『私はアンタとは違う!何があっても自分の欲望の為に魔法を使ったりなんかしない!』

いつからだろう。

あの青髪の女の子から目が離せなくなったのは。

『みんなが幸せになればなるほど、妬みや恨みが止まらない。
 魔法少女って、そういう仕組みだったんだね。』

いつからだろう。

何が何でもあの娘を助けたい、なんて思うようになったのは。

『―――アタシって、ホント馬鹿。』






「―――ははっ、魔女を狩ってたつもりが、魔法少女を狩ってたなんて、笑えない冗談だぜ。」

とあるホテルの一室。
魔力を使って肉体の腐敗を防ぐための処理を施した杏子は、
動かないさやかの死体を悲しそうに見つめていた。

「……さやか……。」

それは、既に魂の入ってない抜け殻に過ぎない。
しかし、杏子は鮮度を回復させた瑞々しい唇から目が離せない。
杏子は、動かないさやかの上に跨った。

「……なぁ……起きろよぉ……さやかぁ。」

杏子はゆっくり顔を近づけ、さやかの唇に唇を合わせ、舌を入れた。

「……んっ……ちゅっ……ぷはぁっ。」

少し甘い味がしたような気がして、気分が高騰してくる。
そのまま手を下げて制服をはだけさせた。

「はぁ……はぁ……。」

形のいい胸が杏子の目の前に現れ、ごくりと唾を飲む。

「さやか……起きろよ……なぁ……でないと、大変なことになっちまうぞ……。」

息を荒くした杏子は、そのままさやかの乳首にしゃぶりついた。
柔らかい胸には体温がなく、当然胸の鼓動も聴こえない。
それが切っ掛けで急に我に返ってしまい、杏子はベッドから飛び降りた。
ベッドの端に座り込んで頭を抱えて自己嫌悪に陥る。

「……なにやってんだよ、あたしは。」


―――それは、佐倉杏子が魔女と化した美樹さやかと心中する前夜のお話。








「……うぅっ……。」

――――今のはなんだ?

なんで戦っている最中にあんなこと思い出している?

そうだ、あたしは。
魔女になったさやかと一緒に死んだと思ったら、二人でこの会場に飛ばされてて。
一緒に歩いてたら白ひげ海賊団の二番隊隊長エースってやつに出会って、情報交換して。
そしたら急にさやかが暴れだしてエースを攻撃し始めて、あたしが止めても聞かなくて。
それに怒ったエースがさやかを殺そうとしたから、あたしが相手になって。
エースの奴を止めようとしたけど、どんだけ突いても切っても空気を斬るみたいに槍がすり抜けて。
そしたら後ろに回り込まれて首を手刀で思いっきり叩かれて。それで。

―――気を失った?

そうだ、

あたしは何秒寝てたんだ!?


さやか。

――――さやかは!?


「―――気絶したか?……悪いな。」

倒れている杏子の頭上からエースの声が聞こえる。
腕から出る炎で自分に向かって飛んでくる車輪を次々と燃やしながら、
エースは攻撃を繰り出している主である人魚の魔女を睨み付けた。

「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」 
「杏子、アンタがこの化け物を制御できないってことは良くわかった。
 少し気が引けるが、こいつは倒させてもらうぞ。」

エースの右腕に、炎の塊が集まる。
アレをぶつけられたら、魔女はひとたまりもなく灰塵と化してしまうだろう。

「喰らえ―――火拳!」

(……畜生ぉぉぉ!!!させるかぁぁぁ!!!)

エースが魔女に向けて炎の塊を放つと同時に杏子は跳ね起き、
魔力で強化した脚力で火球の軌道上に向かって飛んだ。

「何っ!?」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!さやかは死なせねぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

火拳が魔女に当たる前に、先回りした杏子に直撃し、激しい爆発が巻き起こった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

爆撃でディバックが吹き飛び、中身が空中にばら撒かれる。
火達磨になった杏子を見て、エースは驚愕の表情を浮かべた。

「自ら当たりに行っただと!?お前、なんでそこまで!?」

爆音で聴覚を破壊された為、その疑問は聴こえているのか聴こえてないのか。

(……ホント、なんでだろうな……?)

全身を炎に包まれた杏子は自問自答する。



――――なんで、あたしはここまでするんだろう?

――――あたしはさやかをどう思ってるんだ?

