「ゆ゛っ…!?」
腹部に走る鋭い痛みでれいむは目を覚ました。
ふらつく頭の中を首を振ってはっきりさせておなかの子は無事かと心配そうに俯いた。
不安に苛まれる時間が数分続いたがおなかの中で確かな胎動を感じれいむはほっと胸をなでおろした。
辺りを見回すとそこは川原のようだった。
「そうだ、まりさ…!」
れいむは思い出したかのようにまりさを探し始めた。
「ゅ…ゅ…」
「まりさ!?まりさああ!」
川原を歩いていて聞こえてきたうめき声にれいむはすぐに近寄った。
そこにはリボンで繋いだ二つの帽子を大事そうに抱えて気絶しているまりさの姿があった。
「……」
その姿を見て、れいむの中に一つの疑念が沸いた。
ひょっとして、まりさはれいむのことを帽子から落として自分だけ助かろうとしたのではないか。
れいむの良心が生涯の伴侶をそんな風に疑うのは罪深いことだと訴え、れいむはその考えを心の奥にしまうことにした。
とにかく今はまりさを起こすことが大切であるとれいむの理性は主張した。
れいむはその理性に従う、しかし心の底でそれはそれまでの不満と結びつき
れいむの中に黒い影を残した。
「ゆ…ゆっくりあさだよ!ゆっくりおきてねまりさ!」
「ゅ…ゅ~ん…れ、れいむ…」
れいむに体を揺すられてまりさはゆっくりと目を覚ました。
起き上がって辺りをくるくると見回し、れいむに向き合うと満面の笑顔でれいむに擦り寄った。
「やったぜれいむ!」
「ゆ?なにがやったのまりさ?」
れいむは困惑しながらまりさのほお擦りのやわらかさを享受した。
「よくみるんだぜれいむ!」
まりさに言われてれいむは辺りを再び見回した。
れいむ達が流されてきた小川は太陽の光を照り返して輝き、優しくせせらいで居る。
太陽の光はは包み込むようにれいむ達の濡れた体を乾かしてくれて周りは緑に溢れ
向うの丘にはきれいでおいしそうな花が咲き乱れていた。
そこは噂に聞く永夜緩居に間違いなかった。
「ゆ!やったねまりさ!これでべいびーといっしょにゆっくりくらせるよ!」
「ゆっくりしほうだいだぜ!」
二匹はさっきまで言い争っていたことも忘れて目的の場所に無事たどり着いた喜びを体をもっちもちと擦り合せて表現しあった。
二匹の頭の中には輝かしいゆっくりした未来が展開していた、その内容には二匹の間で微妙に齟齬があったが。
浮かれた二匹は悦びに身を任せて粘液をぬるぬると分泌させながらまた交尾を始めた。
まりさは口に空気をためてぷぅ、と膨らませると顎の辺りを硬くしてれいむを後ろから何度もぷにぷにと押し揉んだ。
背中が押し込まれるたびにれいむはむふぅむふぅと息を吐きながら切なそうに目を細めた。
「ゆ゛っ!?」
二匹が愛の交わりを続けている最中に、れいむのおなかの中に鋭い痛みが走った。
「だ、だいじょうぶかだぜ?」
まりさは心配そうにれいむの背中を擦る。
「ゆぅ…ちょっとべいびーがうごいただけだよ、ゆっくりあんしんしてね」
まりさはそう聞いて安心して、ほっと胸をなでおろすと自分の体を見て言った。
「ゆふぅ…ねちょねちょだぜ…」
「ゆ~このままじゃはずかしいよ…」
「ゆ!あそこでからだをあらえばいいんだぜ!」
まりさは顎で川の方を示すとれいむのリボンを甘噛みしてひっぱっていった。
れいむもいやいやをしながらもまんざらでもない様子でまりさにひっついて行く。
「ゆ!ちべたいよまりさ!」
ぴちゃぴちゃと水しぶきをあげながら浅瀬を歩いて体についた餡子汁を洗い流した。
適度に冷たい水がとても気持ちよかった。
比較的足の着くあたりなら歩き回るまりさと違い、れいむは陸のすぐ傍で軽く遊びながらまりさのことを眺めていた。
