※東方キャラ登場注意
※深く突っ込んだら負けです
※虐待分は少ないです
高速で低空を駆ける人間が一人。その人間は黒白で身を包み、箒に跨り宙を飛んでいた。
妖怪の山の麓。普通の人間はあまり立ち入れぬそこには、とあるゆっくりの群れがあった。
ドスまりさ。ゆっくりでありながら高い知能を持ち、ニメートルを越す巨体を誇る突然変異種。
黒白の人間──霧雨魔理沙は、そのゆっくりが統括するゆっくりの群れを目指していた。
途中出会ったなにやらハイテンションな豊穣の神やらドスの群れのゆっくりを適当に弾幕でボコって居場所を聞き出しながら、真っ直ぐに向かっている。
そうして見つけた。三メートル近い巨体を誇る、自分と似た帽子を被った饅頭を。
その巨大饅頭の周りには、小さいサイズのゆっくりが群らがって何やらゆーゆー言っているが、とりあえずそちらは関係無い。
加速。飛行速度を更に上昇させ、まっすぐドスに向かって突撃していく。
後百メートルというところでドスが気付いた。とてつもない速度で突っ込んでくる魔理沙に驚き目を丸にしている。
他のゆっくり達も気付き始め、ドスの後ろに隠れるように移動する。
「あれじゃ他が潰れるな」
当初のプランを変更。
このままドスに向かって突撃するはずだったのを、高速でドスの脇を駆け抜ける。
すれ違うようにドスの横を飛び、そのまま上昇。円を描くかのように空中で翻り、上空からドスまりさに向かって箒の先を向けた。
光符「ルミネスストライク」
箒を砲身として使い魔砲弾を発射。箒の先より放たれた光弾が真っ直ぐにドスの顔面に叩き込まれた。
「ゆぶっ!?」
『ドスぅ!?』
ドスまりさの顔面が陥没し、鈍い呻き声があがる。他のゆっくり達が驚愕の声をあげた。
そんな突然の出来事に思考が未だに追いついていないゆっくり達の前に、霧雨魔理沙は降り立った。
「よっ、お前がドスまりさか。初めて見るぜ」
つい今しがた攻撃をくわえたというのにやけにフランクに言葉をかける魔理沙。
当然ゆっくりの方は友好的になれるわけもなく、ギャースカ喚きたてた。
「ゆぅぅぅ、ドスになにするの!」
「ドスにひどいことするおねーさんは、ゆっくりしないでねっ!」
「れいむおこるよ、ぷんぷん!」
頬を膨らませたり擬音を口にしたりと些か間抜けな光景ではあるが、本人達は至ってマジメである。魔理沙はそちらに用は無いので無視。
当の攻撃を喰らった本人はといえば、多少顔が潰れて皮が少し破れてはいるものの、原型は留めており命に別状は無かった。
もっとも、それぐらい強い存在でなければ今回来た意味がない。
「さすがに丈夫だな。普通のゆっくりなら今ので潰れてるぜ」
感心したように魔理沙はドスまりさの頬をペチペチと叩く。
ドスまりさはようやく痛みから回復し、口を開いた。
「ゆぅ……お姉さん強いね」
「それほどでもない」
そう返しながら魔理沙は、ガシ、と開かれたドスまりさの口の端を掴んだ。
またもや突然の行動にゆっくり達はドスを含め驚いた。
「ドスにもうひどいことしないでね!」
「ゆっくりはなしてね!」
「ゆっ、お姉さん何するの!?」
「何って、お前のキノコをもらうんだよ」
それがどうしたと言わんばかりに答えて、魔理沙はドスまりさの口に腕を突っ込んだ。
ドスまりさには他のゆっくりとは違う能力がある。その中の一つがドスパークだ。
ドスまりさの口内にのみ生えるとされるキノコを材料に、噛んだり砂糖水を含ませたりすることによって、口から極太のレーザーを発射するものだ。
その名前と技の由来とされるオリジナルよりは威力、派手さ共に劣るとはいえ、本家よりも簡易な加工で魔法のような反応を示すキノコは貴重だ。
魔理沙は今回、ドスまりさの話を聞きつけ、そのキノコを手に入れようとこうしてドスまりさの元を訪れたのだった。
もっとも、せめて先ほどの攻撃を耐えるほどの強さを持つ者が自慢とする存在でなければ、魔理沙も興味は抱かなかっただろうが。
