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戦争が終わり、世界の終わりが始まった - (2023/05/19 (金) 22:55:34) の1つ前との変更点
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**戦争が終わり、世界の終わりが始まった ◆LXe12sNRSs
◇ ◇ ◇
深い深い、洞穴の底。
地下深く落ちていった男は、身を軋ませるほどの重圧に苦しみ、絶えようとしていた。
脳裏に突き刺さる、かつての死のイメージ。
教会で果てた自分の姿が、思い浮かぶ。
死が廻るだけ、と軽く考えることもできた。
だが、まだだ。
まだ、煙草を吸っていない。
まだまだ、憂さ晴らしは済んでいない。
まだまだまだ、この鬱憤を発散しきってはいない。
「クッ…………ソがああああああっ!!」
血管がはち切れんほどの怒りを身に宿し、ウルフウッドは自分の上に乗っていた瓦礫を押しのける。
ズドォン、という低い音が響き渡り、次いで辺りの光景を見渡してみる。
「なんやここは? 洞窟……あー、お天とさんがポッカリ穴開けとるわ。地下かここは」
そこは、怒声がよく反響する空洞。両脇に聳える壁が、窮屈感を与える。
足元を見れば、汚水が川のように流れている。天井を見上げれば、夜空を覗かせる大穴が一つ。
清姫の重圧に押し潰され、砕け散った大地。
その場に立っていたウルフウッドは、アスファルトの陥没に巻き込まれ、地下を流れる下水道へと転落した。
清姫の攻勢に直接押し潰されなかったことを幸運と考えるべきか、こんな汚いところに迷い込んでしまったことにイラつくべきか。
「チッ……ただで死ねると思うんやないで嬢ちゃん。この借りはきっちり返……って、なんじゃこりゃああああ!?」
静留と清姫の存在に怒りを浸透させる中、ウルフウッドは不意に頭を拭い、気づく。
手にはベッタリとした鮮血。頬にはだくだくと流れる熱い感触。こめかみのあたりには痛み。
頭部から、えらい量の血が零れ落ちていた。
「いっでぇぇっ~…………クソッ、殺す! ホンマ殺したる!!」
朦朧とする頭を怒りで奮い立たせ、喚き散らす。
傍から見ればウルフウッドの頭部は血だらけ、重傷もいいところだが、本人は倒れない。
精神が肉体を凌駕している……のではない。収まりのつかない怒気が、失神を拒否しているだけなのだ。
現世とあの世の境目を見つめながら、ウルフウッドは未だ生にしがみついている。
なにを望み、なにを果たそうとしていたのかは、本人も忘却の彼方だ。
とりあえず求めたのは、この痛みの捌け口。
そして眼前に飛び込んできたのは、水に濡れてもまだ形状を保つ、ほうき頭。
「わああ~、いたいいたいイタイイタイ痛い痛いいい~!?
骨折れた、骨折した、ヘルプミー、ヘルプミィィィィィ!!」
ウルフウッドとは対照的な、情けない悲鳴。聞き慣れた声質が、狭い空洞内に反響する。
白けた目でその姿を捉えると、ほうき頭の男は足を押さえながら泣いていた。
汚水の上をごろごろと転がっていると、数秒経って起き上がる。
足取りは覚束ないが、無事体を支えられているところを鑑みるに、折れてはいないようだ。
「あーもうなんなのさ! 僕があれだけラブアンドピースラブアンドピースって言ってんのにさあ!
シズルさんもどうしてあんなわからず屋なのかなぁ! 僕間違ってる? 間違ってないよね、ねぇ!?
あれ、無視!? どうして答えてくれないの妖精さん? 妖精さーん、さっき僕を手招いてくれた妖精さーん!
なんかお花畑に立ってた僕をこっちにおいで~って誘ってくれた川の向こう岸の妖精さんどこ~!?
なんだよなんだよみんな! そーですか、いいですよーもう! 僕一人で寂しくお花摘んでますよーだ!
後で混ぜてーって寄って来ても無視しますからねー。つーんってそっぽ向いちゃいますからねー。
もしそれでも混ぜてほしいっていうんなら、僕と一緒にラブアンドピースと一億回復唱だー!
ひゃあっ! っていうかここどこぉ!? シズルさん、どこですかシズルさーん!?
ああもうもうもう、なんだって僕ばっかりこんな酷い目に遭うのさ! 信じられない!
