マヌケな笑顔だった。
承太郎が幾ら脅しをかけても、ヴァッシュのそれは変わらず、ラヴ&ピースという己の意見をも改めることをしない。
こうまで戦意の無さを見せられては、さすがの承太郎も攻撃の意志が挫けてしまうもの。
彼はしょうがない、と溜息を吐き、まずは手の代わりに、口を開いてやることにした。
「……安心しな。手加減はしてやる」
直後、承太郎のスタープラチナによる怒涛の拳のラッシュが、ヴァッシュに襲い掛かった。
寸前で攻撃の意志に気がついたヴァッシュは、間一髪とはばかりに横に転がり、回避。
しかし、それに安堵するよりも先にヴァッシュの口から、抗議の声が勢いよく飛び出た。
「ちょ、ちょっと、さっき手加減するって言わなかった!? 今の当たってたら、僕、死んでるよ!!」
その言葉が真であると示すように、ついさっきまでヴァッシュが背を預けていた大木が、承太郎の攻撃によって粉々となって横に倒れた。
だが、そんなヴァッシュの悲痛なセリフを無視して、承太郎はギロリと氷のような冷たい目で応える。
「てめえ……スタンド使いか? ……スタンドを出す素振りを見せねえのが、ちと気になるが……次は本気で行くぜ!」
無遠慮で、猛々しく、それでいて清々しいほど真っ直ぐとした闘志の発露。
それを浴びせかけられたヴァッシュは、先ほどとは違って声を重くし、苦渋の表情を浮かべながら、承太郎に話しかける。
「……やっぱり話し合いは無理なのかい?
DIO様からは君を始末するように言われているけれど、
それでも僕は闘うこと以外で、君を知り、君の事をDIO様に伝えたいんだ!!」
「やれやれ、勘違いしているようだから、一つ教えといてやる。その空っぽの頭に、よく叩き込んでおきな!」
「な、何かな?」
「DIOは、てめえほど脳天気じゃねえんだよ!!」
「オラッ!!」という掛け声と共にスタープラチナの豪腕がヴァッシュの胸板を強打し、後ろへと吹っ飛ばす。
しかし、それよりも早くヴァッシュの抜き打ちの射撃音が響き、一発の銃弾が承太郎の左肩に突き刺さったのであった。
「承太郎、君のその力には銃でしか対抗できない。まだ暴れるというのなら、この銃で動けなくしてから、DIO様のところに連れて行くよ?」
口の端から漏れ出た血を拭いながら、ヴァッシュは最後通牒を突きつけた。
マヌケというよりは、どこかやるせない、哀しい笑顔。
だが、それを飾るヴァッシュの瞳は、哀惜とは無縁のように毅然と前を向き、どこか輝いてすらいた。
きっとそこには折れることの無い強靭で、苛烈な意志が込められているのだろう。
スタープラチナでさえ、反応できないヴァッシュの神速の銃撃も相まって、それは十二分の脅威ともいえる。
しかし、承太郎は何ら遠慮なく、怪我の痛みなど物ともせず、ヴァッシュへと力強く歩みを進めていくのであった。
再びスタープラチナと銃弾が交差する。
あわやそんなシーンを再現されようかという所で、二人の行動は止まった。
大魔王バーンによる
第一回放送である。
「……ウルフウッド……」
バーンの放送を後にして、銃弾の代わりにヴァッシュの苦悶に塗れた声が漏れ出た。
親友、戦友、盟友。彼自身にとっても、どう表現していいか分からない大切な人の死。
一度は経験したものだ。決して受け入れられないというわけじゃない。
だけど、どうしようもなく哀しくて、どうしようもなく重い。
そんな感傷がヴァッシュの心の中で蹲ろうとした矢先、それを邪魔するかのように
突如として、木々を震わすかのような大きな銃声が立て続けに響き渡った。
聞き覚えのある音。この世にして、二つしかない武器。故にその答えをヴァッシュは容易に得る。
リヴィオの二重牙(ダブル・ファング)の咆哮だ。
断続的に、けたたましいほど響くそれは、リヴィオが如何に熾烈な戦闘に身を置いているかを、如実に分からせてくれる。
リヴィオはウルフウッドが命を賭けて救い、守った人間だ。そんな彼が危険であるというのなら、ただ黙って座視などはできない。
目の前の承太郎は一先ず後にして、リヴィオを助けに行こう。そう判断して、駆け出そうとした瞬間、ヴァッシュに変化が訪れた。
強烈な吐き気である。何だと思う間もなく、胃から酸っぱいものが込み上げ、地面へと吐き出される。
悪臭漂う中で、ヴァッシュは唐突に理解した。このまま承太郎を放っておくのは、自らの主であるDIO様へのひどい裏切りだ、と。
DIOへの背信は、今のヴァッシュにとって、自らの根幹となるアイデンティティーの否定でしかない。
そしてその心理的作用は、激烈なまでに身体に影響を与え、今の醜悪とも言える状況を引き起こしてしまったのだ。
ヴァッシュは慌てて承太郎の方に振り返り、再び銃を構える。
それと共に身体を支配する気持ち悪さが消え、楽になっていくのを感じた。
と同時に、またしても自らの礎を揺るがすような違和感を、ヴァッシュは覚えてしまった。
人に銃を向けて、心が軽くなる。今まで一度として感じたことのない歪な感情の働きだ。
「ぼ、僕は……何だ? 何かを……され、た……のか?」
