貴方を/貴方達を守るために――(前)
爆発音。
飛散する血飛沫、宙を舞う二つの生首。
飛散する血飛沫、宙を舞う二つの生首。
そんな光景を前にして、少年はただ立ち尽くす事しか出来なかった。
視界の中で崩れ落ちていくのは、首輪を爆破された二人の男達。
少年にとって何よりも大切な、苦楽を共にした親友達だ。
地面に倒れ伏した親友達は、ピクリとも動かない。
もう、二度と動かない。
視界の中で崩れ落ちていくのは、首輪を爆破された二人の男達。
少年にとって何よりも大切な、苦楽を共にした親友達だ。
地面に倒れ伏した親友達は、ピクリとも動かない。
もう、二度と動かない。
『恭介。理樹と鈴を頼んだぞ……』
親友達の遺した言葉が、少年の頭の中で何度も反芻される。
永きを共に生きた親友達の死、最期に託された願い。
それらを受けて、少年の選んだ道は――
永きを共に生きた親友達の死、最期に託された願い。
それらを受けて、少年の選んだ道は――
◇ ◇ ◇ ◇
「……どうなってるの?」
呆然と呟いたその一言が、わたし――観興寺六花(かんこうじ りっか)の本心だった。
分からない。何がどうなっているのか、全然理解出来ない。
先程殺し合いを命じた人物は、わたしの知り合い。
わたしが通う学園都市の研究主任、伊集院観影さんだ。
分からない。何がどうなっているのか、全然理解出来ない。
先程殺し合いを命じた人物は、わたしの知り合い。
わたしが通う学園都市の研究主任、伊集院観影さんだ。
観影先生が子供達を戦わせようとするのは、何も今回が初めてでは無い。
此処に来る前から、わたしは観影先生の実験の中で殺し合いをさせられていた。
古流武術を修めた達人同士の果たし合い。
わたし自身も寶藏院流槍術(ほうぞういんりゅうそうじゅつ)を身に付けており、熾烈な戦いに参加していた。
だけどその戦いはあくまでも仮想世界で行われるものであり、現実に死に至ったりはしない。
この殺し合いすらも実験の一環かとも思ったが、これだけの大人数を仮想世界に送れる筈が無い。
此処に来る前から、わたしは観影先生の実験の中で殺し合いをさせられていた。
古流武術を修めた達人同士の果たし合い。
わたし自身も寶藏院流槍術(ほうぞういんりゅうそうじゅつ)を身に付けており、熾烈な戦いに参加していた。
だけどその戦いはあくまでも仮想世界で行われるものであり、現実に死に至ったりはしない。
この殺し合いすらも実験の一環かとも思ったが、これだけの大人数を仮想世界に送れる筈が無い。
「なら、これは夢なのかな……? でも――」
わたしは思考を一旦中断して、辺りを見渡してみる。
目に入るのは、鬱蒼と生い茂った沢山の木々。直ぐ近くには、緩やかな流れの川も見える。
少し歩いて川に手を伸ばすと、冷たい感触が掌を包んだ。
水面に映っているのは、栗色のポニーテルをしたわたし自身の姿だ。
目に入るのは、鬱蒼と生い茂った沢山の木々。直ぐ近くには、緩やかな流れの川も見える。
少し歩いて川に手を伸ばすと、冷たい感触が掌を包んだ。
水面に映っているのは、栗色のポニーテルをしたわたし自身の姿だ。
違う。目に入る景色も、手に伝わった感覚もリアルなもの。
わたしの五感は、これが夢なんかじゃないと告げていた。
だったら、全ては現実の出来事だったという事なのか。
わたしの五感は、これが夢なんかじゃないと告げていた。
だったら、全ては現実の出来事だったという事なのか。
観影先生が殺し合いを命令したのも、
見せしめとして人が殺されたのも、
死にたくないという嘆きの声も、
崩れ落ちる血塗れの胴体も、
辺りに飛び散った肉片も、
何もかも本物の――
見せしめとして人が殺されたのも、
死にたくないという嘆きの声も、
崩れ落ちる血塗れの胴体も、
辺りに飛び散った肉片も、
何もかも本物の――
「………ぅええ………っ」
猛烈な吐き気が込み上げてきて、咄嗟にわたしは口元を押さえた。
ミキサーで頭の中を掻き回されているような、どうしようもない不快感。
これが現実の出来事だとしたら、余りにも酷過ぎる。
見せしめと称して殺されたのは、わたしと変わらない年頃の子供達だった。
とても、理不尽に殺されるだけの謂われがあったとは思えない。
それなのに、あんな風に命を奪うなんて……っ!
