参加キャラクター一覧:

名前:青空火炎(あおぞらかほ
性別:女性
外見: 赤色外ハネのミディアムヘア、青い瞳に星型の瞳孔。白半袖のセーラー服。身長低め。おっぱい大きめ。
口調・一人称: 一人称は「あたし」。正義感に満ち溢れた言動。!が多い。「あたしがWCBをぶっ潰す!!」
設定: 正義感に満ち溢れた少女。『DEATH RACE G.P.』を知って、そんな非人道的なこと、あたしが許さない!となって深く考えずに参戦した。思い込みの激しい一面も。
【魔人能力】:『ジャスティス・バーナー』 熱い想いを火に変えて放出する能力。手のひらを向けた方向に火を放出する。 自身の想いが昂ぶるほど火力が上がる。 [成功要素]
身体スキル:【運動神経Lv.3】【超回復Lv.3】
知的スキル:【正義感Lv.2】【他人に信頼されやすいLv.2】 固有スキル:【ジャスティス・バーナー[魔]】

“鉄尻”シィリガ・デル
設定
屁リウムガス開発の任務についていた「露出亜帰りの男」。34歳。新型の露出狂とよばれている。尻による相互理解というニュータイプ露出論提唱者。法に触れない露出狂の一人。
【魔人能力】:『シリ―シル』
テレパシー能力で相手の精神に自分の尻の映像を送り込む能力。 また相手の精神から尻のイメージを読み取ることができ他人と共有できる。 人は尻を知る事で相互理解ができると思い込んでいる
[成功要素]
身体スキル:【運動神経Lv1】【硬い尻Lv3】
知的スキル:【冷静さLv1】
固有スキル:【シリ―シル[魔]】【射撃Lv2】
アイテム :【拳銃Lv3】

なめらすじ喇魅悪
設定
学園公認暗殺者集団『アサシン部』に所属する二年生で尾底骨から尻尾の変わりに毒蛇が生えてる人外少女。 尻尾の蛇は大塚スネークと言う名前があり、人語を介し某MGSの渋いおじ様声のイカした蛇である。 肉体的主人格である喇魅悪より遥かに知的で良識者である。 また、伸縮自在なので偵察にも一役買っているのと、猿の様に木の枝に巻き付いてぶら下がる事も出来る。 切断されると死んでしまうが、1日~2日くらいで尾底骨から生えてくる謎多き蛇でもある。
【魔人能力】:『POISON KISS』
猛毒を生成する能力、喇魅悪からの口吻または尻尾のヘビによる咬傷で毒を付与する
[成功要素]
身体スキル:【身軽LV.3】【色気LV.1】
知的スキル:【毒物取扱LV.2】【短気LV.1】
固有スキル:【POISON KISS(魔)】【蛇使いlv.3】

半 夏生(なかば・なつき)

設定
大学生。薬学部の出身で薬の知識を持つ。無口で会話は苦手だが、内に身を焦がすような強い想いを秘めている。 他者の物語の結末を見るのが好き。 好きな食べ物はうどんとタコ。 誕生日は7月2日
【魔人能力】:『鳴かぬ蛍が身を焦がす』
自らが心に秘めた想いを自らを燃やす炎に変換する能力。能力者自身がこの炎で傷つくことはない。
[成功要素]
身体スキル:【手先の細かさLv1】【反射神経Lv2】
知的スキル:【秘めた情熱Lv1】【無口Lv1】
固有スキル:【鳴かぬ蛍が身を焦がす[魔]】【薬学Lv3】
アイテム :【市販薬Lv2】


神無月ナツキ
設定: マジシャン一家に生まれたマジシャンの申し子。 全身マジシャン人間。
【魔人能力】:『右手に盾を左手に剣を』 右手に握ったものと左手に握ったものの位置を入れ替える能力 「握る」の判定は「親指と中指が触れている」こと 手のひらに内部にあるものが交換される。
[成功要素]
身体スキル:【柔軟性Lv1】【器用な手先Lv3】
知的スキル:【話術Lv2】
固有スキル:【右手に盾を左手に剣を[魔]】【ミスディレクションLv2】【マジックの技術Lv3】
アイテム :【トランプLv1】

探偵院 金卵
設定
非常に位の高い上流階級の年頃のお嬢様。希望咲学園の現生徒会長。 密胎殺人事件にて双子の妹(もしくは姉)を亡くしており、第一声の産声にて事件を解いたことで生まれた時から名探偵である。
【魔人能力】:『真相究明価値あり』 対象を限定する精神支配能力。 探偵院金卵が注目した謎は、「謎そのもの」あるいは「謎を作り出した人物」が探偵院金卵に平伏し、その真実を差し出す。 たとえば不可解な殺人事件に探偵院金卵が注目するだけで、真犯人は出頭し、滂沱の涙を流しながら動機を語りだす。 たとえば冷蔵庫の卵が減り過ぎていると思えば、ゴミ箱からパンケーキミックスの空袋が飛び出して、体を折り曲げ謝罪する。
[成功要素]
身体スキル:【健康優良児Lv.1】
知的スキル:【カリスマLv.3】【優雅Lv.3】
固有スキル:【真相究明価値あり[魔]】【推理Lv.3】

エドウィージュ・ド・パウロウニア
設定: フランスの貴族の血を引く誇り高き令嬢。 高貴たる令嬢たる指名を果たそうと日頃務めて活動しているが、口さがない人間からは悪役 令嬢と呼ばれている。 多くの取り巻きがいる。魔術に興味がある。文武両道で運動神経もよい。
【魔人能力】:『ウィンディフロウ』
周囲50mの範囲に風を吹かせる能力。
[成功要素]
身体スキル:【美少女Lv2】【運動神経Lv.1】
知的スキル:【高貴Lv.3】【リーダーシップLv.2】
固有スキル:【ウィンディフロウ[魔]】【悪役令嬢Lv.2】


ーー(にのまえはじめ)
設定
見た目は可愛い女の子で、そんなつもりはないのにえっちなハプニングを起こしては無自覚にフラグを立てる。気が優しくて流されやすく、女性の頼みは断れない。色々と苦労しているせいで見た目の割には結構タフ。実家では姉妹の世話を焼いたり食事を作ったりが日常茶飯事で家事全般が得意。

魔人能力『ToLOVEるメイカー』
奇跡的な偶然によりえっちなハプニングが発生し、周囲が大混乱したり恋愛フラグが立ったりする。最低でも場に一人は女性(両性や女性形の無性も含む)が存在しないと発動しない(敵・味方は問わない)。

成功要素
身体スキル:【華奢だけどタフLv.2】【可愛いLv.2】
知的スキル:【女性にモテるLv.3】【友好的Lv.1】
固有スキル:【ToLOVEるメイカー[魔]】【家事Lv.2】


鏡子
設定:気弱、色白、根暗な委員長風

魔人能力『空間歪曲』
鏡を媒介に任意の空間へと接続可能。

成功要素
「身体スキル」:【委員長Lv.1】【脱いだら凄いLv.3】【メガネを外すと美人Lv.2】
「固有スキル」:【空間歪曲[魔]】【セックスLv.3】
「アイテム」:【手鏡Lv.1】

オープニング:ショータイムの開幕

金属と消毒液の匂いが混じり合う、だだっ広い円形のホール。
継ぎ目のない白い壁面と、同じく白い床。天上からは無数のスポットライトが、これから主役となるであろう者たちを無慈悲に照らし出している。
そこに集められたのは、国籍も、年齢も、思想も、そして人としての在り方さえもバラバラな9人の魔人たち。彼らこそ、世界征服放送《WCB》が主催する史上最悪のデスゲーム――『DEATH RACE G.P.』にその身を投じる、選ばれし「商品」であった。
「こんな非人道的なこと、あたしが絶対に許さないんだから!」
誰よりも早く、そして力強く拳を握りしめるのは、白のセーラー服に身を包んだ少女、青空火炎。その青い瞳に宿る星型の瞳孔は、燃え盛る正義の炎で爛々と輝いている。大きめの胸が、その激しい決意に呼応するように小さく揺れた。
その傍らで、軍服風のスーツを纏った紳士、“鉄尻”シィリガ・デルは、特徴的な髭を指で撫でながら冷静に周囲を観察していた。彼の目は、火炎の燃えるような瞳ではなく、彼女のセーラー服のスカートの下、その臀部のラインに注がれている。
(ふむ…若く、張りのあるヒップ。あれはまだ相互理解には程遠い、未成熟な自己主張の塊ですな)
彼の魔人能力『シリ―シル』が、勝手に相手の尻の情報を読み解き始める。彼にとって、この場は死地ではなく、新たな尻との出会いの場に過ぎない。
「チッ…馴れ合いに来たんじゃねぇんだよ、クソが」
ホールの隅、影を選ぶように佇むのは、なめらすじ喇魅悪。ぺたんこな胸、ショートカットの髪から覗く鋭い眼光は、周囲の全てを威嚇している。彼女の尾てい骨からは、まるで第三の手のように毒蛇――大塚スネークが鎌首をもたげ、渋い声で囁いた。
『まぁまぁ、ラミア。そう殺気立つな。まずは状況の把握が先決だ』
「うるせぇぞスネーク! てめぇは黙ってろ!」
主人の毒舌に、知的な蛇はため息をつくようにシュルリと空気を漏らした。
壁際にもたれかかり、紫のレインコートのフードを目深に被っているのは半 夏生。梅雨の雨を思わせる銀髪がフードの隙間から覗く。彼女はただ静かに、この異常な状況と、集められた者たちが紡ぎだすであろう「物語」の始まりを待っていた。その緑の瞳の奥には、誰にも見せぬ情熱が静かに燃えている。
その隣では、シルクハットにモノクル、つけひげという珍妙な出で立ちの長身の人物、神無月ナツキが、器用な手つきで一枚のトランプを指の間で踊らせていた。
「さて、どんなマジックが飛び出すか。観客を沸かせるのがマジシャンの仕事だからね」
その口調はあくまで知的だが、その瞳はトリックスターの愉悦に満ちていた。
「皆様、ごきげんよう。このような場所でお会いするのも何かの縁ですわね」
優雅な一礼と共に、場の空気を支配したのは探偵院 金卵。希望咲学園の制服を完璧に着こなした彼女の立ち居振る舞いは、ここが殺戮ショーの待機室であることを忘れさせるほどの気品に満ちている。彼女の双眸は、これから起こるであろうあらゆる「謎」を解き明かすべく、好奇心にきらめいていた。
「まったく、下賤な者たちと同じ空気を吸わされるとは、不愉快ですわ」
金卵とは対照的に、あからさまな不快感を顔に浮かべるのは、フランス貴族の血を引く令嬢、エドウィージュ・ド・パウロウニア。高貴なる悪役令嬢は、その美しい顔を扇で隠しながら、周囲の「雑魚」たちを値踏みしている。
「うわぁ…なんだか凄い人たちばっかりだなぁ…」
そんな強烈な面々の中で、明らかに場違いな雰囲気を醸し出しているのが、一一(にのまえはじめ)だ。可愛い女の子にしか見えないその容姿で、おどおどと周囲を見回している。その隣には、三つ編み眼鏡の委員長風少女、鏡子が、まるで空気のように気配を消して佇んでいた。彼女はただ、手の中にある小さな手鏡をきゅっと握りしめている。
その時だった。
突如、ホールの全ての照明が落ち、完全な暗闇が訪れる。そして、正面の壁面が巨大なスクリーンへと変貌し、ノイズと共に悪趣味な純金製のタキシードを纏った男の姿が映し出された。
『さァさァさァァァァ! 全世界のTVの前の暇人ども! そして今まさに、栄光と大金、そして理不尽な死を求めて集まった素晴らしい才能の無駄遣いども! 実況は俺、ジャック・ポットだァ!』
黄金のマイクを握りしめ、油で固めたオールバックを輝かせながら、男――ジャック・ポットは狂的な笑みで叫んだ。彼の声は、ホール全体に響き渡り、空気をビリビリと震わせる。
『DEATH RACE G.P.へようこそ、クズども! 優勝賞金は100億! だが、お前たちのほとんどは、その金の匂いを嗅ぐことすらできずに無様に死ぬ! ハッハー! 最高のショーだと思わねえか!?』
ジャック・ポットの目は、スクリーン越しに参加者一人一人を舐め回すように見つめる。
『そこにいる正義のヒロイン気取りのお嬢ちゃん! お前の正義がコンクリートの壁に叩きつけられてミンチになる瞬間を世界中が待ってるぜェ!』
青空火炎が「なっ…!」と憤りの声を上げる。
『そこのケツで語る変態露出狂紳士! お前のそのニュータイプ理論とやらが、轢断された下半身から垂れ流される映像を期待してるぞォ!』
シィリガ・デルは動じず、静かに頷き返した。「ご理解いただけて光栄です」とでも言うように。
『さあ、無駄話はここまでだ! お前たちにはこれから、数々のイカれたステージで、その才能と命を削り合ってもらう! 各ステージの順位と、俺様の心を動かす"エンタメ"度によってポイントが与えられる! 全ステージ終了時点で、最も多くのポイントを稼いだゲス野郎が、このクソみたいなゲームの勝者だ!』
ジャック・ポットが指を鳴らす。
その瞬間、彼らの立っていた円形ホールの床が、轟音と共に足元からせり上がり始めた。高速エレベーターのようなGが全身を襲い、数秒後、目のくらむような光と共に上昇が止まる。
目の前に広がっていたのは、どこまでも続く青い空――そして、遥か眼下に広がる、底の見えない巨大な渓谷だった。彼らが立っているのは、断崖絶壁に設けられた小さな足場。そしてその先には、一本の頼りない吊り橋が、対岸の見えない彼方まで伸びていた。
『さあ、お待ちかねの第1ステージ! その名も……【奈落の空中回廊(スカイ・コリドー)】!』
全長1km。風に煽られ、ギシギシと不吉な音を立てる木の板とロープの橋。
『ルールは簡単! このクソみたいな吊り橋を渡りきって、対岸のゴールゲートをくぐり抜けるだけだ! もちろん、ただ渡るだけじゃつまらねえ! 橋の中ほどには、ボーナス50ポイントが貰えるイカしたフラッグも用意してある! 腕に覚えのある強欲なクズは、ぜひ狙ってみやがれ!』
ジャック・ポットは高らかに笑い、最後にこう言い放った。
『他人を蹴落とすもよし! 協力するフリをして裏切るもよし! 殺し合いさえ大歓迎だ! お前たちのドス黒い欲望の全てを解放し、最高のエンターテイメントを見せてみやがれェェェーーーッ!』
『それでは、DEATH RACE G.P.、第1ステージ……STARTォォォッ!!』
カウントダウンも合図もなく、ただ狂人の絶叫だけが、レースの開始を告げた。
さあ、絶望の吊り橋を前に、魔人たちはどう動くのか。栄光への第一歩を踏み出すのは、誰だ。

第1ステージ:奈落の空中回廊(スカイ・コリドー)
勝利条件: 吊り橋を渡りきり、ゴールゲートを通過する。
ボーナス: 橋の中ほどにある「ボーナスフラッグ」を獲得してゴールすると、追加で50GPP獲得。
ギミック
妨害生物: 橋の複数の支柱に、巨大な蜘蛛のような魔獣「タールスピッター」が巣を作っている。普段はおとなしいが、攻撃を受けたり、巣の近くで大きな音や振動を感知すると、強力な粘着性のタールを吐きかけてくる。タールに捕まると身動きが著しく制限される。
不安定な橋床: 橋の床板には脆くなっている箇所が多数存在する。先行するプレイヤーが全力で走ったり、能力で衝撃を与えたりすると、その衝撃で床板が抜け落ち、後続のプレイヤーにとってのトラップとなり得る。
拭き上げる突風:ランダムに発生する突風により橋が大きくしなり、立っていることすら困難になる。不安定な足場に立っているものや、空中を浮遊しているものには転落の危険がある。


