数時間団欒させた後、俺は再び部屋に踏み込んだ。

「ゆっ!!」

親れいむ共が例によって罵声を浴びせてくる。

「ちかづかないでね!!おちびちゃんたちにちかづかないでね!!
くそじじいはゆっくりしないであっちにいってねぇ!!」

いまだに屈伏しきれないのは、ひとえに子を守りたいがゆえか。

「今日はお前らに用があるんだ」

俺はそう言うと、親れいむ共を一匹ずつ取りだした。

「ゆゆっ!?」

今まで何十日も、赤ゆっくりだけを取り上げられ、なぶり殺されてきた。
しかし今日に限っては、自分たちが取り出された。
ということは。

親れいむ共がぶるぶる震えだした。

「たっぷり付き合っていってくれよ」
「ゆっゆっゆっゆっ、お、おに、おにいさ」

震えながらも、子れいむが気丈に問いかけてきた。

「あ、あか、あかちゃんはたす、たすけてね?」
「れいむが、れいむがいじめられるから、あかちゃんは、あかちゃんはゆっくりさせてね!」

れいむ共が揃って懇願している。
その目元には安堵さえ浮かんでいた。
ようやく子供たちを死なせずに助けられる。
そして死ねる。そんな安堵だろう。
あの体験を経た今、
子供に死なれて呪われるよりも、自分が殺されたほうがましだ。
そういう思考にたどり着いたようだ。

「ああ。お前たちががんばれば、赤ちゃんたちは一匹も傷つけない。
お前たちさえがんばってくれればね」
「ゆっくりがんばるよ!!」
「れいむがゆっくりがんばっていじめられるよ!!」
「あかちゃんはたすけてね!!ごみくずでもやくそくはまもるよね!!」

俺に対する態度はだいぶ卑屈になってきたと思うのだが、
どうも、なにかの拍子にゴミクズ発言が飛び出す。
意外とれいむ種が一番タフなのかもしれない。

そんな失言は聞き流してやり、俺は早速れいむ共をカートに詰め込んだ。


別室に入ると、そこには大掛かりな機械が並んでいた。
どれも一見見たところでは用途がわからないが、わからないなりにれいむ共はがたがた震えている。

テーブルの上にれいむ共を並べ、使用人に見張らせたあと、
俺は先ほどの部屋に戻って赤ゆっくり共をカートに乗せ、連れてきた。


「ゆぅー!しゅーりしゅーりちちゃあい!!」
「おきゃあしゃん!にゃにちちぇるにょ!?」
「まりしゃとあしょんでよ!ゆえーん!」
「ゆっ!?おしょらをちょんでるみちゃい~♪」

カートの籠で喚いている赤ゆっくり共を取り出してれいむ共の傍に並べる。

「なにじでるのおおおおおおおお!?」
「ぐぞじじいいい!!あがぢゃんをばなぜええええええ!!」
「やぐぞぐう!!やぐぞぐまもれええええごみぐずうううう!!」
「何もしないさ。みんな、自分のお母さんのところに集まってね」

歯をむき出して飛びかかってくるれいむ共の方に、赤ゆっくり共を追いやる。
自然と、それぞれが自分の生みの親のところに集まっていった。

「おぢびぢゃんにはざわらないでねええ!!」

叫び続けるれいむ共。
まず、一匹の子れいむを取り上げた。
こいつの子は、赤れいむ二匹と赤まりさが一匹だ。

子れいむと三匹の赤ゆっくりを、部屋の一角に連れていく。
そこは仕切りで20cm四方余りに区切られていて、赤ゆっくりではそこから出ることはできない。
その仕切りの中に赤ゆっくりを三匹とも投げ込んだ。

