獣人と人 ◆DzDv5OMx7c
case1 獣人:アディーネ
月面、獣人の根城テッペリン。
すべてが螺旋の法則に従って作られたその城は、本来真っ直ぐであるはずの廊下も螺旋くれている。
そして今、その螺旋の廊下を進む一人の女がいる。
蠍の尾を持つ女の名は螺旋四天王が一人、流麗のアディーネである。
すべてが螺旋の法則に従って作られたその城は、本来真っ直ぐであるはずの廊下も螺旋くれている。
そして今、その螺旋の廊下を進む一人の女がいる。
蠍の尾を持つ女の名は螺旋四天王が一人、流麗のアディーネである。
彼女が歩みを止めたのは、螺旋城内の施設の一つ……武闘場と呼ばれる場所であった。
通常ならば大観衆の中、獣人同士が互いに武技を競い合うのがこの施設の役割だ。
だが螺旋王消失という緊急事態である今、そこに観客はいない。
いるのはコロッセオの中心に佇む一人の獣人のみだった。
通常ならば大観衆の中、獣人同士が互いに武技を競い合うのがこの施設の役割だ。
だが螺旋王消失という緊急事態である今、そこに観客はいない。
いるのはコロッセオの中心に佇む一人の獣人のみだった。
円を描く戦場の中心で荒れた息を整えるのは青銅色の肌を持った獣人。
元はアディーネと同じ四天王、名をチミルフといった。
東方不敗と名乗るあの老人と手合わせしたのだろう。
全身から発する闘気は彼女の知るどのチミルフよりも武人としての凄みを放っていた。
だが……
元はアディーネと同じ四天王、名をチミルフといった。
東方不敗と名乗るあの老人と手合わせしたのだろう。
全身から発する闘気は彼女の知るどのチミルフよりも武人としての凄みを放っていた。
だが……
「アディーネか……持ち場はどうした」
こちらを一瞥もせず、声だけで問いかけるチミルフ。
彼女が担当していたのは外部勢力……アンチ=スパイラルに対する警戒だ。
だがルルーシュは『今は真なる螺旋力覚醒者が出現するまで、むしろ変に刺激しないほうが良い』と判断。
よってその任を解かれ、シトマンドラのサポートを言い渡されていたのだが――
彼女が担当していたのは外部勢力……アンチ=スパイラルに対する警戒だ。
だがルルーシュは『今は真なる螺旋力覚醒者が出現するまで、むしろ変に刺激しないほうが良い』と判断。
よってその任を解かれ、シトマンドラのサポートを言い渡されていたのだが――
「アンタも知ってるだろ、シトマンドラの性格を?
下手な手出しはアイツの誇りを刺激して邪魔するだけさね」
下手な手出しはアイツの誇りを刺激して邪魔するだけさね」
あの年若い獣人は人一倍プライドが高い。
サポートに回ればそのプライドを妙な方向で刺激し、事態をこじれさせかねない。
アンチスパイラルの尖兵との邂逅、螺旋王の離反、参加者の小僧と手を組む……
ここ数時間でこれだけの異常事態が起こっているのだ。
正直、これ以上の面倒ごとは御免こうむりたい――そう判断したのも嘘ではない。
そう、嘘ではない、が……
サポートに回ればそのプライドを妙な方向で刺激し、事態をこじれさせかねない。
アンチスパイラルの尖兵との邂逅、螺旋王の離反、参加者の小僧と手を組む……
ここ数時間でこれだけの異常事態が起こっているのだ。
正直、これ以上の面倒ごとは御免こうむりたい――そう判断したのも嘘ではない。
そう、嘘ではない、が……
「ふむ……ならば久方ぶりに手合わせでもするか?」
元々彼女はチミルフと同じ、武によって功を成して来た女傑である。
故に時にぶつかり合いながらも、盟友として共に歩んできたのだ。
遥か昔にはアディーネとも幾度と無く手合わせしたものだ。
だがその提案に対し、歴戦の女武将は目を伏せる。
故に時にぶつかり合いながらも、盟友として共に歩んできたのだ。
遥か昔にはアディーネとも幾度と無く手合わせしたものだ。
だがその提案に対し、歴戦の女武将は目を伏せる。
「……今はそんな気分じゃないんでね、やめとくよ」
アディーネのその様子にも気にした風は無く、
「そうか」と、言葉少なに背を向け、チミルフは再び巨大な槌を振りかぶる。
そして終わりの無い修練は再開される。
二人の間に残されたのはハンマーが空を切る音のみ。
その音から逃げるように、アディーネはコロッセオを後にした。
「そうか」と、言葉少なに背を向け、チミルフは再び巨大な槌を振りかぶる。
そして終わりの無い修練は再開される。
二人の間に残されたのはハンマーが空を切る音のみ。
その音から逃げるように、アディーネはコロッセオを後にした。
* * *
螺旋の廊下に再び足音が響き渡る。
だがその足取りは更に重く、表情に走る苦味は増している。
彼女の脳裏に浮かぶのはチミルフのことだ。
一見しただけでわかった。チミルフはこれ以上ないぐらいに研ぎ澄まされている。
それは強敵を求め、どこか燻り続けてきた彼を見てきたアディーネにとって喜ぶべき事態でもあったはずだ。
――それが自分たちと共に歩んだ栄光を捨て去った結果だとしてもだ。
だがその足取りは更に重く、表情に走る苦味は増している。
彼女の脳裏に浮かぶのはチミルフのことだ。
一見しただけでわかった。チミルフはこれ以上ないぐらいに研ぎ澄まされている。
それは強敵を求め、どこか燻り続けてきた彼を見てきたアディーネにとって喜ぶべき事態でもあったはずだ。
――それが自分たちと共に歩んだ栄光を捨て去った結果だとしてもだ。
だが、今の彼は誇り高き武人ではない。
ルルーシュの、ニンゲンの下僕と化してしまったのだ。
一方的な、ギアスという名の暴力によって。
そしてチミルフが武人として尊ければ尊いほど、その在り様は哀れな道化に堕ちていく。
あまりにも無様。あまりにも惨め。
そしてその姿を否応無く見せ付けられる彼女にとって、それは拷問以外の何者でもなかった。
ルルーシュの、ニンゲンの下僕と化してしまったのだ。
一方的な、ギアスという名の暴力によって。
そしてチミルフが武人として尊ければ尊いほど、その在り様は哀れな道化に堕ちていく。
あまりにも無様。あまりにも惨め。
そしてその姿を否応無く見せ付けられる彼女にとって、それは拷問以外の何者でもなかった。
……そう、アディーネがシトマンドラのサポートに付かなかった最大の理由。
それはルルーシュ・ランペルージへの不信、である。
ギアス。ルルーシュの持つ絶対遵守の魔眼。
しかも事前にグアームから聞いた情報によれば、条件を設定することで遅効性の発動も出来るらしい。
それはルルーシュ・ランペルージへの不信、である。
ギアス。ルルーシュの持つ絶対遵守の魔眼。
しかも事前にグアームから聞いた情報によれば、条件を設定することで遅効性の発動も出来るらしい。
『それは後々説明するさ。――では同志諸君! これより『螺旋王捕獲作戦』の全容を発表する!』