ミキサーで頭の中を掻き回されているような、どうしようもない不快感。
これが現実の出来事だとしたら、余りにも酷過ぎる。
見せしめと称して殺されたのは、わたしと変わらない年頃の子供達だった。
とても、理不尽に殺されるだけの謂われがあったとは思えない。
それなのに、あんな風に命を奪うなんて……っ!
抑え切れない激しい怒りが、止め処も無く沸き上がってくる。
だからだろうか。
誰かが近付いてきた事にすら、気付かなかったのは。
だからだろうか。
誰かが近付いてきた事にすら、気付かなかったのは。
「なあ、そこのお前」
「――――!?」
「――――!?」
突然背後から聞こえて来た声に、ドクンとわたしの心臓が跳ね上がる。
慌てて振り返ると、ブレザーの制服を着た男の人が立っていた。
鷹のような瞳に射抜かれて、わたしは思わず後ずさってしまう。
慌てて振り返ると、ブレザーの制服を着た男の人が立っていた。
鷹のような瞳に射抜かれて、わたしは思わず後ずさってしまう。
不味い。手元に武器は無いし、槍の召喚にもさっき失敗している。
本来ならわたしは魔法のように槍を呼べる筈なのに、何故かそれが出来なかったのだ。
いくら槍術を修めていても、肝心の得物が無くては抗いようがない。
本来ならわたしは魔法のように槍を呼べる筈なのに、何故かそれが出来なかったのだ。
いくら槍術を修めていても、肝心の得物が無くては抗いようがない。
高まる焦燥。
自然と冷たい汗が頬を伝い、緊張で胃が締め付けられる。
男の人はニヤリと口元を歪めると、
自然と冷たい汗が頬を伝い、緊張で胃が締め付けられる。
男の人はニヤリと口元を歪めると、
「――リトルバスターズに入らないか?」
「…………え?」
「…………え?」
そんな事を、云ってのけた。
◇ ◇ ◇ ◇
「そうか。じゃあ六花は、あの観影って女と知り合いなんだな?」
「うん、そうなりますね」
「うん、そうなりますね」
森を抜けた草原地帯で、わたしは隣の男の人と言葉を交わす。
彼の名前は棗恭介(なつめ きょうすけ)さん。
わたしと同じで、気付いた時にはこの殺し合いに巻き込まれていたらしい。
出会った時にはどうなる事かと思ったけど、殺し合うつもりは無いみたいで一安心だ。
お互いに敵意が無いのならと、わたし達は一緒に行動していた。
彼の名前は棗恭介(なつめ きょうすけ)さん。
わたしと同じで、気付いた時にはこの殺し合いに巻き込まれていたらしい。
出会った時にはどうなる事かと思ったけど、殺し合うつもりは無いみたいで一安心だ。
お互いに敵意が無いのならと、わたし達は一緒に行動していた。
「なあ、あの観影って奴は何を考えているんだ?
正直、こんな殺し合いをさせる意味が分からないんだが」
「……ごめんなさい、わたしにも分からないんです。本当に突然の事だったから……」
正直、こんな殺し合いをさせる意味が分からないんだが」
「……ごめんなさい、わたしにも分からないんです。本当に突然の事だったから……」
それは、正直なわたしの本心だ。
観影先生は厳しい所もある人だけど、世界を救う為に頑張っていた。
それが何故こんな凶行に及んだのか、わたしにはまるで心当たりが無かった。
観影先生は厳しい所もある人だけど、世界を救う為に頑張っていた。
それが何故こんな凶行に及んだのか、わたしにはまるで心当たりが無かった。
「そうか……まあその辺りは、おいおい調べて行くしか無いな。
今はそれよりも当面の事を考えようか。六花には何が配られたんだ?」
今はそれよりも当面の事を考えようか。六花には何が配られたんだ?」
そう云えば、未だ鞄の中身を確かめていなかった。
慌てて鞄を開けてみると、最初に出て来たのは長い直線状の物体。
それは長さ約二メートル程の槍で、先端には斧のような刃も付いている。
疑問なのは、この槍が明らかに鞄よりも大きい事だ。
どうやってこんなモノが、鞄の中に入っていたのだろうか。
慌てて鞄を開けてみると、最初に出て来たのは長い直線状の物体。
それは長さ約二メートル程の槍で、先端には斧のような刃も付いている。
