稲荷崎「先生、時間跳躍のメンバーでわからん人選があるんやけど…この西園寺桃胡って子、どうしても連れてかんとあかんの?」
先生「あぁ、稲荷崎が天王寺くんを連れていきたいように、私も西園寺くんは過去に連れていって欲しいんだ、彼女の目は計画に必要でね…何があろうと殺さないようにしてくれたまえ」
稲荷崎「…ウチにそれ言いますか、まぁわかりました、ちなみに目ってなんです?」
先生「ライフストリームというエネルギー理論がある、根上淳が発表しなかった論文だから一般的に誰も知らないものだが…西園寺くんはこの論文にあるライフストリームを見える人間と同じ景色を見ていると聞いていてね…」
稲荷崎「はぁ……それって、難しい話なん?なら今他のことが忙しいから今度にしてもらって良いです?とりあえずその目が必要ってことは理解したんで」
先生「あぁ、別に知らなくて良い話だ…知りたくなったら聞いてくれたまえ」
──というやり取りがあった一ヶ月後の話である。
西園寺「稲荷崎…貴方と私、立場に違いは無い筈なのですが何故私にそんなにも上から命令しておられるので?」
稲荷崎「そんな怖い顔しないでや桃胡はん、一応ウチは今回の作戦で指揮執る役なんやし従ってもらわんと」
西園寺「……何故貴方だけそんなにも特別扱いされているのか、以前から疑問でしたの…実力だと言うのなら、どちらが上かはっきりさせておきましょうか」
険悪な空気の流れる中、西園寺の手に白鳥の形をしたアニマギアが飛び込むのをただ眺め、それでどうするのかと言わんばかりに首を傾げる稲荷崎の前で、西園寺はそれをドライバーに噛ませて変身してみせる。
稲荷崎「で──二人がかりでやる時点でウチの方が強いって認めとるようなもんやろ?」
と、目の前で変身してみせて気を引いた隙にと背後から迫った白鳥のアニマノイドの攻撃を片手で押しのけ、掴んだ頭部を振りまわして投げながら余裕ぶってみせる稲荷崎に驚愕の声を漏らしながらも即座に攻撃を行う西園寺──
稲荷崎「はい、おしまい…二人がかりでその程度、ウチに変身さえさせられんのが君らの実力や……幹部辞めたら?その程度で居座られると他の人が可哀想になるわ…それに、ウチに歯向かうってことは裏切るってことや…そんなら殺されても文句言えんわなぁ」
西園寺「紗枝っ!?」
戦闘は5分も掛からず決着が着いた、生身で無傷という稲荷崎の足下には腹を踏みつけられ立ち上がれない西園寺と片手で首を掴まれて宙吊りにされるアニマノイドの姿があり、そんな二人を嘲笑うかのように軽く言ってはアニマノイドを放り捨て足を退かせば、投げ捨てられたアニマノイドへと駆け寄ろうとするその背中に生えた純白の翼へと手を伸ばしてはその付け根を掴み引き摺り倒す。
稲荷崎「桃胡はんは殺すな言われとるんよ…だから、君は大丈夫や、君は殺さん、殺せへん…けど、他は何しても良いらしいから──」
ブチブチ、バチバチ、嫌な音を響かせながら剥がされていく翼と装甲、それはスーツさえも巻き込んではその背に滲む赤は雫となり、張り付いたスーツと共に皮膚も剥がれているのだろう、西園寺の口からは絶叫が溢れ、稲荷崎はそれを一息に引き剥がせば西園寺の左の肩甲骨から右の脇腹までの皮膚が剥がれ酷い傷痕を作る。
稲荷崎「死なん程度に制裁や、それに、紗枝はんは殺しても良いからなぁ…安堵したらダメやろ?"自分は生き残れるから"って親友が殺されるのに安堵するなんて最低やな、君は」
痛みにもがき苦しみ、まともに声も出せぬまま涙で歪んだ顔を稲荷崎へと向けては首を左右に振り否定の意思を見せるも、稲荷崎の手は止まらない──
稲荷崎「大丈夫やって、アニマノイドは倒されても肉体の欠損は修復されるんやから……あーあ、ビスケットみたいやね、少し強く握ったら──ほら、取れてもうた」
ドサッと、西園寺の前へと放られたそれは紛れもないアニマノイドの腕、そしてそれはケラケラと笑いながら四肢を千切りながら西園寺の前へと歩み寄り手足を無くした白鳥を地面に落として西園寺の顔をのぞき込むように顔を寄せる。
稲荷崎「今回はアニマノイドだから死なんけど、桃胡はんが次逆らうようなら、これと同じことを生身のこの子にやるわ、だから逆らったらあかんで?次逆らうと本当に壊れてまうから」
そう言いながら、西園寺の目の前にアニマノイドを引きずってはその首を引き抜くように投げ捨てれば遂にアニマギアが排出されて変身者である少女が地面に投げ出される。
それを背にして歩き去る稲荷崎の笑い声が、未だに西園寺桃胡の夢に出てくるのである──
それを背にして歩き去る稲荷崎の笑い声が、未だに西園寺桃胡の夢に出てくるのである──
西園寺「稲荷崎…私は、貴方を許さない…この本を解放軍へと渡せば……!!」
薄着一枚でベッドから起き上がったその背中には痛々しい傷痕が残り、片翼を失ったスワンギアと本が置かれた机に手を伸ばし、本を胸に抱き稲荷崎への反逆を未だに諦めない気高い瞳の内に、本人が自覚しない恐怖の色が見えていた。