これというのも全部……君が事態をややこしくしたせいだかんね、ウルフウッド!」
「な、ん、で、や、ね、ん!」
ウルフウッドは、ツッコミを入れざるをえなかった。
再起するや否や、アホなことをのた打ち回るほうき頭――ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
汚水に塗れた赤外套を重そうに引きずり、ぷんすかぷんすかと音を立てながらウルフウッドに近寄ってくる。
「よぉー、トンガリぃ……人がイラついてんとこに胸糞悪いツラ晒してくれるやんけぇ……」
「君も随分とワルそうな顔してるじゃないか、ウルフウッド……ちょっとちみ、カルシウム不足なんじゃない?」
ウルフウッドはヴァッシュを迎え撃つように、陰険な表情を纏いながら前へ歩む。
互いが歩み合い、ごちん、と額と額がぶつかった。
「ほぉぉ……よう言いよるやんけこの口が。なんやおまえ、喧嘩売っとんのか? あ?」
「ああそうさ。もうさっきからムッカムカしてムッカムカして胃が痛いんだ。変なものでも食べたのかなぁ~!?」
ウルフウッドの威嚇に、相手を小馬鹿にしたような発言で返すヴァッシュ。
合わさった額が互いに押し合い、均衡が生まれる。
「ほぉほぉほぉ。そりゃアレやな。ムカついとるんや。あの超絶平和主義者様が、他人に腹立てとるとはな」
「HAHAHA。おいおいウルフウッド、僕だって人間だぜ? そりゃ怒りもするさ……君みたいなわからず屋には特にね」
語気は穏やかに、しかし語り合うその口は爆発しそうなほどに歪曲している。
煙が発生しそうなほど額を擦り合わせ、両者共にぐぬぬ……と唸り出す。
「ああそうやろなおまえからしてみればワイはとんだクサレ外道牧師なにがラブアンドピースじゃアホンダラやろなぁ」
「なんだそりゃそこまでは言ってないだろやっぱカルシウム足りてないんじゃないのミルク飲むかいちゅっちゅっちゅー」
「ぬかせダアホがミルクより煙草よこさんかいアホンダラつかいいかげん離れろや気色悪いんじゃボケナスアホトンガリ」
「アホアホ言うほうがアホなんです知りませんでしたかアホアホウルフウッド煙草ばっか吸ってるからそうアホになるんでい」
「……………………………………………………………………………………………………………………フゥー」
「……………………………………………………………………………………………………………………ハァー」
言いたいことを言い合った二人は、唐突に言葉を潜め、寡黙に距離を取る。
一歩分身を引いた直後、深く深呼吸。顔を俯かせ、呼吸を整える。
まったく同じタイミングで、まったく同じ仕草で、まったく同じ感情を宿して、
「ッ!!」
「っ!!」
まったく同じ行動を――互いの額を狙い合い、頭突きを喰らわせた。
――ゴッチ~ン☆
「いぃぃっ……」
「……だぁ~い!?」
金物を打ちつけ合ったような鈍い衝撃音が鳴り響き、ウルフウッドとヴァッシュはまったく同じ所作でしゃがみ込む。
第三者の視線があれば、馬鹿二人、と呆れるほかない。
地上で今も続いている戦争。その隅っこで、馬鹿二人は程度の低い喧嘩をおっぱじめた。
「アッー! アッー! アッー! もう堪忍袋の尾が切れた~! いくら僕でも我慢の限界ってやつだよああもう!」
「じゃかあしいわ! そりゃこっちのセリフじゃボケ! 勝手に逃げて勝手に戻ってきたと思ったら、ややこしくしよってからに!」
かつての友人にして、かつてのライバルにして、かつての相容れぬ間柄であった二人は、修羅場での再会を果たした。
だというのに、ろくに話し合いもせず、没頭するのは愚かな罵り合いだけ。
そうなるだけの理由、つまりはストレスが蓄積された結果なのだが、本人たちに自覚はなく。
暗く狭い、誰にも邪魔されることのない穴倉の中で、不毛な争いに身を投じる。
「偉い人は言いました。わからず屋に銃はいらない。そんな奴は、拳でぶん殴ってわからせろ……ってね」
「それも、ブルース・リーとか言う奴の言葉かいな?」
「いや、これは彼――スパイク・スピーゲルに教えてもらった言葉さ!」
ウルフウッドもヴァッシュも、武器を手に取るつもりは欠片もなかった。
欲するのは感触。この手で眼前の気に入らない輩を屈服させるという、暴力の実感だ。
言葉は悪いが、それも心の癇癪玉を静めようとしての術。
男は馬鹿であり、馬鹿だからこそ男である。
「さぁ、やろうかウルフウッド。泣いて謝っても許してやらないからね」
「上等じゃ。そのへらへらしたツラ、ワイがボッコボコしたるから覚悟しとけ」
――ステゴロでぶっ飛ばす!
【C-5/下水道内/二日目/深夜】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン】
[状態]:疲労(大)、全身打撲、ブチ切れ状態、かつてないほどのイライラ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:考えるな、感じるんだ。わからず屋は殴ってわからせる。
1:ボッコボコにしてやんよ!
[備考]
※第二放送を聞き逃しました。
※隠し銃に弾丸は入っていません。どこかで補充しない限り使用不能です。
※ギルガメッシュと情報を交換。衝撃のアルベルトとその連れを警戒しています。
※スパイクと情報交換を行いました。ブルース・リーの魂が胸に刻まれています。
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:認識力判断力の欠如、ブチ切れ状態、情緒不安定、かつてない程のイライラ、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本思考:ゲームに乗る。
1:ボッコボコにしてやんよ!
2:売られた喧嘩は買う。
3:ヴァッシュに関した鬱屈した感情
4:自分の手でゲームを終わらせる。 女子供にも容赦はしない。迷いもない。
5:とにかく武器(銃器)が欲しい。誰かが持ってたら殺してでも奪う。
6:施設で武器調達も検討。
7:タバコが欲しい。
8:言峰に対して――――?
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。ゆえに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの鬱屈した感情が強まっています。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー )、高速移動の使い手と認識しました。
※第三回放送を聞き逃しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
◇ ◇ ◇
破壊の余波を受け、地下へとなだれ込んでいった二人。
その頃地上では、大蛇と竜の壮絶なぶつかり合いが起こり……そして大穴の付近には、誰もいなくなった。
そして、ここに一つの疑問が残る。
黒衣の死神――ビシャスはどこに消えたのか?
