暁の終焉(前編) - (2007/04/24 (火) 20:05:32) の1つ前との変更点
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*暁の終焉(前編) ◆WwHdPG9VGI
(っつぅ……)
肩から痛みが走り、魅音は顔をしかめた。
汗がしたたり、顎へとつたう。
魅音を既視感が襲った。
誰かから逃げようとして、肩に痛みを感じながら、走っている。
(そうだ……。あの時もこうして……)
魅音の脳裏に、昨日の出来事が次々と浮かびあがった。
翠星石がいきなり梨花を撃って、隣にいた武も敵に見えて、二人から逃げ出そうと必死に走った。
その後、色んなことがあった。
――光とクーガーに、もう逃げないと、強くなると、誓った。
それなのにまた、自分は逃げている。
トウカから憎しみの目で見られるのが、怖いから
キョンやハルヒに、驚きと侮蔑の目で見られるのが、怖いから。
沙都子に恐怖の目で見られるのが、怖いから。
(どうして私は……。こんなにダメなんだ……)
光が踏み殺されるのを、黙ってみていることしかできなかった自分。
恐怖に怯えで、立ち向かうことができなかった自分。
そんな自分が嫌で、変わりたいって、思ったはずなのに。
――また、逃げている。
立ち向かおうとせずに、向き合おうとせずに、逃げている。
(……私また……間違っちゃった……)
悪党を倒し、みんなを守るつもりだったのに。
自分は銃を撃って、エルルゥさんを殺してしまった。
――人殺しになってしまった
「アハハッ……ハッハッ……」
誰かが笑っている。
誰だろう?
自分だ。自分の声だ。
――なんて気味の悪い声。
魅音の足から急速に力が抜けた。
二つの足音が近づいてくる。
ゆっくりと、魅音はその足音の方へ、顔を向けた。
■
(やっと……。止まって……。くれたか……)
キョンは、ホッと胸を撫で下ろした。
声をかけたいのだが、息が切れてしまって、言葉が出てこない。
体がやたらと重く、喉どころか肺まで痛む。
しまいには、しゃっくりまで飛び出した。
それでも、キョンは自分の体力に多少感心していた。
(まったく……。ハルヒのヤツに、引っ張りまわされてたことを感謝する時が、くるなんてな……)
涼宮ハルヒの『パトロール』とやらで、やたらと町内を歩き回ることが増えたせいで、体力が多少ついていたらしい。
そうでなければ、帰宅部の自分が、昨日あれだけ動いて、その上で全力疾走など、できるはずもない。
「園崎……。とにかく、戻ろう……。この状況で一人になるのは、ヤバ……すぎる」
荒い息を吐きながら、キョンは切れ切れに、言葉を吐き出した。
「そうよ。ひとまず家に、戻りましょ?」
隣のハルヒもキョンに続くが、その声音はどこか硬かった。
(無理も無いがな……)
キョンは顔をしかめた。
魅音が走りながら発していた、狂気を含んだ笑い声。
ハルヒが、魅音の内に潜む狂気に触れるのは、始めてだ。
(俺も始めは、驚いたからな……。無理もない反応だぜ)
キョンは、魅音の顔を凝視した。
魅音の眼は空ろで、先ほどまでの生気にあふれたていた眼差しは、どこかに消えうせている。
「……無理だよ」
声に秘められたあまりの空虚さに、ぞくり、と怖気がキョンの背筋を這い登った。
「私は、ひと……ひと……」
魅音の体が震え始めた。
両手で頭を抱え、うわ言のように何か呟いている。
その全身から発せられる得体の知れないオーラは、キョンもハルヒを戦慄させた。
唐突に、魅音の体の震えが止まった。
魅音が、ゆっくりと顔を上げた。
「私は、人殺しなんだよ。キョン!!」
心臓を氷の刃で刺し貫かれたような感覚が、キョンを襲った。
隣でハルヒが絶句している気配が伝わってくる。
(何て、眼を、声を、しやがるんだ……)
魅音の瞳には、絶望の黒い炎と狂気の光があった。
「戻れるわけないじゃないか……。ト、トウカ……さ……」
ぐにゃり、と魅音の顔が歪んだ。
「トウカさんになんていえばいいのさっ!? ごめんなさい!? そんななことで……。
そんなことで、許してもらえるわけ、ないじゃないか」
そうだ、許してもらえるわけが無い。
魅音の心には、絶望と恐怖の嵐が吹き荒れていた。
ハルヒが、朝食の前にやった情報交換で、何度も「ごめん」と言ったとき、自分は何と思った?
――謝られると責めてしまうから。
そう思っていた。
謝罪の言葉なんて白々しいだけだと、そう思っていた。
トウカも同じコトを感じるはずだ。きっと、許してくれない。
あんなに悲しんでいた、あんなに怒っていた。
魅音の瞼に、涙を流しながら刀に手をかけていたトウカの姿が浮かぶ。
トウカの目にあったのは、紛れもない、憎しみの光。
(きっと……。梨花が殺された時、私もあんな目をしてたんだ……)
大事な人を目の前で殺された時、どれほどの怒りが湧き上がるか、自分は知っている。
――怖い。
トウカに、優しくしてくれたあの人に、落ち込む自分を抱きしめてくれたあの人に、
憎しみの目を向けられるのが、怖い。
――嫌だ。
もう、苦しむのはたくさんだ。
自己嫌悪も、悲しいのも、辛いのも。
顔を背けたい、逃げたい。
それに――
「キョン! ハルヒ! 私は鬼なんだよ!!」
魅音の中で何かが弾けた。
「私の中には、園崎家の血が、鬼の末裔の血が流れてる!! その血がね……。叫ぶんだよ!
殺せ! 殺せ! 狂え! 狂え! って!!」
魅音は絶叫した。
梨花が殺された時も、武と再会したときも、さっき、しんのすけが毒が盛られた知ったときも、
激しい感情がわきあがった。
抑えようとしても抑えられない、殺意と怒りの奔流。
ロックを撃った時、自分は普通ではなかった。
冷静に考えてみれば、拘束するなりして話を聞くべきだった。
腑に落ちない点だってあったのだから。
落ち着いて思考を展開しているつもりだったのに、できていなかった。
あの時の自分は、怒りに囚われていた。殺意に押し流されていた。
「私は、みんなと一緒にいられない!! いちゃいけないんだよ!!」
きっとまたあの激しい感情に囚われて、取り返しのつかないことをしてしまうに、決まっている。
どうしようもなく弱くて、人殺しで、感情が高ぶると、殺意に囚われてしまうような人間。
こういう人間をなんていう?
狂人、だ。
(……ていうか、もうとっくに狂ってるのかな? 私……)
さっき、自分の口から漏れ出ていた、変な笑い声。
あんな声を出す人間が、普通の人間のはずはない。
自分は、キョンやトウカと一緒にいていい人間じゃない。
「キョン……ハルヒ……。だから、私のことは、ほって、おいて……」
視線を地面に落とし、ひび割れた声で魅音は言った。
「でも、その……。頼めた立場じゃないのは、分かってるけど……。沙都子のこと……お願い……。
あの子のこと、守って……あげて……欲しいんだ」
それきり深い沈黙が満ちた。
魅音は、顔を上げることができなかった。
キョンやハルヒが、自分をどんな眼で見ているか、知るのが怖い。
「それはできん」
沈黙を破った平坦な声音に、魅音は思わず顔を上げた。
その視線の先には、どこか静かなものを浮かべるキョンの顔があった。
「仲間をこんな危険地帯に一人にしておくなんてこと、できるわけないだろうが!」
思わず魅音は口を開きかけるが、キョンは、魅音の返答を待たずに続けた。
「園崎は……。ここから脱出したいと思わんのか?」
「……キョ、キョン?」
魅音の顔に、困惑の皺が刻まれた。
「大事なことだ。答えてくれ」
キョンが、淡々とした声音で尋ねてくる。
「……脱出したいよ。そんなの、決まってるじゃないか」
「そのために、誰かを殺そうって思うか?」
「そんな!!」
カッと魅音の頭に血が上った。
「そんなこと……するわけ……できるわけ、ないだろ……」
自分の声が弱まっていくのを、魅音は感じた。
(キョンにそう思われても、仕方ないよね……)
自分はもう、人殺しなのだから。
「ああ! そうだろうさ!」
確信に満ちた声だった。
意表を突かれた思いで、魅音はキョンをまじまじと見た。
キョンの瞳の中には、真っ直ぐな光があった。
「小さな子に毒を盛るってことをあんなに怒れるお前が、大事な誰かを奪われることの痛みを知ってるお前が……。
人殺しなんかするはずねえ!!」
「キョン……」
魅音の瞳が揺らいだ。
「鬼の末裔!? 何だか知らんが、それなら逆に歓迎するぜ。
俺達のSOS団は、普通じゃない人間を探して、一緒に遊ぶことを目的にしてるんだからな!
園崎……お前は、俺達の仲間だ! 仲間を1人で置き去りになんか、できるかよっ!!」
「……ありがとう、キョン」
こんな自分でも、まだ、仲間だといってくれる彼の気持ちは、本当に嬉しい。
でも、だからこそ一緒にはいられない。
一緒にいたらきっと迷惑をかけてしまうから。
魅音が口を開きかけたその時、
「だめよ、キョン」
冷然とした、ハルヒの声が響いた。
「魅音を団員に、私達の仲間にするわけには、いかないわ」
「ハルヒ……お前?」
驚きに眼を見張るキョンに、強い視線でハルヒは答えた。
「魅音……。あんた、一番謝らなきゃならない人のこと、忘れてんじゃない?」
キョンから視線を外し、ハルヒは魅音に鋭い視線を叩きつけた。
「あんたが一番謝らなきゃならない人は、エルルゥさんでしょ!! それなのに何よ!
