『ゆっくりの生態 都会編 ~金銀銅~』





「ゆっくりおきるよ……」

とある住宅内でゆっくりが目を覚ました。金髪のゆっくりだ。

「ゆ!……」

ごにょごにょと何か呟いている。

(わすれてたよ…きのうおにいさんはよるおそくにかえってきたよ…)

このゆっくりは飼いゆっくりである。飼い主である男は仕事で深夜に帰宅した。

(おにいさんはゆっくりおやすみだよ。だからしずかにしないとね…)

気配りができる珍しいゆっくりである。飼いゆっくりは普通起床すると

『おなかすいたよ!!ごはんにしようよ!!』

と大きな声で騒ぐ。だがこのゆっくりは声を出さず静かに"おうち"を飛び出した。

(おなかがすいたよ。たしかこのあたりにおいてあったよ)

おうちの横には何かあったときのために数回分の食事が置いてある。飼い主が何らかの都合で数日家を空けるときなどに備えてあるものだ。

(むーしゃむーしゃ、しあわせぇ)

目の前に餌が置いてあれば全部食べてしまうのがゆっくりだがこのゆっくりは非常食を何かあったとき以外手をつけなかった。

(おにいさんそうとうつかれてるんだね。ゆっくりしてね)

声を出さず行儀よく食事を終えた。普通であれば小うるさく『むーしゃむーしゃ』と声を出すし食べ散らかしも酷い。

(おさんぽにいきたいけどおにいさんがおきるまでがまんだよ)

