無題『恋心を奏でる綺想曲』(前)
体が重い。
月明かりの下、黒がちな風景にアクセントのように添えられているテーブルと椅子、そして一対のティーセット。
湖の水は静かに波打ち、そよぐ風はゆっくりと木々を揺らし、神殿のような静謐さがあった。
この雰囲気、自身の濡れた体、そして何もかもを理解しきっていない己の頭とが渾然一体となって生み出されたものなのだろうと、自分の思ったことに対し、来ヶ谷唯湖はそう理由をつけた。
湖の水は静かに波打ち、そよぐ風はゆっくりと木々を揺らし、神殿のような静謐さがあった。
この雰囲気、自身の濡れた体、そして何もかもを理解しきっていない己の頭とが渾然一体となって生み出されたものなのだろうと、自分の思ったことに対し、来ヶ谷唯湖はそう理由をつけた。
先程まで座っていた椅子にかけ直し、一息入れる。先程淹れていた紅茶は少し冷め、もう温かい湯気は見えない。
こんな時にこそ温かい飲み物が欲しかったのだがと思いながらも、さりとて淹れ直す気分にもならず唯湖は湖面に映る月を眺めた。
月はこんなにも近くにあるというのに、手を伸ばしたところで届くはずはなく、湖に飛び込んでも溺れるだけだ。
猿猴促月、という説話を思い出す。身の程知らずな猿が抱いた、叶うことのない望み……
こんな時にこそ温かい飲み物が欲しかったのだがと思いながらも、さりとて淹れ直す気分にもならず唯湖は湖面に映る月を眺めた。
月はこんなにも近くにあるというのに、手を伸ばしたところで届くはずはなく、湖に飛び込んでも溺れるだけだ。
猿猴促月、という説話を思い出す。身の程知らずな猿が抱いた、叶うことのない望み……
何を迷っているのだろうか。胸中に呟き、しかしそれが一人の少年の存在に起因するものだと理解もしている自分に気付き、唯湖は苦笑する。
全く、何から何まで君には狂わされる、本当に。
全く、何から何まで君には狂わされる、本当に。
この事態に対処する術を、自分は知っている。例え現実を感じられなくとも、目の前に迫った危機、脅威に対してどうすればいいかを自分は知っている。いや論理は完成しているのだ。効率的に生き延び、命を保つ行動の順序は。
元々が壊れている自分だ。生き延びるための行為に対して遠慮も躊躇もしないだろうし、そうする自信はある。
井ノ原真人と宮沢謙吾。彼ら二人の死には驚いたと言っておきながら慌てることも悲しむこともなく、寧ろ現実だろうが虚構だろうがどちらでも受け止められるようにしている自分がいるくらいだ。それだけではない、十波由真に拳銃を向けられ殺されかかった事に対しても恐怖はまるで感じなかったし、命が助かったことについて一時はほっとしていたが、殺されたら殺されたで仕方ない。そういう思いもあった。
元々が壊れている自分だ。生き延びるための行為に対して遠慮も躊躇もしないだろうし、そうする自信はある。
井ノ原真人と宮沢謙吾。彼ら二人の死には驚いたと言っておきながら慌てることも悲しむこともなく、寧ろ現実だろうが虚構だろうがどちらでも受け止められるようにしている自分がいるくらいだ。それだけではない、十波由真に拳銃を向けられ殺されかかった事に対しても恐怖はまるで感じなかったし、命が助かったことについて一時はほっとしていたが、殺されたら殺されたで仕方ない。そういう思いもあった。
諦めきっているのだろうと唯湖は思った。人間らしくいられないのを受け入れたことに始まり、何をされても平気なことにも、自らの命も。
ただその中で諦められないものがたったひとつあった。
直枝理樹。己の歯車を狂わせた存在であり、恋という感情の先を知りたいと思わせてくれた大切なひと。
それが悲しみの先にあるつらさというものの存在を知ることになっても、これだけは諦められなかった。
ただその中で諦められないものがたったひとつあった。
直枝理樹。己の歯車を狂わせた存在であり、恋という感情の先を知りたいと思わせてくれた大切なひと。
それが悲しみの先にあるつらさというものの存在を知ることになっても、これだけは諦められなかった。
失いたく、なかった。
