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黒交じりて、禍津は眠る ◆dKv6nbYMB.




黒はカジノへと着くなり、建物中を探し回った。
しかし、何者かが使用した痕跡はあったものの、収穫はなにもなし。
改めて、周囲の探索を始めようとしたその時。

「!?」

突如、轟音が鳴り響く。
音のした方角へと目を向ければ、煙が立ち昇っており、なにか大規模な戦闘があったことを察する。

(銀...!)

あの場に銀がいるかどうかはわからない。
しかし、黒は脇目も振らず感情に従い走りだす。
彼女を護る。ただそれだけのために。

その道中で。

「...!」

彼は見つけた。
腕の中で、息絶えた少年―――戸塚彩加の死体を。

(戸塚...)

彼の遺体は、野ざらしにされていた。
あの場に残ったタツミは、彼の埋葬をしなかったようだ。
しかし、そのことを責めるつもりはない。
あの場は皆、手一杯だった。
キリトの背中を押すためあの場を引き受けたタツミも、見るからに疲労困憊だった。
仕方のないことだ。戸塚を埋葬する余裕はなかったのだろう。
しかし、こうして彼の遺体を見つけた以上、放っておくわけにはいかない。
だから、黒は。


「首輪は貰っていく―――すまない、戸塚」


音ノ木坂学院の海未たちのように埋葬してやりたいとは思う。
しかし、銀をいち早く保護しなければならない現状、彼を埋葬している暇も惜しい。
なにより、戸塚自身が望まないだろう。
自分を殺した少女を許し、最期まで他者を想って逝った男だ。
自分に構う暇があったらみんなを守れと頼むだろう。
だから、黒は躊躇わない。
遺体を近くの建物へと運び、床に寝かせる。
そして、友切包丁で戸塚の首を落とし、首輪を回収した。


(全てが終わったら埋葬してやる...だから、しばらく待っていろ)

部屋を出る直前に、黒は誰にも知られぬ約束を交わす。

―――みんなを、いりやちゃん、を『助けて』

彼の仲間の一人、由比ヶ浜結衣は二回目の放送でその死が確認できた。
イリヤもまた、三人を、特にクロエを殺した重圧に耐え切れず被害を広げるつもりなら、それ相応の対処をしなければならない。
戸塚との約束はほとんど破れかけている。これ以上も守れる保証はない。

だが、それでも。いや、だからこそ。
新たな―――それも、死者に対しての約束を交わさずにはいられなかったのは。
そんな非合理的な行為をしなければならなかったのは。

それが黒(ヘイ)という人間だからだろう。


戸塚を安置した建物を後にし、再び走りだす。
黒は振り返らない。ただ、前を見て進む。
仲間であり相棒でもある最愛の彼女を護るために。
交わした約束を守るために。




その背中を押すように。



ふわり、と彼の頬を優しく風が撫でた気がしたのは。


―――がんばって


きっと、気のせいではないだろう。




「はぁっ...くそっ」

ふらふらと覚束ない足取りで、足立は進む。
彼の目的地はジュネス。
ヒルダの話では、里中千枝がそこを訪れている手筈らしい。
それに、『あいつ』もわかりやすい目印としてここを訪れる可能性も高い。
一度は保身のために避けてしまったが、奴らを殺すと決めたからにはもう躊躇う必要はない。
例え優勝が無理だとしても。奴らを殺さずにはいられない。

いまの足立を支えているのは憎しみ。
こんなクソのようなゲームを開き、クソのような待遇ばかり押し付けてくる広川。
高慢ちきな態度を取り、足立がこうして苦しんでいる要因の大半を占めるエスデス
クソみたいなイチャモンつけて殺しにかかってきたエンヴィーにキチガイモンスター後藤。
そして、下らない友情ごっこで正義を振りかざし、自分を否定してくるクソガキ共。

彼らを破壊しつくさねば、足立の負の感情は収まることは決してない。

(負けてたまるかよ...俺が、あんなクソどもに...!)

今すぐにでも楽になりたい。
しかし、ここで膝を折れば、自分は奴らに敗北したことになる。
認めてたまるものか。
そんなこと、決して...!

