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紙魚 [shimi] - (2008/01/02 (水) 00:52:08) の1つ前との変更点
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**紙魚 [shimi] ◆P2vcbk2T1w
私は
たぶん、今目覺めた。
此處は、何處だらう。
私は何をしてゐるのだらう。
私は生暖かい液體に浸ってゐる。
私は目を閉ぢてゐるのだらうか。
目を開けてゐるのだらうか。
暗い。
そして靜かだ。
私は躰を丸くして、液體に浸ってゐる。
聲が聞こえる。
何を怒ってゐるのだらう。
いや、悲しんでゐるのだらうか。
私の気持ちは、とても安らかである。
私は親指を握り締めてゐる。
私の臟は外に開いてゐる。
私の臟は何処に繋がってゐるのか、
どうも少し、
寒いやうだ。
私は
目覺めてゐるのだらうか。
「母樣」
(京極夏彦「姑獲鳥の夏」冒頭より。一部漢字改変)
@ @ @ @ @ @ @
俺は躊躇することなく跳んだ。
相手が誰であれ、その戦術がどうであれ、自分の戦法は変わらない。
近接格闘からの一撃必殺。基本的にはそれが全てだ。
だが、その一手で過不足は無い。
それで全ての事が足りるよう、十二分に鍛錬は積んでいる。
だが、女も黙って死を受け入れるつもりは無いようだ。
俺が跳ぶのとほぼ同時に回避運動を開始する。
女は、滑らかな動作で後方の壁へとバックステップを……
いや、違う。
そう見紛うのも無理は無い。だが、移動したのは彼女の体ではなかった。
動いたのは、壁だ。
女の後方の壁が、女に向かって迫って来ていたのだ。
それが、まるで女が動いたかのような錯覚を俺に抱かせていたのだ。
そして、俺がそうと気付いた次の瞬間には、
女の体は、迫り来る白い壁に飲み込まれていた。
そう、まるで液体に沈み込むように、女の体は壁の中に染み込んでいった。
光源の無い薄暗い部屋には、俺独りが残される。
いつの間にか、先ほどの男の死体も消えていた。
運び去ったのは、奴の能力だろう。
こういった場合に、先ずとるべき行動は一つ。
「チッ……」
舌打ち。一種の逃避的精神運動である。
逃げられた……か?
静寂が、その場に降りて来た。
此処は、何処かの入浴施設内……の筈である。
俺――名前などどうでも良い――は、再度この場所に舞い戻って来た。
目的はただ一つ。
他者の殺害だ。
当初の目論見――否、予感通り、この場には一人の人間が残っていた。
だから、攻撃に転じた。ただそれだけだ。
だが、不覚にもその姿は、既に俺の目の届かない場所に隠れてしまっていた。
そこで、改めて周囲の状況を窺う。
あくまで慎重に、注意深く。まだ戦闘が終わった訳では無い。
前を、左右を、後ろを、上下を、素早く見渡した。
白い。
白い壁が、文字通り四方を囲んでいる。
薄暗い光源は、おそらく日光が紙を透けているのだろう。
だが、しっかりと眼で見る限り、その白い壁以外には、何もない。
この室内……いや、この白い匣には、それ自身を提議する白壁以外の一切が欠如していた。
明かりも、家具も、そして、出口さえも。
そう、この室内は密室。ネズミ一匹入り込む余地さえ見当たらない。
俺は、この白い室内に、完全に密封されてしまっていた。
先ほどまでは何の変哲も無い民家の一室だったこの場所も、今や異様な空間へと変質してしまっていた。
一瞬の間にこれだけの物を作り出すその能力は、確かに脅威ではある。
そのスピードと前動作の無さは、これまでに見えた錬金術師達の中でも抜きん出ている。
だが、ただそれだけだ。
鋼の錬金術師も、この程度の練成ならば瞬時にやってのけていた。
しかし。
解せない。
これは、一体どういう意図なのだろうか?
あの女は何を企んでいるのだろうか?
何も無い密室に閉じ込める……だけなのか?
さしずめ、自分をこの密室に幽閉し、これ以上凶行を重ねることを阻止したい……と言ったところだろうか?
だが、もしそうなのだとしたら、生ぬるい事この上ない。
この期に及んで、自らの手を汚すことを拒むような輩であるならば。
その楽観が、当たっていれば良かったのだが。
突如として、足元が揺らぐ。
いや、足元だけではない。この白い匣全体が揺れている。
そして、眼前の床が浅く盛り上がったかと思うと――
「ちぃッ!!」
次の瞬間には、獣の爪を思わせる鋭利な棘が、眼前に聳え立っていた。
すんでのところでそれを躱したものの、今度は左方の壁から新たな棘が伸びる。
さらに、前後の壁から、地面から、天井から、
突き出した無数の棘が、文字通り俺に牙を剥く……!
