無題『恋心を奏でる綺想曲』(後)
結局、一時間以上の時間をかけて話し合った結果、どうもお互いが全く知らない場所の人間であるらしいということが分かった。
唯湖はまず誰でも分かるような地名について尋ねてみたのだが、いずれも首を振られるばかりだったし、トウカも『そこにいるなら誰もが知っているはず』の知名を尋ねてきたが当然知らないものばかり。
唯湖はまず誰でも分かるような地名について尋ねてみたのだが、いずれも首を振られるばかりだったし、トウカも『そこにいるなら誰もが知っているはず』の知名を尋ねてきたが当然知らないものばかり。
続いて西暦を尋ねてみたが、そもそも西暦の存在を知らないようだったし、唯湖が知っている歴史関連についてもまるで知らない様子。トウカが出す歴史関連の質問について唯湖も同様だった。つまりそれは、唯湖とトウカが全く違う歴史の流れで生きてきた、ということを証明していた。
無論唯湖、トウカ両方の中に目の前の相手がただの気の触れた人間であるかもしれないという疑いは残っていて、お互いに耳を引っ張り合おうということになった。ついているものが本物かどうか確認したかったのだ。
無論唯湖、トウカ両方の中に目の前の相手がただの気の触れた人間であるかもしれないという疑いは残っていて、お互いに耳を引っ張り合おうということになった。ついているものが本物かどうか確認したかったのだ。
結果から言えば、唯湖は当然としてトウカもが本物の耳であるということが判明。唯湖はトウカの耳が間違いなく獣の耳であることに愕然とさせられる一方、その手触りの良さに微妙に気持ちのよさも感じていた。また触ってやろうかとも思ったが、トウカ自身がどうも耳を触られるのを嫌うらしく、二度目はなかった。いつかこっそり背後から触ってやろうとひとつの野望を胸に抱きつつ、唯湖は話を切り出した。
「それで、聖上とやら、だったかな。トウカ君の主君は」
「ああ。その行方について貴女に尋ねたかった。大分、遠回りになってしまったが」
「ああ。その行方について貴女に尋ねたかった。大分、遠回りになってしまったが」
トウカの言葉には嘆息が混じっていた。自分の知らない世界に触れたことに対する疲れがあるのだろう。異文化を理解するというのは相当に苦心するものなのだ。
「それにやはり……これは現実、なのだな」
「何故そう思う?」
「貴女の耳が本物だったからだ」
「何故そう思う?」
「貴女の耳が本物だったからだ」
素っ頓狂な言葉にはあ、と生返事を返してしまう。トウカは至極真面目な調子で唯湖の顔を、いや耳を見据えながら言葉を重ねた。
「某は、最初のあれがどうしても本当のものだと信じられなかった、いや信じたくなかった。見ただろう、次々と人が死んでいくのを」
「……ああ」
「あの中には、某の仲間も含まれていた。同じ釜の飯を食い、心を通わせ合ってきた戦友にして、家族のように思っていた人がな」
「……ああ」
「あの中には、某の仲間も含まれていた。同じ釜の飯を食い、心を通わせ合ってきた戦友にして、家族のように思っていた人がな」
トウカも同じ立場だったらしい。淡々と語りつつも瞳の奥には一抹の悲しさが浮かんでいた。
自分と同じく、死を信じられずここまで呆然としてくるしかなかったトウカ。
ただ自分と違うのはそこに感情があるかどうか、ということだろう。こんな表情に、果たしてなれていたのだろうか。
自分と同じく、死を信じられずここまで呆然としてくるしかなかったトウカ。
ただ自分と違うのはそこに感情があるかどうか、ということだろう。こんな表情に、果たしてなれていたのだろうか。
「憤る暇もなく、悲しむ間もなかった。終わったときには、某はここにいた。近くには誰一人もなく、某ただ一人で。その時に思ったのが……一体今のは何だったのだ、そういう感想だった。訳の分からぬ寸劇を見せられている気分だった。……おかしいと思っていい。現に某は未だ泣いてさえいないのだ。エルルゥ殿が、いなくなってしまったというのに」
自らの頬をさすりながら、トウカは苦悩の在り処を伝えた。
おかしい、とは思わなかった。自分が壊れているからではない。自分も、壊れているからだ。
気付いていないだけで、既にこの場所は自分達を壊しにかかっているのかもしれない。
現実感のなさが、意味不明な状況が、人を狂わせる……
おかしい、とは思わなかった。自分が壊れているからではない。自分も、壊れているからだ。
