいむを見てれみりゃはそれをむんずと掴んだ。
「これまずいからいりゃない!ぽいっするど!ぽいっ!」
「ゆうううううう!?」
「しゃくやー!ぷっでぃーんもっでぐるどー」
もとより子れいむ以外食べる気がなかったのか母れいむを投げ捨て、れみりゃはその場を立ち去った。
「ゆぅぅぅ…あぶないところだったよ…」
れいむはれみりゃに投げ飛ばされて痛む体を起こしながらほっと溜息をついた。

「ゆ、もうだいじょうぶだよ!ゆっくりでてきてね!」
「ゆー♪おかあしゃんしゅごーい!」
「さっしゅがぁ♪」
「おかあしゃんだいちゅき!」
子ゆっくりたちは歓声を上げて母の元へと行こうと箱の中を歩き回った。

「「「どうやってでりゅのおおおおおおお!?」」」
「ゆううううううううう!?」


それから一月が経った。
「ごはんをもってきたからゆっくりたべてね!」
巣に帰ったれいむは真っ先に箱の中に餌を入れていく。
「…むーしゃむーしゃ」
「…しあわ」
「じぇんじぇんしあわせじゃないよおおおおおおお!!!」
あれから子れいむ達は毎日のように泣いていた。
箱の中は穴以外から光は入らず非情に薄暗く、換気もろくに出来ないため常にじめじめとしていた。
鉄で出来た箱の内壁は冷たく重々しく、心までゾワゾワと冷ましていく。
箱の中はゆっくりとは全く無縁の場所だった。
「だちて!だちてえええええええ!!」
一匹の子れいむがドンドンと壁に体当たりを繰り返す。
「やめてね!ゆっくりできなくなっちゃうよ!」
「も゛う゛ゆ゛っぐり゛でき゛な゛い゛い゛い゛いいいい!!」
箱の中に子れいむの叫びが木霊した。

「ゆ゛ぐぐぐ…ごべんね…ごべんね…!」
れいむは箱に耳を当てて中の会話を聞きながらぎゅっと目をつぶり涙した。
もし自分が箱の中に入れたりしなければこんなことには
もし自分がこの鉄の箱をひっくり返して中のものを取り出せれば
れいむはこころの底から後悔した。


さらに二ヶ月の月日が経った。
都合、三ヶ月もの間子れいむ達は過ごしたことになる。
「ごはんをもってきたからゆっくりたべてね!」

「「「……」」」
ここのところもはや三匹は何も喋らずにただただご飯を食べるだけであった。
その姿を見ながら元気だった頃の子れいむ達の姿を思い出してれいむの頬を涙が伝った。

「どぼぢで…ごんなごどにぃぃぃぃ…」

悲痛なれいむの声を聞いて、通りすがりの男がすっと巣の中を覗き込んだ。
「なにしてんだ?」
あの箱をれいむたちに与えた男である。
「うわああああああああああ!!!」
思わずれいむは男の顔面にむかって体当たりした。
「うわっぷ!?な、なにすんだよ!?」
「おばえのぜいで!おばえのぜいでぇええええ!!」

「おにいざんがごのばごをわだずがらでいぶだぢがあああ!!!」
子れいむたちも男の出現を悟って思わず溜まっていたものが爆発して罵声を投げかけ始めた。
「な、まさかお前子どもまで箱の中に入れたのかよ!?」
男は酷く驚いたようだった。
「でいぶのあがぢゃんぢゃんどだぢでねえええええ!!」
男はこの箱ならゆっくりには取り出せないだろうと思って軽いいたずらのつもりでこの鉄の箱を手渡したのだが
まさか子どもを入れてしまうなんて思いもよらなかった。
「わかったわかった、出してやるって…」
流石に男も気の毒に感じて手を貸してやることにしたのだった。
「あ、あぢがどおおおおおおおおおお!!!」
れいむは嬉し涙を流して男の足に頬をこすりつけて感謝した。

「要はひっくり返せばいいんだよ…重いな」
男はよっこいせと箱を持ち上げるとごろんとさかさまにした。
「ゆぐ!?」「ゆうう!?」「ゆっくりまわしぎゃあ!?」
中のものもごろごろ壁に当たりながら転がり、箱の穴が下側に向いた。
「さ、その穴からでな」
男は思っていたより重いのか少し声を震わせながら早く出るよう子れいむ達に促した。
「ゆっくりでてきてね!」
れいむはこれ以上ないという笑顔で子れいむ達の脱出を待った。
箱の中から子れいむ達が動きあう音がする。

「「「でれないよおおおおおおおおおお!!!」」」
「ど、どおいうことおおおおおおおお!?」

三ヶ月という時間は子れいむ達が成長するのに充分すぎたのだ。
500円玉程度の穴を通るには子れいむ達は成長しすぎていた。
「ぢゃんどだぢでね!でいぶのあがぢゃんぢゃんどだぢであげでね゛!」
「これ、加工場に働いてる兄貴から失敗作貰っただけだから加工場行かないと取り出すのは…」
「がごうじょういやあああああああああああ!!!」
子れいむ達が加工場という単語を聞いて泣き喚いた。
「ほがのぼう゛ぼうぢゃんどがんがえでよ゛おおお!!!」
子れいむ達が出られるという希望を打ち砕かれてれいむは半狂乱になって男に噛み付いた。
目は血走り、怒りに震えている。