足立の怒りがピークに達しようとしたその時だ。


『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』


放送の声が鳴り響く。

相も変わらず対して感情の込めない喋り方に苛立ちを憶えながらも、生き残るために耳を傾ける。
その際、首輪交換機がどうとか言っていたが、結局首輪を手に入れてない自分には関係ない。


『さて、そろそろ陽が沈むころになると思うが、夜はなにかと危険が多い』

(あー...そういや、DIOが吸血鬼とか言ってたっけ)

DIO。エスデスが目的とし、あの承太郎やアヴドゥルが最も警戒していた男。
日光に弱いようだが、太陽が沈めば弱点はなくなってしまう。
一時期はどうにか懐に入り込めないかと思っていたが、この有り様ではかなり厳しい。
良くて都合の良い時の盾。最悪その場で餌にされるのがオチだ。
できれば会いたくはないものだ。

(禁止エリアは...どこも関係ねえな)

次いで禁止エリアとして示された場所はH-6、B-4、E-8。
どれも、足立からは程遠い。
対して気に掛けることもない。


次いで、広川は死亡者の名を告げる。



(やっぱ死んでたか。ハッ、ざまぁみろってんだ)
一番最初に呼ばれたのはあの少女。
あの執念深さに魔法少女という不死身性。万が一でも生き残っていたら嫌だと思っていたが、トドメを刺す手間が省けた。



「!」
次いで呼ばれたのはあの男の名前。
足立を散々に痛めつけた上に、これまでの苦悩のキッカケとなった張本人。
放っておけば死ぬだろうとは思っていたが、あの傷が開いたのか、それとも何者かに襲われたのか...
どちらにせよ、かなり厄介な奴が消えてくれたのはありがたい。


「は、はは...」
思わず頬が緩む。
ほむらや承太郎と同じく、これから足立をしつこく追い回してくるであろうと予想していた女が消えた。
これで三人。とりわけ厄介な奴らが消えてくれたことには喜びしか浮かんでこない。

『里中千枝』

「――――ッハハハハハ!!」

呼ばれた四人目。
厄介だと思っていた奴らが四人も消えた事実に、足立は笑いを止められなかった。
ラッキーだ。ここにきて、やっとツキが廻ってきた。
ピークに達そうとしていた怒りもだいぶ収まった。

(なあ、どんな気分だよ鳴上ィ。大事なお友達が全員死んで、それでもお前は正義ヅラしてられるか、あぁ?)

なによりも『絆』という甘い戯言を信じたがっていたやつだ。
それはそれは悲しむことだろう。
見てみたい。あいつがいま、どんな不様な姿を晒しているのかを。

「まあ、なんにせよ出会ったら殺すのは確定だけどなぁ。その次はてめえだ、エスデスちゃんよぉ」

エスデス。現状、トップ3に入るほどに足立が憎んでいる女傑だ。
こんな状況を作りあげたキッカケは承太郎ではあるが、更に逃げ場を無くしたのは間違いなく彼女である。
おまけに、まどかはともかくアヴドゥル殺害の罪まで着せられた。なんで三人で行動していたのにあの人だけ死んだのか、こっちが聞きたいくらいだ。
湧き上がってくるエスデスへの怒りを唾と共に吐き捨てる。

「俺より若いくせにイバり散らしやがってクソ女が。なぁにが『まどかとアヴドゥルを殺したのはお前だ』だよ。てめえの無能を棚に上げて俺に押し付けやがって」

よくよく考えれば、だ。
エスデスがアヴドゥルとヒースクリフを連れて遠征に出向き、承太郎とまどかをコンサートホールに残したのが全ての発端だ。
遠征に行きたいなら勝手に一人でいけばよかったし、あの二人さえ残っていればまどかは花京院を殺さずにすんだ。
そうすれば、コンサートホールで死人は出ずに平和に終わっていたはずだ。
だが、二人を連れていったせいでまどかは錯乱して花京院を殺し、承太郎はまどかを殺そうとした。
足立がまどかを殺さずとも、彼女は近い内にあの頑固な承太郎に殺されていたことだろう。
挙句の果てに連れて行ったアヴドゥルまで死なせている。
あの時の口ぶりから、アヴドゥルとは別行動をとっていたようだが、これはもう人材の配置ミスとしか思えない。
だから俺は悪くない。悪いのはエスデスだ。