破壊の跡を漁る者は誰もいない。南の空で怪獣たちが暴れていれば、おいそれと近づけるはずもなかった。
だからこそ、立ち上がり、この場から離脱するには絶好の機会。
崩れた建築物の残骸と、拉げた路面の欠片が作る隆起。その下から、影が蠢く。
「……くっ」
這い上がった影の正体は、清姫の衝突を直に受けながらも生き永らえた、まさに死神のような男。
全身に切創と銃創を無数、打ち身も酷く、内臓器官も損傷している上に、先の痛手で失血のほども致死量に至った。
なのに不思議と、生きている。やはり己は死神なのではないかと、苦笑したくなってくるほどに。
「ふふ、ふ……が、っ」
力ない苦笑の後、口から盛大に吐血する。
滝のように流れる血が、生命の終わりを予感させていた。
それでもまだ、生きている。
「く、く、く……」
不気味に笑い、衝突の際も手放すことのなかった刀を強く握る。
握力はまだ残っている。つまり、刀が握れ、刃が振るえる。つまり、殺せる。
ならば殺そう。死神としての存在意義を示すため、徘徊を続けようではないか。
そのときだ。
背後に冷たい気配を感じ、ビシャスは動きを止めた。
「人間台風(ヒューマノイド・タイフーン)って知ってるか?」
ビシャスの後頭部にデザートイーグルの銃口を突きつけながら、男は言った。
気だるそうに立つ体躯をこのときばかりは引き締まらせ、言葉を続ける。
「ある賞金首の話さ。そいつは各地に大災害を齎し、街を壊滅させては去っていく。まさに台風みたいな男だそうだ。
んで、そいつに懸けられた賞金の額がなんと600億。スゲー額だろ? レッドドラゴンの頂点だって、これほどは懸けられない」
聞いている最中も、レンズのピントがぼやけるように視界が歪む。
ビシャスは返答する気力もなく、銃を突きつけられた状態で立ち尽くした。
「でだ、さっきそいつに会ったんだが……見逃した」
あっけらかんとした口調で、背後の男は言葉を紡ぐ。
「馬鹿だよなぁ。600億だぜ600億。とっ捕まえりゃ、貧乏生活とも即オサラバさ。
毎日のメニューが肉なしチンジャオロースから肉だけチンジャオロースに変わる。
想像しただけでよだれが垂れてくるね。だけど、俺は奴を見逃した。わかるか?」
男が捲くし立てる間も、ビシャスの口からは多量の失血が見られている。
噴出しているのは口だけではなく、頭部、腹部、脚部、とにかくいたるところからだ。
背後の男はそれに気づいているのかいないのか、泰然と銃を構え、悠然と喋り続ける。
「俺はあいつの話を聞いて、こう思ったのさ。
ああ、この肥溜めみてぇな場所も、馬鹿ばっかじゃねぇんだ……ってな。
いや、あいつの考えは馬鹿だ。頭に花が咲いてる。けどな、俺はそれを否定しない」
ビシャスは身じろぎ一つしない。
聞いているのかいないのか、苦痛でそれどころではないのか。
「ラブアンドピース、って腹の底から叫んだことあるか? ねぇよな、おまえには。
愛と平和なんざ、ガキの頃に捨てた誇りだ。俺もおまえもな。
それを大の大人が、怪獣の目の前で豪語するってんだから、馬鹿には違いない」
デザートイーグルを握る手にぶれはない。照準は狂いなくビシャスの後頭部。
銃口から覗く漆黒の穴倉が、黄泉への誘いのように思えた。
「ま、それでもいろいろ悩んでたみたいでな。賞金首とカウボーイが語り合うのもなにかの縁。
ってことで、敬愛する我が心の師匠、ブルース・リーの名言を教えてやった。
そしたらそいつ、吹っ切れた顔してありがとう、って何度もな。
んで、ここに戻っていった。本当に、台風みたいな奴だったよ」
次第に、男の口が加速していく。
狂えるほど饒舌に、しかし平静を保った口ぶりで、言霊を浴びせ続ける。
ビシャスはなにも返そうとはせず、その本心では、返すべき言葉を見つけていた。
「………………………………」
だが、声に発することができない。
彼の生命は篝火のように火勢を弱め、もう間もなく尽きる。
数時間前に予期していたタイムリミットが、今、訪れようとしている。
この、因縁の相手との邂逅で。
「……く、くく、く」
まったくもって、おかしな状況になったものだ――とビシャスは笑う。
けたけたと、テンポを外して音を漏らす。
声は発せず、言葉も伝えられず、口からは血液だけが零れた。
しかし、
「…………スゥ、パッ、イクゥ――!」
敵の名だけは、不思議と表に出た。
振り返り様に白刃の一閃を振るう。
捻れる体はぎちぎちと音を立て、裂け目から血が噴き出した。
激痛が身を蹂躙し、握力を削ぎ、カラン、と刀が地に落ちる。
視線だけを刀に投げ、拾うことは叶わない。
顔だけが、背後に立っていた男、そして銃口の正面に向く。
男がどんな表情でビシャスを見つめ、どんな心境で引き金に指をかけていたかは知れない。
ぼやけた視界は、もうなにも映してはくれなかった。
ドン、と銃声が一つ。
硝煙が上がり、放たれた銃弾は、ビシャスの顔を貫通した。
死神の黒に染まった形相が、木っ端微塵に壊れてしまう。
そのまま仰向けに倒れ込み、もはや起き上がることは叶わない。
ビシャスは死神などではく、ただの馬鹿だったからだ。
「……じゃあな、ビシャス」
哀れみの表情を纏いながら、カウボーイは宿敵の終焉を見届けた。
&color(red){【ビシャス@カウボーイビバップ 死亡】}
【C-5/地下に通じる大穴の側/二日目/深夜】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(小)、心労(小)、全身打撲、胸部打撲、右手打撲(全て治療済)、左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし)
[装備]:デザートイーグル(残弾3/8、予備マガジン×2)
[道具]:支給品一式×2(-メモ×1) ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)、スコップ、ライター
軍用ナイフ@現実、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン
[思考]
1:さーて、あの賞金首は生きてるかね……
