注・続き物です。
洞窟に侵入してどれ程が経っただろうか。
群れの周辺の地理に詳しいまりさは、勿論の事この洞窟の事も知っており大体の作りも覚えていた。
ゆっくりの脳では普通そこまでの情報を記憶する事など出来ないのだが、
狩りの経験が豊富で群れを率いる責任感が強かったまりさはそういった普通のゆっくりには無いものを兼ね備えていた。
出来るならここをゆっくりの集会場か何かにしようと前々から考えていたのだ。
なので、れいむが居るであろう場所も大体の目星は付いていた。
出来るだけ敵のゆっくりに会わずにまりさはその場所へと向かう。
随分と進むと、最初に出会ったみょんと同じ様にゆっくりの見張りが居る。
れいむ種、しかも群れに昔から居た元同胞だ。
「ゆぅ…ゆぅ……」
どうやらうたた寝でもしているのか。
まりさの元にまで寝息が聞こえてくる。
出来るなら戦いたくなど無い。
まりさはそう考え、うとうとと頭を揺らすれいむに気付かれないように、ゆっくりとその脇を通過しようとする。
「そろーり、そろーり」
優秀なゆっくりであるまりさであるが、生物としての本能にも近い癖は抜け切らないのか。
こんな場面にも拘らず、自らの口で出さなくても言い音を出してすりすりと動き出す。
「そろーり、そろーり」
れいむの横から奥への通路へと差掛かろうとした時、突然れいむの「すや…すや……」という寝息が止まったかと思うと、
「ゆっ、そこにだれかいるの?」
と言う声が聞こえてきた。
まりさは心臓が飛び出すような感覚に陥り、その場で少し跳ね上がったりもしたが、
その洞窟の余りの暗さ故に、れいむはそれが元群れの長であったまりさだと気付いてはいないようだった。
「ゆゆ、じつはまりさは……はくれいむさまにたのまれて、このおくのれいむにようがあるんだよ」
「ゆぅ、そうなの。なんだかわからないけどたいへんね。ゆっくりがんばってね。」
「うん、ゆっくりがんばるよ。れいむもゆっくりしていってね」
「れいむはここでゆっくりするよ…すやすや……」
見張りである筈のれいむであるが、そこまで思考能力も高くないゆっくりな上、
寝起きであった事も合わさり全くまりさを疑う事も無く再び眠りに付く。
まりさの心中にはその場をやり切れた安心感と合わせて、そんな暢気なれいむに対して幾ばくかの怒りを感じていた。
自分があれだけ苦心して群れの皆を守ってきたと思ったのに、反乱を起こした者の部下としてこんなにゆっくりしているなんて。
妻であるれいむは敵に捕らわれ、どれ程酷い目に合わされているか。
そう思うと、眼の前のれいむをゆっくり出来なくさせてやりたい衝動に駆られた。
だが、このれいむにも家族は居るのであろう。
はくれいむの戦力に成す術も無くやられてしまった自分にも落ち度が有ったかも知れない。
まりさはそう思うことにして怒りを抑えて、先へと進む事にした。
更に暫く進むと其処には柵のようなものが掛かっており、まりさは其処にれいむが居ると確信した。
居ても経ってもいられなくなり、すぐさま駆け出す。
幸いな事に見張りなども無く、その柵の前まで辿り着くとまりさは中を覗き込む事が出来た。
人間の使う炎。
それをはくれいむは松明というものに移らせて扱う事が出来るらしい。
丁度、その柵の前にも一つ掲げられていたので、まりさは薄ぼんやりでは有るが中を確認することが出来た。
中にはれいむと思しき丸い球体が一つ存在している。
「ゆっ、そこにいるのはだれなの?まりさのいばしょならきくだけむだだよ、ゆっくりどこかにいってね」
「ちがうよれいむ。まりさだよ、ゆっくりたすけにきたんだよ」
「ゆっ、まり……さ!?」
そんなやり取りを交わした後、れいむはまりさの近くへと跳ね寄る。
まりさはれいむが正面を向かずに少し右斜めを向いて立っているのに若干の違和感を覚えたが、
松明の照らす明かりの中ではっきりとその顔を確認した後、顔に笑顔を浮かばせる。
すると次第に、嬉しい筈にも関わらずその目尻から涙が溢れ出す。