その結果が身の程知らずな猿が抱く、儚い願いの消失なのだと分かりきっていてさえ。
だから自分はこれが、この殺し合いが現実だと受け入れたくないのかもしれない。虚構であればいいと考えたのかもしれない。
大好きなひとを失うかもしれないという事実の重さ。最終的には理樹も助からないという結末に耐え切れないからこうしている。
現実なのかと疑う要素はいくらでもあるのに。所詮は頭の中で考え出した推論にしか過ぎないはずなのに。
それでも自分は、理樹を好きなんだという気持ちひとつが唯湖の胸を締め上げ、窒息させようとする。
だから自分はこれが、この殺し合いが現実だと受け入れたくないのかもしれない。虚構であればいいと考えたのかもしれない。
大好きなひとを失うかもしれないという事実の重さ。最終的には理樹も助からないという結末に耐え切れないからこうしている。
現実なのかと疑う要素はいくらでもあるのに。所詮は頭の中で考え出した推論にしか過ぎないはずなのに。
それでも自分は、理樹を好きなんだという気持ちひとつが唯湖の胸を締め上げ、窒息させようとする。
初めて知ったものだったからだ。
こんなにも悲しく、こんなにも切なく、こんなにも嬉しく、こんなにも楽しいという『気持ち』を知れた。
それは何よりも得がたく、何よりも貴重で……たったひとつしかないものだ。
今も覚えている。クッキーを美味しいと言ってくれたこと。耳掃除をしたこと。後ろから抱きすくめたこと。
徐々に忘れていってしまっていたはずの思い出が鮮明に思い出せる。この一事だけは唯湖を喜ばせていた。
気恥ずかしく、それでいて身体全部が温かくなって熱が染み込んでいく感覚。
こんなにも悲しく、こんなにも切なく、こんなにも嬉しく、こんなにも楽しいという『気持ち』を知れた。
それは何よりも得がたく、何よりも貴重で……たったひとつしかないものだ。
今も覚えている。クッキーを美味しいと言ってくれたこと。耳掃除をしたこと。後ろから抱きすくめたこと。
徐々に忘れていってしまっていたはずの思い出が鮮明に思い出せる。この一事だけは唯湖を喜ばせていた。
気恥ずかしく、それでいて身体全部が温かくなって熱が染み込んでいく感覚。
だからこそ自分は、由真に対してあのように、いつものように振る舞えたのだろう。
現実に対処できる機械としての来ヶ谷唯湖ではなく、ひとの温かさ、愛情が己を支えてくれている来ヶ谷唯湖として。
だが一方で、先に思ったように壊れている来ヶ谷唯湖がまだ己の内にあるのも自覚している。
諦めきって、知ることすら忘れてしまった自分が厳然として存在している。
現実に対処できる機械としての来ヶ谷唯湖ではなく、ひとの温かさ、愛情が己を支えてくれている来ヶ谷唯湖として。
だが一方で、先に思ったように壊れている来ヶ谷唯湖がまだ己の内にあるのも自覚している。
諦めきって、知ることすら忘れてしまった自分が厳然として存在している。
……故に、迷っている。中途半端でしかない自分がどうすべきなのか迷っている。
こんな自分が、果たして感情を持ち続けていられるのか。動くだけの機械に成り果て、気持ちの在り処さえ忘れてしまうのではないか。そんな不安があった。
こんな自分が、果たして感情を持ち続けていられるのか。動くだけの機械に成り果て、気持ちの在り処さえ忘れてしまうのではないか。そんな不安があった。
ああ、全く、全部理樹君のせいだ。とんでもないことをしてくれたよ、君は。
空を見上げ、恐らくは同じ景色を眺めているであろう理樹の姿を思い描き、唯湖は自らの抱く迷いの責任の一切を押し付けた。
理樹という存在がいるから、殺人にも踏み切れない。彼が望んでいないのは簡単に想像できるから。
理樹という存在がいるから、見ている世界を信じられない。彼と絶望したくないから。
理樹という存在がいるから、見ている世界を信じられない。彼と絶望したくないから。
案外自分はわがままなのだなと新しい発見を得ながら、やはり隣に理樹がいないと寂しいな、と唯湖は思った。
結局は全部彼に集約するということか。それくらい好きで、大好きなのだろう、自分は。
