星
サァサァと、静かなノイズが一室を満たしている。
それは水が流れる音。落ちる音。落ちた水が何かを叩く音。叩いた水が身体をなぞる音。
肢体を巡り流れ落ちる水が床へと辿りついた音で、そしてどこかへと流れ行く音。それは穢れを流し落とす音。
肢体を巡り流れ落ちる水が床へと辿りついた音で、そしてどこかへと流れ行く音。それは穢れを流し落とす音。
これから殺し合いが始まる島の中。
南東の端に位置するホテルの最上階――その端に位置するロイヤルスイート。
豪華さをこれ見よがしとしない上品な内装のその広い部屋の中に静かなノイズが満ちていた。
南東の端に位置するホテルの最上階――その端に位置するロイヤルスイート。
豪華さをこれ見よがしとしない上品な内装のその広い部屋の中に静かなノイズが満ちていた。
ノイズは唐突に途切れ、一時の静寂。
そしてバスルームの扉を開けて一人の少女がそこから姿を現す。
生まれたままの姿。まだいくつかの水滴が残ったままの上気した肌。均整の取れたプロポーション。
濡れた髪は色の濃い蒼で、瞳は凛。結んだ唇は強い意志を感じさせそして少女らしく愛らしい。
生まれたままの姿。まだいくつかの水滴が残ったままの上気した肌。均整の取れたプロポーション。
濡れた髪は色の濃い蒼で、瞳は凛。結んだ唇は強い意志を感じさせそして少女らしく愛らしい。
一つの違和感。異物があるとすればその首元。そこに嵌った一輪の銀の環。
枷を嵌められた少女。つまりは彼女――玖我なつきもまた殺し合いの参加者の一人であった。
枷を嵌められた少女。つまりは彼女――玖我なつきもまた殺し合いの参加者の一人であった。
◆ ◆ ◆
「――全く、馬鹿馬鹿しい」
殺し合いにか、それとも誰かに宛ててなのか蒼髪の少女は風呂からあがったままの姿でベッドへと腰掛ける。
彼女の視線の先。絨毯が敷かれた床の上には赤黒く染まった一着の制服が脱ぎ捨てられていた。
彼女の視線の先。絨毯が敷かれた床の上には赤黒く染まった一着の制服が脱ぎ捨てられていた。
「殺しあえだと?」
なつきが着ていた制服を赤黒に染めているのは殺しあう間もなく命を奪われた一人の女性の血だ。
あの暗闇の中で目の前にいた女性の首輪が訳もわからないうちに爆ぜ、そしてなつきの全身を赤く染めた。
それに次ぐ絶叫。おそらくは彼女の知人が傍にいたのであろう。慟哭とも言えるそれになつきは身体を強張らせ、
気付いた時には一人呆然とこの部屋の中央で佇んでいた。
そして血を拭おうとあれこれ試してみたもののうまくはいかず、結局はシャワーを浴びることとなり現在にいたる。
あの暗闇の中で目の前にいた女性の首輪が訳もわからないうちに爆ぜ、そしてなつきの全身を赤く染めた。
それに次ぐ絶叫。おそらくは彼女の知人が傍にいたのであろう。慟哭とも言えるそれになつきは身体を強張らせ、
気付いた時には一人呆然とこの部屋の中央で佇んでいた。
そして血を拭おうとあれこれ試してみたもののうまくはいかず、結局はシャワーを浴びることとなり現在にいたる。
「あいつは何を考えているんだ……?」
なつきは最初の場所で陽気に殺し合いを勧めていた白髪の少年のことを考える。
炎凪。星詠みの舞と呼ばれる儀式の進行役。なつきも参加していたそれを中途で放り出し、新しい殺し合いをさせる意図とは?
考えてもなつきに思い当たることはない。ただただ理不尽なばっかりだった。
炎凪。星詠みの舞と呼ばれる儀式の進行役。なつきも参加していたそれを中途で放り出し、新しい殺し合いをさせる意図とは?