「ま……ま"り"ざぁぁぁぁぁ」
「でい"ぶぅぅぅぅ」
溢れ出る感情のまま大声で喜び合いたい二匹であったが、ここは未だ危険な場所であるのを理解して努めて小声でお互いの名前を呼び合った。
頬をすりすりとしようと更にれいむが近寄るが、二匹を隔てる柵に阻まれてそれは出来ない。
少し悲しそうな顔をしたれいむに、まりさは「だいじょうぶだよ」というと、外側からついたてになっている棒を外し、その柵の扉を開ける。
ゆっくりの作り出す牢屋だけに鍵などは無く、そういった手間が省けたのはこの二匹にとって幸いであろう。
「まりさぁ、まりさだ……たすけにきてくれたんだねぇ」
「あたりまえだよ、れいむ。あいするれいむを、まりさがみすてるはずないんだぜ」
そう言ってれいむがすりすりと頬擦りをし、まりさもそれに応える。
ふと、まりさは不思議な感触に顔をしかめる。
以前のれいむだったらもっともちもちして弾力のある肌をしていた筈なのに、この感触はざらざらとして湿気を感じさせない。
それに先ほどから、れいむの動きもどこかぎこちなかった。
まりさは数秒頬を合わせた後、薄暗い中でそのれいむの姿を眼を凝らして眺めてみる。
「ゆうぅ!!?」
音を立ててはいけないと思いつつも、まりさは思わず短い悲鳴をあげてしまう。
そのれいむの姿――以前は群れ一番と言っても過言でなかった美ゆっくりの姿は其処には無く。
髪は半分焼け縮れてボサボサとなり、頭に付いているリボンとにしても、もうほとんど原型を留めずに申し訳程度に頭の上に乗っているといった具合だ。
全身には暴行の後がはっきりと見て取れたし、今この時も頭の後ろには二、三本が痛々しく突き刺さったままだ。
何よりその顔の所々は焦げというのも遥かに超え、黒々と炭のようになっている部分がある。
特に右頬に至っては大部分が炭化し、れいむの笑顔もぎこちなく引き攣っている。
まりさが最初に顔を見せた時、れいむが正面を向かなかったのはこのせいだろう。
無意識の内に、夫であるまりさにその醜くなった部分を見せまいと振舞っていたのだ。
「ごめんね、まりさ…こんなになっちゃった……」
れいむの眼から、ポロリと大粒の涙が零れる。
「まりさ、れいむのこときらいになっちゃったよね?こんなゆっくりできないすがたになっちゃったんだもの」
そう呟くと、れいむは更に涙を零して眼を伏せる。
まりさが助けに来てくれたのは嬉しいが、もうこんな姿になってしまっては一緒にゆっくり出来ない。
そう考えると、れいむの心は哀しみで一杯になった。
すると、そんなれいむにまりさは静かに歩み寄ると、再びその頬に自らの頬をすり合わせる。
「そんなわけないぜ。まりさはれいむだからすきになったんだ。どんなすがたになってもそれはかわらないよ」
「でも、まりさ。まりさだったら、いくらでもれいむとはべつのゆっくりできることいっしょになれるよ?」
「れいむ……それいじょういったらまりさもおこるんだぜ。」
「ゆぅぅ…ぅ!?」
まりさに怒ると言われて少し怯えた表情をしたれいむは、一転して驚愕の表情に変わる。
自分の唇にまりさが唇を重ねてきたのだ。
れいむは一瞬焦ったが、直ぐにとろんとした顔へとなり、まりさにその身を委ねる。
数秒か数十秒か判らないが、れいむとまりさにとって至福の時間が暫く流れた。
時折、「んふっぅ」や「ゆふぅぁ」などという艶めかしい嬌声が聞こえるのは、お互いの舌を絡め合わせての「でぃぃぷちゅっちゅ」を行い、
すっきりとは別の、だがそれに近い快感を感じているからであろう。
先に後ろに引いたのはまりさの方であった。
二匹の間に唾液で出来た糸が出来る。
れいむは物足りないといった顔でまりさを見詰めたが、此処から脱出しなければいけないという状況を思い出し、それを口にする事は無かった。
「わかっただろ、れいむ。まりさはれいむとだけゆっくりしたいんだよ」
「……うん」
それ以上の言葉など要らなかった。
