何の苦痛もなく暮らすゆっくりがいます
食い意地の張った名無しのお姉さんの日常独白形式です
虐待描写は無いに等しいです
借り物設定、俺設定あり

 ------ゆっくりは何でできているの?-------



    What are little girls made of?
    Sugar and spice
    And all that's nice,
    That's what little girls are made of.



 私が小さい頃、父が私と遊びながら歌っていた歌がある。
 女の子は何でできてるの?
 私はそんな風に歌われている女の子になりたかったが、ある時からその歌を歌うことをやめた。
 それでも得意の菓子作りだけはやめられない……悔しいけど、そういうものよね。
 私は目の前で堕落の限りを尽くす饅頭を見つめながらため息をついた。
「ゆゆっ!おねーさんだ、ゆっくりみていってね!」
「おねーさんゆっくりしていってね!」
「おねーさん、とかいはのありすはきょうもうつくしいでしょう?」
「むきゅー、びようのためにゆっくりすいみんをとったわ」
 不愉快な声を聞きながら私は飼育箱にいる饅頭たちを見比べた。
 れいむは肌艶もいい、まりさも今日は髪が乱れていない、ありすは自惚れ入ってお手入れに時間かけてないな。
 ……ん?ぱちゅりーが珍しく生き生きしてる。
 饅頭たちは私の言葉を待って目を輝かせて見つめている。こっちみんな。
「発表しまーす、今日一番可愛いのは……ぱちゅりーです」
 そういうと饅頭たちはいっせいにぱちゅりーの方を向く。
「一番になったぱちゅりーには一番たくさんお菓子をあげるね」
「むきゅー?!」
 当のぱちゅりーは自覚がないのかきょとんとしている。ぱちゅりーは今まで一番になった事がない。
 他の3つに比べればまだまだだが貧弱饅頭の努力が実ったという事で今回は一番にして褒めてやることにした。
「ゆっ、あしたはれいむがいちばんになるよ」
「まりさももっときれいになってやるぜ」
「そうだね、頑張って綺麗になってね」
「ぱちゅりーゆっくりきれいになったよね」
「まえよりずっとげんきになったぜ」
「む、むきゅ?そう?」
 普通なら罵声が上がりそうなものだがこの饅頭たちには三つの事を教えてある。
 綺麗になったらもっとたくさんお菓子が食べられる。
 可愛くない事を言ったりしたりするゆっくりはお仕置きされる上、ご飯が食べられない。
 毎日綺麗になる努力をして頑張ったゆっくりからたくさん食べられる。
 だからここで自分の方が、なんていえば餌抜きになるのを饅頭たちはよく知っている。
「ああああぱちゅりーにまけるなんてえええ」
 ありすだけが自分の努力不足を認められないでいる。このありす、身体(といっても生首だけど)のお手入れが得意で最初から綺麗な方だった。
 最初の方はずっと一位だったが最近はれいむたちが追いついてきて一位でない日の方が増えてきた。
「二位は……れいむもまりさもどっちも頑張ってるから二人とも二位。一番ダメなのはありす」
 最近では面倒だから適当に順位をつけていたがありすを最下位にした事はなかった。
「ああああああああああありすがいちばんだめなのおおおおおおおお????」
 あ、しまった。ストレスかけちゃダメ。
「かわいいありす、聞きなさい」
 饅頭におべっか使うのも癪だがこうでも言わないとこいつは人の話を聞かない。
「ぱちぇりーが一番なのは今まで頑張ってきたから、れいむとまりさも頑張ってきた。ありすは今日、なにか頑張った?」
 ありすは箱の中で少し考え、ようやく思い出したのか俯いた。本当に何もしてなかったのか、この饅頭。
 別に何も努力しなくてもいいんだがストレスかけさせることだけはさせたくない。
「わかったのなら明日から真の都会派ビューティーを目指しなさい。可愛くなるのは好きでしょう?」
 自分でも意味不明な事を言っているがありすは納得してとかいはびゅーてぃーを目指す決意を固めたようだ。
 そして私は用意した餌をそれぞれの飼育箱に放り込んで部屋を後にした。
「もう頃合かな。あれだけストレスかけないようにしたんだから相当甘みはない筈……」
 甘い饅頭は既に食傷気味だった。



