「おい、おまえ! おれの名をいってみろ!」
その男はショットガンを片手に、吼えるように叫んだ。ヘルメットを被って顔を隠してはいるが、そこにある無慈悲な瞳は、銃口と共に遠慮なく相手に向けられている。それで死を意識するなというのは土台無理な話だ。だけど、ショットガンと対峙を迫られているもう一人の男――鴉は、何事もないように淡々と感想を述べた。
「醜いな」
「あ~~!?」
ヘルメットを被った男は、額に幾つもの青筋を浮かべた。ショットガンの引き金にかかる指の力も、それに比例して強くなる。それこそいつ殺しても構わない。そういった殺意と怒気が、目に見えるような形で吹き荒れた。しかし、それでもそれと相対する鴉の顔は依然と変化を見せず、冷静なままであった。
「おまえにはこの銃が見えねえのか!? この胸の七つの傷が見えねえのか!? さあ、おれの名を言ってみろ!!」
確かに黒のレザーベストから遠慮なしにはだけさせている胸板には、北斗七星をかたどった傷が見て取れた。それは人を印象付けるには、十分な特徴であろう。だけどだからといって、それが誰かなど鴉にはさっぱり分からなかった。そもそも鴉にとって、美の意識から遠くかけ離れている目の前の人物など興味の埒外。それが誰であろうと関係ないのである。だから、その男に向けられる鴉の言葉も、ただ己の所感を述べるにとどまる。
「悪いが、その醜い顔を長く見るには耐え難い。さっさと死ね」
「殺す!」
鴉の言葉に、男は怒り心頭に発してショットガンのトリガーを引いた。たちまち耳を劈くような音が飛び出す。だけど、その場に響いたのは銃声ではなく、爆発音だった。
「ああ? 暴発か……ちゃんと点検したはずだが、運が良かったな。いや、悪いのか。おかげで、おまえはこの
ケンシロウの北斗神拳を喰らって、苦しんで死ぬことになるのだからな」
ケンシロウと名乗る男は、壊れたショットガンを放り投げると、攻撃の構えを取った。ケンシロウと言えば、数々の悪党を屠ってきた強者と救世主の代名詞。それを知ったら、さぞかし恐怖に震えることだろう。ヘルメットの中で男は嗜虐の笑みを浮かべた。しかし、そこに返されたのは恐れではなく、単なる侮蔑の眼差しであった。
再び血管が膨れ上がる。醜いと言われることも、見下されることも、男には一人の人物を想像させるのに十分なものだった。自分より劣るくせに、北斗神拳の伝承者の座を奪い、顔の形を醜悪なものに変えさせた存在――ケンシロウを。
ジャギ。それこそヘルメットの男の本当の名前であり、またケンシロウの義兄でもある男であった。ジャギは自分こそ北斗神拳の伝承者に相応しく、またそれを強くすることができると信じていた。だが、伝承者争いにおいては敗北。その後に挑んだケンシロウとの闘いでも手痛い負けを喫し、顔面に正視に堪えがたい傷を入れられた。その時から今までに募らせてきたジャギの憎悪の炎は、生半可なものではない。そこに近づけば、誰であろうと死ぬことを余儀なくされるほど激しいものだ。しかしあろうことか、目の前の優男はケンシロウと同じ蔑みの目で、ジャギの内なる炎に新たに薪をくべてきたのだ。ジャギから溢れ出す憎しみ炎は、最早抑えようがない。そしてそれはついに攻撃という形になって繰り出された。
「喰らえッ!! 北斗羅漢撃~!!」
ジャギの両腕が上下に高速に動かされ、幾重にもぶれてみえる。それは攻撃の出所とタイミングを惑わせ、素早く相手に突きを入れる北斗神拳の奥義。飛燕の如き速さで襲い掛かるその技を、鴉は紙一重でかわしていくが、不意に右目に何かが刺さり、身体を硬直させてしまった。
そしてそれはジャギが再び奥義を繰り出すのに相応しい隙となる。
「死ね~!! 北斗千手殺!!」
ジャギの突きが、何発も鴉に突き刺さる。その速さは先程の攻撃をも凌駕する猛攻。十重二十重にも並ぶジャギの貫手は、全て鴉の身体に飲み込まれていった。その衝撃に堪らず鴉の身は吹き飛んで、地面に転がる。
「含み針か……チッ、味な真似を」
よろめきながら立ち上がると、鴉は自分の目に突き刺さった針を抜き出し、舌打ちした。
相手を見くびりすぎて、必要以上のダメージを負ってしまったのだ。自分の迂闊さ加減に嫌気が差す。だが、ジャギは鴉のそんな気分など知ったことか、と更なるプレゼントを言葉として鴉に送った。
「ヒヒヒッ、ハーッハッハッハッハ! おまえの秘孔を突いてやったぜ~。これでお前はあと3秒でボンッよ~」
哄笑を止ませることなく浴びせ続けるジャギに、鴉は辟易しながらも、一つ返礼を贈ってやることにした。
「面白いことを言う。だが、その3秒、お祈りの時間に使うのはおまえのほうだ」
「あ~? 何を言っ……!?」
ボンッ!
