群れ ゲス ドスまりさ 希少種 独自設定 26作品目、その2です。
「ごしゅじーん、まだかなー?」
「もうすこしですよ。もうすこしでつきます」
「それにしても、さっきからくさがあんよのほうにあたって、くすぐったいぞー」
「そうげんなんですから、あたりまえですよ」
……せーがとよしかは今、大草原の中をただ前へ、前へと進んでいた。
「このそうげんをぬければ、すぐにみえてきますからね」
「うーん……、きをつけないと、まいごになりそうだー」
「なんでなにもないそうげんで、まいごになっちゃうんですか!?」
……あれからせーがとよしかは、ゆんしーおうこくがあった場所とは反対の方向へ進んで行った。
途中でよしかが転んだり、よしかが迷子になったり、よしかが空腹で動けなくなったりしたが、何日もかけて、とにかく二匹は進み続けた。
道は思ったより険しかった……、主に、よしかのせいで。
それでも二匹はひたすらに前へと進んだ。
自分達の本当の故郷へと帰る為に。
そして、二匹は何事もなく草原を抜ける事が出来た。
……それから、どれ位進んだだろうか。
「あ……」
「おー!ごしゅじん!あれ、あれ!」
二匹のはるか視線の先には、ゆっくりの群れらしき集落が、小さいながらも見えていた。
「……かえってきたんですね……。せーがのうまれこきょうに……」
「ごしゅじん!はやくいこう!」
「えぇ……」
そんな会話を交わしている二匹の歩みは、自然と早くなっていた。
……二匹は今、本当の故郷に辿り着いたのである。
せーがの生まれ育った群れ……、『じゃせんていこく』に。
続・邪悪なる者達・承
作:ぺけぽん
「……みなさん、ただいまかえりました」
「たーだーいーまー!」
数分後、『じゃせんていこく』の入口に辿り着いたせーがとよしかは、そのまま広場のある場所へと向かった。
広場には懐かしい顔ぶれの群れのゆっくり達がいて、せーがとよしかの声に気付き、皆が一斉に二匹の方を見た。
「え……、せーが?せーがなのですか!?」
「まぁ……!それに、よしかも……」
「おぉ!よしかー!ひさしぶりー!」
「げんきだったかー!」
……群れの広場には、二匹と同じ、せーが種とよしか種のゆっくりが十匹程いた。
二匹の姿を見て、ある者は驚き、ある者は喜び、その反応は様々だった。
「こうしてはいられませんね!さっそくおさにほうこくしなくては!」
「おーさー!ごしゅじんににているごしゅじんがかえってきたぞー!」
そう言って、広場にいた群れのせーがとよしか数匹が、広場のさらに奥の方へと跳ねて行った。
「せーが。ほんとうにひさしぶりですね」
「いろいろはなしたいことがやまほどありますが……。まずは、おさにあってからにしましょう」
「はやくー!」
「え、えぇ……。よしか、いきましょう」
「おーう!」
二匹は群れの皆に後押しされて、広場の奥へと進む。
「ウヴゥ……」
「ゼーガダァ……」
「ヨジガァ……」
「オガエリィ……」
広場の奥には、様々な種類のゆんしー達が軽く数十匹はいた。
「おかえりなさい。せーが。それによしか。……だいぶ、おおきくなりましたね」
そのゆんしー達の集団の中央に、一匹のゆっくりせーががいた。
「ただいまかえりました。……おかあさま」
「おさー!!ひさしぶりー!」
「ふふ……」
三匹は再会の挨拶を交わし、共に再会の喜びと懐かしさから自然と表情に笑みが浮かんだ。
……『じゃせんていこく』。
それは、数十匹のゆっくりせーがとゆっくりよしか、そして百は軽く超えるゆんしー達のみで構成された群れである。
その規模はせーがの築き上げたゆんしーおうこくを遥かに超える大御所であった。
そんなじゃせんていこくの長を務めるのは、先程せーがが母と呼んだせーがである。
つまり、せーがはじゃせんていこくの跡継ぎでもあったのだ。
せーがはこのじゃせんていこくで生まれ、多くの仲間とゆんしー達に囲まれ、様々な知識を学び、経験を積んだ。
その過程の中で、せーがは一番最初のゆんしー……、つまりよしかを創り出し、自分の第一の専属としたのだ。
……そして、せーがはある決意を心に秘め、よしかと共にこのじゃせんていこくを離れ、新天地へと旅立ったのである。
「そういえば、おかあさま」
「どうしました?」
「……おとうさまは、どうなさったのです?」
「そういえば、どこにいったんだー?」
……せーがはある事に気付いた。