2:カミナを探しつつ、映画館及び卸売り市場付近でジン達と合流。その後、図書館を目指す。
3:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
4:小早川ゆたか・鴇羽舞衣を探す。テッククリスタルの入手。対処法は状況次第。
5:怪獣……は、まあ近づかないほうがいいだろ……
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※Dボゥイと出会った参加者の情報、Dボゥイのこれまでの顛末、ラダムについての情報を入手しました。
※ヴァッシュと情報交換を行いました。
◇ ◇ ◇
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、言葉はない。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、思考はない。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、意志はない。
「―――――――――――――――――――――――――――――――ぁ」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、意識はある。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、気力はない。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、願望はある。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNN!!』
無言の舞衣を乗せ、真紅に染まったカグツチが吼える。
眼前の敵、大蛇のチャイルドに向け、怒涛の熱波を与える。
「蛙を睨んでた蛇が、一転して蛇に睨まれた蛙やなんて……笑い話にもなりまへんなぁ」
領域の外で口惜しく観戦を続けるHiME、藤乃静留。
彼女の姿を見ても、舞衣の心に変化はない。
あたりまえだ。今の彼女は、心を失っているのだから。
(――――――――――――――――――――――――――――――――)
いや、失っているのではない。
焦げているだけだ。
彼女の想いの力たる炎によって、精神を熱く焦がしすぎただけなのだ。
それは鴇羽舞衣本人の意思によるものか、我が子の母を想う発揮か、神父の誘いの結果か。
これも一つの愛の形、であることに違いない――しかし。
彼女は代償として、心を焦がした。
黒焦げになり、いつ灰として散ってもおかしくない状態で、想うのは。
(――――――――――――――――――――――――――――Dボゥイ)
ただ一つだけ確かな、愛。
ラッド・ルッソへの憎悪は、カグツチの炎で燃やし尽くした。
ギアスによる絶対遵守の命令は、心を焦がすことで事実的に無効化した。
廃人同然の考えぬ、どころか生きることすらせぬ者に、命令を果たす力――いや、命令に従う力はない。
体内に巣食っていたラダム虫は……カグツチの劫火で焼き殺した。
舞衣が抱えていた負の感情諸共、中も外も、清めの炎で全て燃やし洗った。
カグツチの頭上に聳えるその姿は、清らかなる裸身。
着衣も、荷物も、そして彼女を縛っていた拘束具――首輪すらも、灼熱で溶かしていた。
(―――――――――――――――――――――――ごめんね、なつき)
竜の母は、自我を守る代償としてその身を焼き、一切の活動を我が子に託した。
竜の子は、母の代わりに表舞台に立つことを選び、ただ母を守るためだけに羽ばたく。
蛇の母は、自身が愛した女性への想いを証明するために、竜の子を討つ。
蛇の子は、母の掲げる愛情を誇示するための力として、竜の子を討つ。
これが、HiMEの戦い。
恋情から始まった闘争と、揺れ動く友情非情。
運命の刻を経た先に待っているのは、真なる愛情。
光り輝く日々を目指して、戦う少女たち。
それは、乙女の一大事。
【D-4とD-5の境界線辺り/上空/二日目/深夜】
【藤乃静留@舞-HiME】
[状態]:疲労(中)、左足に打撲、左眼損傷(ほぼ失明状態、高度な治療を受ければあるいは…)、首筋に切傷、精神高揚
螺旋力覚醒、バリアジャケット
[装備]:エレメント(薙刀)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]:
基本方針:螺旋王の力を手中に収め、なつきと再会する
1:鴇羽舞衣とカグツチを討つ。
2:邪魔な相手は容赦なく殺す。
3:邪魔にならない人間を傘下に置く。
【備考】
※「堪忍な~」の直後辺りから参戦。
※ビクトリームとおおまかに話し合った模様。少なくともお互いの世界についての情報は交換したようです。
※ギルガメッシュと情報を交換。衝撃のアルベルトとその連れを警戒しています。
※静留のバリアジャケットは《嬌嫣の紫水晶》シズル・ヴィオーラ@舞-乙HiME。飛行可能。
※清姫の体内に士郎とイリヤの死体、及び首輪が取り込まれました。聖杯がどうなったのかは不明です。
※チャイルドは本来ならば高次物質化能力以外の攻撃を受け付けませんが、制限により通常の攻撃でもダメージを与えることが出来ます。
【D-5西部の市街地/上空、カグツチ頭部/二日目/深夜】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、着衣及び首輪なし、虚無状態、紅蓮の皮膜によって庇護されている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
1:(――――――――――――――――――――――――――――Dボゥイ)
※カグツチの思考
1:舞衣を守る。清姫を倒す。
[備考]
※静留にHIMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※一時的にエレメントが使えるようになりました。今後、恒常的に使えるようになるかは分かりません。
※小早川ゆたかについては、“ゆたか”という名前と、“自分より年下である”という認識しかもっていません。