気付いていないだけで、既にこの場所は自分達を壊しにかかっているのかもしれない。
現実感のなさが、意味不明な状況が、人を狂わせる……
「だから夢なのかもしれないと、性質の悪い夢想なのかもしれないと思ってしまった。クルガヤユイコ殿に出会うまではな。それで、貴女の耳が某たちとは違うものであることが分かった。だから夢ではないと思ったのだ。夢なら、きっとクルガヤユイコ殿の耳は、偽物だろうから」
自分のような耳の持ち主は本来ならいないはずなのだ。少なくともトウカのいる世界では。
だからトウカの言う『聖上』以外の人物にこんな耳がついていることは夢だとしても在り得ないことなのだ。
だからトウカの言う『聖上』以外の人物にこんな耳がついていることは夢だとしても在り得ないことなのだ。
「夢は、己の心を映す鏡。だから思ってもいないこと、想像も出来ないことを具現することはない。なのに、貴女の耳は本物だった」
それに、某の耳も痛かったのでなと付け加えたトウカの声色には夢から醒めたことに対する安堵、仲間が本当にいなくなってしまったことを実感した失望とがあった。だがすぐにそれも消え、代わりに突き出されたモップを見ながらトウカは言葉を重ねた。
「夢ではない。それが分かった以上、エルルゥ殿が死んでしまったことが分かった以上、某に出来るのは――忠を尽くす。それだけだ」
恐らくは、それがトウカ自身に対する総括なのだろうと唯湖は考えた。
あの場にいて何もせず、何も考えられなかった自分に対する贖罪も込めて。トウカの言う『聖上』に、『エルルゥ』に、或いは他の仲間に、できる限りの誠意を以って己らしく生きること、いや仕えてみせる事こそが『忠を尽くす』、そういうことなのだろう。
あの場にいて何もせず、何も考えられなかった自分に対する贖罪も込めて。トウカの言う『聖上』に、『エルルゥ』に、或いは他の仲間に、できる限りの誠意を以って己らしく生きること、いや仕えてみせる事こそが『忠を尽くす』、そういうことなのだろう。
全く度し難いなと、実直に過ぎるトウカの胸の内を眺めて唯湖は嘆息した。
自分と似た状況だったにも関わらず、こんなにも早く心を決めている。自分はと言えば、まだどうすることにも迷っているというのに。
生きてきた環境が違ったのだといえば、それまでなのかもしれない。話を聞く限りではトウカは戦国の世を生きる武人で、片や唯湖は平和な国の生まれで、何を知ることもなく育ってきた機械の如き人間だ。生きるためには素早い決断を強いられる時代では、トウカの決意も当たり前のようなものだろう。或いは臆病なのは自分だけで、知り合いは皆それぞれの思いに従って行動を始めているのかもしれない。
自分と似た状況だったにも関わらず、こんなにも早く心を決めている。自分はと言えば、まだどうすることにも迷っているというのに。
生きてきた環境が違ったのだといえば、それまでなのかもしれない。話を聞く限りではトウカは戦国の世を生きる武人で、片や唯湖は平和な国の生まれで、何を知ることもなく育ってきた機械の如き人間だ。生きるためには素早い決断を強いられる時代では、トウカの決意も当たり前のようなものだろう。或いは臆病なのは自分だけで、知り合いは皆それぞれの思いに従って行動を始めているのかもしれない。
……私にだって、想いがないわけじゃない。
ならば自分にはそんな気持ちがないのだろうかという自答に、唯湖はすぐにそう答えた。
ほんの少し前までは何も知らない、ただの人形でしか在り得なかった。それは認めてもいい。けれども今は違う。たった一人に対してでしかなく、その内容も比べてみれば僅かなものでしかないだろうが、確かに自分にも誰かを想う気持ちがある。
この状況ではすぐに失くしてしまうかもしれない。ここにいさえすれば、少なくとも忘れることはないだろう。
ほんの少し前までは何も知らない、ただの人形でしか在り得なかった。それは認めてもいい。けれども今は違う。たった一人に対してでしかなく、その内容も比べてみれば僅かなものでしかないだろうが、確かに自分にも誰かを想う気持ちがある。
この状況ではすぐに失くしてしまうかもしれない。ここにいさえすれば、少なくとも忘れることはないだろう。
だがそれだけだ。それだけで、何も変わりはしない。これ以上知ることの喜びも、忘れることの悲しさも知らずに死んでゆく人間以下の存在が出来上がるだけだ。それはあまりにも……悲しすぎるな、理樹君?