改めて認識する。
ここは、魔女の胎の中。
俺は、既に飲み込まれ、胃袋の中で消化を待つだけの存在でしか無いのだと。
全方位から、絶え間なく襲い来る攻撃。
恐らく、奴はこちらの位置や動きを把握してはいまい。
だが、そんなことは無関係と言わんばかりに、
残酷な斬撃が、部屋中を所狭しと、雨霰の如く降り注ぐ。
しかも、だ。
こちらの逃げ場を無くさんとばかりに、
徐々に、だが確実に、
部屋が狭くなってきているという事実に気付いてしまった。
――あの女、見かけによらずに陰湿な……
口元に浮かんだ笑みは、余裕の表れでは決して無い。
寧ろ、その逆だろう。
だが、無慈悲な刃は、躊躇無く獲物へと迫り来る。
その殺意のうねりに、一切の死角は無い。
@ @ @ @ @ @ @
襲撃者を閉じ込めた白い匣を前にして、
読子・リードマンは、険しい表情のまま、直立していた。
怒り、激情、そういったシンプルな感情が読子の中を渦巻いている。
だがその一方で、彼我の戦力を正確に分析し、それを冷静な判断のもとに戦法にフィードバックできている。
そう読子は自負していた。
思えば、余りにも予想外の出来事が、息つく間も無く次から次へと起こっていた。
突然見覚えの無い場所に運ばれ、
謎の男ロージェノム率いる組織の統べる町で、
その圧制に健気にに立ち向かう少年少女と出会い、
そしてその勢力を脅かす謎の催眠術師少年が現れ、
更には新たな殺人者が乱入してきて……
正に風雲急の展開だ。
現実は小説より奇なり、とは良く言ったものである。
だが、読子は慌てない。
自分はこれでも、この道のプロ。
それらにキチンと対応し、事態の解決の為の最善の策を打つのだ――
そう、読子は考えていた。
そして眼前の白い匣が、その判断の結果である。
男の攻撃を数回見ただけだったが、読子は確信していた。
あの男は、手から何かしらの衝撃波とか発剄とか破壊光線とかかめ○め波とか……
そういった、謎の攻撃手段を繰り出す事が出来るのだ。
攻撃時にバチバチ光ってたので、都合上「シャイニングフィンガー」とでも名付けておこう。
そのSF(=シャイニングフィンガー)の効果によって、
温泉は破壊され、紙は破られ、マスクマンの命は奪われたのだ。
だが、これまでを見る限り、あの攻撃は射程が短い。
これは勘なのだが、多分あれは直接触らないとダメージを与えられないような攻撃なのだろう。
ならば、自ずと対応法も見えてくる。
相手の手の届かない場所から、相手が捌き切れない量の攻撃を浴びせれば、彼に対応する術は無い。
つまりは、既に自身の勝利が決まっているのだと読子は考えている訳だ。
あの男の体捌きはたしかに凄い。
でも、それだって常識の範囲内だ。分身したり、変わり身の術が出来るわけではない。
閉鎖空間に閉じ込めて、全方位からの攻撃を受ければ、無傷でいられる訳が無い。
もしSFでどうにかしようとしたって無駄だ。
読子の紙の強度は、言っちゃあ何だが折り紙付きだ。
少しぐらい穴が開いたって、直ぐに塞いでしまえば良い。
そして、その間も攻撃が止む訳では無い。そもそも、攻撃するだけの余裕が有るのかどうか。
さらに、念には念を入れ、匣を小さくして逃げ場を無くす。
これで、磐石のはず。
後はあの男が力尽きるのを待つばかり……
どうもこの所勘が冴えている。
勝因は、冷静な“洞察力”だな。
それは、読子がそう考えた矢先だった。
朱い稲光が、白い紙の向うで瞬いた。
それも、今までよりも遥かに大きく、眩く。
「な、何!? で、でもちょっとぐらいの反撃ぐらいじゃ……!」
そう。ちょっとぐらい壁が綻んだ程度では、あの匣の中から逃れられはしないはず。
ちょっとぐらいの穴ならば……
読子の眼前の白壁に、僅かな焦げ目が、穴が穿いた。
それが見えた次の瞬間には、
その穴から四方に延びた光が、
紙の壁を、
砕き、
千切り、
焼き、
溶かし、
灰燼その物へと変えていった。
「そ、そんな!? あれだけの紙が一瞬で!?!? い、一体どうやって……!?」
その光景は、読子の理解を超えていた。
鉄壁の紙壁が、一瞬で瓦解した。
あの包囲網は完璧だった筈だ。
なのに何故?
あの男に、ここまでの破壊力を持った攻撃手段が有ったのか?
それならば、何故今まで使わずに?
実は、コレが命と引き換えの、最後の一撃だったとか……?
そんな楽観を一蹴するが如く、
立ち込めた紙塵の向うに、薄っすらと影が揺らめく。
自らの血に濡れた巨体。
その紅い目が、こちらを睨む。
やばい……!
満身創痍だなんてとんでもない!
あの男はまだ――殺る気だ!!
男が跳ぶ。
まるでスローモーションのように、その動きがゆっくりと見えた。
でも、私を取り巻く空気は重く、粘着質で、私の体に纏わり付く。
咄嗟に、懐にしまっておいたメモ用紙を投げつける。
刃物同様の高度を持ったそれらの紙片はしかし、男の勢いを削ぐのには不十分だ。
狙いの甘い紙のナイフ達は、男の体を掠っただけで、男の後方へと飛散する。
後が無い。
温存とか、そういうことを気にしている場合では無いと気付く。
今、この一瞬を逃れなければ、その後などもう、無い。
無我夢中に残りの紙束すべてを掴むと、それを男に向かって投げつける。
それらは、先ほどの匣の壁とは比べ物にならない分厚さの防壁へと姿を変える。
「くどいッ!」
だが、それらも男の手によって、一瞬の内に霧散してしまう。
この壁をも物ともしないなんて、やはり何かしらのトリックの種がある筈だ。
だが、その種明かしは後回し。
今は、距離をとることだけを考える。
今の紙壁は、もう十分に役割を果たしたのだから。
「ぐッ!?」
予期せぬ痛みに、男の声が漏れる。
その脚には、一枚の紙――否、一本の剣が刺さっている。
それは、先ほど男の脚を抉ったものと同じ場所。
そう、今の紙壁はただのフェイク。目隠しだ。
紙壁で目を眩ませて、脚を奪う。
これで、私が逃げる隙が――――
「ぐぉぉぉぉおおおおおおおッッッ!!!」
「う、嘘……っ!?」
私の甘い考えを吹き飛ばす咆哮が空気を震撼させた。
深々と開いた脚の傷穴から鮮血を迸らせながら、
それでも男は止まらなかった。
もう、距離が無い。
迎撃しようにもネタ切れだ。
死神の右腕が、私の顔へと伸びてくる。
ガクン
だが、その手は私の鼻先数cmで止まる。
男の膝が崩れている。
流石に気力だけでは、もう立っているのもやっとなのだろう。
助かった……?