 家を出て、裏の小屋へ向かう。元々は鶏小屋だったが今ではあの小綺麗な饅頭の餌用の饅頭繁殖小屋だ。
 一応今も鶏はいる事はいるが日中は庭を走り回っているし、夜は基本梁の上で寝ている。
 最終的に自分がおいしく食べるためには餌の管理もしっかりやっておいた方が安心する。
 あの小奇麗な饅頭に何を食べさせてもいいんだけど一応別の饅頭で一回濾過しておきたいというのはある。
 まあ、天然物もそれはそれで好きだけど、人里近くに住む饅頭は人家のゴミを食べている可能性があるから。
 天然物は基本的に山奥で採取することになるんだけどね。
「饅頭生きてる?」
「ゆゆゆっ!!!」
 あからさまにゆっくりできない人が来たと言わんばかりの饅頭たちだが気にしない。鶏小屋に入って鶏が騒いだって気にする人はいないでしょ?
 物置小屋の床の上には透明な箱がいくつか並んでいる。その中には大人饅頭がそれぞれ詰められていて大きめの箱には頭から何本も茎を生やした母親饅頭が何匹かいた。
 何故か茎の数が昨日と変わっていない。
「あれ?もうとっくに落ちてると思ったのに。餌が足りなかったかな?」
「ゆっ、そうだよ、まだうまれてないよ。ゆっくりまっててね」
「ふうん……」
 原因はすぐにわかった。母の一念岩をも通す、生まれ落ちたらゆっくりできないからずっと枝についていろと母饅頭の祈りが通じたようだった。
 しかしよく見れば本来なら枝から離れる大きさであり、既に枝についたまま私の方をしっかりと見つめている。
 生まれていてぶら下がっているのか、未だ生まれていないのか判別方法は簡単。
「ゆっくりしていってね!!」
「「「ゆっくりちていってね!!」」」
 饅頭の条件反射に笑いたくもなるが母饅頭は真っ青な顔をしていた。
「ち、ちがうよ。いまのはれいむがしゃべったんだよ、あかちゃんはしゃべってないよ」
 しかしそんな言葉など聞き流して饅頭の頭の茎の根元をつかむとグラグラ揺すった。
「やめてえええれいむのあかちゃんがおっこちちゃうううう」
 枝の赤ん坊は事実上生まれている。単に枝に引っかかっているのと同じこと。
 やがて小さな饅頭は枝からぽろぽろと零れ落ち、感動の親子対面となった。
 まあコレくらいは許す。というかコレをやっておかないと美味しくならない。
「おかーしゃん、やっとおかおみれたあ」
「おかーしゃんおにゃかしゅいたー」
 子供がすべて落ちる。生やした茎の数からするとちょっと赤ん坊饅頭の数が少ないが最近消費量増えて連続出産させてるから仕方ないか。
 あの四匹用にそれぞれまりさ、ありす、ぱちゅりーの三匹同時に相手させて常に四種類取れるようにしてたからなあ。
 饅頭の数を数えているうちに母饅頭の頭から茎がもげ、赤ん坊饅頭はそれにかじりついた。
 最初が肝心、ここで最初で最期の幸せな想い出を作ってもらおう。
 さて、このれいむはしばらく休ませて別のを母体にしよう。
 赤ん坊饅頭がすべて腹を満たし幸せそうに母親に擦り寄っているのを確認し、私は母饅頭の髪をつかみ箱から取り出す。
「いいいだいいいいいいいいいいばな゛じでえええ」
「おかーしゃーん!!」」
 空いている透明な箱に収め、さっさと回収作業開始。
 髪が抜けそうになって頭皮の痛みに涙目になっていた母饅頭はようやく私の行動を理解したようだ。
「やめてええ゛え゛え゛れ゛い゛む゛の゛あ゛がち゛ゃんも゛っでがな゛い゛でえ゛え゛え゛え゛え゛」
 私は鶏小屋で卵を拾うように生まれて間もない赤ん坊饅頭を拾っていく。
「ゆゆゆ?おかーしゃんはどこー?」
「おかーしゃんのところにちゅれてってね!」
「むきゅむきゅ?」
「とかいはのありすのかわいしゃにみとれてるにょね」
 疑うことを知らない図々しいチビ饅頭は口々にそんなことを言うが拾った饅頭が入るのは母親とは違う別の箱。
「まずあなたたちはこっち、大丈夫よ」
 とりあえず先に四種各一匹を完全防音の箱に入れ周囲の刺激から隔離する。こいつらが音も外の様子もわからなくなった所で残りの赤ん坊饅頭を見下ろす。
「おねーしゃん、れいむをおかーしゃんのとこりょにちゅれていってにぇ!」
「お母さんの所には連れて行かないよ、これからずっとゆっくりできない場所に連れて行ってあげる」
 そういうとチビ饅頭たちは火がついたように泣き始めた。
「まっでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛れ゛い゛む゛ばな゛に゛ざれ゛でも゛い゛い゛がら゛あ゛がち゛ゃんばあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
 母親の悲痛な叫びにそれが脅しではない事を悟るチビたち。生まれたばかりのまっさらな餡子が次第に甘みを帯びていく。恐怖はこいつらの餡子を甘くする。
 死んだ瞬間から本当の意味で饅頭になるこいつら、餡子を腐らないよう日持ちさせる方法って知ってる?
 そう、餡子の糖度を極限まで高めるの。