「ゆべっ!」
「いちゃあい!ゆわぁぁん!!」
「ぐぞじじいいいいいいざわるなあああああああ!!」

暴れる子れいむを持ち上げ、上を向かせる。
赤ゆっくりが閉じ込められた仕切りの真上には、天井から縄がぶら下がっていた。
その縄を見せつけ、俺は言った。

「噛め」
「ゆゆっ!?なわさんはゆっくりできないよ!あまあまをゆっくりちょうだいね!!」
「噛まないなら子供の上に落とすぞ」
「ゆっ!」

ここから落とされては、真下にいる子供がすべて自分の体に押しつぶされてしまう。
慌てて開かれたれいむの口に縄を近づけ、噛ませてやる。
手を離すと、歯だけで自重を支える形になった。

「ゆぅぅ!!おきゃーしゃん!?」
「おりちぇきちぇにぇ!!しゅーりしゅーりしちぇにぇ!!」

状況がわかっていない赤ゆっくり共は、
飛び跳ねながら真上の母親の顎に呼びかけていた。
上の子れいむはぶるぶる震え、答えることもできない。
口を開けばどうなるかぐらいはわかるようだ。

そこで俺はれいむに鉄板を見せてやった。
鉄板は幅3cmとぶ厚く、およそ20cm四方の正方形をしている。
鉄板の片側の中心には紐を通す穴があり、縄が結ばれていた。

「これをこいつらの上に落としたらどうなると思う?」
「ゆぐぅううううううう!?」
「約束通り、俺はこいつらには何もしない」

鉄板の縄を子れいむの口の中に突っ込み、噛ませる。

「じゃ、頑張ってくれ」
「ううううううううぐううううううううううう!!!」

必死に首を振る子れいむの体から、俺は手を離す。

天井の縄と鉄板の縄を噛み、子れいむはくぐもった呻きを漏らしながら耐えていた。
どちらを放しても下の我が子はお陀仏だ。
この鉄板の重量は5キロ。
成体ゆっくりにとってはそれほどの重みではないだろうが、赤ゆっくりを潰すには十分だ。
そしてこの子れいむの顎には、鉄板に加えて自身の体重がすべてかかっている。

下の赤ゆっくり共は、鉄板がつり下げられるのを見て、
ようやく状況が掴めたようだ。
それでもどこか他人事のような気楽さで、母親に向かって命令した。

「ゆっ!おとちゃにゃいでにぇ!きゃわいいれいみゅたちがゆっきゅりできにゃいよ!!」
「おきゃーしゃんはゆっきゅりちにゃいでがんばっちぇにぇ!!」
「ゆうううううぐううううういいいいいいいいいーーーーーー」

子れいむの表皮からは、早くも脂汗のようなものがじっとりとにじみ出してきた。
どれだけ耐えられるだろうか。
他のゆっくりれいむで実験したところ、一時間もたなかった。
しかしその場合は、ゆっくりれいむの真下に置いてあったのは剣山だ。
自分自身ではなく我が子の命が危険にさらされたこのれいむが、
どれだけ記録を伸ばしてくれるか楽しみだ。


次の子れいむに手を伸ばす。
こいつの子は、赤れいむと赤まりさのセットだ。

「やべでえええええあがぢゃあああああんんん!!!」

二匹の赤ゆっくりを、透明なガラスケースの中に入れる。
ガラスケースの前方と後方は強化ガラスで、内部が見通せるようになっているが、
左右両脇はぶ厚くなめらかな鉄板になっていた。
鉄板はきちんと壁の役割を果たし、ガラスケースとは隙間なく接している。
鉄板の外側には、ばね仕掛けのような装置がついていた。

「おきゃあしゃん?これにゃに?」
「ゆっきゅりできりゅの?」
「おちびちゃん!!にげて!!にげてえええええ!!」

装置のスイッチを押す。
すると、ゆっくりと鉄板がケースの内側に向かってスライドしはじめた。

「ゆゆっ!?」
「かべさんこっちこにゃいでにぇ!!」

慌ててケースの中心部に集まる赤ゆっくり共。
二個の饅頭に向かって、鉄板は無情にじりじりと近づいていく。

「最終的には、あの鉄板はぴったりくっついてあの子たちを押しつぶす」
「ゆううううあああああ!!おにいざん!!あがぢゃんだずげでええええ!!!」
「いや、助けるのはお前さ」