そのまま、その右手は私の胸元をかすめる。
このまま、逃げられ……る……?
そして、延び切った右手が、僅かに私の腹部に触れた。
「ぱしん」と、静電気が走る音がする。
一呼吸置いて、「ぷちゅっ」と、ビニール袋が破れたような音がした。
ブックドラフト。
自宅で度々襲われたような、大量の本の、雪崩のような崩壊。
それを彷彿とさせる勢いで、黄色い物が、滑り出した。
小腸だ。
私……の……?
「え? ええ? これ、え? どう、ちょ、ちょっと、えっ?」
思ったよりも小さな穴から、だらりと腸管が伸びている。
私のお腹から。
不思議と、痛みは無い。
でも、ただ、灼ける様に、熱い。
「そ、そんな、え? ま、戻って、待って、ああ、えっと」
零れ落ちた腸を、お腹の中に戻さないといけないと思った。
でも、つるりと滑り出した私の腸は、戻そうとしてもなかなか上手く戻らない。
それでも何とか戻そうともがく私を、男が静かに見下ろしていた。
「無駄な足掻きをしなければ静かに逝けたものを……
過ちを悔いろ。紙の魔女よ」
過ち? 何の? 私が何を間違えたって?
私は間違ってなんか……
「紙を鋼に練成しているのかとも思ったが、そうでもない。
あくまで『紙』という属性を保ったまま、その性質を変化させる術……
これが錬金術の類かどうか、終に確証は持てなかったが……
万物の理に反する術、野放しにするには捨て置けん」
男が血の滴る脚を引きずりながら、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
「あの紙箱は悪手だ。
すべての紙を『一つ』に連続させてしまったのだから。
小さく纏まりつつあるその一塊の紙の分解、容易いことだ。」
ぼそり、ぼそりと、独り言とも、語りかけとも付かない言葉が聞えてくる。
この男の人は何を言っているのだろう。
分解? 悪手?
「特定の物質に偏重した戦法、組み易し。
それで尚向かってくるとは、私の力を読み誤ったか。
冷静に観察すれば看破できそうなものを……予断が過ぎたな」
……それって、つまりは。
私の……判断ミスって……こと?
男の手が、私の額を優しく撫でる。
「神に祈る時間をやろう」
え? 祈る? 何を?
神様? 紙? え?
何……?
目の前が赤く染まる。
@ @ @ @ @ @
薄暗い部屋の中に一人、私は横たわっていた。
自分から流れ出た血と体液に浸りながら、
それでも尚、私の中から、色々な物が流れ出すのを感じていた。
私は思う。
あの男の人は、何をあんなに怒っていたのだろうか。
それとも、悲しんでいたのだろうか。
スパイクさん達は無事だろうか。
ねねね先生はどうしているだろうか。
私はこのまま死ぬんだろうか。
ああ、死ぬんだろうなあ。
そんなことを、まるで他人事の様に考えていた。
こういう時には、走馬灯が巡るものなのだろうか。
でも私の場合、巡って行くのは、私の人生ではなくて、
私がこれまでに読んできた、数多の本の内容だった。
好きだったあの本。
何度も読んだあの本。
ああ、そういえばあんな本もあったな。
あれ、あの本の結末はどうだったっけ?
そして、気付く。
思い出せない。
あの話の結末を、あのストーリーを、あの登場人物の名前を。
私が貪欲に貪った数々の大切なものが、血や体液と一緒に流れ出てしまう。
ああ、だめだ。流れていかないで。
止めて。
誰か、私が散乱してしまうのを止めて。
どうか、私を。
願わくば、私という物語をどうか、繋ぎ止めて。
私を書き留めて。
このまま流れて消えてしまうのは嫌だ。
誰か……お願い、誰か……
私を、連れて行って。
物語の中に……
ああ、そういえば、こんなシチュエーションの物語が有ったような気もする。
何ていうタイトルだったっけ?
私の台詞は、なんだっけ?