ゆっくりはおうちに戻り時間を潰した。


数時間後…


「ごめんまりさ!!寝坊した!!」

飼い主が起床した。もうお昼近い。

「おにいさんおはよう!!だいじょうぶだよ!!つかれてるんだからもっとゆっくりしてね!」

「ご飯あげないとな」

「ごはんならたべたよ!!おにいさん!まりさおさんぽにいきたい!!」

「ああ分かった。じゃあ開けないとな」

飼い主は戸を開けた。ゆっくりはおうちの横に置いてあった帽子を被り外へ飛び出した。帽子には金色のバッジが輝いていた。

「いってくるね!!」

金バッジだからこそここまで出来たゆっくりなのである。家の中で帽子を被るのは良くないことだと家の中にいるときは帽子を脱いでいる。

別にそこまでしなくても充分行儀の良いゆっくりであるのにだ。散歩は1匹でできる。飼い主の調子が悪ければおつかいだってできる。

金バッジのゆっくりを買うのに数万円から十数万円。試験を受ければ何十倍という倍率の超難関。それだけの価値のあるゆっくりなのだ。

近年法律が改正されて金バッジを付けたゆっくりのみペットとして保護されるようになった。それ以外のゆっくりとは雲泥の差だ。

「ゆゆ~ん♪」

ゆっくり…金まりさは1匹で道を歩く。ちゃんと歩道をだ。車や自転車が通れば立ち止まり左右の安全をしてからまた歩き出す。

「ゆー!まりさ!ゆっくりしていってね!」

「ゆっくりしていってね!れいむ!おねえさん!」

途中友達のれいむとその飼い主に出会った。銀バッジを付けたれいむだ。銀バッジでも相当な知能を持っている。

ただまだ1匹で散歩できるほどではない。

「まりさちゃんは1人でお散歩?偉いわねえ」

「ありがとう。おねえさん!」

「まりさ!まりさ!こんどれいむもしけんうけるよ!!」

「ゆー!!がんばってね!!だいじょうぶ!れいむならきっとうかるよ!!」

しばし談笑したあと別れた。金まりさは近くの池を1周してから帰宅するようだ。

ゆっくりがこの世界に現れて早数年。ゆっくりを飼う人も多いがこんな平和な光景ばかりではない。

この金まりさや銀れいむのように出来たゆっくりや人間に可愛がられているゆっくりはゆっくり全体の1%にも満たないのだ。



「ゆうぅぅぅ…あかちゃんが…」

「もう…うまれちゃうね……」

2匹のゆっくりが呟いた。れいむとまりさのベーシックなペアだ。れいむの頭からは蔓が生えており赤ゆっくりが数匹実っていた。

今日にも生まれるであろう。赤ゆっくり達は幸せそうな寝顔をしている。

「ゆぴぃ…」

「ゆっくちぃ…」

寝言を立てる赤ゆっくりもいる。ここまでの描写だととても幸せな家族のようにみえる。だが……

「もう…いやだよ…ゆっぐ……ゆぅぅぅ……ぇぇぇん……」

「なかない…で…よ……でも…どうじだら…ゅぇぇぇ…ん…」

2匹がいる場所は森でもなければ山でもない。普通の住宅でもない……いや、一応人間は住んでいる場所なのだが…。ペットでは無い。

2匹は薄暗い部屋の中にいた。外から光は入ってこない。それもそのはずここは地下室。裸電球が1つ点いているだけだ。

「「ゆぶっ!!!」」

突然部屋が明るくなり誰かが入ってきた。

「え~っと…ふむ。こっちは8匹か。でこっちは…お!良くやった、10匹だ」

部屋が明るくなったので部屋の中の様子が分かるようになった。部屋の中にはたくさんの段ボール箱が置いてある。

中身は野菜や米、調味料といったものだ。元々この部屋は倉庫だったのだろう。そしてその倉庫に透明な箱が2つある。

れいむとまりさはそのうちの1つに入れられていた。もう1つの透明な箱にはありすとまりさのペアが入れられていた。

まりさとありすのペアは何やら騒いでいるが全く聞こえない。箱は防音仕様なのだろう。あと数匹の赤ゆっくりもいる。

大きさから考えるに先程生まれたばかりなのだろう。ありすはれいむと同じように頭から蔓が生え赤ゆっくりを実らせていた。

既に生まれている赤ゆっくりの姉妹だ。直生れ落ちるだろう。そして4匹に共通しているのは飾りに銅バッジを付けているということだ。

「昨日の残りが確か……」

銅バッジ…。金や銀に比べたらその質も扱いも遥かに酷い。"野良ではないゆっくり"というシルシだ。

元はといえば野良ゆっくりをペットにしたときに貰えるバッジである。知能や質は野良ゆっくりに毛が生えたぐらいだ。

その後加工所やペットショップでゲス化したゆっくりや売れ残りのグレードの低いゆっくりに付けられるようになった。

売り物としては最低のゆっくりということだ。一応銅ゆっくりも試験を受けることで銀ゆっくりや金ゆっくりになることも可能だ。

ただしほんの一部が銀ゆっくりにはなれただけで金ゆっくりになったゆっくりは今のところいない。所詮はその程度なのである。

「よーし、これで今日の材料は揃ったよ。ご苦労さん」

銅ゆっくりの用途は大体決まっている。ペット?それはありえない。

野良に毛が生えた程度、そんなものをペットにするのは余程のチャレンジャーか無知だけだ。ペットを飼いたいなら銀以上にしとけ。

大抵は虐待用か甘味製造機として購入されていく。この男もそのために購入したのだ。

「まずはこっち…」

まりさとありすが入っている箱の蓋を開けた。蓋が開いた途端中から罵声が聞こえてきた。

「ここからだせえええ!!!!!!!ゆっぐりじないでだせえええ!!!!」