考えてもなつきに思い当たることはない。ただただ理不尽なばっかりだった。
「HiME……星詠みの舞……姫星……」
なつきはベッドに横になり、首を傾けて大きな窓の外を見る。
漆黒のスクリーンに藍色を滲ませる白い月の傍に彼女がいつも見ていた媛星は存在しない。
放っておけば地球に落ち大災厄をもたらす想いの星。それが今は無いということはそれを還す為の儀式もなくなったということか。
しかし、それもわからない。それこそ凪本人に聞いてもみない限りわかりはしないだろう。
漆黒のスクリーンに藍色を滲ませる白い月の傍に彼女がいつも見ていた媛星は存在しない。
放っておけば地球に落ち大災厄をもたらす想いの星。それが今は無いということはそれを還す為の儀式もなくなったということか。
しかし、それもわからない。それこそ凪本人に聞いてもみない限りわかりはしないだろう。
『やぁ、なつきちゃん』
――! 聞きなれた声。炎凪の声になつきは起き上がりその方向へとHiMEの力で生み出した銃を向けた。
だがしかし凪の姿は彼女の目には映らない。そこにあるのは鞄から出されて散らかったままの支給品の数々。
シーツを手繰り寄せて露だった身体を隠しながらなつきは慎重に気配を探る。
だがしかし凪の姿は彼女の目には映らない。そこにあるのは鞄から出されて散らかったままの支給品の数々。
シーツを手繰り寄せて露だった身体を隠しながらなつきは慎重に気配を探る。
「どこだ! どこにいる! 凪っ!」
声はすれども姿は見えず。そればかりか一切の気配も感じられない。
ただの幻聴だったのか? そんなことを思い始めた頃、なつきはソレに気がついた。
ただの幻聴だったのか? そんなことを思い始めた頃、なつきはソレに気がついた。
『やっほーなつきちゃん聞こえてるー? ここだよ。ラ・ジ・オ-☆』
支給品の一つとして鞄の中に入っていたポケットサイズのラジオの電源がいつの間にかに点いている。
声はそこから――つまりは、こことは違う遠くより。気配がないのは当然だった。
声はそこから――つまりは、こことは違う遠くより。気配がないのは当然だった。
「おい、これは一体なんのつもり――」
『――先に断っておくと、こっちからはそっちの声は聞こえないんで、どうか大人しく聞いていてね。
後、”エレメント”でラジオを壊したりするのも遠慮してほしいかな?』
『――先に断っておくと、こっちからはそっちの声は聞こえないんで、どうか大人しく聞いていてね。
後、”エレメント”でラジオを壊したりするのも遠慮してほしいかな?』
舌打ちをしなつきは構えていた銃を下ろす。
忌々しく、しかも一方通行ではあったがこの貴重なつながりをふいにするほど彼女の頭は悪くない。
見られていないのなら関係ないとシーツも投げ捨て、なつきはラジオを手に取りベッドへと腰をかけなおす。
忌々しく、しかも一方通行ではあったがこの貴重なつながりをふいにするほど彼女の頭は悪くない。
見られていないのなら関係ないとシーツも投げ捨て、なつきはラジオを手に取りベッドへと腰をかけなおす。
『まず最初に言っておくけど……――ごめんなさい!
本意でないとはいえ、星詠みの舞の関係者をこんな別の催しに巻き込んでしまったことを謝罪するよ。
この放送はなつきちゃんしか聞いてないはずなんだけど、僕が謝ってたこと他のHiMEにも伝えてくれると嬉しいな』
本意でないとはいえ、星詠みの舞の関係者をこんな別の催しに巻き込んでしまったことを謝罪するよ。
この放送はなつきちゃんしか聞いてないはずなんだけど、僕が謝ってたこと他のHiMEにも伝えてくれると嬉しいな』
謝罪という意外な展開に、なつきは少しの困惑と当てが外れたという思いを顔に表した。
凪の口ぶりからすれば、どちらかといえば彼も巻き込まれた側に入るような印象を受ける。
となれば、彼の後ろに自分の全く知らない組織や存在がいるということになり、解決への道は最初の一歩から踏みなおしだ。
凪の口ぶりからすれば、どちらかといえば彼も巻き込まれた側に入るような印象を受ける。
となれば、彼の後ろに自分の全く知らない組織や存在がいるということになり、解決への道は最初の一歩から踏みなおしだ。
「(伊集院観影……だったか? あの女が黒幕……いや、更に裏があると考えるべきか)」
思考の取っ掛かりを得たからか、血の匂いに痺れていた頭がクリアになっていくのをなつきは感じる。
目の前で見せ付けられた死。殺し合いのもたらす恐怖から醒めさせてくれただけでも凪の声は価値があったと。