【第1ステージ:奈落の空中回廊】

『STARTォォォッ!!』
ジャック・ポットの狂的な絶叫が、死と栄光への号砲となった。
その瞬間、二つの影が弾丸のように飛び出した。
「あたしの正義の邪魔はさせない!」
【運動神経Lv.3】。青空火炎の肉体は、常人の限界を遥かに超えた速度で不安定な吊り橋を蹴る。セーラー服のスカートが激しくはためき、その決意を後押しするように風を切った。
「どけや、偽善者ァ!」
だが、その真横を、蛇のようにしなやかな動きで並走する影があった。【身軽LV.3】を誇る、なめらすじ喇魅悪だ。ギシギシと軋む足場をまるで平地のように駆け抜け、その眼光は先を行く火炎の背中を射抜いている。
トップを争う二人の少女。しかし、このデスゲームは単純な徒競走ではない。
「下賤の者どもが先を争う姿…実に醜悪ですわね」
後方で優雅に佇んでいたエドウィージュ・ド・パウロウニアが、扇子をくい、と動かす。彼女の魔人能力が解放される。
「吹き飛びなさい! 『ウィンディフロウ』!」
ゴォォォッ!
突如として、渓谷の底から吹き上げる風とは質の違う、指向性を持った暴風が橋全体を襲った! エドウィージュの【高貴Lv.3】のオーラは彼女自身を風から守るが、他の者たちは容赦なくその猛威に晒される!
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
後続のプレイヤーたちが、突如として荒れ狂う竜のようにしなる橋の上で体勢を崩す。
「ふ、ふふ…これでワタクシがトップ…って、なんですの!?」
先行者を蹴落とし、悠々と進むはずだったエドウィージュの計画は、予期せぬ闖入者によって狂わされる。
「うわわわわっ!?」
暴風に煽られ、木の葉のように舞い上がったのは、一一(にのまえはじめ)! 彼の魔人能力【ToLOVEるメイカー】が、エドウィージュの起こした風という「奇跡的な偶然」に連鎖して発動したのだ!
ドサッ!
バランスを崩したはじめは、あろうことか暴風の中心にいるエドウィージュの胸に、その顔を埋める形で抱き着いてしまった! 柔らかく、しかし確かな弾力が頬を圧迫する。
「なっ…ななな、な、なにお、この、下郎がああああああ!!」
惚れられるどころか、誇り高き悪役令嬢の逆鱗に触れた! 【高貴Lv.3】のプライドを汚されたエドウィージュは、顔を真っ赤にしてはじめを突き飛ばす!
「離れなさい!」
「ご、ごめんなさーい!」
はじめは無様に橋の上を転がり、エドウィージュは風のコントロールを乱してよろめく。二人は協力どころか、最悪の出会いを果たしてしまった。
この風は、さらなる波乱を呼ぶ。
「きゃっ…!」
三つ編み眼鏡の委員長、鏡子のセーラー服のスカートが、無慈悲な風に捲り上げられた。そこに現れたのは、【脱いだら凄いLv.3】と称されるにふさわしい、完璧な曲線を描く芸術的な臀部だった。
その後方で、冷静に状況を伺っていた“鉄尻”シィリガ・デルの目が、カッと見開かれる。
「な、なんと…! あのフォルム、あの張り、あの重力への抗い! まさにゴールデン・ヒップ!」
彼のテレパシー能力『シリ―シル』が、勝手に鏡子の尻の情報を解析し、その完成度に打ち震える。しかし、次の瞬間、彼は首を横に振った。
「しかし! あの見せ方はいただけない! 実に下品! 尻とは魂で語り合うもの、衆目に晒す見世物ではない! あなたの尻は、もっと高尚な対話のステージに立つべきだ!」
鏡子の意図せざる誘惑は、シィリガの独自の美学によって一蹴され、協力関係が結ばれることはなかった。彼は【拳銃Lv3】を構え直し、あくまで自身のペースで進むことを選択する。
大混乱の橋の上。だが、その状況を冷静に、あるいは冷酷に見つめる者たちがいた。
「チッ…!」
トップ争いを繰り広げる喇魅悪の【短気LV.1】が、苛立ちを加速させる。彼女の尾てい骨から伸びる毒蛇、大塚スネークが、並走する火炎の足首に牙を剥いた!
『ラミア、よせ!』
「うるせぇ!」
シュッ! 毒牙が迫る!
「そんな卑怯な手、通用しない!」
火炎は【運動神経Lv.3】でこれを回避! 即座に手のひらを喇魅悪に向け、正義の炎を燃え上がらせる!
「『ジャスティス・バーナー』!!」
ゴウッ! 熱い想いが炎となり、蛇を薙ぎ払う!
だが、その炎は蛇だけを焼いたのではなかった。
橋の支柱に作られていた、巨大な蜘蛛の巣のようなものに引火したのだ。
――GYYYYYAAAAAAAaaaaaa!!
鼓膜を突き破るような甲高い絶叫! 巣の主、巨大な魔獣「タールスピッター」が覚醒した! その醜悪な顎が開き、黒く、粘性の高いタールを無差別に吐き出し始めた!
「な、なんですのこれ!?」
「うわっ、ベトベトする!」
風と転倒で混乱していたエドウィージュとはじめが、タールに足を取られる! トップ争いをしていた火炎と喇魅悪も、タール弾の雨を避けるのに手一杯だ!
橋の中盤は、突風とタールが吹き荒れる地獄絵図と化した。
『ハッーーーハッハァ! いいぞいいぞォ! 醜い! 実に醜い争いだ! 友情もクソもねえ! 互いの足を引っ張り合い、タールに塗れて溺れ死ね! 視聴率がうなぎ登りだァ!』
ジャック・ポットの狂喜に満ちた実況が響き渡る。
しかし、誰もがこの混沌に飲み込まれたわけではない。
「……」
紫のレインコートを纏った半 夏生は、飛んでくるタールを【反射神経Lv2】でひらりひらりと躱し、冷静に前進する。彼女の行動宣言は「攻撃を受けたら」。この無差別攻撃は、まだ彼女の逆鱗に触れてはいない。だが、その瞳の奥では、いつでも世界を燃やし尽くせる【鳴かぬ蛍が身を焦がす】の炎が静かに揺らめいていた。
そして、このレースには二人の「観測者」がいた。
「ふぅむ…」
スタート地点でただ一人、足を止めていた探偵院 金卵。彼女は【真相究明価値あり】の能力を発動させていた。
「このステージの最も優雅なクリア方法、ワタクシにその真実を差し出しなさい」
その瞬間、彼女の脳裏に、橋の設計図、ギミックの配置、タールスピッターの習性、そしてボーナスフラッグが「重くてバランスを崩すだけのトラップ」であるという真実までが、洪水のようになだれ込んできた。
「…なるほど、そういうことでしたの」
全てを理解した金卵は、最も安全で、最も速いルートを割り出し、まるで舞踏会を歩く貴婦人のように【優雅Lv.3】に歩みを進め始めた。タールも風も、まるで彼女を避けるかのように道を開ける。
だが、その金卵すらも、出し抜く者がいた。
「さてと…ショータイムは主役だけのものじゃない」
シルクハットの奇術師、神無月ナツキ。彼女は、エドウィージュが風を起こし、はじめが転び、火炎が炎を放った、その全ての混乱を「最高の舞台装置」として利用していた。
【ミスディレクションLv2】。巧みな誘導と存在感の希薄化。誰もが目の前のハプニングに気を取られている隙に、彼女は【器用な手先Lv3】でスルスルと橋の縁を渡り、誰にも気づかれることなく、タール地獄さえも軽々と飛び越えて、とっくの昔に先頭に立っていたのだ。
【ゴール地点】
静寂に包まれたゴールゲートを、最初にくぐったのは、誰の予想にもなかった長身の奇術師だった。
1位:神無月ナキ。彼女はつけひげをくいと上げ、満足げに微笑んだ。
ややあって、まるで散歩から帰ってきたかのように優雅な足取りで、探偵院 金卵が2位でゴールする。
3位は、冷静に後方から安全に進み続けた“鉄尻”シィリガ・デル。
その後、タールと泥にまみれながらも、持ち前の身体能力で地獄を突破した青空火炎(4位)、なめらすじ喇魅悪(5位)がゴール。風とタールに翻弄された鏡子(6位)、半 夏生(7位)が続く。
そして、互いに睨み合いながら、泥だらけでゴールしたのはエドウィージュ・ド・パウロウニア(8位)と一一(にのまえはじめ)だった。
『フィニーーッシュ! なんということだ! トップでゴールしたのは、なんと今まで存在すら誰にも気づかれていなかったダークホース、神無月ナツキだァ! これぞまさに神出鬼没! 華麗なるイリュージョン! 素晴らしいエンタメだ! そして2位は探偵院金卵! 圧倒的優雅さでギミックを完全に見切った! クソッ、腹が立つほどクールだぜ!』
ジャック・ポットは興奮気味に叫び、ボーナスフラッグが誰にも取られることなく、寂しげに風に揺れているのを指さした。
『ボーナスフラッグは誰も取れず! まあ、いいだろう! お前たちの醜い足の引っ張り合いは、それだけで十分なエンタメだったぜ、クズども! 第1ステージの結果を発表する!』

【第1ステージ 結果報告】
▼獲得ポイント
神無月ナツキ: 100pt (1位) + 30pt (エンタメ:華麗なるミスディレクション) = 130pt
探偵院 金卵: 80pt (2位) + 30pt (エンタメ:ギミック完全看破) = 110pt
“鉄尻”シィリガ・デル: 70pt (3位) = 70pt
青空火炎: 60pt (4位) + 10pt (エンタメ:タールスピッター覚醒の引き金) = 70pt
なめらすじ喇魅悪: 50pt (5位) = 50pt
鏡子: 40pt (6位) = 40pt
半 夏生: 30pt (7位) = 30pt
エドウィージュ・ド・パウロウニア: 20pt (8位) + 10pt (エンタメ:大混乱の引き金) = 30pt
一一(にのまえはじめ): 0pt (9位) + 10pt (エンタメ:伝説の始まりを予感させるToLOVEる) = 10pt

インターバル:勝者と敗者、そして次なる地獄へ

第1ステージの激闘を終えた参加者たちは、ゴールゲートの先にある広大なラウンジへと案内された。そこは先ほどの殺伐とした雰囲気とは打って変わり、柔らかなソファが置かれ、ドリンクや軽食が並ぶ、まるで高級ホテルのような空間だった。WCBのロゴが入った医療ドロイドたちが音もなく動き回り、泥やタールにまみれた者たちの汚れを瞬時に浄化し、かすり傷一つ残さず治療していく。物理的なダメージは、このショーにおいては些細な問題に過ぎない。重要なのは、心に残った傷と、新たに生まれた関係性だ。
「……ふん」
ソファにふんぞり返ったエドウィージュ・ド・パウロウニアは、忌々しげにテーブルの向こうに座る少年を睨みつけていた。
「……」
その視線の先で、一一(にのまえはじめ)は肩をすくめ、申し訳なさそうにジュースを飲んでいる。エドウィージュの胸に顔をうずめた感触と、その後の軽蔑に満ちた視線が、彼の心に重くのしかかっていた。悪気はなかった。だが、結果として彼女のプライドを著しく傷つけたことは事実だった。
「貴様…!」
そんな二人の間に割って入るように、鋭い声が響く。なめらすじ喇魅悪が、青空火炎の目の前に仁王立ちしていた。
「てめぇ、さっきはよくもやってくれたな。あたしのスネークに火ぃつけやがって」
『いやラミア、先に仕掛けたのは我々の方だろう。自業自得というやつだ』
尻尾の蛇、大塚スネークが冷静に諌めるが、喇魅悪は聞く耳を持たない。
対する火炎も、一歩も引かない。
「卑怯な真似をする方が悪いのよ! 正々堂々勝負できないわけ!?」
「ハッ、正々堂々だ? 寝言は寝て言えや、偽善者アマ」
バチバチと火花が散る。二人の間には、修復不可能な敵対関係がはっきりと刻み込まれていた。
その一方で、優雅にティーカップを傾ける探偵院 金卵の周りには、自然と人が集まっていた。
「いやぁ、お見事でしたな、金卵お嬢様! あのギミックを全て見抜いていたとは!」
声をかけたのは、奇術師の神無月ナツキ。彼女はトランプを切りながら、知的な笑みを浮かべている。
「お褒めにいただき光栄ですわ、ナツキさん。あなたこそ、いつの間にゴールされていたのか、ワタクシですら見抜けませんでした。素晴らしいマジックでしたわ」
「これも芸のうちですよ」
互いの実力を認め合う、強者同士の会話。そのやり取りを、壁際で静かに眺める半 夏生。彼女はただ、次の物語が始まるのを待っている。
「……」
ラウンジの隅で、“鉄尻”シィリガ・デルは一人、瞑想にふけっていた。彼の脳裏には、先ほどの鏡子の臀部が焼き付いている。
(素晴らしい素材だ。だが、その見せ方が間違っている…! 彼女の尻(ソウル)を真に理解し、正しい道へと導くのが、私の使命なのではないだろうか…?)
あらぬ方向へと暴走し始めた彼の使命感は、誰にも止められない。当の鏡子は、そんな彼の熱視線にも気づかず、三つ編みの先を指でいじりながら、次のステージのことを考えていた。
その時だった。
ラウンジの巨大スクリーンに、再びあの男の顔が映し出された。
『クズども、休憩は終わりだ! お前たちの無様な足掻きを全世界が待っているぞ! 第1ステージはなかなか楽しませてもらったぜェ! 特に、あのダークホース! 神無月ナツキ! そして全てを見通す名探偵、探偵院金卵! お前たちの活躍で、視聴率は爆上がりだ!』
ジャック・ポットは上機嫌でまくし立てる。
『だがな! いつまでも同じ奴が勝ってちゃショーとしてつまらねえ! 次はもっとカオスに! もっと理不尽に! もっと血生臭く、お前たちを追い詰めてやる!』
彼の狂的な笑みと共に、スクリーンの映像が切り替わる。
そこに映し出されたのは、無数のヘッドライトとテールランプが光の川となって流れる、巨大なハイウェイだった。片側8車線、合計16車線の道路を、大型トラック、タクシー、スポーツカーが、現実ではありえないほどの猛スピードでひしめき合いながら爆走している。
『さあ、お待ちかねの第2ステージ! その名も……【地獄のデス・ロード】!』
ジャック・ポットの声が、地獄の釜が開く音のように響く。
『ルールはまたまた簡単! このキチガイハイウェイを横断し、向こう岸のゴールにたどり着くだけだ! ただし、走ってるのはただの車じゃねえ! お前らをミンチにするためだけにチューンナップされた、走る鉄の棺桶だ!』
スクリーンには、ギミックとなる車両たちが次々と映し出される。巨体で全てを薙ぎ倒すダンプカー、予測不能な動きの暴走タクシー、爆発しやすいスポーツカー、そして触れれば大惨事を引き起こすタンクローリー。
『さらにボーナスチャンスだ! この中には現金輸送車も混じってる! こいつをこじ開けて、中の現金をゴールまで運べば、1000万円につき1ポイント! 最大50ポイントくれてやる! 金に汚い強欲なクズは、命懸けで稼いでみやがれ!』
狂気の沙汰としか思えないルールに、参加者たちの顔が引きつる。
『ああ、それからもう一つ! このステージでは時々、空からプレゼントが降ってくる!』
ニヤリと笑うジャック・ポット。スクリーンには、空から鉄骨や金ダライが雨のように降り注ぎ、アスファルトに突き刺さる映像が流れる。
『空中を安直に移動しようってセコい考えの奴は、これで頭カチ割ってやるから覚悟しとけよォ!』
それは明らかに、特定の能力者への牽制だった。
『さあ、準備はいいか、クズども! お前たちの血と肉片がアスファルトに最高の模様を描く瞬間を、全世界が待っているぞ!』
ジャック・ポットが指を鳴らす。
ラウンジの壁がスライドし、目の前には轟音と排気ガスが渦巻く、地獄のハイウェイが広がっていた。
『それでは、DEATH RACE G.P.、第2ステージ……STARTォォォッ!!』
狂人の絶叫が、再び死のゲームの開始を告げる。
鉄の獣が猛り狂うデス・ロードを前に、9人の魔人たちはどう動くのか。栄光か、あるいは無残な死か。運命のクラクションが、今、鳴り響く。

