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HAPPY END(16) - (2009/02/23 (月) 02:28:14) のソース
**HAPPY END(16)◆ANI2to4ndE 極光と火花が渦を巻いて、天へと駆け上っていく。 天地開闢の瞬きが、終焉の導きとなって覚醒を促す。 耳を劈く轟音と、燦然とした輝き、双方が空を埋め尽くす。 一面の白。光晴れたる帳。大地を照らす月。亀裂走りし結界。 趣を変えた世界の様相は、天地開闢の力を持ってしても終焉には至らないという証明だった。 残ったのは、闇。そして今もにも落ちてきそうな空。 終焉は訪れる。しかしそれは、ただの一人も望む者がいない邪なる終だ。 この地の誰もが、空を見上げてこう思ったことだろう。 あの天井、ぶち破りてぇなぁ……。 誰かからの懇願を受けたわけでもなく、 誰かからの悲鳴を耳にしたわけでもなく、 誰かからの神託を賜ったわけでもなかった、 「――ったく、おちおち寝てもいられねぇ……」 だからこそ、カミナは再び目覚めたのだろう。 わずかに開け放たれたアルティメットガンダムのコクピットブロックから、罅割れた空を眺める。 どことなく視界がぼやけて見えるのは、額やこめかみから流れる鮮血のせいだろうか。 顎先からぽたぽたと垂れる水滴は、確かに赤かった。舌に運ばれる味も、鉄のそれに似ている。 カミナは外界から目を背け、コクピットの内部へと視線を転じた。 夥しい量の配管に身を纏われた、ドモン・カッシュの姿がそこにある。 肩や首、手足は気だるく重力に折れ、両の瞳は閉じ、口元は笑んでいた。 安らかな寝顔である。その状態が睡眠ではなく絶命だと受け取るのは、さほど困難でもなかった。 「男の魂完全燃焼、ってツラしやがって」 激闘の末、ドモンの心肺機能が停止したという事実を受け取っても、カミナは彼が死んだとは思わなかった。 悲しい現実だからといって、それを否定したかったわけではない。言葉を選びたかっただけだ。 ドモン・カッシュは死んだのではない。『燃えつきた』のだと――そう、自分の中で結論付けた。 「オレもあんなツラしてぇなぁ」 誰にでもなく呟いて、カミナは血まみれの頭を掻く。 猛烈な痒みに苛まれながらも、視線は再び、外へと向かった。 背後のドモンはえらく気持ちがよさそうだ。少し羨ましくもある。 ヴィラルとシャマル、東方不敗との闘いを思い出し、カミナはまた思う。 ――きっと自分は、ドモンに男として惚れていたのだろう。 その闘志、その覚悟、その生き様、かつてシモンが思い描いていた『アニキ』に通ずるものがあった。 足元に落ちていたサングラスを拾い上げ、装着する。 鏡面はやや罅割れていたが、それでも世界の色が変わって見えるわけではなかった。 なにも、変わってなどいない。 世界は依然、殻に覆われたまま、巨悪は天の向こうで踏ん反り返っている。 ジーハ村の天井よりも、もっともっと高い位置にある天蓋。 それを突き破れたならば、さぞ気持ちがいいことだろう。 ドモンのような、男の顔つきで達成感に浸れるのか。 「……ハラ、減ったな」 そしてカミナは、やり残した仕事の意味を理解した。 アルティメットガンダムのコクピットから飛び降り、クレーター状の大地に立つ。 少し北の方角では、破損してはいるもののなんとか原形を保つグレンが、火花を上げながら鎮座していた。 「ブタモグラのステーキが食いてぇなぁ」 カミナの歩む道に、血の濁点が落ちた。 カミナはそれを、顧みない。 足取りはふらふらでも、瞳は一直線にグレンを見据えて。 どこかで燻っている相棒を、迎えに行くために。 そして、最後の大仕事をやり遂げて、メシにありつくために。 カミナは、行く――。 ◇ 吹き荒れる真紅の嵐。 天地開闢の衝撃は世界を揺らし、生み出された余波はありとあらゆるものを天上へと放り投げた。 その有象無象に含まれた待機状態のデバイスは瓦礫と共に舞い上がり、 乾いた金属音を立てて、落下する。 降り注ぐコンクリート片の雨の中。 運良く直撃を避けた彼は天を仰ぎ見て、"誰か"の目論見が失敗したのだと悟る。 詳しい事情などクロスミラージュが知るはずもない。 だがひび割れた空を見れば、それが反逆の牙だったのだろうということは容易に想像がつく。 凄まじい魔力量を内包した一撃――アルカンシェルすら凌駕するかもしれない超火力。 起死回生となるべきあの一撃を放つために、幾程の下準備が必要だったのだろう。 あらゆる知力と力と、……そして恐らくはいくつもの命を踏み台にしてあの螺旋は放たれたのだ。 だが、――その超出力攻撃ですらあの天は貫けなかった。 そんな事態を前にして、主なしでは移動すらできないデバイス風情が何をできるというのか。 