&color(red){【読子・リードマン@R.O.D(シリーズ) 死亡 】}
【H-6/温泉施設/一日目/日中】
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷、右太腿に刺し傷(要治療)
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式@読子(メモは無い)、飛行石@天空の城ラピュタ、不明支給品(0~2個)
[思考]
基本:参加者全員の皆殺し、元の世界に戻って国家錬金術師の殲滅
1:傷の手当及び休息
[備考]:
※会場端のワープを認識しました。
※糸色、読子の死体は温泉施設内に放置されています。
*時系列順で読む
Back:[[蒼き槍兵と青い軍服の狙撃士]] Next:[[ ]]
*投下順で読む
Back:[[蒼き槍兵と青い軍服の狙撃士]] Next:[[喜劇踊る人形は閉幕の音を聞く]]
|171:[[絶望の器]]|スカー(傷の男)| |
|171:[[絶望の器]]|&color(red){読子・リードマン}| |
**喜劇踊る人形は閉幕の音を聞く ◆Wf0eUCE.vg
「ぶはっ……! はぁ……はぁ……はぁ」
水音が響き、水中から片腕のない女が飛び出した。
ビチャビチャと赤の混じった水滴を垂らしながら、地面の色を滲ませていく。
女が流れ着いたそこは、あらゆるものに不要とされ、廃棄されたモノたちの墓場だった。
立ち並ぶゴミの山を見て彼女は、自分が流された位置を瞬時に把握した。
地図は失われてしまったけれどなんの問題もない。
地図はすでに頭の中にある。
そこいらの馬鹿と一緒にしてもらっては困る。
意識を失っていたせいか、少し流されすぎてしまった感もあるが問題ない。
誤差の範囲内だ。
それはコレだけに限った話ではない。
ここに来てから行ってきた事、多少の誤差はあるが全て彼女の計算どおり。
片腕を失ったのも、
泣き叫び逃げ出したのも、
見っともないほど震えていたのも。
すべては作戦の一環だといえるだろう。
問題はない。
何一つ、問題はない。
さあ、次の戦いのための準備をはじめよう。
全てにおいて抜かりはない。
彼女は策士。
すべては一分の狂いも無く彼女の計算通り。
これまでも、これからも。
そう、すべては、彼女の手のひらから零れ落ちた事など一度もありはしないのだから。
■
それとほぼ同刻。
博物館では、食事を取り終えた結城奈緒とギルガメッシュの二人は次の移動先について話し合っていた。
といっても、食事を取ったのは結城奈緒一人だけなのだが。
ギルガメッシュは支給された食料を一口かじるなり、食えたものではないとほっぽり投げた。
英霊にとって食事とは別段とってもとらなくてもいいものだ、という話なので奈緒もそのまま放っておいた。
「で、次はどこに行くの?
一番近いのはゴミ処分場だけど」
地図を広げながら奈緒が、現在地である博物館とゴミ処理場を交互に指差す。
「ならばそこだな」
「え、いいの?」
予想以上にあっさりと頷くギルガメッシュに思わず奈緒は突っ込んでしまった。
「なんだ、何を驚いている?」
「いや、てっきりアンタのことだから、ゴミ処理場なんて嫌だ、とか言い出すと思ってたけど」
「何を言うか、なにせ近いのだぞ?
近いならそこしかあるまい。ああ。何せ近いのだ」
うむうむ。と自分の言葉に一人頷くギルガメッシュ。
「いや、そこまで近いを押されても。
まあ、アンタがいいってんならいいけどね」
釈然としないものを抱えながら奈緒は荷物を片付け、出発の準備を整えた。
■
「ふん。薄汚いところだな」
立ち並ぶゴミの山の中において、それはまったくの異物として存在していた。
否。彼が異物なのではない。
彼に溶け込めぬ、この世界こそが異物なのだ。
そう思わせるほどの絶対的な存在感を持ってして、その黄金の王は存在していた。
「―――む」
唐突に、悠然とゴミの山を行くギルガメッシュの歩が止まった。
何を見つけたのか。
その端整な顔が見る見るうちに怒りに歪んでいく。
ギルガメッシュの様子に気づいた奈緒は、恐る恐るその視線の先を追った。
そこには地面を這いずる女がいた。
だが一瞬、奈緒はその存在に気づくことができなかった。
なぜなら、完全に景色から浮いているギルガメッシュとは対照的に、その女完全に周囲に溶け込んでいたからだ。
それほどにボロボロだった、
ともすれば女自体が破棄されたゴミのようだ。
全身から水滴をボタボタとたらしながら、衣服は泥と血に汚れ、なにか大事なパーツが欠けている。
その片腕のない女は、こちらの存在に気づいてないのか。地面を這いずり何かを必死に集めていた、
その女の失われた腕から垣間見えるのは、肉と骨ばかりではなかった。
断面から顔を出すのはバチバチと火花散らす鉄片とケーブル。
それは人間ではない。
人間に似た何かだ。
それを見た奈緒の脳裏に一つの名が思い浮かぶ。
―――深優・グリーア
シアーズ財団によって生み出されたHimeの紛い物。
だが、その戦闘能力はHimeをも凌駕するという。
あれが、そうだとするならば、チャイルドのない今の結城奈緒に、勝ち目などありはしない。
無意識に後ずさった奈緒とは対照的に、ギルガメッシュは何の躊躇もなく前に踏み出た。
「そこな雑種、王の御前ぞ? そのままでは無礼であろう、面を上げよ」
逆らうことを許さない、絶対的な声。
半ば反射的に、地を舐める女、クアットロは視線を上げた。
クアットロが見上げた先に見えたのは、目もくらむほど眩い金色の光。
「あまりのみすぼらしさ故。犬か何かだと思ったが、その手の内にある輝き、見間違いようもない。
それは貴様のような雑種が手にするもおこがましい、至高の財であるぞ?」
そして、黄金の光から漏れ出す、どうしようもないほど濃厚な殺意だった。
その黄金の騎士から発せられる殺意は、クアットロがこれまでに知ったものとは明らかに別物だった。
炎の錬金術師ロイ・マスタングから発せられた燃えるような赤い殺意でもなく。
湖の騎士シャマルから発せられた氷つくような蒼い殺意でもない。
初めて知る。
本当の殺意とは、ここまでドス黒いものなのか。
だがクアットロにはわからない。
いや、ここは殺し合いの舞台だ、当然と言えば当然なのだが。
かつての世界での因縁の宿敵からむけられるのならわかる。
実験体として利用された男が向けてくるのならわかる。
だが、この黄金の騎士から何故ここまで私怨の篭った殺意をぶつけられなければならないのか?