※螺旋力半覚醒。カグツチの顕現は、螺旋力の覚醒とは別種のもの。
※体内に巣食っていたラダム虫はカグツチの炎で死滅。首輪や着衣、所持していた荷物も全て燃え尽きました。この炎は、本人には影響がありません。
※意識はありますが、自分の力で考えたり行動したりすることはできない状態です。『想う』ことだけは可能です。
※舞衣、カグツチ、清姫はD-5禁止エリア内に。静留は境界線の辺りで清姫に指示。
※ヴァッシュが所持していたナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)
ウルフウッドが所持していたエクスカリバー@Fate/stay night
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7
ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!、はC-3の大穴付近に放置(潰された可能性アリ)。
※ウルフウッドが所持していたエクスカリバー(投影)@Fate/stay nightは、時間経過に伴い消滅。
※ビシャスが所持していたパニッシャー@トライガンは、清姫の腹の中。
◇ ◇ ◇
*時系列順で読む
Back:[[〝天壌の劫火〟]] Next:[[回葬――言峰綺礼]]
*投下順で読む
Back:[[〝天壌の劫火〟]] Next:[[回葬――言峰綺礼]]
|246:[[ヴァッシュ・ザ・スタンピードの愛と平和]]|ヴァッシュ・ザ・スタンピード|252:[[盟友]]|
|246:[[ヴァッシュ・ザ・スタンピードの愛と平和]]|ニコラス・D・ウルフウッド|252:[[盟友]]|
|246:[[ヴァッシュ・ザ・スタンピードの愛と平和]]|スパイク・スピーゲル|252:[[盟友]]|
|246:[[ヴァッシュ・ザ・スタンピードの愛と平和]]|&color(red){ビシャス}||
|246:[[〝天壌の劫火〟]]|藤乃静留|250:[[Shining days after]]|
|246:[[〝天壌の劫火〟]]|鴇羽舞衣|250:[[Shining days after]]|
|246:[[〝天壌の劫火〟]]|&color(red){ラダム}||
**戦争が終わり、世界の終わりが始まった ◆LXe12sNRSs
◇ ◇ ◇
深い深い、洞穴の底。
地下深く落ちていった男は、身を軋ませるほどの重圧に苦しみ、絶えようとしていた。
脳裏に突き刺さる、かつての死のイメージ。
教会で果てた自分の姿が、思い浮かぶ。
死が廻るだけ、と軽く考えることもできた。
だが、まだだ。
まだ、煙草を吸っていない。
まだまだ、憂さ晴らしは済んでいない。
まだまだまだ、この鬱憤を発散しきってはいない。
「クッ…………ソがああああああっ!!」
血管がはち切れんほどの怒りを身に宿し、ウルフウッドは自分の上に乗っていた瓦礫を押しのける。
ズドォン、という低い音が響き渡り、次いで辺りの光景を見渡してみる。
「なんやここは? 洞窟……あー、お天とさんがポッカリ穴開けとるわ。地下かここは」
そこは、怒声がよく反響する空洞。両脇に聳える壁が、窮屈感を与える。
足元を見れば、汚水が川のように流れている。天井を見上げれば、夜空を覗かせる大穴が一つ。
清姫の重圧に押し潰され、砕け散った大地。
その場に立っていたウルフウッドは、アスファルトの陥没に巻き込まれ、地下を流れる下水道へと転落した。
清姫の攻勢に直接押し潰されなかったことを幸運と考えるべきか、こんな汚いところに迷い込んでしまったことにイラつくべきか。
「チッ……ただで死ねると思うんやないで嬢ちゃん。この借りはきっちり返……って、なんじゃこりゃああああ!?」
静留と清姫の存在に怒りを浸透させる中、ウルフウッドは不意に頭を拭い、気づく。
手にはベッタリとした鮮血。頬にはだくだくと流れる熱い感触。こめかみのあたりには痛み。
頭部から、えらい量の血が零れ落ちていた。
「いっでぇぇっ~…………クソッ、殺す! ホンマ殺したる!!」
朦朧とする頭を怒りで奮い立たせ、喚き散らす。
傍から見ればウルフウッドの頭部は血だらけ、重傷もいいところだが、本人は倒れない。
精神が肉体を凌駕している……のではない。収まりのつかない怒気が、失神を拒否しているだけなのだ。
現世とあの世の境目を見つめながら、ウルフウッドは未だ生にしがみついている。
なにを望み、なにを果たそうとしていたのかは、本人も忘却の彼方だ。
とりあえず求めたのは、この痛みの捌け口。
そして眼前に飛び込んできたのは、水に濡れてもまだ形状を保つ、ほうき頭。
「わああ~、いたいいたいイタイイタイ痛い痛いいい~!?
骨折れた、骨折した、ヘルプミー、ヘルプミィィィィィ!!」
ウルフウッドとは対照的な、情けない悲鳴。聞き慣れた声質が、狭い空洞内に反響する。
白けた目でその姿を捉えると、ほうき頭の男は足を押さえながら泣いていた。
汚水の上をごろごろと転がっていると、数秒経って起き上がる。
足取りは覚束ないが、無事体を支えられているところを鑑みるに、折れてはいないようだ。
「あーもうなんなのさ! 僕があれだけラブアンドピースラブアンドピースって言ってんのにさあ!
シズルさんもどうしてあんなわからず屋なのかなぁ! 僕間違ってる? 間違ってないよね、ねぇ!?
あれ、無視!? どうして答えてくれないの妖精さん? 妖精さーん、さっき僕を手招いてくれた妖精さーん!
なんかお花畑に立ってた僕をこっちにおいで~って誘ってくれた川の向こう岸の妖精さんどこ~!?
なんだよなんだよみんな! そーですか、いいですよーもう! 僕一人で寂しくお花摘んでますよーだ!
後で混ぜてーって寄って来ても無視しますからねー。つーんってそっぽ向いちゃいますからねー。
もしそれでも混ぜてほしいっていうんなら、僕と一緒にラブアンドピースと一億回復唱だー!
ひゃあっ! っていうかここどこぉ!? シズルさん、どこですかシズルさーん!?
ああもうもうもう、なんだって僕ばっかりこんな酷い目に遭うのさ! 信じられない!