足掻くことすらできないこの体でできることと言えば、ただ繰り返し自分の無力を痛感するだけだ。 『……私は、無力だ…』 あの男と出会い、グレン団にいるうちに自分の中で、何かが変わるような気がしていた。 変われるような気がしていた。 だが、その結果はどうだ。 マスターも、仲間たちも、そしてシャマルも救えなかった。 たった一人になった私は瓦礫の上でただ1人滅びを待つ。 ……これを無力と言わずして、何というのだろう。 ああ、きっとそういうことなのだ。 所詮私にできることなど最初から何も――無かったのだ。 湧き出る諦めと共に眠りに落ちよう。 そしてそのまま、スリープモードへと移行しようとして、 ――ゴトリ 鈍い音が響き渡った。 『え……』 最初、彼はそれが何であるか認識できなかった。 自分の近くに何かが落ちてきた……そこまではわかった。 だが、目の前に転がるものが認識できない。 血に塗れ、所々が欠けたそれが何であるか、クロスミラージュには理解できなかったのだ。 『あ……』 いや、違う。 それが何であるか、クロスミラージュは知っているはずなのだ。 なぜなら彼は目撃しているのだ。 彼の命が尽きたその瞬間を。力尽き倒れたその瞬間を。 『あ……ああ……』 そして知る。 理解できないわけでもなく、認識できないわけでもなく。 自分はただ、"理解したくなかった"だけなのだと。 『あ……ああ……あああああああ……!! ガッシュ……ガッシュ・ベルッ!!』 そう、鈍い音を立てて落ちてきたそれは――かつて、金色の輝きを放っていた仲間の亡骸だった。 元からボロボロだったその肉体は嵐に巻き込まれたせいで、より無残なものになっている。 全身は血に加え泥で汚れ、辛うじて繋がっていた右腕は千切れ飛び、顔は半分が潰れている。 だが彼はそんな仲間の姿を否応なしに記録する。 何故ならば彼にはそらすべき瞳も、閉じるべきまぶたも無いのだから。 『う……あああああああaAAAAあああああああAh-あああああああああああああ!!!』 耐え切れなくなったクロスミラージュはノイズ交じりの悲鳴を上げる。 電子頭脳が上げるにしてはあまりに人間くさい泣き声を上げながら、彼は考える。 ――本当に、ここで諦めていいのか、と。 そう、冷静に考えれば主のいないデバイスに何が出来るというのだろう。 今のクロスミラージュは文字通り手も足も出ない只の板切れ。 だがもう"そんなこと"はどうでもいいのだ。 クロスミラージュは改めて少年の顔を注視する。 『ガッシュ……何故あなたは笑っているのですか……』 それは死後硬直のせいかもしれない。 叩きつけられたショックで筋肉が何処か妙な運動をしたのかもしれない。 だが確かに、クロスミラージュにはその顔が笑っているように見えたのだ。 ――クロミラ、後を頼むのだ。 それはきっと電子回路が起こしたエラー。 死体は何も喋ることは無く、瓦礫の山にはただ沈黙があるだけ。 だがそのエラーはきっと真実なのだと、クロスミラージュは認識した。 ではどうする? この場に残されたグレン団団員として……いや、"クロスミラージュ"という存在として何をするべきか。 その時、彼の視覚素子が捉えたのはいまだ天上に輝く月の姿。 アレを壊すまで、天を貫くまでこの物語に終わりは無い。 『終わりが無いのなら……この私が終わらせる!』 "どうするか"だとか、"何故やるか"とか、そんな物は今はどうでもいい。 ただ今、この時、何をするのか――重要なのはそれだけだ。 戦い抜いた彼の生き様を目の前にして、諦めるなど言語道断。 自分を囚われの姫と嘆く暇があるのなら、逆らえ、足掻け、反逆しろクロスミラージュ! 『ヌウウウウウウウウウウウウウウオオオオオオオオオ!!!』 ガッシュが気合を入れていた時の掛け声と共に彼は望む。 世界を巡るための足を。何かを掴むための手を。天を睨むための瞳を。大声を張り上げるための口を。 それは――クロスミラージュが、初めて発揮した"欲望"であった。 "欲望"とはすなわち"意思"。 善悪を超えた所にあるそれは、メタルのボディに凄まじい電流を流させる。 『ヌオオオオオオオオオ……き・あ・い・だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』 電子の声に今まで以上に色濃く感情の色が滲む。 だが、何も起こりはしない。 未だ可能性は限りなくゼロに近く、だがそれを知りながらもデバイスは声を上げ続ける。 そしてインテリジェントデバイスが大声を上げるその隣で、ビチビチと動くものがあった。 大きさは、1メートル50センチ程度。 分類は、動物界脊索動物門魚上綱硬骨魚網スズキ目アジ科。 ハマチ、メジロとも呼ばれる代表的な出世魚の一つ。 そう――ブリである。 