「おっ、これだな」
手探りでドスまりさの口内を弄って手に当たったものを引っ張り出す。それはやはり魔理沙も見たことのない化け物キノコだった。
魔理沙の魔法はキノコを原材料とする。
独自の調理法で何日も煮詰めてスープにし、それを数種類作ってブレンドし、数日掛けて乾燥させて固形物にしてようやく実験開始。
その固形物を使って様々な実験をし、その実験の中で稀に魔法らしい魔法が発動する。成功しても失敗しても本に纏めてキノコ採集から開始する。
そんな努力の結晶があの派手な魔法である。魔理沙はドスまりさのキノコは未だ魔法の実験に使ったことはない。
今はキノコ採集の段階。ドスまりさのキノコでドスパーク以外の魔法らしい反応が出るのか出ないのか。実験するまで定かではないがやってみる価値はあるだろう。
「やめてねっ、それがないとドスパークが使えないよ!」
「おっと」
ドスまりさは慌てて魔理沙の手からキノコをふんだくる。手に持っていたキノコにその大きな口で喰らいつく。
驚き魔理沙は手を引っ込めてしまい、キノコは再びドスまりさの口内へと収まった。
「こらっ、よこせ!」
魔理沙は再びキノコを奪おうとするが、ドスまりさは頑なに口を閉ざして魔理沙の腕を入れさせようとしない。
手で口を開こうとしても無駄。頬を殴ってみても魔理沙は腕力自体は普通の少女、あまり効果は無い。箒で殴ると痛みで顔をしかめたが口は開かなかった。
「ゆぅ! ドスをいじめないで!」
「ゆっくりしていってね、おねーさん!」
ドスまりさの群れのゆっくり達が抗議の声をあげるが、先ほどの攻撃を見て魔理沙の強さに怯えているのか直接くってかかろうとはしなかった。
「むぅ、しょうがない。殺してでも奪い取る」
魔理沙はミニ八卦炉を懐から取り出し、魔法の材料と共にドスまりさに向けて構えた。
ドスまりさは魔理沙の「殺してでも」という発言に反応し、慌てふためいた。
この距離、タイミングではドスまりさがドスパークを使おうとしても本家の方が速いだろう。いや、あまりの威力に後ろのゆっくり達も吹き飛んでしまう。
「やめてねっ! 殺さないでねっ! ドスのお願いを聞いてくれたらキノコをあげるよ!」
知識としてはその威力を知らないはずなのに、得たいの知れない恐怖に突き動かされドスまりさは懇願した。
群れのゆっくりは強く自分達の守護者であるドスまりさが命乞いをしている光景を信じられないといった目で見つめ、魔理沙はドスまりさの「お願い」という単語に反応して手を止めた。
「……取り合えず話だけでも聞こうか」
ミニ八卦炉を仕舞い、魔理沙は聞く。こんな饅頭ごときに魔法の材料を使うのももったいないし、考えてみれば零距離マスパでは威力が強すぎてキノコごと焼き払ってしまうだろう。
他の魔法にしても、ボムを消化せず目的の物が手に入れば、そちらの方が良い。
どちらにせよ、ドスまりさの「お願い」とやらの内容次第だが。
「…………実は」
ドスまりさが言った「お願い」とは、越冬についてと人里との係わり合いだった。
今の季節は秋。人間達は作物の収穫に喜び、ゆっくり達は来る冬に向けてせっせと食料を溜め込む時期である。
今年はゆっくりにとっても過ごしやすい年であったようで、ドスの群れもかなりの数のゆっくりが増えて肥大化した。
そのためなのか、豊富な秋の山の恵みをもってしても、冬篭りの餌集めは他のゆっくりとの競い合いになってしまっているらしい。
そんな中、山や麓近辺では他のゆっくりに食べ物をとられてなかなか採れないと判断したゆっくりが、今年は某姉妹の妹が狂喜するほど豊作だったのもあり、それを狙って遠出し人間の作物に手を出したというのだ。
当の盗みを働いたゆっくり自身は捕まって既にこの世を去っているが、これまで人間の所有物には手を出さないと人間達に思われていたゆっくりの心証は一変した。