その疑問も当然である。
よもや、これ程の殺意が己が所有物を奪われたなどという子供じみた理由から生まれ出ているなどと、誰が想像できようか?
だが当の英雄王はまったくの本気である。
下賎の者がその穢れた手で英雄王の財に触れるなど、あってはならないことだ。
まして、それが王の知らぬうちに持ち出されたものとあっては、それはもはや万死に値する大罪である。
罪人に与えられる赦しは死しかない。
それは螺旋王の定めたルールに沿ったものではなく、英雄王が決め、英雄王が敷いた、英雄王の法に従うものだ。
何人たりともその法から逃れる事は許されない。
「だから返せ――――それは、我のだ」
かくして常人には理解しかねる沸点を持って英雄王の怒りは爆発した。
放つ怒気に空気すら脅えたように震えていた。
理由がわからずとも敵意は明確すぎるほど明確。
クアットロは迎え撃つほかない。
そこに問題は何一つ存在しない。
戦いの準備は万端。
策はあり、全ては彼女の思うがまま。
ならば、恐れることはない。
如何に目の前の男が強力であろうとも、怖くなんかない。
そう、怖くなんかない。
怖くなんかない、のだ。
「行ッけえぇ―――ッ!!」
全てを振り切るような声と共に、それは展開された。
気付けば、捻じ曲がった幾つもの空間が、ギルガメッシュを取り囲んでいた。
戦闘機人クアットロの最大限の魔力を以って、一瞬にして開門された扉の数――――三十二。
前後左右上下斜。
死角など存在しようもない。
開くと同時に、その全ての扉から弾丸が放たれた。
それは大小様々な石の弾丸だった。
撃ちつくした弾丸の補充のため、地を舐めながらクアットロがかき集めていたモノがこれだった。
ここはゴミの山。
集めるのに苦労はなかった。
いや、このためにワザワザゴミ処理場まで流されたと言ってもいい。
片腕を失い傷ついた姿に油断した相手を、死角なき全方位射撃で一瞬で殲滅する。
そう、すべてはクァットロの作戦通り。
一分の狂いもなく、一片の誤差もない。
これまでも、これからも。
すべては、彼女の手のひらから零れ落ちる事など一度もないのだから。
機関銃のように絶え間なく降り注ぐ石の雨は、面白いように黄金の騎士を直撃してゆく。
石飛礫とはいえ、弾丸の速度で弾き出されれば、もはやそれは立派な凶器である
その凶器の豪雨に騎士は動くことも出来ず、ただその場で頭部を守るのが精一杯だった。
打ち込むたびに、けたたましいまでの音を立てて砂埃が上がる。
砂埃が一面を覆い隠してもなお、弾丸は止まらない。
なにせ、ありったけを詰め込んだのだ。
この程度で途切れるはずがない。
勝った。
どれほどの時間をかけただろう。
全ての弾丸を撃ちつくしたクアットロは勝利を確信した。
勝利という美酒の味が彼女の心に染み渡る。
アレほど恐ろしい威圧感を放っていた男に自分は勝ったのだ。
その事実に、思わず笑いが零れてしまう。
「あははははははは、は、は……は…………は?」
疑問符を交えながら、笑い声が止まる。
何故止まったか、などと聞くのは酷というものだろう。
それは、ここにいた彼女以外の二人には、わかりきった結末だったのだから。
「――――ふん。呆れさせてくれる。
最上の財を以って行うのがこのような砂利遊びか。
まったく、度し難い愚かさだな、油臭いこの廃棄人形(ジャンク)め」
砂利に埋もれた煙が晴れる。
立っていたのは何一つ穢れのない黄金の輝き。
先ほどの砲撃に対して、ギルガメッシュは動けなかったのではない。
ただ、動く必要がなかっただけだ。
宝具の一撃すら退けるこの黄金の鎧を前に、道端に転がる石ころなど通用するはずも無い。
だが、今クァットロにとって問題なのは、何故生きているのかなんて些細なことではない。
問題なのは、目の前の黄金の騎士から滲み出るこれ以上ないと言えるほどドス黒く禍々しい、殺すという意志。
その濃度は先ほどまでの非ではない。
ギルガメッシュから膨れ上がり、空気に溶ける殺意はもはや飽和状態だ。
ギルガメッシュの後方に立っている奈緒ですら、全身が泡立つ程の寒気に吐き気を催しているのだ。
真正面からその殺意を一身に浴びるクァットロの心はどうなっているかなど、想像に難くない。
その光景、殺意を見て、結城奈緒は確信した。
ここまできては、もはや戦いのための制限のクソも無い。
断言しよう。
なんなら賭けてもいい。
ここから先に行われるのは、ただただ一方的な虐殺だ。
「ぁ―――――っ」
その全て飲み込む嵐のような殺意は、あっという間にクアットロを喰らい尽くした。
全てを塗りつぶすような殺意を前に、最初に心が死んだ。
もはや声すら出ない。
空気すら殺意に塗りつぶされてしまったのか、彼女は苦しそうに空気を求めて魚みたにパクパクと口を動かしている。
針でも突き出しているのではないかと疑うほどの痛みをともないながら、泡立つ肌。
見っともないほど全身が震え視界が歪み、引きずられるように意識も歪む。