その時、鋭い悲鳴がれいむの耳を劈いた。
「ま、まりさ…!?」
「い゛だいん゛だぜええええええええ!!!!」
まりさは水場でバシャバシャと水しぶきを上げながらもがいていた。
れいむはまりさが溺れたに違いないと思ってすぐにかけより、髪を咥えて河原へと引っ張っていった。
「まりさ!だいじょう…びゅうううううううう!?」
まりさの体が水から完全に引き上げられてかられいむは後ろを振り向き、その姿を見て絶叫した。
頭には水蟷螂が食いついて餡子の汁をじゅるじゅると吸い上げ、顎にはヤゴが数匹喰らいついて皮を食い千切っている。
タガメは鎌の付いた足をまりさの弾力のある頬にがっちりと食い込ませながらまりさの産道に頭を突っ込んで体液を吸っていた。
足の裏にはびっしりとマツモ虫が張り付きまりさに噛み付いていた。
れいむは今までこのまりさを口に咥えていたことに激しい嘔吐感を覚えた。
「ごないでえええええええええええ!!!!」
れいむは後ろを振り向くと一目散にまりさから逃げ出した。
「お゛い゛て゛か゛な゛い゛でだぜえええええ!?」
逃げ出すれいむをまりさもぼろぼろになりながらも追いかけた。
幸い、殆ど水からあがっていたため水中の虫たちの追撃は甘かった。
それでも歩くたびに足の裏に付いたマツモ虫がぶちゃりと潰れる音を立てながら傷口に食い込んで激しい不快感を覚えたし
産道はタガメにガバガバの傷だらけにされた上に体液を吸われ皺だらけになっていた。
顎の辺りはヤゴに食い千切られた傷口から餡子が零れ落ち、水蟷螂に吸われた頭の傷口がズキズキと痛んだ。
それでもまりさはれいむのことを必死に追いかけた。
走りながられいむは気が付いてしまった。
ここはゆっくりの楽園などではなく虫たちにとっての楽園だということに。
さっきからずっと飛んで走っていて何度も何度も虫たちを踏み潰した。
狙って踏んだのでもないし偶然でもない。
走れる場所の殆どに虫が住んでいるだけなのだ。
この場所は虫に満ちていた。
ただ何故かまりさに襲い掛かったように虫たちがれいむに襲い掛かることはなかった。
それでもれいむは恐怖でがむしゃらに走った。
息が切れるほど走ってきて、腹中の鋭い痛みに足を止める。
胎内でもぞもぞと子どもが動いていた。
ぜえぜえと息を切らしながら辺りを見回すと目の前に
ゆっくりにとってはそれなりに高い崖のような段差があった。
人間でも手を伸ばしてやっと上れるといった高さの場所だ。
下には百足や蟷螂などの危険な虫たちが跋扈していたが上ってこれそうには無い。
辺りにはひとまず危険な虫は居ない。
お腹の子どもがひょっとしたら安全な場所に連れてきてくれたのかとれいむはちょっと笑顔がこぼれた。
「ま゛っで!ま゛っでええ!ゆっぐりじでいぐんだぜえええ!!」
れいむがほっと胸をなでおろしているとボロボロになったまりさがこちらへと走ってきていた。
れいむはそのみすぼらしい姿を見てぎょっとした。
れいむは自分が愛したまりさはこんなに薄汚くないと心中で毒づいた。
れいむにはボロボロになったまりさはそれまでの雄雄しさとは裏腹に一回りも二回りも小さく見えた。
まりさは水からあがった時以上にボロボロで、道中で虫に襲われながらも辛うじて逃げ切ったのがわかった。
れいむに追いついたまりさはボロボロで餡子まみれの顔を突きつけながらいった。
「ひ゛ど、ひ゛ど…」
れいむは酷いとでもほざいたらこの汚らしいゆっくりをどうしてくれようかなどと考えた。
「ひ゛どりでうごいだらあぶないんだぜぇ…!むじ、むじざんがあああ!!!」
