後藤。
その生物はこれまでに戦闘や芸術など多様な経験を経て進化し成長し続けてきたパラサイトである。
パラサイトは基本的に感情の機微が薄い、極めて野生動物的存在だ。
しかし、パラサイトも根本的には生物であり当然ながら多少の感情は持ち合わせている。
命の危険に晒されれば死にたくないと足掻くし、あまりにも不快なことをされれば怒りもする。
そしてわからないことがあれば困惑もする。

「ちょっとストップストップ!そこの道行くお兄さん、今なら期間限定ユニットまどか先輩が無料で手に入るよ。さあ買いねえ買いねえ!!」

例えば、こんな奇天烈な存在に出会った時だ。

なんだこいつは。
足元でちょこまかと動き回る生物を見て後藤は困惑する。
見た目は一応人間に近い。しかし明らかに体積の無さそうな薄い身体、簡略化された手足、見ていても一切湧いてこない食欲。特徴的なダミ声。
これらの要素から人間と断じるのも憚られる奇妙な生物としか言いようがない。

「なんだ貴様は」
「ユーザー登録名、まどか先輩だよ」
「先輩?ならば後輩もいるのか?」
「そんなことまで聞いちゃって...このドスケベ」

困惑。
数多の人間を喰らい散らしてきた後藤も出会い頭に助平扱いされたのは初めてだった。

(まあいい...いま重要なのは森嶋帆高と出会ったかどうかだ)

このまどか先輩とやらの生態系は気になるが、優先すべきは森嶋帆高。
この生物の研究はその後でやればいい。

「森嶋帆高には出会ったか?」
「ノン!出会ったのはお兄さんが初めてだよ。マギレコ解説漫画のわたしが嘘を吐くなんてありえない」

それもそうだろうなと思う。
なんせこのエリアは中央部。
帆高がA-8より最短距離で進んだとしてもここに辿り着けるかはかなり際どい。

「まどか先輩。お前は奴をどうするつもりだ?」
「んー助けてあげたいのはヤマヤマなんですけどねェ、こちとらやらなきゃいけない仕事もたんまりあるからねえ。もしかしてお兄さんも狙っちゃう系?」
「そうだ」

どうやらまどか先輩も帆高を狙うようだ。
元より後藤は一人で帆高を探しきれるとは思っていない。
どこかで協力者は必要になるのはわかっていた。ただ、その最初の協力者候補がコレとは思いもよらなんだが。
いや、そもそもコレに人を殺すことなどできるかも怪しい。

「まどか先輩。お前に何ができるかを教えろ。それ次第で協力を考える」
「ほほうお手並み拝見という奴ですか...いいでしょう、それではまどか先輩の秘密を解説しちゃうよ!」

まどか先輩が腰の後ろに手を隠し、すぐに万歳の姿勢を取る。
するどどうだろう。いつの間にか巨大な蟹の手が装着されているではないか。
その早業に後藤は思わず「ほう」と感嘆の声を漏らす。

「まずはコレ!因果を断ち切るVサイン、まどキャンサー!こう見えても犬のフンをつまんだ後におにぎりを握れるくらい手先は器用。
必殺技はこのハサミの重さを活かし衝撃と斬撃が間断なく襲い来る高速回転技『ダブルまどカット』だよ。続きまして」

まどか先輩はキャンサーから普通の手に戻し、掌と膝を地面に着く。そしていつの間に着けられていたのか、そこそこ大きな砲門が背に乗っていた。

「円環無限軌道『まどキャノン』!!最大の火力を持つキャノン砲に加えてミサイル、レーダーを装備しているよ。まどキャノンはキャンサーよりも多くの相手を攻撃できる強力なわたしだよ。
長時間の行動では膝にも爆弾を抱えちゃうから気を付けよう!」
「そしてこれがさなちゃん直伝のお助けスキル!」

両の拳を握りしめ、中指を立てながら小さく屈伸をするまどか先輩。やがて彼女は両手を前に突き出し親指・人差し指・中指を立てながら甲を向けた。

「Hey Yo!!何してんだよそこの水属性 水辺に住みつくところを目撃 怒ってるぜ行政いつ納税?ショボい攻撃 モーションは滑稽 マギアもどうやらびんぼくせぇ
この盾は木製ぬけねぇよ到底 専守防衛カウンター強制 宇宙まで吹っ飛んでミス木星 お前の母ちゃん無償石――――ya!!」




ターン



まどか先輩のラップが終わるのと同時、銃声と共にまどか先輩が弾き飛ばされた。

―――襲撃か!