まったくお笑いだ。それでよく"同志"だなどと嘯けたものだ。
そんな力がある限り、決して対等になどはなりえないことは貴様が一番知っていることだろうに。
今この瞬間も自分が操られているという可能性は、ルルーシュ以外、誰も否定できないのだ。
自分が自分で無くなる。哀れな人形に成り下がる。
それは、戦場で無双を誇った女傑の胸に消えない恐怖を刻み付けた。
そんな力がある限り、決して対等になどはなりえないことは貴様が一番知っていることだろうに。
今この瞬間も自分が操られているという可能性は、ルルーシュ以外、誰も否定できないのだ。
自分が自分で無くなる。哀れな人形に成り下がる。
それは、戦場で無双を誇った女傑の胸に消えない恐怖を刻み付けた。
そしてその恐怖は次第にルルーシュに対する苛立ちへと変わっていく。
貴様はチミルフを、獣人を、いや、他でもないあたしを侮辱した。
胸の中で渦巻く靄が全身へと広がっていく。
だが――
貴様はチミルフを、獣人を、いや、他でもないあたしを侮辱した。
胸の中で渦巻く靄が全身へと広がっていく。
だが――
「まったく見ていられんのう、チミルフの奴め……」
「!! 覗き見とはいい趣味をしてるじゃないか、グアーム……!」
「!! 覗き見とはいい趣味をしてるじゃないか、グアーム……!」
いつの間にかやってきた顔なじみに顔をしかめ、不快の色を露にする。
チミルフのことを口にするとは、少なくとも闘技場でのやり取りから見ていたのだろう。
だがグアームはそんなことを気にした様子も無く、言葉を続ける。
チミルフのことを口にするとは、少なくとも闘技場でのやり取りから見ていたのだろう。
だがグアームはそんなことを気にした様子も無く、言葉を続ける。
「あのニンゲンが気に食わんのは分かる。
じゃが……あの小僧は紛れも無い天才よ。
螺旋王への復讐をなすには必要不可欠な人材――」
「わかってるんだよ、そんなことは!」
じゃが……あの小僧は紛れも無い天才よ。
螺旋王への復讐をなすには必要不可欠な人材――」
「わかってるんだよ、そんなことは!」
アディーネという獣人は決して愚鈍ではない。
その理性はあの少年が必要な存在であることを認めている。
しかしだからこそ、苛立ちは消えない。
ルルーシュに対する敵意は、それを跳ね除けられない自己嫌悪となってそのまま自身に返る。
理性と感情が鬩ぎ合い、一層彼女を追い詰めていく。
その理性はあの少年が必要な存在であることを認めている。
しかしだからこそ、苛立ちは消えない。
ルルーシュに対する敵意は、それを跳ね除けられない自己嫌悪となってそのまま自身に返る。
理性と感情が鬩ぎ合い、一層彼女を追い詰めていく。
「ふむ、ルルーシュ・ランペルージ……今や奴は情報という力を手に入れた知の化け物じゃ。
特にあの箱庭の中に関してはまさに神に等しい存在といってもいいじゃろう」
特にあの箱庭の中に関してはまさに神に等しい存在といってもいいじゃろう」
グアームはそこで言葉を切ると、懐から"鍵"を取り出す。
怪訝な表情になるアディーネを前にグアームは口の端を吊り上げ、更に言葉を重ねる。
怪訝な表情になるアディーネを前にグアームは口の端を吊り上げ、更に言葉を重ねる。
「だが我らが求めているのは王の代わりであって神ではない。
じゃから――"保険"が必要だとは思わんか?」
じゃから――"保険"が必要だとは思わんか?」
その笑みは、ただ、深い泥のような陰湿な色を持っていた。
case2 獣人:チミルフ
「はあああああああっ!」
裂帛の気合とともにハンマーが空を切り裂く。
疲労から回復したチミルフは一心に槌を振るっていた。
疲労から回復したチミルフは一心に槌を振るっていた。
先ほどの東方不敗という男との戦いは心躍るものであった。
だが同時に自分の"弱さ"を感じ取る結果でもあった。
だが同時に自分の"弱さ"を感じ取る結果でもあった。
――認めよう、我が実力はあの老人に遠く及ばない。
さほどのショックも無く、事実をありのまま受け止める。
しかしてチミルフは絶望することも無く修練を続ける。
怒涛の二つ名と慢心を捨てたチミルフは、まるで己を一つの武器とするかのようにひたすらに己を鍛え続ける。
しかしてチミルフは絶望することも無く修練を続ける。
怒涛の二つ名と慢心を捨てたチミルフは、まるで己を一つの武器とするかのようにひたすらに己を鍛え続ける。
もっと強く、もっと剛く。
武人である自分がルルーシュの役に立つにはこの道を突き詰めるしかない。
先ほどのアディーネの様子が気にならないといえば嘘になる。
だがそれすら振り切って、ただひたすらに心を研ぎ澄ませていく。
だが視界の端に白い影が映り、視線を上げる。
そこにあったのは孔雀の羽を持つ同僚の姿であった。
武人である自分がルルーシュの役に立つにはこの道を突き詰めるしかない。
先ほどのアディーネの様子が気にならないといえば嘘になる。
だがそれすら振り切って、ただひたすらに心を研ぎ澄ませていく。
だが視界の端に白い影が映り、視線を上げる。
そこにあったのは孔雀の羽を持つ同僚の姿であった。
「どうした、シトマンドラ」
「あ、ああ……」
「あ、ああ……」
歯切れが悪い。
いつも過剰なまでに自信を振りまくこの男らしくもない。
いつも過剰なまでに自信を振りまくこの男らしくもない。
「……チミルフ、お前はどう思う。
この作戦、成功すると思うか?」
この作戦、成功すると思うか?」
シトマンドラの口から出たのは不安を帯びた弱弱しい声色。
確かに賭けというにも分が悪い勝負だ。
チミルフ自身も不安になる気持ちがないといえば嘘になる。
だが彼はそれを惰弱と切って捨てる。
確かに賭けというにも分が悪い勝負だ。
チミルフ自身も不安になる気持ちがないといえば嘘になる。
だが彼はそれを惰弱と切って捨てる。
「知らんな。俺は信じるだけだ、我が王を。
そして獣人が優れている種であると存在するためにも、な」
そして獣人が優れている種であると存在するためにも、な」
何という矛盾だらけの言葉。
人を頂きに擁き、どうして獣人の誇りを証明できるのか。
チミルフの中には螺旋王ロージェノム……あの男に仕えていた記憶はある。
だがその記憶があったとしても、ギアスによる思考誘導は細かな矛盾を無視する。
ニンゲンがそれほど長生きできるはずがないという事実も、
そもそもルルーシュが参加者の中にいるのがおかしいという矛盾にさえチミルフは気づかない。
同僚であるはずのこの男が同じ王に仕えていないという明らかな矛盾にすら気づくことは無い。
人を頂きに擁き、どうして獣人の誇りを証明できるのか。
チミルフの中には螺旋王ロージェノム……あの男に仕えていた記憶はある。
だがその記憶があったとしても、ギアスによる思考誘導は細かな矛盾を無視する。