こうして母せーがが出迎えてくれたのに、『父』が一向に姿を現さないのである。
せーがの記憶にある、いつも元気で明るくて、ちょっとドジだけど、せーがの大好きな『父』の姿。
……もしや、『父』の身に、何かあったのではないだろうか。
せーがの脳裏に、一瞬そんな不安が過った。
「うふふ……。だいじょうぶよ、よしか。おとうさんはげんきですよ。ちょっとおひるねしていて、なかなかおきないだけですから」
母せーがのその言葉に、せーがはほっと安堵した。
「ただ……」
「?」
「おとうさんをみたら、けっこうおどろくかもしれませんね」
「え?それはどういう……」
「すぐよんできますからね」
『父』の姿を見て驚く理由を尋ねようとしたせーがだったが、母せーがはそのままゆんしー達の間を通り抜け、ゆんしー達の後ろにある、巣穴の中へと入っていった。
その巣穴は高さが数メートル、横幅もかなりの長さがあり、結構な数のゆっくりが入れる位の大きさだった。
「ほら、あなた!おきてください!あなたのむすめのせーががかえってきましたよ!」
巣穴の奥から、母せーがの声が聞こえる。
すると、「ふわぁ~」という間の抜けた欠伸が聞こえた。
『父』の声である。
そして母せーがが巣穴から出て来た。
「まっててください、いまでてきますからね」
母せーががそう言うと、巣穴の奥からズシン、ズシンと大きな音が響く。
……そして。
「せーがー!おーかーえーりー!!」
……中から、一匹のゆっくりよしかが出て来た。
このよしかが、せーがの実の父親であった。
父よしかは、母せーがによって作られたゆんしーである。
従来のケースならば、せーが種とよしか種の関係は、主と専属というものが一般的である。
だが、極稀にその一線を超えて、夫婦になる個体も存在する。
母せーがと父よしかが、まさにそのお手本であった。
「……」
「うっわー!すげぇ!」
「どーしたー?せーがー?」
……一方、せーがは久々に再会した父よしかの姿を見て、開いた口が塞がらなかった。
逆によしかは父よしかの姿を見てとても興奮していた。
「え……、と……。お、おとうさまですよね?」
「そーうーだーぞー!!」
「あのー……。ちょっといいですか?」
「?」
せーがは父よしかの姿を見て、どうしても聞かずにはいられなかった。
「……なんで、そんなにでかいんです?」
……父よしかの体は、全長3メートルは軽く超えていたのである。
もはやドス級ではないかと思う位の巨体だった。
しかも、せーがの記憶が正しければ、昔の父せーがはそんな規格外のサイズではなかったのだ。
どこにでもいるような、普通のゆっくりと同じ位のサイズであったのだ。
「お、おかあさま?なんでおとうさまがこんなにおおきくなったんですか?」
せーがは母せーがに父よしかの体が大きくなった理由を尋ねた。
「えぇ。それは……」
「それは……?」
せーがはゴクリと固唾を飲んで母せーがの言葉を待った。
もしや、先日のドスまりさのように、突然変異で体が大きくなったのだろうか。
それとも、母せーがが父よしかの体をいじくりまわしてこうなったのだろうか。
まさか、父よしかの体の中に、何匹ものゆっくりが入っていて、体を乗っ取っているのではないだろうか。
……せーがの頭の中に、様々な可能性が廻り廻っていた。
「ごはんをたべすぎて、ふとっちゃったんですよ」
「ふとったー!!」
その原因は、実に残念なものであった。
「あれはどうみても、たべすぎのはんちゅうこえてますよね!?」
「え~……、だって、ごはんをたべているときのおとうさんのかお、とってもかわいいんですもの~」
「こそだてにしっぱいしたでいぶみたいなかんがえですよね、それ!?」
「おーなーかーすーいーたー!」
「もういっしょうたべなくてもいいんじゃないですかね!?」
「ユグゥ、ガワイイナラショウガナイネ」
「ウン、ジガダナイネ」
「なんであなたたちがかいわにはいってくるんですか!?しかもむだにりゅうちょうにはなしているし!!」
「ごしゅじーん!よしかもくっちゃねするぞー!!」
「なんでだめなてほんをぜんりょくでみならおうとするんですか!?」
周囲の意識も、実に残念なものであった。
「もうっ!みんな、ほんとうに……、ほんとうに……」
そう言ったせーがの目から、ホロリと涙が落ちた。
……母せーが、父よしか、群れの同族やゆんしーの仲間達……。
