「「「ゆっくりしていってね!!!」」」

もう日にちをまたぎかけている時間になってようやく自分の家に帰り着いた俺を迎えたのは聞きなれない声だった。
視線を落とすとそこには饅頭にも大福にも見える奇妙な生き物(?)がいた。
知っている…こいつらは最近幻想郷で大量発生し、田畑はおろか、民家に押し入って食料を勝手に食い漁る害悪生物だ。
友人も被害に遭い、散々な目にあったと愚痴っていた。
誰が初めに呼んだかは知らないが、「ゆっくり」という呼称で知られている。

いや、そんなことはいい。
何故俺の家にこいつらがいるのか、それが問題だ。
疑問はすぐに解ける。ベランダの窓が開きっぱなしだ。朝洗濯物を干したとき、うっかり鍵を閉め忘れていたようだ。そこから進入したのであろう。
「ゆ?」「おにいさんだれ?」「ゆっくりしようよ!!」等とゆっくりどもは口々にしゃべり出す。
見たところ親子連れなのか、母親らしき霊夢種が1匹いるほかは、魔理沙種も混じった子供が12匹ほどいた。
魔理沙種が混じっているのはおそらくつがいの魔理沙種がいたのだろう。いない理由はれみりゃ種にでも襲われたと言うところか。

まあいい、とっとと追い出すか、と思った矢先、俺は見てしまった。
俺の机の上には、たくさんの思い出の品があった。亡き母が生前使っていた手鏡、父が買ってくれた玩具、寺子屋の先生がくれたそろばん、
子供の頃、向日葵畑の怖いけど優しかったお姉さんがくれた押し花。

手鏡は投げて遊んだのか、壁に当たって粉々になっていた。
玩具も同様だ。もう原型が残っていないほど滅茶苦茶になっていた。
そろばんは今も子ゆっくり魔理沙たちが振り回している。振り回しすぎて折れたのか、珠がボロボロ落ちている。
押し花は餌になったのだろう、今も子ゆっくりがむしゃむしゃむさぼっている…。
「うっめ!めっちゃうっめ!ハフハフ!!!」

呆然と立ち尽くす俺の前に、母ゆっくりと残りの子ゆっくりが図々しくもやってきてこう言った。
「お兄さん、おなかがすいたよ!!ゆっくりごはんをもってきてね!!」
「ここはみんなのいえだよ!ごはんをもってこないお兄さんはでていってね!」

そのとき、俺の中で何かが切れた。
俺は怒りに任せ、母親ゆっくりを思い切り踏みつけてやった。
「ゆ”」短いうめき声が聞こえた。しかし俺は容赦する気はない。
何度も!「ゆ”」何度も!「ゆ”」踏みつけてやる!「ゆ”~~~!!!」
「も”う”や”め”て”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”」母ゆっくりがくぐもった声で悲鳴をあげる。最高の気分だ。
「お”か”あ”さ”ぁ”ぁ”ん”」「と”う”し”て”こ”ん”な”こ”と”す”る”の”ぉ”ぉ”」子ゆっくり共が泣き叫びながら訴える。
しかしそんなことは知ったことではない。思い出を無惨にも壊された俺の怒りはまだ収まらない。
子ゆっくりは母ゆっくりを助けるためのか、懸命に体当たりをしてくる。
「ゆっくりやめていってね!」「おじさんやめて!」「ゆっくりやめて!」 蚊ほども効かないがな。

その後も母ゆっくりを踏みつけたりしたが、そろそろ飽きてくる。それでもまだ収まらない。
その間も子ゆっくり達は母親を救おうと、体当たりを何度もしてきた。しかし魔理沙種はあろうことか、体当たりに飽きたのか
母親の危機なのにふてぶてしくも眠っている。なんてやつだ。
「ゆ、おかあさんたいへんなんだよ!!」「おきてよぉおお!!」と霊夢種が起こそうとしても「しつこいんだぜ!!」と取り合わない。
魔理沙種は生き残るためなら家族、親友でも見捨てるほどとは聞いたが、これは見ていて腹立だしいものだ。
母親を踏みつけたり叩きつけたりするのも飽きたし、俺はこの憎憎しい子ゆっくりの方も責めることにした。
もちろん、さっきから何度も体当たりをしてうっとおしい子ゆっくり霊夢の方も一緒に。

