Will & Wish
最初の惨劇のとき、少女はただ呆然としていた。
無機質な電子音が命を次々と奪っていく悪夢の時間。
悲鳴が、憤怒が、絶望として吐露される地獄。
目の前で死んでいく知り合いたち。次々とまるで粛清のように処刑されていく少年少女たちの姿。
悲鳴が、憤怒が、絶望として吐露される地獄。
目の前で死んでいく知り合いたち。次々とまるで粛清のように処刑されていく少年少女たちの姿。
少女の知り合いも、処刑された人たちの一人だった。
知り合いなんてものじゃなかった。
一緒に住み、時間を共有し、意思を尊重しあい、一緒に笑いあった人だった。
血の繋がりなんてものはなかった。
そもそも殺された少女の知り合いは人工的に造られた命であり、厳密的には人間であるとは言いがたい。
知り合いなんてものじゃなかった。
一緒に住み、時間を共有し、意思を尊重しあい、一緒に笑いあった人だった。
血の繋がりなんてものはなかった。
そもそも殺された少女の知り合いは人工的に造られた命であり、厳密的には人間であるとは言いがたい。
そんな事情も。
重ねてきた思い出も。
過ごしてきた日々の時間も。
一緒に生活することで笑いあい、分かり合った全てを。
重ねてきた思い出も。
過ごしてきた日々の時間も。
一緒に生活することで笑いあい、分かり合った全てを。
たった数分の出来事で失った。
少女は何も出来なかった。
呆然と処刑を告げられた少女は一緒に生活してきた自分たちを見ていただけだった。
悲しみはなかった、怒りもなかった。
ただ虚しさだけが表情を占めていて、そして何かを告げることも出来ずに死んだ。
頭がぼんっ、と音を立てて爆発した。それでプリムラという少女の人生の全てが終わりを告げた。
呆然と処刑を告げられた少女は一緒に生活してきた自分たちを見ていただけだった。
悲しみはなかった、怒りもなかった。
ただ虚しさだけが表情を占めていて、そして何かを告げることも出来ずに死んだ。
頭がぼんっ、と音を立てて爆発した。それでプリムラという少女の人生の全てが終わりを告げた。
後に残るのは慟哭を示す絶叫だけ。
生き残った少女は悲しみの傷を癒す時間も与えられず、新たな地獄へと送り込まれた。
最後に少女が視界に収めたのは変わり果てた家族の首のない姿だった。
最後に少女が視界に収めたのは変わり果てた家族の首のない姿だった。
★
次に目を覚ましたとき、少女は惨劇の舞台とは違う場所にいた。
周囲を見回すが、平地ということしか分からない。
遠くで水の流れる音が聞こえる。どうやら近くに滝があるようだが、少女はそんなものに気をとられることはなかった。
ただ、ぼんやりとした足取りで平地を歩き始めるのだった。
周囲を見回すが、平地ということしか分からない。
遠くで水の流れる音が聞こえる。どうやら近くに滝があるようだが、少女はそんなものに気をとられることはなかった。
ただ、ぼんやりとした足取りで平地を歩き始めるのだった。
ふらふら、ふらふら。
ふらふら、ふらふら。
ふらふら、ふらふらふら。
ふらふら、ふらふら。
ふらふら、ふらふらふら。
危うい足取りで地を踏みしめる。
地面を踏んだ感覚が分からない、何処を歩いているかも分からない。
自分が何を考えているかも分からない、自分がなにをすべきなのかも分からない。
世界はぐるぐると廻っていて、何が正しいかも分からない。
地面を踏んだ感覚が分からない、何処を歩いているかも分からない。
自分が何を考えているかも分からない、自分がなにをすべきなのかも分からない。
世界はぐるぐると廻っていて、何が正しいかも分からない。
何で、とか。
どうして、とか。
どうして、とか。
そんな疑問符ばかりに埋め尽くされて少女は真っ直ぐに歩くことすら出来なかった。
瞳は日頃の優しげな双眸からは程遠く、光を失った瞳が中空を見ていた。
何もない空間をぼんやりと眺めているが、何かを見ているわけではない。
真実、この橙色の髪の少女は何かを考える余裕もなければ、何かをしようとする余力もないのだった。
瞳は日頃の優しげな双眸からは程遠く、光を失った瞳が中空を見ていた。
何もない空間をぼんやりと眺めているが、何かを見ているわけではない。
真実、この橙色の髪の少女は何かを考える余裕もなければ、何かをしようとする余力もないのだった。
「リムちゃん……リムちゃん……」
少女、芙蓉楓が思い浮かべるのは地獄だ。
ただの夢だと信じたかった。
一緒に住んでいた家族。血は繋がっていなくても妹のような存在だった家族が殺された。
造られた命だなんて関係ない。
芙蓉楓は再び、理不尽という化け物に家族を奪われたのだ。
ただの夢だと信じたかった。
一緒に住んでいた家族。血は繋がっていなくても妹のような存在だった家族が殺された。
造られた命だなんて関係ない。
芙蓉楓は再び、理不尽という化け物に家族を奪われたのだ。
ふらふら、ふらふら。
ふらふら、ふらふら。