目の前で見せ付けられた死。殺し合いのもたらす恐怖から醒めさせてくれただけでも凪の声は価値があったと。
『まぁ、言葉だけじゃあ信用してもらえないかもしれないよね。
ということで、僕からなつきちゃんへのプレゼント。
本当は贔屓なんてしちゃいけないんだけどね。僕としてもみすみすHiMEが失われるのを看過したくはないんだ』
ということで、僕からなつきちゃんへのプレゼント。
本当は贔屓なんてしちゃいけないんだけどね。僕としてもみすみすHiMEが失われるのを看過したくはないんだ』
言って、凪は次にサイドボードの引き出しを開けるようなつきに告げる。
その中にあったのは一つの鍵だった。
扉の鍵か、それとも金庫か何か別のものか。なじみのあるなつきにはすぐわかった。それが、バイクの鍵であると。
その中にあったのは一つの鍵だった。
扉の鍵か、それとも金庫か何か別のものか。なじみのあるなつきにはすぐわかった。それが、バイクの鍵であると。
『そのホテルの地下駐車場に一台のバイクを用意しておいたよ。
それなりに広い島だからね。足として活用してくれると僕としては嬉しいかな』
それなりに広い島だからね。足として活用してくれると僕としては嬉しいかな』
そして、凪はそれに加えていくつかの情報と謝罪を重ねる。
なつきはそれらを聞き、確認しながら彼の真意がどこにあるのかを推し量ろうとする……も、定かにはならない。
誠意はあるが、同時に詐欺師の狡賢さをも併せ持つ相手である。早々に真意は見抜くことは出来ない。
なつきはそれらを聞き、確認しながら彼の真意がどこにあるのかを推し量ろうとする……も、定かにはならない。
誠意はあるが、同時に詐欺師の狡賢さをも併せ持つ相手である。早々に真意は見抜くことは出来ない。
『――じゃあ今回はここまでで。あんまり長く話していると僕の身も危ないんでね。
君の活躍を期待しているよ。舞-HiME――玖我なつきちゃん』
君の活躍を期待しているよ。舞-HiME――玖我なつきちゃん』
結局はまた利用しようとしているのかも知れない。
しかし、だとしてもそうは易々といかせはしないとなつきは小さく鼻を鳴らした。
例え今現在がどうあれ、最終的には凪もろともこのくだらない殺し合いを破壊してみせると。
しかし、だとしてもそうは易々といかせはしないとなつきは小さく鼻を鳴らした。
例え今現在がどうあれ、最終的には凪もろともこのくだらない殺し合いを破壊してみせると。
『そうそう。お風呂上りにずっと裸のままじゃあ風邪をひいちゃうよ? なつきちゃん♪』
夜天に突き刺さるような高いホテルの頂上。その位置で一つの銃声が木霊した――……
◆ ◆ ◆
天に近い位置から一転。しばらくの後、なつきの姿は地下駐車場の中にあった。
青に近い蛍光灯の明かりで満たされたシンと冷たい空間に低いエンジン音が響き渡っている。
その音の発生源は一台のスポーツモデルのバイクだ。
白銀を基調に蒼のラインが入ったスタイリッシュなデザインはなつきの”チャイルド”であるデュランの姿を彷彿とさせる。
その音の発生源は一台のスポーツモデルのバイクだ。
白銀を基調に蒼のラインが入ったスタイリッシュなデザインはなつきの”チャイルド”であるデュランの姿を彷彿とさせる。
「(デュランはここにいない。星詠みの舞でなければそれは当然とも言えるが……何か引っかかるな)」
その前に立ち、これも凪からの贈り物である漆黒のバイクスーツに身を包んだなつきは思案する。
彼女の片手には先程の携帯ラジオが握られていた。今は電源を入れてもどんな声も聞こえてはこない。
しかしそれ以前の問題として、このラジオが破壊されていないことこそが彼女に疑問をもたらしていた。
彼女の片手には先程の携帯ラジオが握られていた。今は電源を入れてもどんな声も聞こえてはこない。
しかしそれ以前の問題として、このラジオが破壊されていないことこそが彼女に疑問をもたらしていた。
「(チャイルドだけでなく、エレメントの力も弱まっている……いや、辛うじて使えていると考えるべきか?)」
先刻。凪への激情にかられたなつきは確かにラジオに向けてエレメントから銃弾を放った。
しかしそれは的を外し、不幸中の幸いか貴重な情報源であるラジオを破壊せずにすむこととなった。
的を外す――それが彼女にとって一番不可思議な点であった。
何故ならなつきのエレメントには弾丸自体にも相手を捕捉する力があるのだから。
しかしそれは的を外し、不幸中の幸いか貴重な情報源であるラジオを破壊せずにすむこととなった。