疑問なのは、この槍が明らかに鞄よりも大きい事だ。
どうやってこんなモノが、鞄の中に入っていたのだろうか。
「ねえ、恭介さん――」
何か知っていないかと思い、わたしは恭介さんに歩み寄ろうとする。
だけどそこで、近くの草むらが不自然にがさがさと揺れた。
直後、物凄い速さで近付いて来る人影の姿。
だけどそこで、近くの草むらが不自然にがさがさと揺れた。
直後、物凄い速さで近付いて来る人影の姿。
「っ…………!?」
恭介さんが地面を蹴って、真後ろに飛び退く。
その一秒後には銀光が奔って、それまで恭介さんが居た場所を切り裂いていた。
その一秒後には銀光が奔って、それまで恭介さんが居た場所を切り裂いていた。
「――良い月ですわね」
呆然とわたしが眺める先、降り注ぐ月光の下に現れたのは一人の女剣士。
闇夜に映える紅いドレス。鋭い光を内に秘めた大きな瞳。
赤の長髪を風に靡かせたその女性は、わたしの良く知る人だった。
闇夜に映える紅いドレス。鋭い光を内に秘めた大きな瞳。
赤の長髪を風に靡かせたその女性は、わたしの良く知る人だった。
「そちらの殿方とはお初になりますね。私は月瀬小夜音(つきがせ さやね)と申す者で、六花とは学友です。
以後お見知りおきを」
以後お見知りおきを」
そう云って、女性は仰々しく頭を下げた。
その優雅な立ち振舞いは、西洋の貴婦人を連想させる。
月瀬小夜音――新陰流を修めた凄腕の剣士。
わたしの大切な友達であり、観影先生の実験の協力者でもある。
小夜音さんは刃渡り五、六十センチ程の小太刀を握り締めている。
急所に直撃すれば命を落としかねないその凶器で、恭介さんに斬り掛かったのだ。
その優雅な立ち振舞いは、西洋の貴婦人を連想させる。
月瀬小夜音――新陰流を修めた凄腕の剣士。
わたしの大切な友達であり、観影先生の実験の協力者でもある。
小夜音さんは刃渡り五、六十センチ程の小太刀を握り締めている。
急所に直撃すれば命を落としかねないその凶器で、恭介さんに斬り掛かったのだ。
「お見知りおきを、じゃないですよ! いきなり何するんですか!?」
「六花。仮にも貴女は、わたしや蔵人さんと腕を競い合った手練れの筈。
それなのに気付いていないのですか?」
「え?」
「六花。仮にも貴女は、わたしや蔵人さんと腕を競い合った手練れの筈。
それなのに気付いていないのですか?」
「え?」
明らかな失望の色に染まった声。
訳も分からずわたしが固まっていると、小夜音さんがある一方向を指差した。
訳も分からずわたしが固まっていると、小夜音さんがある一方向を指差した。
「――その男が、右のポケットに武器を隠し持っている事に」
云われてわたしは、弾かれるような勢いで横に振り向く。
そこには苦々しく表情を歪める恭介さんの姿。
その右手は、不自然に膨らんだポケットに添えられている。
そこには苦々しく表情を歪める恭介さんの姿。
その右手は、不自然に膨らんだポケットに添えられている。
「理解出来ましたか? 明らかにその男は、意図的に何かを隠している。
恐らくは武器を隠し持ったまま、騙し討ちを狙っていたのでしょうね」
恐らくは武器を隠し持ったまま、騙し討ちを狙っていたのでしょうね」
だから問答無用で斬り掛かったのだ、と暗に小夜音さんは告げていた。
「……そうなんですか、恭介さん?」
「波風立たせたくなかったんだが……仕方ないか」
「波風立たせたくなかったんだが……仕方ないか」
恭介さんは小さく一息吐いた後、ポケットから何かを取り出す。
二十センチあるかどうかのそれは、折り畳み式のナイフだった。
二十センチあるかどうかのそれは、折り畳み式のナイフだった。
「武器を隠し持っていたのは認める。けどな、騙し討ちするつもりなんて無かった。
あくまでも万が一に備えてさ。こんな状況なんだ、それくらい警戒して当然だろ?」
あくまでも万が一に備えてさ。こんな状況なんだ、それくらい警戒して当然だろ?」
恭介さんの口にしたソレは、至極真っ当な理屈かも知れない。
わたしは直ぐに恭介さんを信用したけど、相手もそうだとは限らない。