――――さやかが昔のあたしに似てたから。

――――正義の為に戦うさやかは、夢を無くしたあたしの最後の希望で。

――――あたしは。



『アンタがこの化け物を制御できないってことは良くわかった。』



――――畜生っ。






ゆっくりと地面に落ちながら、エースの吐いた一言を思い出して静かに怒りを燃やしていた杏子は、
その後ろでディバッグからばら撒かれた黒い球体のようなものが人魚の魔女にカツンと音を立てて
当たったことに気付かない。その直後に、魔女のあちこちからヒビが入りだしたことも―――。







効果は弱いが自動修復でなんとか動けるまでに回復した杏子は
ゆっくりと立ち上がり、ぼんやりする視界に映るエースを睨み付けた。
「おい……さやかが化け物だと……?てめぇ……さやかの良さがわからねぇだと……?」

それを聞いているエースは何やらとてつもなく驚いた表情を浮かべて動きが停止している。
一体何が不思議なのだろう?致命傷をおった筈の自分がすぐに立ち上がったことがそんなに
驚くことなのだろうか?ならばもっと驚くことをしてやろう。
そう考えた杏子は髪飾りを外した。

「あたしが槍でどんなに攻撃しても自分には効果がない。だからあたしには自分は倒せない。
 そう思ってんのか?エース。」
「……杏子?ま、待て!何をする気だ?」

紅く発光し始めた髪飾り――自らのソウルジェムを拳の中に握りしめた杏子は、
エースに向かって一直線に突撃した。

「魔法少女を舐めんじゃねぇ!!!!!」
「待て!!杏子!!違うんだ!!落ち着け!!……てっいうか!後ろ見ろ!!後ろぉぉぉ!!」
「うるせぇぇぇ!!!鼓膜が破れてて聴こえねぇんだよぉぉぉ!!!」

振り下ろした拳がエースを貫いたと同時に爆発が起き、エースが血をぶちまけながら後方へ吹き飛ばされた。

魔法少女の最終奥義。ソウルジェムに詰まった魔力を開放する、いわば魂の爆撃。

全力で使えば確実に命を落とす一撃である。いくら自然系の能力者とはいえ受け流せる筈がなかったのだ。



◆ ◆ ◆


――――う、う~ん。

――――……アれ?

――――……ここは……ドこ?

――――……アタシは……誰?

――――……アタシは……

「――――美樹、さや、か。」

――――……ソウダ、それガ、アタシの名前。

――――……なにを、シてたんだっけ?

――――……確カ、ホールでバイオリンの演奏を聞いてて、

――――……そしたら変な奴らがアタシの邪魔シに来て、

――――……変な奴の一人ガ……

『一人ぼっちは寂しいもんな、あたしが一緒にいてやるよ。』

――――……アイツの名前は……

「――――杏、子。」

徐々に意識の回復してきた「彼女」は頭をふらつかせながら上半身を起こす。
「彼女」の周囲にはなにやら砕けた甲冑の破片のようなものが散らばっている。
不意に、頭を触ると甲冑の鉄仮面の一部がくっついていることに気付いた。
なんかこれを外すといろいろ体に悪そうな気がしたので気にしないことにしたが。
だんだんとぼやけた視界が戻ってくる。
なにやら、少し離れた場所に人が立っているのが見えた。
遠くからでもわかる。あれは杏子だ。
確かアタシはアイツが大嫌いだったような気がするんだけど、
なんかそうじゃなかったような気もする。
訳わかんないからアイツに色々聞いてみよう。
つーかあたしが一緒にいてやるよってどういう意味だぁ!?プロポーズかよ!

「ねぇ杏子!……杏子?」

よく見ると全身がぼろぼろになっている杏子は、ふらふらと体を揺らしてその場に倒れこんだ。
それを見て「彼女」―――美樹さやかは大きく目を見開く。

「ちょっと!!!!!なにやってんのよ!!!!?」

慌てて駆け出し、倒れこんだ杏子を抱きかかえた。

「ねぇ!!!何があったの!?しっかりしてよ!!!杏子!!!!」


◆ ◆ ◆


――――……うぅっん……?

――――……なんだ?幻聴か?

――――……なんかさやかの声が聞こえるような……?

――――……あーあ、やっちまったなぁ……。

――――……もう魔力がスッカラカンだ。

――――……ソウルジェムもヒビが入っちまったかな。

――――……ごめんな、さやか。なんとか方法を探して人間に戻してあげたかったけど

――――……どうしても、我慢できなくてさ。

――――……恭介?あの糞野郎は見る目がないぜ。

――――……さやかはあんなに可愛いのに。


「ねぇ!!!何があったの!?しっかりしてよ!!!杏子!!!!」


――――……え?

――――……なんで?

「……あ……あぁ……。」

――――……夢、なのか?

――――……違う、そんな筈ない。

「気付いた!?良かった!待ってて!すぐ怪我を治してあげるから!」

――――……さやか。

――――……あたしは、さやかに会えたのか?

「……う……うあぁ……。」

――――……あぁ、そっか。

――――……あたしがさやかをどう思ってるかなんて、すっげぇ簡単だったんだ。

――――……あたしは、さやかが好きなんだ。

「くそっ!なんで治らないの!?これじゃ杏子が!!」

――――……じゃあ、伝えなきゃ。

――――……でも、ダメだ。もう。

――――……もう、ソウルジェムがもたねぇや。

――――……畜生。

――――……やっと気づいたのに。

――――……これから素直になれるのに。

――――……畜生ぉ。

杏子のソウルジェムにひびが広がっていく。

――――……畜生ぉぉぉぉぉぉ!!!さやかとセックスしてぇぇぇぇぇぇ!!!

