※一部設定をwiki57、お告げからお借りしました。有難うございます。
 問題があるようでしたら、すぐに消させていただきます。




「ん……何か聞こえるな」

ある夜、俺こと虐待お兄さんが畑仕事を終え、一風呂浴びて居間でビールを飲んでいると、中庭に面した扉をノックする音が聞こえてきた。

「外は夕立だぞ……誰だ一体?」

首をかしげながら引き戸を開けると、途端、何やらずぶ濡れの物体がふよふよと家の中に飛び込んできた。

「うぉっ!なんだぁ!?」
「ふぅ、おちついたのです」

そう言いながら入ってきたのは、なんとも珍妙な生き物だった。
触角のような赤黒の帽子に、饅頭を髣髴とさせる丸顔、羽衣のように細長くたなびく衣服を身に纏っている。。

「お前……ゆっくりか……?見たことの無い姿だが……」

俺の問いに、そのゆっくりは胸を張って答えた。


「そう、私はゆっくりいく。りゅうぐうのつかいのゆっくりです。
 今日はあなたに、ちゅうこくをしにきたのです。」

「忠告ぅ?何だそりゃ」
意味が判らず聞き返すと、そのゆっくり――ゆっくり衣玖は頷きながら言う。


「そうです。今、この家には大変な危険がせまっているのです。
 いのちがおしくば、いそいでここを出るのです」

「ほぅ……」

合点がいった、と言った風に、俺は眼を細める。
何のことは無い、要するにこのゆっくりは、俺をこの家から追い出したいだけなのだ。
危険を報せに来たと誤魔化すなど、多少の知恵は持っているようだが、やっている内容はそこらの野良ゆっくりと変わらないな。

「時間の無駄だったな……ったく驚かせやがって……」
「およよ?」

そうと解れば茶番に付き合ってやる必要も無い。俺はブツブツ言いながら、キョトンとした顔をしているゆっくり衣玖の両足を掴むと……


「ウラァ!!」

部屋の真ん中で、人間ゴマのように高速回転を始めた。

「およよよよ!!やめる、やめるのです!!」
「ここでブン回したらどうなっちゃうのかな~~~?フッフ~ン」

バキッ

「いだ、いだい!タンスのかどにあたまがぁああああ!!!」

衣玖の抗議を鼻歌混じりで無視して、更に回転数を上げていく
そしてそのスピードがピークに達した瞬間

「今は亡き梶原先輩に捧げる、ジャイアントスウィングッッ!!」
「おぶぅっ!!」

俺は手を離し、ゆっくり衣玖は猛スピードで壁の柱に叩きつけられた。
そのまま暫く壁に張り付いていたが、やがてズリズリと滑り落り、床に落ちて動かなくなる。


「カンカンカーン、1分30秒お兄さんTKO勝ち、っと……ちょっとやり過ぎたか。
 おーーい、生きてるか~~?」


倒れているゆっくり衣玖に声をかけると、ヨロヨロしながらもゆっくりと起き上がり、こっちを睨んできた。
衣服はボロボロで所々凹んではいるが餡子が漏れている様子もないし、見かけによらずタフだぞコイツ。


「こうきなるりゅうぐうのつかいに、なんてことをするのです!このやばんじん!!」
「うるせぇ!この虐待お兄さんの家でゆっくりがゆっくり出来ると思ったか!!」

怒鳴り返す俺を見た衣玖は、不適な笑みを浮かべて呟いた

「ほう……あなたのようなふそんのやからには、どうやらお灸をすえるひつようがあるようですね……」
「上等だコラ、やれるモンならやってみろ」

いくら体があるとはいっても、饅頭にやられるほど弱くは無い。
ニヤニヤ笑って見守る俺を前に、ゆっくり衣玖は人差し指を天に掲げ足を広げる、何やら奇妙なポーズを取った。


「りゅうぐうのつかいのちから……おもいしるのです。」


ニコリと笑う衣玖。外からは雷鳴。ちょっと待って。何だか物凄く嫌な予感が



「ふぃぃーーーばーーーーーー!!」
「ウボァァァァーーー!!」



刹那、轟音と共に窓ガラスを破り、落雷が俺の脳天を直撃した。
全身からプスプスと煙を吹出し、俺はその場に崩れ落ちる



「すなおにちゅうこくにしたがわないからなのです。そういうひとはしぬべきなのです」


満足げな顔をして、その場を立ち去ろうとするゆっくり衣玖。
だがその肩を後ろから掴む者があった。

「およ?」

振り向いた衣玖の眼に映りしは、団子のような見事なアフロになった憤怒のお兄さん


「およよよよよ!?なんでしんでないのですか!!!!」
「この程度の攻撃……幻想郷では日常茶飯事なのさ……」


説明しよう!幻想郷に住む人間たちは、我侭で人外な妖怪達と否応無く付き合っていく間に、体がものすごーく頑丈になったのだ!