自分の故郷で待っていた者達は、何一つ変わっていなかった。
いや、父よしかの体格だけは変わっていたが、それでも、自分の大好きな父に変わりはなかった。
自分の大好きな者達は、今も昔も変わらず、そこにいたのだ。
「……ほんとうに、なにも、かわっていないんですね……」
せーがの故郷は、確かに、そこにあったのだった。
……同時刻、ドスまりさの群れにて。
「どす!どす!たいへんなのぜ!」
「ゆぁ~ん?いったいどうしたのぜ!?」
自分の巣穴で寝ていたドスまりさは、巣穴の中に入って来た配下のまりさに起こされた。
寝起きと、気持ち良く寝ていた所を邪魔された事もあり、ドスまりさは不機嫌さを隠さなかった。
「むれのまりさのなんびきかが、れいぱーありすたちにおそわれたのぜ!」
「あぁ……、となりのれいぱーありすのむれの……」
ドスまりさの群れの近くには、ドスまりさ並みの大きい体格の、くいーんありすが長を勤めるれいぱーありすの群れがあった。
れいぱーありす自体の数はそれ程多くないもの、今までに何匹ものゆっくり達が性欲の吐け口として犠牲になっていた。
……どうやら、ドスまりさの群れのまりさ達も例外ではなかったようである。
「かりにでかけているさいちゅうに、まりさのなかまたちが、なんびきかすっきりーされて、えいえんにゆっくりしちゃったのぜ!」
「……まさか、それでおまえはおめおめとにげだしたわけじゃないのぜぇ?」
「け、けど、れいぱーありすはこわいし、ふつうはにげるのが……」
「だまるのぜっ!!」
「ひっ!?」
ドスまりさに一喝された配下のまりさは身を震わせた。
「おまえはこのどすのむれのいちいんなのぜ!!つよいまりさがあつまるむれのいちいんなのぜ!!ちがうのぜ!?」
「そ、そうなのぜ……」
「れいぱーありすごときぶちころせないやつなんざ、このむれにはいらないのぜ!!」
ドスまりさはそう言って、配下のまりさを踏みつぶした。
「びぇ……」
配下のまりさは辞世の句も言えずに、餡子の染みと化して仲間の後を追う事となった。
「やくたたずが……。おい!だれかいないのかぜ!?」
ドスまりさは外にいた他のまりさ達を呼び出した。
「このよごれをきれいにするのぜ!」
「「「わ、わかったのぜ!」」」
巣穴の清掃を命じられたまりさ達は、葉っぱなどの道具を探しに蜘蛛の子を散らすように飛んでいった。
「ちっ……!れいぱーありすなんか、おそれるにたらずなのぜ!ほんとうに、こんじょうなしなのぜ!」
……ドスまりさは、かつては自分もれいぱーありすを恐れていた事を棚に上げ、既に死んでいる配下の事を罵っていた。
「しかし……、しょうじき、れいぱーありすはめんどうなのぜ……。……ちかいうちに、あいつらもつぶしておいたほうがいいのぜ……」
これ以上先程のような弱音を吐くような奴が、群れの中から出ては困ると考えるドスまりさであった……。
……それから、数日の月日が流れた。
せーがはじゃせんていこくで昔の仲間達と共に、懐かしく、楽しい日々を過ごしていた。
ドスまりさは群れのまりさの数を増やし、他のゆっくり達から略奪の限りを尽くしていた。
山のゆっくり達は、そんなドスまりさの横暴に耐えていた。
その間は、餡子を餡子で洗い流すような、大きな争いは起きていなかった。
……しかし、そんな日常は、簡単に過ぎ去るものだった……。
……じゃせんていこくにて。
「あらぁ、おとなりのせーがさん、こんにちは」
「よんばんめのすあなのせーがさんも、かわりありませんか?」
「えぇ、えぇ。みてくださいな、このゆんしー。きのうあたらしくつくったんですよ?」
「ゴンヂワァ……」
「まぁまぁ……、おはだのくさりかげんに、しんだでいぶのようなめつきがなかなかいいですねぇ」
「それはそうですよ。でいぶからつくったんですもの」
「ふふふ……」
「ほほほ……」
群れのゆっくりの巣穴の前で、数匹のせーが達がゆんしーを入れて井戸端会議をしていた。
群れのせーが達は時々近くで野垂れ死んでいたり、捕食種に襲われて食いかけの死体となっているゆっくりを調達して、ゆんしーを生み出している。
今日も今日でゆんしーの事について話がはずんでいるのだった。
「ドズー、アレヤッデー」
「おねがいだぞー!どすー!」
「ヤッデー、ヤッデー」
「おー!いーいーぞー!」
一方、群れの広場で数匹のゆんしーとよしか達が、父よしかに対して何かをせがんでいた。