「身体だけのクソ女が...てめえなんざ、抱く気も起きねえや。見つけ次第ブッ殺してやる」

いくら身体が良くても、生意気なガキ(雪乃)以上に性格に問題のある女では、性欲などどうでもよくなってしまう。

(そうだ...俺は勝ってるんだ。あのゾンビ共にも、承太郎にも。後藤やエンヴィーにだって負けてはいねえ)

なにより、いまの足立には自信が湧き出ていた。
あれだけの猛者と戦い、それでも勝ち残っているという自信が。

「敗者はあいつらで勝者は俺...やれる。殺ってやるよ」

そうだ。エスデスも後藤もDIOもエンヴィーもアカメ達も『アイツ』も。
みんな、みんなぶち殺してやる。
それが終わったら最後にてめえも殺してやるよ、クソ主催者。
内心でそう吐き捨て、足立は再びジュネスへの歩みを進める。
いまの彼は、それなりに上機嫌だった。

上機嫌になって『しまった』。


「あ...?」


突如、脚の、いや全身の力が抜け、がくりと崩れ落ちてしまう。

「な、なんだよ、急に」

それだけではない。
頭痛に吐き気、更には眠気までもが急激に足立を襲う。

(なんだよコレ...なんだよコレ!?)

足立は気づいていない。
一時的に痛みや疲労が和らいでいたのは、その身に刻み込まれたダメージが消えたわけではない。
屈辱から生まれたアドレナリンや後藤に追い込まれ生じた憎しみや怒りのお蔭である。
それらが足立を支えていたからこそ、彼は休憩も無しにここまで歩くことができた。
しかし、彼は放送を聞き、安堵し、自信をつけてしまった。
そのため、彼を支えていたモノは薄まり和らげていた痛みや疲労もぶり返してしまったのだ。

(ふざけんな、こんなところで倒れたら...!)

いまの足立に味方はいない。
それどころか、彼を敵だと認識している人間は多い。
こんなところで気を失えばいいカモだ。

(チク、しょう、がぁ...)

しかし悲しいかな。
本人の意思に反して、傷ついた身体は言う事を聞いてはくれない。
重くなる目蓋に耐え切れず、足立は意識を手放した。


「なんだこれは...」

『嫉妬』が去った後のジュネスで、黒は奇妙なものを見つけた。
氷漬けの異形。
下半身は魚のようで、上半身は鎧に包まれた『人魚の騎士』とでもいうべきものだろうか。
これがなんなのかはわからないが、その禍々しさは氷越しでも伝わってきた。

(これが生きているかどうかはわからないが...言葉が通じるとは思えないな)

氷はかなり頑丈に出来ていた。
ならばわざわざこれを破壊し解放するべきではないだろう。
それを直感した黒は、その場を離れる。

(もし、これに銀が関わっていたら...やはり、地獄門へ向かっているだろうな)

ジュネスを後にし、北へと向かう黒。

それから数刻後のことだった。


北部で雷鳴が轟いた。
その威力は凄まじいもので、少なくとも三、四エリア分は離れているであろうこの場所でも視認することができた。

(雷...まさか)

あれほどの電撃を出せる心当たりは二つ。
黒子の言っていたサリア御坂美琴だ。
サリアもそうだが、御坂もまた殺し合いに乗っている可能性が高いと黒子から聞かされている。
もし、そんな彼女たちが銀と遭遇すれば...

(銀!)

黒は焦っていた。
地獄門でヒースクリフと出会ってから誰とも出会っていない。
こうしている間にも銀は戦っているかもしれないのに。
こうしている間にも彼女は苦しんでいるのかもしれないのに。
その焦りが、彼を愚直に動かした。

とにかく、いまは情報が欲しかった。

銀はアレには巻き込まれておらず、無事であるという証拠が。

―――ここで彼の不運となったのは、同じF-6エリア内に銀を連れているタツミもいたこと。
雷を無視し、念入りに探し回れば合流することができたのだが、彼がそれを知る由はない。

