夕日の中を木枯らしが吹き抜け枯葉を巻き上げる。
晩秋から初冬への境
豊饒の季節はもうすぐ終わりを告げる。
この季節はゆっくりたちがもっともゆっくりできない、否ゆっくりしてはいけない季節である。
なぜなら冬篭りの準備をしなければならないから。
皆準備の為に跳ね回り食料と資材を集める。
今年生まれた子供たちも母親と同じ仕事が出来るほどに成長し
姉妹達を率いて下草を集めたり、木の実を埋めたりと忙しい。
食料を集め、下草を敷き、入り口を塞ぐ頃には冬が来る。
「まつんだど~」「みゃ~て~」
「ゆ!ゆ!ゆうぅぅぅぅぅ…」
日に日に三日月に近づく月の下
ご多分に漏れず冬篭りの準備に急ぐのは体つきのれみりゃの親子
ただし彼らの準備は食料集めではない。
食いだめである。
冬の間に外に出るゆっくりは少ない。
必然的にれみりゃの餌も少なくなる。いくら狩りに出ても十分な食料は得られない。
したがってれみりゃ種は冬眠するゆっくりとなった。
冬の訪れまでに出来るだけ沢山の栄養分を蓄え、後は眠るのだ。
春先と盛夏に生まれた二匹の子供たちも狩りの仕方を覚え、多くのゆっくりを狩った。
体は指先まで丸々と太り、パンパンに張った血色の良い肌は白桃色に輝いている。
「やったどぉ~ごはんだどぉ~」
捕まえたゆっくりを抱えて巣に戻るれみりゃ親子
少々飛行するのに支障が出ているらしく
がさがさと木の枝に体を擦っているが、この程度でなければ冬は越せない。
今回の冬眠場所は大きな木の下に掘った穴の中
入り口は残雪の心配の少ないよう東向き
しっかりと下草を敷いたので寝心地は抜群
春まで快適に過ごせるだろう。
「お~いし~どぉ~」「う~」「さいごのでなーだどぉ~」
れみりゃ親子は今年最後の食事となるゆっくりありすを食べていた。
このありすは少々ゆっくりしすぎたの。
この季節の夜に外を出歩いていたのだから。
寒さに強くないゆっくりは晩秋の夜にはけして出歩かない。
夜はれみりゃの時間だからだ。
おそらくこのゆっくりしすぎたありすは
皆が巣を塞ぎ始めるのを見てあわてて冬篭りの準備を始めたのだろう。
食料になるものは殆どとり尽くされた森の中を彷徨い
冷たい秋風に吹かれ動きが鈍ったところをれみりゃに襲われたのだ。
たっぷりと栄養を取った健康なれみりゃは少々の寒さにもへこたれない。
秋風の中を自在に飛び、獲物を狩って冬に備える。
知能は消して高くないれみりゃが今日まで生き延びている理由は
このあたりにあるのかもしれない。
「うぅ~はぁっぱぁ~ぱぁっぱぁ~はぁっぱぁっぱぁ~」
ばさばさと落ち葉や枯れ草、小石や小枝を巣の入り口に撒くれみりゃ
遊んでいるのではない。巣穴を偽装して隠しているのだ。
捕食種といえど油断は出来ない。長い眠りに付く冬眠中は尚更だ。
「うぅ~いぃしをつぅんでぇ~すぅきぃまぁをつぅめぇてぇ~つぅちぃをぉぬぅってぇ~」
親子代々伝わる歌のようなものを呟きながられみりゃは内側から穴を塞いでゆく。
巣穴の入り口に石と土と小枝を積み上げ、草や苔を隙間に詰め込む。
さらにその上から土をぺたぺたと塗りつければ封鎖完了だ。
「かんせいだどぉ~」
「やったどぉ~」「これであんしんだどぉ~」
入り口を塞いだらあとは眠るだけだ。
下草の上に親子三匹、川の字で寝転ぶ。
「う~!ふゆどをこすどぉ~!!はるまでぐっすりだどぉ~」
「はるまで~」「ぐっしゅり~」
おそらくもう数日で初雪が舞う。
この一家はそれすらも知らずに眠り続けるのだろう。
暖かい春の日差しが雪を溶かすまで
となるはずであったのだが。
「うぅ~」
…ックザッ…
…ックザック…
「う~?」
ザック…ザッ…
「うううぅ~!?」
ザクッ
「よしやったぞ!!」
「うー!!」
突然巣の中に光と寒気が流れ込んでくる。
飛び起きたれみりゃの目に白銀の世界と黒い二つの影が飛び込んできた。
「おし、大当たり!れみりゃだ。」
「やりましたね兄貴!!」
男たちはれみりゃを縛り上げると次々と袋の中へ放り込んでゆく。
「みゃあみゃあ!!」
「あがぢゃあああぁぁぁぁん!!あがぢゃあああぁぁぁぁん!!」
泣き叫ぶれみりゃたちを無視して袋を荷車に放り込む。
「ゆっぐりじねぇぇぇ!!」「だぜえぇぇぇ」「う~う~う~!!」
荷台には既にいくつもの袋が並んでいる。中身はすべて体つきのれみりゃかふらんである。
「こいつらは高く売れるからな。これで首が繋がったぜ。」
「兄貴が闘ゆっくりで有り金全部スっちまった時はどうなるかと思いましたけどね。
こんな特技があったんですね。兄貴って。」
この二人は人里に住む与太者たち。金策の為に一稼ぎしに来たのだ。
「死んだ親父がゆっくり取りの名人でな。俺もよく一緒に取りに行ったもんさ。」
「しかし饅頭なんざいつでも一緒じゃないんですかね?なんで今だけ高くなるんです。」
「ばーか、ゆっくりだって旬ってのがあるんだよ。れみりゃやふらんは今ぐらいの奴一番だ。