爆ぜる様な音が空中を伝播し、それと共に血肉を辺りを撒き散らす。その痛みのあまり、たちまち絶叫が場を支配した。
「ぐああああーーーーッ!! いてええぇえ!! 何でおれの足が~~~~!!??」
傷を負ったのは鴉ではなく、ジャギであった。致命的な一撃を喰らったのは、ジャギではなく、間違いなく鴉であったはずだ。それなのに何故か自分が怪我をしている。その不可解な現象に、ジャギの顔は混乱と疑問で埋め尽くされた。
「て、てめ~、い……一体何をした~? ま、まさか、秘孔を突いたというのか!? こ、このおれに~~!!?」
「地下爆弾(マッディボム)」
ジャギの問いに、鴉は感情の色を含まない答えをやる。更に続いて、鴉は手をジャギに向けて、軽く振りかぶる。そしてその次の瞬間、ジャギのヘルメットは突如発生した爆発によって吹き飛ばされた。
「……やはり醜いな。もはやそれは存在するだけで、私の気分を害する」
鴉の冷たい視線の先には、露になったジャギの素顔があった。髪の毛は毟り取られたように禿げ上がっており、顔は岩肌のようにでこぼこしている。一層膨れ上がった右頭頂部には、それを矯正するためか、小さな鉄板が網目状になって幾つも埋め込まれている。それはおおよそ人とは思えない歪な顔であった。
「見いたなぁ~!! おれのこの姿をみたやつを生かしておくわけにはいかん」
痛みによって、鎮火しかけていたジャギの憎悪の炎が再び点り始める。その顔の傷こそ、ジャギの憎しみの象徴。かつてケンシロウに負わされた屈辱の証。その恥ずべき汚点を他人に知られては、生かしてはおけない。ジャギは鴉を殺すべく、痛む足を無視して再び北斗神拳の構えを取った。そしてそれを合図かのようにジャギの周りで爆発が連鎖して続き、ジャギの身体は木っ端微塵になって吹き飛んだ。
「どうやら、見えていなかったようだな。既におまえの周りに配置していた」
鴉はジャギの惨たらしい死体に、無感情に告げる。そこには全く感慨はない。鴉が関心を向けるのは、いつだって美しいもの。そしてそれを殺すことに、鴉は快感を覚えるのだ。
「ああ、蔵馬。やはり私はお前がいい。お前を殺したい。お前のような美しいものを」
鴉は夜空に映える月を仰ぎ見ながら、甘い吐息を殺意と共に吐き出した。
【ジャギ@北斗の拳 死亡】
【一日目 深夜】
【現在地 B-7】
【鴉@幽遊白書】
【状態】右目失明(回復中)、上半身に打撲(回復中)
【装備】なし
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
基本 美しいものを殺す
1. 蔵馬を探す
2. 美しいものを探す
【備考】
※ジャギをケンシロウだと思っています
※ジャギの支給品は粉々になりました
【支給品説明】
ジャギが使うショットガン。銃身が短いことから、おそらくはソードオフ・ショットガンだと思われる。通常のショットガンと比べて有効射程距離は短いが、威力は増大している。
最終更新:2012年02月27日 01:36