ニンゲンがそれほど長生きできるはずがないという事実も、
そもそもルルーシュが参加者の中にいるのがおかしいという矛盾にさえチミルフは気づかない。
同僚であるはずのこの男が同じ王に仕えていないという明らかな矛盾にすら気づくことは無い。
「そう、だな……我らに出来るのはすべきことをなすだけ、か」
それだけ言い残すとシトマンドラはどこかぼんやりとした足取りで立ち去った。
気を取り直し再び修練に戻ろうとしたチミルフの視界に入るのはシトマンドラとは正反対の黒いシルエット。
十字架を背負ったあの男。
生身でビャコウと互角に戦ったニンゲンの戦士。
そういえば、あの男は……
気を取り直し再び修練に戻ろうとしたチミルフの視界に入るのはシトマンドラとは正反対の黒いシルエット。
十字架を背負ったあの男。
生身でビャコウと互角に戦ったニンゲンの戦士。
そういえば、あの男は……
case3 人間:ニコラス・D・ウルフウッド
足元に転がる吸殻の数を数えるのは10でやめた。
腹減ったら飯食って、眠くなったら寝る――そうは言ったものの現状眠たくもないし腹も減っていない。
パニッシャーの弾丸補充は済み、念願の煙草も手に入れた。
適当にその辺りをぶらついてみたが特に興味を引かれるものも無い。
そう、平たく言ってウルフウッドは暇を持て余していた。
だから普段なら相手しないような、相手の相手でもしようかと思ってしまったのかもしれない。
腹減ったら飯食って、眠くなったら寝る――そうは言ったものの現状眠たくもないし腹も減っていない。
パニッシャーの弾丸補充は済み、念願の煙草も手に入れた。
適当にその辺りをぶらついてみたが特に興味を引かれるものも無い。
そう、平たく言ってウルフウッドは暇を持て余していた。
だから普段なら相手しないような、相手の相手でもしようかと思ってしまったのかもしれない。
「……何や用か、ワレ」
目を上げればそこにあるのはゴリラ獣人の姿。
名は確かチミルフと言ったか。それしか知らないし、知りたいとも思わない。
以前の奴ならともかく、どんな事があったのか黒もやしの駒に成り下がった奴になど興味は無い。
だが、
名は確かチミルフと言ったか。それしか知らないし、知りたいとも思わない。
以前の奴ならともかく、どんな事があったのか黒もやしの駒に成り下がった奴になど興味は無い。
だが、
その口から発せられた名前に、マッチを擦ろうとした手が止まる。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
その正体は人によって作られた、人を超えたもの。
そのコンセプトは獣人に通じるものがある。
戦闘の最中、目の前の男自身から聞いた名前。
生き残りのニンゲンから話を聞こうと思ったが、この状況下では難しい。
また、元の世界からの知り合いであるこの男に聞いたほうが一番いいだろう、とチミルフは判断した。
意外な人物が口にした意外な人物の名前に言葉を失うウルフウッド。
だがそんな彼らの前に新たな来訪者が現れる。
その正体は人によって作られた、人を超えたもの。
そのコンセプトは獣人に通じるものがある。
戦闘の最中、目の前の男自身から聞いた名前。
生き残りのニンゲンから話を聞こうと思ったが、この状況下では難しい。
また、元の世界からの知り合いであるこの男に聞いたほうが一番いいだろう、とチミルフは判断した。
意外な人物が口にした意外な人物の名前に言葉を失うウルフウッド。
だがそんな彼らの前に新たな来訪者が現れる。
「……ふむ、それはワシも聞きたいところよ。
あの赤外套……どうやらなかなか面白い経歴の持ち主であるようだな」
あの赤外套……どうやらなかなか面白い経歴の持ち主であるようだな」
いつの間にそこにいたのか、東方不敗がウルフウッドの背後から現れる。
その右手に紙の束をいじりながら。
まだ温かいコピー用紙に書き込まれたのはグアームによってまとめられた参加者の情報の数々。
そしてその紙束の一番上に重ねられているのはヴァッシュ・ザ・スタンピードのものだった。
その右手に紙の束をいじりながら。
まだ温かいコピー用紙に書き込まれたのはグアームによってまとめられた参加者の情報の数々。
そしてその紙束の一番上に重ねられているのはヴァッシュ・ザ・スタンピードのものだった。
人のエゴによって生み出された人ならざるもの。
だがその出生とは裏腹に人を愛し、人という種を信じ続けた。
言うなれば、人であり人を信じることが出来なくなった自分とは真逆の存在。
故に東方不敗はその違いが知りたかった。
だがその出生とは裏腹に人を愛し、人という種を信じ続けた。
言うなれば、人であり人を信じることが出来なくなった自分とは真逆の存在。
故に東方不敗はその違いが知りたかった。
2人の視線を受け、ウルフウッドは大きくため息をつく。
『――お前には死んで欲しくないんだよ』
思い出すのはいつものバカみたいに笑う笑顔と、あの時向けられた本当に暖かい微笑みだけ。
だから、
だから、
「――や」
言葉は口をついて出た。
何かを考える間もなく、息をするように極々自然に。
何かを考える間もなく、息をするように極々自然に。
「あいつは――人間や。
とんでもなくお人好しでアホウな、ただの、な……」
とんでもなくお人好しでアホウな、ただの、な……」
その言葉に万感の想いを滲ませて、それ以上何も言うことは無いとでも言うように。
言外に何かを感じたのか、問いかけた2人ともそれ以上は何も言わない。
そして最初にチミルフが、そして次に東方不敗がウルフウッドの元から去る。
言外に何かを感じたのか、問いかけた2人ともそれ以上は何も言わない。
そして最初にチミルフが、そして次に東方不敗がウルフウッドの元から去る。
そしてその場に残されたのは十字架を背負った一人の男。
男は自身に問いかけるように、呟く。
男は自身に問いかけるように、呟く。
「せやから決着をつける……つけなきゃアカンのや」
あの時、人をやめなくて良かったと、彼は思う。
ヴァッシュは人間、彼が信じたのも人間。
であれば立ち塞がるべき自分も人であるべきだ。
決着は人間の手で。
神だろうと悪魔だろうとこの世界に入ることは許されない。
ヴァッシュは人間、彼が信じたのも人間。
であれば立ち塞がるべき自分も人であるべきだ。
決着は人間の手で。
神だろうと悪魔だろうとこの世界に入ることは許されない。
気を取り直し、新しい煙草に火をつける。
漂う紫煙の先に浮かんだのは愛しい女性の面影。
ミリィ・トンプソン。
その表情は悲しみの色を放っている。
漂う紫煙の先に浮かんだのは愛しい女性の面影。
ミリィ・トンプソン。
その表情は悲しみの色を放っている。
だがそれでもウルフウッドの心は揺るがない。揺るぐはずも無い。