それは恐怖によるものだった。
恐怖が脳を侵し、すべての認識を歪めてゆく。
彼女の世界が、歪んでゆく。
自分が立っているのか、座っているのか。
自分が何処にいるのか、誰なのか。
自分が生きているのか、死んでいるのか。
もはや、そんな事すらわからない。
だが、それも仕方あるまい。
彼女はここにきて初めて殺意というものに触れたのだ。
それは、生まれたての赤子が、飢えた肉食獣の前に放り出されたようなものだろう。
抵抗などしようもない。
いや、肉食獣ならまだましだ。
目の前にいるのは肉食獣よりも恐ましく、残忍で、強力で、絶望的な死の塊だった。
もはや戦略もなにも無い。
ここにあるのは、死、だけだ。
死しかないこんな場所には、一秒たりとも居たくはなかった。
だから逃げた。
彼女は全てを放り投げて、脱兎のように駆け出した。
「たわけ。王の所有物をぞんざいに扱うな。
まったく、モノの使い方を知らぬ奴だ。仕方あるまい、」
気だるげにそう言って、逃げるクアットロを追うでもなく、ギルガメッシュはクアットロが放り投げた鍵剣を拾い上げる。
そして、握り締めた鍵剣を、どこかの鍵を開けるように捻って、
「―――――王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」
その真命を開放した。
ギルガメッシュの後方の空間が捻じ曲がる。
そこから顔を出すの人間大はあろうかと言う黒い大剣。
その切っ先は真っ直ぐに逃走するクアットロの背を見つめていた。
「知らぬものに教えを説くもまた先人の勤めよな。
よいか。これは――――こう使うのだ」
パチンと言う音。
それが合図だった。
夜闇のように刻い黒が虚空を奔る。
それは漆黒の魔弾だった。
弾丸の勢いで放たれる魔弾の名を巳六という。
それは、チャイルドを用いずオーヴァンやHimeを屠りさる美袋命のエレメント、一騎当千の宝剣である。
それをまるで小石を放り投げるぞんざいさで放り投げるなど、尋常では考えられぬ暴挙である。
背後に迫り来る死の砲弾。
それは戦闘機人としての意地か、はたまた実力か。
クアットロは咄嗟に飛び退き身をかわした。
標的を見失った弾丸は地面を直撃し、かつてない程の大打撃を受けた大地は一瞬で塵芥へと化す。
思い切り飛びのいたクアットロは着地もままならず、地面に付す。
そして、すぐさま起き上がろうとして、違和感に気づいた。
確かに躱わした。
ほんの少しだけ、掠めただけだ。
そう、掠めただけ。
直撃はしていない、のに。
何故、右半身が存在しないのだろうか?
見れば、肩口から右腕は消滅し、右脚は太股の辺りから先が遥か後方に吹き飛ばされていた。
「ァァァアアアアアっ!
無い、無い無い無い、腕が、あっ、あ、あっ、脚がァ」
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
認識して、痛みが来た。
ただひたすらに痛い。
気が狂うようほど痛い。
理性も飛ぶほどの痛みを前に、計算通りだなどと強がる余裕はもはや存在しない。
クアットロは血と肉と鉄片を撒き散らしながら、存在し無い両腕をばたつかせ、片足で踊るようにのた打ち狂う。
それは壊れた操り人形で綴る人形劇のようだ。
「―――――クッ、ハハハハッハハハハハハッハ!
なんだその滑稽さは!? 我を笑い殺すつもりか!?
そんな姿でもまだ生きているとは、なるほど、この人形は丈夫さだけは一級品と言うわけか!」
弾けるような哄笑が轟く。
血溜まりに沈む破壊と惨劇の跡で、ただ一人黄金の王は嘲っていた。
壊れた人形が踊るその舞台を、心の底から滑稽だと。
喜劇でも見るかのように、心の底から嘲っていた。
「なかなかよいぞ廃棄人形。その調子でこの我を興じさせよ。
さて、どこまで死なぬか試してみようか。次は左足といくか」
加虐的な笑み。
いつの間に回収せしめたのか。
後方の捻じ曲がった空間から顔を出した漆黒の魔弾が、今か今かと主の命を待っていた。
「いや……ぁ。いや、いやいやいやいやいや。
やめてやめてやめてやめてやめて、やめてッ!」
女の懇願もまったく意に介さず、指鳴りの音が響く。
歪む空間から放たれるは、やはり漆黒の魔弾。
今度は狙い済ましたように唯一残った左足を吹き飛ばす。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアァァァアア!!
ぁっぁああ、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いィィイイイ!!」
両手両足をもがれ、それでも足掻き続けるの女の姿は芋虫みたいだ。
それでもクアットロが死ねないのは、戦闘機人として人間より丈夫に設計されてしまった故か。
痛みも死なず、ただ地獄の苦しみの中のた打ち回っていた。
「ハア―――ッハッハッハハハハハハハハハハハハハハハハ!
まだ死なぬか!? まだ生きるか!?
