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仲間のもとに駆けつけようと逸る足を、ポップは必死になって止めた。


「クールだ! クールになるんだ、ポップ! 魔法使いの役割は、状況を冷静になって見渡すこと! ダイや皆の心配は後でいい!」


急転直下とも言える状況の変遷。それによる混乱、またそれを早く理解しようとする焦りは、決死の覚悟をもってバーンパレスに侵入したポップの心をしても、容易にかき乱した。しかしそれでも何とか師であるマトリフの言葉を思い出し、自らの内にある錯雑とした感情を抑え付けると、ポップはようやく今の状況を省みることができた。


「まず一番の問題はおれたちにかけられた禁呪だな。これがある限り、バーンには逆らえねえ。だが、逆に言えばそれさえ何とかすりゃあ、誰も殺しあう必要なんざないってことだ。あとはこの島からの脱出だが、そもそも禁呪をどうにかしねえと脱出なんかできねえし、もしこの地図のどこかにバーンがいるなら脱出の必要もねえんだよな。ま、とにかく禁呪だな。それを何とかするのが、魔法使いの役目ってことだ」


浜辺で一人呟きながら、自らの方針を確認する。
無論、いまだ仲間の皆の心配を払拭できたわけではないが、それでも自分のすべきことを理解できた。そしてそれこそが心配すること以上に仲間のためになることも。だからポップは後ろを振り返り、林の奥を見つめながら、自らの道のりを踏破するために必要な誘いの言葉を放り投げることにした。


「つーわけで、色々と手伝ってくれると、ありがたいんだけどな、ヒゲのおっさん?」

「ほう、気がついておったか」


茂みから出てきたのは、顎の無精ヒゲを片手で撫で付ける、体つきのしっかりとした壮年の男だった。髪は黒く、長く伸びたそれは頭頂部で紐で巻き上げられ、ぞんざいに後ろに流すという野暮ったい感じだ。だけどそれとは反対に襟を茶色に、袖を山吹色に染め上げた派手な長着を身に付け、更にそれを映えさせるかのように落ち着いた紺の袴を穿いている。その見慣れぬ衣装と髪型にポップは驚きはしたが、何よりも目を引いたのは、その男の殺気だった。ただ見られているだけなのに、男が佩いている刀によって自分が斬られるのを感じてしまうほどの冷たい殺意をポップは感じてしまったのだ。しかし、幾度もの死線を超えてきたポップが、今更その程度のことで気を挫けてしまうわけがない。ポップは余裕をもって男に答えてみせた。


「まあな。これでもそれなりに修羅場を潜り抜けてきたんでな、結構そういうのが分かるようになってきちまったんだよ」

「ほう」

「それでどうすんだ、ヒゲのおっさん?」

「無論、某と死合ってもらう」

「し、しあっ? てめーはバーンの言いなりになるってえのかよ!?」

「人をうまく斬ることに最早感慨はない。だが、それが強者ともなれば違う。そこにはまた別の面白みがある。それに某はバーンの言うとおりにするつもりは毛頭ござらん。ただ某の在り方とバーンの言葉が、一致していたに過ぎん」


戦闘狂か。その考えに思い至って、ポップは心の中で舌打ちを鳴らした。
バーンの術中に嵌まってしまったといえ、今は人類とバーンが率いる魔王軍との決戦が始まり、お互いの未来を決しようとしている。それなのに自らの欲望を優先させ、戦いに興じるという姿勢は、あまりに人としての責任を放棄しているように思えたのだ。男が他の人間より強いというのであれば、尚更その思いは強い。一体誰のためにダイは頑張っていると思っているのか。そのこと思うと、どうしてもポップの中に苛立ちが湧いてしまった。だけど、その一方で頭を冷静に働かせるポップもいた。単に強い者と戦うことが目的なら、その代表であるバーンがいるし、また自分との戦闘だってバーンを倒した後なら別に問題もない。上手く説得できれば、きっと協力できる。そういった心積もりであったが、それは残念なことにのっけから躓くことになってしまった。