何故ならここは男の世界。
ウルフウッドとヴァッシュしかいない、他人を拒絶する灰色の世界。
人間に試練を与える外道牧師こそ我が天命。
彼にとってアンチ=スパイラルの降臨も、ルルーシュの思惑も、世界の命運すらどうでもいい。
彼がこだわるのは最後の瞬間まで人を信じた男との一世一代の大勝負のみ。
何故ならここは男の世界。
ウルフウッドとヴァッシュしかいない、他人を拒絶する灰色の世界。
人間に試練を与える外道牧師こそ我が天命。
彼にとってアンチ=スパイラルの降臨も、ルルーシュの思惑も、世界の命運すらどうでもいい。
彼がこだわるのは最後の瞬間まで人を信じた男との一世一代の大勝負のみ。
「……勝負や、ヴァッシュ・ザ・スタンピード」
ニコラス・D・ウルフウッド。
処罰するもの(パニッシャー)と共に、今はただ、来るべき"勝負"の時を待つ。
処罰するもの(パニッシャー)と共に、今はただ、来るべき"勝負"の時を待つ。
case4 獣人:シトマンドラ
モニター室に戻ったシトマンドラは椅子に深く腰掛ける。
薄暗い闇の中、モニターには残りの参加者たちの様子がリアルタイムで映し出されている。
だが、今の彼にはまるで意味の無い光景のように目の前を通り過ぎていく。
茫洋とした意識の中で彼が考えるのはただ一つ。
"王"のことだ。
だが、今の彼にはまるで意味の無い光景のように目の前を通り過ぎていく。
茫洋とした意識の中で彼が考えるのはただ一つ。
"王"のことだ。
シトマンドラは智謀・策謀を何より好む。
だが己自身がトップに立ち、支配するようなやり方ではそれを最大限に生かせないことも理解している。
だから彼の行き着く結論は、一つ。
だが己自身がトップに立ち、支配するようなやり方ではそれを最大限に生かせないことも理解している。
だから彼の行き着く結論は、一つ。
――やはり自分には王が必要だ。
だが"王"のことを考える時、荘厳な雰囲気をまとった螺旋王のヴィジョンと同時、
どうしても黒髪の少年が玉座に着く光景を幻視してしまう。
その少年はただの人間であるはずだ。それなのに、だ。
どうしても黒髪の少年が玉座に着く光景を幻視してしまう。
その少年はただの人間であるはずだ。それなのに、だ。
「ルルーシュ・ランペルージ……」
その名を持つのは脆弱で、愚鈍なはずのニンゲン。
だが垣間見せた智謀は彼を遥かに上回っていた。
だが垣間見せた智謀は彼を遥かに上回っていた。
そして自身の反論をことごとく封じられたその瞬間のことを思い返すと、
屈辱に締め付けられると同時、胸が高鳴る自分を自覚する。
屈辱に締め付けられると同時、胸が高鳴る自分を自覚する。
それに言葉では説明できない、人を惹きつける"何か"。
王に必要な力――それはカリスマと呼ばれる、"不可能を可能にする"力。
ゼロとして数々の軌跡を作り出した彼は間違いなくそれを持っていた。
そして獣としての本能か……シトマンドラは如実にそれを感じ取っていた。
王に必要な力――それはカリスマと呼ばれる、"不可能を可能にする"力。
ゼロとして数々の軌跡を作り出した彼は間違いなくそれを持っていた。
そして獣としての本能か……シトマンドラは如実にそれを感じ取っていた。
だから期待してしまう。
自分が今まで見ることの無かった何かを見せてくれるのではないかと。
自分の知らぬ、次のステージへと押し上げてくれるのではないかと。
その期待は止まらない。逸る心を抑えきれない。
嗚呼、何故こんなにも心が躍るのか……!
自分が今まで見ることの無かった何かを見せてくれるのではないかと。
自分の知らぬ、次のステージへと押し上げてくれるのではないかと。
その期待は止まらない。逸る心を抑えきれない。
嗚呼、何故こんなにも心が躍るのか……!
――憎いのか、まだ慕っているのか。
未だ自分たちを捨てた螺旋王への感情の答えは出ていない。
同様にルルーシュへの感情も答えは出ていない。
未だ下に見ているのか、対等にありたいと思っているのか。
それとも……自らの上に、王として据えたいと思っているのか。
未だ自分たちを捨てた螺旋王への感情の答えは出ていない。
同様にルルーシュへの感情も答えは出ていない。
未だ下に見ているのか、対等にありたいと思っているのか。
それとも……自らの上に、王として据えたいと思っているのか。
闇の中でシトマンドラは自らに問いかける。
自分が仕えるべき、否、"仕えたい"王は、いったいどちらなのかと。
自分が仕えるべき、否、"仕えたい"王は、いったいどちらなのかと。
case5 人間:東方不敗マスターアジア
(――なるほど、そういうことであったか)
ウルフウッドに感じていた親近感。
それは"救い"だ。
自分はドモンに、あの男はヴァッシュに"救い"を求めていたのだろう。
人をくだらないと思いながら、愛着を持つ。
何とも青臭い感情だ。
それは"救い"だ。
自分はドモンに、あの男はヴァッシュに"救い"を求めていたのだろう。
人をくだらないと思いながら、愛着を持つ。
何とも青臭い感情だ。
「フ……あ奴もワシもまだまだ青い、ということか……
だが、ワシは一足早くそこから抜けさせてもらうぞ」
だが、ワシは一足早くそこから抜けさせてもらうぞ」
表情は苦笑から一変し、厳しいものへと変わっていく。
グアームから受け取った資料は何よりも螺旋王の技術力の高さが読み取れた。
彼の世界も相当に科学技術が進歩していたとはいえ、瞬間転移や別次元へ渡るといった技術は聞いた事も無い。
グアームから受け取った資料は何よりも螺旋王の技術力の高さが読み取れた。
彼の世界も相当に科学技術が進歩していたとはいえ、瞬間転移や別次元へ渡るといった技術は聞いた事も無い。
だがしかしそれだけの力を持ってしても、アンチ=スパイラルに対しては逃げの一手を取らざるを得なかったのだ。
不意にまぶたを閉じれば浮かぶのは瓦礫の山。
"理想的な戦争"と称し、人類が起こしてきたガンダムファイトの負の遺産。
アンチ=スパイラルの力、それさえあればあの光景を無くす事ができる……
肩を並べ戦えば、すべての平行世界からなくすことも可能だろう。
ああ、それは何と心躍る夢だろうか。
"理想的な戦争"と称し、人類が起こしてきたガンダムファイトの負の遺産。
アンチ=スパイラルの力、それさえあればあの光景を無くす事ができる……
肩を並べ戦えば、すべての平行世界からなくすことも可能だろう。
ああ、それは何と心躍る夢だろうか。
だがその時、胸の奥からせり上がってくる熱に足を止め、咳き込む。
思わず口元に添えた手に付いたのは粘り気のある真っ赤な液体――血だ。
思わず口元に添えた手に付いたのは粘り気のある真っ赤な液体――血だ。
(……くっ、何故今になって……)
会場で兆候すら出なかった持病が何故今更芽を出したか?