まりさはかなり酷く混乱しながらもれいむのことを心配していた。
まりさも他のゆっくりならすぐに見捨てて逃げ出しただろうがこのれいむだけはまりさにとって別だった。
「れ゛いむ゛!ぽん゛ぽん゛のあがぢゃんだい゛じょう゛ぶだぜ!?」
「ゆ!?べいびーにちかよらないでね!」
れいむは赤ちゃんの居る大事なお腹に汚い顔をくっつけようとするまりさをさっと避けた。
その拍子にまりさは崖の下に落ちかけた。
なんとか淵に体を引っ掛けて耐えるも一人ではとても上がれそうに無い微妙なバランスだった。
「なにをずるどれ゛いむ゛!?ぢゃんどだずげるんだぜぇ!?」
れいむはそのまりさのみすぼらしい姿を見下ろした。
まりさ自慢のまむまむもぺにぺにも虫達に傷つけられぐちゃぐちゃになってしまい
小さかった。
それほど体積が変わったというわけでもないだろう。
しかしれいむにはまりさの姿はとても小さく見えた。
その姿のまりさにれいむはなんの魅力も感じられなかった。
「まりさをたすけてれいむになんのめりっとがあるの?」
「ゆ゛!?だに゛をいっでるんだぜ!?ま゛りざはいっがのだいごぐばぢらなんだぜ!?」
れいむの思いがけない質問にまりさは目を白黒させた。
「もってくるごはんよりじぶんでたべるごはんのほうがおおいくせに?
それでだいこくばしらとかなんなの?ばかなの?しぬの?」
まりさに対して冷静で冷徹にれいむは語りかけた。
れいむは前々からいっそ一人で生活した方がまだなんとか食べていけると考えていた。
「どおぢでごんなごどいうんだぜえええええ!?」
まりさは訳もわからず必死に落ちないようにしがみつきながら泣き喚いた。
れいむは度重なるストレスでこれまでのまりさとの結婚生活への不満が爆発していた。
「だってそんなきたないまりさとはれいむもべいびーもいっしょにゆっくりできないよ
まむまむもぺにぺにつかえないまりさになんのみりょくもかんじないよ」
その言葉にまりさは狂乱した。
「れ゛い゛む゛ば!れ゛い゛む゛ばぞんだごどい゛ばないいいいいいい!!!!!!!」
まりさは叫んだ。
喉が張り裂けるのではないかと思うほど叫んだ。
流石にれいむもこの狂乱ぶりには驚いた。
「な、なにをいってるの?じゃあれいむはなんていえばいいの!?」
まりさは自分の命が比喩でなくがけっぷちなことさえ忘れて叫んだ。
「でい゛ぶば!でい゛ぶばまむまむもぺにぺにもなぐでぼま゛り゛ざのごどあいじでぐれでるはずなんだぜえええ!!!」
まりさの目から餡子がぼとぼとと零れた。
まりさの中でれいむと出逢った時のことが走馬灯の様に現れては消え現れては消えた。
れいむはあるゆっくり一家の箱入りゆっくり娘だった。
まりさにとってはどうでもいい存在だったが食料だけは大量に溜め込んでいたので
落し易そうなれいむを手篭めにして搾り取ってやろうとまりさは考え
苦労してれいむを連れ出して親に隠れてそこら中を遊びまわり、あまつさえこっそりとスッキリーした。
これで後はゆっくりと誑し込めばれいむの家の食料は自分のものだとまりさが思ったときれいむは言った。
「まりさはゆっくりしててやさしいね」
「ゆ!?どどどどういうことだぜ?!べつにまりさはやさしくなんかないんだぜ!?」
まりさは面食らった。
れいむの家を食いつぶそうとしている自分がどう優しいというのかまりさにはわからなかった。
まりさは産まれてこの方顔とまむまむとぺにぺに以外の物をほめられた事等皆無だった。
「ずっとおうちでゆっくりしてるだけだったれいむにいろんなことおしえてくれてすごくうれしかったよ!