そう言ってやり、子れいむを別の装置に設置する。

今度の装置は、一言でいえばハムスター用の車輪だ。
大きな車輪は、片側が機械に取り付けられており、
車輪内部は空洞になっている。
車輪のもう片側は丸く開かれ、ゆっくりが入れるようになっていた。

その中に子れいむを入れてやる。

「走ってみてくれ」
「ゆゆぅ!?おにいざん!?ぞんなごどよりあがぢゃっ」
「走れ。子供が死ぬぞ」
「ばじりまずうううう!!!」

言う事を聞かなければ子供を殺す、という脅しだととらえた子れいむは、一心不乱に駆けはじめた。

必死にぴょんぴょん飛び跳ねる子れいむに向かって、俺は先ほどのケースを指し示してやった。

「あれを見ろ」
「ゆはっ、ゆはっ、ゆはっ……ゆっ?」

見ると、赤ゆっくり両脇の鉄板が止まっている。

「ゆゆっ!あかちゃんゆっくりしていってねゆゆぅ!?」
「ゆあぁぁかべさんゆっきゅりしちぇよおぉぉ!!」
「おきゃあしゃあああんはしっちぇえええええ!!!」

安堵して走るのをやめた途端に、鉄板が再び赤ゆっくりに向かって動きはじめた。
慌てて走るのを再開すると、鉄板の動きが少しずつ遅くなっていき、
全速力で走ることでようやく止まった。
この二つの装置は連動していた。

「お前が走ってその車輪を動かしていれば、あの壁は動かない。
だが、走るのをやめたりゆっくり走ったりすれば、赤ゆっくりは潰れてしまうぞ」
「ゆぅうううううううううーーーーーっ!!!!」

説明を理解したらしく、必死に全速力で走り続ける子れいむ。
向かい合った鉄板の距離は、今のところ30cm足らずぐらいか。

「ゆはっ、ゆはっ、ゆはっ、ゆはっ、ゆはっ、ゆはっ、ゆっぐりでぎないいいいいいい!!
おにいいざあああああんゆるじでえええええええーーーーーーーーっ」

叫ぶとそのぶん体力を消耗するのではないか。
しかし、饅頭はそのあたり人間と違うのかもしれない。
ゆっくりは声を出すことでも疲れるのかどうか、それはこれから確かめてみよう。


次の子れいむも、似たような装置に設置する。
こいつの子は、赤れいむが一匹だけだった。

今度は、まず子れいむから処置した。
子れいむを、小さな箱に入れる。
その箱は透明だが、防音に優れた特殊なガラスを使っており、
密閉すれば外側の音は入ってこないようになっている。
そして、長方形の箱の内部は、ガラス壁によって真ん中で区切られていた。