結局は全部彼に集約するということか。それくらい好きで、大好きなのだろう、自分は。
「届く、かな」
空にも月はある。てのひらに納まるサイズだというのに、その存在は果てなく遠い。
けれども距離は分かっている。約38万キロ。それだけの長さの向こうに、空に浮かぶ月はあって、届くのだ。
湖に浮かぶ、決して手に入れることの出来ない月などではなく。
けれども距離は分かっている。約38万キロ。それだけの長さの向こうに、空に浮かぶ月はあって、届くのだ。
湖に浮かぶ、決して手に入れることの出来ない月などではなく。
とにかく、今確かに言えることは……寒い、ということだ。
よくよく状況を観察してみれば夜で、ずぶ濡れだ。水も滴るいい女というところか。世の中の男性諸君が自分を見つけたならば鼻息も荒く興奮して獣の如く襲い掛かってくるだろう。あながち冗談でもない。先の十波由真のように錯乱し攻撃意思を高めている人間もいれば、或いはこれを夢だと断じて疑わず己の欲望の赴くままに誰彼構わず、という人間もいるかもしれない。まさか、自分のように壊れている人間などそうはいないだろう。
よくよく状況を観察してみれば夜で、ずぶ濡れだ。水も滴るいい女というところか。世の中の男性諸君が自分を見つけたならば鼻息も荒く興奮して獣の如く襲い掛かってくるだろう。あながち冗談でもない。先の十波由真のように錯乱し攻撃意思を高めている人間もいれば、或いはこれを夢だと断じて疑わず己の欲望の赴くままに誰彼構わず、という人間もいるかもしれない。まさか、自分のように壊れている人間などそうはいないだろう。
しかもおねーさんはぼいんぼいんだ。良からぬ考えを持たれるかもしれないな。
もっともそこら辺の連中に遅れを取るとも思えないが、参加者は何がしかの武器・道具を持たされている。
拳銃ならともかく、マシンガンやバズーカなんてものが出てきたりしたら流石に一筋縄ではいかないだろうと唯湖は予測を立てておく。
大体、一瞬のうちに自分をこんな場所まで連れてきた奴らの手の内だ。どんなビックリドッキリがあっても不思議ではない。その事実が唯湖に「これは現実ではないのでは」と思わせる一因でもあったのだが。
拳銃ならともかく、マシンガンやバズーカなんてものが出てきたりしたら流石に一筋縄ではいかないだろうと唯湖は予測を立てておく。
大体、一瞬のうちに自分をこんな場所まで連れてきた奴らの手の内だ。どんなビックリドッキリがあっても不思議ではない。その事実が唯湖に「これは現実ではないのでは」と思わせる一因でもあったのだが。
要するに一言でまとめれば『油断禁物』というところだろう。
先程油断して銃で撃たれた人間の言う台詞ではないなと嘆息を腹の底に飲み下しつつ、何はともあれ着替えたほうがいいだろうと唯湖は思った。
これが現実だろうがそうでなかろうが、自分が寒いと感じていることに変わりはないのだから。
先程油断して銃で撃たれた人間の言う台詞ではないなと嘆息を腹の底に飲み下しつつ、何はともあれ着替えたほうがいいだろうと唯湖は思った。
これが現実だろうがそうでなかろうが、自分が寒いと感じていることに変わりはないのだから。
「失礼仕る」
さてどんな服を着ようかと考え始めたとき、後ろの方からやたらと時代錯誤な言い回しが聞こえてきた。
どう反応しようかと一瞬考え、とりあえず思った通りに言葉を返してみる。
どう反応しようかと一瞬考え、とりあえず思った通りに言葉を返してみる。
「何用だ」
「……貴女は、そこで何をされておられるのか?」
「ふむ、人にものを尋ねるならば、まずは己が名と何を為そうとしているのかを申すべきであろう」
「……貴女は、そこで何をされておられるのか?」
「ふむ、人にものを尋ねるならば、まずは己が名と何を為そうとしているのかを申すべきであろう」
声を詰まらせ、押し黙る様子が伝わってくる。とりあえず言葉は通じるらしく、錯乱している風でもないようだ。自分から情報を引き出すために今は攻撃してこない、ということなのかもしれないが。
この言い回しは単に時代劇マニアなのか、それとも相手に威圧感を与えるための方便か。