何時でも応戦できる態勢を取っておくのは、当たり前の行動だと云えた。
それでもまだ小夜音さんは納得していないらしく、険しい顔付きのままだった。
わたしは直ぐに恭介さんを信用したけど、相手もそうだとは限らない。
何時でも応戦できる態勢を取っておくのは、当たり前の行動だと云えた。
それでもまだ小夜音さんは納得していないらしく、険しい顔付きのままだった。
「その言葉を裏付ける証拠は?」
「証拠ならあるさ。俺が騙し討ちするつもりなら、襲うチャンスなんて幾らでもあった。
なのに今も六花が無事だって事は、少なくとも、俺は当分の間争いを起こすつもりが無いって事だろ?」
「……そうですか」
「証拠ならあるさ。俺が騙し討ちするつもりなら、襲うチャンスなんて幾らでもあった。
なのに今も六花が無事だって事は、少なくとも、俺は当分の間争いを起こすつもりが無いって事だろ?」
「……そうですか」
話を聞いている限り、理は恭介さんの方にあるように思える。
暫くは利用するつもりなだけかも知れないけど、そんな事まで疑い出せばキリが無い。
小夜音さんも反論が思い付かないのか、短く言葉を返すだけに留まった。
これでようやく一安心だと思い、わたしはほっと胸を撫で下ろす。
暫くは利用するつもりなだけかも知れないけど、そんな事まで疑い出せばキリが無い。
小夜音さんも反論が思い付かないのか、短く言葉を返すだけに留まった。
これでようやく一安心だと思い、わたしはほっと胸を撫で下ろす。
だけど――事態はそう簡単に収まってなんてくれなかった。
「……でも、どちらでも関係ありませんわ」
短く告げて、小夜音さんが再び刀を持ち上げる。
赤い双眸には、先程よりも更に強い殺気が籠められているように見えた。
赤い双眸には、先程よりも更に強い殺気が籠められているように見えた。
「小夜音さん!?」
「驚く事はありませんわ、六花。簡単な事ですよ。そう……とても簡単な事」
「驚く事はありませんわ、六花。簡単な事ですよ。そう……とても簡単な事」
煌めく白刃の切っ先は、恭介さんよりも寧ろわたしに向けられている。
これは一体どういう事なのか。
もしかして、まさか――
わたしが真相に辿り着くよりも早く、恭介さんが口を開いた。
これは一体どういう事なのか。
もしかして、まさか――
わたしが真相に辿り着くよりも早く、恭介さんが口を開いた。
「……つまり、お前は人を殺して回るつもりだって事か」
その言葉に、小夜音さんの目がより一層鋭さを増した。
剣鬼の微笑みを口元に浮かべて、小夜音さんは断言する。
剣鬼の微笑みを口元に浮かべて、小夜音さんは断言する。
「――新陰流、月瀬小夜音。故あって、貴方達の命を獲らせて頂きます」
まるで、野球の投手のアンダースローのように。
ゆっくりと小夜音さんが、新陰流独特の『車の構え』を取る。
それはつまり、彼女は全力でわたし達を殺そうとしていると云う事だ。
ゆっくりと小夜音さんが、新陰流独特の『車の構え』を取る。
それはつまり、彼女は全力でわたし達を殺そうとしていると云う事だ。
「小夜音さん、そんな……っ、どうして!?」
「死合いの場に於いて、余分な言葉など無粋。知りたければ力づくで聞き出してみる事ですね」
「死合いの場に於いて、余分な言葉など無粋。知りたければ力づくで聞き出してみる事ですね」
剥き出しの鋭い殺気がわたしに叩き付けられる。
そこに迷いと云うものは感じられない。
そこに迷いと云うものは感じられない。
「……戦うしか、ないんですか?」
問い掛けると、小夜音さんは躊躇わずに頷いた。
こちらを見据える小夜音さんの瞳。
あれは、修羅の目だ。眼前の敵を必ず討ち果たすと決めた、人斬りの目だ。
こちらを見据える小夜音さんの瞳。
あれは、修羅の目だ。眼前の敵を必ず討ち果たすと決めた、人斬りの目だ。
「――――っ」
逃げたい。現実世界で小夜音さんと殺し合うなんて、悪夢だとしか思えない。
だけど此処でわたしが逃げ出したら、誰が小夜音さんを止めると云うのか。