片側の空間に子れいむを入れる。ちょうどぴったりだ。
そしてもう片側に赤れいむを入れるのだが、
こちら側には機械が据え付けられてある。

機械の中心部に赤れいむをセットし、針金で縛りつける。

「ゆびぃい!いちゃいいぃ!うごきぇにゃああい!!
ゆっきゅりしちゃいよぉおおお!!」

早くも泣きながら抵抗を始めた。
ガラス壁に遮られ、その声は母親の元には届かないのだが、
その様子を目の当たりにして母親は涙にくれる。

「ゆっくりさせてあげてねええぇぇ!!ゆっくりさせてねぇぇぇ!!」

箱の蓋を閉める前に、装置のスイッチを入れた。

「ゆびゃっ!?」

びぐん、と赤れいむが跳ねた。
針金に縛りつけられたまま、びぐびぐびぐと痙攣しはじめる。

「ゆぎゃっ!!びゅっ、びぃいっ!!いぢゃいぢゃいぢゃいいいいい!!!」
「あああああああおぢびじゃあああああんん!!?」

説明してやる。

「電流が流れてるんだよ。全然ゆっくりできないものだ」
「ゆびゃびゃびゃああああ!!!いぢゃいぢゃ、ゆぎゅ、ゆっぎゅり、でぎぢゃあああいいいいびゃあああっ」

言葉が発せられるのだからまだまだ余裕がある。二十ボルトに足りない程度だ。

「今はまだ弱いけど、どんどん強くなって、そのうち永遠にゆっくりすることになる」
「いやあああああ!!!でいぶのあがぢゃんをだずげでねええええええ!!!」
「大丈夫、歌えばいい」
「ゆっ?」
「歌え!!」

怒鳴りつけてやると、れいむはおどおどと歌いはじめた。

「……ゆ、ゆーゆーゆー、ゆっゆっゆっゆゆゆ~♪」

すると、子れいむの痙攣のペースが見る間に落ちてきた。

「ゆびぃ……ゆびぃ……ゆびゅ!……びぃ……」
「お前が歌っているかぎり、電流がゆっくりしてくれる。
大きな声で歌えば歌うほど、赤ちゃんはゆっくりできるぞ。
毎日やってることだからできるだろう」
「ゆゆっ!!おうたをうたうのはとくいだよ!!」
「頑張ってくれ。ほら、また流れだしたぞ」
「ゆうぅぅ!?ゆっゆっゆ~!!ゆゆゆゆゆ~~!!」

子れいむの入っているスペースには、マイクが備え付けられていた。
このマイクと子れいむの機械はやはり連動しており、
マイクに向かって声をあげれば、声量に応じて電流が弱まる仕掛けになっていた。
実際のところ歌でなくてもいいのだが。

これで箱を密閉すれば、外から音が入ってくることもなく、
この親れいむは自分の声だけで電流を抑えなければならない。

「ゆっゆっゆっくり~♪ゆゆゆゆ~~ゆっくりしていってねぇぇ~~♪」

歌っているうちに自分もゆっくりできるのか、この子れいむはどこか余裕のある表情だった。


最後に親れいむ。

親れいむの赤ゆっくりは三匹だった。珍しく三匹ともまりさ種だ。
その三匹を、やはり透明なケースの中に入れる。
ケースは小さく、20cm四方の立方体といったところだ。