「ありすのあがぢゃんがえせええ!!!!!!このいながものおおぉ!!!!!」

2匹は数日前に加工所から購入した銅ゆっくりだ。この男性は小さな居酒屋を経営している。2匹は赤ゆっくりを製造するための機械だ。

ちなみにこの部屋にいる2組のペアの他にも饅頭製造機がいる。別の部屋で鋭意製造中だ。

野良でも十分赤ゆっくりは製造できるのだが客に出す以上野良では色々と不味いのだ。

「今日も回収に来たよ。さっさとその饅頭を渡してもらおうか」

ありすはビクッと震えたがまりさはさらにヒートアップした。

「うるさいんだぜ!!!わたさないんだぜ!!!あかちゃんはまりさがまもるよ!!!」

まりさはぷくぅ~っと膨れ威嚇をする。そのまりさの後ろには赤ゆっくり達が隠れている。

「きょわいよぉ…」

「おちょうしゃんはちゅよいんだじぇ!ぴゅくぅ~」

「いにゃかもにょはしゃっしゃとでていっちぇね!」

2匹は既に2回我が子を奪われていた。いずれも生まれる前、蔓ごと持って行かれた。抵抗したが軽くあしらわれ相手にされなかった。

そのため今日こそは奪われないために蔓を揺すったりして早めに産み落としたのだ。

我が子が生れ落ちたと同時にゆっくりできない存在、つまり男のことを教え一家の大黒柱であるまりさの後ろに避難させた。

「あ…あかちゃん…ゆっくりしないではやくうまれてね!!!」

まだ生まれていない赤ゆっくりを産み落とそうとありすは蔓を揺らして早く生まれるよう催促している。

「やい!!ゆっくりしないでここからだすんだぜ!!!そうしないといたいめをみるんだぜ!!!」

「丁度良いわ…。定期的に痛めつけてあげないとな」

男は箱からまりさを自分の顔の高さまで掴み上げた。

「はなずんだぜ!!!!まりささまとしょうぶするんだぜ!!!いだいめにあいたくなかったらあやまるんだぜ!!!」

流石は銅バッジ、身の程を弁えない。

「まりさ!!そのいなかものをやっちゃってちょうだい!!」

「おちょうしゃんがんばっちぇね!!」

「おちょうしゃんにかかればいにゃかもにょなんていちころだよ!」

箱の中から歓声が聞こえる。まりさはこの家族の大黒柱。世界で一番強いと思い込んでいる。男は箱の蓋をした。

「さ~て…まりささまとやら、強いんだってな?」

「そうなんだぜ!!!だからじじいはころされちゃうんだぜ!!ころされたくなかったらどれいになるんだぜ!!」

「じゃあお前の強さとやらを試してみようか?」

男はまりさを掴みなおした。背中を掴み思いっきりまりさの顔面を今閉めたばかりの蓋に叩きつけた。

「ゆぶぎゃ!!!!!ゆぎゃああああ!!!!!いだいいいいいい!!!!」

箱の中からは声が聞こえないが歓声を上げていたありすたちの表情が変わった。潰れるまりさの顔を見て固まってしまったのだ。

「まだ1発だよ。もしかしてまりささまは弱いのかなぁ?」

「う…うるさいんだぜ!!!!こん…こんなの…い…いだぐなんが…」

「じゃあ続けて7発…」

バチン!!!

「ゆぎゃあああ!!!!」

バチン!!!

「びゅひゃああ!!!!」

バチン!!!

「ぎゅぎぇええ!!!!」

バチン!!!

「も…もうやべ…びゃっ!!!!」

バチン!!!

「い…いひゃいょ…ゆぎゃあああああ!!!!!!」

バチン!!!

「ゆるじでええええ!!!!!……びぃいいいいい!!!!」

バチン!!!

「ぶぎゃあああ!!!!!…やめでえええ!!!!」

まりさの顔面はぼろぼろだった。歯が何本か折れ餡子を少量吐き出していた。涙で顔がぐしゃぐしゃだった。

「ゆふぅ……ゆぅぅぅ……ひぃぃぃぃ………」

「よっと…」

男はまりさを床に転がした後蓋を開けた。

「きょ…きょわいよぉぉ…」

「おちょうしゃんがぁ…」

「どびょじでまげぢゃうのぉ…」

「まりちゃちにたくないよぉ…」

「ゆえぇぇぇえん…」

赤ゆっくりは母ありすにくっつき力なく泣いていた。

「わ…わたさないわよ!!!!あ…あかちゃんはぜ…ぜったいわたさないわよ!!!こ…このいなかもの!!」

ありすは力一杯叫んだ。が、声は震えている。男は無視して赤ゆっくりを回収し始めた。

「はなちてえええ!!!!!!いやじゃあああ!!!!」

「あじずのおちびぢゃんがああ!!!!がえじでええ!!!!」

「おろじでええええ!!!!!ちにちゃくにゃいよおおお!!!!」

「おろちぇええ!!!!ゆええぇえぇええん!!!!だじゅげでよおおお!!!!」

「がえじでよおおおお!!!!がえじd…ぶびぇ!!!!!」

次々と赤ゆっくりが回収されザルの中に入れられていく。

ありすは男の手に泣きついたり体当たりをしたりして抵抗したが逆に殴られてクリームを少量吐き出してしまった。

「最後の1つ」

「おろちぇえええ!!!!おろちぇええ!!!!みゃみゃあ!!!どぼじでたじゅげでぐれないのおお!!!」

「ゆっぐ…ごべんねぇ…こんな…こんないなかぼのでごべんねぇ……」

赤ゆっくりは何もできない親を呪った。ありすはただ謝り続けるしかなかった。

「おっと、忘れ物」

「ぎぃいいいい!!!ひっばらないでええ!!いだいい!!!いだいいい!!!やべでええ!!!!」

ありすの頭から生えている蔓にはまだ1匹赤ゆっくりが実っていた。蔓は赤ゆっくりの食糧に使うため男は蔓を力一杯引っ張った。

ブチッ!!!!