的を外す――それが彼女にとって一番不可思議な点であった。
何故ならなつきのエレメントには弾丸自体にも相手を捕捉する力があるのだから。
「(狙って撃たないと当たらないというのは少し面倒だな……ふーむ)」
HiMEとしての力が弱まっている。それは確かだ。何せその力の大本である媛星が存在しないのだから当たり前である。
と、ここまで考えるとその解釈は反転する。
本来ならば全くHiMEの力が使えないはずの状況で、何故エレメントだけが使えるのか……と。
と、ここまで考えるとその解釈は反転する。
本来ならば全くHiMEの力が使えないはずの状況で、何故エレメントだけが使えるのか……と。
「(これも、凪からの”贔屓”なのか……?)」
そう考えることもできるかもしれない。
炎凪にはオーファンを操るなどHiMEに類する……いやそれよりも上位の力を振るう力がある。
とすれば、凪が言葉通りにこの殺し合いを面白く思っておらず、
自分の手駒であるHiMEを利用して殺し合いという企画の転覆やそこからの離脱を企んでいる可能性もあるかもしれない。
炎凪にはオーファンを操るなどHiMEに類する……いやそれよりも上位の力を振るう力がある。
とすれば、凪が言葉通りにこの殺し合いを面白く思っておらず、
自分の手駒であるHiMEを利用して殺し合いという企画の転覆やそこからの離脱を企んでいる可能性もあるかもしれない。
「(いや、こう思うこともやつの筋書き通りなのかもしれない)」
安易に信用するのは危険だとなつきは長い髪を揺らして首を振る。
バイク一台程度で買収される人間ではないし、HiMEの力に対する推測も所詮今の段階では憶測にしかすぎないのだから。
それらを確定させるには情報が足りず、それを補うには動くしかない。
バイク一台程度で買収される人間ではないし、HiMEの力に対する推測も所詮今の段階では憶測にしかすぎないのだから。
それらを確定させるには情報が足りず、それを補うには動くしかない。
「(まずは”放送局”に向かうか)」
なつきは髪をまとめヘルメットを被ると暖機していたバイクにまたがりそれをゆっくりと発進させた。
まず最初に向かうのはここより北に位置する放送局。
凪からの放送がそこから送られてきたとは限らないが、放送設備が生きているならばその利用価値は高い。
親友や知人を探すにしても、当ても無く彷徨うよりかは効率がいいはずだと彼女は考える。
まず最初に向かうのはここより北に位置する放送局。
凪からの放送がそこから送られてきたとは限らないが、放送設備が生きているならばその利用価値は高い。
親友や知人を探すにしても、当ても無く彷徨うよりかは効率がいいはずだと彼女は考える。
鋼で組み立てられた猟犬は唸り声を漏らしながら穴倉より月に下へと姿を現し、遠吠えを上げ、夜の中を疾り始める――
【G-7 ホテル周辺/1日目 早朝】
【玖我なつき@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備:エレメント(ELER)、ライダースーツ、スポーツバイク】
【所持品:支給品一式×1、結乃の携帯ラジオ@Memories Off 6 ~T-wave~、不明支給品(0~2)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いの破壊。または脱出。
1:放送局へと向かう。
-凪がそこにいないか探す。
-放送機材を使って、他の参加者へと呼びかけをする。
2:親友、友達、知人を探して保護。また他のHiMEを探して連携する。
【装備:エレメント(ELER)、ライダースーツ、スポーツバイク】
【所持品:支給品一式×1、結乃の携帯ラジオ@Memories Off 6 ~T-wave~、不明支給品(0~2)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いの破壊。または脱出。
1:放送局へと向かう。
-凪がそこにいないか探す。
-放送機材を使って、他の参加者へと呼びかけをする。
2:親友、友達、知人を探して保護。また他のHiMEを探して連携する。
※最初から着ていた制服はホテルの一室に脱ぎ捨てられています。
※スポーツバイクのモデルは「CBR600RR・スペシャルエディション」です。
※スポーツバイクのモデルは「CBR600RR・スペシャルエディション」です。
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