すぐにまりさは元来た道の説明をすると、身体を痛めているれいむに「だいじょうぶ?」と心配そうな顔をしながら寄り添って進もうとした。
するとれいむはまりさから離れ、
「れいむはだいじょうぶだよ。まりさのあしでまといになりたくないから、じぶんひとりであるくね」
と言い、笑顔を見せて前へと進み始めた。
その後頭部には未だに人間の手首ほどの太さの棒が突き刺さっていたが、それを抜こうとは考えなかった。
それを安易に抜いてしまえば、中の餡子が漏れ出て、直ぐに治療出来ない環境ではれいむが死んでしまうと考えたからだ。
まりさは前を行くれいむのその姿を見て、更にその身体の中から憎しみの炎が燃え上がってくるのを感じた。
脱出するのは想像していた以上に簡単であった。
途中の見張りはあの眠っていたれいむだけであったし、潜入直後に殺したみょんの死体も未だに片付けられていなかった。
あのはくれいむにしては無防備過ぎると感じたが、自分達がそうであるように向こうも完全なゆっくりで無いのだろうと考え先へと進んだ。
そのまままりさが入り込んできた穴まで進むと、二匹はすぐさまそこから脱出しようとした。
しかし――
「どうしたのれいむ?ここから、ゆっくりでればおそとにでられるんだよ」
まりさに先に穴に入るよう言われたれいむであったが、穴に一度入ろうとして再び戻ってきたのである。
「もういちどがんばってみるね!!」
「からだがいたいだろうけど、ゆっくりいこうね」
そう言って、れいむを励ますまりさ。
それに対して笑顔で応え、再び前に進もうとしたれいむであったが、結果は同じであった。
「ゆあッ!!れいむのあたまのぼうさんがひっかかってまえにすすめないよぉ!!」
れいむが涙声でまりさに訴える。
頭に刺さった棒の一つ、頭から斜め上に生えるように伸びているそれが穴の入り口に引っ掛かって前へと進む事が出来ないのだ。
そんなれいむの状態に、まりさも顔をしかめて状況の打開策を考える。
「ねぇまりさ、まりさがれいむのあたまのぼうさんをぬきとってくれれば……」
「ゆっ!?だめだよれいむ、そんなことしたられいむのなかのあんこがもれてしんじゃうよ」
「ゆぅ、でも……」
脱出まであと少しというこんな所で足止めを喰ってしまうとは。
しかも、まりさの足手まといにならないと言ったにも関わらず、自らのせいで先に進めないという状況に陥り、
れいむの顔に影が差す。
暫く考えた後、まりさが覚悟を決めたように、
「こうなったら、しょうめんのどうくつのでぐちからだっしゅつするよ」
と言い出す。
それにはれいむもすぐに反対した。
この洞窟の奥であったからこそ警備が薄いのである。
正面から出て行っては到底逃げ切れるものではない。
自分だけが危険な目に会うだけならまだしも、助けに来てくれたまりさまで危険な目に会わせる事は出来ない。
「だったらどうすればいいのぉ!?」
「ごめんね、まりさ。せめてまりさだけでもここからおそとにでてね」
「どぼじでぞんなこというにょぉぉ!!れいむだけをおいてなんていけないよぅ!!」
れいむのその言葉に、まりさは顔をくしゃくしゃにして否定する。
互いが互いを気遣う為に、脱出への策は全くの平行線を辿るばかりであった。
そんなやり取りをしながら、時間だけが無情にも流れる。
二匹にも焦りの色は隠せない、そんな中。
「まりさ、おねがいがあるよ!!」
「おねがい?」
意を決したようにれいむがまりさに言う。
「れいむのあたまにあるぼうさんを、まりさがなかにおしこんでね!!」
「おし……こむ…!?」
れいむの思いも寄らぬ発言に、まりさは眼を丸くした。
有ろう事か、れいむの中に木の棒という異物を自分に押し込めというのだ。
それには流石のまりさも頭を左右に振って、「そんなことはできないよ!!」と涙声で拒絶するばかりであった。
「でも、それしかほうほうはないんだよ。ゆっくりりかいしてね!!」
「いやだよ、まりさはれいむにそんなことしたくないよ!!」
「まりさにしかできないんだよ!!」