「ゆぎゃああああ!!!!!いだいよおお!!!あ…あじずのおでござんがあああ!!!!」

赤ゆっくりが全て生れ落ちれば蔓も自然と抜けてくれるがまだ残っていたため蔓は中々抜けない。ありすの皮ごと引っこ抜かれてしまった。

「ゆぅぅ……どぼじで…ぅ…こん…ゆっぐ……こんなの…ぅぅ……とかい…はじゃないわ…」

「毎度。あとで餌やるよ……ん?」

男の足元で何やら違和感を感じた。見れば傷だらけのまりさがぽこんぽこんと体当たりをしていた。

「がえじでね…まりさの…まりさとありすのあがぢゃんがえじでね!!ゆっ!ゆっ!ゆっ!」

「ふん」

男は片足を上げた。まりさの体当たりはかわされ男の前に転がっていった。

「ゆぶっ!!!……ゆ……か…かえじでよおおお!!!!かえじでええ!!!」

「殺さないだけありがたいと思えよ」

男はゆっくりとまりさを踏みつけた。

「いだい!!!!いだ…やべで!!!つぶざない…で…おお……お…ぼろぼろろぼぼろぼぼろぼ………」

まりさの口から餡子が溢れ出し、白目を剥いて気を失ってしまった。

餡子でまりさの顔が隠れるまで踏みつけたところで男はまりさと餡子を箱の中に戻した。

「しっかり看病しろよ。わかったな」

「は…い……わがりまじだ……」

まりさとありすの箱は蓋をされた。もう何も聞こえない。男はもう1つの箱に目をやった。こちらも既に赤ゆっくりは生まれていた。

「問題はこっちなんだよな…」

蓋を開けた。先程のペアと違い罵声は聞こえてこない。

「回収……」

「ゆぅぅぅぅぅ……」

「おちびぢゃん……ごべんね……」

「みゃみゃ?」

「おきゃあしゃんどうしたにょ?」

「おきゃあしゃんがないちぇるよ!!」

「おじさん…おちびぢゃんのごど…よろじぐね……」

れいむとまりさはあろうことか我が子を差し出してしまった。

「あ…あっそう……いいのね…」

男は拍子抜けしてしまった。

「ゆ!おしょらをとんでりゅよ!」

「やだああ!!おきゃあしゃんとはなれちゃくないよおお!!」

「ゆ~!たきゃきたきゃ~い!!」

男は黙って赤ゆっくりをザルの中へ入れていった。赤ゆっくりは遊びのつもりなのか嫌がっていなかった。

「ゆっぐ……ゆゆゆゆ……ぇぇぇぇ…ん…」

「ごめんね…れいむのおちびぢゃん…ごべんね…」

親の方はというと涙を流しながらじっと耐えていた。

「これも貰うぞ…」

男は蔓に手を伸ばした。

「どうぞ……」

「あがぢゃんに…あげでぐだざい……ゅぅぅぅぅ……」

全く抵抗しない。無理も無い、この2匹は既に1ヶ月程こんな生活をしているのだ。精神はもうズタズタだった。

「まぁ…ここいらで限界か…」

ここまで腑抜けたゆっくりであれば赤ゆっくりの製造と回収は容易い。個人で美味しくいただくなら十分だろう。

しかしこれでは赤ゆっくりが腑抜けた親の遺伝子を受け継いでしまい生きが悪くなってしまう。客には出せない。

「お前ら、ここから出たくないか?」

「「ゆ!?」」

「もう赤ん坊は作らなくていいぞ」

「ほ…ほんとう?」

「こ…ここからでられるの?」

「ああ」

「れいむ…」

「まりさ…」

「よ…よかったね…ゅぇぇえぇえぇえぇえん…」

「うん……よがっだよ…ぐずっ…」

涙を流しながら喜ぶ2匹を放置して男は部屋を出た。

「あ…もしもし……ええ。え~っと…生きのいい生意気なゆっくりを2匹ください。…はい、銅で十分です。夜ですか。わかりました」

どこかに電話した後部屋に戻り箱の蓋をしてから今夜の材料を集めて地下室を出た。台所で男は仕込みをはじめた。


十数時間後…


「ありがとうございました~!」

深夜居酒屋が閉店した。最後の客を送り出すと後片付けや饅頭製造機であるゆっくりへの餌やりをやった。