それに目の前の鳥耳ファッキンサムライにも劣るようでは私が私ではなくなってしまうからな。……そんな理由も付け加える、というか寧ろこっちが主な理由だが、どう思うかな君は?
それに目の前の鳥耳ファッキンサムライにも劣るようでは私が私ではなくなってしまうからな。……そんな理由も付け加える、というか寧ろこっちが主な理由だが、どう思うかな君は?
記憶の中の理樹に尋ねてみるが、やはり予想通りの答えが返ってきた。「来ヶ谷さんらしいよ」と苦笑を交えて。
どうやら自分はまだ己を失ってはいないようだと口元を緩め、唯湖は微笑した。迷いの一つを吹っ切った身体は、少しだけ軽くなっていた。
どうやら自分はまだ己を失ってはいないようだと口元を緩め、唯湖は微笑した。迷いの一つを吹っ切った身体は、少しだけ軽くなっていた。
「――なるほどな。まあそれはそれとして」
「お、おい。軽く流されたような気がするぞ」
「ええい黙れエセジャパニーズサムライ」
「……」
「お、おい。軽く流されたような気がするぞ」
「ええい黙れエセジャパニーズサムライ」
「……」
ぎろりと睨んだ唯湖に、肩を縮めてしょんぼりとしたトウカを見て、そんなに怖い顔だったのだろうかと内心に思いながらも唯湖は話を続ける。
「とにかくだ。トウカ君は仲間を見つけて、その指示に従うのだろう? それに私も同行させてもらいたいのだが。服も濡れていてな。まずはそれを探すにしても、同行者がいればありがたい。着替える途中に襲われる心配も薄れるというものだ」
「……まあ、話を聞く限りではクルガヤユイコ殿も」
「来ヶ谷だ。一々フルネームで呼ばんでいい」
「ふる……ねーむ?」
「……まあ、話を聞く限りではクルガヤユイコ殿も」
「来ヶ谷だ。一々フルネームで呼ばんでいい」
「ふる……ねーむ?」
首をかしげ、未知の言葉に頭を悩ませるトウカ。そういう概念がないらしいと察知した唯湖は即座に「来ヶ谷と呼べばいい」と付け加えた。
唯湖と呼ばれるのがあまり好みではないらしいということを察してくれたトウカも得心したように頷いて「ではクルガヤ殿で」と言い直した。
唯湖と呼ばれるのがあまり好みではないらしいということを察してくれたトウカも得心したように頷いて「ではクルガヤ殿で」と言い直した。
「クルガヤ殿もご友人を探しておられるようだしな、とりあえず我々の利害は一致する」
「付け加えるなら私もそれなり以上に腕っ節は立つぞ。まあ君には分かっているだろうが」
「あ、あれは……少々扱い慣れぬ武具ゆえだ。普段ならばああはいかん」
「モップは武器じゃないのだがな……」
「もっぷというのか? どういうものなのだ?」
「掃除の道具」
「柄の部分が金属なのにか!?」
「君の世界では金属の道具は武具でしかないのか……?」
「あ、いや決してそういうわけではないのだが……ふーむ、よほど栄えているらしいな、クルガヤ殿の國は」
「……まあ、物は有り余った国であることは間違いない。というか、そもそも形を見て武器だと思う君の頭がどうなっているのか実に興味があるよ、私は」
「ば、馬鹿にするな! 某も疑っていたのだ! でも配られたものが武器だというから何か秘めたる力を備えた武具なのかと」
「カルチャーギャップというやつか……全く、異文化交流というのは難しいものだな」
「かるちゃー……? え、ええい、とにかくだ! 某は武具を改めて探す! クルガヤ殿も何かお召し物を調達されるのだろう? 早く行くぞ!」
「……今までにないタイプだな……こういうのも、ああ、可愛い……」
「付け加えるなら私もそれなり以上に腕っ節は立つぞ。まあ君には分かっているだろうが」
「あ、あれは……少々扱い慣れぬ武具ゆえだ。普段ならばああはいかん」
「モップは武器じゃないのだがな……」
「もっぷというのか? どういうものなのだ?」
「掃除の道具」
「柄の部分が金属なのにか!?」
「君の世界では金属の道具は武具でしかないのか……?」
「あ、いや決してそういうわけではないのだが……ふーむ、よほど栄えているらしいな、クルガヤ殿の國は」
