注)イライラの続きです(作者は別の方です)



 「で、ゆっくりに家を乗っ取られたお前はすごすごと逃げてきたと。」
ここは里の広場。
殆どの成年男子が農業従事者である関係からか、日が落ちてから仕事の疲れを癒しに少年からお爺さんまでの男子が集まっていた。
ある者は屋台で仕事の後の一杯に人生の幸せをかみ締め、別の者はテーブルで男子の友人の間に特有の「くだらない」話で盛り上がっていたりする。

この日、外の世界出身の者共通の貧弱な肉体にムチ打って農作業を終えた俺は、こちらでできた同年代の友人たちと、何時ものようにダベっていた。
話下手な俺が、彼らにとっては異世界の物語である外の世界を話して(確か、外の世界の人間はどうやって移動するかだった)いると、
共通の友人である青年がこちらへ暗い顔をしてやってきたのだった。

その青年は普段は明るい人柄だったのだが、まるでこの世の終わりのような顔をして、
(死人みたいな顔とは思わなかった。この年代の男子は死人と聞くと、西行寺幽々子のあの美しい顔を条件反射的に思い浮かべてしまうからだ。)
フラフラと村の入り口から歩いてきたので、何事かと思ったわれわれは早速自分たちのテーブルへと呼び寄せた。

一人が青年の為に酒を注文するため席を立ち、そこに青年を座らせる。
「オイ、元気が無いじゃないか。まさか異変の兆候でも見つけたのか?」
この中では唯一世帯持ちの男が質問をすると、青年は彼の身に起こった事、正確には彼の家に起こった事を話し始めた。


ここで話は冒頭の俺のセリフへと戻る。
青年の話にも一応理は通っている。幻想郷の自動車化されていない農作業は良く鍛えられた男子にもつらい物なので、
普段なら30秒で血祭りならぬ餡祭りにできるゆっくりに対処できないのも致し方ない。
そこで、とにかく体力を回復させて、できれば仲間も誘ってゆっくりに対応しようとこちらへやって来た訳だ。

農作業の後でも体力が有り余っている部類の友人たちが、青年に「情けない」とかいう類の言葉を掛けているのを聞きながら、俺は対処方法を検討し始めた。



結局、一番アテになりそうな体力の有り余る連中は、嫁や彼女の相手をしなければならないとかいう話で帰ってしまった。
お前もそのうち分かるなどと言われたため、複雑な気分になりつつも青年と残りの友人達と作戦を立てる為我が家に向かった。

ゆっくりが元気なうちに襲撃を掛けると、撃退できても家具がボロボロ、うるさくて近所迷惑という事になるのは想像に難くない。
よって、襲撃時刻はゆっくりが寝静まる午前0時とされた。
体力が幾分か回復したとはいえ格闘武器を全力で振り回せる状況ではないので、獲物は私の家にいくつか置いてある遊戯銃とする。

香霖堂で仕入れたこれは、「外」でサバイバルゲームなどに使用される物だが(店主は「模擬戦に使うようだね」と言っていた。)
饅頭や大福の薄く柔らかい皮なら難なく貫ける威力を持っている。
外の世界の機械ということで、技術フェチの河童たちが調整してくれたそれはかなり強化されており、ゆっくり程度なら一撃での撃破も可能と思われた。
青年には一番に突入して溜飲を下げてもらうため、アサルトカービンの電動ガンを渡した。
他の友人3人のうち2人に短機関銃を渡し、もう1人にエアーコッキング式スナイパーライフルを渡す。
最後に俺が余ったライフルを持って飛び道具は終わりだ。
さらに顔面保護用のつや消しゴーグルを全員に、刃物はろくに持っていないので友人の中で一番元気な奴に銃剣を渡した。
本来なら衣服も目立たないようにしたいところだが、忍者でもないのに黒装束を持っている奇特な奴はおらず、
農作業用の目立たない色合いなので衣服はそのままとした。

これで装備は完了、状況確認用の双眼鏡など必要な小物を用意して、うち合わせに入った。
俺が双眼鏡で状況を確認した後、青年と短機関銃の友人計3人が突入し、残りが適宜援護するという形になった。
饅頭相手に真剣に作戦を立てたことをバカバカしく思いつつ、準備完了した我々は青年の家へ向かった。