どうやって責めようかと考えたとき、あるものが目に映った。
それは以前、とある河童の発明家が製作して売っていた加熱装置だ。
左右に電熱線があり、中に食べ物を入れるとこんがりと焼いてくれるというものだ。
しかも中にはスライド板がある。これは温度調整のためにあるとか言っていたが、邪魔だったので普段は取り外していた。
しかしそれを見て俺に妙案がひらめく。ゆっくりどもを地獄に叩き落す妙案が…。

まず俺は母親ゆっくりをすぐそばにあったダンボールの中に閉じ込める。
「お兄さん、うごけないよ、ここからだして!!!」という声は無視だ。
さらに子ゆっくりを捕まえ、黒い袋の中に閉じ込める。霊夢種と魔理沙種は分けておく。
「くらいよー」「ゆっくりさせてよぉ!」「うごけないよ、ゆっくりできないよ!!」と騒ぐのも気にしない。
そしてその間に加熱装置のスライド板を取り付けることにする。
思ったより取り付けるのに時間がかかり、取り付けが終わったときにはゆっくりどもの騒ぎ声は聞こえず、寝息が聞こえる。
のんきなものだ…と思いながらも、寝ている今なら手間がかからないので、仕上げにかかる…。

翌朝。
「ゆ…」「ゆ、ゆっくりうごけるよ!」
6匹ゆっくり霊夢たちは目を覚ました。そこは昨日の暗くて狭い空間ではない。
狭いけどそこは立派な空間だ。十分余裕のあるところ。
母親や兄妹であるまりさがいないのはすこし気になったが、所詮は饅頭。今自分達があの恐ろしい人間の手を逃れたのだと思い、
その喜びを分かち合い、そして新しい自分達の家があることが嬉しかった。
「きょうからここがれいむたちのいえだね!」「みんなでゆっくりしよう!」

しかし、4面ある壁の一つ、ガラスの壁を見て、それはすぐに絶望に変わった…。
ガラスの壁の外、そこにはガラスケースに閉じ込められ、苦しそうにしている母ゆっくりの姿があったのだ…。
「お、おかあさーん!」「どうしてーー!!」「そんなんじゃゆっくりできないよーーー!!」

「おお、起きたかクソ饅頭ども」
その声を聞いたゆっくり霊夢たちは恐怖に震える…。そう、昨日母親を恐ろしい目に合わせた、あの人間の声だった。
そしてやっと気づく。この空間には出口がないということに。自分達はこの人間によって閉じ込められたということに。
「た”し”て”! た”し”て”よ”ー!!」「お”う”ち”か”え”る”ー!!」
霊夢たちは必死だった。必死で訴えた。懇願した。
「うるさい!!!」人間が大声で叫び、大きな衝撃を与えてきた。霊夢たちは恐怖で震え、何もいえなくなった…。

と、壁の向こうから何か聞こえてくる…
「ゆ……」「ゆ、ゆっくりうごけるんだぜ!!」
それは兄妹であるまりさの声だ。壁の向こうにいるのか、壁に向かって叫ぶ。
「ま、まりさーー!!」「そこにいるのー!?」
「れ、れーむ!?」「ここはどこ!?」「わたしたちたすかったの!?」「よがっだね! よがっだね!」
間違いない、壁の向こうにはまりさがいる。安堵するゆっくり霊夢。

「まりさも起きたか…ちょうどいい」人間の声がしてビクッ!と反応する。

「お、おかあさーん!」「た”し”て”! た”し”て”よ”ー!!」「お”う”ち”か”え”る”ー!!」
ガラスの外の光景に気づいたのか、まりさ側からも恐慌の声が聞こえてきた。
そしてまた衝撃を与えられ、静かになる。これから何が起こるのか、恐怖が蘇り、震えだす…。