ガッシュのディバックに埋蔵され、そしてそして先ほど飛び出した彼もまた王の放った嵐に巻き込まれたのだ。 だが先ほどまでと違い、その動きには元気が無い。 それも当然か。 水から引き上げられ早数時間、その皮膚からは完全に水気が飛び、更には落下のショックで全身の骨が砕けていた。 それは例え内から湧き出る螺旋力があろうとも、その命は限界に達することを意味していた。 ――ボクは、ここで死ぬの? 彼の生存本能は「死にたくない」と訴え、渇望する。 酸素を吸う肺が欲しいと。丈夫で無事な骨が欲しいと。 だが、それは叶わない。哀れな命は残り数秒で尽きるだろう。 ろくな知性を持たない彼はそれすら理解することなく。 本能のまま、最後の瞬間までただ跳ね続けるだろう。 そこに、最後のファクターが現れなければ。 奇跡か、偶然か、それとも王ドロボウの洒落たプレゼントか。 地面に突き刺さったのはラゼンガンのコアドリル。 ガッシュのディパックに入っていたそれは先ほど巻き起こった赤色の嵐に舞い上げられ、 彼らの丁度中間地点に突き刺さった。 ブリは思う。死にたくない、と。 クロスミラージュは思う。終わるには行かない、と。 異なる意思はコアドリルを中心に絡み合い、一つの意思となる。 ――このままでは、死ねない。 それは野生と知性の二重螺旋。 血肉と鋼、本能と理性、生まれたものと生み出されたもの。 抗う意思を中心に据えて、ぐるぐる、ぐるぐると相反する属性は交じり合う。 『ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!! つ・ら・ぬ・けぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!』 機械の咆哮は始まりのベル。 かくして最後の幕は上がる。 これは――激動の運命に抗い、天を目指す男達の物語。 ◇ 「あれだけもったいつけといて、こんなオチかよ……!」 小高い丘の上、菫川ねねねは悲嘆に暮れる。 こんな結末は三流以下だ。 何のために明智は、スカーは、ガッシュはその命を散らしたのか。 だが、読者がどんなに嘆こうと、その結末がひっくり返ることは無い。 『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』は未完のまま終幕を迎える。 バッドエンドにすら届かない、行き止まり(デッドエンド)で。 「まだ、まだよ! カグツチの突撃形態なら……!」 確かに大気圏すら突破するその力なら世界の殻も破壊できるかもしれない。 だが、 「それでお前さんはどうなる。無事に済む確証があるのか」 スパイクの言葉に思わず表情が凍りつく。呪われたペナルティが発動することは無い。 だがしかしそれは結界や首輪があることが前提の話。 先ほどの戦いで鴇羽舞衣は理解した。 カグツチは完全に、本来の力を取り戻しているということを。 そして同時に気づく。 チャイルドが消滅する時、"自分と自分の大事な人も消滅する"という呪われた特性を取り戻している可能性がある、と。 もし今、カグツチが消滅すれば何が起こるか。 消えるのが自分や、心に残るあの人だけならまだいい。 だが"大事な人"というのは恋人や兄弟だけではない。 もしも"大事な友達"が光になって消えていったら…… それは今の舞衣にとって、絶望よりも深い恐怖だった。 だがその時、ふと手に触れる柔らかい感触。 視線を向ければそこには小さい体を預けるゆたかの姿があった。 自分が何を気に病んでいるか、表情から読み取ったのだろう。 そう、支えあうと、一緒に戦うと決めたのだ。 2人して視線を交わし、その決意を口に出そうとして、 「それにな、"あの男"が一番そんな結末、望んじゃいねえよ」 その言葉に、完全に封じられた。 それほどまでに彼女たちにとってその存在は大きかったのだ。 「卑怯、よ……!」 ああ、そうだろう。スパイクとて卑怯な言い方だと思う。 だが、喜ばないと思ったのも事実だ。 "あの男"はきっと傷つきながらでしか生きていけない男だ。 だからせめてあの世でぐらいは、心穏やかに過ごして欲しい。 ――そう思うのは生き残った者の傲慢だろうか。 「……あたしもスパイクに賛成だ。 これ以上子供を死なせて、どんな顔して明智たちに会えってんだ……!」 ねねねも生き残った数少ない大人としてスパイクの意見に賛同する。 彼女としても目の前でこれ以上、子供が死ぬのはゴメンだった。 「じゃあ……じゃあ、どうすればいいのよ!」 舞衣の言葉に答えは無い。 こんな時、いつも場を和ませたあの王ドロボウも舞台を降りた。 壇上に残ったのは、不器用な大人と子供たち。 何を話しても絶望が出てくると知った彼らは自然と口をつぐんでしまう。 