 牛肉は三週間、鳥は十二時間、魚は数時間。
 普通の動物なら死後硬直の関係で熟成期間というものがあるのだけど、こいつらに関してはそれがない、まるで動物ではないというかのように。
 それでも私達はおいしくする方法を知っている。
 小箱の四匹は小奇麗な饅頭の部屋においておき、先ほど回収した生まれたての大量のチビ饅頭を台所へ持ち込んだ。
「ゆゆっおかーしゃんのことろへゆっくちかえちてね?」
 饅頭が何か喚いてるけどさて、飼ってる家畜のために餌の準備を始めましょうか。
 私は饅頭に向き直って美味しくなるための呪文を唱える。
「あんたたち、実は親に捨てられたの」
 本当は生む気がなくて枝についているうちに殺したかったの。
 でも生まれちゃったから代わりに私が殺してあげる事になったの。
 なんで私がって?だって子供殺したらゆっくりできなくなるもの。
 だから汚れ役を私が引き受けたの、お母さんがゆっくりするためにね。
 あんたたちのお母さん、演技うまいよね、アレだったら誰も子供殺しを依頼した母には見えないもんね。
 うん、恨むならお母さんを恨みなさい。
 お母さんは自分がゆっくり生き残るためにあんた達を捨てたの。
「おお、非道非道」
 ……呪文長いよ。
 言っておくが私は虐待お姐さんでもドSでもない。普通の動物は苦しまないようにさっさと絞めないと美味しくなくなるのにこいつらだけは逆なんだから全く面倒くさい。
 鶏だったら逆さ吊りにして首落すだけなんだけどな。
 とりあえず涙でふやけない様に布巾もたくさん用意したし、逃走防止に竹串で串饅頭にしたし、あとはあの家畜好みの甘~い饅頭に仕上がりますように、っと。
「もう一つ教えてあげる。あんたのお母さんね、できるだけあんた達を苦しめて殺して欲しいって。そういう約束だから」
 胡散臭い方法だが言質は取ったのでまあ大嘘って訳ではないのだが。
 包丁まな板菜箸お玉木杓子竹串鉄串爪楊枝タコ糸骨抜き擂り粉木当り鉢ささら簡易バーナー下ろし金ピーラー裏ごし器スライサーはさみ焼き網シノワやっとこ肉叩き、必要な道具はすべて揃えた。
「ゆっくり苦しんで逝ってね」
「「「「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」」」」
 あ、私の耳栓忘れた。