これというのも全部……君が事態をややこしくしたせいだかんね、ウルフウッド!」
「な、ん、で、や、ね、ん!」
ウルフウッドは、ツッコミを入れざるをえなかった。
再起するや否や、アホなことをのた打ち回るほうき頭――ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
汚水に塗れた赤外套を重そうに引きずり、ぷんすかぷんすかと音を立てながらウルフウッドに近寄ってくる。
「よぉー、トンガリぃ……人がイラついてんとこに胸糞悪いツラ晒してくれるやんけぇ……」
「君も随分とワルそうな顔してるじゃないか、ウルフウッド……ちょっとちみ、カルシウム不足なんじゃない?」
ウルフウッドはヴァッシュを迎え撃つように、陰険な表情を纏いながら前へ歩む。
互いが歩み合い、ごちん、と額と額がぶつかった。
「ほぉぉ……よう言いよるやんけこの口が。なんやおまえ、喧嘩売っとんのか? あ?」
「ああそうさ。もうさっきからムッカムカしてムッカムカして胃が痛いんだ。変なものでも食べたのかなぁ~!?」
ウルフウッドの威嚇に、相手を小馬鹿にしたような発言で返すヴァッシュ。
合わさった額が互いに押し合い、均衡が生まれる。
「ほぉほぉほぉ。そりゃアレやな。ムカついとるんや。あの超絶平和主義者様が、他人に腹立てとるとはな」
「HAHAHA。おいおいウルフウッド、僕だって人間だぜ? そりゃ怒りもするさ……君みたいなわからず屋には特にね」
語気は穏やかに、しかし語り合うその口は爆発しそうなほどに歪曲している。
煙が発生しそうなほど額を擦り合わせ、両者共にぐぬぬ……と唸り出す。
「ああそうやろなおまえからしてみればワイはとんだクサレ外道牧師なにがラブアンドピースじゃアホンダラやろなぁ」
「なんだそりゃそこまでは言ってないだろやっぱカルシウム足りてないんじゃないのミルク飲むかいちゅっちゅっちゅー」
「ぬかせダアホがミルクより煙草よこさんかいアホンダラつかいいかげん離れろや気色悪いんじゃボケナスアホトンガリ」
「アホアホ言うほうがアホなんです知りませんでしたかアホアホウルフウッド煙草ばっか吸ってるからそうアホになるんでい」
「……………………………………………………………………………………………………………………フゥー」
「……………………………………………………………………………………………………………………ハァー」
言いたいことを言い合った二人は、唐突に言葉を潜め、寡黙に距離を取る。
一歩分身を引いた直後、深く深呼吸。顔を俯かせ、呼吸を整える。
まったく同じタイミングで、まったく同じ仕草で、まったく同じ感情を宿して、
「ッ!!」
「っ!!」
まったく同じ行動を――互いの額を狙い合い、頭突きを喰らわせた。
――ゴッチ~ン☆
「いぃぃっ……」
「……だぁ~い!?」
金物を打ちつけ合ったような鈍い衝撃音が鳴り響き、ウルフウッドとヴァッシュはまったく同じ所作でしゃがみ込む。
第三者の視線があれば、馬鹿二人、と呆れるほかない。
地上で今も続いている戦争。その隅っこで、馬鹿二人は程度の低い喧嘩をおっぱじめた。
「アッー! アッー! アッー! もう堪忍袋の尾が切れた~! いくら僕でも我慢の限界ってやつだよああもう!」
「じゃかあしいわ! そりゃこっちのセリフじゃボケ! 勝手に逃げて勝手に戻ってきたと思ったら、ややこしくしよってからに!」
かつての友人にして、かつてのライバルにして、かつての相容れぬ間柄であった二人は、修羅場での再会を果たした。
だというのに、ろくに話し合いもせず、没頭するのは愚かな罵り合いだけ。
そうなるだけの理由、つまりはストレスが蓄積された結果なのだが、本人たちに自覚はなく。
暗く狭い、誰にも邪魔されることのない穴倉の中で、不毛な争いに身を投じる。
「偉い人は言いました。わからず屋に銃はいらない。そんな奴は、拳でぶん殴ってわからせろ……ってね」
「それも、ブルース・リーとか言う奴の言葉かいな?」
「いや、これは彼――スパイク・スピーゲルに教えてもらった言葉さ!」
ウルフウッドもヴァッシュも、武器を手に取るつもりは欠片もなかった。
欲するのは感触。この手で眼前の気に入らない輩を屈服させるという、暴力の実感だ。
言葉は悪いが、それも心の癇癪玉を静めようとしての術。
男は馬鹿であり、馬鹿だからこそ男である。
「さぁ、やろうかウルフウッド。泣いて謝っても許してやらないからね」
「上等じゃ。そのへらへらしたツラ、ワイがボッコボコしたるから覚悟しとけ」
――ステゴロでぶっ飛ばす!
【C-5/下水道内/二日目/深夜】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン】
[状態]:疲労(大)、全身打撲、ブチ切れ状態、かつてないほどのイライラ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:考えるな、感じるんだ。わからず屋は殴ってわからせる。
1:ボッコボコにしてやんよ!
[備考]
※第二放送を聞き逃しました。
※隠し銃に弾丸は入っていません。どこかで補充しない限り使用不能です。
※ギルガメッシュと情報を交換。衝撃のアルベルトとその連れを警戒しています。
※スパイクと情報交換を行いました。ブルース・リーの魂が胸に刻まれています。
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:認識力判断力の欠如、ブチ切れ状態、情緒不安定、かつてない程のイライラ、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本思考:ゲームに乗る。
1:ボッコボコにしてやんよ!
2:売られた喧嘩は買う。
3:ヴァッシュに関した鬱屈した感情
4:自分の手でゲームを終わらせる。 女子供にも容赦はしない。迷いもない。
5:とにかく武器(銃器)が欲しい。誰かが持ってたら殺してでも奪う。
6:施設で武器調達も検討。
7:タバコが欲しい。
8:言峰に対して――――?
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。ゆえに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの鬱屈した感情が強まっています。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー )、高速移動の使い手と認識しました。
※第三回放送を聞き逃しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
◇ ◇ ◇
破壊の余波を受け、地下へとなだれ込んでいった二人。
その頃地上では、大蛇と竜の壮絶なぶつかり合いが起こり……そして大穴の付近には、誰もいなくなった。
そして、ここに一つの疑問が残る。
黒衣の死神――ビシャスはどこに消えたのか?