今夜も赤ゆっくりは人気だった。冷凍物よりも生まれたての方が人気なのだ。

「もっと赤ゆっくりを量産するかな…いや、止めとこう。生む機械の扱いに疲れそうだし。……あ!忘れてた…」

裏口に今朝頼んだ新しいゆっくりのペアを放置したままだった事を忘れていた。男は裏口を開け数時間前に届いた箱の中を覗いた。

「ゆぴぃ~ゆぴぃ~」

「ゆぅ~ゆぅ~」

注文通り銅バッジを付けたゆっくりが2匹いる。流石に深夜なので寝ていた。

「ほれ!起きろ!!」

男は箱を蹴飛ばした。

「「ゆぎゃっ!!!!!」」

2匹は飛び起きた。

「ゆ!!おじさん!れいむのすいみんをじゃましないでね!!」

「ここはどこなんだぜ!!?…ゆ!おもいだしたぜ!!!ゆっくりしないでここからだすんだぜ!!!」

「こんなせまいところはゆっくりできないね!!おじさん!れいむはおなかがすいたよ!!おかしもってきてね!!」

「そうなんだぜ!!おわびとしてあまいのもってくるんだぜ!!!」

注文通り生意気だ。男は満足そうに2匹を眺めてかられいむのもみあげとまりさのおさげを掴んだ。

「やべでね!!れいむのきれいなかみをひっぱらないでね!!!いだっ!!!!」

「やべるんだぜ!!!!いだい!!いだいい!!はなぜええええ!!!」

扱いはこのくらいで十分。男は文句を言う2匹を無視して歩き出し今朝入った地下屋のドアを開けた。

「どうかな?」

中に入り男は箱の蓋を開けた。

「こんなの…とかいはじゃないわ…」

「ひぃぃぃ……いだいんだぜ…やめるんだぜ…」

今朝痛めつけられたまりさとありすペアは悪い夢でも見ているのか涙を流しながら眠っていた。男は蓋を閉めた。

「こっちはどう?」

もう1つの箱の蓋を開けた。

「ゆ~ん」

「れいむぅ~いっぱい…ゆっくりするんだぜぇ~」

一方解放すると約束されたれいむとまりさのペアは嬉しそうな顔をして眠っていた。夢の中でゆっくりした生活を送っているのだろう。

「それっ!」

男は手に持っていたれいむとまりさ(今日届いた方)を箱の中に投げつけた。

「ゆぎゃっ!!」

「いじゃいっ!!!」

「「ゆ!!!」」

眠っていたれいむとまりさ(解放される方)は急な来訪者にびっくりして目を覚ました。

「ややこしいかなぁ…」

男はれいむとまりさ(解放される方)を掴むと部屋から出て行ってしまった。

「やい!!!なにするんだぜ!!!さっさとここからだすんだ……」

「れいむにひどいことしないでね!!!ゆっくりしないでここからだ……」

新たに箱に入れられた2匹の声は蓋を閉めると聞こえなくなった。


「ゆぅ~ゆっくりしないでおそとにだしてね!」

「れいむぅ~あとすこしのしんぼうなんだぜ。いっぱいゆっくりするんだぜ」

今朝の死んだような顔はどこへやら。男の手の中で2匹はニコニコしていた。

「そら…ここが今日からお前らの仕事場だ」

「ゆー!!!…ゆ?」

「こ…ここはどこなんだぜ……」

2匹が連れられたのは机やTVやらが置いてある部屋だった。

「ゆ…ゆ…くささんは?つちさんがないよ…」

「ここがおそと…?なんかちがうきがするんだぜ…」

「そりゃそうさ。ここは俺の部屋。今日からここでお前らは仕事するんだよ」

「し…しごとって?」

「なにするんだぜ…も…もうあかちゃんは…」

「こうするんだよ」

男はれいむを押さえつけ殴り始めた。

「ゆぎゃああああ!!!いだい!!やべでええ!!!」

「な…なにずるんだぜええ!!!れいむをはなずんだぜえええ!!!!」

急な展開にまりさは驚きつつも男に体当たりを喰らわせた。

「ったくあの老い耄れが!!!!さっさとくたばっちまえよ!!」

接客業というのはどうもストレスが溜まる。嫌な客でも愛想良く接しておかないとこちらが食えなくなってしまう。