その原因はルルーシュたちが先ほど受けた"治療"にある。
獣人はその生態構造上、1日1回は調整槽で調整を受ける。
定期的なメンテナンス……それ故に進行の進んだ病気に対する対策は概念として薄い。
その結果、体力を回復させる際に東方不敗の体を蝕む病魔を加速させてしまったのだ。
そして先ほどのカミナとの一戦はその口火を切る結果となってしまったらしい。
だが、
その原因はルルーシュたちが先ほど受けた"治療"にある。
獣人はその生態構造上、1日1回は調整槽で調整を受ける。
定期的なメンテナンス……それ故に進行の進んだ病気に対する対策は概念として薄い。
その結果、体力を回復させる際に東方不敗の体を蝕む病魔を加速させてしまったのだ。
そして先ほどのカミナとの一戦はその口火を切る結果となってしまったらしい。
だが、
「……かまうものか」
そう、そんなことは最早些事。
口の中に広がる鉄の味を飲み下し、視線を横に走らせる。
その視線の先にあるのはこちらを見下ろす監視カメラ。
七人の同志……とはいえ所詮は利益だけで寄り集まった烏合の衆だ。
そんな奴らに自らの弱みを晒せばどうなるか、考えるまでも無い。
今の自分が考えるべきはアンチ=スパイラルとの接触のみ。
口の中に広がる鉄の味を飲み下し、視線を横に走らせる。
その視線の先にあるのはこちらを見下ろす監視カメラ。
七人の同志……とはいえ所詮は利益だけで寄り集まった烏合の衆だ。
そんな奴らに自らの弱みを晒せばどうなるか、考えるまでも無い。
今の自分が考えるべきはアンチ=スパイラルとの接触のみ。
そもそもアンチ=スパイラルの力を得さえすれば、寿命など大した問題ではない。
そのために螺旋力覚醒者を出すために今は尽力しよう。
どちらにせよ、この実験が成功しなければ自分は、否、自分たちは八方塞なのだ。
そのために螺旋力覚醒者を出すために今は尽力しよう。
どちらにせよ、この実験が成功しなければ自分は、否、自分たちは八方塞なのだ。
(あと少し、あと少し持てばよい……)
case6 人間:ルルーシュ・ランペルージ
「ふぅ……」
ルルーシュは息をついてモニターから目を放す。
如何に彼が天才とはいえ、肉体がある以上、頭脳を使うことに疲労を覚えないわけではない。
自分の知る世界とは大きく操作系統の異なる機械群相手であればなおさらだ。
だが、ルルーシュはそれでも第3回放送まで何があったかを大体把握していた。
そして情報を把握したその顔に浮かぶのは疲労と――苛立ち。
如何に彼が天才とはいえ、肉体がある以上、頭脳を使うことに疲労を覚えないわけではない。
自分の知る世界とは大きく操作系統の異なる機械群相手であればなおさらだ。
だが、ルルーシュはそれでも第3回放送まで何があったかを大体把握していた。
そして情報を把握したその顔に浮かぶのは疲労と――苛立ち。
「本当に許しがたい存在だよ……ヴィラル」
スザクを殺しておいて、のうのうと女と乳繰り合う姿はルルーシュの神経を嫌が応にも逆撫でした。
たとえそれが本人達にとって必死の打算的行動の塊であったとしても、だ。
だがしかるべき罰を与えるにしても、本来の目的を優先するべきだ。
私情に囚われ、本来の目的――ナナリーの元へ帰ることが不可能になったのでは笑い話にもなりはしない。
たとえそれが本人達にとって必死の打算的行動の塊であったとしても、だ。
だがしかるべき罰を与えるにしても、本来の目的を優先するべきだ。
私情に囚われ、本来の目的――ナナリーの元へ帰ることが不可能になったのでは笑い話にもなりはしない。
ルルーシュの前のモニターに浮かぶのは、会場に残された12人の参加者の顔写真。
そしてその横に並ぶのはルルーシュ自身が製作した体力や知力といった彼らの固有ステータス。
それらを眺めながら、彼は考える。
そしてその横に並ぶのはルルーシュ自身が製作した体力や知力といった彼らの固有ステータス。
それらを眺めながら、彼は考える。
――この中から真なる螺旋力覚醒者、天元突破をなしえるものを出さなければならない。
故にルルーシュは彼ら……贄について思考を巡らせる。
普通に考えれば天元突破に最も近い可能性を持つのはやはりカミナであろう。
螺旋力に最も近しい存在。別世界の螺旋王のいた世界に存在した男。
最も覚醒する可能性の高かったシモンが潰えた今、目覚める可能性は最も高いと言えるだろう。
螺旋力に最も近しい存在。別世界の螺旋王のいた世界に存在した男。
最も覚醒する可能性の高かったシモンが潰えた今、目覚める可能性は最も高いと言えるだろう。
だが、前も考えた通り本来の"螺旋力"と"真なる螺旋力"は似て非なる可能性がある。
その証拠がガッシュ・ベル、そしてシャマルの存在だ。
元々人間である戦闘機人や調整されたというヴィラルなら螺旋遺伝子を持っている可能性もあろう。
だが異界である"魔界"出身であるという魔物や擬似魔法生命体に螺旋族のDNAが入ってる可能性は……恐らく無い。
しかしその彼らは螺旋力に覚醒している。
これは彼らが通常とは異なる覚醒――"天元突破"に一番近いという証拠ではないのか?
その証拠がガッシュ・ベル、そしてシャマルの存在だ。
元々人間である戦闘機人や調整されたというヴィラルなら螺旋遺伝子を持っている可能性もあろう。
だが異界である"魔界"出身であるという魔物や擬似魔法生命体に螺旋族のDNAが入ってる可能性は……恐らく無い。
しかしその彼らは螺旋力に覚醒している。
これは彼らが通常とは異なる覚醒――"天元突破"に一番近いという証拠ではないのか?