「元よりバーンを斬るのも、某の目指すところであるが、今は純粋にこの死合を楽しもう。
某はGUN-HO-GUNSが9つ……と言っても分からんか。某は次元斬一刀流の雷泥・ザ・ブレード。お相手仕る」


雷泥は最初からバーンと戦うつもりだったわけで、その上でこの場にいる人間との戦いにも意味を見出していたのだ。説得は無理。雷泥・ザ・ブレードが脇目も振らずに自分の道を勇往邁進するのを見て、ポップはその結論を出さざるを得なかった。とはいっても、ポップには殺し合いをするつもりなどない。それならば、とポップは雷泥に取り引きを持ちかけた。


「別にやるってこと自体は構わねえが、その代わりヒゲのおっさん、おれが勝ったら、おれに協力してもらうぜ。そうでなきゃ、おれは絶対に戦わねえからな」

「その提案は命との天秤に吊りあわないと思うが?」

「おれには十分吊りあってんだよ!」

「酔狂な。だが、まあ、よかろう」

「よっしゃー! んじゃ、さっさと始めようぜ!」


子どものように無邪気に破顔してみせるポップ。その様子に雷泥も可笑しく思い、僅かに口の端を吊り上げてみせる。だがさりとて、それで手加減することなどはないし、まして死合をやめることなどはありえない。雷泥は遠慮なく刀の鯉口を切った。そして次の瞬間、雷泥はポップの目の前に現れた。数十メートルはあった間合いを一瞬にして潰す爆発的な加速力。それに対して僅かな疑問を抱くことなく、ポップは雷泥に斬られ、血しぶきと共に地面に転がった。


「お見事。某はお主の胴を切断するつもりであったが、お主は瞬時に腰を捻って皮一枚で繋げたようだな」


雷泥は血溜まりに伏すポップに賛辞の言葉を送った。とはいえ、血塗れにされて、そんな台詞を貰っても、有り難味などはない。現にポップは、真っ先にそれに対して抗議を行った。


「そんなこと言われても、別に嬉しかねえよ」

「なにっ!?」


確かな形で驚愕を見せたのは、雷泥であった。確実に引導を渡す一撃を見舞ったのに、ポップは平然と立ち上がってきたのだ。雷泥は思わず後ずさり、死から蘇るポップを畏怖をもって眺めた。目に映るのは、絶対の死からかけ離れた温かい光。ポップの手の平から太陽のように光が発せられ、それが怪我をした腹部を包んでいたのだ。


「それは……回復しているのか?」

「へへ……意外か? まあ、確かにおれは僧侶や賢者っつー顔じゃねえからな」


僧侶に賢者と、雷泥にはポップが言葉する意味は、まるで理解の及ぶものではなかった。
だが、その二つは人を規定するのものだということは分かる。それならば、その二つを否定する目の前の男は、己を何と定義しているのか。怪我を治すという神にも似た奇跡を行う自分を何と位置づけているのか。雷泥はそのことが気になった。


「それではお主は何だというのだ?」

「……大魔道士」

「なに!?」

「……そう!! おれを呼ぶなら大魔道士とでも呼んでくれっ !!!」


大魔道士。何と大仰な言葉であろうか。それを年端もいかない少年が、自信をもって告げてきているのだ。その恥ずかしげもない台詞に、雷泥は思わず声を上げて笑った。


「ハハハハハハハハっ! 面白い! 面白いぞ、小僧! それならば、某は剣鬼! 人を捨て、剣にのみ生きる鬼よ!
さあ、行くぞ! 大魔道士! 今度こそお主を殺しきってみせよう!!」


雷泥が再び見せる神速の踏み込み。瞬きする間に雷泥はポップに詰め寄り、その手に持つ刀で首を刈り取らんと迫る。だけど、今度はポップが余裕の笑みでもって、その攻撃に応えた。