「いだいよおおお!!!やべでよおお!!!ぎゃああああ!!!!」

「れ…でいぶうううう!!!!!やべでえええ!!!!じんじゃうよおおお!!!」

「あぁ?テメエさっきから何突っ掛かってきてんだよ!!!」

「ゆぎゃっ!!!!…ぶびぇ!!!」

男はまりさを掴むと壁に投げつけた。勢い良く壁に激突したまりさはズルズルッと壁に餡子を塗りたくりながら落ちていった。

「いいいいい……いだいよおお!!!!どぼじでごんなごどずるのおおお!!!」

「ああああああ!!!!なぁに汚してるんだよ!?この饅頭がっ!!!」

こればっかりは男のせいでもあるのだが…。男はターゲットをまりさに変え壁際でぐったりと倒れこんだまりさに近づいた。

「こ…ごないでええ!!!!ごないでえええ!!!!」

まりさは泣きじゃくりながら後退りした。が、3歩も歩かぬうちに壁にピタッとくっついてしまった。

「ま…まりざぁ…お…おそど…ぉそどぉ……」

れいむは力無く呻く。所々皮が破けており中身の餡子が見えていた。

「そういやテメエ誰かに似てんなぁ……前々から思ってたけどよ………あぁ…思い出したわ…」

男はまりさを鷲掴みにするとじっと顔を見つめた。

「ご…ごわいよぉ………まりざ…なにも…じでないよぉ……」

男はまりさの帽子を叩き落とした。

「こうするとそっくりだなぁ。あの女とよぉ……。この野郎っ!!!」

「ぶびゅぎゃっ!!!!!!!!!」

男はまりさの顔面を思いっきり壁に打ち付けた。何回も何回も。

「テメエの不始末のせいでっ!!!!こっちはよっ!!クビにっ!!!なったんだよっ!!!!このっ!!!!このっ!!!」

「ぶあっ!!!!びゃっ!!!ぎゃっ!!!!いだっ!!!!ぎゅえっ!!!!」

「や…やべでぇ…まりざ…ばりさが…じんじゃうよ……おねがいd…びゅっ!!!!!あっ…ぶむっぶうう…」

れいむが男の足に縋り付いて止めようと嘆願したが男はれいむを踏み潰しまりさへの暴行を止めなかった。

「はぁ…はぁ…はぁ……んぁ…おっと…死んでねえだろうなぁ…」

男は我に返りまりさのおさげを掴んでぶら下げた。

「……ゅ……ゅ……っ…ゅ……」

まだ生きていた。生きているといっても時折餡子を口から垂らしながら呻いていた。このままでは直死ぬだろう。

「へへ…連れの方はどうよ…」

男は下を見た。

「……ぶ…む…ゅ…っ…びぇっ……」

こちらも虫の息だ。このままでは死んでしまう。

「ありがてぇ…まだ生きてやがるよ。いいぜ…これから毎日…可愛がってやるからよ…」

男はまりさとれいむが取りあえず生きていることを確認すると水槽を部屋に運び込みまりさとれいむを投げ入れた。

応急処置で砂糖と水を2匹の顎くらいの高さまでぶち込んでおいた。これならば数日で元通りだ。

「可愛がってやるさ。そうだな…餌も上等のもんにしてやるよ…残飯な。人間様と同じものが食えるなんて幸せだな。ありがたく思えよ」

男は軽く壁を拭いてからベットに倒れこみそのまま眠りこけた。

一方まりさとれいむは水槽の中でぐったりとしていた。砂糖水が体内の餡子を浸し傷口が徐々に回復していく。

(ど…じ……で……な…め…に…あう……の)

(おそ………に……で…だ…よ……ゆ……り…た……)

(で……ぶ……)

(……さ……)

当分声が出るほど体力は無いだろう。だが2匹の餡子は同じ砂糖水に浸されているせいかテレパシーのような効果があったようだ。

2匹の想いは砂糖水を介して共有されている。2匹は徐々に近づきあい夜が明ける前になってピッタリと寄り添うことができた。

2匹は頬と頬がくっ付いてるのを感じ取り漸く安堵の思いをした。

(まりさぁ……)

(れいむぅ……)

