055

エンブリヲの後の静けさ ◆BEQBTq4Ltk


「だーっ! 次から次へと何なんだよ!!」

波乱に次ぐ波乱、怒りが溜まるしかない。
エドワードは思う、いったい何が起きているんだ、と。
気付けば殺し合いに参加させられ感度を引き上げられた。
全く以て理解出来ない、したくない現実が連続で引き起こっている。


「ぐだぐだ言ってんじゃないわよ」

「あ!?」


火に油を注いでも火事が酷くなるだけである。
アンジュは近くで騒ぐエドワードに冷たい言葉を投げた。
反射的に反応する彼だがここで騒いでも良いことはない。
冷静になればアンジュと呼ばれていたこの女はあの変態と知り合いみたいだった。
怒りを抑え情報を集めることにする。


「アンジュって言ったか。俺はエドワード・エルリックだ。
 単刀直入に聞くけどあのエンブリヲって野郎はなんなんだよ」

「……自分で考えればいいじゃない」

「は?」

「そもそもあんな変態のことを話したいと思う?」


御尤もな発言ではある。
あの変態と知り合いだと他人には思われたくないだろう。
しかし。


「お前、状況を考えろ! そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ! リンって子も攫われたんたぞ!」

「まぁ、そうね」

「そうねって……おい!」

「何よ、私は凛と出会って一日も経過してないのよ。それがどうしたの?」


エドワードから見ればアンジュとリンは知り合いに見えた。
他人から見れば一緒に行動している連中が元の仲間か違うかなどの区別はつかない。
言えることは行動を共にしているならば志は同じ、ぐらいだろう。

その仲間が攫われているのにアンジュは冷静だった。
冷静を通り越して我関せず、と謂わんばかりの冷たさである。
エンブリヲとは因縁がありそうに感じたがまるで腫れ物に触るように。

関わりたくないのだろうか。
人が攫われても、傷付いても。
このアンジュという女は気にせずに振舞っているのか。


「……気に喰わねえ。けど、状況が状況ってのも解る。お前はリンを助けるのか助けないのかどっちか教えてくれ」


怒号は飛ばない、飛ばさない。
人間誰しも他人の為に総てを投げ出せるほど勇敢でも無ければ馬鹿でも無い。
この裸の女が言っていることもエドワードは解ってしまう、人間ならば。

極端に言えば関われば己が危険に晒されるだけである。
黙って何処かに隠れ誰かが広川を倒すのを待てばいい。自分が汚れる必要は無い。
責任を背負う必要も無ければ正義の味方に為る義務も存在しない。

人間らしさを求めればこの状況は無視した方が安全である。
人を裸にさせ感度を引き上げ分身やワープが出来る変態と関わりたい物好きは中々存在しないだろう。
アンジュの反応は正しい、エドワードも理解している。


「助ける義理はないわね。捕まった凛が悪い」


決まりだ。
エドワードはその言葉を聞いて、返す。


「そうか。解ったよ。責めはしねえ、けど――」


最低だぜアンタ。
その言葉を言い切る前にアンジュは歩き出していた。


「私はあの変態――エンブリヲをもう一度殺す。何度だって殺してやるわ。そこに凛が居れば解放されるんじゃない?」


顔は見せずに。
表情は伺えないがその台詞には自信が込められている。
舞台で言えば決め台詞のような。己の証となるような一言。

アンジュという存在は人間らしい。
人型らしく選択が出来る、判断が出来る、覚悟が出来る、人を殺せる。

人間は他人の目を気にしてしまい自分を取り繕うとしてしまう。
己を空に閉じ込め体裁を整え周りの評価を下げない偽りの道化師と成り果てる。
だが、アンジュという女。
クソ喰らえと謂わんばかりに自我を貫き通せる強気女也。


「コイツ……最初からそう――うぶっ!?」


「このコートまだ借りるから」


エドワードの顔面にペットボトルを投げるとアンジュはコートの件を伝える。
脱げば裸、借りたままにしておくしか社会のルールを守れない。
最もこの会場で倫理が通るとは思えないが。


顔を赤くしながらペットボトルを仕舞い込むエドワード。
何はともあれアンジュが思ったよりもマシな女で助かったと安堵。
どうも自分の周りに居る女は強烈な粒揃いだと苦笑いが溢れてしまう。
苦笑いが零れるという謎の表現がしたく為るほど顔が引き攣ってしまう。

アンジュに戦う理由があれば自分も黙っている訳にはいかない。
エンブリヲには何発もぶち込まなきゃ気が済まない。
やるなら最後まで徹底的に潰さなければ怒りは収まらないだろう。


「私はこのまま南下するからアンタはどっか別の場所に行って」

「上から過ぎんだろ……俺は一人待たせてる奴がいるからソイツを回収してから探してみる」


此処まで自己中心的な性格だといっそ清々しい。
勿論最悪なことに変わりはない。不快と言えば不快ではある。

だが仲間と認める……かどうかは別として。
エドワードとアンジュはエンブリヲを潰す仲間のような関係だ。
彼女の提案を断る理由もなく、何処に行ったか解らない変態を探すには別れた方が効率的だろう。
エドは前川みくを一人にしているため彼女を迎えに行く必要が在った。

戦闘能力を持たない一般的な少女である。
エンブリヲとの交戦に加わればお荷物になるのは確実だ。
だが置いていけない。一人に出来ない。

エドは一人残される悲しみを知っている。
此処で彼がアンジュと共にエンブリヲを追ってしまえば前川みくは独人になる。
その悲しみを彼女に背負わせることを彼は絶対にしない。

「それじゃ、死ぬんじゃねぇぞ。俺もすぐに追いつくから無理はすんな」

背中を向けて腕を振るエド。
アンジュならそのまま背中を撃ち抜く可能性もあるが流石に此処で発砲はしない。
数分の関係だろうが人が死ぬのは辛い、出来るなら体験したくないものである。
彼の口から零れる言葉は皮肉ではなく心の底から出てくる真理の言葉であった。

彼の言葉にアンジュは少し笑みを零しながら答えた。

「自分の心配もしなさいよ……小さいんだから」

殺し合いに似合わない怒号が飛ぶ。
これから始まるであろう悲劇に似合わない――悲劇は既に始まっているのかもしれない。

だがエドとアンジュはこの瞬間だけ表情が緩んでいた。
強さの証拠なのだろうか。強がりではないと思うが。

エンブリヲを潰すために両者、道は違えど歩き出す。

凛を――救いに。


【G-5/1日目/黎明】


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、コートなし
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×3~1、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内) @魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1~0
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1:温泉でみくと合流したあとエンブリヲを探し潰す。
2:大佐の奴をさがす。
3:前川みくの知り合いを探してやる。
4:エンブリヲ、ホムンクルスを警戒。
5:アンジュは味方……?
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。



【アンジュ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、全裸コート
[装備]:S&W M29(3/6)@現実
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾54@現実 トカレフTT-33(6/8)@現実 
トカレフTT-33の予備マガジン×4 不明支給品0~1
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1:エンブリヲを殺す。凛を救う、ついでに。
2:モモカやタスク達を探す。
3:エンブリヲを警戒。
4:エドワードは味方……?
[備考]
※登場時期は最終回エンブリヲを倒した直後辺り。


時系列順で読む
Back: Next:隠者と、魔法少女と、風紀委員と

投下順で読む
Back:殺戮者の晩餐 Next:すれ違い

033:神の発情 アンジュ 066:敵意の大地に種を蒔く
エドワード・エルリック 072:鋼vs電撃vs世界
最終更新:2015年12月10日 00:03