「ルーラッ!!」


それは光速に迫る移動呪文。一瞬よりもなお短い刹那の間で、ポップは雷泥の遥か後方に転移。雷泥が驚きの目でもって振り返るのをよそに、そこでポップは自らの勝利を雷泥に宣言する。


「わりーけど、ヒゲのおっさん、この勝負はおれがもらったぜ!」

「……戯言を!」

「戯言じゃねえ! まず一つ目の理由。それはヒゲのおっさんの武器が剣だけってことだ」

「それが何だというのだ!?」


自らの剣を否定するポップに雷泥は怒りの色を含んだ声を放った。雷泥は剣に全てを捧げた身。即ち、剣とは己の生きる道なのだ。それを一笑に付されては、許せる道理もない。だけど、ポップはそんなことは知ったことか、と雷泥に答えを叩きつける。


「トベルーラ!!」


それは空を飛ぶことを可能とする魔法の言葉。
中空に高く舞い上がったポップは雷泥を見下ろしながら、ドヤ顔で告げた。


「つまりはこういうこった!」


剣とは接近して使う武器のこと。それならば、接近できないだけの距離を稼げばいいのである。そして空は容易に近づくことのできない絶対優位の場所だ。ポップは実際に見て分かる形でそれを示してみせる。


「ヒゲのおっさんのとんでもねえ速さの原因は、ずばりその靴だろ? 車輪を靴にくっつけるっつーのは随分と考えたもんだが、それは同時に空では使えねえってことを意味する。仮にヒゲのおっさんがトベルーラを使えたとしても、さっきみたいなスピードは出せねえはずだ!」


成る程、確かに雷泥はポップのように空は飛べないし、飛べたとしても剣技は地上ほどの冴えは見られないだろう。雷泥は空を飛んでみせたポップに驚きを示し、また彼の言に少なからずの同意も示した。だが、雷泥は剣鬼。剣のために全ての捨てた男。たかがそんなことで自分の負ける要素など見つけらるはずもなかった。


「……愚かな! それしきのことで某の、次元斬一刀流の間合いから離れたつもりか!!?」

「おっと、焦るなよ、ヒゲのおっさん。おれの言いたいことは、まだ終わっちゃいねえぜ。さっき言っただろう? 一つ目の理由って。二つ目の理由は、おっさんがその靴に頼りすぎだっつーことだ」

「それが何だというのだ!!?」


決して答えには成り得ない答えに、雷泥は疑問をぶつけた。速さの原因が掴めたとしても、それをどうすることもできないのは己の経験で知っている。目にも映らぬスピードで移動する自分には、音速を超える銃弾すらとらえることができないのだから。だが、そんな雷泥に向かって、ポップは答えとなる呪文を再び叩きつけた。


「大地に眠る力強き精霊たちよ、今こそ我が声に耳を傾けたまえ。ベタンッ!!」


それは重力を操作し、加圧する攻撃呪文。雷泥がいる場所にポップの魔法力が惜しみなく注がれ、強大な重力場を形成。次の瞬間、空間が大きくたわみ、そしてそれは一気に下降。その圧倒的な力により、地面は堪らず陥没し、更に周りに蜘蛛の巣状のヒビを加えていく。点ではなく、面による攻撃。その広大な空間から逃れることができなかった雷泥には、当然の如くその暴虐は襲い掛かかった。雷泥が履いていた靴は、重力により重さが遥かに増した雷泥の体重に勝てず圧壊。雷泥も苦悶の表情と共に膝をついて倒れた。だが、それでも彼の目からは殺意と闘志は依然と消えない。


「こ、これしきのことで某が負けるとでも!!?」

「思ってねえよ!! だけど、もうさっきまでのように戦えねえだろ? おっさんの強さは、スピードに頼りすぎなんだよ! だからその手段を奪っちまえば、こうして魔法使いのおれでも渡り合えるようになる。これでおれの勝ちだ!! 喰らえ!! イオ! イオ! イオ! イオ!」