ふらふら、ふらふらふら。
ふらふら、ふらふら。
ふらふら、ふらふらふら。
様々なモノが楓の中で揺れていく。
色んなものが芙蓉楓という少女の中で揺れ続ける。
色んなものが芙蓉楓という少女の中で揺れ続ける。
思考が揺れる。
視界が揺れる。
身体が揺れる。
精神が揺れる。
世界が揺れる。
視界が揺れる。
身体が揺れる。
精神が揺れる。
世界が揺れる。
―――――りん、楓……
あのとき。
死ぬ間際のプリムラは呆然としていた。
死ぬと分かっていても悲しむべきか憤るべきかも分からなかった。
そんなことも分からないような無垢な少女は、楓の首に填められている首輪によって殺害された。
死ぬ間際のプリムラは呆然としていた。
死ぬと分かっていても悲しむべきか憤るべきかも分からなかった。
そんなことも分からないような無垢な少女は、楓の首に填められている首輪によって殺害された。
「リム、ちゃん……っ……」
誰を憎めばいいのだろう。
何に憤ればいいのだろう。
どうすればこの苦しみから逃れることが出来るのだろう。
あの紫の髪の女性を憎めば全てが解決してくれるのだろうか。
誰からの答えもない、何が正しいかも判断できない。
何に憤ればいいのだろう。
どうすればこの苦しみから逃れることが出来るのだろう。
あの紫の髪の女性を憎めば全てが解決してくれるのだろうか。
誰からの答えもない、何が正しいかも判断できない。
ふらふら、ふらふら。
ふらふら、ふらふら。
ふらふら、ふらふらふら、ばたり。
ふらふら、ふらふら。
ふらふら、ふらふらふら、ばたり。
「あうっ……」
とうとう、楓は少し大きめの石に躓いて転んでしまった。
何も見ていないような状況で当てもなく歩き回っていたのだから当然だった。
楓は立ち上がる気力すらなかった。
ただ、再び失われた家族のことを思って泣きじゃくるばかりだった。
何も見ていないような状況で当てもなく歩き回っていたのだから当然だった。
楓は立ち上がる気力すらなかった。
ただ、再び失われた家族のことを思って泣きじゃくるばかりだった。
「うっ……ううっ……うっ……」
昔もそうだった。
どうしようもない悲しみに襲われたことがあった。
大好きだった母親が事故によって命を落としたときのことだ。
母が死んだという事実を信じたくないあまり、心を閉ざしてしまい、世界そのものを否定した。
どうしようもない悲しみを乗り切ることが出来ずに、世界を否定して己の中に閉じこもることで心の平穏を求めたのだ。
それが、楓がまだ小さい頃の出来事だった。
どうしようもない悲しみに襲われたことがあった。
大好きだった母親が事故によって命を落としたときのことだ。
母が死んだという事実を信じたくないあまり、心を閉ざしてしまい、世界そのものを否定した。
どうしようもない悲しみを乗り切ることが出来ずに、世界を否定して己の中に閉じこもることで心の平穏を求めたのだ。
それが、楓がまだ小さい頃の出来事だった。
芙蓉楓は優しすぎた。
人を憎むことのできないような、心優しい少女だった。
悲しみを受け入れることができず、やり場のない怒りをぶつけることもできなかった。
ちょうど、今の楓のように。こうして無気力に晒され続けたのだ。
人を憎むことのできないような、心優しい少女だった。
悲しみを受け入れることができず、やり場のない怒りをぶつけることもできなかった。
ちょうど、今の楓のように。こうして無気力に晒され続けたのだ。
だが。
「稟くん……」
ぽつり、と魔法の言葉を呟いた。
それだけで力が沸いたような錯覚さえ抱いた。
己の生き甲斐を再び心に刻み付ける。
この身体も、この心も、その全てを持って尽くすと決めた我慢強い男の子の姿が脳裏に浮かんだ。
それだけで力が沸いたような錯覚さえ抱いた。
己の生き甲斐を再び心に刻み付ける。
この身体も、この心も、その全てを持って尽くすと決めた我慢強い男の子の姿が脳裏に浮かんだ。
「稟くん、稟くん、稟くん……っ……」
そうだ、と楓はもう一度立ち上がる。
かつて、世界を否定して己の心に閉じこもった楓を救った幼馴染がいた。
誰も憎めない楓の憎しみの対象となることで、生きる気力を与えてくれた人がいた。
憎悪を一身に受けることになろうとも、学園中から嫌われ者になろうとも、楓を救うために頑張った男の子がいた。
かつて、世界を否定して己の心に閉じこもった楓を救った幼馴染がいた。
誰も憎めない楓の憎しみの対象となることで、生きる気力を与えてくれた人がいた。
憎悪を一身に受けることになろうとも、学園中から嫌われ者になろうとも、楓を救うために頑張った男の子がいた。
もう、殻に篭るわけにはいかない。
同じ過ちを繰り返してはいけない。
大好きな、大好きな人のためにも自分の殻の中に篭ってはいけない。
同じ過ちを繰り返してはいけない。
大好きな、大好きな人のためにも自分の殻の中に篭ってはいけない。
「すう……はあ……」