れいむがおそとにでたいっておもってたからまりさがつれだしてくれたんだよね、おかあさんにおこられるかもしれないのに
れいむのためにこんなことしてくれるまりさはぜったいぜったいやさしいよ!」
「ゆ、ゆぅ~~!?」
まりさは顔を真っ赤にして頭から湯気を出した。
胸の奥が熱くて熱くてどうにかなってしまいそうになった。
「れいむ、まりさのことやさしくてゆっくりしてるからだ~いすき!」
「ゆっぐりいいいいいいいいん!!!!」
まりさ、この年にして初めての恋であった。
この後、れいむを孕ませてれいむのお母さんにボコボコにされながらも更正を誓い二匹の結婚を認めてもらったのであった。
「でい゛ぶばや゛ざじいま゛りざがずぎだがらぞんばごどいうばずだいんだぜえええ!!!」
まりさを見下ろしながられいむは思った。
ああ、若気の至りでそんなことも言ったなと。
実際のところは単に箱入り娘だったれいむが他にうまいほめ言葉を知らなかっただけだ。
本当はれいむもまりさのまむまむとぺにぺにがもたらす快楽に夢中でそれを箱入り娘なりの汚れてない語彙で褒めた結果なんだかああなった。
れいむは結婚してからまりさが優しいと感じたことなど一度もなかった。
それどころかまりさの不甲斐なさと身勝手な振る舞いに何度将来を不安に感じ
夜、枕(巣の中の少し土が盛り上がった部分)を涙で濡らした事だろうか。
結局のところまりさにとってれいむは自分も都合のいいゆっくりだったんだと思った。
体以外の部分をまりさに求めて自尊心を満たしてくれる都合のいいゆっくりだ。
もはやれいむにまりさを助ける理由は無い。
「そんなのおくちからでまかせいっただけだよ!れいむだってまりさのまむまむとぺにぺにがすきだったんだよ!
まむまむもぺにぺにもないごみくずはゆっくりできないからしんでね!!!!」
「ぱぴぷぺぽおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!???!!!?!?!?」
まりさは急激にあの時胸に灯った熱い火が消えて、心が冷えていくのを感じた。
まりさは結局自分がまむまむとぺにぺにだけのゆっくりなのだと絶望した。
「で…でい…ぶ…」
「ゆっくりはなしかけないでね!!」
れいむはまりさが汚い呪詛をかけてきたのならすぐに下に叩き落してやろうと身構えた。
「でいぶどま゛りざのあがぢゃん…だいじにずるんだぜええええええええ!!!!」
「ゆ!?」
まりさは自ら崖の下へと落ちていった。
初恋の火が消えて心が死ぬ前に、肉体の死を選んだのだ。
まりさは最後の最後で自分の恋に殉じた。
「…!」
まりさの言葉に呆然としていたれいむは、そのまりさの落下音と共にはっと意識を取り戻した。
「ゆぎぃいいいいいいいいいい!?!!!!!!!」
崖下を見ると、既に傷だらけで餡子を垂れ流していたまりさの体にたくさんの虫たちが傷口から入り込んで餡子を貪ろうとしていた。
直に肉体を抉られていく痛みに、死を覚悟したまりさも悲鳴を上げざるをえなかった。
カミキリムシが皮を食い破り、ミミズがにょろにょろと体を弛ませて傷口から侵入していった。
余りに凄惨な光景にれいむは目をそむけた。
「ぎぃいぃぃっぃぃぃいぃっぃぃぃぃぃ…………………………」
やがて、まりさの悲鳴が聞こえなくなったころ、やっとれいむは顔を上げた。
れいむとまりさの二匹の生活は終わった。
まだ震えが止まらないが、れいむはお腹の赤ちゃんの為に生き残ることを考えなくてはならないと自分を奮い立たせた。
「ゆ…がんばってにげるよ…!」
行きの様に突っ走ればなんとか虫たちを振り切れるはずだ。
そしてここのような虫達に襲われ無いゆっくりプレイスで休憩するのを繰り返せばこの永夜緩居から脱出出来るはずだ。
群れに戻ったら、お母さんに謝って冬の間の食料だけはなんとかしてもらって、その後はお腹の中のべいびーと一緒に二匹で暮らそう。
そしてそのうちいい人が見つかればまた結婚すればいい、まだれいむは若いのだ。