きっと大勢の人達が殺されるし、小夜音さんは取り返しのつかない罪を犯してしまう。
だったら、逃げ出して良い筈が無い。
こんな時に道を正してこそ、本当の友達なんだから。
わたしは一度唇を噛み締めてから、両手で大きく槍を構えた。
だけど此処でわたしが逃げ出したら、誰が小夜音さんを止めると云うのか。
きっと大勢の人達が殺されるし、小夜音さんは取り返しのつかない罪を犯してしまう。
だったら、逃げ出して良い筈が無い。
こんな時に道を正してこそ、本当の友達なんだから。
わたしは一度唇を噛み締めてから、両手で大きく槍を構えた。
「寶藏院流槍術、観興寺六花! なれば全力を以って、貴女の蛮行を食い止めます!」
わたしの視線と小夜音さんの視線が交錯する。
白銀の小太刀は私の心臓に、銀色の槍先は小夜音さんの眉間に向いている。
白銀の小太刀は私の心臓に、銀色の槍先は小夜音さんの眉間に向いている。
「お願いします、恭介さんは下がっていてください。
小夜音さんは恐ろしいくらいの達人……不用意に近付けば、必ず命を獲られます」
小夜音さんは恐ろしいくらいの達人……不用意に近付けば、必ず命を獲られます」
これは無力な女の戦いなんかじゃなくて、熟練者同士の壮絶な潰し合い。
恐らくは、ただならぬ雰囲気を恭介さん自身も感じていたのだろう。
忠告すると、特に反論する事無く退いてくれた。
こちらのやり取りが終わったのを見て取って、小夜音さんは闘いの開幕を宣言する。
恐らくは、ただならぬ雰囲気を恭介さん自身も感じていたのだろう。
忠告すると、特に反論する事無く退いてくれた。
こちらのやり取りが終わったのを見て取って、小夜音さんは闘いの開幕を宣言する。
「準備は宜しいようですね。では……征きます!」
渦巻く突風。
ダンと強く地面を蹴って、小夜音さんが正面から斬り掛かってくる。
リーチで大きく上回るわたしは、相手の侵入に先んじて槍を突き出した。
一直線に直進する槍先を、小夜音さんは半身を捩じって回避し、そのまま近寄って来る。
対するわたしは上体を思い切り横に捻って、反動で槍を横薙ぎに一閃した。
捉えたかと思ったが、槍が蹂躙した空間に小夜音さんの姿は無い。
ダンと強く地面を蹴って、小夜音さんが正面から斬り掛かってくる。
リーチで大きく上回るわたしは、相手の侵入に先んじて槍を突き出した。
一直線に直進する槍先を、小夜音さんは半身を捩じって回避し、そのまま近寄って来る。
対するわたしは上体を思い切り横に捻って、反動で槍を横薙ぎに一閃した。
捉えたかと思ったが、槍が蹂躙した空間に小夜音さんの姿は無い。
「っ…………!」
眼下には、身体を屈めた小夜音さんの姿。
余りの疾さに驚愕しながらも、わたしは後ろへと跳躍して退避。
前髪を何本か切り落とされながら、反撃の一撃を繰り出した。
甲高い金属音を鳴り響かせて、刀と槍が交差する。
余りの疾さに驚愕しながらも、わたしは後ろへと跳躍して退避。
前髪を何本か切り落とされながら、反撃の一撃を繰り出した。
甲高い金属音を鳴り響かせて、刀と槍が交差する。
「流石ですわね六花。普段とは違う得物で、これ程の槍捌きを見せるなんて」
「……良く云います。小夜音さんの方こそ、まるで手足みたいにその刀を扱っているじゃないですか……!」
「……良く云います。小夜音さんの方こそ、まるで手足みたいにその刀を扱っているじゃないですか……!」
両腕に可能な限り力を籠めて、槍を相手の方に押し付ける。
何とか相手の得物を弾きたい所だけど、槍先は万力で固定されているかのように動かない。
埒があかないと判断して、わたしは一度槍を引き戻した。
何とか相手の得物を弾きたい所だけど、槍先は万力で固定されているかのように動かない。
埒があかないと判断して、わたしは一度槍を引き戻した。
「ハァッ!」
一撃で決められないのならば、当たるまで攻撃を繰り出すのみ。
大きく一声吐いて、縦横無尽に槍を振り回す。
刺突、袈裟斬り、振り下ろし――様々な角度から迫る攻撃を防ぐのは、決して容易では無い筈だ。
そんなわたしの連撃を、小夜音さんは危なげ無く刀で受け続ける。