人気の少なくなった広場を通り、里をほぼ横断する形で小一時間歩いた我々は、家を見渡せる位置の茂みに身を隠した。
ゆっくりが大量に蚊を食べたおかげで痒くならないことに感謝しつつ、双眼鏡で家の様子を確認する。
物理的には地続きの外の世界から、どうやっているのか掠め取った電力が里には供給されており、青年の家の電灯は煌々と縁側を照らしていた。
まてよ…何故明かりがついている?
「家に帰ったとき明かりはつけたのか?」
「いや…つけてない筈だ…」
白熱灯は電力をバカみたいに食うので、ここの人間は必要最小限しか使っていない。
つまり、ゆっくりどもが何の分別も無しに電力を使っているという事になる。
おまけに明かりがついていることからまだ起きていると考えられた。
少々計画を変更しなければならないようだ。



食料がおいてある場所や睡眠できる広い部屋に近い勝手口から突入することにしたが、まず最初の障害に対処しなければならなかった。
戸の横で残飯を一心不乱に漁っているゆっくり霊夢が邪魔なのだ。
この紅白饅頭を始末するため、俺がまず接触することになった。
怪しげなライフルとゴーグルは友人に預けて、いかにも散歩の途中でたまたま立ち寄りましたという顔をして近づいていく。
注意をこちらに引くため、自ら話しかけた。
「やあゆっくり霊夢じゃないか、ゆっくりお食事中かい?」
「ゆっ!?おじさんもゆっくりするの?」
ゆっくりという単語を聞くと本能的に警戒を解いてしまう事を利用して近づいていく。
「いっしょにゆっくりたべようね!」
「悪いがさっきご飯を食べたからおなか一杯なんだ。」
「じゃあいっしょにゆっくりする?」
「いいね、ゆっくり待ってるから、食べ終わったら一緒にゆっくりしようね。」
ありきたりなゆっくりを騙す会話を行いつつ、ゆっくりと家の窓との間に移動した。
これで後ろから接近する友人の影には気付けなくなったわけだ。
伸びをするふりをしつつ、両手で大きな円を茂みの中でも見えるように形作った。
「う~ん、今日は疲れたなあ。」
「いっしょにゆっくりするとつかれないよ!!」
極力、ゆっくりだけを見るようにして友人が接近するまで時間を稼ぐ。
ゆっくりとの話題は互いの友人関係に及んだ。
「それでね!まりさがね!」
「うん、そーかそーか。いい友達だね。」
ゆっくりのすぐ後ろに到達した友人が、銃剣を右手でふり上げ、左手をゆっくりの口を塞ぐ体制にする。
「僕にも気の会う友人が何人かいてね。息をぴったり合わせて何かを達成すると楽しいぜ、たとえば…」
話の続きを聞こうとしたゆっくりの口が突然塞がれる!
「ん゛ー!ん゛ぅ゛ぅー!」
「こんな風に連携すると最高だね。」
何が起きたか分からないという顔のゆっくりに、友人が銃剣を上から突き刺し一気に絶命させた。
餡子がわずかに飛び散る。

銃剣を引き抜いた友人が両手で円をつくると、茂みから出てきた3人が音も無く近づいてきた。
スナイパーライフルの友人には勝手口の中を射撃できる位置に移動してもらった。
他の4人は勝手口の左右の壁に2人ずつぴったりとくっついた。
突入前に、一番近くの窓を音を立てぬようにわずかに開けた。
台所の食品を勝手気ままに貪る音と声が聞こえた。
青年のほうを見るとこちらに頷いてきた、声の様子からすると一家族のゆっくりが宴会中のようだ。

俺は懐から花火のような物体を取り出し、点火して窓の隙間に放り込んだ。
珍しく里に来ていた因幡てゐに「大勢で遊ぶととても楽しいウサ」とか言われ貰った花火は、その大きさからは考えられない量の煙を発生させ始めた。
強烈な閃光の方を期待していたんだがなと思いつつ、ゆっくりの注意が煙によって霧散したのを見計らって突入する。
「GO!GO!GO!」
一番近い場所のゆっくりにエアガンを向けて一斉に発射。
アルミニウムの缶なら容易く貫く速度の球が10匹ほどのゆっくりに殺到し、表面から餡を噴き出す塊への変化を強制させた。
「Clear!」
台所のゆっくりを殲滅した我々は互いに目配せをする。
「こんなもんじゃあなかったはずだ。俺が追い出された後、家に入っていったゆっくりの家族は確か3つだ。」
今殲滅したのはゆっくり霊夢の一家なので、あと2つの家族と仲良し3匹が残っていることになる。
どうやら先に寝てしまったようだ。早寝早起きは三文の得とはよく言ったものだ。
外の友人には、ゆっくりが居ると思われる座敷に外から打ち込める位置へと移動してもらった。