破壊の跡を漁る者は誰もいない。南の空で怪獣たちが暴れていれば、おいそれと近づけるはずもなかった。
だからこそ、立ち上がり、この場から離脱するには絶好の機会。
崩れた建築物の残骸と、拉げた路面の欠片が作る隆起。その下から、影が蠢く。
「……くっ」
這い上がった影の正体は、清姫の衝突を直に受けながらも生き永らえた、まさに死神のような男。
全身に切創と銃創を無数、打ち身も酷く、内臓器官も損傷している上に、先の痛手で失血のほども致死量に至った。
なのに不思議と、生きている。やはり己は死神なのではないかと、苦笑したくなってくるほどに。
「ふふ、ふ……が、っ」
力ない苦笑の後、口から盛大に吐血する。
滝のように流れる血が、生命の終わりを予感させていた。
それでもまだ、生きている。
「く、く、く……」
不気味に笑い、衝突の際も手放すことのなかった刀を強く握る。
握力はまだ残っている。つまり、刀が握れ、刃が振るえる。つまり、殺せる。
ならば殺そう。死神としての存在意義を示すため、徘徊を続けようではないか。
そのときだ。
背後に冷たい気配を感じ、ビシャスは動きを止めた。
「人間台風(ヒューマノイド・タイフーン)って知ってるか?」
ビシャスの後頭部にデザートイーグルの銃口を突きつけながら、男は言った。
気だるそうに立つ体躯をこのときばかりは引き締まらせ、言葉を続ける。
「ある賞金首の話さ。そいつは各地に大災害を齎し、街を壊滅させては去っていく。まさに台風みたいな男だそうだ。
んで、そいつに懸けられた賞金の額がなんと600億。スゲー額だろ? レッドドラゴンの頂点だって、これほどは懸けられない」
聞いている最中も、レンズのピントがぼやけるように視界が歪む。
ビシャスは返答する気力もなく、銃を突きつけられた状態で立ち尽くした。
「でだ、さっきそいつに会ったんだが……見逃した」
あっけらかんとした口調で、背後の男は言葉を紡ぐ。
「馬鹿だよなぁ。600億だぜ600億。とっ捕まえりゃ、貧乏生活とも即オサラバさ。
毎日のメニューが肉なしチンジャオロースから肉だけチンジャオロースに変わる。
想像しただけでよだれが垂れてくるね。だけど、俺は奴を見逃した。わかるか?」
男が捲くし立てる間も、ビシャスの口からは多量の失血が見られている。
噴出しているのは口だけではなく、頭部、腹部、脚部、とにかくいたるところからだ。
背後の男はそれに気づいているのかいないのか、泰然と銃を構え、悠然と喋り続ける。
「俺はあいつの話を聞いて、こう思ったのさ。
ああ、この肥溜めみてぇな場所も、馬鹿ばっかじゃねぇんだ……ってな。
いや、あいつの考えは馬鹿だ。頭に花が咲いてる。けどな、俺はそれを否定しない」
ビシャスは身じろぎ一つしない。
聞いているのかいないのか、苦痛でそれどころではないのか。
「ラブアンドピース、って腹の底から叫んだことあるか? ねぇよな、おまえには。
愛と平和なんざ、ガキの頃に捨てた誇りだ。俺もおまえもな。
それを大の大人が、怪獣の目の前で豪語するってんだから、馬鹿には違いない」
デザートイーグルを握る手にぶれはない。照準は狂いなくビシャスの後頭部。
銃口から覗く漆黒の穴倉が、黄泉への誘いのように思えた。
「ま、それでもいろいろ悩んでたみたいでな。賞金首とカウボーイが語り合うのもなにかの縁。
ってことで、敬愛する我が心の師匠、ブルース・リーの名言を教えてやった。
そしたらそいつ、吹っ切れた顔してありがとう、って何度もな。
んで、ここに戻っていった。本当に、台風みたいな奴だったよ」
次第に、男の口が加速していく。
狂えるほど饒舌に、しかし平静を保った口ぶりで、言霊を浴びせ続ける。
ビシャスはなにも返そうとはせず、その本心では、返すべき言葉を見つけていた。
「………………………………」
だが、声に発することができない。
彼の生命は篝火のように火勢を弱め、もう間もなく尽きる。
数時間前に予期していたタイムリミットが、今、訪れようとしている。
この、因縁の相手との邂逅で。
「……く、くく、く」
まったくもって、おかしな状況になったものだ――とビシャスは笑う。
けたけたと、テンポを外して音を漏らす。
声は発せず、言葉も伝えられず、口からは血液だけが零れた。
しかし、
「…………スゥ、パッ、イクゥ――!」
敵の名だけは、不思議と表に出た。
振り返り様に白刃の一閃を振るう。
捻れる体はぎちぎちと音を立て、裂け目から血が噴き出した。
激痛が身を蹂躙し、握力を削ぎ、カラン、と刀が地に落ちる。
視線だけを刀に投げ、拾うことは叶わない。
顔だけが、背後に立っていた男、そして銃口の正面に向く。
男がどんな表情でビシャスを見つめ、どんな心境で引き金に指をかけていたかは知れない。
ぼやけた視界は、もうなにも映してはくれなかった。
ドン、と銃声が一つ。
硝煙が上がり、放たれた銃弾は、ビシャスの顔を貫通した。
死神の黒に染まった形相が、木っ端微塵に壊れてしまう。
そのまま仰向けに倒れ込み、もはや起き上がることは叶わない。
ビシャスは死神などではく、ただの馬鹿だったからだ。
「……じゃあな、ビシャス」
哀れみの表情を纏いながら、カウボーイは宿敵の終焉を見届けた。
&color(red){【ビシャス@カウボーイビバップ 死亡】}
【C-5/地下に通じる大穴の側/二日目/深夜】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(小)、心労(小)、全身打撲、胸部打撲、右手打撲(全て治療済)、左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし)
[装備]:デザートイーグル(残弾3/8、予備マガジン×2)
[道具]:支給品一式×2(-メモ×1) ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)、スコップ、ライター
軍用ナイフ@現実、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン
[思考]
1:さーて、あの賞金首は生きてるかね……
2:カミナを探しつつ、映画館及び卸売り市場付近でジン達と合流。その後、図書館を目指す。
3:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
4:小早川ゆたか・鴇羽舞衣を探す。テッククリスタルの入手。対処法は状況次第。
5:怪獣……は、まあ近づかないほうがいいだろ……
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※Dボゥイと出会った参加者の情報、Dボゥイのこれまでの顛末、ラダムについての情報を入手しました。
※ヴァッシュと情報交換を行いました。
◇ ◇ ◇