父よしかはそれを快く承諾し、その場に寝そべった。
「ウワーイ、ダノジミー」
「のぼるぞー!」
ゆんしーとよしか達は、父よしかの体を登り始めた。
そして全員が父よしかの腹部に到達すると、父よしかは大きく息を吸い始めた。
「ふんっ!」
父よしかが頬を膨らませ、腹部に力を入れると、腹部がポッコリと膨れ上がった。
その反動で、父よしかの腹部に乗っていたゆっくり達が空中へ浮いた。
空中へ浮いたゆっくり達が父よしかの腹部に落ちると、父よしかは再び腹部に力を入れ、再びゆっくり達を浮かせる。
……父よしかの日課は、こうして群れのゆっくり達に対して、擬似トランポリンとして遊び相手になってあげたり、頭上に乗せて高い高いしたりする事だった。
「オゾラヲドンデルミダーイ」
「ダノジー」
「おぉー!すっげーたのしー!」
体が大きく、心優しい父よしかは、群れの守護者兼巨大遊具として、己の職務を全うしている。
……と言う事にしておこう。
「よしかー、よしかー、どこにいますかー?」
……すると、母せーがの呼ぶ声が聞こえた。
母せーがは父よしかの近くまで来ていた。
「おさー!どうしたんだー?」
父よしかのお腹でトランポリンを楽しんでいたよしかは、そのまま母せーがに対して返事をする。
「あら、そこにいたんですか。あなたのごしゅじんさまはどこにいきましたかー?」
「しらないぞー!ごしゅじん、ここにきてから、ふらっとどこかへいくときがあるんだぞー!」
「そうですか……。もしかして、あそこでしょうか……?よしか、ありがとうございますね」
「おー!」
母せーがはよしかに礼を言うと、どこかへと行ってしまった。
「そーれー!」
「ウヴァーイ」
「ウギャー」
「すっげーたかーい!」
よしかは他のゆんしー達と共に、父よしかの腹部で遊ぶのだった。
「はぁ……」
じゃしんていこくから少し離れた場所に、天気の良い日は日当たりの良い丘があった。
……そこに、せーがが溜め息を吐きながらぼんやりと宙を眺めていた。
心そこに有らずといった感じである。
「……せーがは……。……せーがは、どうすればいいのでしょうか……」
そんな事を呟いていた、その時。
「やっぱり、ここにいたんですね、せーが」
「……おかあさま」
後ろから誰かが声を掛けてきた。
声を掛けてきたのは、母せーがであった。
「ここは、あなたがちいさいころに、おかあさんとおとうさんといっしょになんかいかきたところなので、ここじゃないかなとおもっていました」
「……」
「となり、いいですか?」
「……いいですよ」
母せーがはそう言って、せーがの隣に来た。
「せーが。……なにか、なやみごとがあるんですね?」
「……やっぱり、かくせませんね」
「それはそうですよ。おかあさんは、せーがのおかあさんですもの。せーがのことは、よくわかっているつもりです」
「おかあさま……」
「あなたがこのじゃせんていこくにかえってきてから、しだいに、くらいかおをすることがおおくなってきたようなきがするんです」
「……」
「せーが。……なにがあったのか、はなしてくれますか?」
「……はい……」
母せーがに促され、せーがは己の口から、今までの事をポツリ、ポツリと母せーがに打ち明けた。
自分が移り住んだ山で、自分の群れを持つ事が出来た事。
その群れをいとも簡単に滅ぼされてしまった事。
逃げ出すような形で、ここに戻って来た事。
全てを打ち明けた。
母せーがは、それを黙って聞いていた。
「おかあさま。……せーががどうして、このじゃせんていこくをはなれたのか、そのりゆうをおぼえていますか?」
せーがは母せーがにそう尋ねた。
「えぇ。おぼえていますよ」
「……おかあさま。このじゃせんていこくは、おおむかしに、いちひきのせーがとよしかがつくったんですよね?」
「そうですよ。ごせんぞさまたちが、がんばってくださったおかげで、むれのみんなはへいわにくらすことができるのですよ」
「せーががちいさいころ、ちょうろうがなんかいもそういっていましたね。……もう、ちょうろうはえいえんにゆっくりしちゃいましたけど」
「そうですね。……ここは、まわりにてきがいなくて、たべものもたくさんあって、とてもいいところですね」
「……ごせんぞさまのはなしは、せーがのこころのなかにのこりつづけました」
せーがはそう言いながら、空を見上げた。