「ともあれ、もう容赦せんぞこの虫ケラめが!!ジワジワと嬲り殺しにしてくれる!
 抵抗してフルボッコにされるか、抵抗せずにフルレイプされるか好きなほうを選べ!!」




「……わかりました。れいぷされます」

「……は?」

予想もしなかった言葉が出てきたことに、思わず怒りを忘れ間抜けな声を出してしまう俺。


「あのひっさつわざを耐えたあなたに、わたしではもう勝てそうにありません。
 人間につかまって、ぎゃくたいのかぎりをうけるよりは、みずからのていそうをぎせいにしてでも生きのびるのです。
 いくは、くうきのよめるおんななのです」

「いや、アレは比喩表現でして、真に受けられても……」


若干引き気味の俺をを無視して、ゆっくりは言葉を続ける

「と、いうわけで、いくのはじめてをさしあげます
 でもその前に、シャワーを浴びさせてください」

「あ、ああ、風呂あっちだから……」

「どうもです。それではおさきにしつれいするのです」

そう言い残すと、ゆっくり衣玖はフラフラと風呂場へと歩いていってしまった。




「……いや、どうするのよこれ……」

取り残された俺は頭を抱える。ゆっくりを虐待して幾数年、こんな状況に陥ったのは初めてだ。

「据え膳喰わぬは男の恥と言えど、あれゆっくりだしなぁ……
 幾らなんでもアニマルファックはなぁ……かといってこのまま何もしないのも虐待お兄さんの沽券に……」

砕け散った窓ガラスを片付けつつ、自問自答を繰り返す。
俺の中ではゆっくりへの虐待魂と人間の尊厳とが、激しい葛藤を繰り広げていた。


「大体アレに穴はあるのか……いや待てよ、そもそも風呂に行くと行っておいて逃げる気じゃ!?」

そこまで考えて俺はハッとした。そういえば衣玖が風呂場に行ってから既に数十分が経過している。あまりに遅い。
しまった、逃げられたか!!慌てて俺は風呂場にへと向かう。


「おい、いるのか!!」


「およよよよ…………」


風呂場の扉を開けた俺が見たものは、脱ぎ散らかされた衣服と、全身を真っ赤にさせて風呂の縁にもたれかかるゆっくり衣玖の姿だった。
慌てて風呂桶から引っ張り上げ、床に寝かせる。


「おい、大丈夫か!?風呂に入りすぎてのぼせたのか!?」
「およよ……もうしわけないです……いくにはげかいのおゆはあつすぎたようです……」


力無く呟く。よく考えれば人型といえどゆっくりだ。水、お湯は天敵のはずである。
嵐の中俺の家に辿り着いた辺り、このゆっくりは相当水に強いタイプのようだが、限度というものがあったようだ。


「……いくはもうだめです……れいぷさせてあげられず……もうしわけありませんでした……
 どうか……ちゅうこくを……わすれ……ない……で…………」


最後の言葉を言い残すと、ゆっくりはガクリと頭を傾げ、そのまま動かなくなった。


「死にやがった……結局何がしたかったんだよこいつは……」

取り残された俺は、再び頭を抱える。マジで頭痛がしてきた。
とりあえず死体を片付けようと腕を伸ばし、そこで始めて風呂桶から漂う旨そうな匂いに気づく。
風呂の残り湯を指に取り、恐る恐る舐めてみた


「ぺロ……これは……魚介類系のダシだ!それも極上の!!」


驚く俺は、今度は直接手で掬って飲みほしてみる。
鰻の肝吸いと蟹の味噌汁を足したような何ともいえぬ芳醇な味わいが、口腔中に広がった。

「そういえば『リュウグウノツカイ』って確か深海魚の名前だったよな……
 こいつは魚系の餡を持つゆっくりだったのか……」

考えながら足元の死体を見下ろす。真っ赤に茹で上がりつつも、その死に顔は安らかであった。


「……行動は意味不明だったが、悪い奴では無かったのかもしれないな」


俺は静かに合掌すると、ゆっくり衣玖の体を抱えて台所へと向かっていった。





次の日、俺の食卓にはたいそう美味しい焼き魚と味噌汁が並んだという。




そしてその次の日、俺の家はシロアリによって倒壊した。






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「崖の上のイク」
作詩:虐待おにいさん・もりのなかまたち 作曲:稗田阿求


※イーク イーク イク さかなの子
雲の中から やってきた
イーク イーク イク ゆでられた
ダシをとられて死んじゃった※

ピーカピカ ゴーロゴロ
カミナリいいな おーとしちゃお!
ギューラギュラ ギューンギュン
ドリルはいいな けずっちゃお!

てんことちがって くうきがよめるよ
ジーシンガクルヨッ! ハーヤクニゲルヨッ!
ちゅうこくだいすき おきゅうをすえるよ 

(※くり返し)






==蛇足なあとがき==

本当はもっとボコボコにするつもりでしたが、何故かほのぼのとしたお話に。恐るべしイクさん
今回は比較的安産でした。何時もこのくらいのスピードで書ければなぁ……。
そろそろ試験勉強が佳境に入り、投下ペースが益々酷いことになる気がします……書きたいネタは一杯あるのですが。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

前作の絵を描いて頂いた方
全く構いません。大歓迎です。ありがとうございます!




書いた人:ケイネスキー





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最終更新:2022年04月11日 00:32