ポップは自らの勝利宣言と共にすかさず爆裂呪文の連発し、畳み掛ける。


「うおおおおぉぉぉぉぉーーーー!!!」


爆音と共に砂煙が生じ、その中から雷泥の叫び声が聞こえてくる。しかしそれは何とも意気軒昂な様で、とても悲鳴とは思えない。ひょとしてまだ戦う気なのか。そう思ったポップは、再び爆裂呪文を雨のように叩き込んだ。だけど、それでも聞こえてくるのは以前と変わらぬ雷泥の精力に満ちた言葉。


「くそったれ。クロコダインのおっさん並みのタフさだな。こうなったら、こちもヤケだ! 
イオ! イオ! イオ! イオラ! イオラッ!! ギラ! ギラ! ベギラマ! メラ! メラ! メラミ! ヒャド! イオ! イオラ!!!」


雷泥の声が聞こえなくなって、ようやくポップは魔法を撃つのを止めた。
既にポップの息は切れている。それほどまでに連続して無茶な魔法を行使したのだ。


「おい、ヒゲのおっさん、生きているか?」


静かになった浜辺を歩き、ポップは雷泥の所までやってきた。
そこでブラックロッドを取り出し、ちょいちょいと白目をむいて倒れている雷泥の身体をつっついてみせる。何の反応もない。ポップは慌てて、雷泥の脈にとりにかかる


「あぶねぇ、あぶねぇ。危うく人を殺しちまうところだったぜ。こっちもムキになりすぎたな」


顔に浮き出た冷や汗を拭いながら、ポップはすぐさま回復呪文――ベホマをかける。ポップのそれは致命傷すらも瞬時に治しうる強力なもの。黒こげになった雷泥にも、見る見るうちに新しい皮膚が覆っていく。


「とりあえず、どっかで休むか。ヒゲのおっさんのおかげで大分魔法力を使っちまったしな」


そう呟きながら、ポップは雷泥の身体を担ぎ上げて、トベルーラを発動した。多少の疲労を蓄積してしまったものの、幸先のいいスタートだ、とポップは雷泥を見て思う。戦闘に陥ったとはいえ、その結果タフで強い剣士が仲間になったのだ。これでこれからの戦闘の運びは、より安心できるものとなる。勿論、雷泥が戦闘前の約束を守るかどうかという不安もある。だけど、ポップは笑ってその懸念を吹き飛ばした。


「ま、大丈夫だろう。この手の戦闘狂は勝った奴の言うこと聞くのが相場ってもんだ」


ポップは満面の笑みを浮かべて、この殺し合いの打破を夢見た。



【一日目 深夜】
【現在地 A-8】
【ポップ@DRAGON QUEST-ダイの大冒険】
【状態】疲労(小)、魔法力消費(中)
【装備】ブラックロッド@DRAGON QUEST-ダイの大冒険
【道具】ランダム支給品、支給品一式
【思考】
 基本 禁呪の解呪
 1. 休憩する


【雷泥・ザ・ブレード@トライガン・マキシマム】
【状態】健康、気絶
【装備】ムラマサ@トライガン・マキシマム
【道具】支給品一式
【思考】
 基本 強者を斬る
 1. ZZZzzzz
 2. 約束は……
【備考】
※ランダム支給品のローラースケート@トライガン・マキシマム は壊れました



【支給品説明】
  • ブラックロッド
ロン・ベルク作の伸縮自在の杖。使用者の魔法力を吸収して打撃力に変える武器。
装備者の意思と言葉により先端だけ二股の槍形にするなど、形をある程度変えることも可能。

  • ムラマサ
雷泥が愛用する刀。大口径の銃弾を切ったり、ヴァッシュの銃と切り結んでも刃こぼれしない丈夫さを持つ。また柄にある引き金で刀身を飛ばすことができる。

  • ローラースケート
雷泥が愛用する球体車輪ローラースケート。銃弾を容易にかわせるほどのスピードを初速で出すことができる。また砂漠でも問題なく移動できる走破性を持つ。



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ポップ 29:Here And Now
雷泥 29:Here And Now



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最終更新:2012年02月27日 00:55