「し、しるかよ!」
男は箱を投げ捨ててれいむを引っ剥がすと一目散に走り去った。
男にとっていくら同情したからといってこれ以上は面倒なだけだった。
「ゆぎゃあああああ!」
「いだいいいいい!!」
子れいむ達は箱を乱暴に投げ出されて壁に体を打ち付けて悲鳴を上げた。
「ま゛っでよおおおおお!ゆ゛っぐり゛だぢでえええええええ!」
れいむは男の後を追ったが遂にその男とふたたび出会うことは無かった。
「もういやあああああ!」
「ごごがらだぢでええええええ!!」
子れいむ達の悲鳴だけが箱の中から漏れ出していた。


それから月日は経って、子れいむ達が箱に入って一年がたった。
もはや親子の間で会話さえなくれいむが箱の中に餌を入れ
それを黙々と子れいむ達が食べるだけという生活が続いていた。
成人間近の子れいむ達の食料を集めるためにれいむは奴隷のように働き続けた。
もはや他のゆっくりとの親交もなくただただひたすら食料を集めるだけ
れいむの楽しみなど全く無くゆっくりせずに汗水たらす日々だった。
れいむはなみだも枯れ果てた目で箱を見つめる。

「ぉかあさん…」
その時、小さな小さなくぐもった声が箱の中から聞こえた。
「…!?どうしたの?ゆっくりしていってね!」
久々に聞いた子どもの声にれいむは慌てて箱をよじ登って穴を覗き込んだ。
「ぜまぃぃ…!」
「ゆ!ごべんね!いつかかならずだしてあげるからがまんしてね!」
れいむはいつも言っていた文句ながらも久々に子れいむと会話が出来て
嬉しそうに答えた。
「ちがうのぉぉお…!」
しかし子れいむの声は苦しみに満ち、切実だった。
「いぎ…でぎ…だい…」
「ぐるじぃぃ…!」
「ゆ!?どういうこと!?ゆっくりせつめいしてね!」
箱の中は限界に来ていた。
成長した子れいむ達により完全にぎゅうぎゅう詰めになり息をするのも困難なほどで
三匹は顔をつき合わせて穴に向かって口を開いていた。
もう後ろを振り返ることも出来ないだろう。
いや、横も無理か。
動かなくていいぶん発育だけは非常によかったのが仇になった。
ぶくぶくと太り成人以上のサイズになった三匹にもはやスペースは無かった。

次の日

何とかしなければと思いながらも結局何も思いつかなかったれいむは
また食事を運ぶことを繰り返した。

「ぉか…さ…」
この前よりさらに苦しそうなか細い声が聞こえ、慌てて箱を覗き込む。
するとそこには赤黒い何かが広がっていた。
「ど、どおいうこと?!」
「はやくれいむのおくちにたべものいれてね!!!」
箱の中の赤黒い何かがうごめいたかと思うと子れいむの元気な声が返ってくる。
「ゆ!?ひょっとしてこれおくちなの?
そんなところにいたらほかのみんながたべられないよ!
ゆっくりどいてあげてね!」


「うるさいよ!むのうなおかあさんはゆっくりしてないではやくごはんよこしてね!」
「どぼぢでぞんなごどいうのおおおおおお!?」
子れいむの突然の暴言にれいむは驚愕した。
「こんなことになったのはおかあさんのせいなんだからおかあさんのいうことなんてきいてられないよ!
おかあさんはれいむたちみんなしぬかれいむにだけでもごはんをあげるかとっととえらんでね!!」
「ゅ…」
「た…ぅぇて…お…ぁ…ん…」
子れいむの怒声と押し潰された他の二匹のか細い悲鳴が聞こえてくる。
「ゆ、ゆぅぅぅう…!」
れいむは悩んだすえに、他の二匹にないて謝りながら餌をあげることにした。
その顔には苦渋の色だけがあった。

それから三日ほど経った。
「……」
れいむは陰鬱な気持ちで箱の前へと歩いていった。
その姿はまるで死刑執行代への道を歩む死刑囚のように項垂れていた。
「おかあさん!はやくごはんちょうだいね!おなかすいてゆっくりできないよ!」
「ゆーおなかすいたああああああ!ゆっくりしてないでえええええええ!!」
しかし二匹の呼び声を聞いてその表情はぱぁ、っと明るくなった。
「ゆ!なかなおりしてくれたんだね!みんなでゆっくりごはんたべようね!」
れいむは三匹の子達が仲直りして押し潰すのをやめてくれたのだと想い喜びに震えながら穴を覗き込んだ。
「ゆ…?」
しかし穴の中からは甘い香りと真っ赤に開かれた二つの口があるだけだった。
甘い香りは一体どこから来たのかとれいむは目を皿の様にして必死に見回した。
何度か角度を変えると光の具合が変わり、その原因がわかった。
「どぼぢでええええええええ!?」
穴の前を占領していた子れいむが顎の下を食い破られて死んでいた。
「れいむたちのごはんをとるわるいれいむはやっつけたよ!」
「だからおかあさんはやくごはんちょうだいね!!!」
「ゆっぐりいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
れいむの中に一挙に恐怖の感情が沸き起こった。
自分の家族を自分で喰らったこの子達は本当に自分の仲間なのかという疑問がわきあがる。
その疑問や恐怖を仕方なかったんだと理性が必死に押さえつけた。