太陽の光の眩しさに目を細めながら、話を続ける。
「……せーがは、おおきくなるにつれ、おもうようになったんです。……そとのせかいというものは、どういうものなのかと」
「……」
「ごせんぞさまたちは、そとのせかいから、このじゃせんていこくのちにやってきました。……せーがは、しりたくなったのです」
「……」
「そとのせかいをみたい。そとのせかいをしりたい。……そして、そとのせかいで、じぶんのやりたいことを、やってみたい……、と」
「……あなたはむかしからわがままなこでしたけど、あのときは、ずいぶんなわがままをいいだすものだとおもいましたよ」
「えぇ。おとうさまなんか、わんわんなきながら、せーがをとめようとしましたものね」
「おとうさんをなだめようとするあなたをみて、どっちがこどもなのか、わからなかったですよ」
「……あのとき、おかあさまはとめようとはしませんでしたよね?じぶんのあとつぎが、むれをでていくといったのに」
「えぇ。おそらく、あなたのことですから、いってもきかないだろうなとはおもっていたので」
「ふふふ……」
せーがは視線を戻し、母せーがの方を見た。
「……よしかとともに、このじゃせんていこくからたびだって、やまをいくつかこえて、そこからいろいろあって……、じぶんのむれをもつことができました」
「……」
「ですが、それもあっというまにうしなって、ここへもどってきて、……せーがは、ほんとうにちっぽけなそんざいだと、おもいしらされたのです」
「せーが……」
「せーがは……、いともかんたんにうしなってしまうものに、まんぞくしきっていて、それでじぶんのねがいをかなえたつもりになっていました」
「……」
「おかあさま……。せーがは……、せーがは、ほんとうは、なにがほしかったのでしょうか?」
せーがは母せーがに問い掛ける。
かつては自分の心の中にあったものが何であったのか、それを尋ねる。
……それは、自分しか知らないものであったという事を、分かっていながらも。
それでも、聞かずには、いられなかった。
「……ごめんなさい。おかあさんには、わかりません」
「……そうですよね」
母せーがの返答は、せーがが予測していたものだった。
「それは、せーががもういちどおもいださなければいけないことだとおもいますよ?」
「……」
「せーが。あなたはあなたです。……あなたがおもうがまま、あなたのこころがめいじるまま、あなたはあなたらしくいきればいいのです」
「……」
「だれよりもわがままで、よくぶかくで、じゅんすいで、じゆうなせーが。やりたいことをやりなさい。てにいれたいものをてにいれなさい」
「……」
「このじゃせんていこくでしあわせにくらすことも、もういちど、そとのせかいへもどるのも、あなたのじゆうです」
「……」
「おかあさんは、あなたがじぶんでかんがえて、そうしたいとおもったのなら、それをとめません」
「……」
「せーが、きかせてください。……あなたののぞみを」
母せーがの言葉を、せーがは黙って聞いていた。
……そして、ゆっくりと口を開いた。
「……せーがは……」
……翌日。
「やーだー!!いっちゃやーだー!!」
「……やはり、いってしまうのですね?」
「えぇ。ごめんなさい、おとうさま。おかあさま」
「ごしゅじーん……」
せーがとよしか、母せーがに父よしか、そして群れのゆっくり全員が、ゆんしーていこくの入口に集まっていた。
……せーがは、再びこのじゃせんていこくから旅立つ事を望んだ。
母せーがは、それを受け入れた。
父よしかは、べそをかいていた。
「うわーん!せーがー!」
「あぁ、もぅ、おとうさん、なかないでくださいな。あとでおいしいきのこをあげますから」
「やーだー!」
「……せーがたちのむすめが、えらんだみちです。……もういちど、みおくってあげましょう?……あなた……」
「うー……」
「それが、おやであるせーがたちにできることですよ?」
「……せーが。……また、かおをみせにくるんだぞー?」
父よしかは泣くのをやめて、せーがにそう言った。
父として、精一杯せーがを見送ろうとしているのだった。
「……はい。いつか、かならず。……みなさんも、どうか、かわらずに……」
「おさー!ありがとー!どすー!またあそんでねー!みんなー!げんきでなー!」
せーがとよしかは皆に別れを告げて、じゃせんていこくを、生まれ故郷を後にした。