作物や家畜の盗難被害など、この幻想郷では珍しいことではない。妖精が悪戯で盗んだり妖怪が力に任せて奪っていくこともある。
人間もそれが幻想郷の有り方として、またはしょうがないこととして受け入れている節がある。もちろん好ましくは思ってないだろうし、中には許容出来ない者もいるが。
しかし、これまで悪事を働いたことの無いものが悪事を働いたとして、たった一回の被害にしては印象が大きく落ちすぎた。
その上に妖精は逃げ足が速く妖怪は強く、しかも双方とも殺しても殺せない(妖精は肉体が死んでも生き返る。妖怪は五体が引き裂かれても復活する程タフ)存在であるのに対し、
ゆっくりは逃げ足も遅くしかも弱く死にやすい。
幻想郷だって弱肉強食。強い者が大きな顔をするのが自然。
大きく落ちた心証とその弱さ。更に被害に会った人物が声も大きく他の人間への大きい影響力を持った人物であることも加えられて、ゆっくりは種族単位で人里の多くの人々に虐げられるようになった。
中にはこれを機にゆっくりへの虐待行為に目覚めて処断する理由もないのにわざわざ群れへと出向いてゆっくりを甚振ったり殺したりする存在まで出たらしい。
ドスまりさはそんな自体を打破するべく、この度人里へと直接赴く決意をした。
ドスまりさが群れのゆっくり達と共に人里へと行き、盗難についてしっかりと謝罪をした上で、一つの提案をするらしい。
「提案、って何をするんだ?」
「ゆっ、もう人間さんの物には手を出さないから、人間さんも酷いことをしないでね、って協定を出すんだよ」
「……協定、ってかお願いだな、そりゃ」
立場が対等でないのだから、当然。協定ではなく弱者が強者へ慈悲と寛容を乞う嘆願である。
「ゆぅ……そうなんだよ」
ドスまりさはそこが心配らしい。
他のゆっくりの手前?協定?などという言葉を使ったが、これが一方的な要望であることはドスまりさとて重々承知している。
だから、人間の匙加減でどうとでもなる。そこがドスまりさの一番の悩みどころだ。
もし、聞き届けられれば御の字だが、そんなもの知るかと突っ返されたり、最悪それが相手を刺激して更なる悲劇が生まれないとも限らない。
「ドスは強いからもしかしたら大丈夫かもしれないけど、他の皆はゆっくり出来ないよ……」
このドスまりさは使命感と責任感に強いようで、群れのゆっくりがゆっくり出来るようにと心がけている。
「成る程、それでその可能性をどうにか出来ないかと、悩んでいたわけだな」
「ゆぅ……お姉さん、何とかしてくれる?」
ドスまりさのお願い、とはそれだった。
如何に賢いといえでもそれはあくまでゆっくりの範疇。妖精や人間の子供よりは頭が働くとはいえ、人間からしてみれば並だ。
「……なんで私に頼んだんだ?」
「だって、お姉さんはとっても強いでしょ?」
先ほどの高速飛翔とドスまりさへの強力な一撃。ドスまりさはそれにより、魔理沙が自分よりも遥かに上位の存在だと認識した。
だから、もしかしたら魔理沙なら自分が思いつかないような打開案を出してくれるか、もしかしたらその力を以って何か救いの手を差し伸べてはくれないだろうかと考えたのだ。
「ま、まぁな。それに私はなんでも屋だ」
?強い?と言われて魔理沙も満更でもないようで、しばらく頭を抱えて思案する。
そして数秒の後、
「……ドス、ちょっとお前の『ドスパーク』とやらを見せてくれ」
ドスに向かい、そう言った。
「ゆゆっ、ドスパークはあぶないよっ!」
「ゆっくりできなくなるよ!」
「そうだよお姉さん、危ないよ!」
「あぁもう勘違いすんな。私に向かって撃たなくていい。空でも何もない所でもいいから撃て。見るだけだ」
「ゆぅ……それなら」
魔理沙はすす、とドスまりさの前から退き、ドスまりさは顔を若干仰角に上げる。
スゥ、と空気が入る音と共にドスまりさが大きく口を開いた。
