ここは魔女の結界の奥深く。演奏会場のホール。
椅子に座って大きな体をゆらゆらと揺らしながら私は使い魔達の演奏を聴き続ける。
全員バイオリン演奏者だけで構成した完璧な布陣だ。
恭介の姿をした使い魔は恥ずかしいから結界の奥深くにしまっている。
今の私は立派な甲冑に身を包んだ巨大な騎士様。
リボンをつけてるから少しは女の子らしく見えるかな?
でもすごくマッチョだ。確かに正義の味方になりたいとか言ってたけどさ。
もうこんな体じゃもう恭介に抱きしめてなんて言えない。
キスしてなんて、言えないよ。
私は人魚姫。声が出なくて王子様に好きだと言えなかった人魚姫。
役目を果たした私は、絵本みたいに泡になって消えていくんだ。
だから私は消えるまでここで引き籠って恭介のバイオリンを聞き続けるの。
そうしてると誰かが使い魔を蹴散らしてホールに火を放ってきた。
誰?邪魔しないでよ。
「―――やか。」
そいつはポニーテールの紅い騎士。どこかでみたことあったかな。
「―――さやか。」
ああ、思い出した。あいつだ。
ははっ。偉そうなこと言っちゃったけど、やっぱりアンタが正しかったよ。
私みたいな普通の女の子が無理矢理正義の味方のふりをしてたらこうなっちゃった。
笑っていいよ。そしてそのまま怒り狂って、私を殺しちゃえ。杏子。
「―――心配すんな、あたしが結婚してやるよ、さやか。」
はい?
「さやかはあたしの最後の希望だったんだ。」
そういいながら杏子はいつの間にか人間サイズになっている私を抱きかかえた。
「さやかを助けるためなら、あたしはなんでもしてやるよ。」
どんどん顔が近づいていく。あれ?こいつこんなに恰好良かったっけ?
―――て、ちょっとまって!なにが起きてるの!
ちょ!まっ!
◆ ◆ ◆
「わぁぁ!?」
馬の上で涎を垂らしながら気持ちよさそうにうたた寝していた
美樹さやかは慌てて飛び起きた。顔は真っ赤に上気している。
ゆっくり振り向いて彼女の後ろに居る武旦の魔女オーフィリアの
様子を見ると、蝋燭の火のような顔が怪しく揺れていた。
恐らくさっきの夢はこいつが無意識で発動していたの能力の一種なのだろう。
「はぁ……あんたねぇ。」
さやかは呆れて息を吐いた。なんて執念。もう魔女になって自我なんか残って無い筈なのに。
「ねぇ、なんでそんなに私のこと好きなの?」
思い返せば教会で身の上話を聞いて別れた時から杏子の様子はおかしかった。
つい先日まで自分のことを殺そうとしてたくせに魔女やほむらに殺されそうになった
私を助けに来たり。そういえば人間だった頃の最期の時も彼女は自分の傍にいた。
どうやって居場所を突き止めたんだろう?ずっと捜してくれてたのだろうか。
「ひょっとして、私があんたの理想の正義の味方だとでも思ってたの?
残念!私はごく普通のすぐ消えちゃう類の雑魚魔法少女でしたー。
ははっ、幻滅しちゃった?」
自虐気味に笑うさやかの問いにオーフィリアは答えない。
自分が目を覚ました時も杏子は戦っていた。自分を護ってくれていたのだろうか?
自分は魔女になってる間の杏子の記憶なんか全然ないのに。
いつの間にか、目から何か熱いものが流れている。
「ねぇ……ねぇ?」
「―――なにか言ってよぉ!杏子!」
さやかは、無言のオーフィリアに抱きついた。
「私……私……!恭介のことばかり考えてて!
なんで自分だけが不幸になるんだろうってばっか思ってて!
……あんたの気持ちなんて!全然分かんなかった!
なにも……あんたまで!私なんかの為に死ぬことなかったじゃない!