さっきから、被害者みたいな顔して! 図々しいわよ!!」
ハルヒが吐き捨てるように言った。
「だ、だって!!」
「だって何よ!? まさか、わざとじゃない、とか言うつもりじゃないでしょうね!?
あんたが、銃を撃ったりしなけりゃ、あんなことにならなかった。そうでしょ!?」
「ハルヒ!! よせ!!」
「あんたは黙ってなさい!!」
キョンの静止を振り切り、ハルヒはついに決定的な一言を口にしてしまう。
「魅音、あんたが、何の罪もないエルルゥさんを撃ち殺したってことは、変わらないのよ!?」
言葉の槍が、魅音の胸を深々と刺し貫いた。
無意識にブレーキをかけて自分で自分を責めるのと、他人から責められるのでは、まったく違った。
きいんと、耳鳴りがし、魅音の世界から音が消え、何も聞こえなくなった。
目の前で、ハルヒがぱくぱくと口を開け、何かを叫んでいる。
――なんて滑稽なんだ
ふとそう思った瞬間、魅音の心の中の黒い炎に火が点いた。
黒い炎は一瞬で心を埋め尽くし、怒りと憎悪が込み上げ来る。
「そういうあんたはどうなのさ!?」
底冷えのするような魅音の声に、思わずハルヒは押し黙る。
ふんと、鼻を鳴らし、
「私が人殺しだってのは、間違いないよ。でもハルヒ、あんただって大差ないんじゃない?
だって、あんたがアルルゥっていうエルルゥさんの妹とヤマトって子を、映画館から連れ出さなければ、
その子達は、死ななくてすんだんだからさっ!!」
ハルヒの顔が見る見るうちに青ざめていく。
――いい気味だ
魅音の心の中の黒い炎が、勢いを増した。
「……あ、あたしは、アルちゃんのためを……」
「あはははっ! そりゃないだろ、ハルヒ! わざとじゃありません、が通用しないって言ったのは、あんたじゃないか!!」
魅音は嘲笑を叩きつけた。
「あんたの話を聞いてて、ずっと思ってたんだけどさぁ……」
魅音はそこで一度言葉を切った。
顔に冷笑の皺を刻み、悪意を視線に存分に込め、
「団長って言う割には、あんた、みんなの足を引っ張ってるだけだよねぇ?」
ハルヒの体がびくん、と震えた。
「やめろ!! 園崎」
魅音は、薄笑いを浮かべてキョンを見た。
案の定というべきか、キョンの顔には、はっきりと怒りの感情が浮かんでいた。
やっぱり、と思う。
(キョンは、この子の味方をするんだ。ま、当然だけどね)
口では仲間とか言っていても、結局こんなものだ。
黒い衝動に突き動かされるままに、魅音はさらに言葉を紡ぐ。
「キョンも大変だよね! 役立たずなくせに、態度ばっかり大きい団長さんの尻拭いをさせられてさぁ……。
おじさん同情しちゃうよ!」
「黙れっ!!」
悲鳴染みたハルヒの絶叫に、魅音は口の端を吊り上げた。
「何さ? 私は、あんたがいう所の「事実」っていうやつを指摘しただけなんだけど!?
ひょっとして痛いところついっちゃったかなぁ!? ごめんねぇ~。おじさん、嘘がつけない性分でさぁ!」
魅音は大げさに肩をすくめてみせた。
「……黙れっつってんでしょ!! 聞こえないの!?」
激しい憎悪をその瞳に宿し、ハルヒが銃を向けてくる。
魅音の目が細められた。
(へぇ、見よう見まねの割には……。観察力はあるみたいだね)
なかなかの構え方だ。
「撃ちたきゃ、撃ちなよ。だけどあんたのせいで、アルルゥって子とヤマトって子が死んだのは変わらないんだからね?
そこんとこ分かってるかなぁ!? 団長さぁ~ん!?」
「あんた……。ぶっ殺されたいのね!?」
血走った目には殺意が浮かび、ハルヒの銃を持つ手は、ぶるぶると震えている。
いつ、引き金が引かれるかも分からない。
命の危険の感じながらも、魅音は悪鬼の笑みを浮かべたまま、銃口を睨んだ。
(撃てばいさ……。私なんかどうせ、生きてたって……)
でも、死ぬ前に、目の前の女を傷つけてやる。
徹底的に心を砕いて、滅茶苦茶にしてやる。
吹き上げる黒い炎の命じるままに、魅音が、ハルヒを言葉の刃で貫かんとした、まさにその時、
「てめえらっ!! いい加減にしろっっ!!」
それまで響いていた怒声に更に倍する怒号が轟いた。
その声に秘められた怒りの風は澄んでいた。二人の少女の心で燃え盛る黒炎を、一瞬吹き払ってしまうくらいに。
キョンは、わずかに発生した彼女達の心の間隙をぬって、彼女達の心に言葉を叩きつける。
「お前ら……。お前ら、自分が何をやってんのか、分かってんのかよっ!? 罵り合って、仲間に銃向けて……。
そんなことして、誰が喜ぶんだよ!? お前ら、今の姿を……」
キョンは、鋭い視線を、魅音とハルヒに交互に向けた。
「園崎! 今のお前の姿を、クーガーって人や光って子に見せられるのか!?
ハルヒ! お前もだ! ヤマトやアルルゥって子だけじゃない、朝比奈さんや長門に、鶴屋さんに、今の自分――」
「そんなこと分かってるさっ!!」
「分かってるわよ!! そんなことっ!!」
重なった魂の悲鳴が、大気を引き裂いた。
キョンの言葉は、少女達の心を覆っていた黒炎を消し飛ばしたが、同時に彼女達の心を守っていた最後の壁をも、
突き崩してしまっていた。
「頑張ってみたんだ!! クーガーが、私は強いって言ってくれたから!! 光が私のこと守ってくれたから!!
でも、でも……。ダメだったんだ!! 私にはできなかったんだよっ!! これ以上どうしろって……いうのさ……。
無理だよ……クーガー……光……。あんた達みたいになんか、なれないよっ!!」
髪を掻き毟りながらひっくり返った声で魅音が喚く。
「あんたに言われるまでもないわよ!! 団長として、しっかりやんなきゃって、ずっと思ってきたわよ!!
だけど……。だけど……」
くたっと、ハルヒの体から力が抜けた。
がちゃん、という音ともに銃が地面に落ち、鈍い音を立てた。
「全然……上手くいかなくて……。アルちゃんを、お姉さんに、合わせてあげたかっただけなのに……。
ヤマトのこと、助けてあげたかったのに……。あいつ、私のこと団長って、呼んでくれた……。
二人とも、あたしのこと、あの女から助けてくれたのに……」
ハルヒが地面に崩れ落ち、涙を流す。
嗚咽と悲鳴が響く中、
「……でもよ、お前らが傷つけあったら、その人たちがもっと……悲しむと、思う。だから……。
傷つけあうのだけは、やめてくれ……。頼む……ハルヒ……園崎……」
力の無い声で、呟くようにキョンは言った。
ただ、それだけしか出来ず、立ち尽くしていた。
■
嵐のような激情を吐き出した後、虚脱が3人を襲っていた。
地面に座り込んだ三人を、太陽がじりじりと焦がす。
――どれくらいそうしていだろうか?