この装置は単純なものだった。
密閉されたケースの上部に、内部につながるホースが固定されている。
そのホースから、水がちょろちょろと流れ出し始めていた。

「ゆゆっ!?おみじゅしゃんはゆっきゅりできにゃいよ!!」
「おみじゅしゃんはいっちぇこにゃいでにぇ!!」

しかし、見るまに水は床一面に広がっていく。

「おちびちゃんたち!!ゆっくりしないでおぼうしさんにのってね!!」

箱の外側から母親が指示する。
慌てて帽子を下に敷き、赤まりさ共は水に浮かびはじめた。

「浮かんでいれば今のところは大丈夫だろう。
だが、そのうち水でいっぱいになるぞ」

密閉されたケースは、やがて水で満たされるだろう。
そうなれば、帽子に浮かんでいようが関係なしに全身が水没することになる。

「あがぢゃあああああんん!!ゆっぐりざぜでえええええええ!!!」
「飲んでやればいい」

箱の上方には、水を注入するホースとは別に、
ちょうど親れいむの口の高さにストローが突き出ていた。
ストローの下端はケースの床面に届いている。

「お前が水を飲めば、いつまでもケースが水でいっぱいになることはない。
赤ちゃんたちもゆっくりできるぞ」
「ゆっくりおみずさんをのむよ!!!ごーく、ごーく!!」

たちまちストローに食いつき、水を飲み始める親れいむ。
赤まりさ共が親に声援を送っている。

「ゆっきゅりしにゃいではやきゅのんでにぇ!!」
「ゆっゆっゆ~♪ぷかぷかきみょちいい~♪」

そこで親れいむの口をガムテープで塞いだ。

「ゆびゅっ!?」

ストロー以外の部分が綺麗に閉じられた。
これで、口の端から水を吐き出すというようなことはできない。
親れいむはますます必死になって飲みはじめた。


れいむ共の踏ん張りは想像以上だった。
それはそのまま、子への愛、そして子を死なせることへの恐怖をも表していた。

すでに開始から二時間が経っている。
どのれいむも、子を殺すまいと必死になっていた。


「ぅうううぅうううぐぐぐぐぐぎぎぎぎぎぎいいいいいいがががががが」

天井からぶら下がっている子れいむは、
がたがた震え全身から粘液をぼたぼた滴らせながら、気丈に顎を噛み合わせつづけていた。
ぎりぎり絞められている口元からは、餡子の混じった涎がひっきりなしに滴っている。
歯茎から餡子、つまり血が出ているようだ。

精神的に限界を超えているらしく、
両目は涙を流しながらぐるぐると高速で回転ている。
下顎からはしーしーが漏れ出していた。

「ゆぴぃ……ゆぴぃ……」

下の赤ゆっくり共は、最初のほうこそ親を応援していたが、
いまではそれにも飽き、呑気に身を寄せ合って眠りこけていた。


「ゆぎゅううううううう!!ゆっぎゅ、ゆっぎゅぢじだあああああいいいいい!!!」
「ゆぶぶぶぶぶぶぶぶうううううぶぎゅぎゅぎゅ」
「かひゅうー…………ゆひゅうー…………ゆぅううううううう!!!」

車輪の中の子れいむは、いまだに必死に走り続けていたが、
最初のほうのペースは見る影もなく、うつろな目でぼてぼてと飛び跳ねているだけだ。
少量の餡子を断続的にはき散らしているが、
すでに体液は汗(のようなもの)にして流しつくしたらしく、かさかさに乾いている。

甘やかされた飼いゆっくりなら、十分走っただけでもぜいぜい息切れする。
それがもう二時間だから大したものだが、肉体的にはとっくの昔に限界を超えている。
それでも精神力だけで必死に体を鞭打っているが、
大きくペースの落ちた走りは、鉄板の移動を多少遅らせこそすれ、止めることはできなかった。
今では二匹の赤ゆっくりは、鉄板に両側から押しつぶされ、
恨めしげに親を睨みながらくぐもった悲鳴を漏らしつづけている。
もはや数分もたないだろう。


「ゆぎゃぎゃぎゃびゃびゃびゃびゃびゃばばばばばばばばびびびびびびび」
「ゆ゛ー!ゆ゛ぅー!ゆ゛ううぅう!がはっ、かっ、げほっ、はっ………ゆ゛ぅうううううううううぅぅぅ!」

ひっきりなしに電流を流され続け、子れいむはもはや虫の息だ。
ぎりぎり生きてはいるようだが、すぐに死ぬだろう。

電流だけでは、ゆっくりはなかなか死なない。
前述のように餡子がなくならない限りは死なないわけで、
沸騰した餡子が体外に流れ出すか、
あるいは黒こげに燃えて破れた皮から餡子がこぼれ出すまで待つ必要がある。

流れている電流はすでに一万ボルト近くなっていた。
すでに沸騰しはじめているだろう。

マイクに向かって、母親の子れいむは必死に歌い続けている。
しかし、その声はすでにがらがらで、もともとひどい音程もリズムももはや完全になくなり、
ただマイクに向かってがなり立てるばかりだ。
それでも声量が相当落ちているのは、赤れいむに流れている電流を見ればわかる。