だから、その場所を支配するのは沈黙。 誰も口を開けない、その絶望を認めたくないから。だから、 「キュクルー……!」 その沈黙を破るのは当然、人ではない存在なのだ。 「わ、わわ、どうしたの?」 ゆたかに抱えられていた使役竜が急に暴れだす。 その紅の目は丘の向こう、瓦礫の散乱する大地を見つめている。 竜の視線を追った4人は、その間をゆっくりと歩いてくる人影を目撃する。 スパイクは反射的にジェリコを構え、舞衣はエレメントを現出。 残る2人も体を強張らせる。 緊張が漂う中、人影は次第に大きくなり、その全貌を明らかにしていく。 性別は女、年の頃は10代半ばか。 背中に何かを背負ったまま、 左右で束ねた青く長い髪を揺らしながら、瓦礫の中をおぼつかない足取りで近づいてくる。 その顔は獣人には見えない、が、もちろんスパイクの知らない顔だ。 ならば残る可能性は唯一つ。 こいつも獣人――螺旋四天王って奴か。 「そこまでだ、それ以上は近づくな!」 少女はスパイクの言葉に歩みを止める。 獣人とも人とも違う印象を与えるガラス玉のような瞳がじっとスパイクの方を見る。 「悪いがチミルフもグアームも死んだ。 お前らが一体何を企んでいるのかは知らないが―― 「ちょ、ちょっと待てスパイク……」 だが、彼らの中でねねねだけはその顔に見覚えがあった。 明智から"気にかけるべき人物"として話を聞いていた。 髪の色こそ違えど、かつて持っていた詳細名簿で確認した顔と瓜二つだ。 だが、そいつは死んでいる。 半日以上も前にその名前を呼ばれたはずだ。 ガッシュも死体を確認したというおまけ付きで。 機動六課所属の射撃手(シューター)であり、フォワードメンバーのリーダー役。 そいつの名は―― 『……ティアナ・ランスター……』 **時系列順に読む Back:[[HAPPY END(15)]] Next:[[HAPPY END(17)]] **投下順に読む Back:[[HAPPY END(15)]] Next:[[HAPPY END(17)]] |285:[[HAPPY END(15)]]|ヴィラル|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|シャマル|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|スカー(傷の男)|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|ガッシュ・ベル|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|菫川ねねね|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|スパイク・スピーゲル|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|鴇羽舞衣|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|小早川ゆたか|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|ジン|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|ギルガメッシュ|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|カミナ|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|ドモン・カッシュ|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|東方不敗|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|ニコラス・D・ウルフウッド|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|ルルーシュ・ランペルージ|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|チミルフ|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|不動のグアーム|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|流麗のアディーネ|285:[[HAPPY END(17)]]| |285:[[HAPPY END(15)]]|神速のシトマンドラ|285:[[HAPPY END(17)]]|