ふぅっという小さな吐息が、魅音の口から漏れた。
「ハルヒ……。あんたの、言うとおりだよ……」
魅音は力の無い笑みを浮かべた。
「私、まだ……。エルルゥさんに、謝ってなかったね……。謝って、何が変わるってわけじゃないけど……。
それでも、謝らなきゃね……。トウカ、さんにも……」
魅音はきつく眼を閉じた。
「……それくらいは、しないとね……」
『迷惑かけるから一緒にいられない』なんてキョンには言ったけれど、結局自分は、逃げたかっただけだ。
罪悪感から、自己嫌悪から。
今も、逃げたくて仕方ない。
トウカの責める声を聞きたくない、沙都子の自分を恐れる眼をみたくない。
この期に及んで、まだ自分は、自分自身を守ろうとしている。
(……血のせいにしてれば、世話ないよ)
生来の激しい感情を御せぬ自分が未熟極まりないというだけのことを、
まるで、呪いの運命を背負ったヘラクレスにでもなったかのように、告白するとは。
みっともないことこの上ない。心底自分が嫌になる。
(けどせめて、謝るくらいはしないと、みんなに申し訳が、たたなさすぎるもんね……)
自分は、どうしようもなくダメな人間だ。クーガーが言っていたような強い人間ではない。
それでも、謝ることくらいはしなければ、と思う。
最後の、本当に最後の薄皮一枚残った意地が、魅音の身体を突き動かしていた。
「私、行くから……。キョンは、ハルヒと一緒にいてあげてよ」
魅音は立ち上がった。
「……待ちなさいよ」
歩き去ろうとした魅音を、ハルヒが制した。
振り返らずに、魅音は口を開いた。
「ハルヒ、ごめんね……。酷いこと言って……。でも、早く行って謝ら――」
「あたしは――」
魅音の言葉をハルヒは遮った。
一度大きく深呼吸し、ハルヒは魅音を、正面から見つめた。
「――団長として、団員の独断専行を許すわけには、いかないわ」
驚いて魅音は振り返り、ハルヒの顔を凝視する。
ハルヒの瞳には、意志の光が戻っていた。
魅音は、小さく首を横に振った。
「ハルヒ……。私は……。何度も間違いを繰り返す、どうしようもなくダメなヤツで……その上、人殺しで……」
「そんな人間には、ダメな団長で十分だって……。思わない?」
視線をそらさず、ハルヒが問いかけてくる。
魅音の瞳孔が、その大きさを増した。
ややあって、大きなため息を一つつき、
「ハルヒ……。あんた、馬鹿だよ……」
「……そうみたいね。自分ではもうちょっとまともだと、思ってたんだけど……」
ハルヒは、自嘲の笑みを浮かべた。
魅音に指摘されるまでは、眼を逸らしていた。見ているつもりで、見ていなかった。
自分の行動は、本当に、どうしようもなく軽率だった。
――映画館から二人を連れ出さなければ、二人は死ななかった
それが事実。だから、二人が死んだのは自分の過失。
そのことから目を逸らし、あまつさえ、自分の命のことばかり考えていた。
――なんて醜いんだろう
ハルヒの心が悲鳴を上げた。
目を逸らしたくなる、顔を背けて、逃げ出したくなる。
――でも、団長であり続けなければと、思うから。
メッセージを託してくれた長門有希の思いを、無念の死を遂げたであろう鶴屋さん、朝比奈みくるの思いを、
そして死んでいった――
(違うでしょ……)
心を切り裂く激痛に、ハルヒは奥歯を食いしばった
――自分が死なせてしまった、アルルゥの、ヤマトの
――思いだけは、踏みにじらないために
団長であり続けなければ、二人に謝ることにならない。
そう、思うから。
「……返事は、やることをやってからで……いいかな?」
目元を拭いながら魅音が言い、
「……いいわよ」
静かな声でハルヒは答えた。
二人のやり取りに心底安堵しつつも、キョンはやりきれないものを感じて、天を仰いだ。
最も目を逸らしたかったことを他人に突きつけられたこと、溜まり溜まったストレスをさらけ出し、吐き出した事、
この二つが、たまたまプラスに働いてことなきを得た。
しかし、一歩間違えれば、殺し合いになっていてもおかしくなかった。
(二人とも、自分が何とかしなきゃって、思っちまうタイプだからな)
なまじ元の世界では、能力が高い部類に入っていたものだから、余計にギャップが堪えていたのだろう。
しかし、生半可な能力や精神力では大した差異が作れないほど、人間を超越した者が多すぎた。状況が過酷すぎた。
結果、二人の少女は、深く傷ついていしまった。
どうしようもなく深く傷ついていて、必死に塞ごうとしても、そこにまた傷が増えていく。
(何とか、しないとな。本当に、なんとか……しないといかん……)
早く脱出への道を開かないと、取り返しのつかないことになる。
「じゃあ……。行くか」
キョンは立ち上がった。
一刻も早く、トグサと連絡をつけ、ドラえもんというロボットの持つディスクを手に入れたい。
心底そう思う。
「待って。キョン、魅音……」
「ハルヒ……。歩きながらじゃ、駄目か?」
今は、とにかく時間が惜しい。
少量の苛立ちを込めたキョンの視線を、ハルヒはアッサリと跳ね返した。
「駄目よ。今から、考えなきゃならないことは、絶対に、間違いが許されないもの」
ハルヒの眉間には、深い皺が刻まれていた。
「誰がしんちゃんのお茶に毒を入れたのか、それをはっきりさせる必要があるわ」
■
水で塗らしたハンカチで、丹念に血をふき取る。
だが、水でぬらす必要は、なかったのかもしれない。
トウカの目から零れ落ちた水滴が、いくつもいくつもエルルゥの顔に落下し、ハンカチを塗らしていく。
(すまぬ……。エルルゥ殿……すまぬ……)
自害しようとしたエルルゥを止めた時、友として、仲間として、彼女を守りたいと強く思った。
ともにトゥスクルへ、帰りたかった。
(よくも……。よくも、エルルゥ殿を……)
噛み締めた唇から赤い線が糸を引き、顎まで達した。
あの、たおやかで優しいエルルゥを、こんな無残な有様に変えてしまった者。
――園崎魅音
だが、その名前を思い浮かべた時、トウカの怒りの炎は、その火勢を弱めてしまう。
魅音は共に怪物と闘った戦友であり、その人となりに、トウカは好感を持っている。
(魅音殿は某の過失を咎めず、それどころか、某を仲間と呼んでくれた……)
どうして彼女なのだ、とトウカは歯噛みをする。
――魅音殿でなければ、一刀の元に叩き斬っているものを。
トウカは大きく首を振った。
(……いかん、それではいかんのだ)
あれはあくまで事故のようなもの。誰であったとしても、斬ってはならない。
――理屈では分かる。
だが、荒れ狂う感情は、容易に収まってくれない。
トウカは、大きく息を吐いた。
考えてばかりいては、余計に怒りが募る。それよりも、やるべきことをやる方がいい。
(とにかく……形見の一つも探して、持ち帰らねば……)
しかし、それを渡すべき相手を思い浮かべようとして、トウカは硬直する。
エルルゥ、アルルゥの故郷には、誰もいない。
彼女達の故郷、ヤマユラは、クッチャケッチャ軍の攻撃によって、消えてしまっている。
自分の加担したクッチャケッチャ軍の攻撃によって。
今更ながらにトウカは、エルルゥとアルルゥの強さに圧倒される。
二人にとって、自分は仇と呼べる存在なのだ。
無論、理屈で反論しようと思えばできる。
だが、そんな理屈など容易く吹き飛ばしてしまえるほど、大切な人を殺されたと怒りは強い。
今自分が味わっている怒りを、二人はきっと感じたはずだ。
それなのに、二人は自分に笑いかけてくれた。
(某は、未熟だ……。どうしようもなく、未熟者だ……)
自分にも、エルルゥやアルルゥのような強さが欲しいと、痛切にトウカは思った。
――私みたいに誰かが死んで悲しむ人を増やしたくなかったから
エルルゥが残した言葉が、トウカの耳の奥に響いた。
エルルゥは、人が死ぬことの重みを、喪失の痛みを、誰よりも知っていた。
だから、自分の命を失うことになろうとも、彼女は悲しみが生まれるのを止めることを、選んだのだ。
――もう……こんな悲しいことを、繰り返さないでください
(……分かり申した。エルルゥ殿)
新たな悲しみを生むこと。
それは、エルルゥの最期の願いを、踏みにじることだ。
トウカは、エルルゥの身体に向き直ると、刀を立て、僅かに鞘から抜き、手を放した。
キィンという澄んだ音が、静まった部屋に響いた。
「エルルゥ殿……。どうか、安らかに……」
呟いたトウカの目から、一筋の涙がつたった。
■
ダイニングの椅子に座り、ロックは思考を巡らせていた。
(さて、もう一度考えてみるか……)
ロックは、天井の一点を見つめた。
(トウカは除外していい。彼女はその気になれば、俺達全員を簡単に殺せる。そんな人間が毒殺という手段を使う必要はない)
伊達に、歩けば殺し屋にぶつかる町で、生活してはいない。
物腰からして、トウカが相当な使い手だということが、ロックには分かる。
(キョン君、魅音ちゃん、ハルヒちゃん……。あんなに、首輪を外すことに熱心だった彼らが、
いきなりしんのすけ君を殺害しようとするだろうか?八方塞ならともかく、『ディスク』やipodという希望が出てきたばかりの段階で
まあ、彼らのうちの誰かが、遠坂凛と同じ『リアリスト』である可能性は捨て切れないが……)
そこまで考えて、ロックは思考を取りやめた。
(動機から追っても、犯人には辿り着けそうにないな)
会って数時間しか立っていないのだから、彼らの人となりの深いところまで、分かるはずもない。
(犯人は、エルルゥがお茶を淹れにキッチンに発った後にキッチンに向かい、彼女の隙をついて毒を入れた。
エルルゥの後にこの部屋から出た、アリバイの無い人間を考えると……)
ロックは頭を抱えた。
(とまあ、結局同じ結論に辿り着いちまうわけだ)
この推理を皆に話した場合、どういう反応が返ってくるであろうか?
暗澹たる思いでロックはため息をついた。
――あまりにも常識ハズレすぎる。
気狂い扱いされるのが、関の山だ。
戻ってくるかどうか分からないが、沙都子を心から気にかけている魅音は、さぞかし逆上するだろうし、
普通の生活を送っていたハルヒやキョンが、信じるとも思えない。
どうにかして、自分の無実と真犯人があの子だということを、証明しなくてはならないのだが……。
――どうやって?