「いいかお前ら、俺は優しいからどちらかだけおうちに帰してやる。」

その声を聴いた瞬間、まりさ側から大きな声が上がる
「ま、まりさだけをたすけてくれだぜ!!」「れいむなんかたすけなくていいよ!!」「まりさだけゆっくりさせてね!!」
信じられないという顔をする霊夢たち、そう、霊夢たちは知らなかったのだ。
まりさは生き残るためなら家族でも見捨てると。
「や”、や”た”ーーーーー!!」「た”し”て”! れ”い”む”た”ち”を”た”し”て”よ”ー!!」
たちまち恐慌に陥る子ゆっくりたち。醜く言い争うその姿は、とても家族には見えなかった…。

と、とたんに部屋が暖かくなってきた。
「ゆ?あったかくなってきたよ!ゆっくりできるよ!」と先ほどの恐慌を忘れてのんきにはしゃぐゆっくりたち、
しかしそれも2分もすると…
「ゆ?あっあついよ!!」「あつい、あついよーーー!!」「あついぜあついぜ、あつくてしぬぜ!!」
部屋の温度が急上昇し、とても耐えられる温度ではなくなったのだ。
逃げ場をなくすゆっくりたちに、外から人間の声が聞こえる。
「いいかゆっくりども、俺は焼き饅頭が食べたいんだ。どっちか片方だけを焼いて食べることにした。
 さっきも言ったが片方だけは助けてやる。その壁を押せば相手を焼いて自分は助かるぞ。さあ、頑張ることだな」

その声を聞いたとたん、まりさたちはいっせいに壁を押し始める。
「れいむはゆっくりしね!」「まりさたちはゆっくりさせてもらうんだぜ!!」「ゆっく、さっさとしね!!」
そして壁を押され、熱源に近づいてしまった霊夢たちはその身を焼かれることとなる。
「あ”ち”ゅ”い”よ”お”お”お”お”お”お”お”!!!」「た”す”け”て”え”え”え”え”え”え”!!!」
「や”へ”て”え”え”え”え”え”え”!!!」
まりさはその声を聞いて勝ち誇り、壁から離れる。
すると今度は反撃とばかりに、霊夢たちが壁を押し始める。
「ひっく、まりさはゆっくりしね!!」「まりさなんてゆっくりやかれてね!!」「れいむたちをゆっくりさせてね!!!」
そして今度はまりさたちがその身を焼かれる。
「い”や”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」「た”し”け”て”え”え”え”え”え”!!!!」
霊夢は仕返しが終わったと思い満足し、壁から離れる。
すると今度はまりさのほうが反撃とばかりに壁を押し始めるのだ。

まりさが壁を押して離れ、れいむが壁を押して離れ、そしてまりさが、れいむが……
この争いはいつまで続くのだろう……

「くくく…うまくいってるな……」
俺は醜い争いを続ける子ゆっくりどもをみて笑う。なんとも楽しい気分だった。
昨日の夜のうちに、俺は加熱装置の中に子ゆっくりどもを閉じ込めた。
もちろん、今起きているように霊夢とまりさは分けて。魔理沙種は生き残るためなら(ryので、この状況のために分ける必要があったのだ。
平然と霊夢を見捨て、壁を押し出すまりさ。それに触発、あるいは必死で生き残ろうと壁を押し返す霊夢。
何もかも完璧だ。家族といいながらもそれを見捨て、醜い争いを演じる饅頭どもを見て俺は気分が晴れていた。

そして俺の傍らには、ガラスケースがある。
そう、中には母親ゆっくりが閉じ込めてある。朝のうちに用意したのだ。
母親ゆっくりは涙を流している。わが子を助けてあげたいのだろう。だが口も昨日の内にホチキスで止めてあり、くぐもった声しか出せず、
俺に助けを請うこともできない。身動きの取れない状態で、わが子が醜くも殺しあう光景を見せ付けられるしかないのだ。

俺はさっき、片方だけ助けるといったがもちろんそんな約束守る気などない。
生き残った方も焼き饅頭にしてやるのだ。それも母親の目の前で。

俺はわずかな希望をも打ち砕かれたとき、母親ゆっくりがどんな顔をするかを想像し、なんともいえない快感を感じた… 

FIN

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最終更新:2019年12月16日 16:51