何にせよ下手なことは言うまいと唯湖は思う。油断は禁物――
この言い回しは単に時代劇マニアなのか、それとも相手に威圧感を与えるための方便か。
何にせよ下手なことは言うまいと唯湖は思う。油断は禁物――
と、そこで唯湖は自分がまた後手に回っていることに気付いた。そもそも後ろを取られ、話しかけられていることが油断している証ではないか。
頭の底が僅かに重くなり、これも理樹のせいだと思うことにした。
おねーさん的には立場は逆であるはずなのに……この始末、どうしてくれようかな。
僕のせいじゃないよね!? という突っ込みが聞こえてきそうなのに苦笑したくなるのを抑えつつ、唯湖は平静を装って相手の言葉を待った。
頭の底が僅かに重くなり、これも理樹のせいだと思うことにした。
おねーさん的には立場は逆であるはずなのに……この始末、どうしてくれようかな。
僕のせいじゃないよね!? という突っ込みが聞こえてきそうなのに苦笑したくなるのを抑えつつ、唯湖は平静を装って相手の言葉を待った。
「……それもそうだ。無礼を許していただきたい」
「うむ苦しゅうない。素直な者は余の好みであるぞ」
「うむ苦しゅうない。素直な者は余の好みであるぞ」
何だかだんだんと板についてきたような感触だ。これが襖越しの会話であればまさに時代劇だろう。調子に乗らない程度に今の状況を楽しんでいる。不謹慎なのかなと思いながらも、楽という衝動を押し留める術はなかった。
「某の名はトウカと申す。生はエヴェンクルガにして、今はトゥスクル國の武人として身を置いている次第。して貴女にお聞きしたいのは」
「ちょっと待て。どこだその国は。というか武人だと? ふざけるのもいい加減にしろファッキンボーイ」
「ふ、ふざけているだと!? ぶぶ無礼な! 我が國を侮辱するは我が誇りを侮辱するも同じぞ! しかも口調が急に変わった!」
「ちょっと待て。どこだその国は。というか武人だと? ふざけるのもいい加減にしろファッキンボーイ」
「ふ、ふざけているだと!? ぶぶ無礼な! 我が國を侮辱するは我が誇りを侮辱するも同じぞ! しかも口調が急に変わった!」
先程までの空気はどこへやら。形容しがたい言葉の数々に思わず素で返してしまった唯湖に、これまた堅い空気はどこへやらの口調で返してくる相手。時代劇ごっこは早くも終末の予感となったのを残念に思いながら、唯湖は思いつく限りのことを述べる。
「いいか聞け。今の時代に、世界地図のどこを見渡してもとぅすくるなどという国は存在せん。大体貴様の話しているのは日本語ではないか。日本国内に新しく独立国が建てられたなど聞いたこともないぞ。というかありえん。ああもう取り合えず日本史を学ぶべきだぞ貴様は。こんな馬鹿に出会ったのは真人君と謙吾君以来だ」
「に、ニホン? え、ええい何をゴチャゴチャと訳の分からぬことを! しかも某を馬鹿と言ったか馬鹿と! 貴様がどの國の者か知らぬがこのように気の触れた者を許しておくわけにはいかぬ! 成敗してくれる!」
「ぬ、やる気か」
「に、ニホン? え、ええい何をゴチャゴチャと訳の分からぬことを! しかも某を馬鹿と言ったか馬鹿と! 貴様がどの國の者か知らぬがこのように気の触れた者を許しておくわけにはいかぬ! 成敗してくれる!」
「ぬ、やる気か」
頭上から何かを振り下ろす気配が聞こえ、椅子から立ち上がりざまに真剣白刃取りを敢行する。唯湖からすればこんな時代劇かぶれの馬鹿が本物の真剣を振り下ろしてきたところで受け止められる自信はあった。実際額から後数センチというところで唯湖は相手の一撃を受け止めていた。
が、相手の姿と振り下ろしていた武器は予想の斜め上をいっていた。それは相手も同じだったらしく、お互いに目をしばたかせる。
が、相手の姿と振り下ろしていた武器は予想の斜め上をいっていた。それは相手も同じだったらしく、お互いに目をしばたかせる。
「なんだ貴様の武器は。モップではないか。というか耳がおかしいぞ、横につける付け耳なぞ初めて見た」