さあ、次はどこを吹き飛ばす? 腹か? 胸か? それとも首か!?」
もはや堪えきれぬとばかりに、腹を抱えて笑い転げる。
息も絶え絶えに、本当に笑い死にするのではないかと言う勢いで英雄王は狂ったように笑っていた。
香るは油と血の匂い。
響くは絶叫と笑い声。
相反する二つが交じり合うその場は地獄だった。
混ざり合った声はもはやどちらのモノともわからない。
ただ一つ、両方狂ってるということだけが確かな事実だった。
「ぅアァゥウウアアアアッアッアアァァ!!」
人とも獣ともつかない唸り声を上げて、クアットロが飛んだ。
死力をかけて飛び出したその速度は、それこそ矢のようだった。
加えて、銀の衣が彼女を包み、その姿を一瞬で覆い隠した。
彼女は最後の魔力と正気に火を灯して逃走のために全力を注いだのだ。
手足がなくとも、彼女には魔法がある。
飛行能力は失われてはいない。ISもまだ生きている。
ならば、シルバーカーテンにより周囲と同化し、全力で飛行しこの場を離脱する他ない。
かくして離脱は成功した。
地面で笑い転げている黄金の騎士は間に合わない。
間に合ったところで、姿を消した相手を正確に狙い撃つことなど出来はしない。
もはや彼女を止めるものなど存在しない。
晴れ晴れしいまでの開放感の中、クアットロは空を行く。
最後の最後に、彼女が一度投げ出してしまった彼女の策が、金色の悪魔から彼女を救ったのだ。
だが、止めるもののないはずのクアットロの動きがピタリと止まった。
彼女の意思ではない。
何か、よくわからないものによって強制的に止められたのだ。
誰も見えない姿のまま、空中で静止する。
進もうにも進めない。
戻ろうにも戻れない。
何かが体中に絡まって、その場から前にも後ろにも動けない。
「―――残・念。つかまえた」
妖艶な声。
そこには蜘蛛がいた。
蜘蛛の指から伸びる糸。
それは、結城奈緒がエレメントによって生み出した糸の結界だった、
注意深く見れば、投網のように隙間なく張り巡らされた細い線は周囲一帯に広がっていた。
戦いが始まった時点で、結城奈緒には結果など端から見えていた。
となると彼女に出る幕はない。
とはいえ、何もしないでただじっとしておくのは性に合わないので、彼女は一つ保険をかけておいた。
追い詰められた輩が行いそうなことなど彼女には簡単に予想がつく。
下衆な手段に出るか。
特攻するか。
逃げ出すか。
この化物相手に特攻はない。
人質だのなんだのが通用する相手でもない。
第一、人質にとられるようなヘマはしない。
ならば、逃走かありえない。
相手に逃走を許すなどというヘマを、この男がするはずが、まあ、ありそうだったので。
逃走経路を覆い尽くすように、糸を張り巡らせておいた。
その保険が見事に適用されたようだ。
とはいえ、まさか、ここまで絶大な威力を発揮するとは、奈緒本人にも予想外だったが。
全身に巻きつく糸が、透明だった姿を浮き彫りにしてゆく。
羽をもぎ取られた蝶が、蜘蛛の巣に絡め取られているようだ。
クアットロは半狂乱になってこの拘束から脱するため暴れまわっていた。
いや事実、すでに正気などない。
そもそも、糸を引き剥がそうにも腕がない。
足掻こうにも足がない。
もはや、彼女には何もない。
すぐ後には、死が迫っていると言うのに。
「無礼者。だれが逃走を許可した?」
ゆっくりと、死の塊が起き上がる。
どうしようもないほど冷たく燃える赤い瞳。
その瞳はクアットロを廃棄物としてしか捕えていない。
「つまらん。興が冷めた。
遊びは終わりだ、粉塵に還れ廃棄人形」
冷酷なまでの死の宣告。
その声に人間らしさなど欠片もありはしない。
ギルガメッシュは指をすり合わせて片腕を掲げる。
「お願い、お願いお願いぃお願いぃいい。助げて!
何でも、何でもします! 何でもいう事を聞きまずがらぁ! だから命だけは!」
「? なにを言っているのだ貴様は。
貴様等雑種がこの我に従うのは当然のことであろう?