【第2ステージ:地獄のデス・ロード】
勝利条件: ハイウェイを横断し、反対側のゴールに到達する。
ボーナス: 現金輸送車から現金を奪い、ゴールまで運ぶと1000万円につき1GPP獲得(最大50GPP)。
ギミック: 各種暴走車両、ゲリラ豪雨(鉄骨、金ダライ)。

【第2ステージ:地獄のデス・ロード】

『STARTォォォッ!!』
轟音と排気ガスが渦巻くハイウェイに、9人の魔人たちが解き放たれる。その瞬間、誰もが死を覚悟した。鉄の獣が、文字通り殺意を持ってアスファルトを疾走している。
「フン、下賤な乗り物ですわね」
最初に動いたのは、エドウィージュ・ド・パウロウニア。彼女は迫りくる暴走タクシーの前に、臆することなくスッと手を挙げた。【高貴Lv.3】のオーラと【美少女Lv2】の容姿は、狂った運転手でさえも無視できない強制力を持つ。キキィィッ!と甲高いブレーキ音を立て、タクシーが彼女の目の前で停止した。
「ゴールまでお行きなさい」
【リーダーシップLv.2】で有無を言わせず後部座席に乗り込む。しかし、運転手は悪辣な笑みを浮かべた。
「へへ、お嬢ちゃん、タダで乗れると思ってんのかい?」
「なんですって?」
WCBが用意した狂気の運転手は、エドウィージュの気品に怯みはしたが、完全には屈しない。タクシーはゆっくりと発進するが、その速度は他の車に次々と追い抜かれる、もどかしいものだった。悪役令嬢は、まさかの「ぼったくりタクシー」という庶民的な罠にはまってしまったのだ。
その横を、巨大なダンプカーが猛然と追い抜いていく。
「うわわっ、危ない!」
懸命に車の流れを避けようとしていた一一(にのまえはじめ)。その【可愛いLv.2】の姿が、ダンプカーの女性運転手の目に留まった。
「あら、可愛い子じゃない。危ないわよ、お乗りなさい!」
ガコン、と助手席のドアが開く。【女性にモテるLv.3】の才能が、ここでも遺憾なく発揮される。はじめは九死に一生を得てダンプカーに乗り込んだ。
「ありがとうございま…うわぁ!?」
「しっかり掴まってな!」
女性運転手はニヤリと笑うと、アクセルをベタ踏み! 頑丈なダンプカーは、他の車をなぎ倒しながらハイウェイを強引に横断し始めた!【ToLOVEるメイカー】が、またもやはじめを巨大な乗り物とのハプニングに巻き込んでいく。
『ハッハー! 見ろ! 早くも明暗が分かれたァ! お嬢様はカモられ、女装少年はダンプ姫に拉致された! 人生ってのは理不尽だらけだぜェ!』
ジャック・ポットの実況が響く。
だが、この地獄を己の力だけで渡ろうとする者たちがいた。
「そこをどきなさい!」
青空火炎が【運動神経Lv.3】で疾走する。迫るスポーツカーを紙一重でかわし、ダンプの死角を駆け抜ける。その純粋な身体能力は、このデス・ロードにおいても脅威だった。
「邪魔だ、クソが!」
その火炎に食らいつくように、なめらすじ喇魅悪が【身軽LV.3】で追走する。二人の間には、第1ステージから続く敵意が火花を散らしていた。
やがて、喇魅悪の目が、前方を走る頑丈な現金輸送車を捉えた。
(……ありったけ奪ってやる!)
彼女は加速し、輸送車の側面に張り付くと、その装甲に唇を寄せた。魔人能力『POISON KISS』! 強力な酸性毒が、分厚い鉄板をジュウジュウと音を立てて溶かし始める!
「強盗なんて、あたしが許さない!」
それを見た火炎の【正義感Lv.2】が燃え上がる! 彼女は進路を変え、喇魅悪を阻止すべく手のひらを向けた。
「『ジャスティス・バーナー』!」
「チッ!」
炎が喇魅悪を襲う! 喇魅悪は舌打ちし、輸送車から飛びのいて炎を回避。その結果、火炎の正義の炎は、無防備な現金輸送車のタイヤへと直撃した!
BOOOOM!
タイヤが破裂し、コントロールを失った現金輸送車は激しく横転! 荷台の扉が弾け飛び、中から無数の札束が嵐のように舞い上がった!
「なっ!?」
「金だ!」
ハイウェイは一瞬にして狂乱の渦に包まれる。
『ウッヒョオオオオオ! 見たか今のをォ!? 正義の炎が悪事を止めようとした結果、最悪の強盗事件を引き起こしたぞォ! 皮肉! なんて美しい皮肉だ! これだからショーはやめられねえ!』
このカオスは、さらなるカオスを呼ぶ。
「ふむ…相互理解の好機ですな」
この状況を冷静に見ていた“鉄尻”シィリガ・デルが、おもむろに精神を集中させた。
『シリ―シル』!
次の瞬間、札束に群がろうとしていたプレイヤーと、一部の運転手たちの脳内に、シィリガの誇る完璧な尻のイメージが強制的に送り込まれた!
「ぐっ…なんだこの、気高い尻のビジョンは!?」
「目に…目に尻がァ!」
集中を削がれた者たちが、次々と運転を誤る! 玉突き事故が発生し、ハイウェイは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した!
そして、この地獄絵図を、笑いながら見ている者がいた。
「さて、皆様の注意が逸れたところで…」
奇術師、神無月ナツキ。彼女は事故の混乱に乗じ、【ミスディレクションLv2】で誰にも気づかれずに現金輸送車の残骸に近づいていた。
「いただきましょうか」
彼女が【器用な手先Lv3】で手をかざすと、まだ車内に残っていた札束が、まるで手品のように、一枚残らず彼女のシルクハットの中に吸い込まれていった。
「……」
ただ一人、半 夏生は、この狂騒に一切関わらなかった。彼女は【反射神経Lv2】と【秘めた情熱Lv1】で、ただひたすらに、迫りくる車と事故の残骸を避け、黙々とゴールを目指し続けていた。
だが、このステージの真の勝者は、彼らの誰でもなかった。
「……モーセの奇跡、ご覧にいれますわ」
スタート地点から一歩も動いていなかった探偵院 金卵が、ゆっくりと目を開いた。【真相究明価値あり】と【推理Lv.3】によって、彼女は全ての車の軌道、事故の発生、そしてこの混乱の結末までを完全に見通していた。
彼女がハイウェイに一歩踏み出す。
その瞬間、奇跡が起きた。
猛スピードで迫っていた暴走車両が、まるで意志を持ったかのように、彼女を避けて進路を変える。玉突き事故の炎も、舞い散る札束も、彼女の進む道を清めるように左右に分かれていく。それはもはや【カリスマLv.3】という言葉では説明できない、神々しささえあった。
彼女はただ、まっすぐに、そして【優雅Lv.3】に歩くだけ。それだけで、地獄のハイウェイは彼女のために道を開けたのだ。
そして、最終局面。
「……フン」
おもむろに、ハイウェイの真ん中で立ち止まったのは鏡子だった。彼女はゆっくりと眼鏡を外し、三つ編みをほどいた。【メガネを外すと美人Lv.2】の素顔が露わになる。そして、何の躊躇もなく、セーラー服を脱ぎ捨てた。
【脱いだら凄いLv.3】の、完璧な裸体が白日の下に晒される!
「なっ…!?」
「なんだあの女は!?」
あまりに衝撃的な光景に、シィリガの尻ビジョンからも解放された運転手たちの視線が釘付けになる!
その一瞬の脇見が、命取りだった。
ガッシャァァァン! ドッゴォォォン!!
玉突き事故の連鎖は、ついに最終トリガーを引いた。一台のスポーツカーが、可燃性液体を積んだタンクローリーに追突したのだ。
――大爆発。
全てを飲み込む炎の津波が、ハイウェイ全体を舐め尽くした。
かろうじてゴール付近にいた探偵院金卵、そしてゴールしていた者たち以外は、全員が爆発に巻き込まれ、黒焦げのリタイアとなった。
鏡子は、爆発の直前に【空間歪曲】の能力で手鏡の中に退避し、無傷で難を逃れていた。

【第2ステージ 結果報告】
▼獲得ポイント
探偵院 金卵: 100pt (1位) + 30pt (エンタメ:モーセの奇跡) = 130pt
一一(にのまえはじめ): 80pt (2位) = 80pt
エドウィージュ・ド・パウロウニア: 70pt (3位) = 70pt
神無月ナツキ: 50pt (現金輸送車ボーナス) + 20pt (エンタメ:鮮やかな窃盗劇) = 70pt 【リタイア】
鏡子: 30pt (エンタメ:ハイウェイ崩壊の引き金) = 30pt 【リタイア】
青空火炎: 10pt (エンタメ:正義が招いた大混乱) = 10pt 【リタイア】
“鉄尻”シィリガ・デル: 10pt (エンタメ:尻テロによる玉突き事故誘発) = 10pt 【リタイア】
なめらすじ喇魅悪: 0pt 【リタイア】
半 夏生: 0pt 【リタイア】

インターバル:狂宴の合間に生まれるもの

ハイウェイを焼き尽くした炎と黒煙が晴れた後、参加者たちは再び清潔で無機質なラウンジへと転送された。WCBの医療ドロイドたちが、爆発で黒焦げになった者たちを新品同様に「修理」していく。肉体的なダメージはリセットされても、魂に刻まれた屈辱と新たな敵意は、より濃く、深く、彼らの間に根を下ろしていた。
ラウンジの空気は、第1ステージ後とは明らかに異なっていた。誰もが口を開かず、互いの腹を探り合うような、重苦しい沈黙が支配している。
その沈黙を破ったのは、意外にも一一(にのまえはじめ)だった。彼は総合ランキングで3位に躍り出たにもかかわらず、全く喜んでいなかった。
「あの…探偵院さん、すごかったですね…」
恐る恐る、彼はラウンジの中央で優雅に紅茶を嗜む少女に声をかけた。
探偵院 金卵は、ゆっくりとカップをソーサーに置くと、完璧な笑みではじめを見つめた。
「あら、はじめさん。あなたも幸運でしたわね。あのダンプカーがなければ、今頃アスファルトの染みになっていましたわ」
その言葉には、賞賛も侮蔑もない。ただ、絶対的な強者から見た「事実」が述べられただけだった。だが、その揺るぎない自信が、はじめには何よりも恐ろしく感じられた。
「……」
そんな二人のやり取りを、壁際で眺める神無月ナツキの目は笑っていない。現金強奪には成功したものの、結果はリタイア。何より、あの探偵院金卵の「奇跡」は、彼女のマジックの範疇を遥かに超えていた。
(厄介な子だ…私のトリックが通用しないかもしれない)
初めて感じた脅威に、トリックスターは静かに警戒を強める。そして、彼女の背後には、二つの殺意が突き刺さっていた。
「……てめぇ、よくもあたしの獲物を」
なめらすじ喇魅悪の低い声。
「あなたも同罪よ! 人の争いを利用するなんて!」
青空火炎の怒りの声。
ナツキは肩をすくめ、わざとらしく両手を広げた。
「おや、これは手厳しい。ショーを盛り上げるための、ちょっとした演出じゃないか」
その軽薄な態度が、さらに二人の怒りの炎に油を注いだ。
一方、ラウンジの隅では、別の種類の緊張が走っていた。
「……」
“鉄尻”シィリガ・デルが、おもむろに鏡子の前に立った。鏡子はびくりと肩を震わせる。
「鏡子さん、と、おっしゃいましたかな」
「は、はい…」
「単刀直入に申し上げます。あなたの尻(ソウル)は素晴らしい。だが、その見せ方は間違っている! あのような無秩序な解放は、尻への冒涜です!」
「え…えぇ…?」
予想の斜め上を行く説教に、鏡子はただ困惑するばかり。彼女の破滅的な切り札は、この男にとってはただの「無作法な尻」でしかなかったのだ。
そんな混沌とした人間模様を、半 夏生は相変わらず静かに観察していた。だが、その無表情の裏で、彼女の心は高揚していた。憎悪、嫉妬、警戒、そして理解不能な情熱。様々な感情が渦巻き、物語はより複雑に、より面白くなろうとしている。彼女は次のステージが待ちきれなかった。
その時、けたたましいファンファーレと共に、巨大スクリーンにジャック・ポットが登場した。
『イイイイハァァァァッ! 見たか、今の地獄絵図を! 爆発! 炎上! 阿鼻叫喚! これだよこれ! 俺様が見たかったのはこういうのだ! 特に探偵院金卵! お前のあのウォーキングは神懸かってたぜ! 視聴率は過去最高を記録したぞ!』
ジャック・ポットは金のタキシードをはだけさせ、狂ったように叫ぶ。
『だがな! いつまでも同じ奴が勝ち続けちゃ面白くねえ! 次はもっと狭く! もっと陰湿に! お前たちのドス黒い本性がぶつかり合う、最高の蠱毒を用意してやったぜ!』
彼の言葉と共に、スクリーンには美しくも不気味な庭園が映し出された。天を突くようにそびえ立つ中央の塔。その周囲を、迷路のように入り組んだ、棘だらけの茨の壁が取り囲んでいる。
『さあ、第3ステージの舞台は…【貪食の迷宮庭園(グリード・ラビリンス)】だ!』
ジャック・ポットが指を鳴らすと、庭園のCGモデルが映し出され、その危険なギミックが紹介されていく。
『お前たちは、このクソッタレな迷宮の外周、それぞれ別の入口からスタートしてもらう! 目指すは中央の塔! だが、塔の扉は固く閉ざされている。扉を開ける鍵は、この庭園のどこかに生えている「三日月草」っていう光る草だ!』
スクリーンには、淡い光を放つ三日月の形をした美しい植物が映る。
『もちろん、ただの散歩になるわけがねえ! この庭園には、お前らみたいなクズを主食にしてる、腹ペコの人喰い植物がウヨウヨしてるぜェ! 音に反応するデカい顎! 触るだけで麻痺する毒の蔦! 甘い香りで幻覚を見せる花! そして、お前らを金縛りにする絶叫マンドラゴラ! 生きてゴールにたどり着けるかなァ?』
悪趣味な植物たちの映像に、何人かが顔を青くする。
『三日月草は自分で探すもよし! 他の奴が見つけたのを、背中からブッ刺して奪い取るもよし! 友情ごっこは終わりだ! ここからは本物の奪い合い、殺し合いを見せてみやがれェェェ!』
ジャック・ポットの宣言と共に、参加者たちの足元の床が個別にスライドし、それぞれが暗い通路へと分断されていく。
『それでは、DEATH RACE G.P.、第3ステージ……STARTォォォッ!!』
孤独な戦いの始まりを告げる絶叫。
暗い通路の先、棘の迷宮の入口で、9人の魔人たちは何を思うのか。疑心暗鬼と殺意が渦巻く庭園で、最後に笑うのは誰だ。

【第3ステージ:貪食の迷宮庭園(グリード・ラビリンス)】
ゴール条件: 「三日月草」を入手し、中央塔に到達する。
ギミック: 人喰い植物(スナップ・ドラゴン、ポイズン・アイビー、ブラッド・リリー、スクリーム・マンドラゴラ)。参加者はそれぞれ別々の入口からスタート。