大きく息を吸い込んだ。
夜中の空気は非常に冷たかったが、逆にそのおかげで落ち着くことが出来た。
目じりに残る涙の後をぬぐう。
強く、強く生きなければならないことをしっかりと心に刻み付けた。
夜中の空気は非常に冷たかったが、逆にそのおかげで落ち着くことが出来た。
目じりに残る涙の後をぬぐう。
強く、強く生きなければならないことをしっかりと心に刻み付けた。
「リムちゃん……ごめんなさい」
本当ならもっと嘆いて、悲しんでやりたい。
泣きじゃくってプリムラとの思い出をとつとつと語って、決して忘れないくらい何度も繰り返したかった。
悲しみに溺れてしまいたかったし、さっきまでは確かに溺れ続けていた。
だけど、それは全部後回しだ。
泣きじゃくってプリムラとの思い出をとつとつと語って、決して忘れないくらい何度も繰り返したかった。
悲しみに溺れてしまいたかったし、さっきまでは確かに溺れ続けていた。
だけど、それは全部後回しだ。
こんな酷いことに巻き込まれてしまった。
最後の一人になるまで殺し合え、と言われた。だが、楓がもう一度首を振る。
例えそのルールで土見稟を日常に帰したとしても、稟は決して喜ばない。
誰よりも人の死というものが悲しいということを知っている人だからだ。
最後の一人になるまで殺し合え、と言われた。だが、楓がもう一度首を振る。
例えそのルールで土見稟を日常に帰したとしても、稟は決して喜ばない。
誰よりも人の死というものが悲しいということを知っている人だからだ。
なら、楓がやることはゲームに乗ることじゃない。
何としても生きて帰ること。それはもちろんシアがいて、ネリネがいて、亜沙がいて、麻弓がいて。
言うまでもなく、土見稟がいる日常に皆で帰ることなのだ。
何としても生きて帰ること。それはもちろんシアがいて、ネリネがいて、亜沙がいて、麻弓がいて。
言うまでもなく、土見稟がいる日常に皆で帰ることなのだ。
「私は、稟くんを見つけて……シアちゃんたちと一緒に、帰ります」
嘆くのも、悲しむのも今はやめる。
楓にとっては全てとも言える男性、土見稟。彼が示してくれた強さを思い出す。
それが張りぼてに過ぎないものだとしても、稟のことを思って楓はもう一度歩き出した。
今度は何も揺れていなかった。
しっかりと、前を見て、確かに最初の一歩を踏み出していた。
楓にとっては全てとも言える男性、土見稟。彼が示してくれた強さを思い出す。
それが張りぼてに過ぎないものだとしても、稟のことを思って楓はもう一度歩き出した。
今度は何も揺れていなかった。
しっかりと、前を見て、確かに最初の一歩を踏み出していた。
「その後でなら、泣いていいですよね。それまで待っててくださいね、リムちゃん……」
思い出したらもう一度、瞳から涙が零れ落ちた。
どんなにこれから頑張っても、もうあの感情を表に出すことが苦手な少女は帰ってこない。
それを強引に拭って楓は奮い立つ。
これぐらいの強さは見せなければ、救ってくれた大好きな人に申し訳が立たないから。
悲しんでばかりだったら、あの表情少なげな可愛らしい家族にも心配をかけてしまうから。
どんなにこれから頑張っても、もうあの感情を表に出すことが苦手な少女は帰ってこない。
それを強引に拭って楓は奮い立つ。
これぐらいの強さは見せなければ、救ってくれた大好きな人に申し訳が立たないから。
悲しんでばかりだったら、あの表情少なげな可愛らしい家族にも心配をかけてしまうから。
心は常に揺れ続けている。
身体は恐怖に震え続けている。
置かれている立場を理解すればするほど、弱い心が折れかける。
身体は恐怖に震え続けている。
置かれている立場を理解すればするほど、弱い心が折れかける。
「稟くん……必ず、逢いにいきますから」
それでも、愛しい人の名前を原動力にして。
もう一度出逢うんだ、という意思を強さに変えて。
皆で必ず帰るんだ、という願いを目標にして。
もう一度出逢うんだ、という意思を強さに変えて。
皆で必ず帰るんだ、という願いを目標にして。
芙蓉楓はようやく、地獄の島への第一歩をしっかりとした足取りで踏みしめた。
【F-5 平地(マップ右方)/1日目 深夜】
【芙蓉楓@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式×1、不明支給品(1~3)】
【状態:健康、決意】
【思考・行動】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式×1、不明支給品(1~3)】
【状態:健康、決意】
【思考・行動】
基本方針:稟たちと共に日常へと帰る
1:稟たちを探す
2:人に逢って稟たちの情報を集める
3:プリムラの死に深い悲しみ
1:稟たちを探す
2:人に逢って稟たちの情報を集める
3:プリムラの死に深い悲しみ
| 君に戦ぐ風、揺れるココロとススキ | <前 次> | 傷だらけの天使たち |