ろくな方策も考え付かぬまま、無情にも時間だけが過ぎていき――
玄関のドアが開く音がした。
■
居間に足を踏み入れたキョン、ハルヒ、魅音の3人を迎えたのはトウカだった。
魅音の体がこわばり、呼吸が荒くなる。
何度も口を開け、息だけをむなしく吐き出す魅音に、トウカが歩み寄っていく。
「……よく、戻られた。何事もなくて……よかった」
そう言って、トウカは、何かを堪えるような笑みを浮かべた。
魅音の表情が、崩れた。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……ごめ……なさ」
「……もうよい。もう、何も申されるな」
トウカの指が魅音の頬に触れた。
「こんなに、目を赤くして……」
指に伝う涙を拭ってやりながら、
「そんな顔をなさるな。魅音殿がそんな顔をすることを、きっと……エルルゥ殿は喜ばぬ」
「でも、私がっ!! 私が……。エルルゥさんを――」
強く抱きしめられ、魅音の悲鳴は途切れさせられた。
「許しておられる! きっと、エルルゥ殿は許しておられる……。エルルゥ殿はそういうお方だ。だから……。
だから魅音殿、そんなに自分を責めてなくてよいのだ」
優しく、そして悲しげに、トウカは魅音に笑いかけた。
「さあ……。共に、エルルゥ殿を弔おう」
「……うん」
魅音は小さく頷いた。
トウカに促され、魅音、そしてキョンがエルルゥの遺体が安置されている部屋へと入り、手を合わせた後、その体を抱えあげた。
戸を開け、4人が再び居間に入った時、そこにはロックの姿があった。
キョン、魅音、ハルヒの顔が一斉にしかめられ、その目に敵意の光が宿った。
内心で大きく嘆息しつつ、
「……俺にも手伝わせてくれ。彼女にはちゃんと、礼と別れがいいたいんだ」
何もしてやれなかった自分を救ってくれたエルルゥに、せめて最期の別れを告げ、遺体の前で誓いたかった。
彼女の遺志を継ぎ、もう誰にも悲しい思いをさせないために力を尽くすと、誓いたかった。
自分にできることはもう、それくらいだから。
ロックは頭を下げた。
「……止めはせん」
顔は背けたままだったが、トウカに許諾の意を示され、ロックは小さく安堵の息を吐いた。
その時、ハルヒが口を開いた。
「あたし、ロックさんに大事な話があるから、その後にしてくれる? そんなに手間を取らせるつもりはないわ」
目の端の角度が上がるのを、ロックは感じた。
(この、脳タリンのクソ餓鬼が……。大概にしやがれ)
凶暴な感情が口から迸りそうになるのを、ロックは必死に抑え込んだ。
涼宮ハルヒの手には、銃がある。
彼女の目付きと態度からして、下手にに反抗すれば、また撃たれかねない。
「……オーケィ。手早く頼むよ」
トウカが何か言いかけたが、キョンに制せられ、キョン、トウカ、魅音は居間から出て行く。
ほどなくして、玄関の戸が閉まる音がした。
その音がするのを待っていたかのように、ハルヒが口を開いた。
「……あたし達、3人でよぉく考えたわ。誰が、しんちゃんのお茶に毒を入れたのかを、ね……」
医師の透徹するような視線をハルヒに送りながら、ロックは無言で先を促した。
「で、一つの結論に達したわ」
ハルヒの手の中のAKの銃口が跳ね上がり、ぴたりとロックに突きつけられた。
「ロック……。やっぱりどう考えてもあんたしか犯人はいないって、結論にね」
■
「俺のカバンに、薬が入っていたのを疑っているなら――」
「ええ、それが証拠よ」
あっさりとハルヒは言った。
「俺が言うのもなんだけど、証拠品を残しておく犯人ってのは、間抜けすぎやしないか?
俺がそこまで間抜けに見えるっていうなら仕方ないけどな」
皮肉を混じらせて、ロックは言った。。
「そうね。でも、逆に言えば、そこが怪しいのよ」
「……どういうことだい?」
「証拠を自分のディパックに残せば疑われるなんてこと、それこそ小学生でも高学年になれば思いつくわ。
少し考えれば、誰か別の人間がロックに罪を着せるために仕組んだに違いない、という結論に達するでしょうね。
そしてそれが、あんたの狙いだったのよ」
ハルヒの声は淡々としており、彼女の確信の強さをうかがわせた。
「一度分かりやすく疑われることで、完全に容疑者から外れる。単純だけど、強力な心理トリックだわ。
調査済みだと思ったものをもう一度調査する人間は、いないもの」
「……動機は?」
抑えてはいたが、その響きには苛立ちが感じられた。
「俺は、ずっとしんのすけ君と行動してきた。危害を加えるつもりなら、とっくにやっていたと思わないのか?」
「そうね。足手まといの子供を連れ歩くなんて、デメリットにしかならない……。これも、単純に考えたらそうよ。
単純に考えたら、だけど」
「……単純に考えなければ?」
「足手まといの子供を連れ歩いていれば、『人に危害を加える人間じゃない』と他の参加者に思わせられるってメリットがあるわ。
そうなればしめたものよ。善人面をして集団にもぐりこむことができるんだもの。
この腐れゲームで、誰かの信頼を勝ち取るのは、簡単なことじゃないけど、子供を連れ歩くほどの善人ともなれば別だわ。
現にあったは、エルルゥさんという、傷の治療が出来る薬師を味方につけることもできたし、今もこうして集団にもぐりこむ事ができてる」
ややあって、
「よくもまあそれだけ、悪意てんこ盛りの発想ができるもんだ」
心底呆れたという風に、ロックが吐き捨てた。
「……集団に潜り込んだあんたは、用無しになった足手まといを切り捨て、ついでにあたし達を度疑心暗鬼に追い込んで、切り崩そうともくろんだ。
そりゃそうよね。全員がスクラム組んでる集団じゃあ、万が一の時、皆殺しにできないもの」
ハルヒの声は、どこまでも決まりきったことを読み上げるようだった。
「ちょっと待ってくれ。俺は、君達にアレを提供しただろう? 優勝狙いだとするなら矛盾してるじゃないか」
「保険よ! 生き残る道は、多いほうがいいに決まってるもの。リアリストのあんたなら、分かるでしょ?」
「……だが結局、君の言ってることは全部推測だ。何一つ証拠はありゃしない」
「証拠? 証拠ですって!?」
ハルヒの声が甲高くなった。
「そんなもん、必要ないわ! だって、どう考えたって、犯人はあんたしかいないもの!
トウカさんは、毒なんか使う必要がない。しんちゃんは自殺する動機がない。沙都子ちゃんは論外の外!
キョンは絶対に違うし、沙都子ちゃんをあんなに心配してる魅音が最後の一人になろうなんて考えるはずがない!
だから……。あんたしかいないのよっ!!」
絶叫が居間のドアを震わせた。
「トウカを先に行かせたのは、そういうことか……」
「そうよ! エルルゥさんが庇った人だってことで、あんたを庇うかもしれないもの」
「……そこまで疑ってるなら、さっさと撃てばいいだろう。どうして、こんな風に長々と?」
氷のような声で、ロックは尋ねた。
「あたしわね、陰険なやつが大嫌いなのよ。人を舐めきって、どうせ分からないだろうと心の中でせせら笑ってるようなやつが大っ嫌い。
だから、そいつがどれだけ大したことのない人間か、分からせてから……。殺してやろうと思ったのよ!!」
鉛のような沈黙が満ちた。
「……撃つ前に一つだけ、俺の願いを聞いてくれないか?」
「懺悔なんかしたって無駄よっ!!」
冷酷にもハルヒは、一言の下に斬って捨てた。
「そうじゃない……。しんのすけ君が起きるまで、待って欲しい」
「はぁ? 時間稼ぎしようってつもりなら……」
ハルヒの声音に、初めて疑問の成分が混じった。
「さっき思い出したんだが……。しんのすけ君が、台所の方をうかがっているのを、俺は見たんだ。君はみかけなかったか?」
「……確かにやたらと、うろちょろしてた気もするけど……。それがどうしたっていうのよ!?」
ハルヒの怒鳴り声が響いた。
「やっぱりな……。しんのすけ君はエルルゥに懐いてたから、手伝おうとしてたか、話しかけようとしてたんじゃないかと思ったが、
案の定か」
「あんたの話は、まわりくどいのよっ!! 結局、何だっていうわけ!?」
「簡単なことさ。あのお茶に毒が入っていたのは間違いない。だから――」
「……しんちゃんが、犯人らしき人を見たかもしれない。そういうわけ?」
「いくらエルルゥが精神的に消耗していたとはいえ、彼女の隙を伺うためにはそれなりの時間、台所周辺にいなきゃならなかったはずだ。
だから、しんのすけ君が台所周辺にいた人物を思い出してくれれば――」
それきり声は途切れ、長い沈黙が満ちた。
「悪あがきが過ぎるとは思うけど……。分かったわ、撃つのは待ってあげるわ」
「……ありがとう。今の俺には、君のその言葉がカーネギー名語録全てより、ありがたく聞えるよ」
心底安堵したというように、ロックが言った。
「ゴチャゴチャ言ってないで立ちなさい! ほらっ! とっとと歩くのよ!」
「バターン半島への行軍じゃないだろうね?」
「待ってあげるって行ったでしょ!? けど、しんちゃんが起きるまで、あんたには和室に居てもらうからね」
ロックはため息をついた。
「あそこなら、窓もないからな……。やれやれ、トイレ休憩はくれるのかい?」
「舐めた言うんじゃないわよっ!! 部屋から出ようとしたら、容赦しないからね!!」
*時系列順で読む
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|262:[[暁を乱す者(後編)]]|ロック|267:[[暁の終焉(中編)]]|
|262:[[暁を乱す者(後編)]]|トウカ|267:[[暁の終焉(中編)]]|
|262:[[暁を乱す者(後編)]]|キョン|267:[[暁の終焉(中編)]]|
|262:[[暁を乱す者(後編)]]|涼宮ハルヒ|267:[[暁の終焉(中編)]]|
|262:[[暁を乱す者(後編)]]|園崎魅音|267:[[暁の終焉(中編)]]|
|262:[[暁を乱す者(後編)]]|野原しんのすけ|267:[[暁の終焉(中編)]]|
|262:[[暁を乱す者(後編)]]|北条沙都子|267:[[暁の終焉(中編)]]|
*暁の終焉(前編) ◆WwHdPG9VGI
(っつぅ……)
肩から痛みが走り、魅音は顔をしかめた。
汗がしたたり、顎へとつたう。
魅音を既視感が襲った。
誰かから逃げようとして、肩に痛みを感じながら、走っている。
(そうだ……。あの時もこうして……)
魅音の脳裏に、昨日の出来事が次々と浮かびあがった。
翠星石がいきなり梨花を撃って、隣にいた武も敵に見えて、二人から逃げ出そうと必死に走った。
その後、色んなことがあった。
――光とクーガーに、もう逃げないと、強くなると、誓った。
それなのにまた、自分は逃げている。
トウカから憎しみの目で見られるのが、怖いから
キョンやハルヒに、驚きと侮蔑の目で見られるのが、怖いから。
沙都子に恐怖の目で見られるのが、怖いから。
(どうして私は……。こんなにダメなんだ……)
光が踏み殺されるのを、黙ってみていることしかできなかった自分。
恐怖に怯えで、立ち向かうことができなかった自分。
そんな自分が嫌で、変わりたいって、思ったはずなのに。
――また、逃げている。
立ち向かおうとせずに、向き合おうとせずに、逃げている。
(……私また……間違っちゃった……)
悪党を倒し、みんなを守るつもりだったのに。
自分は銃を撃って、エルルゥさんを殺してしまった。
――人殺しになってしまった
「アハハッ……ハッハッ……」
誰かが笑っている。
誰だろう?