「せーが。……あなたのねがいがかなうことを、のぞんでいますよ」
「せーがー!よしかー!またくるんだぞー!!」
「ふたりともー!じゃせんのなまえにふさわしいゆっくりになってくださいねー!」
「よしかー!またこいよー!」
「ゲンキデネェー」
「ワガレッデ、ヤッバリザミジイネ」
じゃせんていこくの皆が、二匹の姿が見えなくなるまで見送り続けた。
「ごしゅじん、いいのかー?」
「いいんですよ。せーががそうしたいときめたのですから。……よしか。あなたはどうだったんですか?」
「よしかは、ごしゅじんがどっちをえらんでも、ごしゅじんについていくぞー!」
「ふふ……、たまにはうれしいことをいってくれますね」
「うおぉ、なんだかばかにされたきぶん」
「なんで!?」
じゃせんていこくが完全に見えなくなる頃には、二匹はいつもの調子を取り戻していた。
「ところで、ごしゅじん。これからどうするんだ?」
「きまってるでしょう?……あのどすまりさに、おれいまいりをしにいくんですよ」
「おれーまいり?なにか、かんしゃするようなことをしたのかー?」
「……まぁ、だいたいあっていますかね。このままやられっぱなしでおわらせるのは、どうもむしゃくしゃするので」
「でも、ゆんしーたちはもういないぞー。むかしみたいに、こつこつふやすのかー?」
「それはじかんがかかりすぎます。……まぁ、あてはありますよ」
「おぉ、そーか!ごしゅじんがそういうなら、ほんのすこしだいじょうぶだな!」
「ほんのすこし!?」
そんな会話を交わしている内に、二匹は既に大草原を渡っていた。
「さー!そーときまったら、どすまりさをやっつけにいくぞー!」
「……よしか。せーがたちがやることは、それだけではありませんよ?」
「そーだな!あたらしいむれをつくって、そこでゆっくりしよう!」
「……いいえ。それだけではありません」
「おぉ?……うーん……。……おぉ!そうか!ごしゅじんは、もういちどやまのてっぺんにもどるんだな!」
「……それではたりません」
「……わからないぞー。ごしゅじんはほかになにをしようとしているんだー?」
せーがの言葉の意味が分からず、よしかは足りないおつむで必死に考えるが、完全にお手上げだった。
「……よしか。せーがはおもいだしたんですよ。……はじめてそとのせかいへとたびだったとき、せーがはなにがほしかったのか……」
「せーが、きかせてください。……あなたののぞみを」
母せーがの言葉を、せーがは黙って聞いていた。
……そして、ゆっくりと口を開いた。
「……せーがは……。……せーがは、『すべて』がほしいです」
……せーがは、思い出したのだ。
「せーがはほしいです。おいしいごはんさんを。りっぱなおうちを。たくさんのなかまを。それをてにいれるためのちからを」
……かつて、己が何を欲していたのかを。
「だれかをだませることばを。だれかをおとしいれるちえを。だれかからうばいつくすどんよくさを。そのはてにえられるものを」
……いつの間にか、忘れてしまった、本当の欲望を。
「げすといわれようが、くずといわれようが、ゆっくりごろしといわれようが、あきらめたり、おれたりすることのないこころのつよさを」
……己がゆっくりであるが故の、本質というものを。
「じぶんでてにいれたい。じぶんでみつけたい。じぶんでうばいたい。せーががほしいから。ほしくてほしくてたまらないから」
「まんぞく、なっとく、だきょう、そんなものはいらない。そうすれば、それいじょうなにかをてにれられないから」
「いまいじょうのゆっくりを。それいじょうのゆっくりを。はるかうえのゆっくりを。さいこうのゆっくりを。……ほんとうのゆっくりを」
「せーががほしいとおもったものは、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ……。……ぜんぶ、てにいれたい……」
「……それが、せーがののぞみです」
「よしか。せーがたちは、すべてをてにいれにいくのですよ」
「ごしゅじん……」
「そして、あのどすまりさにみせてやりましょう」
せーがはそう言いながら、己が逃げた来た山の方角を一点に見つめた。
……その目には、揺るぎない決意が秘められていた。
「いったいどっちが、ほんとうによくぶかくて、あきらめがわるいのかを」
最終更新:2014年10月03日 02:56