 小奇麗な饅頭用にこのチビ饅頭を加工する。最終的にゆっくりだとわからなくなるように、髪の毛やら目玉やら歯やら舌やら丁寧に取り除く、もちろん生きたままで。
 途中虐待お兄さんから教わった四十八の虐待技をいくつか試してみるがチビ饅頭だと加減が出来ずにオレンジジュースのお世話になることもしばしば。
 いい加減チビ饅頭用の加減を覚えないと余計な金がかかって仕方がない。
 今回収穫分の処理を終え、ご褒美お菓子がようやく完成した。
 これじゃ足りないないなあと思いつつ、再び物置小屋へ戻る。来週収穫する分の種まきのためだ。
 面倒な揺さぶり作業を終え、明後日収穫する茎付き饅頭の様子も確認。明後日はたくさん取れるから今回はまあ我慢しておくか。
 収穫ごとの面倒な作業も終わり、小屋の隅の鶏スペースから卵をいくつか失敬しつつ私は小奇麗な饅頭の部屋へ行く。
 チビ4匹の箱を開けると思った以上におとなしくしていた。私が覗き込んでいることにも気付いていないようだった。
 チビ饅頭の箱に菓子を入れておいた所為か親から引き離された事など忘れて菓子を貪っていた。
「む~しゃむ~しゃ」
「ちあわせ~♪」
 先週生まれた姉の成れの果てだというのにのんきなもんだ、このまま死ぬまでのんきに育って欲しい。
 菓子を食べつくした所で私はチビ饅頭に声をかけた。
「ねえ、おちびちゃん」
「ゆゆっ?」
 顔を上げたチビ饅頭を箱から出し手に乗せ、私は透明な箱の中でお洒落に余念がない四匹の饅頭を見せる。
「あそこにいるの、すごく綺麗なゆっくりでしょう?」
 そういうとチビたちはぽかーんと口を開けて饅頭たちを見つめていた。
 母親以外ほかの饅頭を見たことがないこのチビでもあいつらの美しさはわかるらしい、私には何がどう違うのかよくわからないけど。まあやつれた母親よりはずっと綺麗かな?
「しゅごーい……」
「きれい……」
 チビの視線に気付いたか食材たちは優雅(……なのか?)に微笑んだ。
「これからね、貴方達はここであんな風に綺麗になるためにゆっくり過ごすの」
「ゆ?」
 この小指の先ほどの餡子脳にもわかるように説明する。
 近いうちにあの饅頭はもっとゆっくりできるところに行く。空いた部屋に入って次に綺麗にゆっくりするのは自分達、ご飯はいつも美味しくて甘いお菓子がついてくる。
 箱の中はゆっくりし放題のベストプレイスであると。
 チビは簡単に信じてくれた。実際に綺麗なゆっくりがゆっくり過ごしてる様子を見れば納得するしかない。
「ゆゆー!れいむゆっくりちゅるよ!」
「ゆっくりきれいになりゅよ!」
 嬉しそうなチビ饅頭たちだったがその時、一匹が忘れかけていた事を言う。
「おかーしゃんは?おかーしゃんと一いっしょにきれいににゃれにゃいの?」
 当然聞かれるとは思っている。答えはいつも同じ。
「お母さんはね、貴方達を生んで凄く疲れてるからゆっくり元気にさせているんだよ」
「おねーしゃんやいもうとたちはー?」
「今お母さんを元気にさせるためにお姉さんのお手伝いしてくれてるんだ。お母さんが元気になればみんなゆっくりできるよ」
「まりさもおかーしゃんゆっくりしゃしぇるのてちゅだうー」
「ううん、大丈夫よ。他の皆が手伝ってくれてるから。何で貴方達が特別にここに連れてこられたか教えてあげようか?」
「むきゅ?しりたいでしゅね」
「それは貴方達がほかのどのゆっくりよりもゆっくりして可愛かったから」
 うそうそ、適当、超テキトー。
「だから貴方達は特別なゆっくりなの、もっと綺麗になってお母さんをびっくりさせようね?」
「「「「はーい」」」」
 チビ饅頭はあっさり信じた。今度はでかい饅頭の方に話をすると綺麗な自分に憧れている赤ちゃんという事であっさり面倒を見るといった。
 同種同士なら問題は起こりにくい。あとは頃合を見てでかい方を箱から出すだけ。
 一応、赤ちゃんをいじめるのは美しくない行為だと教えたのでいじめる事はないだろう。
「ゆっくりきれいになってね!」
「ゆっくりきれいになるよ!」
 箱の中からは元気な声が八つ聞こえてきた。
 さあ、明日はあのデカ饅頭からようやく中身を取り出す日だ。
 二ヶ月に一度の私の楽しみ、極上の食材が明日手に入る。
 それだけで私の顔は自然と笑みを浮かべていた。