この地獄のような日々がいつまで続くのだろうか?一体いつになったらお外に出られるのであろうか?ゆっくりしたい……。

大好きな歌を歌うことがまたできるのだろうか?子供と一緒にすりすr……いや、考えるのはよそう…。

2匹は思考を止めた。考えることを止めた。そしてそっと目を閉じた。


「ほれ!さっさと起きろ!!」

「「ひぃっ!!……」」

「今日もちゃぁんと可愛がってやるぜ…」

「「ゆ…ゆ…ゆ……………」」

まだ地獄は始まったばかりだ…。この2匹に限ったことではない。銅バッジをつけたゆっくりは殆どがこんな扱いだ。

逆に銀バッジ以上のゆっくりは飼い主と平和に暮らしていけることが多いという。

時たまゆっくりがゲス化して関係が悪くなったり銀や金バッジの善良なゆっくりを虐待するのが大好きな人もいるというが。



「う~~~ん……」

最初の場面に戻ろう。あの金まりさを外に出した後飼い主である男は庭で伸びをしていた。

「あー……またやってるわ。怒り過ぎてて声が漏れてるのに気づいてないのか……」

近所にゆっくりを購入した女性がいる。最近その女性がゆっくりを叱りづける声が聞こえるのだ。


「何度言ったら分かるの!!!!?」

「ゆぴいいぃぃ!!!いだい!!!やめで!!いだいよおぉぉ!!!」

「まったく!!!何が銀バッジよ!?こんなんだったら銅バッジのでも買えばよかったわ!!!」

「ゆええぇえぇえん!!!!!いだいよおおぉ!!!ゆぎゃっ!!!」

少し言い過ぎである。このゆっくりは正真正銘銀バッジレベルのゆっくりだ。

「あの店員騙したわね!!!!何が癒しよ!!言うこと聞かないばかりか部屋滅茶苦茶にして!!!!いくらしたと思ってんのよ!!!」

元々この女性は仕事でストレスが溜まっており癒しを求めてゆっくりを購入したのだ。最近ゆっくりを癒しのために購入する人が多い。

ただこの女性が間違っていたのは癒しに向かないまりさ種を購入していたことだ。まりさ種はゆっくりの中でも活発でわんぱくだ。

ぱちゅりー種のようなおとなしいゆっくりの方が癒しに向いている。

「ごわいよおおぉぉ!!ごべんなざい!!ごべんなざい!!ゆるじでええぇ!!ゆびゃっ!!!ただがないで!!いだいよおぉ!!!」

「この!!!!この!!!!」

「ゆぎゃああぁぁあああぁ!!!!!!おべべが!!!まりざのおべべがああああ!!」

女性の拳が目にクリーンヒットした。まりさの目は潰れ中身がどろっと溢れ出した。

「みえないよ…みえないよおおぉぉ!!!おべべが!!!ごわいよおお!!まっぐらだよお!!!ゆわああぁあぁああん!!!!」

「うるさい!!!!」

女性の平手が飛んだ。

「いだい!!!!どぼじで…ばりざは…おへやを…ゆっぐりできるようにじだだげなのにいぃ……」

「どこがゆっくりよ!!お米は散らかってるし花瓶は割れてるし土だらけだし…ああああああ!!!滅茶苦茶にしただけでしょ!!!」

「ゆぎゃっ!!!!!もうやべで…ゆるじでよぉ…」

ゆっくりは時たま部屋を自分なりに"こーでぃねーと"することがある。特にありす種に多い。大抵は部屋を滅茶苦茶にしてしまうだけだが。

金ゆっくりでも人間の感性に合った"こーでぃねーと"はできない。ゆっくりにとっては善意だろうが人間にとっては迷惑この上ない。

「ゆええぇぇえぇん……ゆっぐ…ええぇぇぇえぇん……」

「何度目よ…これで何度目よ…」

実はこのまりさが部屋を滅茶苦茶にしたのがこれで3度目だった。最初は飼われた当初、お近づきの印に。

まりさの親はありすとまりさであった。母ありすはまりさに色々なことを教えた。そのうちの1つが"こーでぃねーと"だった。

『とかいはなこーでぃねーとをするとにんげんさんとなかよくなれるのよ!』

この母ありす、TVの影響で"こーでぃねーと"すると人間は喜ぶと思い込んでいたようだ。

『おかあさんがたくみのわざをみせてあげるわ!』

まりさは今がその時だと母ありすから教わった通りに"こーでぃねーと"した。結局は部屋を滅茶苦茶にしただけだった。

だが女性はこの時は我慢した。にっこりと笑って優しく注意をしただけだった。これがいけなかった。まりさは誤解をしてしまったのだ。

『ゆゆ~ん。おねえさんがわらってくれたよ!おかあさんのいったとおりだよ!ゆっくりできるね!』

2度目は先週、仕事で酷く疲れた飼い主さんをゆっくりさせてあげようと。そして今日が3度目だ。先週女性は烈火の如く怒った。

仕事で酷く疲れ帰宅してから今度は部屋の片付け。まりさは気絶するまで殴られた。

『ゆぅ…どうしたらおねえさんはゆっくりしてくれるんだろう……?』

まりさは傷が癒えてからずっと考えていた。そして昨夜1つの結論に辿り着いた。

『ゆ!わかったよ!むーしゃむーしゃだよ!』

見渡す限り美味しい食べ物があればゆっくりできると考えたようだ。つまり家中を食べ物で埋め尽くしてしまえばいいと考えたのだ。