【第3ステージ:貪食の迷宮庭園(グリード・ラビリンス)】

棘の茨が壁となり、天を覆う不気味な迷宮。9人の魔人たちは、それぞれ異なる入口から、孤独な戦いを開始した。
『ハッハー! 待ち受けるは腹ペコの植物どもだ! 誰が最初に肥料になるか、賭けをしようぜェ!』
ジャック・ポットの悪趣味な実況が、庭園に響き渡る。
「フン、下賤な植物ですこと」
エドウィージュ・ド・パウロウニアは、扇子を優雅に一振りする。『ウィンディフロウ』! 巻き起こった風は、前方に咲き誇るブラッド・リリーの甘い香りと幻覚花粉を、彼女とは全く別の方向へと吹き飛ばした。遠くの通路で、無人のスナップ・ドラゴンがガチガチと顎を鳴らす音が聞こえる。陽動は成功だ。彼女は【高貴Lv.3】のオーラを纏い、茨の道を進む。その【美少女Lv2】の輝きの前に、まるで自ら進み出るかのように、茨の隙間から「三日月草」が淡い光を放って姿を現した。
「このような迷宮、ワタクシの知性の前では無意味ですわ」
一方、別の入口からスタートした探偵院 金卵は、すでに迷宮の全ての構造、ギミックの配置、そして最短ルート上にある三日月草の場所を【真相究明価値あり】で看破していた。彼女は完璧な【推理Lv.3】に基づき、最も安全かつ迅速な道を【優雅Lv.3】に進み始める。このステージもまた、彼女の圧勝に終わるかに思われた。
だが、このレースでは常に、予測不能なハプニングが「奇跡」を上書きする。
「うわああああ! こっち来ないで!」
金色の茨の壁の向こうから、悲鳴が聞こえた。巨大なスナップ・ドラゴンに追いかけ回されている一一(にのまえはじめ)だ! 彼はパニックのあまり、茨の壁に突撃! バリバリという轟音と共に、はじめは壁を突き破り、あろうことか金卵の目の前に転がり込んできた!
ドサッ!
【ToLOVEるメイカー】が発動。転んだはじめの手が、金卵の制服のスカートを偶然にも、しかし確実にたくし上げてしまったのだ!
「なっ…!?」
晒される純白。完璧なはずの金卵の思考に、一瞬のノイズが走る。彼女の推理は、こんな「不合理な変数」を想定していなかった。さらに、パニック状態のはじめが顔を上げた。涙目でこちらを見つめる【可愛いLv.2】の顔。それは、これまで彼女が出会ったどんな「謎」よりも、不可解で、そして心をかき乱すものだった。
「あ、あの、ご、ごめんなさい!」
「……っ!」
金卵は生まれて初めて、顔に熱が集まるのを感じた。完璧なポーカーフェイスがわずかに揺らぎ、その歩みが、ほんのわずかに、しかし確実に遅れた。
この小さな遅れが、戦局を大きく変えることになる。
ゴオオオオオッ!
庭園の一角で、巨大な火柱が上がった。
「燃え尽きなさい!」
青空火炎の【ジャスティス・バーナー】が、邪魔な植物を薙ぎ払う!【運動神経Lv.3】で駆け抜ける彼女は、最短ルートを自らの手で切り開いていた。
「誰かいない!? 協力しましょう!」
【他人に信頼されやすいLv.2】のオーラを放ちながら彼女は叫ぶが、この殺伐とした庭園で、その声に応える者はいない。
「フン、馴れ合いは結構」
別のルートでは、なめらすじ喇魅悪が【身軽LV.3】で茨の上を駆け抜けていた。ポイズン・アイビーの蔦が彼女を襲うが、大塚スネークがそれを叩き落とし、喇魅悪は逆にその毒を【毒物取扱LV.2】で無効化する。彼女の【POISON KISS】は、人喰い植物にとってさえも脅威だった。
そして、最も静かに、しかし最も恐ろしい行動を取っていた者がいた。
「……ふふ」
紫のレインコートのフードの下で、半 夏生は笑っていた。【薬学Lv3】の知識で、彼女はブラッド・リリーの幻覚花粉やポイズン・アイビーの麻痺毒を、その場で調合し、新たな「兵器」へと変えていたのだ。
そして、彼女は迷宮を進むのではなく、火炎が切り開いた道へと向かった。
「一直線に進むなんて、わかりやすい…」
夏生は、火炎が通った後の道に、先ほど精製した無色無臭の麻痺毒を振りまき、幻覚花粉を詰めた茨の実をトラップとして仕掛けた。彼女は自ら道を探すのではなく、他者がゴールに至るのを待ち、そしてそれを刈り取る「狩人」となることを選んだのだ。
一方、ゴールである中央塔の前では、奇妙な対峙が始まっていた。
最初に塔にたどり着いたのは、なんと神無月ナツキだった。彼女は三日月草など探さず、ただひたすらにゴールを目指していたのだ。
「さて、主役の登場を待ちますか」
やがて、エドウィージュが、そしてペースを乱された金卵とはじめが、ほぼ同時に塔の前にたどり着く。
「あら、皆様お早いですわね」
「なぜお前がここにいるのだ!」
エドウィージュと金卵が、三日月草を持たないナツキを訝しむ。
その瞬間、ナツキは指を鳴らした。
「では皆様、こちらにご注目を」
彼女の【話術Lv2】と【ミスディレクションLv2】が、全員の意識をナツキの左手に握られた【トランプLv1】に集中させる。
「あなた方がお持ちの三日月草…実は、私がいただいた後でしたらどうします?」
「何を馬鹿なことを!」
エドウィージュが声を荒げた、その刹那。
ナツキの右手が、まるで幻影のようにエドウィージュの持つ三日月草を、そして金卵が懐にしまった三日月草を、信じられないほどの速度と【器用な手先Lv3】ですり替えていた!
エドウィージュの手の中には、いつの間にかトランプのジョーカーが。金卵が懐を探ると、そこにも一枚のカードが。
「さて、チェックメイトだ」
ナツキの手には、二つの三日月草が輝いていた。
『ウッヒョオオオ! 出たァ! またしても神業イリュージョン! 獲物は探すな、持ってる奴から奪い取れ! これぞDEATH RACE G.P.の精神だ!』
だが、本当の地獄は、ここからだった。
「……皆さん、お揃いで」
塔の前に、“鉄尻”シィリガ・デルが姿を現した。彼は耳に土を詰め、奇妙な様子だ。
「皆さんと、尻(ソウル)で対話がしたい」
そう言うと、彼は懐の【拳銃Lv3】を取り出し、遠くの茂みに向かって発砲した!
ドキュン!
――GYYYYYIIIIIIIAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!
銃弾が、スクリーム・マンドラゴラを直撃した。
耳を塞いでいない全員の身体が、金縛りにあったように硬直する!
「なっ…動けな…!」
「ぐ…!」
ナツキも、金卵も、エドウィージュも、そしてはじめも、その場に縫い付けられる!
「さて、これでゆっくりと相互理解ができますな」
シィリガは、動けないナツキから悠々と三日月草を一つ奪い取ると、塔の扉に手をかけた。
だが、彼もまた、勝利を手にすることはできなかった。
金縛りが解けかけたその時、背後から近づく影があった。
「…見つけた」
半 夏生だった。彼女は金縛りの効果範囲外から冷静に状況を観察し、この瞬間を待っていたのだ。
彼女は、調合した最強の麻痺毒を塗った茨の棘を、シィリガの首筋に吹き矢のように放った!
「ぐっ…!?」
シィリガはその場に崩れ落ち、意識を失う。夏生は彼の持っていた三日月草を拾い上げ、そして、まだ金縛りから回復しきれていないナツキの手からも、もう一つの三日月草を奪い取った。
「ふふ…ふふふ…」
静かな笑い声が、塔の前に響く。これまで鳴りを潜めていた無口な少女が、このステージの全てを掻っ攫っていったのだ。

【第3ステージ 結果報告】
▼獲得ポイント
半 夏生: 100pt (1位) + 30pt (エンタメ:恐るべき狩人) = 130pt
なめらすじ喇魅悪: 80pt (2位) = 80pt
青空火炎: 70pt (3位) = 70pt
鏡子: 60pt (4位) = 60pt
探偵院 金卵: 30pt (エンタメ:完璧な推理の崩壊) = 30pt 【リタイア】
神無月ナツキ: 20pt (エンタメ:鮮やかな強奪からの逆転劇) = 20pt 【リタイア】
“鉄尻”シィリガ・デル: 10pt (エンタメ:自爆的尻テロ) = 10pt 【リタイア】
一一(にのまえはじめ): 10pt (エンタメ:絶対王者のペースを乱す) = 10pt 【リタイア】
エドウィージュ・ド・パウロウニア: 0pt 【リタイア】

インターバル:綻びる仮面と剥き出しの敵意

再び転送されたラウンジは、もはや休憩所としての機能を失っていた。誰もソファに座ろうとせず、互いに距離を取り、剥き出しの敵意と警戒心を隠そうともしない。第3ステージの結果は、このデスゲームに新たな序列と、より複雑な憎悪の相関図を描き出した。
「……半夏生、でしたわね」
最初に口を開いたのは、神無月ナツキだった。その声は普段の軽薄さが嘘のように冷たく、凍てついている。
「私の獲物を横からかっさらうとは、良い度胸じゃないか」
「……早い者勝ち、でしょう?」
半 夏生は、フードの下で静かに微笑む。彼女はついに、このゲームの主役の一人として、その存在を刻みつけたのだ。その堂々とした態度に、ナツキは忌々しげに舌打ちをする。
そのナツキと夏生から、最も遠い場所に立っているのは探偵院 金卵だった。彼女は壁に背を預け、腕を組んで目を閉じている。しかし、その完璧なポーカーフェイスは、明らかに一一(にのまえはじめ)を意識していた。はじめが少しでも動くと、金卵の肩が微かに震える。彼女の脳内では、あの純白の光景と、涙目の少年の顔が、何度再生されても消せないバグのようにこびりついていた。
「あ、あの…探偵院さん、大丈夫…?」
「……近寄らないでくださいまし」
はじめの善意の言葉は、氷のような拒絶で一蹴された。彼女にとって、はじめはもはや「解けない謎」であり、自身の完璧さを脅かす「天敵」となっていた。
「くっ…またしても…!」
ラウンジの隅で、エドウィージュ・ド・パウロウニアは扇子を握りしめ、屈辱に打ち震えていた。2ステージ連続で他者の出し抜きにあい、ポイントは最下位グループ。高貴なるプライドは、もはやズタズタだった。彼女の怒りの矛先は、もはや特定の誰かではなく、この理不尽なゲームそのものへと向かい始めていた。
「おい、偽善者」
そんな中、なめらすじ喇魅悪が、2位でゴールしたにもかかわらず不機嫌そうに青空火炎に声をかける。
「てめぇ、今回はまあまあだったじゃねえか。バカ正直に火ぃ吹いてるだけかと思ったが」
「あなただって、ゴールできたならいいじゃない!」
「フン」
二人の間の敵意は変わらない。だが、そこには奇妙な「ライバル」としての認識が芽生え始めていた。互いに気に食わないが、その実力だけは認めざるを得ない。そんな複雑な感情が、二人を繋いでいた。
“鉄尻”シィリガ・デルは、自らの戦術が招いた敗北を反省し、静かに壁に向かって尻を突き出し、瞑想していた。
(尻(ソウル)による対話は、まだ早すぎたのかもしれない。相互理解には、まず肉体言語のさらなる研鑽が必要か…)
彼は次なるステージに向け、新たな決意を固めていた。その隣で、鏡子は手鏡を磨きながら、この狂った参加者たちと、どう渡り合っていくべきか、静かに思考を巡らせていた。
その時、スクリーンに映し出されたジャック・ポットは、いつになく興奮し、よだれを垂らしそうなほどの恍惚とした表情を浮かべていた。
『ヒィィィィィハァァァァァァ!! 見たか! 見たか今のをォ! 狡猾! 冷酷! そして最高に美しい逆転劇! 半夏生! お前のあの漁夫の利、シビれたぜェ! これだよ! これこそが人間の本性! 欲望のぶつかり合いだ!』
ジャック・ポットは恍惚の表情で天を仰ぐ。
『そして! 絶対王者、探偵院金卵のまさかの失速! あのポーカーフェイスを崩させたのは、なんと最弱候補のはじめちゃんだァ! 恋か!? 恋なのか!? ドロドロの愛憎劇の始まりを、全世界が固唾を飲んで見守ってるぞ!』
「ち、違いますわ!」
金卵の悲鳴にも似た否定が、ラウンジに虚しく響く。
『さあ、ゲームも中盤戦だ! ここからはもっと過激に、もっと下品に、もっとエロティックに盛り上がってもらおうじゃねえか! 第4ステージからは、獲得ポイントが全て倍になるぞ! 一発逆転のチャンスだ、クズども!』
ポイントが倍になる。その言葉に、下位のプレイヤーたちの目の色が変わった。
『お前たちを次に送り込むのは、愛と欲望が煮詰まって腐っちまった、この世の地獄! その名も……【セクシャル・ハザード・シティ】!』
スクリーンに映し出されたのは、廃墟と化した都市だった。道路は事故車で埋め尽くされ、建物の窓は割れている。そして、その街を徘徊するのは、虚ろな目で、よだれを垂らし、明らかにおかしな喘ぎ声を漏らしながら千鳥足で歩く、無数の「住民」たちだった。
『この街は、特殊なウイルスに汚染され、住民全員が理性と羞恥心を失った性欲ゾンビと化している! お前らみたいな新鮮な肉は、奴らにとっちゃ最高の馳走だ! 奴らの誘惑と襲撃を切り抜けて、街から脱出しろ!』
ジャック・ポットはゲラゲラと笑いながら説明を続ける。
『ただし、救済措置も用意してあるぜ。スタート地点近くの研究所には、奴らの欲望の対象から外れる「ワクチン」が隠されている。もっとも、厳重なセキュリティと、ウイルスに感染したマッドな研究員どもを突破できればの話だがな!』
安全な道か、危険な近道か。選択を迫る悪魔の囁き。
『さあ、お前たちの貞操と命、そして大金を賭けた鬼ごっこの始まりだ! 性欲ゾンビの餌食になるか、それとも英雄的に脱出するか! 最高の絵を見せてみやがれェェェーーーッ!!』
ジャック・ポットの絶叫と共に、参加者たちの足元の床が抜け落ちる。彼らは悲鳴を上げる間もなく、暗闇の中へと吸い込まれていった。

【第4ステージ:セクシャル・ハザード・シティ】
ゴール条件: 性欲ゾンビと化した住民たちの襲撃を退け、都市から脱出する。
ギミック:
性欲ゾンビ: 視界に入ったプレイヤーを執拗に追いかけ、誘惑または襲い掛かってくる。捕まると行動を著しく阻害される。
ワクチン: スタート地点近くの研究所にある。入手すれば、ゾンビのターゲットから外れる。ただし、入手には困難が伴う。
特別ルール: このステージから、全ての獲得ポイントが2倍になる。