「まりさはれいむをこれいじょうきずつけたくないよ!!れいむこそゆっくりりかいしてね!!」
「ゆぅ、このわからずや!!」
一向に進まぬ事に業を煮やしてか、れいむはまりさにドスンと体当たりをする。
だが、それは全く威力も無く、まりさはすこしよろけて後ろに下がるだけであった。
それでもまりさは突然のれいむの攻撃に非難の言葉を投げ掛けようと口を開こうとした。
「なにするんだよ、れい……む?」
まりさが正面を向くと、れいむはエグエグと泣き出していた。
「れいむだって……でいむだっていたいのはいやだよ。でも、まりざのあじでまどいになんでなりだぐないから……」
「ぞれにまりざのぞんななざげないずがだなんでみだぐないよ!!まりざはいづだっでがっごうよいまりざでいでほじいよ」
「れ、れいむ……」
れいむの涙ながらの訴えであった。
それに対し、まりさは少し眼を伏た後、キッと眼に力を入れれいむに近付き、
その後ろへと回り込む。
「わかったよ、れいむ。まりさがゆっくりなかへおしこむね!!」
「うん、わかってくれたんだね。ゆっくりおねがいね」
そう言って、れいむは来るであろう激痛を予想しながら、まりさに心配を掛けまいと明るい声で応えた。
まりさは「ゆーふー」と一回だけ深呼吸をすると、
れいむの中へ棒を真っ直ぐ差し込むべく一歩後ろへと下がり、空中へと飛び上がる。
そのまま前方へと飛び上がると、棒の頭をその足の下に捕らえ体重を込めて押し込んだ。
餡子の中に棒を差し入れる鈍い感触がまりさの足元へと伝わり、れいむの中へと少しだけ押し込まれて行く。
「ゆぎぃぃぃ!!!」
出来るだけ平常を保って我慢しようと思っていたれいむであったが、思わず呻き声が漏れる。
その後、棒を押し込み倒れ込むように地面へと落ちたまりさがすぐさまれいむへと駆け寄る。
れいむは激痛に身を悶えながら地面を転がっていた。
「ゆがっ、ゆぐぐぐぐぅ!!」
「ゆあぁぁ!!でいむ、でいぶぅ!!ごめんね、まりさがもっとゆっくりおしこめたらこんなにいたいおもいしなかったのに!!」
「ぎぎぎ、ゆ…ぅ……だいじょう、ぶだよ。でいぶ、ごんなのぜんぜんいだぐなんでないがら」
心配するまりさにれいむは、口から餡子が流れ出るのも構わずに笑顔を見せる。
そんな気丈なれいむの姿に、このれいむは本当に強くてゆっくり出来る最愛のゆっくりだと改めて確信し、
必ず守り抜いていこうと心に誓った。
「ゆ…ぐぅ、ま、まりざ……ここから、ゆっぐりおぞどにでようね」
「うん、ゆっくりでようね!!かぞくのもとにかえろうね!!」
よろよろと横穴に近寄るれいむにまりさは力強く応えた。
その横穴は普通でも大人のゆっくりであれば窮屈で身体を岩肌に擦り付け、
全身に切り傷が出来てしまう程の狭さである。
それを頭の棒を中に押し込んだからといって、相当な深手を負っているれいむには厳しいものがあった。
途中何度も岩肌に肌を擦り付ける痛みに耐えられずれいむの動きが止まり、
酷い時には「ゆぎっ!!ゆぐぅ!!」と呻きながらビクビクと痙攣し出すときもあった。
そんな時何度も、まりさは後ろから「がんばってね!!もうすこしだよ!!」や「うごきをとめないでね、れいむ!!まりさをおいてゆっくりしないでね!!」
と、後ろかられいむを励まし続けた。
まりさが進入した時より遥かに時間が掛かった。
そんな正にゆっくりとした脱出であったが、とうとう眼の前に外の月明かりであろう光が見え始めた。
「れいむ、もうすこしだよ!!もうすこしでおそとでゆっくりできるよ!!」
「ゆっ、ゆっ、ゆっぐじぃぃぃ!!」
まりさの掛け声と共に、朦朧とした視界の中へと外の光が飛び込んでくる。
「ゆっぐりい”、まりざとゆっぐりずるよぉぉぉ!!」
「そうだよれいむ、まりさとゆっくりしようね!!」
死力を尽くして、れいむは身体を地面へと擦り付けながら前へと進む。
後ろを続くまりさの眼には、地面に広がる餡子の跡が眼に写る。
何処かの傷口が開いたのだろうか?