ヴァッシュの中で、疑問が嵐のように吹き荒れた。
だが、肉の芽によって、忠誠心を高められた今、それを植えつけたDIOという解答が思い浮かばない。
故に当て所ない烈風がヴァッシュ自身を切り刻み、幾つもの傷を与えていく。
気持ち悪い。全てを投げ出したい。考えるのを止めたい。
あまりに苛まれる自己矛盾に、ヴァッシュが逃避的な感情を抱きだすと、今度はそれは許さんと
彼を追い討ちするかのように大きな爆発音が生じ、次いで身を焼きかねん熱風が届けられた。
方向からして、リヴィオがいる所。
爆発の規模がからして、状況は逼迫しており、予断が許される情勢ではないだろう。
つまり、リヴィオの命が、ウルフウッドの願いが今、まさに消えようとしているのだ。
「行かなくちゃ、だよね……」
命の危機を前にして、揺れ動いていた天秤が、ようやく片方へ傾く。だけど、それは僅かな傾斜に過ぎない。
決断した筈のヴァッシュの足取りは重く、挙げ句、その足は身体をろくに支えることすら出来ない。
未だに承太郎に意識が引きずられるし、精神を撹拌されたかのように、どろどろとした不快さが身体の中に残る。
DIOの支配は生半可ものではないのだ。それに抗おうとすれば、それ相応の代償を伴う。
だけどそれでも、とヴァッシュは命に牙を向けるのではなく、救いの手を差し伸べる。
「……野郎」
と、思わず承太郎は呟いた。
承太郎と敵対していたヴァッシュは、いきなり嘔吐し、苦しみだし、そしてあろうことか敵に背を向けて歩き出していったのだ。
意味不明である。DIOの部下としては、到底許されない、あるまじき行動だ。
命を惜しんでの逃走だとしても、勝敗の目は、どちらにも出てなかったし、その手段もあまりに覚束ない。
正直、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードは狂ったのではないかというのが、承太郎の印象だ。
だが、そこで承太郎は、ふとポルナレフのことを思い出した。
彼はDIOによって肉の芽を植えつけられても、高潔な精神を失いはしなかった。
もしかしら、DIOの怨敵を目前に逃走を選ぶヴァッシュも、ポルナレフのように肉の芽でも自分を見失わなかった結果なのではないだろうか。
頭によぎったそんな考えを承太郎は一笑に付した。
脳に直接影響を与えるDIOの呪縛すらも寄せ付けない強固な信念や精神など、あの惨めな逃走からは窺えない。
そもそもDIOの部下が全員肉の芽を植え付けられているというのもナンセンスな話だ。
単純に金銭によってDIOと結びついたということも、十分に有り得る事だし、それなら闘い――命の投げ合いに拘らないことにも納得がいく。
というか、そう考えるのが、自然だ。ヴァッシュのあの姿も、命の危険に怖気づいてのことなのだろう。
「……さて、どうするか?」
スタープラチナで左肩の銃弾を取り除き、銃創の応急処置を簡単に行いながら、承太郎は頭を悩ませた。
ヴァッシュの様子を見るに、DIOとの闘いに邪魔をしてくるとは思えない。
夜に闘っていた
ヴァニラ・アイスも、今は昼間で外を出歩けない。
ならば、日の出ている今の内に、DIOがいる市街地へ行き、倒すのが先決と言える。
しかし、DIO一味を放り出していても、DIOと同様に他の人間への被害が危惧される。
一体どうするべきか。承太郎は遠ざかるヴァッシュの背中目掛けて、忌々しそうに舌を鳴らして、二つの選択肢の吟味を始めた。
【一日目 朝】
【現在地 B-5 弾薬庫付近の森】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
【状態】肉の芽による洗脳、胸部打撲、強烈な吐き気、倦怠感
【装備】ヴァッシュの銃@トライガン・マキシマム (残弾5/6)、予備弾セット(ヴァッシュの銃の銃弾残り24)
【道具】支給品一式
【思考】
基本 殺し合いの打破、DIOに忠誠を示す
1. リヴィオを助ける、皆の戦闘を止める、D-3の市街地に皆を集める
2. ジョースター一行とDIOの部下を探す
3. ナイブズにDIOを紹介する
【備考】
※ジョースター一行とDIOの部下の情報を得ました
※肉の芽はDIOへの忠誠を高めるだけのものです
【
空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】肉体疲労(小)、精神疲労(大)、左肩銃創
【装備】裾が削り取られた学ラン、パチンコ玉(残り80コ)@ジョジョの奇妙な冒険
【道具】ランダム支給品、支給品一式
【思考】
基本 DIOとバーンをぶちのめす
1. DIOのところへ行く or ヴァッシュとヴァニラ・アイスをぶちのめす
2. ジョセフのじじいとポルナレフを探す
【備考】
※精神疲労やテンションの度合いにより、時の停止時間が変化します
【支給品情報】
予備弾セット
参加者に支給された銃火器の予備弾が、それぞれ30発ずつ。
最終更新:2014年05月03日 00:25