冬を越すためにたらふく食って油が乗ってるからな。質が違うんだよ。
知ってるか?なんでこいつらに体がついてるのか。」
「いえ、知りませんね。人間みたいに動けるからですかい?」
「それが違うんだよ。こいつらは道具を使える頭がねえからな。
栄養を蓄えるためなんだよこいつらが体つきなのは。」
「へえ、じゃあ兄貴の下腹といっしょですかい。」
「おめぇあとで覚えてろよ。まあそんなもんさ、冬眠中に困らないようにそうなったんだろうな。
同じ肉まんでも頭と体じゃ味も値段も違うんだ。」
荷車をがらがらと引きながら歩く二人
荷台には二十匹ほどのれみりゃとふらん。
「じゃあこないだのれみりゃに自分の子供で肉まん作らせてた店。
だから高かったんですね。」
「そうさ、あの店のは本物の親子だからな。体は取っても死なないってわかってるから体で作るんだ。
赤の他人のれみりゃに作らせると頭も体も関係なしに…おっとまたあったぜあそこだ。」
「よくわかりますね。俺にはぜんぜんわからねえや。」
「年季がちがうさな。年季が」
男はそういいながらスコップでざくざくと雪を掘っていく。
数十センチ掘ればぼこりと土がへこみその向こうには体つきの
「むきゅうぅぅぅ…ごほん……」
紫色の奇妙な物体。そして大量のチラシや新聞紙
一瞬ゆっくりぱちゅりーのようにも見えたが微妙に違う。
もやしのように細いが体がついているのだ。
「ありゃ、違ったぜこいつは」
「なんですこの紙くずまみれのは」
「こりゃあぱちゅりぃだな。体つきのゆっくりぱちゅりーだよ。
穴の塞ぎ方が似てるから間違えたんだ。」
「案外兄貴もあてになりませんね。」
「うるせえな久々なんだから仕方ねえだろ」
男達の会話をよそに冬眠中の巣穴を暴かれたぱちゅりぃは
大量の紙屑に囲まれて眠ったままだ。
いや、反応が薄いだけで起きてはいるのかもしれない。
どちらにせよ頭に霞が掛かっていることに代わりはないが。
「で、こいつは売れるんでしかい?兄貴
こいつの体も油が乗ってるんでしょ?」
「こいつの体はなぁ…ちょっと違うんだよ。」
「と、いいますと?」
「こいつは食うモンがなあ…ああ、見ろよほれ。」
むきゅむきゅと寝言を呟きながら手を伸ばすぱちゅりぃ
その手が掴んだのは干からびた野菜くず。
ではなくなんと紙屑の山の中のチラシだった。
「えっと兄貴、まさかこいつ。」
「そのまさかだ。見てろよ。」
チラシを掴んだぱちゅりぃは
「むきゅうぅん。むきゅうぅん。」
それをそのまま口に運んだ。
しばらくの間もしゃもしゃと咀嚼したあとゆっくりと飲み込む。
この間なんと35秒、驚異のゆっくりっぷりである。
よく見てみれば紙屑だらけのぱちゅりぃの巣に食料はほとんどない。
あるのは紙屑ばかりである。
防寒材としては優秀かもしれないが普通なら食料にはならない。
それを食料にしてしまうのが歩く紫もやしことぱちゅりぃである。
虚弱でありながら妙に頑丈な肉体を持つ彼女は
生き延びるために驚異の消化力を身につけたのだ。
「こいつってこんなもんばっかり食ってるんですかね?」
「らしいな。弱くてまともな餌は取れないからこんなもんを食うんだろうが。
栄養も殆どないだろうからな。だから弱いのかもな。」
「卵が先か鶏が先かみたいな話ですね。で、こいつは食えますかね?」
「筋だらけだろうさ。やめとこう。」
その時男たちは下から見上げる視線に気づいた。
いつのまにかぱちゅりぃが目を覚ましていたのだ。
独特のどろりと濁った目で男達を見つめるぱちゅりぃ
常にもぐもぐと動き続ける口をゆっくりと開くた。
「ごほんはどこ?」
「は?」
「むきゅぅ、もってかないでぇぇ…」
蚊の鳴くようなか細い声で喋るぱちゅりぃ
白い雪と黒い土、灰色の紙屑と紫色のぱちゅりぃ
前衛芸術家かなにかなら喜ぶかもしれないが男たちにはもう限界だった。
「はいはいごほんね、ごほんだよ」
そういってちり紙代わりの天狗の新聞をぱちゅりぃに押し付ける。
「むきゅぅぅぅごほん、ぱちゅりぃのごほん」
嬉しいのだろうか上体を陽炎のように揺らすぱちゅりぃ
「あーはいはいよかったねごほんだね。おやすみね。」
「春までねむってようなぁぱちゅりぃ」
「むぎゅうううぅぅぅぅ!!」
ぱちゅりぃの体を紙屑の山に押し込むと
そのまま土をかけて埋めもどす。
少々手荒すぎる気もするがなに紙を食べて生き延びられるゆっくりだ。
これくらいはどうということもあるまい。
「しかしあんなゆっくりもいるんですね。兄貴」
「わからんもんだな。案外と」
荷車を引きながら人里を目指す男達
荷台のれみりゃ、ふらんの体力も尽きたらしく静かなものだ。
冬を生き延びようとゆっくりを食べたこのゆっくりたちは
冬を彩る肉まんアンまんとして人々に食べられる。
なんとも因果な事ではないか。
「おそくなっちまったな。しかし」
「晩飯にこいつらでも食いましょうか。」
「馬鹿言うんじゃねえよ。まったく」
最終更新:2022年05月03日 09:54