その二秒後、バウッ、とドスまりさの口から太く煌くレーザー光が迸り、宙を駆け巡った。
「ふむふむ、なるほどなるほど。私ほどじゃないがなかなか派手じゃないか。やっぱり弾幕はパワーだぜ」
ならば、と魔理沙は一つの提案をする。
その提案はドスまりさも群れのゆっくりも、もしかしたら博麗の巫女でさえ驚愕するような内容であった。
だが、もしそれが上手くいけばそれ以上良いこともない。たとえ失敗しても、ドスまりさが当初懸念していた以上の事態の悪化は無いだろう。
「じゃあこれやるから、一日使って準備しな。明日決行だぜ」
「ゆっ? お姉さんも一緒に来てくれるの?」
「あぁ、私はこれを仕事を受け取った。明日は一緒についていって、見届けてやる。だけど、実際にやるのはお前らだぜ」
「ゆゆっ! 勿論だよ、有難うお姉さん! じゃあ約束通りキノコを分けて──」
「まぁ、待て。報酬は成功払いでいいぜ、とっておきな」
「ゆゆ〜、とっても優しいねお姉さん!」
「おねーさんはとってもゆっくりできるね!」
ドスまりさや他のゆっくり達から次々に讃えられ、褒められる。魔理沙はそんなゆっくり達の声を背に、群れから去って行った。
魔理沙はドスまりさにちょっとした興味が湧いた。面白い物が見れそうだし、失敗してもドスまりさは死なないだろう。
魔理沙にとっては一日目的の物を手に入れる日数が延びるだけであり、それ以外の損失は無い。
その上魔理沙の提案でドスまりさの悩み事が解決するなど、本気で考えてはいない。言うならば、気まぐれ。余裕ある強者の戯れである。
…………それに、人里に行った所で今回の主役はドスまりさだ。自分は後ろで眺めていればいい。あれと会うことも無いだろう。
魔理沙が去った後、ドスまりさは群れでもっとも賢いゆっくりぱちゅりーや、絵が得意というれいむ、文字が書けるというありすやまりさと一緒に明日の準備に取り掛かった。
作業を行なう皆の顔には、一様に希望が溢れていた。
そうして次の日。
人里の者は変わった光景を目にした。
「な、何だあれ……」
妖怪の山方面から来たそれらは最初妖怪かと思ったが、違った。ゆっくりの群れであった。
多数のゆっくりを従えて、三メートル近い巨体を誇るドスまりさがゆっくりと人里に向かって来ている。しかも頭の上に人間の少女を乗せて。
ゆっくりの歩みは遅い。
里の端に到着する頃には既に騒ぎを聞きつけた者達やゆっくりを目の敵にしている人達が人ごみを作り、近くに居た物好きな妖怪がいくらか野次馬に来ていた。
そしてその中には、上白沢慧音という、魔理沙と面識のある人物もいた。
「そこの白黒。これはお前の差し金か?」
やや苛ついた口調で、慧音は尋ねた。ドスまりさの頭の上に乗って来た魔理沙に。
「まさか。私は見物に来ただけだぜ」
軽快にドスまりさの頭上から降り立った魔理沙がにやけた顔で嘯く。ドスまりさの帽子は魔理沙が乗っていたせいか少しへこんでいた。
「話があるのは私じゃなくてこいつらだ」
魔理沙はそう言うとすっ、と下がった。その魔理沙と入れ替わるように、ドスまりさが巨体を一歩、デンと前に出す。その巨体に気圧されドスまりさ巨体に気圧されたのか、「うっ……」と慧音は少しうめいたがすぐに体勢を戻した。
そんな流れからか、自然とドスまりさの話は慧音が代表として聞く形となった。
ドスまりさからの話を聞いている間、人間は一応突然怒り出すとも手を出すこともなかった。ゆっくりを目の敵にしている人達もだ。
妖怪は何が面白いのかそれとも酔っているのかケタケタと笑って手に持った酒を飲んでいた。
話が終盤に差し掛かり、ただの弱者の懇願かと皆が思ったその時だった。
「だから、ドスが弾幕ごっこで勝ったら、皆そうしてね!」
ドスまりさが信じられないことを言った。
「…………はっ?」
表立ってドスまりさの話を聞いていた慧音も思わず呆けてしまった。いや、その場にいた誰もが同じような顔をした。ゆっくり達と魔理沙を除いて。