自分だ。自分の声だ。
――なんて気味の悪い声。
魅音の足から急速に力が抜けた。
二つの足音が近づいてくる。
ゆっくりと、魅音はその足音の方へ、顔を向けた。
■
(やっと……。止まって……。くれたか……)
キョンは、ホッと胸を撫で下ろした。
声をかけたいのだが、息が切れてしまって、言葉が出てこない。
体がやたらと重く、喉どころか肺まで痛む。
しまいには、しゃっくりまで飛び出した。
それでも、キョンは自分の体力に多少感心していた。
(まったく……。ハルヒのヤツに、引っ張りまわされてたことを感謝する時が、くるなんてな……)
涼宮ハルヒの『パトロール』とやらで、やたらと町内を歩き回ることが増えたせいで、体力が多少ついていたらしい。
そうでなければ、帰宅部の自分が、昨日あれだけ動いて、その上で全力疾走など、できるはずもない。
「園崎……。とにかく、戻ろう……。この状況で一人になるのは、ヤバ……すぎる」
荒い息を吐きながら、キョンは切れ切れに、言葉を吐き出した。
「そうよ。ひとまず家に、戻りましょ?」
隣のハルヒもキョンに続くが、その声音はどこか硬かった。
(無理も無いがな……)
キョンは顔をしかめた。
魅音が走りながら発していた、狂気を含んだ笑い声。
ハルヒが、魅音の内に潜む狂気に触れるのは、始めてだ。
(俺も始めは、驚いたからな……。無理もない反応だぜ)
キョンは、魅音の顔を凝視した。
魅音の眼は空ろで、先ほどまでの生気にあふれたていた眼差しは、どこかに消えうせている。
「……無理だよ」
声に秘められたあまりの空虚さに、ぞくり、と怖気がキョンの背筋を這い登った。
「私は、ひと……ひと……」
魅音の体が震え始めた。
両手で頭を抱え、うわ言のように何か呟いている。
その全身から発せられる得体の知れないオーラは、キョンもハルヒを戦慄させた。
唐突に、魅音の体の震えが止まった。
魅音が、ゆっくりと顔を上げた。
「私は、人殺しなんだよ。キョン!!」
心臓を氷の刃で刺し貫かれたような感覚が、キョンを襲った。
隣でハルヒが絶句している気配が伝わってくる。
(何て、眼を、声を、しやがるんだ……)
魅音の瞳には、絶望の黒い炎と狂気の光があった。
「戻れるわけないじゃないか……。ト、トウカ……さ……」
ぐにゃり、と魅音の顔が歪んだ。
「トウカさんになんていえばいいのさっ!? ごめんなさい!? そんななことで……。
そんなことで、許してもらえるわけ、ないじゃないか」
そうだ、許してもらえるわけが無い。
魅音の心には、絶望と恐怖の嵐が吹き荒れていた。
ハルヒが、朝食の前にやった情報交換で、何度も「ごめん」と言ったとき、自分は何と思った?
――謝られると責めてしまうから。
そう思っていた。
謝罪の言葉なんて白々しいだけだと、そう思っていた。
トウカも同じコトを感じるはずだ。きっと、許してくれない。
あんなに悲しんでいた、あんなに怒っていた。
魅音の瞼に、涙を流しながら刀に手をかけていたトウカの姿が浮かぶ。
トウカの目にあったのは、紛れもない、憎しみの光。
(きっと……。梨花が殺された時、私もあんな目をしてたんだ……)
大事な人を目の前で殺された時、どれほどの怒りが湧き上がるか、自分は知っている。
――怖い。
トウカに、優しくしてくれたあの人に、落ち込む自分を抱きしめてくれたあの人に、
憎しみの目を向けられるのが、怖い。
――嫌だ。
もう、苦しむのはたくさんだ。
自己嫌悪も、悲しいのも、辛いのも。
顔を背けたい、逃げたい。
それに――
「キョン! ハルヒ! 私は鬼なんだよ!!」
魅音の中で何かが弾けた。
「私の中には、園崎家の血が、鬼の末裔の血が流れてる!! その血がね……。叫ぶんだよ!
殺せ! 殺せ! 狂え! 狂え! って!!」
魅音は絶叫した。
梨花が殺された時も、武と再会したときも、さっき、しんのすけが毒が盛られた知ったときも、
激しい感情がわきあがった。
抑えようとしても抑えられない、殺意と怒りの奔流。
ロックを撃った時、自分は普通ではなかった。
冷静に考えてみれば、拘束するなりして話を聞くべきだった。
腑に落ちない点だってあったのだから。
落ち着いて思考を展開しているつもりだったのに、できていなかった。
あの時の自分は、怒りに囚われていた。殺意に押し流されていた。
「私は、みんなと一緒にいられない!! いちゃいけないんだよ!!」
きっとまたあの激しい感情に囚われて、取り返しのつかないことをしてしまうに、決まっている。
どうしようもなく弱くて、人殺しで、感情が高ぶると、殺意に囚われてしまうような人間。
こういう人間をなんていう?
狂人、だ。
(……ていうか、もうとっくに狂ってるのかな? 私……)
さっき、自分の口から漏れ出ていた、変な笑い声。
あんな声を出す人間が、普通の人間のはずはない。
自分は、キョンやトウカと一緒にいていい人間じゃない。
「キョン……ハルヒ……。だから、私のことは、ほって、おいて……」
視線を地面に落とし、ひび割れた声で魅音は言った。
「でも、その……。頼めた立場じゃないのは、分かってるけど……。沙都子のこと……お願い……。
あの子のこと、守って……あげて……欲しいんだ」
それきり深い沈黙が満ちた。
魅音は、顔を上げることができなかった。
キョンやハルヒが、自分をどんな眼で見ているか、知るのが怖い。
「それはできん」
沈黙を破った平坦な声音に、魅音は思わず顔を上げた。
その視線の先には、どこか静かなものを浮かべるキョンの顔があった。
「仲間をこんな危険地帯に一人にしておくなんてこと、できるわけないだろうが!」
思わず魅音は口を開きかけるが、キョンは、魅音の返答を待たずに続けた。
「園崎は……。ここから脱出したいと思わんのか?」
「……キョ、キョン?」
魅音の顔に、困惑の皺が刻まれた。
「大事なことだ。答えてくれ」
キョンが、淡々とした声音で尋ねてくる。
「……脱出したいよ。そんなの、決まってるじゃないか」
「そのために、誰かを殺そうって思うか?」
「そんな!!」
カッと魅音の頭に血が上った。
「そんなこと……するわけ……できるわけ、ないだろ……」
自分の声が弱まっていくのを、魅音は感じた。
(キョンにそう思われても、仕方ないよね……)
自分はもう、人殺しなのだから。
「ああ! そうだろうさ!」
確信に満ちた声だった。
意表を突かれた思いで、魅音はキョンをまじまじと見た。
キョンの瞳の中には、真っ直ぐな光があった。
「小さな子に毒を盛るってことをあんなに怒れるお前が、大事な誰かを奪われることの痛みを知ってるお前が……。
人殺しなんかするはずねえ!!」
「キョン……」
魅音の瞳が揺らいだ。
「鬼の末裔!? 何だか知らんが、それなら逆に歓迎するぜ。
俺達のSOS団は、普通じゃない人間を探して、一緒に遊ぶことを目的にしてるんだからな!