絶望には鮮度がある。人は希望を目の前にしている時こそ、最も深い絶望を感じるのだ。

―――……呪ってやるっっ!!!この世のすべてをっっ!!!呪ってやるぞぉぉぉ!!!

―――……くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!

ソウルジェムが砕ける寸前、杏子の絶望を吸い付くしたそれは急速に濁りきり、

孵化した。


◆ ◆ ◆



「……な、なに……?」

突然巻き起こった爆風に吹き飛ばされたさやかは腰を上げる。
少し離れた場所で、変身が解除された杏子が倒れているのが見えた。

「……そんな……嘘でしょ……?」

考えたくはない、でも。杏子が死―――。

「うぅ……なんだ……?生きてるのか、俺は?」

杏子より更に離れた場所で、カウボーイの帽子をかぶった半裸の男がふらふらと立ち上がろうとしていた。
そうだ、なぜ杏子はあんなにボロボロだったのか?誰かと戦っていたのだろう。
さやかは、その男を睨み付ける。

「アンタが、やったの?」

「……あぁ?……済まん。意味が分からんことが起こり過ぎて混乱してるんだ。
 ……お前、さっきまで俺が戦ってた怪物……か?とりあえず、話を―――。」

エースの体を、何者かが背後から貫いた。

「……がっ……!?」

貫いている物、自然系の体に干渉しているその槍は、何か炎のようなものが先端に宿っている。
血を吐きながらエースはゆっくりと振り向く。

「……なんだ……お前は……!?」

そこに居たのは、人魚の魔女とはまた違う新しい怪物。
巨大な馬に跨った、蝋燭のような頭部を持つ中華風の衣装を着た異形の騎馬兵。

その様子を見たとき最初は驚いていたさやかだったが、本能で状況を理解したのか、
にやりと笑みを浮かべ、右手に剣を召喚した。

「ナーイスアシスト、杏子。」

そして、串刺しにされたまま高く掲げられたエースに剣の切っ先を向けて、

「――――――虚閃(セロ)。」

その言葉を言ったと同時に剣から放たれた光線がエースに降り注ぎ、
ポートガス・D・エースは肉片ひとつ残さずこの世から消滅した。


◆ ◆ ◆


一頭の巨大な馬が、会場を虚ろな足取りで彷徨っている。

「あーあ。ねぇ杏子、これからどうしようか?」

武旦の魔女、オーフィリアは親しげに話しかける少女の問いに答えない。
自棄の魔女は、もう自分が何者だったのか思い出せない。
だが、この魔女なのか魔法少女なのかよくわからない少女を一緒に馬に乗せている
ことには特に疑問を抱いて居なかった。

「はぁ、この黒い宝石みたいなの使えば杏子も元に戻れるのかな?
 でもなんか体にめりこんじゃってるし……。」

覚醒してきた意識と、今の杏子の状態をみてなんとなくだが今の自分の状況を理解し把握するさやか。

「ま、いっか。なんとかなるよっ。」

そう楽観的に言い放つと、さやかは物言わぬ魔女の胸にもたれかかった。
ここがどこで、今何をしているのかまだはっきりとわからない。


……でも、きっと。


「この世には、奇跡も魔法も、一杯あるんだから。」




【ポートガス・D・エース@ワンピース 死亡】




【B―3/1日目・早朝】

【美樹さやか@魔法少女まどかマギカ】
【状態】健康、 魔女化(オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ)、破面(アランカル)化
【装備】 回帰刀、崩玉
【持ち物】ランダム支給品3~11、 基本支給品一式
【思考】
基本: 杏子を人間に戻す方法を探す
1:まどかとマミさんとほむらを捜す
2:情報を集める
【備考】
※9話で無理心中した直後から参戦です。
※杏子のディバッグに入っていた崩玉の力で破面化したことにより自我を取り戻しました。
※回帰(レスレクシオン)することで魔女本来の力が使えるようになります。
※崩玉と一体化しています。そのことによる影響は今のところ不明です。


【佐倉杏子@魔法少女まどかマギカ】
【状態】 魔女化(オーフィリア)
【装備】
【持ち物】
【思考】
基本:虚無を抱えて会場を彷徨う
1:なんだかよく分からないが同行してくれているこの少女を護る
【備考】
※9話で無理心中した直後から参戦です。



怪物攻略戦 時系列順 アクセス
アクセス 投下順 チーズは何処へ消えた?
赤と紅の邂逅 美樹さやか Love me do! Look at me!
赤と紅の邂逅 佐倉杏子 Love me do! Look at me!
赤と紅の邂逅 ポートガス・D・エース GAME OVER

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最終更新:2014年08月05日 21:40