【第4ステージ:セクシャル・ハザード・シティ】

腐臭と甘ったるい香りが混じり合う、欲望の廃都。参加者たちが薄汚れた路地に転送された瞬間、遠くから聞こえる不気味な喘ぎ声と、ねっとりとした視線が全身に突き刺さった。
『ハッハァー! ようこそ、愛と理性の墓場へ! お前らのその瑞々しい肉体は、ここの住民にとっては最高級のフルコースだ! さあ、貞操を懸けたサバイバルゲームの始まりだぜェ!』
ジャック・ポットの煽りが、狂宴の開始を告げる。
この地獄で、まず動いたのは「協調」を目指す者たちだった。
「皆さん、ここは危険です! 私が皆を率いてワクチンを確保しますわ!」
屈辱にまみれたエドウィージュ・ド・パウロウニアが、【リーダーシップLv.2】を発揮し、声を張り上げる。
「そうだ、みんなで協力しよう! こんな非人道的な場所、あたしが絶対に許さない!」
青空火炎も、その提案に力強く賛同する。【正義感Lv.2】が、彼女を孤立ではなく共闘へと突き動かした。
二人の呼びかけに、何人かが足を止める。だが、このデスゲームで他者を信じることほど難しいものはない。
「…協力、ですか。結構なことですな」
そんな中、神無月ナツキが胡散臭い笑みで歩み寄る。彼女は協力するフリをして、研究所のセキュリティという「脅威」を他のプレイヤーに向けさせ、その隙にワクチンを独占する算段だった。
しかし、全ての計画、全ての戦略は、この街の狂気と、一人の少年の特異体質によって、開始数秒で粉砕される運命にあった。
「うわっ! な、なんだ!?」
一一(にのまえはじめ)が悲鳴を上げた。彼の【可愛いLv.2】の容姿と【女性にモテるLv.3】の体質は、この性欲ゾンビで満たされた街において、最強のビーコンと化したのだ。
「ア…アァ…」
「カワイイ…カワイイコ…」
路地の奥から、建物の陰から、マンホールの中から、虚ろな目をした男女の住民たちが、まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、はじめの元へと殺到し始めた!
そして、発動する『ToLOVEるメイカー』。
はじめに殺到した住民の津波は、彼一人に留まらず、その周囲にいた女性プレイヤーたち――協力しようと集まっていたエドウィージュ、火炎、そしてナツキを、有無を言わさず飲み込んでいった!
「きゃあああっ!?」
「な、何ですのこれ!離しなさい、下郎ども!」
「いやっ…!こんなの、正義じゃない…!」
女性たちの悲鳴が、住民たちの歓喜の喘ぎ声にかき消される。彼女たちの行動宣言は、実行に移される前に、圧倒的な数の暴力によって無に帰した。
さらに悪いことに、住民たちとのもみ合いの中で、近くの噴水からピンク色の「媚薬ミスト」が噴出! 甘い霧が、抵抗する彼女たちの理性を容赦なく蝕んでいく…。
『ウッヒョオオオオオ! いきなりクライマックスだァ! はじめちゃんを中心に、地獄のハーレム絵図が展開されてるぞォ! これぞセクシャル・ハザード! 視聴率が測定不能領域に突入だァ!』
この地獄絵図を、冷ややかに見下ろす者たちがいた。
「…チッ、バカどもが」
なめらすじ喇魅悪は、協力などという甘い考えは端から持っていなかった。彼女は【身軽LV.3】で建物の屋根に飛び乗り、眼下で繰り広げられる狂宴を尻目に、最短ルートで街の脱出を目指す。【毒物取扱LV.2】の体質は、媚薬ミストさえも彼女には効かない。
「邪魔だ、失せろ!」
追ってくるゾンビは、大塚スネークが的確に急所を打ち、あるいは喇魅悪自身の『POISON KISS』がその肌に触れ、たちまちその動きを停止させた。彼女は誰とも交わらず、ただ一人、己の力のみでこの街を駆け抜けていく。
そして、この混乱を「好機」と見た男がいた。
「ふむ…素晴らしい。まさに生の混沌。これを相互理解の糧としない手はありませんな」
“鉄尻”シィリガ・デルは、脳裏に浮かんだ完璧な作戦に打ち震えた。彼は【シリ―シル】を発動。はじめに群がる住民たちの脳内に、今まさに陵辱されかけているエドウィージュの気高くも無防備な尻、火炎の張りのある若々しい尻のイメージを、鮮明に送り込んだのだ!
「グォォォ…!」「アッチ…アッチニモ…!」
住民たちのターゲットが、さらにはじめと女性陣に集中する! 彼は完璧な囮を作り出すと、自身は【運動神経Lv1】で慎重に、しかし着実に脱出ルートを進み始めた。襲い来る少数のゾンビは【拳銃Lv3】で威嚇し、万が一組み付かれても【硬い尻Lv3】が最後の砦として機能する。
だが、このステージには、さらに格上の「超越者」が存在した。
「あらあら、お盛んなことですわね」
探偵院 金卵。彼女ははじめの引き起こした混乱を予測していたかのように、一歩離れた場所からその惨状を眺めていた。彼女が研究所に一瞥をくれると、【真相究明価値あり】が発動。研究所の全てのセキュリティは自らその機能を停止し、一本の「ワクチン」が、まるで忠実な下僕のように独りでに飛来し、彼女の【優雅Lv.3】な手の中に収まった。
ワクチンを接種した彼女は、もはや住民にとって「存在しない者」となった。彼女は、今まさに欲望の渦に飲み込まれようとしているはじめを一瞥し――ほんのわずかに、眉をひそめ――そして、誰にも気づかれることなく、悠々と街を去っていく。
そして、もう一人。
「……」
鏡子は、群がってくる住民たちを前に、静かに服を脱ぎ捨てた。
【脱いだら凄いLv.3】の完璧な肉体が露わになる。住民たちが、獲物を見つけた獣のように殺到する。
だが、彼らが鏡子の肌に触れることは、決してない。
彼女が吐息を一つ漏らすだけで、その【セックスLv3】という異能の極致から放たれる圧倒的なフェロモンが、住民たちの脆弱な理性を根元から焼き切るのだ。
「ア……」「グフッ…!」
住民たちは、鏡子に近づいただけで、その場で恍惚の表情を浮かべて崩れ落ち、次々と昇天していく。それはもはやパレードだった。鏡子が歩む道、その前後には、彼女を崇拝し、ひれ伏し、そして満たされた顔で失神する信者たちの列ができていた。彼女は、この街の女王として、悠然とゴールへと向かう。
最後に、研究所にたどり着いた者がいた。
半 夏生だ。彼女は、はじめが引き起こした大混乱のおかげで、比較的容易に研究所に潜入できた。
「…なるほど、この構造式なら」
【薬学Lv3】の知識で、彼女は残された資料からワクチンの成分を瞬時に解析。【市販薬Lv2】の解熱剤やビタミン剤を触媒に、研究室の遠心分離機を巧みに操り、わずか数分で簡易的なワクチンを精製してしまった。
それを自身に投与し、彼女もまた、誰にも知られることなく、この狂気の街から静かに脱出した。

【第4ステージ 結果報告】
[セクシャル・ハザード・シティ]
▼獲得ポイント(※今ステージからポイント2倍)
鏡子: 100pt (1位) + 30pt (エンタメ:街の支配者) = 130pt → 260pt
探偵院 金卵: 80pt (2位) + 20pt (エンタメ:絶対的優雅) = 100pt → 200pt
半 夏生: 70pt (3位) + 20pt (エンタメ:即席ワクチン精製) = 90pt → 180pt
なめらすじ喇魅悪: 60pt (4位) = 60pt → 120pt
“鉄尻”シィリガ・デル: 50pt (5位) + 10pt (エンタメ:非情なる尻の囮) = 60pt → 120pt
青空火炎: 10pt (エンタメ:開始即リタイア) = 10pt → 20pt 【リタイア】
エドウィージュ・ド・パウロウニア: 10pt (エンタメ:開始即リタイア) = 10pt → 20pt 【リタイア】
神無月ナツキ: 10pt (エンタメ:開始即リタイア) = 10pt → 20pt 【リタイア】
一一(にのまえはじめ): 30pt (エンタメ:全ての元凶) = 30pt → 60pt 【リタイア】


異議あり。探偵院 金卵の能力は一一(にのまえはじめ)の【ToLOVEるメイカー[魔]】を最大の弱点としていたはずです。であればこのターンも探偵院は予定していた行動を遮られ、住民たちに巻き込まれてしまうべきではないでしょうか。GKはどのような判断で探偵院の行動を優先させたのかお聞かせください。あるいはこのターンの内容を修正して変更した状態で書き直してください。

{ご指摘、誠にありがとうございます。素晴らしい着眼点です。
あなたの言う通り、私の判断と描写には重大な見落としがありました。
前回、探偵院金卵の完璧な予測能力は、一一(にのまえはじめ)が引き起こす「不合理な偶然の連鎖」である【ToLOVEるメイカー】の前では無力、あるいは著しく精度が落ちるという因果関係が確立されました。彼女にとって、はじめは唯一にして最大の弱点です。
その大原則を無視し、彼女があたかも弱点を克服したかのように描写したのは、物語の一貫性を損なう、私の完全なミスです。完璧なはずの彼女が、はじめという不条理によって何度も計画を狂わされることこそ、この『DEATH RACE G.P.』の醍醐味であるはずでした。
この異議申し立てを全面的に受け入れ、第4ステージの描写を、本来あるべき「因果の連鎖」を正しく反映した形に、全面的に修正・再筆いたします。
大変失礼いたしました。以下が、修正後の第4ステージの物語です。}


【第4ステージ:セクシャル・ハザード・シティ】(修正版)

腐臭と甘ったるい香りが混じり合う、欲望の廃都。参加者たちが薄汚れた路地に転送された瞬間、遠くから聞こえる不気味な喘ぎ声と、ねっとりとした視線が全身に突き刺さった。
『ハッハァー! ようこそ、愛と理性の墓場へ! お前らのその瑞々しい肉体は、ここの住民にとっては最高級のフルコースだ! さあ、貞操を懸けたサバイバルゲームの始まりだぜェ!』
ジャック・ポットの煽りが、狂宴の開始を告げる。
「……っ!」
このステージが発表された瞬間から、探偵院 金卵はただ一人、一一(にのまえはじめ)の存在を最大限に警戒していた。前回の失態は、彼女のプライドに消えない傷を残した。彼女の【推理Lv.3】は、このステージにおける最大の脅威が性欲ゾンビではなく、あの歩く災害(はじめ)であると結論付けていた。
(あの少年から、絶対に距離を取る…!)
彼女は他の誰とも合流せず、即座にはじめとは逆方向、研究所へと続く最短ルートを【優雅Lv.3】に駆け出した。
一方、そのはじめは、やはりというべきか、この街の狂気を最大限に増幅させていた。
「うわっ! な、なんだ!?」
彼の【可愛いLv.2】の容姿と【女性にモテるLv.3】の体質は、この欲望の坩堝において、最強のビーコンと化したのだ。
「ア…アァ…」
「カワイイ…カワイイコ…」
路地の奥から、建物の陰から、マンホールの中から、虚ろな目をした男女の住民たちが、まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、はじめの元へと殺到し始めた!
そして、発動する『ToLOVEるメイカー』。
はじめに殺到した住民の津波は、彼一人に留まらず、その周囲にいた青空火炎、エドウィージュ・ド・パウロウニア、そして漁夫の利を狙っていた神無月ナツキを、有無を言わさず飲み込んでいった!
「きゃあああっ!?」
「な、何ですのこれ!離しなさい、下郎ども!」
「いやっ…!こんなの、正義じゃない…!」
三人の女性プレイヤーは、行動を起こす間もなく欲望の渦に引きずり込まれていく。近くの噴水から噴出したピンク色の「媚薬ミスト」が、彼女たちの抵抗をさらに無力なものへと変えていった。
この地獄絵図を尻目に、なめらすじ喇魅悪は屋根の上を駆け抜け、“鉄尻”シィリガ・デルは非情な囮作戦を実行に移す。ここまでは、運命の歯車が以前と同じように回転していた。
だが、最大の悲劇は、最も安全なはずの場所で起ころうとしていた。
(よし…ここまで来れば、あの少年の影響は届かない)
探偵院金卵は、研究所の前にたどり着いていた。彼女の【真相究明価値あり】の前では、電子ロックも物理的な障壁も意味をなさない。セキュリティは沈黙し、ワクチンが保管されたケースが、彼女を待っていたかのように静かに開く。勝利を確信し、彼女がワクチンに手を伸ばした、その瞬間だった。
ドッゴォォォン!!
背後で、凄まじい爆発音が響いた。
はじめに殺到していた住民の一人が、パニックのあまり、道端に転がっていたプロパンガスのボンベに倒れ込み、それが引火したのだ。それは、誰にも予測できない、純粋な「偶然」の爆発だった。
爆風そのものは、金卵に届かない。だが、その衝撃で吹き飛ばされた看板が、回転しながら宙を舞い、あろうことか研究所の壁に激突! 衝撃で天井の配管が外れ、金卵の頭上から、大量の冷却水が滝のように降り注いだ!
「なっ…!?」
完璧なはずの制服が、一瞬にしてずぶ濡れになる。白いブラウスが肌に張り付き、その下のラインがくっきりと浮かび上がった。
彼女の完璧な思考に、一瞬の空白が生まれる。そして、その「濡れた姿」という新たな情報を、近くに潜んでいた性欲ゾンビが見逃すはずがなかった。
「ア…イイ…」
「ミズ…ヌレテル…」
金卵の脳が危険を察知した時には、すでに遅かった。ワクチンまであと数センチ。その指先が空を切ると同時に、背後から伸びてきた無数の腕が、彼女を欲望の渦へと引きずり込んでいった。
「いやあああああああああああああっ!」
名探偵の悲鳴は、誰の耳にも届かなかった。
『ウッヒョオオオオオオ!! 見たか今のをォ!? 絶体絶命! 四面楚歌! 万事休す! そこからの連鎖爆発、起死回生のセクシートラップだァーーッ! 天敵! まさに天敵! 探偵院金卵、最強の能力をもってしても、はじめちゃんのラブ・ハザードからは逃げられなかったァ! これだ! これが見たかったんだよ俺はァァァ!!』
この惨状の中、ただ二人、この街の理(ことわり)を超越した者がいた。
一人は、近づく者すべてをその異能のオーラで昇天させ、女王のように君臨する鏡子。
もう一人は、この地獄を自らの実験場と変え、冷静に簡易ワクチンを精製した半 夏生だった。
彼女たちは、崩れ落ちた絶対王者にも、欲望の渦に沈んだ者たちにも目もくれず、静かにゴールゲートをくぐり抜けていった。

【第4ステージ 結果報告】(修正版)
▼獲得ポイント(※今ステージからポイント2倍)
鏡子: 100pt (1位) + 30pt (エンタメ:街の支配者) = 130pt → 260pt
半 夏生: 80pt (2位) + 20pt (エンタメ:即席ワクチン精製) = 100pt → 200pt
なめらすじ喇魅悪: 70pt (3位) = 70pt → 140pt
“鉄尻”シィリガ・デル: 60pt (4位) + 10pt (エンタメ:非情なる尻の囮) = 70pt → 140pt
探偵院 金卵: 30pt (エンタメ:天敵に沈む絶対王者) = 30pt → 60pt 【リタイア】
一一(にのまえはじめ): 30pt (エンタメ:全ての元凶) = 30pt → 60pt 【リタイア】
青空火炎: 10pt (エンタメ:開始即リタイア) = 10pt → 20pt 【リタイア】
エドウィージュ・ド・パウロウニア: 10pt (エンタメ:開始即リタイア) = 10pt → 20pt 【リタイア】
神無月ナツキ: 10pt (エンタメ:開始即リタイア) = 10pt → 20pt 【リタイア】