通常と異なるといえば、菫川ねねね、スカーの両名が螺旋力に覚醒めた状況も特殊だ。
彼女らが螺旋力を発現させたのは戦いの中ではない。
ねねねは本を書き始めたとき、スカーは結界に触れたとき。
どちらも戦闘、命の鬩ぎ合いとは程遠い行為だ。
故に考え方を変えれば、"天元突破"する可能性が高いと言えなくもない。
彼女らが螺旋力を発現させたのは戦いの中ではない。
ねねねは本を書き始めたとき、スカーは結界に触れたとき。
どちらも戦闘、命の鬩ぎ合いとは程遠い行為だ。
故に考え方を変えれば、"天元突破"する可能性が高いと言えなくもない。
一方で螺旋力が想定どおりのものならば"彼女"が近いのではないか、とルルーシュは考える。
ルルーシュの視線の先にあるのは一際幼く見えるその容貌。
生き残りの中で何の力も持たず、最も弱い少女……小早川ゆたか。
彼女は弱い……体力に関しては平均値にすら届いていない。
だがそれは逆に言えば逆境に陥りやすいということでもある。
その証拠に最も早く螺旋力に覚醒したのも彼女だ。
ならば"天元突破"を更なる覚醒と仮定するならば最も覚醒に近いのは彼女ではないか?
ルルーシュの視線の先にあるのは一際幼く見えるその容貌。
生き残りの中で何の力も持たず、最も弱い少女……小早川ゆたか。
彼女は弱い……体力に関しては平均値にすら届いていない。
だがそれは逆に言えば逆境に陥りやすいということでもある。
その証拠に最も早く螺旋力に覚醒したのも彼女だ。
ならば"天元突破"を更なる覚醒と仮定するならば最も覚醒に近いのは彼女ではないか?
また、エレメントとチャイルド……
人の想いによって力を引き出すその在りようは螺旋力に一番近いと言える。
事実、4人のHiMEは全員螺旋の力に覚醒している。
ならばHiME最後の生き残りである鴇羽舞衣。
彼女もまた、"天元突破"する可能性が高いと考えることが出来る。
人の想いによって力を引き出すその在りようは螺旋力に一番近いと言える。
事実、4人のHiMEは全員螺旋の力に覚醒している。
ならばHiME最後の生き残りである鴇羽舞衣。
彼女もまた、"天元突破"する可能性が高いと考えることが出来る。
そして真なる螺旋覚醒がまったく方向性が違うというのならば
いまだ覚醒していないスパイク、ジン、ギルガメッシュ……彼らこそ相応しいのではないか。
いまだ覚醒していないスパイク、ジン、ギルガメッシュ……彼らこそ相応しいのではないか。
……つまるところ螺旋力そのものの定義が曖昧な現状では、誰もが天元突破する可能性があるということだ。
やはり新たな情報が入らない限り後発は進みはしない、か。
やはり新たな情報が入らない限り後発は進みはしない、か。
到達した結論を心の隅に追いやり、放送を終えた会場の状態に移る。
温泉を禁止エリアに指定した今、ヴィラルは彼らに対し最後の侵攻を仕掛けるだろう。
もしも天元突破をするものが出なかった場合、カードを切らざるを得ない。
だが、投入のタイミングには慎重を期さねばならない。
最初の一手を打った時点で放送に載せた偽情報のアドバンテージは消える。
カードを切れるのは一度きり、そして選択肢は今のところ3種。
温泉を禁止エリアに指定した今、ヴィラルは彼らに対し最後の侵攻を仕掛けるだろう。
もしも天元突破をするものが出なかった場合、カードを切らざるを得ない。
だが、投入のタイミングには慎重を期さねばならない。
最初の一手を打った時点で放送に載せた偽情報のアドバンテージは消える。
カードを切れるのは一度きり、そして選択肢は今のところ3種。
チミルフ。
ギアスのおかげで3人の、いや七人の同志の内で最も忠実に任務をこなしてくれる。
だが、あの二人にギアスのことが知られてないとはいえ、
確実に裏切らない手駒が手元にあるのと無いのでは安心度が大きく違う。
さらに切れるカードのうち戦闘力が一番低いのも不安要素だ。
ガンメンという機動兵器に乗ることで底上げを図ることは出来るが、
あのエヌマ・エリシュという一撃が相手では、大きな的以外の何者でもない。
ギアスのおかげで3人の、いや七人の同志の内で最も忠実に任務をこなしてくれる。
だが、あの二人にギアスのことが知られてないとはいえ、
確実に裏切らない手駒が手元にあるのと無いのでは安心度が大きく違う。
さらに切れるカードのうち戦闘力が一番低いのも不安要素だ。
ガンメンという機動兵器に乗ることで底上げを図ることは出来るが、
あのエヌマ・エリシュという一撃が相手では、大きな的以外の何者でもない。
ニコラス・D・ウルフウッド。
生身であればチミルフ以上に働いてくれるだろう。
単身で機動兵器と互角に戦ったその実力……相手にしても引けはとるまい。
また目的が試練となる、である以上反意を抱く可能性も低いと考えられる。
だが……恐らく手加減とは程遠いだろう。
覚醒前に全滅させてしまう可能性すらある。
唯一アンチスパイラルとの接触を目的としていないだけに、そうしてしまう可能性があるのが懸念材料か。
生身であればチミルフ以上に働いてくれるだろう。
単身で機動兵器と互角に戦ったその実力……相手にしても引けはとるまい。
また目的が試練となる、である以上反意を抱く可能性も低いと考えられる。
だが……恐らく手加減とは程遠いだろう。
覚醒前に全滅させてしまう可能性すらある。
唯一アンチスパイラルとの接触を目的としていないだけに、そうしてしまう可能性があるのが懸念材料か。
東方不敗マスターアジア。
実力は文句なしに最強であろうし、目的が一致している以上、手加減もするであろうしと申し分ない。
またマスターガンダムを与えればまず負けることは無いだろう。
だが……一番信用が置けないのもまたこの男なのだ。
今一何を考えているか読みきれない。
万が一裏切ればこちらの手持ちのカードでは対処しきれない可能性がある。
実力は文句なしに最強であろうし、目的が一致している以上、手加減もするであろうしと申し分ない。
またマスターガンダムを与えればまず負けることは無いだろう。
だが……一番信用が置けないのもまたこの男なのだ。
今一何を考えているか読みきれない。
万が一裏切ればこちらの手持ちのカードでは対処しきれない可能性がある。
そのどれもが一長一短、持ち手を吟味するルルーシュ。
だがその思考を途切れさせるように、来訪者が現れる。
だがその思考を途切れさせるように、来訪者が現れる。
「少し良いかの、ルルーシュ?」
来訪者の名はグアーム。
最も古き獣人であり、ルルーシュを"こちら側"へと誘った張本人。
そして――4人の獣人の中で最も油断ならない相手だとルルーシュは判断する。
最も古き獣人であり、ルルーシュを"こちら側"へと誘った張本人。
そして――4人の獣人の中で最も油断ならない相手だとルルーシュは判断する。
「どうしたグアーム? 見てのとおり俺は忙しい。
用件があるのなら手短に済ませてくれ」
用件があるのなら手短に済ませてくれ」
事実、やらなければならないことは山ほどある。
螺旋力に関する考察は完璧とは程遠いし、アンチ=スパイラルとの交渉内容もシミュレートする必要がある。
だが、その口から出てきた言葉はルルーシュの手を一瞬止めさせた。
螺旋力に関する考察は完璧とは程遠いし、アンチ=スパイラルとの交渉内容もシミュレートする必要がある。
だが、その口から出てきた言葉はルルーシュの手を一瞬止めさせた。
「わしも情報の整理を手伝おう、と思ってのう」
その行動に対し、ルルーシュが思うのは
(――何を考えている?)