そんな姿になる前に!ちゃんとはっきり私に好きだって言いなさいよ!!
……ちゃんと言ってくれなきゃ……分かんないわよ!私……馬鹿だもん!!
……ごめん……ごめんね……杏子……。」
言葉を理解しているのかしていないのか、オーフィリアは自分の胸で泣き崩れている
さやかに伸ばそうとした手を不意に止め、こちらに近づいてくる何者かに注意を向けた。
「杏子?……え?」
「■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!!!」
それは、二本の角を生やした鬼だった。
自分の力を制御できずひたすら暴れて回るだけの存在となった虚化した一護が
咆哮を上げながら二人に向かってきている。
オーフィリアは何もない空間から三体の使い魔を召喚した。
その三体は一護の元へ走りながらみるみる内に姿を変えていく。
いつの間にか、オーフィリアと同じ姿になった使い魔達が槍を持って
三方向から一護を包囲して襲い掛かった。
その攻撃は、かつて杏子が使っていたロッソ・ファンタズマと呼ばれる技に似ていた。
「おおっ!やるじゃない杏子!……え?」
三位一体の槍撃が対象を貫いたと思われたその時、一護は急激に飛び上がって
手に持った漆黒の刀、斬月を何度も素早く薙ぎ払った。
瞬く間にバラバラに切断され崩れ落ちる三体の使い魔達。
「……何あいつ!?よーし!私が相手だ!」
さやかは馬から降りて迫りくる一護の前に立ちはだかり剣を構えた。
オーフィリアは何か言いたそうにさやかの方を見ている。
「ん?心配してくれるの?大丈夫!多分前よりパワーアップしてるから、私。」
そういってさやかは頭に張り付いてる仮面跡をコンコンと叩いてアピールした。
「お返しだよ。今度は私が守ってあげるからね、杏子。さぁかかってこい!」
足に魔法陣を召喚し、ブーストを掛けて一護に突撃するさやか。
間合いに入ったので両手で剣を振り下ろすが、手ごたえを感じず空を切る。
「あれ?」
瞬時に姿勢を低くした一護が、いつの間にかさやかの懐に潜り込んでいた。
「くっ!虚閃(セロ)!……え?」
慌てて剣の先端から光線を放とうとするさやかより先に、一護の持っている刀が輝き始めた。
その光は一筋の光となって――――。
「こいつも?―――うわぁ!?」
斬月から放たれた月牙天衝がさやかの上半身に降り注ぎ、一瞬で灰塵にして半身を消し飛ばした。
残ったさやかの下半身が切り口から煙を上げてその場に崩れ落ちる。
「―――――――――!!!!!」
その光景を目撃したオーフィリアは、声にならない悲鳴を上げた。
◆ ◆ ◆
―――ん?
なんだここは?
俺は今まで何をしていた?
確かさっきまで垣根提督とかいう奴と一緒にデカイ怪獣と戦ってて。
そいつに付き従ってる暁美ほむらとかいう女に腕を腕を斬られたんだよな?
そっから記憶がないぞ?
徐々に意識が回復してきた一護の本来の人格は目の前に広がる光景をみて、絶句する。
(……な!?なんだこりゃ!?)
目に前に、上半身のない少女の死体が転がっていた。
その奥には天を仰いで咆哮する馬に乗った怪物の姿が見える。
(なんだこれは!?お、俺がやったのか!?)
焦燥する一護は自分の状態をだんだん理解し始めた。
今、自分はもう一人の自分、虚の人格に乗っ取られている。
死の淵に瀕した時無意識で覚醒したのだろうがそのせいで見ず知らずの少女に
襲いかかり結果的に殺してしまったというのだろうか。
(畜生!なんてこった!渡さねぇ!渡さねぇぞ!てめぇにこの体は渡さねぇ!)
一護は気を強く持ちもう一つの人格に抵抗する。
(勝手なことしてんじゃねぇぞ!……ん?)