インターバル:壊れたプライドと新たな女王

WCBの医療スタッフによる完璧な「修復」を終え、ラウンジに転送された参加者たちの空気は、もはや最悪という言葉すら生ぬるいものだった。
ラウンジの最も遠い隅と隅。そこに、探偵院 金卵と一一(にのまえはじめ)が立っていた。
金卵は、壁に爪を立てんばかりに背を預け、カタカタと小さく震えている。その瞳は、もはやはじめを見てすらいない。まるでそこに存在しないかのように、あるいは自身の認識から完全に排除しようとするかのように、虚空を見つめていた。彼女の完璧な世界は、あの歩く不条理によって完全に破壊された。プライドは砕け散り、残ったのはトラウマと、自身の論理では処理できない存在への原始的な恐怖だけだった。
対するはじめは、完全に縮こまっていた。彼はただ、そこにいるだけで、この場の誰よりも恐れられていることを肌で感じていた。特に、青空火炎、エドウィージュ・ド・パウロウニア、神無月ナツキの三人は、まるで強力な磁石の同極が反発しあうかのように、はじめから半径5m以上の距離を保っている。彼女たちの目には、友情も、敵意も、侮蔑もない。ただ、「関わってはいけない災害」を見る目があるだけだった。
ラウンジの空気を支配していたのは、もはや金卵のカリスマではなかった。
ソファにゆったりと腰かけ、手鏡を磨いている鏡子。彼女が指を動かすたびに、周囲のプレイヤーたちがびくりと肩を震わせる。第4ステージで見せた、あの圧倒的な「処理能力」は、もはや魔人能力の域を超え、災害級の現象として全員の脳裏に焼き付いていた。彼女は何も語らない。だが、その沈黙こそが、この場における絶対的な強者の証だった。
「……」
その鏡子を、静かに、しかし鋭い観察眼で見つめているのは半 夏生だった。彼女は今や総合ランキング2位。着実に、そして狡猾にポイントを稼ぎ、優勝候補として名乗りを上げた。彼女の興味は、もはや崩れ落ちた元女王(金卵)ではなく、新たな女王(鏡子)へと移っていた。この女をどう出し抜くか。それだけが、彼女の心を占めている。
そんな中、なめらすじ喇魅悪と“鉄尻”シィリガ・デルは、それぞれ単独で上位に食い込んできた実力者として、互いに無言の牽制を送り合っていた。馴れ合いを好まぬ一匹狼同士、その戦い方は違えど、他者を蹴落とすという一点において、彼らは通じ合うものがあった。
その時、スクリーンに映し出されたジャック・ポットは、恍惚の絶頂に達したような、だらしない顔をしていた。
『ヒィィィィィ……最高だ…最高だったぜェ…! あの絶対無敵の探偵院金卵が! あの歩くラブコメ製造機によって! あんな無様な姿を晒すとはなァ! これだよ! これこそが、金では買えねえ最高のエンターテイメントだ!』
「……っ!」
金卵の肩が、屈辱に大きく震える。
『そして新たな女王の誕生だ! 鏡子! お前のあのウォーキング・デッドならぬウォーキング・ヘヴン! 全世界の視聴者がお前の前にひれ伏したぞ! まったく、とんでもねえ女だぜお前は!』
ジャック・ポットは一呼吸おくと、ニヤリと下品な笑みを浮かべた。
『さあ、ゲームもいよいよ終盤戦だ! 次は、お前らのその自慢の肉体を、もっとじっくりねっとり拝ませてもらうぜ! 次の舞台は…深海だ!』
スクリーンが切り替わり、映し出されたのは、光も届かぬ紺碧の深海。美しいサンゴ礁と、その影に潜む巨大な生物たちの影。
『第5ステージは…【ポロリもあるよ!深海のプレッシャー・ハント】!』
ジャック・ポットは、悪趣味なウィンクを飛ばす。
『ルールは簡単! 人工島の外海に潜り、海底に眠る「真珠」を手に入れて、水面に浮上するだけだ! もちろん、手に入れた真珠の数に応じてボーナスポイントもくれてやる!』
スクリーンには、参加者たちの名前が書かれたロッカーが映し出される。中には、サイズの合っているかも怪しい、様々なデザインの水着と、旧式の酸素ボンベ、ゴーグルが入っていた。
『ただし! 海は甘くねえぞ! 深く潜れば潜るほど、お前らの身体を押し潰そうとする水圧がかかる! 酸素ボンベの残量にも気をつけろよ! 無計画に動き回って、海の藻屑になるのも一興だがな!』
サメやダイオウイカの獰猛な映像がインサートされる。
『そして、お待ちかねのボーナスタイムだ!』
ジャック・ポットの声が、一際大きくなる。
『このステージでは、戦闘やハプニングでお前らのそのけしからん水着が脱げたり、ズレたり、ポロリしたりするたびに、俺様の独断でエンタメポイントを大盤振る舞いしてやるぜェ! 臆面もなく脱ぎまくれ! 視聴者はそれを待っている!』
その宣言に、女性プレイヤーたちの顔が引きつる。だが、もはや彼女たちに拒否権はない。
『さあ、覚悟はいいか、クズども! 深海のプレッシャーとお魚さんたち、そして全世界のスケベな視線に耐えながら、最高の宝物をハントしてきやがれ!』
ジャック・ポットの号令と共に、ラウンジの床が開き、参加者たちは巨大なプールのような水槽へと落とされた。水槽の底には、深海へと続くゲートが開いている。
『それでは、DEATH RACE G.P.、第5ステージ……STARTォォォッ!!』

【第5ステージ:ポロリもあるよ!深海のプレッシャー・ハント】
ゴール条件: 海底の真珠を手に入れて水面まで浮上する。
ボーナス: 手に入れた真珠1つにつき10GPP加算(最大50GPP)。水着がはだけるなどのハプニングでエンタメポイント加算のチャンス。
ギミック: 水圧、海流、酸素残量、危険な海中生物。
支給装備: 水着、酸素ボンベ、水中ゴーグル。

【第5ステージ:ポロリもあるよ!深海のプレッシャー・ハント】

水槽に叩き込まれた参加者たちは、支給された悪趣味な水着と旧式の装備を身につけ、深海へのゲートを見下ろした。その先は、光の届かない絶望的な暗闇が広がっている。
『さあ、ポロリの時間だァ! 誰が一番エロティックに溺れ死ぬか、高画質4K映像でお届けするぜェ!』
ジャック・ポットの野卑な声が、水中スピーカーから響き渡る。
その狂宴を、一笑に付す者がいた。
「……馬鹿馬鹿しい」
女王鏡子は、水に濡れることすら億劫だと言わんばかりに、ゲートの縁に立った。彼女は水面を揺らす波紋に【手鏡Lv.1】をかざし、その瞳を閉じる。
魔人能力『空間歪曲』。
鏡の表面が、海底の光景を映し出す。そして、まるで水中のUFOキャッチャーのように、鏡の中から伸びた不可視の力が、海底に眠る巨大な真珠貝を次々と掴み上げ、彼女の手元へと転送していく。1つ、2つ…そして、ボーナス上限である5つの真珠貝が、あっという間に彼女の足元に積み上がった。
作業を終えた彼女は、宣言通りおもむろに水着の紐に手をかけ、その【脱いだら凄いLv.3】の肉体を全世界に披露し、そして誰よりも早く、悠々とゴールゲートをくぐっていった。
『な…なんだとォ!? 開始30秒でゴールだと!? この女、反則スレスレ、いや完全に反則だろ! だが…だが面白い! 視聴者もこの圧倒的な蹂躙劇に大興奮だ! 文句なし! 鏡子、圧勝だァ!』
女王が早々にゲームを終える中、他の者たちの地獄の水中散歩が始まった。
「こんな茶番は、あたしが終わらせる!」
青空火炎の【正義感Lv.2】が、前回の屈辱を乗り越え、再び燃え盛る! 彼女はゲートに飛び込むと、水中で両手を構えた!
「『ジャスティス・バーナー』!!」
ゴボボボボッ! 水中で放たれた炎は、爆発的な勢いで周囲の海水を蒸発させ、巨大な空洞を作り出す! だが、それは海底まで続く道にはならず、凄まじい水蒸気爆発となって周囲に拡散した!
「ぐわっ!?」
「きゃっ!」
火炎のすぐ後ろにいた者たちが、その爆発的な水流に巻き込まれる!
「な、何をするのだ貴様!」
【ウィンディフロウ】で空気の膜を張ろうとしていたエドウィージュ・ド・パウロウニアは、その目論見を完全に打ち砕かれ、水流に翻弄される!
そして、この爆発は、最悪の事態を引き起こした。
「うわああああっ!」
女性陣から必死に距離を取っていた一一(にのまえはじめ)が、この水流によってコントロールを失い、コマのように回転しながら、最も離れていたはずの探偵院 金卵の方向へと押し流されていく!
「ひっ…! く、来るな! 来るなあああああ!」
金卵は、トラウマの対象が迫ってくる様にパニックに陥り、無我夢中で手足をばたつかせる! その過剰な動きが、近くの岩陰に潜んでいた巨大なサメを刺激した!
グルル…! 獲物(はじめ)と獲物(金卵)を認識したサメが、猛然と突進してくる!
だが、そのサメの進路上に、悠然と潜る男がいた。
「ふむ…これなるは尻(けつ)の海。全ての魂が解き放たれる場所…」
“鉄尻”シィリガ・デルは、水着姿になったことで露わになった参加者たちの尻を観察し、その多様性に深く感動していた。彼はサメの接近にも動じず、【シリ―シル】を発動!
その瞬間、サメの脳内に、鏡子の完璧な尻、火炎の若々しい尻、そして金卵の気品ある尻のイメージが、洪水のようになだれ込んだ!
「グ…グボッ!?」
情報過多で脳がショートしたサメは、白目を剥いて失神。シィリガは、DEATH RACE G.P.史上初、「尻でサメを倒した男」となった。
『なんだ今の!? 尻の映像を見せただけでサメがイッちまったぞ!? こいつの能力、マジで意味が分からねえ! だが最高だ! 最高にクレイジーだぜェ!』
この混乱の中、着実に駒を進める者たちがいた。
【器用な手先Lv3】の精妙な泳ぎで深海へと潜る神無月ナツキ。
【無口Lv1】で酸素消費を抑え、黙々と進む半 夏生。
そして、【身軽Lv.3】で海流を巧みに利用するなめらすじ喇魅悪。
ナツキは海底で真珠貝を見つけると、片手に貝、片手にトランプを握る。
「オープン・セサミ」
『右手に盾を左手に剣を』が発動。貝殻の中身である真珠と、トランプの位置が入れ替わる。彼女は硬い貝殻を割るという無駄な労力を一切使わず、スマートに真珠だけを抜き取っていった。
一方、夏生と喇魅悪は、真珠が群生するエリアで鉢合わせる。
「……」
「……」
互いに牽制しあう二人の間に、巨大な影が差した。ダイオウイカだ。
その触手が、近くでサメの気絶に呆然としていたはじめと、まだパニック状態の金卵に絡みついた!
「きゃっ!?」
「うわっ!」
二人の酸素ボンベが衝撃で外れ、口から最後の空気が漏れる。
【ToLOVEるメイカー】が、またしても金卵を最悪のセクシャルハプニングへと引きずり込んだのだ。
はじめは【華奢だけどタフLv.2】の身体で必死に抵抗し、溺れる金卵に人工呼吸を試みようとするが、巨大な触手の前には無力だった。
だが、その触手は夏生と喇魅悪にも襲い掛かる。
「チッ、うぜぇんだよ!」
喇魅悪は【POISON KISS】の毒を込めた蹴りを触手に叩き込み、その動きを鈍らせる!
夏生は、その隙に【鳴かぬ蛍が身を焦がす】を発動! 水中にもかかわらず、彼女の秘めた情熱が海水をごぼごぼと沸騰させ、イカの触腕を焼き切った!
二人の共闘(というより、偶然の連携)によってダイオウイカは撃退された。はじめと金卵は、意識を失い、水面に浮かび上がったところをスタッフに回収され、リタイアとなった。
夏生と喇魅悪は、一瞬だけ視線を交わし、そして互いに背を向けて、残りの真珠を回収し始めた。

【第5ステージ 結果報告】

▼獲得ポイント(※ポイント2倍)
鏡子: 100pt (1位) + 50pt (真珠ボーナス) + 30pt (エンタメ:秒殺&ポロリ) = 180pt → 360pt
神無月ナツキ: 80pt (2位) + 50pt (真珠ボーナス) + 20pt (エンタメ:イリュージョン真珠抜き) = 150pt → 300pt
半 夏生: 70pt (3位) + 50pt (真珠ボーナス) = 120pt → 240pt
なめらすじ喇魅悪: 60pt (4位) + 50pt (真珠ボーナス) = 110pt → 220pt
“鉄尻”シィリガ・デル: 50pt (5位) + 30pt (エンタメ:尻でサメを倒す) = 80pt → 160pt
青空火炎: 40pt (6位) + 10pt (エンタメ:自爆的開幕) = 50pt → 100pt
エドウィージュ・ド・パウロウニア: 30pt (7位) = 30pt → 60pt
探偵院 金卵: 20pt (エンタメ:天敵との水中SMショー) = 20pt → 40pt 【リタイア】
一一(にのまえはじめ): 20pt (エンタメ:天敵との水中SMショー) = 20pt → 40pt 【リタイア】


インターバル:終幕を前にした静寂

最後の修復を終え、ラウンジに集められた参加者たちの間には、もはや会話はなかった。あるのは、諦観と、わずかな闘志、そして圧倒的な実力差からくる、どうしようもない断絶感だけだった。
ラウンジの中央、最も豪華なソファに、女王はただ一人、静かに腰かけていた。
鏡子。
彼女は手鏡を磨くでもなく、ただ目を閉じ、この茶番が終わるのを待っているかのようだった。他のプレイヤーたちは、彼女が座るソファを中心とした半径5メートル以内には、まるで目に見えない壁があるかのように立ち入らない。それは恐怖や敵意を超えた、絶対的な「聖域」だった。彼女を倒そうなどと考える者は、もはやこの場にはいない。
その女王の座を、二人の女が異なる場所から見つめていた。
一人は、壁際に佇む半 夏生。彼女は総合2位。その瞳には、鏡子への挑戦心が静かに、しかし熱く燃えている。常識では勝てない。だが、このデスゲームでは常に、常識の外側で何かが起きる。彼女は最後の逆転劇を信じ、そのための策略を練っていた。
もう一人は、テーブルの隅でトランプを弄ぶ神無月ナツキ。総合3位。彼女の表情からは、いつもの余裕が消え、マジシャンのショータイムを前にしたような、真剣な集中力が漂っていた。相手は災害級の女王。普通のトリックは通用しない。ならば、己の全てを賭けた、人生最大最後のイリュージョンを見せるしかない。
彼女たちとは対照的に、ラウンジの最も暗い隅で、一つの光が消えかけていた。
探偵院 金卵。
彼女は床に膝を抱えて座り込み、その顔は長い髪に隠れて見えない。時折、何かに怯えるように肩が小さく震えるだけだった。彼女の輝かしい知性も、圧倒的なカリスマも、今は見る影もない。
その彼女を、部屋の反対側から、一一(にのまえはじめ)が痛ましげに見つめていた。自分が彼女を壊してしまった。その罪悪感が、彼の心を重く締め付ける。声をかけることすら、彼女をさらに傷つけることになる。彼にできるのは、ただ距離を置くことだけだった。
「……」
青空火炎は、そんなはじめと金卵を交互に見ながら、唇を噛みしめていた。自分の正義が、暴走し、空回りし、誰一人救えなかった無力感。彼女は、この最後のステージで、自分は何をすべきなのか、その答えを見つけられずにいた。
その隣で、エドウィージュ・ド・パウロウニアは、虚ろな目で宙を見つめている。彼女の心は、とっくの昔にこのレースから降りていた。
だが、まだ闘志の火を消していない者もいる。
なめらすじ喇魅悪は、大塚スネークを腕に絡ませ、静かに牙を研いでいた。トップは遠い。だが、最後まで足掻き、一人でも多くを蹴落とす。それが彼女の流儀だ。
“鉄尻”シィリガ・デルは、壁に向かい、静かに己の尻(ソウル)と向き合っていた。このレースが終わるまでに、一人でも多くの者に、尻による相互理解の福音を届けなければならない。彼の使命感は、順位などという些末な問題を超越していた。
その時、スクリーンに映し出されたジャック・ポットは、いつになく穏やかな――それでいて、最も歪んだ笑みを浮かべていた。
『…素晴らしいショーだった』
いつもの絶叫ではなく、静かなトーンで彼は語り始めた。
『絶対王者の誕生と、劇的なる凋落。狡猾なる狩人の台頭。予測不能のラブ・ハザード。尻による異種族コミュニケーション。お前たちという最高のコンテンツは、俺様と視聴者を、最高の興奮の渦に叩き込んでくれた。心から礼を言うぜ、クズども』
彼は芝居がかったお辞儀をすると、その顔を上げた。瞳の奥には、最後の狂気が爛々と輝いている。
『だが、ショーには必ずフィナーレがある! 最後に笑うのはただ一人! 最後に最高の死に様を晒すのは、残りの全員だ!』
『そして、最後の最後に、特大の逆転チャンスを与えてやる! 最終ステージの獲得ポイントは…これまでの4倍だァ!』
「「「!?」」」
その言葉に、諦めかけていた者たちの顔色が変わる。ポイント4倍。それは、理論上は誰にでも優勝の可能性があることを意味していた。
『さあ、最後の舞台を紹介しよう! 小細工はもう終わりだ! 魔人能力の奇策も、他者を蹴落とす罠も、もはや通用しないかもしれねえ! 最後にお前たちに問うのは、ただ一つ! 絶対的な突破力だ!』
スクリーンに映し出されたのは、一直線に伸びる、禍々しい障害物コースだった。
『最終ステージ…その名も【栄光への道(ロード・トゥ・グローリー)】!』
『そそり立つ絶望の壁! 触れればミンチのギロチンロード! 落ちれば丸焼きの油風呂! 全ての地獄を乗り越えた先に、栄光のゴールが待っている!』
ジャック・ポットは両手を広げ、観客のいない劇場で喝采を求めるように叫んだ。
『さあ、立て! 賞金100億と、史上最悪のデスゲームの勝者という栄光を掴むのは誰だ!? あるいは、最高の断末魔を世界に響かせ、歴史に名を刻むのはどいつだ!?』
『お前たちの人生の全てを、その最後の走りにぶち込めェェェーーーッ!』
彼の絶叫が、終わりの始まりを告げる。
参加者たちの足元の床が、最後の戦場へと続くゲートへと変化していく。それぞれの胸に、栄光、逆転、復讐、諦め、そして無を抱きながら、彼らは最後のロードへと歩みを進めた。