さらに、二つにふすまで仕切られた座敷へと同時に突入するため、片手の指を二本立て(ちょうどピースサインの形だ)つぎに板張りの廊下の奥にあるふすまを指差した。
これで一つの部屋に2人突入することになる。
4人が担当のふすまの左右にそれぞれ位置したことを確認した俺は、三本立てた指を一本ずつ折り突入タイミングを合わせた。

最後の一本を折ると同時に、突入の合図を出す。
「GO!GO!GO!」
こちらが突入した座敷には、ゆっくり魔理沙の一家と仲良し三匹のうちのゆっくりパチュリーがいた。
今の大声で寝ぼけ眼をこちらに向け始めたゆっくりに向かって、隣の友人は引き金を引き弾幕をバラまいた。
俺の持っているライフルはM1ガーランドのモデルなので、こういう大量に弾を発射したいときに向かない。
仕方ないので友人の標的になっていないゆっくり魔理沙に突撃した。
まずは小ジャンプをおこなって、左足と右足で別々のゆっくり魔理沙を同時に着地、踏みつけて潰した。
「ふ゛ゆ゛っ゛!」などという悲鳴とも、餡が吹き出る音ともつかない音が聞こえた。
配管工が冒険するゲームなら100点と400点の表示が同時に出るだろうなぁと思いつつ、「な゛に゛す゛るの゛お゛おお!!」と悲鳴を上げてる母魔理沙に一発蹴りを入れた。

ぐったりしている母魔理沙を放置して、残りのかわいそうなぐらい震えている子ゆっくりを踏みつけようとしたその時、青年の「オラァ!」という怒声が隣から聞こえると同時に、
小豆色の物体がふすまを破って飛来し壁に激突した。
自分の家だからとかなり派手に暴れているようだ。
こりゃこちらも負けていられんぞと思っていると、突然その青年は「射撃中止!射撃中止!」と言い出した。

踏みつけるつもりだった子ゆっくりを適当につかんで隣の部屋へ行ってみると、青年の方のチームがゆっくり霊夢の子供を床の間へ追い詰めていた。
何をするつもりか聞いてみると、どうもこのゆっくりを加工所に売って家の修理代にするつもりらしい。
「は゛や゛くは゛なし゛て゛ぇ!」
手に持っているゆっくり魔理沙が騒ぎ出したので、お友達と仲良くできるよう床の間に全力投球してあげた。
ゆっくり霊夢と衝突したゆっくり魔理沙は餡子を少し飛び散らせつつバウンドして着地した。
「おい、せっかくの獲物をダメにしないでくれよ。」
口調は怒っているが口元はゆがんでいる青年。
「ちょっとかごか何か探してくるからその饅頭が逃げないように見張っててくれ。」
そう言ってこの家の主人たる青年は部屋から出て行ってしまった。
すっかり青年が元気になってよかったと顔を見合わせる俺たち。

暫く饅頭を見張っていたが、半殺し状態の母魔理沙のことを思い出し、その場を2人に任せて隣の部屋へ戻ろうとして振り返った。
視界に入ってきたモゾモゾ動く物体がいきなりこちらを向いたかと思うと、
「ゆっくりできないからおうちかえる!」などと言って母でないゆっくり魔理沙が逃げ出した。
餡子がはみ出ているゆっくり霊夢や全身穴だらけのゆっくりパチュリーもそれについて逃げ出していた。
逃げ切れると思って調子に乗り出したゆっくり魔理沙が、家と外の区切りをジャンプで飛び越えつつ「ゆっくりしんでね!」と声を上げた瞬間、物凄い勢いで家の中に吹き飛び壁に叩き付けられた。
あまりに突然だったので俺も逃げているゆっくり2匹も硬直してしまった。
「見ろよ、派手にふっとんだぜ。ハハハ。」
そう言って現れたのはスナイパーライフルを持った友人、彼が仕留めてくれたのだ。

その後、青年が持ってきたカゴに子供のゆっくりを押し込んでやった。
逃げ出そうとした霊夢とパチュリーは見逃してやる。
これだけ恐怖を与えれば、覚えていなくてもここに来たくはならないだろうという見込みのもとで。



部屋中に飛び散った餡子や皮の始末に夜が明けるまでかかり、そのあと加工所まで青い顔でカゴを持っていった。
青年は修理代を確保した後、かなり余ったから分けてくれと結構な大金を渡してきた。
その大金を4人で分け合った後、いい加減その場で倒れて寝てしまいそうだったが、俺は全員分の装備を抱えて何とか家に帰った。



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最終更新:2025年02月11日 21:55