ゆっくりらしい考えではあるが……相手は人間だ。いや、それ以前の問題だろう。"こーでぃねーと"自体が間違ってるのだから。

あともう1つ、こういったわんぱく饅頭は放し飼いにしてはならない。

『ゆいしょ!ゆんしょ!…ゆふふふ…おねえさんがよろこんでくれるといいな』

リビングや廊下に野菜やお米や色んな食べ物を撒き散らした。

『ゆ~おはなさんもゆっくりできるんだよ!』

鉢植えや花瓶の花までも撒き散らした。花瓶と鉢植えは倒され破片や土が飛び散った。

『このごはんさんもおいしいよ!おねえさんにもわけてあげる!』

ゆっくりの餌であるゆっくりフードを袋から出しリビングに撒き散らした。

『おねえさん…ゆっくりしないでおきてきてね!』

まりさは飼い主が起きてくるのを待ち続けた。まりさの頭の中に浮かぶのは喜んでくれる飼い主の顔だけだった。

『な…何よ…これ…』

『ゆ!おねえさん!ゆっくりしていってね!!』

『あなたね…またやったのね……』


後は地獄だった。先週よりも殴られた。気絶しても覚醒するまで殴られた。目も片方潰された…。

「ごめんなさい…ごべんなさい……」

まりさは謝り続けていた。

「もう…我慢の限界よ…」

女性はまりさをむんずと掴むと台所へ向かった。

「いだい!!かみのげさんをひっぱだないでよぉぉ!!!」

「何よこれ!!台所も滅茶苦茶じゃないの!!!!」

「ゆぴいいい!!!いだいよおお!!!」

女性の手に力が篭った。まりさの頭に爪が食い込んだ。

「もうあんたなんかペットじゃないわ!!」

「ゆえええぇえぇん!!!どぼじでぞんなごどいうのおぉ!!!」

女性はガスの火をつけフライパンを置いた。油を敷きフライパンからジュウゥゥっと音がしたところでまりさに悪寒が走った。

「お…おねえさ……ゆ!だべだよ!!あんよはやがないで!!!あんよやかれぢゃったらゆっくりできないよおおぉ!!!」

「勘がいいのねぇ…」

女性はまりさがフライパンを良く見えるように持ち上げた。

「いやだ!!!!いやだあああ!!!!!ゆっぐりじようよ!!!!あづいのはゆっぐりできないよおお!!」

「私はあんたといるとゆっくりできないのよ!!!」

女性はまりさをフライパンの上に載せた。

「ゆぎゃああああああ!!!!!!!!だずげでえええええ!!!!!!!!!!あづいよおおおおお!!!!」

ジュウゥゥゥゥゥっと饅頭が焼ける音がする。

「五月蝿い!!!…そうだわ…こうしてやればいいのよ!」

まりさを持ち上げると今度は口がフライパンに触れるように押し付けた。

「やべっ!!!!やべでええぇ!!!ゆびゅじゃゆあうあああああひゃあばやああばあばああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

まりさは泣き叫んだが容赦なくフライパンに押し付けられた。口は焼かれあまりの熱さに絶叫したが直に声がでなくなってしまった。

「……びゅぅ……ゆ…びゅ……ぅ……ぅ…ゅ…ゅ…ぅ……」

かろうじて声がでるようだが口は原形を留めておらず真っ黒に焦げている。ゆっくりは意外に丈夫でありこの程度では死なない。

「…ゅ……ゅ…ひ………ひぇ……」

片目は先程潰され残った目から涙を流しながら飼い主に呻いた。

「ふふふふ……そうよ…そうだったのよ…」

「ゅ………びゅ…ぅ…ひゅ……」

「ストレスが溜まったからって別に癒す必要なんか無かったのよ……まだあるじゃない……」

「ゅ…ゅ…ぅ…びゅ……」

「さっきから五月蝿い!!」

「ぶひゅぅゅ………」

まりさに平手が飛んだ。女性の手に餡子がこびり付いた。餡子を舐めながら女性は呟いた。

「こういうのも悪くないわ……何だ…初めっからこうすればよかったわ」

「………ゅ…………」

息も絶え絶えのまりさの目に映ったのは優しい飼い主さんではなかった。飼い主さんに良く似た悪魔だった。

「ぅ…………」

もう声も出ない。

「虐待……ね。案外良いじゃない」

また1人虐待お姉さんが誕生してしまった……。

実はペットとして飼っていた人が躾に手こずっているうちに虐待に目覚めてしまうことがあるという。


「ん?声が止んだな。お仕置きが終わったのか」

男は呟いた。

「なんかさっき断末魔みたいなのが聞こえたけど……多b…」

「ただいま!!!まりさかえってきたよ!!」

「おう、おかえり。足拭かないとな」

「あんよさんきれいにしてね!」

散歩を終えた金まりさは底部を拭いてもらい家の中へ入った。

なお数日後この辺りでまたゆっくりの叫び声が聞こえるようになるがそれはまた別のお話。





また会う日まで




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最終更新:2022年05月03日 19:29