まりさとは生涯伴侶として添い遂げることを誓ったがそんなことは今更関係ない。
そうれいむは考えた。
考えと覚悟が決まれば、子を持つゆっくりの行動は早かった。
「ゆっくりいいいいいいいい!!!」
ぷよぉん、と音を響かせて飛び出すとわき目も振らずに森の中を突っ走った。
虫たちは襲ってこなかった。
れいむはきっと自分が早すぎて気付いたときには通りすぎているからだろうと思った。
「ゆ!いけるよ!ゆっくりできるよ!」
れいむはここから生還することへの確かな手ごたえを感じた。
その時、れいむのお腹がズキリと痛んだ。
「ゆ!?べ、べいびーが…ま、まだゆっぐりじででねえええええ!!!」
激しい胎動の痛みがれいむを襲う。
れいむは焦った。
今出産すれば二匹とも間違いなく虫の餌だろう。
仮に出産できても赤ちゃんを連れて逃げ切るのは難しい。
絶対に今産むわけにはいかなかった。
しかしそんな想いとは裏腹にお腹の子どもは外へ出ようとするのをやめなかった。
「べいびーはまだぽんぽんのながでゆっぐりじでええええええええ!!!」
れいむは半狂乱で泣き叫んだ。
「あ、こんなところに居たのね」
少女の小さな手がれいむに触れると、れいむは優しく抱きかかえた。
「ゆ?」
その少女に触れられると、不思議なことにれいむのお腹から痛みが引いて行った。
「おねえさんだれ?ゆっくりできるひと?」
れいむは上を向いて少女の顔を見ながら話しかけた。
「こんなところで子どもを産もうとしたらだめじゃない
もっといい場所紹介してあげるからゆっくり産みなさい」
その少女の申し出はれいむにとってまさに天の助けだった。
「ゆ!?ほんと!?れいむのかわいいべいびーとゆっくりできる!?」
「そうね、ゆっくりしていってもらうわね」
れいむはその少女に感謝してその腕の中で久々に思う存分ゆっくりした。
れいむは完全に少女を信じきっていた。
母としての狡猾さが芽生え始めてもやはりれいむは人のいい素直で騙され易いゆっくりだった。
「ここで産むといいわよ」
そこは蔦の絡まる洞窟だった。
じめじめしててうめき声みたいな風の音がするし思ったよりいいところでは無いが
不思議なことにどんなに奥に行ってもやさしい明かりに満ちていた。
「ゆ!がんばってかわいいべいびーをうむよ!」
「期待してるわね」
そう言うと少女はれいむを地面に下ろしてれいむに蔦を絡めはじめた。
「ゆ゛!?いたいよ!なにをするの!?ゆっくりやめてね!!!」
れいむは少女の行為に憤りをあらわにして抗議した。
「赤ちゃんを産むときの痛みで暴れられて赤ちゃんが潰れたりしたら嫌じゃない
だから動けないように固定してるの」
少女はさもありなんといった風に答えた。
なるほどとれいむは納得し、少女のなすがままに縛られた。
やがて、再びお腹の子が動き始めて鋭い痛みにれいむは顔を歪めた。
「ゆっゆっふー!ゆっゆっふー!」
「その調子よ!がんばって!」
もぞもぞとした胎動を感じながられいむは必死に踏ん張った。
初めての出産は不安だったが少女が見守っていてくれることがとても心強かった。
やがて、うぞうぞと産道を通り、後少しで子どもが出てくるところまで来た。
そして遂に、れいむは産み落とした。
れいむはその達成感に静かに目を瞑り涙を流した。
「やったわ!見て見てかわいい赤ちゃんがこんなにいっぱい!」
れいむは少女の歓声を嬉しく思うと同時に違和感を感じた。
「…いっぱい…?」
通常、ゆっくりの産道を通しての出産は数匹程度で産道を通して一匹ずつ産み落とされる。
れいむはまだ一度しか産道を子どもが通ったのを感じていない。
だというのに少女はいっぱい、と言った。
れいむは違和感に耐え切れずにそっと目を開けた。
れいむが目を開けると子どもを産み落としたはずの場所にたくさんの白い幼虫がモゾモゾと蠢いていた。
「ゆ゛っぐぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛!?」