「だから、ドスが代表して決闘するから皆には手を出さないでね!」
「えっ、えっとちょっと待てドスまりさ。お前が弾幕ごっこをするって?」
「ゆっ!」
「…………スペルカードはあるのか?」
「あるよっ!」
ドスまりさがそう勢いよく答えると、傍らにいたぱちゅりーが、ついと一枚の紙を取り出した。
「昨日皆で作ったんだよ!」
その紙はちゃんとスペルカードルールに則って作成されており、餡光『ドスパーク』と技も明記されていた。
紙自体は昨日魔理沙に貰ったものだった。それに木の実をすり潰したものや草の汁などで描いてある。
昨日魔理沙がドスまりさに提案したのは、弾幕ごっこで一対一の決闘を挑めというものだった。
決闘に勝って、お願いではなく勝利の報酬として手出しをさせない。それが目的。
普通の戦いならドスまりさだけが突出したゆっくり達に勝ち目はない。だが代表者だけの決闘ならば、ドスまりさだけが戦えばいいので普通のゆっくりは傷つかない。
弾幕ごっこは妖精も人間も妖怪も、皆平等の決闘である。それに基本的に相手を殺してはならない(不慮の死はあるだろうが、少なくとも魔理沙は異変で相手を殺したことなど無い)。
だが、ドスまりさの提示した条件が気に喰わず決闘を拒否される可能性もあるし、代表者同士の決闘で他の人間が納得する可能性も百パーセントではない。
提案した魔理沙本人も冗談半分だった。
「……私が戦うのか?」
慧音はドスまりさと他の人間達に尋ね、双方とも肯定した。
「い、いや、それで皆が納得するかどうかは!」
集まってきていた人達には特に異を唱えるものはいなかった。皆ゆっくりが勝つとは思っていないし、慧音の強さも認めていたし、自分が戦うのも面倒と思っていた。
慧音は逃げ道が無いことを悟ると頭を抱えて、
「あぁ、分かった。私が戦う……。だが、ここに居ない人達が異を唱えたら、その人達にはちゃんとお前が頼み込めよ」
「ゆっくり分かったよ!」
人間側はゆっくり側と違って誰かが統治しているわけではないのだから、当然。ドスまりさもそれは分かっていた。
時間をかけて人里の中で誰か一人を選抜、とでもすれば別なのだろうが、そこまでしてもらうことはドスまりさは考えていなかった。
魔理沙は後ろで慧音の呆けた顔や困ったような顔、ゆっくりの弾幕ごっこという世にも珍しいものが見れる状況を楽しんでいた。
こうして半獣人対ゆっくりという変わった決闘が始まる。
ゆっくり側が提示した勝利報酬は『人間の所有物に手を出さない限りゆっくりを傷つけない』、宣言スペルカード枚数は一枚。
人里側(代表慧音)が提示した勝利報酬は『二度と人の所有物には手を出さない』、宣言スペルカード枚数は二枚。
流れ弾が当たらぬよう決闘場所は場所を移して人里から離れた草原。興味ある人間や妖怪は付いていき、残りは人里に残った。
飛べる物は上空から決闘の様子を面白そうに見守り、飛べない者は距離を取って遠目に眺める。ゆっくり達もドスまりさの後方で決闘を見守っている。
決闘自体は飛べないドスまりさを尊重し地上戦となった。
「それじゃあ、始めるぞ?」
「ゆゆっ!!」
やや疲れたような表情をした慧音とドスまりさが声を上げ、決闘が開始された。
餡光「ドスパーク」
開始早々ドスまりさが大声スペルカード宣言をした。様子見の通常弾幕も無しの必殺技使用だ。もっとも、ドスまりさにはこれしか技がないのだから当然なのだが。
口に咥えていたカードをポイ、と地に投げる。
そして口を大きく開き、ドスまりさの口の中で生えているキノコを材料に、ドスパークを発動させる。
二秒程ドスまりさの口内で眩い光が溜まったかと思うと、その光は指向性を以って勢いよく発射された。その光は真っ直ぐに慧音へと向かっている。
本家マスタースパークよりは威力も大きさも劣るが、それでも強力な攻撃にあることに変わりはない。直撃すればかなりのダメージを負うだろう。