【最終ステージ:栄光への道(ロード・トゥ・グローリー)】
ゴール条件: 一直線の障害物コースを走破し、ゴールゲートをくぐる。
障害: 反り立つ壁、ギロチンロード、煮えたぎる油風呂。
特別ルール: このステージの獲得ポイントは全て4倍になる。

【最終ステージ:栄光への道(ロード・トゥ・グローリー)】

『さあ、ショーの終わりだ! お前たちの人生の全てを、その最後の走りにぶち込めェェェーーーッ!』
ジャック・ポットの絶叫が、終焉のゴングを鳴らした。
最後のスタートラインに並んだ9人の魔人。それぞれの瞳に、異なる色の炎が宿る。
その瞬間、銃声が響き渡った。
パンッ!
“鉄尻”シィリガ・デルが、【拳銃Lv3】を天に向け発砲したのだ。
「皆さん、お待ちいただきたい!」
スタートを切ろうとした全員の動きが止まる。
「もはや争いは無意味です! このレースに意味などない! 我々は今こそ、尻と尻で語り合い、相互理解を深めるべきなのです!」
彼は高らかに宣言し、その【硬い尻Lv3】を誇らしげに掲げる。
「さあ、この終ケツの儀をもって、世界に平和を!」
最後の【シリ―シル】が放たれようとした、その時だった。
「うるさいですわ、この変態が!」
ピューン!
凄まじい風の刃が、シィリガの頬を掠めた。放ったのは、完全に目が据わっているエドウィージュ・ド・パウロウニアだった。
「もはや順位などどうでもいい。ワタクシをコケにした者どもを、皆殺しにするだけですわ!」
【やけくそ】状態の彼女は、【悪役令嬢Lv.2】としての本領を発揮!【ウィンディフロウ】を暴風と化し、手始めに近くにいたシィリガをギロチンロードへと吹き飛ばした!
「ぐわーっ! 私の尻(ソウル)がーっ!」
変態紳士は、無数の刃が舞う地獄へと吸い込まれ、その姿を消した。
「ヒャッハー! やったれやったれ! 最後の最後に殺戮ショーの開幕だァ!」
ジャック・ポットが狂喜する。
エドウィージュの狂乱を皮切りに、最後のレースが始まった。
最初に飛び出したのは、なめらすじ喇魅悪だった。
「てめぇら全員、まとめて置いてってやるよ!」
【蛇使いLv.3】で伸ばした大塚スネークをアンカー代わりに、反り立つ壁を瞬時に登攀! ギロチンロードでは、その刃に【POISON KISS】の毒を垂らし、ジュウウッと音を立てて腐食させ、安全な道を作り出す。彼女は、持ち前のスキルを完璧に発揮し、トップを独走する!
それを追うのは、2位の半 夏生。彼女は壁を登る喇魅悪の動きを冷静に観察し、同じルートを最小限の動きで追う。【秘めた情熱Lv1】が、彼女の身体能力を限界以上に引き出し、【反射神経Lv2】でギロチンの刃を紙一重で見切っていく。
3位につけたのは、神無月ナツキ。
「皆さん、このままでは女王の独走を許すだけ! ここは協力して…」
彼女は【話術Lv2】で後続のプレイヤーに呼びかける。だが、その視線は誰にも向いていない。全員の意識が先頭の二人に集中した一瞬の隙を見逃さず、彼女は【マジックの技術Lv3】を駆使。ギロチンロードの床下に隠された、メンテナンス用の通路を見つけ出し、誰にも気づかれずに先頭集団へと躍り出たのだ!
三人の女たちがデッドヒートを繰り広げる中、後方では、異なるドラマが生まれようとしていた。
「……そうか…そうでしたのね」
スタート地点で一人、膝を抱えていた探偵院 金卵が、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、かつての光が戻っていた。いや、それ以上の、覚悟を決めた輝きがあった。
「この屈辱も、この敗北も、全てはワタクシが真の【カリスマLv.3】へと至るための試練だったのですわ!」
【真相究明価値あり】が、外部の謎ではなく、自身の内面へと向けられた結果、彼女は独自の「解」に辿り着いたのだ!
失われた【優雅Lv.3】さを取り戻し、彼女は驚異的な速度で障害をクリアし始めた。その姿は、もはや迷いも、怯えもない。完全復活を遂げた彼女が、猛然と先頭集団を追い上げる!
三人の女たちが、互いの全てを削り合うデッドヒートを繰り広げる。
後方からは、悪魔の知性を取り戻した名探偵が、不死鳥のごとく猛追する。
誰もが、この4人のうちの誰かが、栄光のゴールテープを切ると信じて疑わなかった。
だが、この『DEATH RACE G.P.』という物語の脚本家は、誰よりも悪趣味で、そして気まぐれな「運命」という名の神だった。
その神の視線は、コースの最も後方、もはや誰の意識にも上っていなかった二人のプレイヤーに注がれていた。
一人は、女王鏡子。彼女は走っていなかった。この死の障害物コースすらも、自らの肉体を悦ばせるための愛人へと変え、ギロチンの刃で身体を撫でさせ、油風呂の熱気で肌を火照らせるという、異次元のセルフプレジャーに耽っていた。
もう一人は、一一(にのまえはじめ)。彼はただ、必死だった。誰にも迷惑をかけず、この最後のレースを走り切ることだけを考え、目の前の反り立つ壁を、か細い腕で懸命に登っていた。
そう、彼は、ただ、懸命だったのだ。
その汗が、彼の意思とは無関係に、壁のわずかな窪みに溜まった。
その足が、彼の計算とは無関係に、濡れた窪みで滑った。
彼の身体が、物理法則に従い、落下を始めた。
そして、彼の魔人能力【ToLOVEるメイカー】が、このレースの真の「主役」を見逃すはずがなかった。
落下するはじめの軌道。その真下に、まるで運命に引き寄せられるかのように、壁の前で恍惚の表情を浮かべる鏡子がいたのだ。
スローモーション。
全世界の視聴者が、固唾を飲んで見守る。
落下する少年。天を仰ぐ全裸の女王。
そして――
それは、運命の結合だった。
はじめの身体は、ミリ単位の狂いもなく、鏡子の身体の上に完璧な形で着地。
その衝撃で、鏡子の口から苦痛と快楽が混じり合った、絶妙な声が漏れる。
はじめの右手は、偶然にも鏡子の豊満な胸を鷲掴みにし、その感触に「うわっ!?」と素っ頓狂な声を上げる。
はじめの左手は、偶然にも鏡子の水着の、かろうじて局部を隠していた最後の布切れを、引きちぎってしまった。

世界が、沈黙した。
全世界に配信されていた映像は、激しいノイズと共に「しばらくお待ちください」という、あまりにも間抜けなテロップに切り替わる。
だが、音声だけは、奇跡的に生き残っていた。

女王の、これまで誰も聞いたことのない、完全に「メス」の悲鳴。
少年の、罪悪感と本能が入り混じった、純粋な快感の吐息。

本来ならけたたましい実況をあげるはずのジャック・ポットは、その放送事故音声を聞きながら、泡を吹き、白目を剥き、椅子から転げ落ちて全身を痙攣させていた。彼は、エンターテイメントの神が自分に降臨したことを悟り、静かに、そして満足げに意識を失った。
この奇跡が生み出したエンタメポイントは、もはや計測不能。青天井の加点が、全ての計算を、全ての戦略を、そして全ての常識を、無に帰したのだった。

そして、最後の最後に、この茶番劇そのものに終止符を打とうとする者がいた。
青空火炎。
彼女は、もうレースを見ていなかった。仲間が殺され、心折れ、そして欲望のままに振る舞うこの光景に、彼女の【正義感Lv.2】は、一つの答えを導き出していた。
(この大会そのものが、悪なんだ!)
彼女は、先頭集団が差し掛かろうとしている、最後の障害「煮えたぎる油風呂」の前に立った。
「こんなもの…あたしが、全部、終わらせる!!」
彼女は、持てる力の全てを、怒りと悲しみの全てを、右腕に込めた。
「『ジャスティス・バーナー』!!!!!」
放たれたのは、もはや炎ではなかった。正義の少女の、純粋すぎる想いが凝縮された、白く輝く熱エネルギーの奔流だった。
その奔流は、油風呂に注がれる。
次の瞬間、世界が白に染まった。
油が超臨界状態で気化し、連鎖的に大爆発を引き起こしたのだ。
ギロチンロードも、反り立つ壁も、コースの全てが、その爆心地から発生した衝撃波によって、塵と化していく。

【最終ステージ 結果報告】

▼獲得ポイント
一一(にのまえはじめ): 400pt (エンタメ:伝説の放送事故) = 400pt 【リタイア】
青空火炎: 300pt (エンタメ:DEATH RACE G.P.の破壊) = 300pt 【リタイア】
鏡子: 100pt (エンタメ:究極のセルフプレジャー) = 100pt 【リタイア】
探偵院 金卵: 80pt (エンタメ:不死鳥のごとき復活) = 80pt 【リタイア】
“鉄尻”シィリガ・デル: 50pt (エンタメ:崇高なる殉教) = 50pt 【リタイア】
エドウィージュ・ド・パウロウニア: 50pt (エンタメ:狂乱の殺戮ショー) = 50pt 【リタイア】
※コースが物理的に消滅したため、走破者は0。エンタメポイントのみの加算とする。
※なめらすじ喇魅悪、半夏生、神無月ナツキは爆発に巻き込まれ、ポイント獲得なし。【リタイア】

【最終結果発表】

爆炎と黒煙が立ち上る廃墟の中、意識を取り戻したジャック・ポットは瓦礫の上に立ち、壊れたマイクで絶叫した。
『ゴールした奴はいねえ! レースは無効だ! だが、そんなことはどうでもいい! この結末! このカタルシス! これこそが、最高のエンターテイメントだァァァ!』
『それでは、最終的な累計ポイントを発表する! このクソッタレなデスゲームの頂点に立った、栄光あるクズは……こいつだァァァッ!』
▼最終累計ポイント・ランキング
鏡子: 750pt + (100pt*4) = 1150pt 【優勝】
半 夏生: 600pt + 0pt = 600pt
神無月ナツキ: 540pt + 0pt = 540pt
なめらすじ喇魅悪: 490pt + 0pt = 490pt
探偵院 金卵: 370pt + (80pt*4) = 690pt
“鉄尻”シィリガ・デル: 390pt + (50pt*4) = 590pt
青空火炎: 270pt + (300pt*4) = 1470pt 【大逆転優勝】
一一(にのまえはじめ): 200pt + (400pt*4) = 1800pt 【超次元大逆転優勝】
エドウィージュ・ド・パウロウニア: 180pt + (50pt*4) = 380pt

『……は?』
ジャック・ポットの目が点になる。手元の集計結果を何度も見返す。
『……な、なんだこの結果は!? 優勝は…優勝は、あの歩く放送事故、一一(にのまえはじめ)だとォ!? 最終ステージのハプニングだけで、全プレイヤーをごぼう抜き!? こんなバカなことが…!』
だが、数字は嘘をつかない。
史上最悪のデスゲームは、最も戦闘から縁遠いと思われた、一人の少年の「ハプニング」によって、その幕を閉じた。
瓦礫の中で、呆然とするはじめ。
その隣で、満足げに微笑むジャック・ポット。
そして、それぞれの想いを胸に、空を見上げる敗者たち。
彼らの戦いは終わった。しかし、この狂った世界で、彼らの物語は、まだ始まったばかりなのかもしれない。

エピローグ:勝者なきショーのあとで
『DEATH RACE G.P.』は、史上最高の視聴率と、史上最も馬鹿げた結末をもって、その放送を終えた。
爆破されたステージの残骸は、WCBの圧倒的な財力によって瞬く間に片付けられ、参加者たちは、この狂ったゲームが始まる前と同じ、無機質な白いホールに、再び集められていた。
ホールの中央には、アタッシュケースに詰められた、現金100億円。
そして、その前に、所在なさげに立つ少年が一人。
一一(にのまえはじめ)。
このデスゲームの、誰も予想しなかった「優勝者」である。
「……あの、これ、本当に僕が…?」
彼は、目の前の巨額の金と、周囲からの複雑な視線に耐えかね、おどおどと問いかける。
答える者はいない。
女王として君臨し、最後の最後でその座をハプニングに奪われた鏡子は、何も言わず、ただ静かに壁に寄りかかっている。その表情に悔いはなく、むしろ、この予測不能な結末すらも楽しんでいるかのようだった。
逆転優勝を目前で逃した半 夏生と神無月ナツキは、顔を見合わせ、そして、ふっと笑みをこぼした。
「…馬鹿馬鹿しい」
「全くだ。どんなイリュージョンも、あの天然の災害には敵わないらしい」
彼女たちの間には、もはや敵意はなく、同じ不条理を味わった者同士の、奇妙な連帯感が生まれていた。
探偵院 金卵は、完全復活を遂げた瞳で、静かにはじめを見つめていた。彼女は自身の弱点を、そしてそれを乗り越えるための試練を、この少年によって与えられた。彼女にとって、はじめはもはや天敵ではない。解き明かすべき、最も興味深い「謎」そのものへと変わっていた。
「……」
青空火炎は、はじめの前に歩み出た。
「…ごめんなさい。あたし、何もできなかった」
「そ、そんなことないよ!」
「ううん。でも、最後に、自分が何をすべきか、分かった気がする。この賞金で、WCBに壊された人たちのために、何かできることがあるはず。…だから、その、もしよかったら…」
彼女が「協力してほしい」と言いかける前に、ホールにけたたましい声が響いた。
「ハッーーーハッハァ! 感動のフィナーレはそこまでだ、クズども!」
スクリーンに、再びジャック・ポットが映し出される。
「優勝ははじめちゃんだ! 賞金100億は、好きに使うがいい! だがな、他の奴らも手ぶらで返すほど、俺様は鬼じゃねえ!」
彼はニヤリと笑う。
「お前たち全員! このDEATH RACE G.P.での活躍を認め、世界征服放送《WCB》の専属タレントとして、正式に採用してやる!」
「「「はあ!?」」」
全員の声が、綺麗にハモった。
「ここにいる変態も! 悪役令嬢も! 名探偵も! ニンジャも! マジシャンも! 全員まとめて、俺様の作る次の番組に出演決定だ! 拒否権はねえ! お前らはもう、世界的なスターなんだからな!」
「次の番組は、『ポロリもあるよ!世界秘境大冒険』だ! アマゾンの奥地で、半裸で猛獣とプロレスしてもらうぜェ!」
ジャック・ポットの高笑いが響き渡る。
そう、彼らにとって、地獄はまだ終わっていなかったのだ。
いや、本当の地獄は、これから始まるのかもしれない。
なめらすじ喇魅悪は、心底面倒くさそうに舌打ちをした。
エドウィージュ・ド・パウロウニアは、次のロケ地では皆殺しにしようと、新たな決意を固めた。
“鉄尻”シィリガ・デルは、アマゾンの原住民との尻による異文化交流に、胸を躍らせた。
そして、賞金100億円を前に立ち尽くす一一(にのまえはじめ)の周りには、いつの間にか、WCBの女性プロデューサーや、アシスタントディレクターたちが群がっていた。
「はじめくん、すごーい! 今度の番組、私が担当するから、よろしくね!」
「きゃー、生はじめくんだー!」
彼の【ToLOVEるメイカー】は、これからも、彼を、そして周囲の全てを、予測不能なハプニングの渦へと巻き込み続けるだろう。
こうして、史上最悪のデスゲームは、史上最悪の就職先への内定通知をもって、その幕を閉じた。
彼らの明日に、幸あれ。…おそらく、ないだろうが。
  • FIN -


行動提出一覧

1ターン目


名前:青空火炎(あおぞらかほ)
【運動神経Lv.3】で誰よりも早く駆け抜ける。
敵からの攻撃は【ジャスティス・バーナー[魔]】で迎撃する。

名前:“鉄尻(テッケツ)”シィリガ・デル
【冷静さLv1】と【運動神経Lv1】を活かして先頭グループの進んだ後の安全なルートを通り、後続につける。フラッグを取ろうとする者がいれば【射撃Lv2】と【拳銃Lv3】で足を打ち抜き、足止めする。