園崎……お前は、俺達の仲間だ! 仲間を1人で置き去りになんか、できるかよっ!!」
「……ありがとう、キョン」
こんな自分でも、まだ、仲間だといってくれる彼の気持ちは、本当に嬉しい。
でも、だからこそ一緒にはいられない。
一緒にいたらきっと迷惑をかけてしまうから。
魅音が口を開きかけたその時、
「だめよ、キョン」
冷然とした、ハルヒの声が響いた。
「魅音を団員に、私達の仲間にするわけには、いかないわ」
「ハルヒ……お前?」
驚きに眼を見張るキョンに、強い視線でハルヒは答えた。
「魅音……。あんた、一番謝らなきゃならない人のこと、忘れてんじゃない?」
キョンから視線を外し、ハルヒは魅音に鋭い視線を叩きつけた。
「あんたが一番謝らなきゃならない人は、エルルゥさんでしょ!! それなのに何よ!
さっきから、被害者みたいな顔して! 図々しいわよ!!」
ハルヒが吐き捨てるように言った。
「だ、だって!!」
「だって何よ!? まさか、わざとじゃない、とか言うつもりじゃないでしょうね!?
あんたが、銃を撃ったりしなけりゃ、あんなことにならなかった。そうでしょ!?」
「ハルヒ!! よせ!!」
「あんたは黙ってなさい!!」
キョンの静止を振り切り、ハルヒはついに決定的な一言を口にしてしまう。
「魅音、あんたが、何の罪もないエルルゥさんを撃ち殺したってことは、変わらないのよ!?」
言葉の槍が、魅音の胸を深々と刺し貫いた。
無意識にブレーキをかけて自分で自分を責めるのと、他人から責められるのでは、まったく違った。
きいんと、耳鳴りがし、魅音の世界から音が消え、何も聞こえなくなった。
目の前で、ハルヒがぱくぱくと口を開け、何かを叫んでいる。
――なんて滑稽なんだ
ふとそう思った瞬間、魅音の心の中の黒い炎に火が点いた。
黒い炎は一瞬で心を埋め尽くし、怒りと憎悪が込み上げ来る。
「そういうあんたはどうなのさ!?」
底冷えのするような魅音の声に、思わずハルヒは押し黙る。
ふんと、鼻を鳴らし、
「私が人殺しだってのは、間違いないよ。でもハルヒ、あんただって大差ないんじゃない?
だって、あんたがアルルゥっていうエルルゥさんの妹とヤマトって子を、映画館から連れ出さなければ、
その子達は、死ななくてすんだんだからさっ!!」
ハルヒの顔が見る見るうちに青ざめていく。
――いい気味だ
魅音の心の中の黒い炎が、勢いを増した。
「……あ、あたしは、アルちゃんのためを……」
「あはははっ! そりゃないだろ、ハルヒ! わざとじゃありません、が通用しないって言ったのは、あんたじゃないか!!」
魅音は嘲笑を叩きつけた。
「あんたの話を聞いてて、ずっと思ってたんだけどさぁ……」
魅音はそこで一度言葉を切った。
顔に冷笑の皺を刻み、悪意を視線に存分に込め、
「団長って言う割には、あんた、みんなの足を引っ張ってるだけだよねぇ?」
ハルヒの体がびくん、と震えた。
「やめろ!! 園崎」
魅音は、薄笑いを浮かべてキョンを見た。
案の定というべきか、キョンの顔には、はっきりと怒りの感情が浮かんでいた。
やっぱり、と思う。
(キョンは、この子の味方をするんだ。ま、当然だけどね)
口では仲間とか言っていても、結局こんなものだ。
黒い衝動に突き動かされるままに、魅音はさらに言葉を紡ぐ。
「キョンも大変だよね! 役立たずなくせに、態度ばっかり大きい団長さんの尻拭いをさせられてさぁ……。
おじさん同情しちゃうよ!」
「黙れっ!!」
悲鳴染みたハルヒの絶叫に、魅音は口の端を吊り上げた。
「何さ? 私は、あんたがいう所の「事実」っていうやつを指摘しただけなんだけど!?
ひょっとして痛いところついっちゃったかなぁ!? ごめんねぇ~。おじさん、嘘がつけない性分でさぁ!」
魅音は大げさに肩をすくめてみせた。
「……黙れっつってんでしょ!! 聞こえないの!?」
激しい憎悪をその瞳に宿し、ハルヒが銃を向けてくる。
魅音の目が細められた。
(へぇ、見よう見まねの割には……。観察力はあるみたいだね)
なかなかの構え方だ。
「撃ちたきゃ、撃ちなよ。だけどあんたのせいで、アルルゥって子とヤマトって子が死んだのは変わらないんだからね?
そこんとこ分かってるかなぁ!? 団長さぁ~ん!?」
「あんた……。ぶっ殺されたいのね!?」
血走った目には殺意が浮かび、ハルヒの銃を持つ手は、ぶるぶると震えている。
いつ、引き金が引かれるかも分からない。
命の危険の感じながらも、魅音は悪鬼の笑みを浮かべたまま、銃口を睨んだ。
(撃てばいさ……。私なんかどうせ、生きてたって……)
でも、死ぬ前に、目の前の女を傷つけてやる。
徹底的に心を砕いて、滅茶苦茶にしてやる。
吹き上げる黒い炎の命じるままに、魅音が、ハルヒを言葉の刃で貫かんとした、まさにその時、
「てめえらっ!! いい加減にしろっっ!!」
それまで響いていた怒声に更に倍する怒号が轟いた。
その声に秘められた怒りの風は澄んでいた。二人の少女の心で燃え盛る黒炎を、一瞬吹き払ってしまうくらいに。
キョンは、わずかに発生した彼女達の心の間隙をぬって、彼女達の心に言葉を叩きつける。
「お前ら……。お前ら、自分が何をやってんのか、分かってんのかよっ!? 罵り合って、仲間に銃向けて……。
そんなことして、誰が喜ぶんだよ!? お前ら、今の姿を……」
キョンは、鋭い視線を、魅音とハルヒに交互に向けた。
「園崎! 今のお前の姿を、クーガーって人や光って子に見せられるのか!?
ハルヒ! お前もだ! ヤマトやアルルゥって子だけじゃない、朝比奈さんや長門に、鶴屋さんに、今の自分――」
「そんなこと分かってるさっ!!」
「分かってるわよ!! そんなことっ!!」
重なった魂の悲鳴が、大気を引き裂いた。
キョンの言葉は、少女達の心を覆っていた黒炎を消し飛ばしたが、同時に彼女達の心を守っていた最後の壁をも、
突き崩してしまっていた。
「頑張ってみたんだ!! クーガーが、私は強いって言ってくれたから!! 光が私のこと守ってくれたから!!
でも、でも……。ダメだったんだ!! 私にはできなかったんだよっ!! これ以上どうしろって……いうのさ……。
無理だよ……クーガー……光……。あんた達みたいになんか、なれないよっ!!」
髪を掻き毟りながらひっくり返った声で魅音が喚く。
「あんたに言われるまでもないわよ!! 団長として、しっかりやんなきゃって、ずっと思ってきたわよ!!
だけど……。だけど……」
くたっと、ハルヒの体から力が抜けた。
がちゃん、という音ともに銃が地面に落ち、鈍い音を立てた。
「全然……上手くいかなくて……。アルちゃんを、お姉さんに、合わせてあげたかっただけなのに……。
ヤマトのこと、助けてあげたかったのに……。あいつ、私のこと団長って、呼んでくれた……。
二人とも、あたしのこと、あの女から助けてくれたのに……」
ハルヒが地面に崩れ落ち、涙を流す。
嗚咽と悲鳴が響く中、
「……でもよ、お前らが傷つけあったら、その人たちがもっと……悲しむと、思う。だから……。
傷つけあうのだけは、やめてくれ……。頼む……ハルヒ……園崎……」
力の無い声で、呟くようにキョンは言った。
ただ、それだけしか出来ず、立ち尽くしていた。
■
嵐のような激情を吐き出した後、虚脱が3人を襲っていた。
地面に座り込んだ三人を、太陽がじりじりと焦がす。
――どれくらいそうしていだろうか?