それとも、苦しさの余り餡子を吐き出してしまっているのだろうか?
それでも前へと進むれいむの姿に、まりさは流れ出る涙を抑える事が出来なかった。
その後更に10分ほどで、れいむは横穴を抜け外へと這い出る。
遅れてまりさが飛び出した時には、れいむは横穴の傍で身体を萎ませて休んでいた。
「ゆっ……れれ、れいむ、だいじょうぶ!?ゆっくりしてね!?」
眼を瞑って全く動かなくなったれいむの様子に、最悪の結末を浮かべてまりさは急いで駆け寄る。
「れいむ、でいぶぅ!!ゆっくりへんじしてね!!」
「……ゅぅ、だいじょうぶだよ、まりさ」
「ゆあぁ、よかったよれいむ!!おそとにでられたんだよ!!」
「ぅ…ん、ここですこしゆっくりしたら…おちびちゃんたちのところへ……」
「うん、うん!!みんなでゆっくりしようね!!れいむとまりさとおちびちゃんたちでゆっくりしようね!!」
そう呟いてれいむは眼を瞑った。
まりさは慌てて肌を寄せる――大丈夫、息をしている。
全くいびきもしない、まるで子供の様な深い眠りであった。
ここも未だ安全とは言い切れないが、れいむのこの状態では今の隠れ家まで移動するのは無理である。
幸い洞窟の裏手は群れの方角とは反対で、はくれいむの住処から実質山一つ分越えた辺りに位置する。
はくれいむの部下がこちらの方向に探しに来る可能性は限り無く低いだろう。
そう考え、今晩はここでゆっくりと身体を休めようとまりさはれいむにぴったりと身体を寄せた。
そうやってれいむの体温を感じておかないと、今にもれいむがいなくなってしまうような感覚に陥ってしまうからだ。
「れいむぅ……やっぱりれいむはあたたかいよ」
「ゅぅ……ゅぅ……」
「ゆっくりおやすみ、あしたもゆっくりしようね」
翌朝、眼を覚ますとまりさのその隣にはれいむの姿は無かった。
又もや最悪の状況を想像し、まりさはれいむの名前を叫ぶ。
すると近くの茂みから、
「ゆっくりしていってね!!」
という声と共に、れいむが姿を現した。
「ゆっくりしていってね……じゃないよ!!れいむのすがたがみえないから、まりさはおどろいたんだよ!!」
「ごめんねごめんね。れいむはちかくのおはなさんをゆっくりとつみにいっていたんだよ!!」
そう言ってれいむは頬袋に溜めた色とりどりの花を吐き出す。
ただ量はかなり少なかった。
炭化して硬質化した右頬のせいで多くの量を詰め込む事など出来なかったのだろう。
「すごいよれいむ!!こんなにたくさんのおはなさんをあつめられるなんて、やっぱりれいむはてんさいだね!!」
「ゆっへん、それほどでもないよ!!」
そんな事はまりさは一切気にせず、れいむが精一杯集めてくれた食事を素直に喜んだ。
れいむの状態にしても昨日から比べれば相当良くなっている。
この調子なら今日中に皆の所まで帰る事が出来るだろう。
「じゃあ、れいむ。これをゆっくりたべたらみんなのところにかえろうか」
「うん、ゆっくりたべて、ゆっくりみんなのところにかえろうね」
そう言った後、二匹は食事を始めた。
れいむは捕囚暮らしであった事は元より、愛するゆっくりと共に食事出来る事で代わり映えしない植物でもれいむは何倍にも美味しく感じた。
それはまりさも同様であった。
二匹はその味と幸せを噛み締めながら同時に「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~♪」と高らかな声をあげる。