しかし慧音はそれを容易に回避した。
「ゆゆっ!?」
驚愕するドスまりさだが、それは必然の結果だった。
溜めも長く太さもそれほど無い上に自機狙い。レーザー以外にはなんの弾幕もばら撒かれない攻撃など、避けてくれと言ってるようなものだ。
「ま、まだまだだよ!」
しかしドスまりさとて一度では諦めない。再びドスパークを慧音へと発射する。無論、それも当たらない。
再び目を丸くしたドスまりさは、再びドスパークを発射する。回避、当たらない。慧音はまったくもって余裕の態度でドスまりさの渾身の一撃を躱し続けた。
ドスまりさはその後一分間、意地になったかのようにドスパークを連射した。その全てを慧音は最低限の動きで避けた。
一切反撃することなく、ドスまりさが疲れて攻撃を途切れさせるまで避け続けた。避け切り弾幕攻略である。
「どうした? もう終わりか?」
ドスまりさがぜいぜい言って連射していたドスパークを止めたところで慧音は腕を組んで訊ねた。
ドスまりさが決闘前に宣言したスペルカード枚数は一枚。つまりこの数しか攻撃をしないという宣言だ。
スペルカードルール決闘はたとえ体力や余力が残っていても、最初に宣言した攻撃が全て避けられれば敗北となる。
つまり、このままではドスまりさの敗北なのである。慧音は一回の攻撃をせぬままに。
「ゆぐぅ……」
ドスまりさにとってドスパークは大技である。乾坤一擲の必殺技だ。本来連続で使用するような技ではない。
そんな大技を連射したことにより、ドスパークの反動もあってこれ以上ドスまりさはドスパークを撃つことは出来なかった。
これで、敗北。ドスまりさ達ゆっくりは最初に提示された通りに二度と人間の所有物には手を出すことは出来なくなる。
それでも、群れの皆を傷つけないで欲しい。その意思だけは伝えよう、とドスまりさが心中負けを認めたその時だった。
『ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!』
ドスまりさの後方で決闘を見守っていた群れのゆっくり達が、鬨の声をあげながら跳ねて来たのだ。
その顔皆一様に鬼気迫っており、今にも慧音に食って掛かろうとしているようだった。
「ゆっ、皆!」
ドスまりさは止めようとした。これは一対一の決闘だ。他者の介入は許されない。
しかし、群れのゆっくり、先頭のれいむが言った言葉は、ドスが思いもしない内容だった。
「ゆぅぅぅ! れいむたちはドスのだんまくだよ!」
ドスまりさはれいむ達、群れのゆっくりを統括している。れいむ達はドスまりさによって守護されていると同時に、ドスまりさの部下のような存在でもあった。
つまりはドスまりさの持つ力の一つと、言ってもいい。
式神使いは自分の式を弾幕として放つことがある。つまり、れいむ達は自分達はドスまりさの所有する力の一つとして、自分達を弾幕に見立てて突撃しているのだ。
これには慧音も見守っていた人達も驚いたが、誰も止めることは無かった。
最初宣言した攻撃回数より多いが、それも妖々夢六面ボスや永夜抄六面ボスだってやっている。
慧音はこれぐらいならいいだろうと勝者の余裕から、人間達は無駄な足掻きをという呆れから、魔理沙や野次馬の妖怪達はこれは面白いという愉しみから。
誰も止めることなく、ゆっくり達は自身を弾幕と化した。
頭符「饅頭大行進」
「しかし……」
数が多いな、と慧音は呟いた。どれだけの規模まで肥大化したのか。今ここに来ているゆっくりの数は百近い。
これだけのゆっくりの体力が尽きるまで避け続けるのは、かなりの時間が必要だ。それは、あまりにも無為。
だから慧音は
「悪いが、弾消しさせてもらうぞ」
攻撃を選択した。
慧音は一枚のカードを取り出すと、それを宣言した。
光符「アマテラス」