ふぅっという小さな吐息が、魅音の口から漏れた。
「ハルヒ……。あんたの、言うとおりだよ……」
魅音は力の無い笑みを浮かべた。
「私、まだ……。エルルゥさんに、謝ってなかったね……。謝って、何が変わるってわけじゃないけど……。
それでも、謝らなきゃね……。トウカ、さんにも……」
魅音はきつく眼を閉じた。
「……それくらいは、しないとね……」
『迷惑かけるから一緒にいられない』なんてキョンには言ったけれど、結局自分は、逃げたかっただけだ。
罪悪感から、自己嫌悪から。
今も、逃げたくて仕方ない。
トウカの責める声を聞きたくない、沙都子の自分を恐れる眼をみたくない。
この期に及んで、まだ自分は、自分自身を守ろうとしている。
(……血のせいにしてれば、世話ないよ)
生来の激しい感情を御せぬ自分が未熟極まりないというだけのことを、
まるで、呪いの運命を背負ったヘラクレスにでもなったかのように、告白するとは。
みっともないことこの上ない。心底自分が嫌になる。
(けどせめて、謝るくらいはしないと、みんなに申し訳が、たたなさすぎるもんね……)
自分は、どうしようもなくダメな人間だ。クーガーが言っていたような強い人間ではない。
それでも、謝ることくらいはしなければ、と思う。
最後の、本当に最後の薄皮一枚残った意地が、魅音の身体を突き動かしていた。
「私、行くから……。キョンは、ハルヒと一緒にいてあげてよ」
魅音は立ち上がった。
「……待ちなさいよ」
歩き去ろうとした魅音を、ハルヒが制した。
振り返らずに、魅音は口を開いた。
「ハルヒ、ごめんね……。酷いこと言って……。でも、早く行って謝ら――」
「あたしは――」
魅音の言葉をハルヒは遮った。
一度大きく深呼吸し、ハルヒは魅音を、正面から見つめた。
「――団長として、団員の独断専行を許すわけには、いかないわ」
驚いて魅音は振り返り、ハルヒの顔を凝視する。
ハルヒの瞳には、意志の光が戻っていた。
魅音は、小さく首を横に振った。
「ハルヒ……。私は……。何度も間違いを繰り返す、どうしようもなくダメなヤツで……その上、人殺しで……」
「そんな人間には、ダメな団長で十分だって……。思わない?」
視線をそらさず、ハルヒが問いかけてくる。
魅音の瞳孔が、その大きさを増した。
ややあって、大きなため息を一つつき、
「ハルヒ……。あんた、馬鹿だよ……」
「……そうみたいね。自分ではもうちょっとまともだと、思ってたんだけど……」
ハルヒは、自嘲の笑みを浮かべた。
魅音に指摘されるまでは、眼を逸らしていた。見ているつもりで、見ていなかった。
自分の行動は、本当に、どうしようもなく軽率だった。
――映画館から二人を連れ出さなければ、二人は死ななかった
それが事実。だから、二人が死んだのは自分の過失。
そのことから目を逸らし、あまつさえ、自分の命のことばかり考えていた。
――なんて醜いんだろう
ハルヒの心が悲鳴を上げた。
目を逸らしたくなる、顔を背けて、逃げ出したくなる。
――でも、団長であり続けなければと、思うから。
メッセージを託してくれた長門有希の思いを、無念の死を遂げたであろう鶴屋さん、朝比奈みくるの思いを、
そして死んでいった――
(違うでしょ……)
心を切り裂く激痛に、ハルヒは奥歯を食いしばった
――自分が死なせてしまった、アルルゥの、ヤマトの
――思いだけは、踏みにじらないために
団長であり続けなければ、二人に謝ることにならない。
そう、思うから。
「……返事は、やることをやってからで……いいかな?」
目元を拭いながら魅音が言い、
「……いいわよ」
静かな声でハルヒは答えた。
二人のやり取りに心底安堵しつつも、キョンはやりきれないものを感じて、天を仰いだ。
最も目を逸らしたかったことを他人に突きつけられたこと、溜まり溜まったストレスをさらけ出し、吐き出した事、
この二つが、たまたまプラスに働いてことなきを得た。
しかし、一歩間違えれば、殺し合いになっていてもおかしくなかった。
(二人とも、自分が何とかしなきゃって、思っちまうタイプだからな)
なまじ元の世界では、能力が高い部類に入っていたものだから、余計にギャップが堪えていたのだろう。
しかし、生半可な能力や精神力では大した差異が作れないほど、人間を超越した者が多すぎた。状況が過酷すぎた。
結果、二人の少女は、深く傷ついていしまった。
どうしようもなく深く傷ついていて、必死に塞ごうとしても、そこにまた傷が増えていく。
(何とか、しないとな。本当に、なんとか……しないといかん……)
早く脱出への道を開かないと、取り返しのつかないことになる。
「じゃあ……。行くか」
キョンは立ち上がった。
一刻も早く、トグサと連絡をつけ、ドラえもんというロボットの持つディスクを手に入れたい。
心底そう思う。
「待って。キョン、魅音……」
「ハルヒ……。歩きながらじゃ、駄目か?」
今は、とにかく時間が惜しい。
少量の苛立ちを込めたキョンの視線を、ハルヒはアッサリと跳ね返した。
「駄目よ。今から、考えなきゃならないことは、絶対に、間違いが許されないもの」
ハルヒの眉間には、深い皺が刻まれていた。
「誰がしんちゃんのお茶に毒を入れたのか、それをはっきりさせる必要があるわ」
■
水で塗らしたハンカチで、丹念に血をふき取る。
だが、水でぬらす必要は、なかったのかもしれない。
トウカの目から零れ落ちた水滴が、いくつもいくつもエルルゥの顔に落下し、ハンカチを塗らしていく。
(すまぬ……。エルルゥ殿……すまぬ……)
自害しようとしたエルルゥを止めた時、友として、仲間として、彼女を守りたいと強く思った。
ともにトゥスクルへ、帰りたかった。
(よくも……。よくも、エルルゥ殿を……)
噛み締めた唇から赤い線が糸を引き、顎まで達した。
あの、たおやかで優しいエルルゥを、こんな無残な有様に変えてしまった者。
――園崎魅音
だが、その名前を思い浮かべた時、トウカの怒りの炎は、その火勢を弱めてしまう。
魅音は共に怪物と闘った戦友であり、その人となりに、トウカは好感を持っている。
(魅音殿は某の過失を咎めず、それどころか、某を仲間と呼んでくれた……)
どうして彼女なのだ、とトウカは歯噛みをする。
――魅音殿でなければ、一刀の元に叩き斬っているものを。
トウカは大きく首を振った。
(……いかん、それではいかんのだ)
あれはあくまで事故のようなもの。誰であったとしても、斬ってはならない。
――理屈では分かる。
だが、荒れ狂う感情は、容易に収まってくれない。
トウカは、大きく息を吐いた。
考えてばかりいては、余計に怒りが募る。それよりも、やるべきことをやる方がいい。
(とにかく……形見の一つも探して、持ち帰らねば……)
しかし、それを渡すべき相手を思い浮かべようとして、トウカは硬直する。
エルルゥ、アルルゥの故郷には、誰もいない。
彼女達の故郷、ヤマユラは、クッチャケッチャ軍の攻撃によって、消えてしまっている。
自分の加担したクッチャケッチャ軍の攻撃によって。
今更ながらにトウカは、エルルゥとアルルゥの強さに圧倒される。
二人にとって、自分は仇と呼べる存在なのだ。
無論、理屈で反論しようと思えばできる。
だが、そんな理屈など容易く吹き飛ばしてしまえるほど、大切な人を殺されたと怒りは強い。
今自分が味わっている怒りを、二人はきっと感じたはずだ。
それなのに、二人は自分に笑いかけてくれた。
(某は、未熟だ……。どうしようもなく、未熟者だ……)
自分にも、エルルゥやアルルゥのような強さが欲しいと、痛切にトウカは思った。
――私みたいに誰かが死んで悲しむ人を増やしたくなかったから
エルルゥが残した言葉が、トウカの耳の奥に響いた。
エルルゥは、人が死ぬことの重みを、喪失の痛みを、誰よりも知っていた。
だから、自分の命を失うことになろうとも、彼女は悲しみが生まれるのを止めることを、選んだのだ。
――もう……こんな悲しいことを、繰り返さないでください
(……分かり申した。エルルゥ殿)
新たな悲しみを生むこと。
それは、エルルゥの最期の願いを、踏みにじることだ。
トウカは、エルルゥの身体に向き直ると、刀を立て、僅かに鞘から抜き、手を放した。
キィンという澄んだ音が、静まった部屋に響いた。
「エルルゥ殿……。どうか、安らかに……」
呟いたトウカの目から、一筋の涙がつたった。
■
ダイニングの椅子に座り、ロックは思考を巡らせていた。
(さて、もう一度考えてみるか……)
ロックは、天井の一点を見つめた。
(トウカは除外していい。彼女はその気になれば、俺達全員を簡単に殺せる。そんな人間が毒殺という手段を使う必要はない)
伊達に、歩けば殺し屋にぶつかる町で、生活してはいない。
物腰からして、トウカが相当な使い手だということが、ロックには分かる。
(キョン君、魅音ちゃん、ハルヒちゃん……。あんなに、首輪を外すことに熱心だった彼らが、
いきなりしんのすけ君を殺害しようとするだろうか?八方塞ならともかく、『ディスク』やipodという希望が出てきたばかりの段階で
まあ、彼らのうちの誰かが、遠坂凛と同じ『リアリスト』である可能性は捨て切れないが……)
そこまで考えて、ロックは思考を取りやめた。
(動機から追っても、犯人には辿り着けそうにないな)
会って数時間しか立っていないのだから、彼らの人となりの深いところまで、分かるはずもない。
(犯人は、エルルゥがお茶を淹れにキッチンに発った後にキッチンに向かい、彼女の隙をついて毒を入れた。
エルルゥの後にこの部屋から出た、アリバイの無い人間を考えると……)
ロックは頭を抱えた。
(とまあ、結局同じ結論に辿り着いちまうわけだ)
この推理を皆に話した場合、どういう反応が返ってくるであろうか?
暗澹たる思いでロックはため息をついた。
――あまりにも常識ハズレすぎる。
気狂い扱いされるのが、関の山だ。
戻ってくるかどうか分からないが、沙都子を心から気にかけている魅音は、さぞかし逆上するだろうし、
普通の生活を送っていたハルヒやキョンが、信じるとも思えない。
どうにかして、自分の無実と真犯人があの子だということを、証明しなくてはならないのだが……。
――どうやって?