感情を押し殺して、れいむの箱の前にただ餌を運ぶだけの日々がまた始まった。

「ぐぢゃいいいいいいいいいいい!」
「むじじゃんごわいいいい!おがあじゃんだずげでよおおおおおお!!」
「……」
食いちぎられた子れいむの死体は腐って、悪臭を放ち
いつの間に入り込んだのか虫たちが集り始めていた。
れいむの耳にはそんな状況に身をよじって助けを求める子れいむ達の悲鳴を
聞き入れる気力さえなかった。
ただただ餌を与えるだけである。


数日後、男が巣の中をのぞいた。
一瞬、箱を渡した男が来たのかと思ったがよく顔を見ると別人だった。
ひょっとしたら箱の開け方が分かって助けに来たのかと思ったのにぬか喜びだったのかと
れいむはまた死んだ魚のような目で俯き溜息をついた。

「その箱、開けに来てやったぜ」
「「「ゆ゛!?」」」

「弟に前なんとかならないかって頼まれててな
工場の道具持ち出すと色々とまずいんだが弟があんまりに憐れそうに言うんで遂に折れてきちまったよ。」
その男は箱を渡した男の兄であるようだ。
罪悪感を感じてた弟が兄に頼み込んで、重い腰をあげたというところのようだ。

「あ、あぢがどおおおおおおおおおおお!!!」
れいむは押し殺していた感情が爆発して涙を流した。
この箱に囚われた生活がやっと終わるのだ。
「やっどでれるよおおおおおおおお!」
「おねえちゃん!おかあさん!おそとにでたらいっぱいあそぼうね!!」
子れいむ達は顔を見合わせて嬉し涙を流しながら笑いあった。
れいむもその仲のいい姿をもうすぐ見れるのだと思って嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。
今までの全てが報われたとれいむは思った。

「加工場製作のチェーンソー、切れないものはあんまり無いぜ!」
男が背負っていた巨大な機械の紐を引っ張るとその刃が回転し始める。
その刃を箱に添えると火花と不思議な金属音が鳴って、箱の上部が切り開かれた。
「ゆぎゃあああああああああ!!!」
「でいぶどりぼんがあああああああああ!!!」
その際子れいむの頭の皮が少し削れ、悲鳴を上げた。
「あ、わるいわるい」
男は悪びれなくニヤリと笑った。
「きをつけてね!」
「わかったわかった、今だしてやるから…あ」
男は顔をしかめた。
「ゆ?どうしたの?はやくだしてあげてね!」
「「だしてね!」」

「ちょっと見てろ」
そう言うと男は死んだ子れいむの体を掴み引っ張った。
ベリベリと音を立てて壁に皮を残して子れいむの死体がちぎりとられた。
「ゆげええええええええ!!!」
凄惨な我が子の姿にれいむは餡子を吐いた。
「な、なんでごどずるのおおおおお!!」
そしてすぐに抗議をした。
男は残念そうに首を横に振る。
「皮が壁に完全に癒着しちまってるよ
取り出したら今みたいに皮剥がれて死ぬね

諦めろ」

男は両手を上げてお手上げのポーズをとった。

「どおいうごどおおおおおおおおおおおおお!?」
「ぢゃんどだぢでよおおおおおおおおおおお!!」
子れいむ達が話が違うと悲鳴を上げ男に飛び掛ろうとした。
しかし今は動ける空間があるにも関わらず一歩たりとも二匹は動くことが出来なかった。
「ま、人生そううまくいかないってこったな」
男はやれやれとチェーンソーを抱えて去っていった。
「「おいでがないでえええええ!!!ゆっぐりぢでいっでよおおおおおおお!!!」」
子れいむ達の叫びに男は一度だけ振り返って残念そうに眉をしかめたがそれだけだった。

「ふ、ふひひひひひひひいひひひ…ゆっくりぃ…ゆっくりぃ…」
れいむに至っては、絶望の淵で目の前にぶらさげられた希望を打ち砕かれて遂に心に異常をきたした。
しかしその顔は幸せそうでもあった。
なにせこうやって何もせずにゆっくりしているなど一年ぶりにもなるのだから。
子れいむ達も直に何もかも諦めてゆっくりしだして家族みんなでゆっくりできるようになるだろう。

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最終更新:2022年06月03日 22:21