「うわぁびっくりした、急に大きな声出さないでよね」
れいむの絶叫に対して少女はただ眉をしかめて咎めるだけだった。
「でい゛ぶ!でい゛ぶのがわ゛い゛い゛べい゛びーばどごおおおおおお!!?!?」
「ここよここ、ほらこんなに一杯産まれたわよ」
狂乱するれいむに対して少女は嬉しそうに白い芋虫のような幼虫を指差した。
「ぢがうううう!!!ごんだどでい゛ぶのべい゛びーじゃだいどおおおおおおお!!!!」
「ひぇぇ、酷い言い草
ちゃんとあなたのお腹の中で育ったかわいい赤ちゃんよ
まあ卵を産んだのは他の虫たちだから借り腹の子どもって奴ね
でもあなたが頑張って産んだ子どもなんだからかわいいでしょ?」
そう言って少女はかわいらしくわらいながら優しく指で幼虫達を撫でた。
「がわいぐないいい!!!でい゛ぶ!でい゛ぶのべい゛びい゛い゛い゛い゛!!!!」
「ああ元々居た赤ちゃん?さっき通りがかりのクワガタに聞いたら河原で気絶してる間に
卵を産み落としておいたみたいだからそっからゆっくりこの子達がお腹の中で食べちゃったんでしょうね
たったそれだけの時間でこれだけ大きくなったのよこの子達
すごいでしょ?私の能力で無理させてるのももちろん有るけど
栄養豊富なゆっくりを苗床にするからこんなことが出来るのよ
出産のタイミングは私がある程度自由に指示できるから脅して私達の手伝いをしてもらったりもするんだけど
最近は気付かないままそのまま放して帰っていく最中に子どもを産んでもらったりもするわ
そうするとここの虫たちの生息範囲が労せずして広がっていくってわけよ
まああんまり遅らせすぎるとお腹の中でそのまんま成虫になっちゃって…」
少女は楽しそうに自分の行っている行為の成果を話しているがれいむはそれどころではなかった。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
最愛の子どもと思ってお腹の中の『ソレ』と語らっていた時間を思い出してれいむは絶叫した。
餡子を嘔吐感と共に口から吐き出した。
下にぶちまけられたその餡子に幼虫達が群がる。
その様子を見てれいむは自らの恐ろしい行く末を悟った。
「だずげでえ!!!おでがいでずでい゛ぶをだずげでぐだざいいいい!!!!」
「駄目駄目、これからあなたはこの子達の滋養となってもらうんだから」
頭でわかっていても否定したかった事実を突きつけられてれいむはガタガタと震えだした。
「や゛べ、や゛べでよおおお!!!ゆっぐりでぎだい!でい゛ぶお゛がざんだがらだべぢゃだべだんだよ゛おお!!!」
アレだけおぞましいと感じていた幼虫達に対してなりふり構わず母として呼びかけた。
「虫の世界ではよくあることよ」
あっさりと言ってのけて少女は立ち上がるときびすを返して洞窟の外へと歩いていった。
その少女の後姿を見て初めて洞窟の中が何故明るかったのかれいむは気付いた。
少女の背中は優しく光り輝いていた。
その光が、れいむの周りに拘束されていた他のゆっくり達の姿を照らした。
洞窟の風の音のようなうめき声を上げながら
隣のゆっくりまりさは頭が半分抉れてもう半分にはびっしりと白い幼虫達が詰って蠢いていた。
反対にはゆっくりちぇんが目玉から蛆虫を零していた。
その奥ではゆっくりみょんが顎の下から虫達に侵入されて薄ら笑いを浮かべていた。
「ま゛っで!ま゛っでよ゛お゛お゛!お゛い゛でがな゛い゛でえ゛え゛え゛!!
だずげで!だれがだずげで!ま゛り゛ざ!だずげでよ゛お゛お゛お゛お゛!
ま゛り゛ざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
群がる虫達に埋もれながられいむが呼んだ今は無き伴侶の名が洞窟に木霊した。
結局二匹は誓い道りに生涯の伴侶として短い生を添い遂げることになった。
永夜緩居― 第三話[胎動]
最終更新:2022年05月03日 18:32