疑惑。それ以外に持ちえる感情は無い。
疑いの眼差しを向けるルルーシュに獣人は笑みを返す。
左右に避けた口を大きく曲げて。
疑いの眼差しを向けるルルーシュに獣人は笑みを返す。
左右に避けた口を大きく曲げて。
「おや、まさか疑っておるのかのう?
お前さんらしくもない。少し頭を使えば分かることだろうに。
今更協力しないのであれば最初から呼びつけんわい」
お前さんらしくもない。少し頭を使えば分かることだろうに。
今更協力しないのであれば最初から呼びつけんわい」
グアームの言うとおり、目的が一致している以上、彼らが裏切る可能性は低い。
でなければ最初から俺をこの空間に呼ぶ必要など無いのだから。
少なくとも、アンチ=スパイラルとの交渉まではこちらの不利になることをやるとは思えない。
でなければ最初から俺をこの空間に呼ぶ必要など無いのだから。
少なくとも、アンチ=スパイラルとの交渉まではこちらの不利になることをやるとは思えない。
「どうしても信用できないのであれば、ギアスとやらを使ってこう命令すればよい。
"何をたくらんでいるか洗いざらい話せ"、とな」
"何をたくらんでいるか洗いざらい話せ"、とな」
グアームはそう言って、今まで合わせなかった視線をしっかりと合わせた。
そのまま数秒の沈黙の後、折れたのはルルーシュの方であった。
そのまま数秒の沈黙の後、折れたのはルルーシュの方であった。
「……わかった。手伝ってもらおう」
ギアスは切り札の中の切り札。使うべきときは今ではない。
それに先程のように時間はいくらあっても足りはしない。
何を考えているかは知らないが、その時が来るまで利用するだけだ。
ルルーシュは短い休憩を終え、グアームと共に第3回放送後の情報に目を通し始めた。
それに先程のように時間はいくらあっても足りはしない。
何を考えているかは知らないが、その時が来るまで利用するだけだ。
ルルーシュは短い休憩を終え、グアームと共に第3回放送後の情報に目を通し始めた。
だから若いヒトは気づかない。
背を向けた先で獣が哂うのを――
背を向けた先で獣が哂うのを――
case7 獣人:グアーム
(……そう、"今は"協力するがな)
声に出さずに不動のグアームは呟く。
グアームは思い出す。
彼がまだ獣人ですらなかった時代。
小さく、弱く、ただの獣であった時代のことを。
ロージェノムの肩に乗り、無限の敵に立ち向かっていたときのことを。
彼がまだ獣人ですらなかった時代。
小さく、弱く、ただの獣であった時代のことを。
ロージェノムの肩に乗り、無限の敵に立ち向かっていたときのことを。
そう、不動のグアームは四天王の中で、獣人の中で唯一アンチスパイラルとの面識があったのだ。
肝心の記憶は時の流れの果て、奥底にこびり付くだけになってしまっているが、あのプレッシャーは体が覚えている。
意思すら感じさせない無機質な殺意……あの存在と対話が可能だとはどうしても思えなかった。
肝心の記憶は時の流れの果て、奥底にこびり付くだけになってしまっているが、あのプレッシャーは体が覚えている。
意思すら感じさせない無機質な殺意……あの存在と対話が可能だとはどうしても思えなかった。
さらにグアームはルルーシュのことを信用はすれど、信頼してはいなかった。
基を返せばルルーシュとてこの実験に参加させられたものの一人。
今は元の世界に帰還することを優先しているためその兆候を見せていないが、
アンチ=スパイラルとの交渉が成功した瞬間ならばどうだ?
その瞬間手のひらを返し、我ら獣人に対して牙を剥かないという保障は無いのだ。
故にグアームは"保険"をかける。
アンチ=スパイラル、ルルーシュ・ランペルージの両名に対して。
そしてアンチ=スパイラルに対しての保険はアディーネに託した。
故にルルーシュに対する保険は自分が担当するほかあるまい。
基を返せばルルーシュとてこの実験に参加させられたものの一人。
今は元の世界に帰還することを優先しているためその兆候を見せていないが、
アンチ=スパイラルとの交渉が成功した瞬間ならばどうだ?
その瞬間手のひらを返し、我ら獣人に対して牙を剥かないという保障は無いのだ。
故にグアームは"保険"をかける。
アンチ=スパイラル、ルルーシュ・ランペルージの両名に対して。
そしてアンチ=スパイラルに対しての保険はアディーネに託した。
故にルルーシュに対する保険は自分が担当するほかあるまい。
ルルーシュに対する保険……
それは他でもない、自分という疑心暗鬼の種を傍に置いて、ルルーシュの思考を削ることだ。
この作戦、下手をすればルルーシュを追い詰めてしまい、実験の失敗という本末転倒の事態を招いてしまうかもしれない。
だが先程見せた逆境すらチャンスに変える明晰な思考――
あれならば間に合うだろう、とグアームは高い評価を与えていた。
それは他でもない、自分という疑心暗鬼の種を傍に置いて、ルルーシュの思考を削ることだ。
この作戦、下手をすればルルーシュを追い詰めてしまい、実験の失敗という本末転倒の事態を招いてしまうかもしれない。
だが先程見せた逆境すらチャンスに変える明晰な思考――
あれならば間に合うだろう、とグアームは高い評価を与えていた。
さて、この作戦におけるメリットは主に3つ。
一つは自分という懸念事項を傍に置くことで"獣人に対する制裁"という余計なことを考えさせないようにすること。
二つ、自分の行動如何によってアディーネの動きを隠すこと。
そして3つ目は渡す情報に志向性を持たせること、である。
これによって操作とまでは行かなくとも、思考の方向性を傾けることぐらいは出来るはず……
グアームはそう考える。
一つは自分という懸念事項を傍に置くことで"獣人に対する制裁"という余計なことを考えさせないようにすること。
二つ、自分の行動如何によってアディーネの動きを隠すこと。
そして3つ目は渡す情報に志向性を持たせること、である。
これによって操作とまでは行かなくとも、思考の方向性を傾けることぐらいは出来るはず……
グアームはそう考える。
それに今のルルーシュは見たところ先程までより幾分か感情的になっている。
会場で起こったことを把握しているグアームはその原因に心当たりがある。
ルルーシュの怒りの視線の先にいるのは鮫の歯を持った男。
異世界で別の螺旋王に作り出された見知らぬ獣人。
会場で起こったことを把握しているグアームはその原因に心当たりがある。
ルルーシュの怒りの視線の先にいるのは鮫の歯を持った男。
異世界で別の螺旋王に作り出された見知らぬ獣人。