「ごーく……ごーく……ゆげぇ……ゆげぇぶ………ごーくぅ……」
「おみじゅしゃんはいっちぇきちゃだみぇえええ!!!」
「のみぇええ!!!ゆっきゅりしにゃいでもっちょにょみぇええええ!!!」
「ゆぁああああああしにたきゅにゃいいいいいいいいい!!!」

親れいむの姿は面白いことになっていた。
もともと大きかった50cm大の体が、水をためこんでだぶだぶに膨らんでいる。
身長はそう変わらないが、横幅は1メートル以上になってたっぷりテーブルの上に広がっていた。

三十分を超えたところで、ひっきりなしにしーしーをしはじめた。
飲んだはしから排出するようになったので、しーしー道をガムテープで塞いでやった。
そうしたら水っぽいうんうんをするようになり、半透明の液状の餡子があちこちにピーピーまき散らされた。
面白いのでしばらく見ていたが、結局あにゃるも塞いでおいた。
そうして今、親れいむはひたすら膨れているのだが、
すでに限界らしく、ねばつく全身を苦しげに上下させている。
さっきからずっとごぼごぼせき込んでおり、
飛び出さんばかりの眼の淵からひっきりなしに流れつづけている水は涙ばかりではないだろう。

ケースの中の赤まりさ共は、すでに水かさに押されて天井に頭を押し付けている。
帽子の中に水が入りはじめており、躍起になって親を叱咤していた。

「ゆぎゃあああああああおみじゅしゃんやべぢぇええええええええごぼごぼがぼ!!」

ついに一匹が、帽子ごとひっくり返って水の中に沈んでいった。
ごぼごぼと沈んでいく我が子を前に目を見開き、親れいむはさらに必死になって飲み始めた。


初めに死んだのは、電流を流されていた赤れいむだった。
沸騰した餡子が口と眼窩から飛び出し、ぽんっという音をたてて眼球が飛び、ケースの天井に当たった。
発火する前に電流を切ったのだが、死体からは焦げくさい煙が立ち上っていた。


次に、二匹の赤ゆっくりが鉄の板に押しつぶされて事切れた。
「もっぢょゆっぎゅっ」が断末魔だった。
死骸を飲み込んで隙間なくぴったり合わさった鉄板にも気付かず、
子れいむはそれからしばらくの間のろのろと跳ねていた。
それは歩くよりも、這いずるよりも遅い走りだった。


三番目に、親れいむが水を吐き出した。
ガムテープでふさがれた口は水を逃がさず、唯一の出口であるストローから盛大に水を逆流させた。
餡子の混じった水がガラスケースの中に大量に流し込まれ、
残っていた二匹の赤まりさは、たちまちのうちに水没した。
親れいむは涙を流しながら長いこと吐き続け、
流し込まれる水の勢いでケースの中の水が循環し、
二匹の赤まりさは餡子が溶け出すまで一個の死骸とともにぐるぐると攪拌された。


以外にも、一番最初の子れいむが最後まで残っていた。
涙やら涎やらに濡れそぼったその形相は仁王だか不動明王を思わせる迫力があり、
その体の激しい震えで、縄がぶらぶら揺れていた。

しかしやがて限界は訪れ、
ついには天井側の縄を離し、体ごと我が子の元に落ちていった。
記録は二時間四十三分。
驚いたことに、このれいむは縄を離したのではなく、噛んでいた部分の歯が根本から抜けおちていたのだった。