そして食事後少しゆっくりした後、まりさとれいむは皆の待つ隠れ家へと進む事とした。
時間にして三時間程であろうか。
二匹は時折休憩を挟みながらも、それでもゆっくりしないで道中を急いだ。
「ゆっ、れいむ!!あとすこしだよ!!ゆっくりいこうね!!」
「いやだよ、まりさ!!きょうだけは、れいむはゆっくりしないでいそぐよ!!」
「ゆぅ、だったらまりさもまけてられないね!!」
二匹はそんな会話を楽しみながらピョンピョンと跳ね続ける。
もうここまで来れば追っ手が来る事は無いだろうとは思ったが、家族の事を思えば自然にその足は進むのだろう。
会話の内容にも、幾分か余裕が出てきた。
すると、そんな二匹の進む道の横にある茂みが急にガサガサと揺れ出す。
れいむはそれにビクリと身を怯ませて、すぐさままりさの後ろへと回り込む。
だが、まりさは怯える様子も無くれいむに語り掛けた。
「だいじょうぶだぜ。きっとなかまのみんながむかえにきてくれたんだ」
「ゆっ、そうなの?」
まりさのその言葉に、れいむの顔も安心の色が窺える。
二匹はそのまま、その茂みの方へと向き直ると「ゆっくりしていってね!!」と呼び掛けた。
予想通りにそこからは「ゆっくりしていってね!!」という声が返ってくる。
しかし――そこから現われたゆっくりは予想外の者達であった。
「ゆへへ、ことばどおりにゆっくりしてやるんだぜ!!」
「わかるよー♪みょんのかたきなんだねー♪ゆっくりなぶるよー♪」
この二匹は――。
「ゆぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!」
まりさの後ろでれいむが叫び声をあげる。
突然の事にまりさは驚いて後ろを振り向くと、其処にはこの世のものとは思えない恐怖に引き攣ったれいむの顔があった。
囚われの身になっていた間に受けた拷問の数々を、れいむの餡子にはしっかりと刻まれていたのだろう。
その刻まれた恐怖がフラッシュバックとなって頭を駆け巡る。
「ゆじいぃぃぃ!!いやだ、いやだよぉ!!」
「れいむ、れいむ!!おちついて!!」
それに合わせたように、ぞろぞろと他のゆっくり達も出てくる。
総勢で10は居るだろうか。
どちらにしても、こんな状況のれいむを庇って戦える筈も無い。
まりさの顔にはっきりと見て判る程に焦りの色が浮かぶ。
「こんなやつが、このまりささまよりつよいまりさなんだぜ?とてもそうはみえないんだぜ?」
口元を吊り上げ勝ち誇ったような笑みを浮かべて、はくれいむの部下であるまりさが呟く。
周りの部下達も「そうだねー」などと同意する。
「ゆあぁぁぁ、こわいよぉぉぉ!!」
「だいじょうぶだよ、れいむ!!れいむはまりさがまもるよ!!」
「まりざ、まりざぁ!!」
恐慌状態のれいむの前でまりさがプクーと頬を膨らませて相手を威嚇する。
これには敵のゆっくりも失笑を隠せない。
一対一ならまだしも、10対2。
いや、れいむのあの状態を考えれば10対2どころか10対1――足手まといと考えればそれ以上。
最早大勢は決しているのだ。
何を恐れる必要があるだろうか。
「やめでえぇぇぇぇぇ!!ごっぢごないでぇ!!」
れいむが声をあげるが、相手はそれに応える気配すら無い。
精一杯膨らむまりさを囲むように、はくれいむの部下達はにじり寄ると「ゆっくりしね!!」と叫んで一匹がまりさに飛び掛った。
最終更新:2022年05月18日 21:15