(研究者の日記)
―○月1日
やっと念願の研究施設を手に入れた。エンジニアの河童は、私のリクエストに完璧に応えてくれた。
今までは研究室のケージで飼っていたゆっくりに刺激を与え、反応を観察するだけだった。
だが河童が造ってくれた、あらゆる環境を再現できるゆっくり飼育用ドームのお陰で
より自然状態に近いゆっくりにあらゆる気象条件を体験させる事ができる様になった。
ゆっくりは自然環境の変化に適応できるのだろうか?
どの様な手段を以て変化に対応するのだろうか?知力の向上?身体的な変化?
ゆっくりに種としての進化があるとすれば、それはどんなものになるのだろうか?
人語を理解し、人に似た思考をする事もあるゆっくり。
ゆっくりの進化を研究することによって、万物の霊長を自称する人類の進化の軌跡に迫る。
私の永遠の研究テーマである人類の進化。このドームによって研究成果は飛躍的に向上するだろう。
とは言うものの、まず最初にしなければいけないのは気象再現装置の操作法の習熟だ。
かなり大規模な物でもあり、そもそもこのドームを利用した観察方法もまだ確立されていない。
これからの数日はドーム内に色々な天候を再現してみることに専念するつもりだ。
―○月2日
今日は『晴れ』を試してみる。照りつける太陽の光と熱は、ゆっくりに何をもたらすのだろうか。
以下その記録。
穏やかな春の日差し。長い冬を越えたゆっくりに生の喜びを実感させる。
彼女たちがもっとも好むものだろう。
「ゆ~~~~~~~。」
「あたたかいね!とてもゆっくりできるよ!」
「ぽかぽかー!」
日差しを強めてみる。灼熱の真夏の太陽。
「あああ~!あじゅい~~~~!これじゃゆっくりできないよ!」
「たいようさん!まりさはあついのはきらいだよ!もっとゆっくりしてね!!!」
「ゆ?なんだかおかしいよ。れいむのかわがちゃいろくなってきた!」
「もきゅ!ぱちゅりーはしってるよ!それは『ひやけ』っていうんだよ!」
「こんがりー!」
「ゆ!かゆいよ!だれかれいむのせなかをかいてね!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!れ゛いむのかわがむけて゛る゛う゛う゛う゛!!!」
「あ゛あ゛あ゛!!!れ゛い゛む゛の゛な゛か゛み゛か゛て゛ち゛ゃう゛う゛う゛!!!!」
更に出力を上げる。
「あづいっ!あづいっ!!あしが、あしがやけち゛ゃう゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!!」
「いそいで!あかちゃんたちははやくおかあさんのくちのなかにはいってね!!!」
「からだが・・・あついよ・・・だれか・・・だれかたすk・・・」
更にアップ。
「あかちゃんたち・・・ごめんね・・・おかあさん・・・もうだm・・・」
「あ゛あ゛あ゛!!!!おがあざあああん!!!だして!だして!あづいよおおおおお!!!!!」
「あづいっ!!!だれかっ!!!だすげでっ!!!ここからだしてえ゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
ゆっくりがすべて死んだので今日はここまで。環境を元に戻し、新しいゆっくりを入れ明日に備える。
―○月3日
今日は『雨』を試してみる。自分達の天敵である水に対し、ゆっくりはどんな反応を示すのか。
以下その記録。
音もたてず降り続く霧雨。人間と違いゆっくりは雨に対し風情を感じない。
彼女たちのもっとも嫌うものだろう。
「ゆ~。ぜんぜんやまないね。みんなこかげにかくれてね。」
「ゆっくりできないよ!」
「じめじめー!」
雨脚を強めてみる。やむ気配の無い長雨。
「あああ~!もういやだあ~~~~!これじゃゆっくりできないよ!」
「いいかげんにしてよね!まりさはあめがきらいだよ!もっとゆっくりさせてね!!!」