(ヴィラルとかいった見知らぬ同胞よ。我ら獣人のためにせいぜいこの男の憎しみを引き出すがいい。
この智謀の魔人はその視線を向けるときだけ矮小な人となる。
そしてその隙に我々は付け入らせてもらうとしようか……)
この智謀の魔人はその視線を向けるときだけ矮小な人となる。
そしてその隙に我々は付け入らせてもらうとしようか……)
現在、混沌と化した実験場に残された情報はあまりにも多い。
渡す情報の取捨選択を行うことで、ごくごく僅かながら思考は誘導できるだろう。
渡す情報の取捨選択を行うことで、ごくごく僅かながら思考は誘導できるだろう。
例えば"捨"と決めた情報の中に実験場中央……【E-6】ブロックの"異常"があった。
その原因は今から18時間前、スバル・ナカジマが命と引き換えに放った螺旋振動の一撃。
その一撃は皮肉にも本来の持ち手が貫けなかった結果をもたらしていた。
存在確率を100から0に、0から100に変えることで転移を果たす螺旋転移システム。
だが螺旋の力の込められた破壊の渦は、その数値を変化させた。
大半は転移して消失したが、3割弱は転移せず結界を直接揺るがしたのだ。
その一撃は皮肉にも本来の持ち手が貫けなかった結果をもたらしていた。
存在確率を100から0に、0から100に変えることで転移を果たす螺旋転移システム。
だが螺旋の力の込められた破壊の渦は、その数値を変化させた。
大半は転移して消失したが、3割弱は転移せず結界を直接揺るがしたのだ。
その力、まさに天元突破。
少女の一念は無理を貫き通し、天を突き破ったのだ。
一瞬のことだったので、よくよく調べてみないと気付かれなかった一撃。
これは今のところ、自分しか知らない事実でもある。
それがどんな意味を持つのかは分からない。
だが一つだと意味を成さない綻びも、複数集まれば致命的な傷になるやも知れない。
1000年以上の時を生きた獣人は経験則としてそれを知っている。
少女の一念は無理を貫き通し、天を突き破ったのだ。
一瞬のことだったので、よくよく調べてみないと気付かれなかった一撃。
これは今のところ、自分しか知らない事実でもある。
それがどんな意味を持つのかは分からない。
だが一つだと意味を成さない綻びも、複数集まれば致命的な傷になるやも知れない。
1000年以上の時を生きた獣人は経験則としてそれを知っている。
それは東方不敗やグアームが持ち得て、知能で上回るはずのルルーシュがまだ持ち得ないもの。
長い時間を生きたものだけが持つ、"老獪"と呼ばれるアドバンテージであった。
長い時間を生きたものだけが持つ、"老獪"と呼ばれるアドバンテージであった。
それに自分自身が何をしなくても、自分がここにいるというだけでアディーネの動きを隠すことになる。
そう、アンチ=スパイラルとの交渉が失敗に終わったとしても、移動する際に時限に穴を開けねばなるまい。
であれば、『アレ』があれば万が一にでも逃れる可能性がある。
次元移動に耐える力を持つ『アレ』ならば。
そう、アンチ=スパイラルとの交渉が失敗に終わったとしても、移動する際に時限に穴を開けねばなるまい。
であれば、『アレ』があれば万が一にでも逃れる可能性がある。
次元移動に耐える力を持つ『アレ』ならば。
螺旋王は、ロージェノムは確かに憎い。
考えるだけもで腸が煮えくり返りそうではある。
だがそれも自分という存在があってこそだ。
自身の命と秤にかければ生存に傾く。
何故ならばロージェノムを倒した後も獣人という種族は生きなければならないのだから。
故にグアームは仮初の王の頭上にダモクレスの刃を吊るす。
考えるだけもで腸が煮えくり返りそうではある。
だがそれも自分という存在があってこそだ。
自身の命と秤にかければ生存に傾く。
何故ならばロージェノムを倒した後も獣人という種族は生きなければならないのだから。
故にグアームは仮初の王の頭上にダモクレスの刃を吊るす。
(悪く思うでないぞ、ルルーシュ。
ワシらは生きねばならん。
そう、生き残るのだ、どんな手段を使っても、な……)
ワシらは生きねばならん。
そう、生き残るのだ、どんな手段を使っても、な……)
――その想いはとてもよく似ていた。
極めて近く、限りなく遠い世界である男が言った言葉に。
だが涙を呑み多のために少を切り捨てた男とは違い、その裏に巨大なエゴを滲ませて。
極めて近く、限りなく遠い世界である男が言った言葉に。
だが涙を呑み多のために少を切り捨てた男とは違い、その裏に巨大なエゴを滲ませて。
* * *
――同時刻、螺旋城テッペリン地下
「なんなんだい、これは……」
テッペリンの地下……すなわち月の地下に足を踏み入れたアディーネは思わず口にしていた。
背中を汗が伝い、知らず知らずのうちにゴクリ、と唾を飲み下す。
背中を汗が伝い、知らず知らずのうちにゴクリ、と唾を飲み下す。
アディーネの目の前にあるもの、それはあまりにも巨大。
彼女は己の目で巨大な"それ"の全貌を見ることは叶わない。
だがそれも仕方の無いことかもしれない。
その物体の大きさは月――ここ、テッペリンが突き刺さる場所と同じなのだから。
彼女は己の目で巨大な"それ"の全貌を見ることは叶わない。
だがそれも仕方の無いことかもしれない。
その物体の大きさは月――ここ、テッペリンが突き刺さる場所と同じなのだから。
これこそグアームの用意した切り札。
単体で次元跳躍能力を持たないが故に、螺旋王から見捨てられた箱舟。
だが次元移動に耐えうる力を持つ超々弩級巨大戦艦。
単体で次元跳躍能力を持たないが故に、螺旋王から見捨てられた箱舟。
だが次元移動に耐えうる力を持つ超々弩級巨大戦艦。
その舟はかつて――カテドラル・テラ、と呼ばれていた。
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投下順に読む
280:第六回、あるいは“ゼロ”の放送 | ルルーシュ・ランペルージ | 283:獣人と人(状態表) |
280:第六回、あるいは“ゼロ”の放送 | ニコラス・D・ウルフウッド | 283:獣人と人(状態表) |
278:Soul Gain | 東方不敗 | 283:獣人と人(状態表) |
271:天のさだめを誰が知るⅤ | チミルフ | 283:獣人と人(状態表) |
278:Soul Gain | 不動のグアーム | 283:獣人と人(状態表) |
271:天のさだめを誰が知るⅤ | 流麗のアディーネ | 283:獣人と人(状態表) |
271:天のさだめを誰が知るⅤ | 神速のシトマンドラ | 283:獣人と人(状態表) |