 小奇麗な饅頭は食材用。時々食肉用の家畜に名前をつけて大事に可愛がる人がいるでしょう?あれとおんなじ。
 潰して中身の餡子を食材にするだけなのに何故こんな面倒なことをするのかといえば理由は二つ。
 一つは甘さ控えめにするため。
 餌用は極限まで甘くして食材にとっては最高の菓子になるように作っているが、どれほど甘いものを食べさせてもストレスのかからない餡子脳は甘くならない。
 虐待された饅頭は甘いが甘すぎてよほどの甘党でなければ食べられない上に非常に太りやすい食材だ。なので体重が気になる乙女としては甘さ控えめで自分の好みに調整できるくらいの方がいい。
 お菓子好きにとって体重との戦いは最重要課題なのだ。
 そしてもう一つの理由。
 楽しく頭を使わせることでうまみやコクを増やすため。
 無理矢理頭を使わせるとストレスがかかって甘くなるが、自分が綺麗になるための努力や工夫ならあの饅頭はストレスなく進んで少ない餡子脳を働かせる。
 多頭飼いするのも向上心を持たせたり他人のアイディアを取り入れたりとよい方向で頭を使うからだ。
 虐待饅頭が美味いのは己にふりかかる理不尽な暴力に対して必死に理由を求めるからで、使いすぎて頭が心ごと壊れると間違いなく味は最高だ。
 けれども甘みも最高、カロリーも最高になってしまう、これは乙女にとって非常に辛いもの。
 それを解決するためにこんな面倒な方法を使っている。
 この方法が見つかってから私は潰した饅頭の中身で菓子を作って友人や職場の人間に配っている。
 甘すぎず、しかし濃厚。最高の食材だ。
 あの饅頭が材料だと気付かない人が多いのでその件は黙っている。おかげで私は職場ではお菓子作りの好きな女の子らしい女性と見られている。



女の子は何で出来てるの?

 砂糖 スパイス

 素敵な何か

そんなこんなで出来てるわ。



 そう、私はお砂糖とスパイス、そして人には明かせない何かでできている。
 私はお菓子が好き、花を見るのが好き、愛らしい小物やキラキラ光る小石が好き。穏やかな陽だまりで日向ぼっこするのも好きだ。
 けれど。
 時々それがあの饅頭を思い出させて嫌な気分になる。
 女の子なら誰でも持っているその菓子や可愛いものが好きな感覚をあの饅頭は持っている。
 女の子は綺麗で可愛くありたがる。自己満足のために、愛しい人を手に入れるために、時に同性からの羨望の眼差しを受け悦に入るために。
 私は饅頭の群れがそんな女の浅ましさを披露しているさまを見た。
 この性別不詳の饅頭は、時として女よりも女らしい思考をしてみせた。
 その瞬間、まるで自分がこの饅頭と同じだと言われたような気がした。
 私は決して美人ではないけれど、石を投げられるほど不細工でもない。
 何の特徴もない可もなく不可もなくそれこそ群れた饅頭のように。
 大して美人でもないくせに、と男どもに笑われながらも着飾ることをやめられない。
 私達が見るあの饅頭のように私たちも端から見ればどれも同じ、そういうことなのだ。
 今まで腹の立つおやつとしか考えなかった私だが正体不明の腹立たしさの理由にに思い至りしばらく虐殺に走った。このとき虐待お兄さんと知り合ったがそれはまた別の話。
 しばらくして、饅頭を殺しても私が女である事は変えようがないのだと気付いて虐殺はやめたが、おやつ集めと称して森に入ることは続いている。
 それ以上に種別名の元ネタにされた人たち見たら悩むのが馬鹿馬鹿しくなったというのもある。
 結局私は私、饅頭は饅頭ということ。
 何も饅頭に乙女になれとか、駄目な女は饅頭になれとかそういうことではない。
 誰かがこの饅頭たちは人間を映す鏡と言ったけれども残念ながら私は饅頭じゃない。少なくとも饅頭を見て己を省みるような事はしない。
「次は何を作ろうかなあ」
 小屋で回収した卵を台所へ持ち込み、私は明日の予定を考える。
「ぱちゅりーの生クリームが上手くいっていたら明日の晩御飯はシチューね、後で鶏絞めとかないと。失敗して甘くなったら……」
 んーと小さく呻いて私は手を叩いた。
「ババロアにするか。卵があるからありすはウフ・ア・ラ・ネージュのソースに使おう、残ったらシュークリームに入れればいいか」
 残った皮や顔側について甘くなった部分はバラして食材饅頭の餌にしよう。
「そういえば由蔵さんがそろそろ冬用に豚潰す時期だっけ?まりさとれいむは晒し餡にして由蔵さんの豚肉と交換してもらおう」
 明日は仕事も休みだし、朝から一日お菓子作りが出来るんだ。
 そう思うと明日が楽しみで仕方なかった。