「ゆ?なんだかおかしいよ。れいむのかわがみどりになってきた!」
「もきゅ!ぱちゅりーはしってるよ!それは『かび』っていうんだよ!」
「かびかびー!」
「わあ!きもちわるい!きもちわるいれいむはあっちいってね!」
「どうじでそんな゛ごどい゛う゛の゛お゛お゛お゛お゛!!!!!」
「きもちわるいれいむはあめにうたれてしね!!!」
更に出力を上げる。
「あ゛あ゛あ゛!みずたまりがっ!!あしが、あしがとけち゛ゃう゛う゛う゛う゛!!!」
「いそいで!あかちゃんたちははやくおかあさんのくちのなかにはいってね!!!」
「からだが・・・とけるよ・・・だれか・・・だれかたすk・・・」
更にアップ。
「あかちゃんたち・・・ごめんね・・・おかあさん・・・もうだm・・・」
「あ゛あ゛あ゛!!!!おがあざあああん!!!いやだ!いやだ!しんじゃやだあああああ!!!!!」
「みずがっ!!!だれかっ!!!だすげでっ!!!とけちゃうよ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
ゆっくりがすべて溶けたので今日はここまで。雨を止め排水し、新しいゆっくりを入れ明日に備える。
―○月4日
今日は『雪』『霰』『雹』を試してみる。普段見る事の無い天候に、ゆっくりは何ができるのか。
以下その記録。
しんしんと降り積もる雪。越冬の失敗はゆっくりの絶対なる死を意味する。
巣に逃げる事ができない彼女たちを待つものは死だけだろう。
「ゆぅぅぅぅぅ・・・さ、さむいぃぃぃぃ。」
「さむいよ!ぜんぜんゆっくりできないよ!」
「ひえひえー!」
降雪量を増やし風も強くしてみる。すべてを飲み込む真冬の吹雪。
「あああ・・・さむい・・・ねむくなってきたよ・・・」
「いいかげんにしてよね!まりさはゆきがきらいだよ!もっとゆっくりさせてね!!!」
「ゆ?なんだかおかしいよ。れいむのからだがかたくなってきた!」
「もきゅ!ぱちゅりーはしってるよ!それは『こおり』っていうんだよ!」
「かちかちー!」
「あああ!れいむがうごかなくなっちゃった!へんじをして!へんじをしてれいむ!!!」
「あ。あったかそうなおふとんがある。きょうはここでねるよ・・・おやすみ・・・」
「からだが・・・うごかないよ・・・だれか・・・だれかたすk・・・」
吹雪を止め霰を降らす。
「いだいっ!いだいっ!!かわが、かわがやぶけち゛ゃう゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!!」
「いそいで!あかちゃんたちははやくおかあさんのくちのなかにはいってね!!!」
「あ゛あ゛あ゛!!!も゛っと゛ゆ゛っく゛り゛し゛た゛い゛い゛い゛い゛!!!!!」
次は雹。
「あかちゃんたち。だいじょうぶだよ!おかあさんがかならずまもrゆぶぎゃあああ!!!!」
「あ゛あ゛あ゛!!!!おがあざあああん!!!だして!だして!つぶれちゃうよおおおおお!!!!!」
「つぶれるっ!!!だれかっ!!!だすげでっ!!!ここからだしてえ゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛!!!し゛に゛た゛く゛nゆぶべっ!!!!!!」
ゆっくりがすべて潰れたので今日はここまで。雹を止め雪を溶かし、新しいゆっくりを入れ明日に備える。
(研究者の独白)
ようやく操作にも慣れてきた。これからはもっとゆっくり観察を進めよう。
別にゆっくりを殺すのが目的な訳では無い。徐々に変化していく生活環境、
ゆっくりがそれにどう順応していくか調べるのが目的だ。
焦る必要は無い。進化とは元々ゆっくりと進んでいくものだ。
数十年、数百年の時を超え、何十代、何百代と続くうちゆっくりにも変化が現れる筈だ。
それをじっくりと待てばいい。なにせ私の寿命は私の研究対象よりも遥かに長いのだから。
end
最終更新:2022年05月04日 22:44