後藤はまどか先輩の吹き飛んだ方角と銃声の反響音を脳内で反芻する。
断片的な情報からおおまかに銃弾の射出場所を計算し割り出しているのだ。

「―――そこだな」

後藤の足がウサギを連想させる形に変形し硬質化していく。
変形が終わると足のバネの反動を利用し一気に駆け出した。

ピシュン ピシュンと特徴的な音が響く。
これが変幻自在のパラサイトの中でも、後藤にのみ許される高速移動方だ。

(森嶋帆高でないものを率先的に排除する者。それは非合理的な者か森嶋帆高本人だ)

この催しは帆高を捕らえるか殺すことを強制される殺し合いだ。
そんな中で帆高捜索の協力者を募るでもなく殺意のある襲撃を行う者など限られている。

(精々、工夫して楽しませてみせろ襲撃者)

例え帆高でなくても落胆などしない。
後藤は戦いを求め続ける戦闘マシーンなのだから。


「ウオッ、なんだあいつ。めちゃくちゃはええ」

まどか先輩を銃撃した狙撃手―――ライフル銃の男はスコープ越しに迫る後藤を見て思わず慄く。
陸島文香たちから離れ、新たな獲物を屋外から探していたところ、無防備に向かい合っている後藤とまどか先輩を発見。
あの簡略化された外見の奴が何かは気になったが、ここは先に男の方から殺しておこうと後藤を狙撃―――したはずだったが、気が付けば照準はまどか先輩へと向いており彼女を撃ってしまった。
雨で手を滑らしたかと思い、まあ次で仕留めればいいと思っていた矢先に後藤が高速で迫ってきたのだ。
この雨にも関わらず1km以上は空いていた距離がどんどん縮まっていくにつれ男の思考にも焦燥が生まれ始める。

(クソッタレ!とんだしくじりだぜ!ここにいるのはまずい!)

男は今まで多くの人間を射殺してきたが、ああも高速で動ける生物を撃ったことはない。
己の腕前では弾を無駄に消費してしまうことは悟っていた為、狙撃は早々に諦めることが出来た。

(ここは逃げるか?いやあの速さじゃ逃げられるかわからねえ。罠でも張って迎え撃つか...!?)

撤退か戦闘か。これが男の運命の岐路となる。

【C-5/1日目/深夜】

【後藤@寄生獣】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考、状況]
基本方針:森嶋帆高の殺害
0:襲撃者と戦う。
1:協力できる者がいれば協力しても良い。
2:まどか先輩は協力者として保留。死んでなければ、だが
※参戦時期は市庁舎での戦闘後。



【ライフル銃の男@ドラゴンボールZ】
[状態]:健康
[装備]:ライフル@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品一式、発煙弾三発入り(残り二発)、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本方針:森嶋帆高を殺して夢を叶える
0:迫る男(後藤)から逃げるか待ち伏せして戦うか...
1:せっかくだから殺せるだけ人は殺す
[補遺]
※参戦時期は魔人ブウと出会う前です


「いやー驚いたねえ」

むくり、と起き上がるまどか先輩。
彼女は頭を撃たれたにも関わらず死ななかった。
それもそのはず。彼女はもとより魔法少女という魂をソウルジェムに抜かれた身。ある意味人造人間のようなものだ。
無論、その真実を知らなければ己が死んだと認識した段階で高確率で死に至るのだが、魔法少女まどか☆マギカシリーズを網羅している世界の彼女が自覚していない筈がなく。

加えて、一発芸としてラップを披露している最中だったのも幸運だった。

先のラップはただのラップではなく、2019年4月9日に配信されたマギア☆レポート79話にてマギレポ世界の二葉さなが挑発スキルとして使用したものである。
つまりまどか先輩の挑発スキルが関与しライフル銃の男は無意識のうちに彼女を狙撃してしまったということだ。
もしも先に後藤が狙撃され、万が一にも死亡していればまどか先輩もビビリあがりバケツを頭に被って避難する他なかっただろう。

「あのお兄さんにわたしのキュートかつスタイリッシュな変死...変身アニメをお披露目できなかったのは残念だけど仕方ないよね」

いかにも怖そうなあの男が割と協力的だったのには驚いたが、こちらがボケ倒してもツッコミや合いの手が無かったことから、イマイチウマが合わなさそうだった。
まあ帆高をゴールさせないことに関しては同意を得たので分かれて行動しても問題ないだろう。

「わたしだって撃たれれば痛いんだよ...というわけでお疲れ様でーす」

言うが早いか、まどか先輩はすたこらさっさと逃げ出した。



【C-5/1日目/深夜】

【まどか先輩@マギア☆レポート】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3
基本方針:とにかく生還する。
0:とりあえずはゲームに従い帆高くんを確保する方針を取るよ。
1:邪魔するならたとえ別世界のわたしでも...戦争じゃあ...
2:恐いからとりあえず離れとこ。

※参戦時期はマギアレコード本編の第2部が始まって以降です。

47:ふたつの雨 投下順 49:かつて神だった野獣へ(
時系列順
前話 名前 次話
04:守られるべきは未来 後藤 51:見つけたい、だけど……
15:揺るぎなき信念 ライフル銃の男
43:魔法少女として まどか先輩
最終更新:2021年08月18日 16:12