確実に全てを防ぎながら、一歩ずつ間合いを詰めて来る。
業を煮やしたわたしは、防御する刀ごと叩き潰すつもりで槍を振り下ろした。
相手の得物は小太刀、槍による渾身の一撃は受け止め切れない筈、だった。
大きく一声吐いて、縦横無尽に槍を振り回す。
刺突、袈裟斬り、振り下ろし――様々な角度から迫る攻撃を防ぐのは、決して容易では無い筈だ。
そんなわたしの連撃を、小夜音さんは危なげ無く刀で受け続ける。
確実に全てを防ぎながら、一歩ずつ間合いを詰めて来る。
業を煮やしたわたしは、防御する刀ごと叩き潰すつもりで槍を振り下ろした。
相手の得物は小太刀、槍による渾身の一撃は受け止め切れない筈、だった。
「甘い!」
「…………ッ!?」
「…………ッ!?」
手に返ってきたのは、空回りするような感触。
小夜音さんは真っ向から槍を受け止めず、絶妙な太刀捌きで斜めに力を受け流したのだ。
軌道を逸らされた槍が空転している間に、小夜音さんは一気に踏み込んで来た。
その行動は、近距離なら槍の長柄が不利に働くと見越してのものだろう。
わたしの首を両断せんと、間近で振り上げられる小太刀。
小夜音さんは真っ向から槍を受け止めず、絶妙な太刀捌きで斜めに力を受け流したのだ。
軌道を逸らされた槍が空転している間に、小夜音さんは一気に踏み込んで来た。
その行動は、近距離なら槍の長柄が不利に働くと見越してのものだろう。
わたしの首を両断せんと、間近で振り上げられる小太刀。
だけどわたしの得物は、先端に斧のような刃が取り付けられたもの。
相手の背後から、斧の部分で急襲を仕掛ける事も可能なのだ。
迷っている暇は無い。
後方に飛び退きながら、全力で槍先を引き寄せる――!
相手の背後から、斧の部分で急襲を仕掛ける事も可能なのだ。
迷っている暇は無い。
後方に飛び退きながら、全力で槍先を引き寄せる――!
「っ!」
「痛ぅっ…………!」
「痛ぅっ…………!」
首筋に鋭い痛みを感じながらも、何とかわたしは後退する。
頸動脈にこそ達しなかったものの、小夜音さんの刀はわたしの皮を浅く切り裂いていた。
対するわたしの槍先には、赤いドレスの切れ端。
背後から急襲を仕掛けた斧は、小夜音さんがサイドステップを踏んだ事で空転した。
頸動脈にこそ達しなかったものの、小夜音さんの刀はわたしの皮を浅く切り裂いていた。
対するわたしの槍先には、赤いドレスの切れ端。
背後から急襲を仕掛けた斧は、小夜音さんがサイドステップを踏んだ事で空転した。
更に小夜音さんは、距離を開ける暇など与えんと云わんばかりに疾走する。
対するわたしも、相手の突撃を妨げるべく槍を振りかぶる。
そこで、突如として小夜音さんの上体が大きく揺れた。
対するわたしも、相手の突撃を妨げるべく槍を振りかぶる。
そこで、突如として小夜音さんの上体が大きく揺れた。
「――――!」
良く注視すれば、小夜音さんの足元には大きく膨らんだ木の根元。
恐らくはあれに足を取られて、態勢を崩してしまったのだろう。
またとない好機にわたしは槍撃を繰り出そうとしたが、咄嗟にその手を止める。
恐らくはあれに足を取られて、態勢を崩してしまったのだろう。
またとない好機にわたしは槍撃を繰り出そうとしたが、咄嗟にその手を止める。
「まず…………ッ!」
いけない、と直感した。
このまま槍を突き出せば、白刃は小夜音さんの心臓を貫くだろう。
あくまでもわたしの目的は小夜音さんを止める事であって、命を奪うつもりはない。
わたしは刺突を中断して、大きく横に槍を振りかぶった。
そのまま柄の部分で、小夜音さんを殴打しようとして――
このまま槍を突き出せば、白刃は小夜音さんの心臓を貫くだろう。
あくまでもわたしの目的は小夜音さんを止める事であって、命を奪うつもりはない。
わたしは刺突を中断して、大きく横に槍を振りかぶった。
そのまま柄の部分で、小夜音さんを殴打しようとして――
――次の瞬間、わたしは敗北した。
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