『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』


響いてきた広川の放送に足を止め、耳を傾ける。
首輪交換機が不調だったとか形式的な挨拶が続くがそんなことはどうでもいい。

次いで示された禁止エリア。
どこもいまの自分には特に問題はない。


そして、最後に告げられる死亡者。
果たして、その中に銀の名前は―――なかった。

ふぅ、と一息をつき、これからの方針を考える。


黒は、この数時間だれとも出会えていない。
銀を探そうにもほとんど手がかりもない状況だ。
そのせいで、他の参加者に比べて情報面で遅れをとっている。
やはりなによりも情報が欲しい。
ならば、あの電撃のあった場所...あれだけの量の電撃ならば既に戦闘は終わっているだろうが、あそこを目指すのがいいかもしれない。
もしこの付近で銀とすれ違っていたとしても、彼女も地獄門を目指しているはず。
うまくいけば合流できるかもしれない。
そんな僅かな期待を込めて、黒は電撃のあった場所へと北上する。

どれほど進んだだろうか。

やがて、黒は路傍に倒れ伏す黒スーツの男を発見する。
警戒心を最大限に、友切包丁を構え、ゆっくりと男に近づく。

「...お前の名前はなんだ」

声をかけてみるが、全く反応がない。
死んでいるのか、と思い、脈を測ってみる。
弱弱しいが、確かに脈は動いており、呼吸もしている。
どうやら気絶しているようだ。
デイパックは見当たらないが、なにかないかと懐を弄ってみると、警察手帳と妙な名簿を発見。
警察手帳から判明したが、名前は足立透というらしい。
もう一つの名簿は...どうやら、殺人を侵したものが記載されているようだ。
とはいえ、その人数は20人をゆうに超えており、その大半は黒と戦っている、既に死亡している、黒子たちから聞いた者たちである。
今さらこの名簿で危険人物かどうかを確定することもないだろう。
そのため、黒にとってもはやこの名簿にはほとんど価値が無いと言ってもいい。
黒は、警察手帳と名簿を足立の懐に戻した。


(助ける義理はないが...)

助ける義理は本当にない。
戸塚の知り合いにも黒子や穂乃果の知り合いにもこんな男がいるとは聞いていないし、勿論、黒自身も見覚えのない男だ。
しかし、いまはとにかく情報が欲しい。倒れている方角から見て、この男なら北部であった電撃についてなにか知っているかもしれない。
もちろん、尋問は目を覚ましてからとなるが。


「さて、どこを探すか...」

足立をデイパックに収納しながら黒は考える。

結局、この数時間で見つけられたのは氷漬けの人魚と半死人の男だけ。
収穫らしい収穫はなにもない。

一番確実性があるのは地獄門で待つことだが、危険人物はまだ多い。
未だ生存しているらしい後藤に魏志軍
調律者を自称するエンブリヲ
黒子たちから聞かされた御坂美琴とエンヴィーという変幻自在のホムンクルス。
そして、殺しあいに乗るかも知れないイリヤ。

自分が呑気に待っている間に銀が襲われる可能性は十分に高い。

(運が良ければ黒子たちと合流している可能性もあるが...)

南を探索していた際には誰とも会わなかったが、入れ違いになっている可能性もある。
大人しく学院に残っていればいいが、銀が黒子たちから黒のことを伝えられれば彼女も地獄門を目指し、再び入れ違いになる可能性もある。

可能性、可能性、可能性...

結局のところ、情報が足りない現状では、いくら悩んだところで可能性は確信には変わらない。
どう行動するにせよ、黒は決めなければならないのだ。

地獄門で待つか。
音ノ木坂学院へ向かうか。
再び南下して求め人を探すか。

禍津の混じった黒の選択肢は―――



【F-3/一日目/夜】



【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(極大)、爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血、気絶、デイパックの中
[装備]:なし
[道具]ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する。(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:皆殺し。
1:特に鳴上は必ず殺す。優先順位は鳴上>エスデス>後藤>その他。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。




【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2、
首輪×2(美遊・エーデルフェルト、戸塚彩加)
[道具]:基本支給品、ディパック×1、不明支給品1(婚后光子に支給)、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:これから向かう場所を考える。
1:銀や戸塚の知り合いを探す。銀優先。
2:後藤、槙島、エンブリヲを警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:二年後の銀に対する不安
5:雪ノ下雪乃とも合流しておく。
6:足立の目が覚めたら尋問する。

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。
※黒がジュネスへ訪れたのは、エンヴィーが去ってから魏志軍が戻ってくるまでの間です。


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164:交差 足立透 181:白交じりて、禍津は目覚める
141:銀を求めた黒は赤と会う
最終更新:2016年04月03日 23:19