自らと鉄板の下に我が子を敷き、子れいむは泣きながらかすかに笑っていたようだった。
その笑いは決して幸福感からのものではあるまい。


「残念だったな」

れいむ共は元の自室、大きなガラス箱のある部屋に戻っていた。
体力を使いきってぐったりと横たわるれいむ共に、俺は声をかけてやる。

「でも、お前たちは精いっぱい頑張った。
あの子たちも許してくれるだろう。
お前たちは母親として胸を張っていいぞ。あの子たちは感謝しているはずだ」

れいむ共の答えはなかった。
俺は背を向け、部屋から出ていった。

「しねぇぇぇ……」

背後からかすかな呟きが聞こえてきた。


その夜、れいむ共が眠っているときにそれは起こった。

「づぶれびゅ!!づぶれびゅうううううう!!!」

真っ暗な部屋の中にあの声が轟いていた。
車輪の中で走り続けていたあの子れいむが飛びあがり、甲高い悲鳴をあげた。

「ゆあぎゃああああああああああああ!!!」

「のみぇ!!ゆっきゅりしにゃいでのみぇえええええーーーーっ」
「ががががああああばばばばばばばばうばばばばばびびびびびび」
「ゆっぎゅりでぎじゃいいいいいいいいいぃぃ!!!」
「ゆびぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!?」

れいむ共全員が、恐怖に身をひきつらせて叫んだ。
昼間の、あの赤ゆっくり共の絶叫と断末魔が部屋中に轟いていた。
そして、あれ以来すっかり聞いていなかった絶叫。

「のりょいごろじでやりゅがらにゃあああああああああああああああああ!!!!」

今、暗い部屋の中で、かすかな照明に照らされ、
れいむ共の視界に浮かび上がっているそれは、赤ゆっくりのデスマスクだった。
あの日、母親を呪い続けながら溶けていった赤れいむと赤まりさ。

それだけではなかった。
鉄板に押しつぶされてぐしゃぐしゃになった赤ゆっくり共。
電流を流されて焼け焦げた赤れいむ。
水没してどろどろに溶けた三匹の赤まりさ。
昼間死んでいった九匹が新たに加わり、
十一匹のデスマスクが、ガラスケースの四方かられいむ共を睨みつけていた。

「なんじぇあじゅげだ!!なんじぇあじゅげだあああああああああああーーーーーーーーーーっ」
「ゆぎゃっ!!びゅっ、びぃいっ!!いぢゃいぢゃいぢゃいいいいい!!!」
「ゆぶぶぶぶぶぶぶぶうううううぶぎゅぎゅぎゅ」
「じぇっだいにじぇっだいにのりょいごろじでやりゅううううーーーーーーっ!!!
じにぇ!!じにぇ!!じにぇ!!ぐりゅじんでじにぇええええええええええええ!!!」

「ゆぎゃびいいいいいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

恐怖に目を見開き、れいむ共は絶叫しながらガラス箱の真ん中に身を寄せあってがたがたと震えた。

餡子を吐き出すのはすぐだった。
監視室で確認してからすぐに部屋に飛び込み、
すさまじい勢いでえずいているれいむ共の口をガムテープで塞ぐと、言ってやった。

「一体なにをそんなに怖がってるんだ?」
「ゆぅぐううううう!!むぐうううううううううぅぅぅ!!」

涙を流しながら必死に訴えてくるれいむ共に向かって、俺は空とぼけてみせた。

「俺には何も見えないし、何も聞こえないな。
怖い夢でも見たんじゃないか?じゃあな」

そのまま、吐けなくなったれいむ共を放置して俺は部屋を出ていった。

その晩、れいむ共は暗闇の中に取り残され、
デスマスクに囲まれて子供たちの絶叫を聞き続けていた。


以上に述べた方法で、
その日からは毎日、れいむ共自身に自らの手で子供を殺させた。
子供が生まれ、装置に設置されるたびにれいむ共は必死に耐えたが、
時間制限がないのだからいずれは死なせるしかなかった。

そして、赤ゆっくりが死ぬたびにその断末魔と死骸を保存し、
夜が訪れるたびにデスマスクと断末魔のコレクションは増えていった。
いまでは、れいむ共は毎晩ガムテープを口に張られて死ぬこともできず、
子供たちに囲まれながら、人間ならたやすく発狂しているであろう恐怖を味わい続けていた。


れいむ種に施した処置は、現在のところは以上だ。





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最終更新:2015年12月25日 04:43