慧音の周りから全方位に無数のレーザーが発射された。赤青の二色のレーザー群は、弾幕と化したゆっくり勢の突撃と真正面からぶつかった。
一対一の決闘だが、自分から足を踏み入れた方が悪い。ゆっくりに手を出さないという約束も、ドスまりさが勝ってからの話。
だからこの攻撃によって生まれた悲劇は、ゆっくり達自身の責任である。
『ゆぎゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!!』
先頭のれいむは右目を青いレーザーに撃ち抜かれた。その隣のまりさは赤いレーザーに眉間を貫かれた。
ありすは両頬を二色のレーザーによってそぎ落とされた。パチュリーは中枢餡を赤いレーザーによって吹き飛ばされた。
他のゆっくり達も皆、避けること叶わずその突撃の勢いと共に体を削がれた。
底部を削がれて動けなくなったもの。当たり所が悪く餡子を盛大に撒き散らしたもの。
第一波を避けつつも第二派で両目を失ったもの。頭部右半分を失ってもなお突撃しようとするもの。
だが、それも三十秒間慧音が攻撃を続けた後に無くなった。動くゆっくりが居なくなったのもあるが、
「ゆびっ!」
放ったレーザーの一本がドスまりさの右頬に着弾したからだ。
ドスまりさは全ての攻撃を行なっても慧音に一発も当てられていない。かつ慧音は一枚目の宣言でドスまりさに攻撃を当てた。
勝敗は歴然。勝者と敗者はここに決定した。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ」
「ゆ゛あ゛ぁ……ゆ゛あ゛ぁ……」
「みえな゛い゛……でいぶのおべべ、みえない゛……」
「いじゃい……いじゃいよ゛ぉ゛……」
それでもレーザーの攻撃はかなり手加減されたものだった。並みのゆっくりでは致命傷になりえても、ドスまりさにはかすり傷だ。
頬にあたる僅かな痛みなど気にもしない。当然だ。目の前には同族の惨劇が広がっているのだから。
「でいぶ……ばりざ……ありず……ばぢゅり゛ー……」
死者は少ない。全体の一割にも満たないだろう。だが傷ついた者の大半はこれ以上放っておけば死ぬ者や、目や底部を失うという後遺症が残る者ばかりだった。
ドスまりさは眼前の死屍累々の様を見て嘆き、悲しんだ。なんで来たのかと。なんで、無謀な真似をしたのかと。
だがドスまりさだって分かっている。これはゆっくり達がドスまりさを助けたいと自ら選び行動した結果なのだと。
「さぁ、ドス。約束通りもう人の物に手を出さないでくれよ。他のゆっくりにも徹底させてくれ」
慧音はそれだけ敗者に言うと、背を向けて人里へと帰っていった。
決闘を見守っていた人達も、所詮ゆっくりかとぞろぞろと引き上げていく。面白がって眺めていた妖怪達も催しはこれで終わりかと退散していく。
残ったのはゆっくりの死体と重傷者、悲しみにくれるドスまりさと、
「よぅ、お疲れさん」
空中で一部始終を見ていて、ドスまりさの眼前に降り立った魔理沙だけであった。
「ゆっ……お姉ざん……」
グズッ、と涙をこらえてドスまりさは魔理沙を見る。
「ごめんね、折角いいアイディアをくれたのに……」
「気にするなだぜ」
「ゆぐっ、でも、失敗しちゃったからキノコは──」
「あぁあぁ、気にするな。私は仕事の成功でしか報酬は受け取らないぜ」
「ゆぅ……有難う、お姉さ──」
ドスまりさの言葉は中途で断たれた。何者かが発言に割り込んだわけでも、何か驚愕の出来事が起こって口をつぐんだわけでもない。
ただ、ドスまりさの右頬が大きく吹き飛ばされ、物理的に喋れなくなっただけだ。
────ゆっ?
ドスまりさの頭でも、すぐには理解が及ばなかった。戸惑いの言葉は口に出すことは出来なかった。
しかし、攻撃を受けてドスン、と後ろに倒れこんだ時には、魔理沙が魔法を放ってドスまりさの右頬を削り落としたかのように吹き飛ばした事を理解することが出来た。
────どうして……?