当たり前を行ったところで命乞いになぞはなりはせんぞ?」
文字通り、命を賭けた懇願だった。
それを、ギルガメッシュは一切の躊躇なく切り捨てた。
何があろうとも英雄王の決定は覆らない。
一抹の希望すらもはやない。
待っているのは絶望と暗闇に彩られた死だった。
それでも、
「いやぁ……ぁ。死にたくない、死にたくないのぉ……」
死にたくない。
手足をもがれ。
気が狂う程の痛みに喘ぎ。
涙と鼻水に顔を濡らしながら、
それでも、彼女はそう願った。
何故自分が。なんてことはもう彼女には言えない。
コレまでの彼女は痛みも知らぬ子供だった。
だから、自分のしていることがどれほど悪いことかも知りもせず、ただ楽しいからという理由で人を貶め傷つけてきた。
だけど痛みを知った今ならわかる。
自分がコレまでしてきたことは、本当はしてはいけないことだったんだ。
「……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
自分が今まで奪ってきたモノ、踏みにじってきたモノ。
血と汗と涙と鼻水と小便を垂れ流しながら。
彼女はあらゆるモノに懺悔した。
痛みと後悔と懺悔の中で、意識が真っ白く遠のいてゆく。
罪も、痛みも、全ては白に染まる。
光が見える。
気づけば、あれほど身を蝕んだ痛みは消え、頭の中は酷くクリアだった。
全ての罪が神に赦されてゆく気がした。
涙がこぼれた。
痛みによるものではない。
心の底から零れ落ちた、純粋な雫だった。
その涙を見て、英雄王は始めて優しい顔で微笑んだ。
寒気のするほど綺麗な笑み。
既に正常な思考などなく、ただ、それに釣られて彼女も笑った。
「――――なに心配はいらん、跡形すら残しはせん、死に損なう憂いもなかろうよ」
容赦も慈悲もない音が鳴る。
閉幕の音だ。
――――パチン。
それが、彼女が最後に聞いた死の合図だった。
■
「―――で? 何だったのこいつ」
「王の所有物に手を出したただの賊だ。
我はただ咎人に相応しい罰を与えたにすぎん。
ふん。たとえ神が赦したところで、この我が許すものか」
そう吐き捨てるギルガメッシュの態度に、コレといった変化はない。
あれだけの虐殺も、この男にとってはただの日常の一つに過ぎないのだろう。
本当に、この男は当たり前のように人を殺せるのだ。
「ふーん。にしても、さぁ」
呟きながら奈緒は周囲を見渡す。
「―――やりすぎ」
見えるのは、一面に散らばった血と肉と、何かの破片。
それは何か生命だったモノの成れの果て。
流石の奈緒を眉をひそめる凄惨さだった。
同じくそれを見つめていたギルガメッシュは忌々しげに鼻で笑った。
「ふん。跡形が残ってしまったな。
計画を破綻させる宝物庫の禁止はともかくとして、初撃の誤差といい、つまらん制限をかけたものだ。
こう散らかっては見るに耐えん。まったく、ここは塵だらけで視察を行う気にもならんな」
つまらなさ気にそうごちながら、ギルガメッシュは地面に転がっていた残骸の一つ、首輪を拾い上げる。
「いやいや。いまさらんなこと言わないでよ。
だったら端からこっちくんなっての」
「距離的な問題だ。ここは駅に近いかならな」
「って言うかさぁ。さっきから、近い近いって不動産屋じゃあるまいし、いったいなんなの?」
「わからぬか? ヤツはモノレール内は禁止エリアに入らないといっていたであろう?
それはつまり、どこがどう禁止エリアになろうとも、駅とその施設の区画が禁止エリアにならない限りはそこにたどり着けるということだ。
然り。駅周辺、又はそれに隣接するエリアに重要となる施設が点在する可能性が高い。そしてここはその条件に当てはまる」
「あぁ。なるほど」
思わず納得してしまう。
確かに、以下に施設に仕掛けを使用とも、そこに誰もたどり着けなくては意味がない。
「そういうことだ。
もっとも、あの駅のすぐ近くには博物館があったから此処には何もないやもしれんが、まあ、とりあえず探すがよい。
我は外にいる。何か見つけたら報告するがよい」
そう言いながらゴミ処理場の出口に向かってゆくギルガメッシュ。
「って、アンタは探さないの?」
「当然だ。この我がゴミ漁りなどという下賎な真似をできるわけがなかろう?」
「あー、そうっすか」
もはや慣れたが、あんまりにも当たり前のようにこき使われるのはムカつくので少し、反撃してみる。
「そういや。アンタ油断しすぎ、笑い転げて敵を逃がすとか前代未聞よ、マジ」
「ふん。俺に落ち度は無い。油断も慢心もせずになにが王か。
だいたい、天の鎖があればあの様な輩に逃走を許すはずもないのだ」
失態を恥じるどころか、むしろ誇らしげにギルガメシュは胸を張った。
そして、思い出したように声を漏らした。
「あぁ、そうか。ならば、貴様の働きは我が友の代わりというわけか。
ふむ。友(エルギドゥ)の代わりというには少々心とも無いが、悪くない働きであったぞ、ナオ」
「――――む」
ギルガメッシュに名を呼ばれ思わず奈緒は押し黙ってしまった。
その理由はムカついたからだ。
なにがムカつくって、ほんの少しでも喜んでしまった自分がムカつくのである。
【D-4 ゴミ処理場/一日目 午後~夕方】
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:健康、眼帯を外したい
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
[道具]:支給品一式、パニッシャー@トライガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ) 、奈緒が適当に集めてきた本数冊 、『
原作版・バトルロワイアル』 、『今日の献立一〇〇〇種』 、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』
[思考]
基本思考:面倒なのであまり戦いたくない。ヤバくなったら真面目にやる。
1:適当にゴミ処理場を見て回る
2:とりあえず金ぴかと一緒に行動する
3:攻撃してくる人間を殺すのに躊躇いは無い
4:藤乃には色々と会いたくない
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンの発した"ガンダム"という単語と本で読んだガンダムの関連が頭の中で引っ掛かっています。
※博物館に隠されているものが『使い方次第で強者を倒せるもの』と推測しました。
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:王の財宝@Fate/stay night 黄金の鎧@Fate/stay night
[道具]:支給品一式 巳六@舞-HiME シェスカの全蔵書(1/2)@鋼の錬金術師 首輪
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【乖離剣エア】【天の鎖】の入手。
1:ひとまず報告を待つ
2:出会えば衛宮士郎を殺す。具体的な目的地のキーワードは【高速道路】【河川】
3:異世界の情報を集めておく。
4:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
5:宝具、それに順ずる道具を集める。
6:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
7:エレメントに興味
&color(red){【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡】}
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|181:[[ギルガメッシュ先生の黄金授業]]|結城奈緒||
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