名前:なめらすじ喇魅悪
【身軽LV.3】を活かして不安定な足場を軽々と走破する。自分より先を走る他プレイヤーがいれば 【短気LV.1】から 【POISON KISS(魔)】【蛇使いlv.3】で毒を与えて排除しようとする。


名前:半 夏生(なかば・なつき)
他プレイヤーや妨害生物から攻撃を受けた場合【鳴かぬ蛍が身を焦がす[魔]】で燃やし尽くす。吊橋にも炎が燃え移り、全プレイヤーごと奈落の底に転落してしまうだろう

名前:神無月ナツキ
【柔軟性Lv1】で突風や不安定な足場をものともしない。【ミスディレクションLv2】で妨害生物の矛先をそらし、司会や他のプレイヤーに気づかれないうちにいつの間にか1位でゴールしている。

名前:探偵院 金卵
【真相究明価値あり[魔]】でこのステージに隠されたギミックの謎を解き、以外な方法で【優雅Lv.3】に誰よりも早くステージをクリアする。

名前:エドウィージュ・ド・パウロウニア
【ウィンディフロウ[魔]】で先を行くプレイヤーを吹き飛ばし、自分だけが悠々とステージを通過する。
【運動神経Lv.1】で不安定な吊橋を踏破し、【高貴Lv.3】のオーラには妨害生物も手を出せない。

一一(にのまえはじめ)
エドウィージュ・ド・パウロウニアの巻き起こした風に連鎖して【ToLOVEるメイカー[魔]】が発動、エッチなハプニングが起きて吊橋の上ではじめと絡まり合ってしまう。
【可愛いLv.2】【女性にモテるLv.3】【友好的Lv.1】で惚れられてしまう。
【華奢だけどタフLv.2】な身体スキルで好印象を得た女性と協力してステージを突破する。

鏡子
強風でスカートがはためき【脱いだら凄いLv.3】のおしりがあらわになる。シィリガを誘惑しステージ後の【セックスLv.3】と引き換えに協力を得る

2ターン目

名前:青空火炎(あおぞらかほ)
【運動神経Lv.3】で車をかわしながら真っ向から横断する。多少の負傷は【超回復Lv.3】でカバーする。
現金輸送車を襲おうとするプレイヤーがいたら【正義感Lv.2】で許さない。【ジャスティス・バーナー[魔]】で成敗する。

名前:“鉄尻(テッケツ)”シィリガ・デル
ハイウェイを横断中のプレイヤーに【シリ―シル[魔]】で自分の尻のイメージを共有し、集中を削いで玉突き事故を巻き起こす。
自分は【冷静さLv1】を活かして車の合間を縫ってゴールする。

名前:なめらすじ喇魅悪
【身軽LV.3】と【短気LV.1】さで最短距離を縫って 進む。途中現金輸送車の装甲を【POISON KISS(魔)】で溶かし、【蛇使いlv.3】でスネークと一緒に持てるだけの現金を奪う。

名前:半 夏生(なかば・なつき)
【反射神経Lv2】で車をかわしながら【秘めた情熱Lv1】で一心不乱にゴールを目指す。

名前:神無月ナツキ
【話術Lv2】 と【ミスディレクションLv2】で道路を横断中のプレイヤーの注意をそらし、交通事故を起こす。誰かが現金輸送車を襲った場合、金庫の中の現金は全て【マジックの技術Lv3】によるイリュージョンで全てナツキが奪っていたことに気づく

名前:探偵院 金卵
【真相究明価値あり[魔]】と【推理Lv.3】ですべての車の軌道を事前に予測し、示された最短ルートを無駄のない【優雅Lv.3】 な動きで進む。
その【カリスマLv.3】の前に、車は自然と止まり、海を割るモーセのように道を作るであろう。

名前:エドウィージュ・ド・パウロウニア
【高貴Lv.3】【悪役令嬢Lv.2】【美少女Lv2】でタクシーを止め、乗り込む。
【リーダーシップLv.2】 で有無を言わせずゴールまで進ませる。

一一(にのまえはじめ)
一生懸命のゴールを目指そうとするが苦戦していたところ、【可愛いLv.2】見た目に気を取られた女性ダンプカードライバーが車に乗せてくれる。
【女性にモテるLv.3】【友好的Lv.1】で気に入られてしまい、頑丈なダンプカーで強引に車道を横断してゴールまで連れて行ってくれる

鏡子
【脱いだら凄いLv.3】【メガネを外すと美人Lv.2】でおもむろに服を脱ぎ、裸に気を取られた車たちが事故を起こし、タンクローリーが追突して大爆発。他プレイヤーは全員リタイアする中、悠々とゴールする

3ターン目

名前:青空火炎(あおぞらかほ)
【運動神経Lv.3】と【ジャスティス・バーナー[魔]】で邪魔な植物を焼き払い、最速で中央塔までのルートを確保。三日月草は信用できそうなプレイヤーと【正義感Lv.2】【他人に信頼されやすいLv.2】で協力を打診し、自分が安全にルート確保するのと引き換えに三日月草を提供してもらう
麻痺や幻覚、ダメージからは【超回復Lv.3】で即座に復帰する

名前:“鉄尻(テッケツ)”シィリガ・デル
スナップ・ドラゴンは【硬い尻Lv3】で防御、
幻覚と麻痺毒は【冷静さLv1】で何事もなく対処
中央等に集まっているプレイヤーに【シリ―シル[魔]】で尻のイメージを共有して対話を試み、【拳銃Lv3】【射撃Lv2】 で遠くからスクリーム・マンドラゴラを刺激して金縛りにさせ、三日月草を奪い取る。自分はあらかじめ耳に土を詰めて音波を防御する

名前:なめらすじ喇魅悪
【POISON KISS(魔)】【蛇使いlv.3】で人食い植物を撃退し、
【毒物取扱LV.2】で麻痺毒と花粉を無効化する
【身軽LV.3】で迷宮を突破する。

名前:半 夏生(なかば・なつき)
【薬学Lv3】の知識で毒や花粉を性質を見抜き、アイテムとして密かに入手する。 【鳴かぬ蛍が身を焦がす[魔]】で植物を焼き払い、中央塔までの直線ルートを作る。後から来たプレイヤーに手に入れた毒と花粉を使い、行動不能にして三日月草を奪い取る。

名前:神無月ナツキ
三日月草を無視して中央塔を目指し、後から来たプレイヤーに巧みな【話術Lv2】 と【トランプLv1】で【ミスディレクションLv2】し
【器用な手先Lv3】 【マジックの技術Lv3】 で三日月草を奪い取ってゴールする

名前:探偵院 金卵
【真相究明価値あり[魔]】【推理Lv.3】 で迷宮の謎を全て解き明かし、三日月草を手に入れて最短ルートを【優雅Lv.3】に進む

名前:エドウィージュ・ド・パウロウニア
【ウィンディフロウ[魔]】の風で毒や花粉を吹き飛ばし、自分の進行ルートと異なる位置に人食い植物の反応を引き付ける。
【高貴Lv.3】な【美少女Lv2】の前には美しい三日月草は自然と姿を表す。

一一(にのまえはじめ)
人食い植物に襲われて逃げていたところ【ToLOVEるメイカー[魔]】が発動し、探偵院 金卵の完璧なはずの推理を狂わせるエッチなハプニングが起きてしまう。ペースを崩された、探偵院 金卵ははじめの【可愛いLv.2】【女性にモテるLv.3】を意識してしまい、普段の実力を発揮できなくなる。

鏡子
【空間歪曲[魔]】を使って安全な位置から【手鏡Lv.1】で迷宮のルートを確認、危険な位置や三日月草の場所を見極めて安全に進む

4ターン目

名前:青空火炎(あおぞらかほ)
【ジャスティス・バーナー[魔]】で媚薬やウィルスのエアロゾルを焼き払う。万一感染しても【超回復Lv.3】で即座に回復。 自分単独でも脱出できるが、女性プレイヤーをこんなところに置いていけないと【正義感Lv.2】から協力して研究所からワクチンを手に入れてみんなで接種する。頼もしい姿を見せてみんなからの信頼を獲得する。

名前:“鉄尻(テッケツ)”シィリガ・デル
【シリ―シル[魔]】で周囲一体の住人に女性プレイヤーの尻のイメージを共有し、大勢の住民を呼び寄せ囮にする。
その隙に【運動神経Lv1】で単独脱出を目指し、襲いかかる住民には容赦なく【射撃Lv2】 【拳銃Lv3】で威嚇する。もしも襲われてしまったときも【硬い尻Lv3】でお尻の処女は固くガードする。

名前:なめらすじ喇魅悪
【短気LV.1】 な彼女には回り道など性に合わない、研究所にはよらずに最短で強行突破を目指す。
【毒物取扱LV.2】でミストもウィルスも無効化し【身軽LV.3】【POISON KISS(魔)】【蛇使いlv.3】を駆使して住人を突破する。

名前:半 夏生(なかば・なつき)
【薬学Lv3】の知識でウィルスとワクチンの性質を即座に見抜き、【市販薬Lv2】と研究所の設備で簡易的なワクチンを調合、街から脱出する

名前:神無月ナツキ
他プレイヤーからの不信を【話術Lv2】でいなし、警戒を研究所の研究員たちに【ミスディレクションLv2】して自分から逸らす。【器用な手先Lv3】 でセキュリティを突破し、ワクチンを独り占めする。【右手に盾を左手に剣を[魔]】【マジックの技術Lv3】 で
自分だけ既にワクチンを手に入れたことを隠し、密かに街から脱出する。

名前:探偵院 金卵
【真相究明価値あり[魔]】により、研究所の全てのセキュリティは役に立たず、ワクチンは自ら探偵院の手の中に飛び込んでくる。絶体絶命の危機も【優雅Lv.3】にクリア

名前:エドウィージュ・ド・パウロウニア
【リーダーシップLv.2】を発揮して他プレイヤーと一時的な共闘関係を構築、貞操の危機を守るために皆でワクチンを入手する。 ただし土壇場で【悪役令嬢Lv.2】らしく、自分ひとりがワクチンを接種したあと他人の分を全て破壊する。

一一(にのまえはじめ)
セクシャル・ハザード・シティにおいて【ToLOVEるメイカー[魔]】は最大限の威力を発揮する。【可愛いLv.2】【女性にモテるLv.3】はじめのもとに男女問わず大量の住民が殺到し、他全ての女性プレイヤーを巻き込んでもみくちゃになる。突然の襲撃を受けた他の女性プレイヤーは予定していた行動を何も取ることが出来ず、媚薬ミストを吸い込んで理性を失い襲われてしまう

鏡子
【脱いだら凄いLv.3】の肉体美に大量の住民が集まってくるが、その全てを異能レベルの【セックスLv.3】で即座に処理、住民たちは鏡子に触れる間もなく近づいただけで絶頂に達し、鏡子はパレードのように住民たちを従えながら最短ルートで脱出する。

5ターン目

名前:青空火炎(あおぞらかほ)
傷ついたメンタルを【超回復Lv.3】し、こんな馬鹿げた大会を終わらせようとする【正義感Lv.2】を燃やし、【ジャスティス・バーナー[魔]】で海水を蒸発させ海底までの道を作る。【運動神経Lv.3】で素早く真珠貝を回収する

名前:“鉄尻(テッケツ)”シィリガ・デル
水着姿であらわになったプレイヤーたちの尻を【シリ―シル[魔]】でプレイヤーのみならず配信を通して世界中に共有。理解し合うことで世界から争いを無くし、このDEATH RACE G.P.を終結、いや終ケツさせる。

名前:なめらすじ喇魅悪
【短気LV.1】【身軽LV.3】を活かして素早く潜る。
【毒物取扱LV.2】でクラゲの毒は無効、他の生物には 【POISON KISS(魔)】で毒を注入し撃退できる。

名前:半 夏生(なかば・なつき)
【無口Lv1】【秘めた情熱Lv1】によって酸素を無駄に使うことなく黙々と海底まで潜る。
【手先の細かさLv1】で素早く真珠貝をできるだけ多く回収する。
海中生物に襲われた場合【鳴かぬ蛍が身を焦がす[魔]】で威嚇する。

名前:神無月ナツキ
【器用な手先Lv3】による精妙な水泳術でスムーズに海底まで潜る。
【右手に盾を左手に剣を[魔]】で真珠の貝がらとトランプを入れ替え、硬い殻を割ることなく中の真珠だけを抜き取る。

名前:探偵院 金卵
今度こそ【真相究明価値あり[魔]】によってステージの謎を解き真珠を手に入れる。
【カリスマLv.3】の前では海中生物たちも彼女に敬意を表して従うであろう。

名前:エドウィージュ・ド・パウロウニア
【ウィンディフロウ[魔]】で自分の周りに空気の膜をまとい、酸素の有利を作る。
時間敵優位を活かしてじっくりと安全に【運動神経Lv.1】で潜水し、着実に真珠を回収してゴールする。

一一(にのまえはじめ)
他の女性プレイヤーから自主的に離れて【華奢だけどタフLv.2】を活かして頑張って潜水するが、彼の意思に反して【ToLOVEるメイカー[魔]】は発動してしまう。海流によって押し流された彼と女性プレイヤーたち(特に探偵院)は再び近づいてしまい、呼び寄せられたダイオウイカの触手に絡め取られて酸素ボンベが外れ、女性たちは溺れてしまう。はじめは頑張ってダイオウイカを追い払い、溺れた女性たちに人工呼吸をする。

鏡子
【空間歪曲[魔]】を使い、海面にいながら【手鏡Lv.1】で海底の真珠貝を5つ手に入れ即座にゴールする。余った時間で【脱いだら凄いLv.3】の肉体を世界中に披露する。

6ターン目

名前:青空火炎(あおぞらかほ)
自分にできることは何かを考えた挙げ句【ジャスティス・バーナー[魔]】で油風呂を燃やし、DEATH RACE G.P.を破壊する。

名前:“鉄尻(テッケツ)”シィリガ・デル
最終レース開始と同時に【拳銃Lv3】で空中を撃ち、全員を静止する
今すぐレースを放棄して尻と尻での相互理解を深めようと【冷静さLv1】で対話を試みる
尻を見せあった同志ならわかりあえるはずと固い決意、いや【硬い尻Lv3】を見せつけ最後の【シリ―シル[魔]】を発動する

名前:なめらすじ喇魅悪
【蛇使いLv.3】でスネークを伸ばし反り立つ壁を登る
【毒物取扱Lv.2】【POISON KISS(魔)】でギロチンと丸鋸を溶かし、第2エリアを突破
油風呂の上の足場を【身軽Lv.3】で飛び越え
最終直線は【短気Lv.3】で走り抜ける

名前:半 夏生(なかば・なつき)
【秘めた情熱Lv1】と【反射神経Lv2】で自分の限界を超えた全力を尽くす

名前:神無月ナツキ
全員でトップの鏡子を妨害すべきと【話術Lv2】で他プレイヤーの注意を【ミスディレクションLv2】し、カメラに写っていない隙を狙って【マジックの技術Lv3】で障害物をショートカットしてゴールする。

名前:探偵院 金卵
自分が置かれた状況を【推理Lv.3】した結果、これは真の 【カリスマLv.3】になるための試練であったと【真相究明価値あり[魔]】にて見抜く。かつての【優雅Lv.3】さを取り戻して優勝を狙う。

名前:エドウィージュ・ド・パウロウニア
やけくそになった結果、上位のプレイヤーを皆殺しにすれば自動的に1位になると【悪役令嬢Lv.2】としての覚悟を決める 。【ウィンディフロウ[魔]】を的確に使い、上位プレイヤーを次々とギロチンや油風呂で処刑していく。

一一(にのまえはじめ)
全員の注目を集める女王、鏡子に【ToLOVEるメイカー[魔]】が発動してしまい、とても全世界に放送できないようなエッチなハプニングで史上最高視聴率を叩き出してしまい、ボーナスポイントだけで逆転優勝する。

鏡子
ステージ順位にはこだわらず、あらゆる障害を使った【セックスLv.3】プレイで世界中の視聴者を虜にする

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最終更新:2025年07月12日 14:40