ろくな方策も考え付かぬまま、無情にも時間だけが過ぎていき――
玄関のドアが開く音がした。
■
居間に足を踏み入れたキョン、ハルヒ、魅音の3人を迎えたのはトウカだった。
魅音の体がこわばり、呼吸が荒くなる。
何度も口を開け、息だけをむなしく吐き出す魅音に、トウカが歩み寄っていく。
「……よく、戻られた。何事もなくて……よかった」
そう言って、トウカは、何かを堪えるような笑みを浮かべた。
魅音の表情が、崩れた。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……ごめ……なさ」
「……もうよい。もう、何も申されるな」
トウカの指が魅音の頬に触れた。
「こんなに、目を赤くして……」
指に伝う涙を拭ってやりながら、
「そんな顔をなさるな。魅音殿がそんな顔をすることを、きっと……エルルゥ殿は喜ばぬ」
「でも、私がっ!! 私が……。エルルゥさんを――」
強く抱きしめられ、魅音の悲鳴は途切れさせられた。
「許しておられる! きっと、エルルゥ殿は許しておられる……。エルルゥ殿はそういうお方だ。だから……。
だから魅音殿、そんなに自分を責めてなくてよいのだ」
優しく、そして悲しげに、トウカは魅音に笑いかけた。
「さあ……。共に、エルルゥ殿を弔おう」
「……うん」
魅音は小さく頷いた。
トウカに促され、魅音、そしてキョンがエルルゥの遺体が安置されている部屋へと入り、手を合わせた後、その体を抱えあげた。
戸を開け、4人が再び居間に入った時、そこにはロックの姿があった。
キョン、魅音、ハルヒの顔が一斉にしかめられ、その目に敵意の光が宿った。
内心で大きく嘆息しつつ、
「……俺にも手伝わせてくれ。彼女にはちゃんと、礼と別れがいいたいんだ」
何もしてやれなかった自分を救ってくれたエルルゥに、せめて最期の別れを告げ、遺体の前で誓いたかった。
彼女の遺志を継ぎ、もう誰にも悲しい思いをさせないために力を尽くすと、誓いたかった。
自分にできることはもう、それくらいだから。
ロックは頭を下げた。
「……止めはせん」
顔は背けたままだったが、トウカに許諾の意を示され、ロックは小さく安堵の息を吐いた。
その時、ハルヒが口を開いた。
「あたし、ロックさんに大事な話があるから、その後にしてくれる? そんなに手間を取らせるつもりはないわ」
目の端の角度が上がるのを、ロックは感じた。
(この、脳タリンのクソ餓鬼が……。大概にしやがれ)
凶暴な感情が口から迸りそうになるのを、ロックは必死に抑え込んだ。
涼宮ハルヒの手には、銃がある。
彼女の目付きと態度からして、下手にに反抗すれば、また撃たれかねない。
「……オーケィ。手早く頼むよ」
トウカが何か言いかけたが、キョンに制せられ、キョン、トウカ、魅音は居間から出て行く。
ほどなくして、玄関の戸が閉まる音がした。
その音がするのを待っていたかのように、ハルヒが口を開いた。
「……あたし達、3人でよぉく考えたわ。誰が、しんちゃんのお茶に毒を入れたのかを、ね……」
医師の透徹するような視線をハルヒに送りながら、ロックは無言で先を促した。
「で、一つの結論に達したわ」
ハルヒの手の中のAKの銃口が跳ね上がり、ぴたりとロックに突きつけられた。
「ロック……。やっぱりどう考えてもあんたしか犯人はいないって、結論にね」
■
「俺のカバンに、薬が入っていたのを疑っているなら――」
「ええ、それが証拠よ」
「……俺が言うのもなんだけど、証拠品を残しておく犯人ってのは、間抜けすぎやしないか?
俺がそこまで間抜けに見えるっていうなら仕方ないけどな」
皮肉を混じらせて、ロックは言った。。
「そうね。でも、逆に言えば、そこが怪しいのよ」
「……どういうことだい?」
「証拠を自分のディパックに残せば疑われるなんてこと、それこそ小学生でも高学年になれば思いつくわ。
少し考えれば、誰か別の人間がロックに罪を着せるために仕組んだに違いない、という結論に達するでしょうね。
そしてそれが、あんたの狙いだったのよ」
ハルヒの声は淡々としており、彼女の確信の強さをうかがわせた。
「一度分かりやすく疑われることで、完全に容疑者から外れる。単純だけど、強力な心理トリックだわ。
調査済みだと思ったものをもう一度調査する人間は、いないもの」
「……動機は?」
抑えてはいたが、その響きには苛立ちが感じられた。
「俺は、ずっとしんのすけ君と行動してきた。危害を加えるつもりなら、とっくにやっていたと思わないのか?」
「そうね。足手まといの子供を連れ歩くなんて、デメリットにしかならない……。これも、単純に考えたらそうよ。
単純に考えたら、だけど」
「……単純に考えなければ?」
「足手まといの子供を連れ歩いていれば、『人に危害を加える人間じゃない』と他の参加者に思わせられるってメリットがあるわ。
そうなればしめたものよ。善人面をして集団にもぐりこむことができるんだもの。
この腐れゲームで、誰かの信頼を勝ち取るのは、簡単なことじゃないけど、子供を連れ歩くほどの善人ともなれば別だわ。
現にあったは、エルルゥさんという、傷の治療が出来る薬師を味方につけることもできたし、今もこうして集団にもぐりこむ事ができてる」
ややあって、
「よくもまあそれだけ、悪意てんこ盛りの発想ができるもんだ」
心底呆れたという風に、ロックが吐き捨てた。
「……集団に潜り込んだあんたは、用無しになった足手まといを切り捨て、ついでにあたし達を度疑心暗鬼に追い込んで、
切り崩そうともくろんだ。 そりゃそうよね。全員がスクラム組んでる集団じゃあ、万が一の時、皆殺しにできないもの」
ハルヒの声は、どこまでも決まりきったことを読み上げるようだった。
「ちょっと待ってくれ。俺は、君達にアレを提供しただろう? 優勝狙いだとするなら矛盾してるじゃないか」
「保険よ! 生き残る道は、多いほうがいいに決まってるもの。リアリストのあんたなら、分かるでしょ?」
「……だが結局、君の言ってることは全部推測だ。何一つ証拠はありゃしない」
「証拠? 証拠ですって!?」
ハルヒの声が甲高くなった。
「そんなもん、必要ないわ! だって、どう考えたって、犯人はあんたしかいないもの!
トウカさんは、毒なんか使う必要がない。しんちゃんは自殺する動機がない。沙都子ちゃんは論外の外!
キョンは絶対に違うし、沙都子ちゃんをあんなに心配してる魅音が最後の一人になろうなんて考えるはずがない!
だから……。あんたしかいないのよっ!!」
絶叫が居間のドアを震わせた。
「トウカを先に行かせたのは、そういうことか……」
「そうよ! エルルゥさんが庇った人だってことで、あんたを庇うかもしれないもの」
「……そこまで疑ってるなら、さっさと撃てばいいだろう。どうして、こんな風に長々と?」
氷のような声で、ロックは尋ねた。
「あたしわね、陰険なやつが大嫌いなのよ。人を舐めきって、どうせ分からないだろうと心の中でせせら笑ってるようなやつが大っ嫌い。
だから、そいつがどれだけ大したことのない人間か、分からせてから……。殺してやろうと思ったのよ!!」
鉛のような沈黙が満ちた。
「……撃つ前に一つだけ、俺の願いを聞いてくれないか?」
「懺悔なんかしたって無駄よっ!!」
冷酷にもハルヒは、一言の下に斬って捨てた。
「そうじゃない……。しんのすけ君が起きるまで、待って欲しい」
「はぁ? 時間稼ぎしようってつもりなら……」
ハルヒの声音に、初めて疑問の成分が混じった。
「さっき思い出したんだが……。しんのすけ君が、台所の方をうかがっているのを、俺は見たんだ。君はみかけなかったか?」
「……確かにやたらと、うろちょろしてた気もするけど……。それがどうしたっていうのよ!?」
ハルヒの怒鳴り声が響いた」
「やっぱりな……。しんのすけ君はエルルゥに懐いてたから、手伝おうとしてたか、話しかけようとしてたんじゃないかと思ったが、
案の定か」
「あんたの話は、まわりくどいのよっ!! 結局、何だっていうわけ!?」
「簡単なことさ。あのお茶に毒が入っていたのは間違いない。だから――」
「……しんちゃんが、犯人らしき人を見たかもしれない。そういうわけ?」
「いくらエルルゥが精神的に消耗していたとはいえ、彼女の隙を伺うためにはそれなりの時間、台所周辺にいなきゃならなかったはずだ。
だから、しんのすけ君が台所周辺にいた人物を思い出してくれれば――」
それきり声は途切れ、長い沈黙が満ちた。
「悪あがきが過ぎるとは思うけど……。分かったわ、撃つのは待ってあげるわ」
「……ありがとう。今の俺には、君のその言葉がカーネギー名語録全てより、ありがたく聞えるよ」
心底安堵したというように、ロックが言った。
「ゴチャゴチャ言ってないで立ちなさい! ほらっ! とっとと歩くのよ!」
「バターン半島への行軍じゃないだろうね?」
「待ってあげるって行ったでしょ!? けど、しんちゃんが起きるまで、あんたには和室に居てもらうからね」
ロックはため息をついた。
「あそこなら、窓もないからな……。やれやれ、トイレ休憩はくれるのかい?」
「舐めた言うんじゃないわよっ!! 部屋から出ようとしたら、容赦しないからね!!」
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