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、言葉はない。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、思考はない。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、意志はない。
「―――――――――――――――――――――――――――――――ぁ」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、意識はある。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、気力はない。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
カグツチの上に立つ鴇羽舞衣に、願望はある。
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNN!!』
無言の舞衣を乗せ、真紅に染まったカグツチが吼える。
眼前の敵、大蛇のチャイルドに向け、怒涛の熱波を与える。
「蛙を睨んでた蛇が、一転して蛇に睨まれた蛙やなんて……笑い話にもなりまへんなぁ」
領域の外で口惜しく観戦を続けるHiME、藤乃静留。
彼女の姿を見ても、舞衣の心に変化はない。
あたりまえだ。今の彼女は、心を失っているのだから。
(――――――――――――――――――――――――――――――――)
いや、失っているのではない。
焦げているだけだ。
彼女の想いの力たる炎によって、精神を熱く焦がしすぎただけなのだ。
それは鴇羽舞衣本人の意思によるものか、我が子の母を想う発揮か、神父の誘いの結果か。
これも一つの愛の形、であることに違いない――しかし。
彼女は代償として、心を焦がした。
黒焦げになり、いつ灰として散ってもおかしくない状態で、想うのは。
(――――――――――――――――――――――――――――Dボゥイ)
ただ一つだけ確かな、愛。
ラッド・ルッソへの憎悪は、カグツチの炎で燃やし尽くした。
ギアスによる絶対遵守の命令は、心を焦がすことで事実的に無効化した。
廃人同然の考えぬ、どころか生きることすらせぬ者に、命令を果たす力――いや、命令に従う力はない。
体内に巣食っていたラダム虫は……カグツチの劫火で焼き殺した。
舞衣が抱えていた負の感情諸共、中も外も、清めの炎で全て燃やし洗った。
カグツチの頭上に聳えるその姿は、清らかなる裸身。
着衣も、荷物も、そして彼女を縛っていた拘束具――首輪すらも、灼熱で溶かしていた。
(―――――――――――――――――――――――ごめんね、なつき)
竜の母は、自我を守る代償としてその身を焼き、一切の活動を我が子に託した。
竜の子は、母の代わりに表舞台に立つことを選び、ただ母を守るためだけに羽ばたく。
蛇の母は、自身が愛した女性への想いを証明するために、竜の子を討つ。
蛇の子は、母の掲げる愛情を誇示するための力として、竜の子を討つ。
これが、HiMEの戦い。
恋情から始まった闘争と、揺れ動く友情非情。
運命の刻を経た先に待っているのは、真なる愛情。
光り輝く日々を目指して、戦う少女たち。
それは、乙女の一大事。
【D-4とD-5の境界線辺り/上空/二日目/深夜】
【藤乃静留@舞-HiME】
[状態]:疲労(中)、左足に打撲、左眼損傷(ほぼ失明状態、高度な治療を受ければあるいは…)、首筋に切傷、精神高揚
螺旋力覚醒、バリアジャケット
[装備]:エレメント(薙刀)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]:
基本方針:螺旋王の力を手中に収め、なつきと再会する
1:鴇羽舞衣とカグツチを討つ。
2:邪魔な相手は容赦なく殺す。
3:邪魔にならない人間を傘下に置く。
【備考】
※「堪忍な~」の直後辺りから参戦。
※ビクトリームとおおまかに話し合った模様。少なくともお互いの世界についての情報は交換したようです。
※ギルガメッシュと情報を交換。衝撃のアルベルトとその連れを警戒しています。
※静留のバリアジャケットは《嬌嫣の紫水晶》シズル・ヴィオーラ@舞-乙HiME。飛行可能。
※清姫の体内に士郎とイリヤの死体、及び首輪が取り込まれました。聖杯がどうなったのかは不明です。
※チャイルドは本来ならば高次物質化能力以外の攻撃を受け付けませんが、制限により通常の攻撃でもダメージを与えることが出来ます。
【D-5西部の市街地/上空、カグツチ頭部/二日目/深夜】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、着衣及び首輪なし、虚無状態、紅蓮の皮膜によって庇護されている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
1:(――――――――――――――――――――――――――――Dボゥイ)
※カグツチの思考
1:舞衣を守る。清姫を倒す。
[備考]
※静留にHIMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※一時的にエレメントが使えるようになりました。今後、恒常的に使えるようになるかは分かりません。
※小早川ゆたかについては、“ゆたか”という名前と、“自分より年下である”という認識しかもっていません。
※螺旋力半覚醒。カグツチの顕現は、螺旋力の覚醒とは別種のもの。
※体内に巣食っていたラダム虫はカグツチの炎で死滅。首輪や着衣、所持していた荷物も全て燃え尽きました。この炎は、本人には影響がありません。
※意識はありますが、自分の力で考えたり行動したりすることはできない状態です。『想う』ことだけは可能です。
※舞衣、カグツチ、清姫はD-5禁止エリア内に。静留は境界線の辺りで清姫に指示。
※ヴァッシュが所持していたナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)
ウルフウッドが所持していたエクスカリバー@Fate/stay night
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7
ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!、はC-3の大穴付近に放置(潰された可能性アリ)。
※ウルフウッドが所持していたエクスカリバー(投影)@Fate/stay nightは、時間経過に伴い消滅。
※ビシャスが所持していたパニッシャー@トライガンは、清姫の腹の中。
*時系列順で読む
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