「そ、それはこちらの台詞だ! 変な服の上に聖上と同じ耳だと……!? しかも某の剣がこのように容易く……!」
「いや、モップだからな」
「そ、それはこちらの台詞だ! 変な服の上に聖上と同じ耳だと……!? しかも某の剣がこのように容易く……!」
「いや、モップだからな」
自分はこんな突っ込みキャラだっただろうかと唯湖は内心嘆息しながら、わなわなと屈辱に震えている獣耳人間へと目を走らせる。
やはり異様なのは結い上げた長髪から飛び出している、鳥の翼のような形状の耳らしきもの。しかも相手の挙動に合わせるかのようにぴょこぴょこと動き、まるで本当に体の一部かと思わせるほど自然さが滲み出ている。
服装にしてもそうだ。上に羽織っているコートはともかく、下の衣装は今の日本では到底お目にかかれないような珍しい服だ。中国の服にも似ているが、似ているだけで細部などはむしろ日本のものに近い。
やはり異様なのは結い上げた長髪から飛び出している、鳥の翼のような形状の耳らしきもの。しかも相手の挙動に合わせるかのようにぴょこぴょこと動き、まるで本当に体の一部かと思わせるほど自然さが滲み出ている。
服装にしてもそうだ。上に羽織っているコートはともかく、下の衣装は今の日本では到底お目にかかれないような珍しい服だ。中国の服にも似ているが、似ているだけで細部などはむしろ日本のものに近い。
総括すれば、こいつはどこの生物だ、という疑問しか浮かばない。
日本語を喋っているくせに着ているものから姿かたちまで日本人のものとはまるで異なる。というより、獣耳人間など世界中のどこを見渡したっているわけがない。それに相手は自分の耳が珍しいものだというように言っていた。これも唯湖からすれば、いや普通の人間からすればおかしいはずなのだ。人間の耳は、人間の耳でしかないはずだというのに。
エヴェンクルガだのトゥスクルだの聞き覚えのない地名に関してもそうだ。それに相手も日本を知らない様子だった。
日本語を喋っているくせに着ているものから姿かたちまで日本人のものとはまるで異なる。というより、獣耳人間など世界中のどこを見渡したっているわけがない。それに相手は自分の耳が珍しいものだというように言っていた。これも唯湖からすれば、いや普通の人間からすればおかしいはずなのだ。人間の耳は、人間の耳でしかないはずだというのに。
エヴェンクルガだのトゥスクルだの聞き覚えのない地名に関してもそうだ。それに相手も日本を知らない様子だった。
……異星人とでもいうのか?
井ノ原真人あたりが思いつきそうな考えに辿り着いてしまったことに、微妙に不快感を覚える。一体何だというのだここは。自分はエイリアンに連れてこられた被験体で、戦争シミュレーションの実験でもさせられているとでもいうのか。
確証はないくせに妙に説得力のある推論に、唯湖はひたすらため息をつきたくなるばかりだった。
確証はないくせに妙に説得力のある推論に、唯湖はひたすらため息をつきたくなるばかりだった。
「……取り合えず、君と私の間には知識の食い違いというものがあるようだ。ひとまずはお互いに冷静になって、そこに腰掛けてゆるりと話し合わないか」
「む……わ、分かった。後姿だったので気付かなかったが、貴女の姿はまるで見たことの無いものだし、な」
「む……わ、分かった。後姿だったので気付かなかったが、貴女の姿はまるで見たことの無いものだし、な」
モップを白刃取りしている間に相手も似たようなことを考えていたらしく、存外あっさりと武器を下ろしてくれた。
言葉が通じるのもエイリアンの改造のお陰……また真人あたりが考えそうなことを思いつき、唯湖は自らの中の歯車がバラバラに砕けていく感覚を味わっていた。このままでは自分も馬鹿になってしまう。
言葉が通じるのもエイリアンの改造のお陰……また真人あたりが考えそうなことを思いつき、唯湖は自らの中の歯車がバラバラに砕けていく感覚を味わっていた。このままでは自分も馬鹿になってしまう。
理樹君、どうしたらいいのかな、本当に……
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