「……まあ、物は有り余った国であることは間違いない。というか、そもそも形を見て武器だと思う君の頭がどうなっているのか実に興味があるよ、私は」
「ば、馬鹿にするな! 某も疑っていたのだ! でも配られたものが武器だというから何か秘めたる力を備えた武具なのかと」
「カルチャーギャップというやつか……全く、異文化交流というのは難しいものだな」
「かるちゃー……? え、ええい、とにかくだ! 某は武具を改めて探す! クルガヤ殿も何かお召し物を調達されるのだろう? 早く行くぞ!」
「……今までにないタイプだな……こういうのも、ああ、可愛い……」
真っ赤になって先を行くトウカの姿を眺めながら密かに悶える唯湖。
やはりこういうころころと表情が変わる人を弄り回すのは面白くて仕方ない。
自分には出来ない表情を見ているだけでも、楽しんでいることには変わりない。だとするならそれは、生きている、ということだ。
やはりこういうころころと表情が変わる人を弄り回すのは面白くて仕方ない。
自分には出来ない表情を見ているだけでも、楽しんでいることには変わりない。だとするならそれは、生きている、ということだ。
最悪のスタートだと思ったが、存外悪くない旅になりそうだぞ、理樹君。
ああ、そうだ由真君にも後でお仕置きを敢行してやらねば。とりあえずお尻ペンペンは決定事項。おねーさんを敵に回したことを後悔させてやらねばな。それに、そうしてやった方が理樹君も喜ぶだろう。おっと、別に理樹君が変態な性癖嗜好だと言ってるわけじゃないぞ。まあ別におねーさんは好きでも構わんが。心が広いのだよ、私は。
ああ、そうだ由真君にも後でお仕置きを敢行してやらねば。とりあえずお尻ペンペンは決定事項。おねーさんを敵に回したことを後悔させてやらねばな。それに、そうしてやった方が理樹君も喜ぶだろう。おっと、別に理樹君が変態な性癖嗜好だと言ってるわけじゃないぞ。まあ別におねーさんは好きでも構わんが。心が広いのだよ、私は。
頭に浮かべる理樹の姿は、やはり苦笑していた。「来ヶ谷さんらしいよ」と。
いつか会いに行くよ、君に――そう誓いながら、唯湖は「はっはっは」と笑いながらトウカの後ろを歩いていくのだった。
いつか会いに行くよ、君に――そう誓いながら、唯湖は「はっはっは」と笑いながらトウカの後ろを歩いていくのだった。
【G-7 湖の畔/1日目 深夜】
【来ヶ谷唯湖@リトルバスターズ!】
【装備:防弾チョッキ】
【所持品:なし】
【状態:全身水浸し、胸に軽傷】
【思考・行動】
基本方針:理樹に会いに行く
0:トウカと共に友人探し
1:感情をもっと知っていきたい
2:トウカ弄りも結構楽しい
3:何の服を着よう?
【装備:防弾チョッキ】
【所持品:なし】
【状態:全身水浸し、胸に軽傷】
【思考・行動】
基本方針:理樹に会いに行く
0:トウカと共に友人探し
1:感情をもっと知っていきたい
2:トウカ弄りも結構楽しい
3:何の服を着よう?
【トウカ@うたわれるもの】
【装備:モップ】
【所持品:支給品一式、トウカが武器と思っていない不明支給品0~2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ハクオロを探し、忠を尽くす
0:唯湖と共に仲間を探す
1:まともな武器を調達する
【装備:モップ】
【所持品:支給品一式、トウカが武器と思っていない不明支給品0~2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ハクオロを探し、忠を尽くす
0:唯湖と共に仲間を探す
1:まともな武器を調達する
【備考】
※湖の畔に白いテーブルと椅子が二脚、ティーセット一式(唯湖の支給品)が置かれています(放置)。
※湖の畔に白いテーブルと椅子が二脚、ティーセット一式(唯湖の支給品)が置かれています(放置)。
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