ふいに、目の前の上半身のない死体に違和感を感じた。
(どういうことだ?この死体、まだ霊圧がたっぷり残ってやがる。)
すると、突然、
下半身だけになったさやかが、そのままの状態で跳ね起きた。
(!!!!なにぃ!?)
立ち上がった下半身の切り口がぼこぼこと泡立ち、肉塊が生えてくる。
内蔵が脈打ち骨格が構築され筋肉が巻き付き皮膚が張り付いて、
あっという間に、中学生くらいの青い髪の少女の姿が再現された。
「……痛いなぁ……なんてことしてくれんのよ。」
再生が終わったさやかは首をコキコキとならして一護を睨み付ける。
―――癒しの光。
魔法少女になった美樹さやかが契約時に身に着けた固有魔法である。
この能力により彼女は通常の魔法少女より再生能力が優れている。
更に現在彼女は破面化しており、その上なにかの不可抗力で崩玉との一体化を果たしていた。
つまり、今の美樹さやかの魔力量と再生力はほぼ無尽蔵に近い。
「……もう許さないわよ。」
さやかは一護に向かって剣を振り下ろす。虚化した一護は反射的にさやかの腕を斬り落とすが
無くなった腕でそのまま殴りつけてきた。血しぶきと共に一護の仮面にヒビが生える。
明らかに動揺している一護は体勢を立て直しさやかの頭部を刀で跳ね飛ばす。
だが首のないさやかは跳ね飛ばされた頭部をキャッチしてそれをそのまま一護の顔面に叩きつけた。
ぐしゃりという頭蓋骨が砕ける音と共に、仮面の一部が破壊された。
「あはっ!本当だ!その気になれば、痛みなんて完全に消しちゃえるんだ!」
既に頭部が元に戻っているさやかはケラケラと笑う。
(うわぁ!なんなんだよ!こいつは!?)
恐怖を感じている一護は、いつの間にか体の自由を取り戻している事に気づく。
「も、戻った?……あ!アイツ逃げやがったな!くそ!こんな時に!」
さやかが落とした剣を拾っている隙に、一護は背中を向けてその場から全力で逃げ出した。
「くそぉ!冗談じゃねぇ!」
こちらも本気で戦えば倒せるかもしれない。
だがそもそもこちらに戦う意思など最初からないのだ。
「逃げるの?……最低!あんたより杏子の方が全っっ然男らしいじゃない!」
怒りに満ちた表情のさやかは離れていく一護に向けて掌をかざした。
「……逃がすかっ。」
突然、一護の腹部に魔法陣が出現した。
「なんだこれは!?……な、なにか……ヤバい!?」
咄嗟に、一護は斬月を腹に突き刺し、魔法陣が発生している部分の肉を抉り取った。
「ぐあぁ!!」
激しい痛みが一護に襲い掛かるが、別にトチ狂ったわけではない。
恐らく一番被害が少ないであろう方法を選択しただけである。
パーーーン!
抉り取った腹部の肉が地面に落ちる前に、発生した魔法陣から無数の剣が放射状に飛び出した。
恐らく放置していれば体内から全身を細かく切り刻まれていたのだろう。
「ぐうっ!?」
だが飛び出した剣の何本かは傍にいた一護の体中に突き刺さり、勢いよく吹き飛ばされる。
飛ばされたその先には、下流に向かって流れる河川。
激しい音と共に飛び込んだ一護はそのまま血を流しながら流されていった。
◆ ◆ ◆
「あーあ。逃げられちゃった。」
河原に立ち尽くしたさやかは深く溜息をついた。
「……ははっ、恭介や仁美が今の見てたら、なんて言ったかな?」
確かに強くなっているが、相変わらず杏子やマミさんのような技術は身についてない。
自分が戦うには煙のようにしつこく相手に這いつくばってまとわりつくしかない。
こんな戦い方する正義の味方なんて、いるもんか。
「……?杏子?」
不意に後ろを向いたさやかは、オーフィリアの様子がいつもと違う事に気づく。
何か、槍を天に掲げて全身で喜びを表現しているような。
死んだと思ってた私が生きてるのが嬉しいのだろうか?