 休み明けの職場、午後のお茶時。
 誰かが外部から持ち込まない限り、お茶請けは裏の工場で作られている製品か開発室の試作品。
 流石に皆饅頭には飽き飽きているようで、上司はメタボな腹を揺らしながら甘さ控えめシュークリームを絶賛している。
 誰も中身のカスタードと生クリームがゆっくりだとは気付いていない。この流通課の人にはわからないみたい。
 一人、小首をかしげているのは虐待お兄さん、職場の先輩であり虐待術の師匠でもある。流石に気付いたようで小声で話しかけてきた。
「これ、ゆっくりの中身だよな?」
「ばれましたか」
「甘くしないなんて虐待技を身につけた君らしくない調理法方だな」
「だって虐待すると甘すぎて……でもコレの餌は虐待技で甘くしてますよ?自分が美味しく食べるために手間は惜しみませんから。そうだ、来月暇あります?」
 虐待お兄さんは私からの誘いに不思議そうな顔をした。
「知り合いが豚を潰すんですよ、よかったら一緒に手伝いに行きませんか?豚を絞めるのには虐待はありませんけど、解体作業とか新しい虐待技のヒントになるかもしれませんよ?」
 しかし虐待お兄さんは首を横に振りながら苦笑する。
「俺は餡子以外の内臓には興味ないんだ」
「それは残念です」
 由蔵さんが美味しくなあれと育てた豚も、私が美味しくなあれと育てた饅頭も、どっちも同じ食べ物なのに。
「そういえば社員旅行の観光コースどうします?やっぱり秋の虐待散策コースですか?」
「そりゃ当然、君はどうする?」
「んー、幻の芋饅頭栗饅頭姉妹も気になるんですが、幻追いかけるより素直に河原で鮭ときゅうり饅頭捕まえて酒飲んでますわ」
 ちなみに河童饅頭はきゅうりの漬物が入ったおやき風の饅頭だ。
「河童饅頭にまで食欲掻き立てられるとは……」
「……饅頭に加虐心煽られる人に言われたくありません」
 こうして午後の穏やかな時間がすぎて行く。
 その後終業間際に急遽ドス饅頭と群れ饅頭が運ばれてきて伝票製作と工場への移送で残業になったが、それほど嫌な気分にはならなかった。
 工場へ送られるドス饅頭たちを見送りながら、鼻歌交じりに餡子玉を口にする。


ゆっくりはなにで出来てるの?
    What are YUKKURI made of?

 餡子 小麦粉
    Beans Paste and dough.

 不気味な何か
    And all that's eerie,

そんなこんなで出来てるわ。
    That's what YUKKURI are made of.


「……お前、また勝手に中身えぐったな?」
「いいじゃないですか、ほんの数百グラムですよ?」
 ドス饅頭の餡子は大味で美味しくないとは思った。



end

のちがき
  • 初投稿
  • お姉さんは加工所の流通課、集荷場勤務
  • 食いネタは幽々子様の専売特許だかそんなことは気にしない。
  • 餌用饅頭の加工風景は気が向いたら書いてみます
  • タイトルの元ネタは鵞鳥小母さん

  男の子は何で出来てるの?
    What are little boys made of?
  男の子は何で出来てるの?
    What are little boys made of?
   カエル カタツムリ
     Frogs and snails
   小犬の尻尾
     And puppy-dogs' tails,
  そんなこんなで出来てるさ。
    That's what little boys are made of.
  女の子は何で出来てるの?
    What are little girls made of?
  女の子は何で出来てるの?
    What are little girls made of?
   砂糖 スパイス
     Sugar and spice
   素敵な何か
     And all that's nice,
  そんなこんなで出来てるわ。
    That's what little girls arc made of.

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年05月03日 16:01