ドスまりさは理解できず、視線を倒れたドスまりさの、吹き飛び大きく口内が覗ける右頬側に歩いてくる魔理沙に向けた。
魔理沙はドスまりさと視線が合うと、なんでもないかのように言った。
「気にするな。キノコは当初の予定通り、もらうだけだ」
いわゆる、力づく。
魔理沙は口を閉じられた時の経験を生かし、閉じられても口内に手を突っ込めるように、右頬を消し飛ばしたのだった。
体=顔のゆっくりにとって、それは人間で言うならば右腕を肩から吹き飛ばされたに等しい。いや、もしくはそれ以上か。
魔理沙は倒れたドスまりさの傍らにしゃがみこみ、ドスまりさの口内に腕を突っ込んでいる。
「なんだよ、キノコ全然残ってないぜ。あれだけ連射すれば当然か」
魔理沙はわずかにドスまりさの口内に残っていたキノコを回収すると、スカートの中にそれを仕舞った。
そして未だ倒れているゆっくり達の死屍累々の中から死んだゆっくりをニ、三拾うとそれをドスまりさの口内に放り込んだ。
「ま、これでも喰って元気だすんだぜ。またキノコが生えてくる頃に貰いに来るから」
魔理沙はドスまりさにそれだけ言うと、箒に跨って飛び去っていった。
ドスまりさの回復力ならば、一週間もすれば右頬も元通りになるだろう。そうすればまたドスパーク用のキノコも生えてくる。
魔理沙の魔法研究実験には何度も何度も色んブレンドパターンや実験方法を試すため、幾つものキノコを必要とする。
ドスまりさのキノコの実験には、あれだけでは絶対に足りない。先ほど宣言した通り、再びキノコを奪いに来るだろう。
ドスまりさは全てに裏切られた気分になった。
信じていたのに。優しいと、ゆっくり出来ると思っていたのに。ドスまりさは泣き声をあげることも出来ず、ボロボロと涙した。
草原にはしばらくの間顔の一部を失って倒れたドスまりさと傷つき倒れた大量のゆっくり達が残っていたが、次の日には死んだゆっくりをその場に残して群れへと帰っていった。
残りの生涯、ドスまりさは人間の誰にも会おうとも、喋ろうと思わなかった。
しかし、ある一人の人間にはどれだけ会うことを拒否しても、それを回避することはついぞ出来なかった。
おわり
──────────────
あとがきのようなもの
ゆっくり虐待スレももう100。私はスレが10ちょっとの頃にこの界隈を知った新参者ですが、それでも感慨深い物があります。
このジャンルを知らなければ、これだけのSS、文章を書くことは無かったでしょう。それを思えばゆっくりが私にくれた物は多くあります。
上手くなるためには、多くの量を書くことは必須ですから。
決して歓迎されるジャンルではないですが、ゆっくり虐待に出会えてよかったと思っております。
それでは皆様、これまでご愛読ありがとうございました。
これまでに書いたもの
ゆッカー
ゆっくり求聞史紀
ゆっくり腹話術(前)
ゆっくり腹話術(後)
ゆっくりの飼い方 私の場合
虐待お兄さんVSゆっくりんピース
普通に虐待
普通に虐待2〜以下無限ループ〜
二つの計画
ある復讐の結末(前)
ある復讐の結末(中)
ある復讐の結末(後-1)
ある復讐の結末(後-2)
ある復讐の結末(後-3)
ゆっくりに育てられた子
ゆっくりに心囚われた男
晒し首
チャリンコ
コシアンルーレット前編
コシアンルーレット後編
いろいろと小ネタ ごった煮
庇護
庇護─選択の結果─
不幸なゆっくりまりさ
終わらないはねゆーん 前編
終わらないはねゆーん 中編
終わらないはねゆーん 後編
おデブゆっくりのダイエット計画
ノーマルに虐待
大家族とゆっくりプレイス
都会派ありすの憂鬱
都会派ありす、の飼い主の暴走
都会派ありすの溜息
都会派ありすの消失
まりさの浮気物!
ゆっくりべりおん
家庭餡園
ありふれた喜劇と惨劇
あるクリスマスの出来事とオマケ
踏みにじられたシアワセ
都会派ありすの驚愕
都会派ありす トゥルーエンド
都会派ありす ノーマルエンド
大蛇
それでも
いつもより長い冬
おかーさんと一緒
最終更新:2022年04月16日 23:54