「……あっ。」
下を向いたさやかは今の自分の恰好を知る。
上半身を吹き飛ばされた時に服の再生を忘れていたのだ。
露出されたそれなりに張りがいい双丘がぶるんと揺れる。
「……あ、あんたねぇ……。」
両腕で胸を隠したさやかは少し怒った後、ふっと優しく微笑んだ。
「ねぇ、そんなに嬉しいの?こんな化け物のおっぱいなのにさ。」
オーフィリアは踊りながらこっちに近づいてくる。
魔女に自我は無い。しかし、もしかしたら自分が魔女の結界の中で
バイオリンの演奏を聞き続けていたように、魔女になった杏子は
自分と幸せに暮らしている夢をいつまでも見続けているのかもしれない。
さやかは、両手を前に伸ばして笑う。
「ほら来て、わたしはここだよ、杏子。」
佐倉杏子。
世界でたった一人の、私の為だけに死んでくれる人。
こんな姿になっても、いつまでも私を愛してくれる人。
さやかはオーフィリアをゆっくり抱きしめた。
「しょうがないなぁ。これからは私がずっと一緒に居てあげるからね、杏子。」
◆ ◆ ◆
海辺の近くで、瀕死の重傷を負って流されてきた黒崎一護が倒れている。
彼のもとに、一人の男が近づいてきた。
「――――ほう、これも何かの縁でしょうかねぇ――――。」
仕込み杖を持った盲目のその男は一護を引っ張り上げた。
「……うぅ、アンタ、一体?」
「いやぁ、名乗るほどのモンじゃねぇ。」
本部からサカズキ元帥失踪の報告を受け、嫌な予感がしたので
急遽任務を放棄してドレスローザから急いでロワ会場まで避難してきた
勝新太郎のような顔をした座頭市は満身創痍の一護の顔を無言で見つめた。
【B―5/1日目・昼】
【美樹さやか@魔法少女まどかマギカ】
【状態】健康、 魔女化(オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ)、破面(アランカル)化
【装備】 回帰刀、崩玉
【持ち物】ランダム
支給品3~11、 基本支給品一式
【思考】
基本: 杏子を人間に戻す方法を探す
1:まどかとマミさんとほむらを捜す
2:情報を集める
【備考】
※9話で無理心中した直後から参戦です。
※杏子のディバッグに入っていた崩玉の力で破面化したことにより自我を取り戻しました。
※回帰(レスレクシオン)することで魔女本来の力が使えるようになります。
※崩玉と一体化しているため再生能力が強化されています。
※魔法少女時にソウルジェムがあった場所に、孔が開いています。
【佐倉杏子@魔法少女まどかマギカ】
【状態】 魔女化(オーフィリア)
【装備】
【持ち物】
【思考】
基本:虚無を抱えて会場を彷徨う
1:なんだかよく分からないが同行してくれているこの少女を護る
【備考】
※9話で無理心中した直後から参戦です。
【A―7/1日目・昼】
【黒崎一護@BLEACH】
【状態】 疲労(大)ダメージ(大) 、腹部損傷
【装備】 斬月
【持ち物】ランダム支給品0~2、基本支給品一式
【思考】
基本: 主催を倒して元の世界へ帰る
1:知り合いと合流。ウルキオラは保留。
【備考】
※参戦時期未定。ですがウルキオラとは会っています
※普段より霊圧を感じられません。一エリア。もしくは二エリアが限界です。
※侘助に疑問を持っています
※放送を聞き逃しました
【藤虎@ワンピース】
【状態】 健康
【装備】 仕込み杖
【持ち物】
【思考】
基本:避難先の会場で大人しくしておく
1:とりあえず一護の手当てをする
最終更新:2014年12月31日 20:14