老兵は、 - (2006/12/24 (日) 12:25:45) の最新版との変更点
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*老兵は、 ◆UJlsurBQPM
白銀の髪が突風に揺れる。
珍妙で巨大な建築物が破壊され崩れ落ちていく。
鉄で出来た箱が次々と地表に激突し、またも突風を生む。
背筋が凍る。
身に着けた甲冑を。
その下に着込んだ耐刃防護服を。
一見華奢ながら、戦場で鍛え上げられた体皮と筋肉を。
脈々と流れる平凡ながら野心に燃える熱い血潮を。
戦慄が穿って奔り、心臓を強く速く打ち鳴らす。
冷や汗が頬を伝う。
円形のリングの中に居た馬たちが一瞬で引き千切られて宙に舞う。
血を噴出さないところをみると、作り物だろうか。
およそ常識では考えられない超大な破壊を行った、全身を鎧で纏った者が飛び上がって高い柱の上に立つ。
月光に映える威容。
そして彼のものは、およそ常識では考えられない速度でどこへともなく消え去った。
その破壊を遠くから眺めていた男、グリフィス。
彼は破壊が終了したことに数秒遅れて気付き、深く空気を吸い込んで一歩退く。
引かれた足が当たり、店先に置かれたマスコットのような大きな人形を倒してしまう。
「何だ……今のは」
グリフィスは右手に構えた銃を取り落とす。
剣と矢による戦争を生き抜いてきた者にとって、その光景は余りに刺激が強すぎた。
それはまさしく一騎当千。
人の想像届き得ぬ、人外の破壊活動だった。
「あれではまるで……」
脳裏に浮かぶは同じく人外のバケモノ。
常人の十倍近い背丈を持つ牛面の異形、『不死の』(ノスフェラトゥ)ゾッド。
「―――――ッ」
そうだ、今見たものは人間ではない。
自分に絶え間なく近づき蝕の刻を渇望する者たちの一種。
使徒―――とか名乗っていたか?
「贄ばかりではないということか」
あの闇の世界のもの達も、この宴には招かれているのか。
「だが、何も恐れることはない」
あのガッツでさえ手に余した化物たち。
自分には、それすら従えさせられるという自信が、確信があった。
「―――心配ない」
グリフィスは自分に言い聞かせるように呟いて銃を拾い、崩れていく建物に向かった。
片眼鏡の老人が遊園地を闊歩している。
彼、ウォルター・C・ドルネーズも先の破壊に惹きつけられて歩を進めていた。
「ふむ、ここにくるまで誰にも会わなかったが……」
この通りを抜ければあの観覧車は目前。
あの破壊を行った者はその場を動いていないのか?
破壊者が人を呼び寄せて順次撃破していく腹だとしたらそうだろう。
その場合は呼び寄せる手段として大規模な破壊を行った事から強者を求めていると推測される。
「……アーカードだったらお笑い種だな」
チラと浮かんだ想像を押し込める。
まあ破壊者がこちらの方行に向かわなかっただけかもしれないし、そもそもあの破壊が戦闘の副産物で破壊者は死んでいる可能性もある。
「まあ色々考えても仕方ない」
通りを抜け、観覧車の全貌が目に入る。
恐らくは四十個ほどあったと思われるゴンドラのほとんどが地面に叩きつけられ、砕けて瓦礫の足場を作っている。
車輪状のフレームもあちこちが軋んでおり、正常に稼動することは不可能だろう。
脇にあるメリーゴーランドもボロボロだ。
「……無粋な真似をするものだ」
この観覧車など、周囲の様子を確認するにはもってこいの物だというのに(動くかどうかは知らないが)。
恐らくこれを行った者はそうとうに短絡的な思考の持ち主なのだろう。
ウォルターは周囲を見回し、観覧車の近くに自分と同じくこの惨状を見上げている男を発見する。
中世の鎧を身に纏った優男。
白銀の髪が闇夜によく映えている。
(……あの男が?)
ウォルターは臆することなく気配を断って近づき、50mほど離れた位置から話しかける。
「これは貴方の仕業ですかな?」
鎧の男、グリフィスはウォルターに気付いていたかのように驚いた素振りも見せず顔を向ける。
焦ることもなく、静かにウォルターを見つめ、再び観覧車に目をやって言う。
「そう見えますか、御老人?」
ウォルターも観覧車に目をやり、その惨状をまじまじと眺めて言う。
「まあ見かけによらない、と言う言葉がありますしな……人も、人ではないものも……」
ぼそりと、しかしグリフィスには確実に聞こえるような大きさで呟くウォルター。
グリフィスは『人ではないもの』と聞いて横目でウォルターを睨み、満面の笑みで振り向く。
そして懐から短機関銃―――マイクロUZIを引き抜き、無造作にウォルターに向けて乱射する。
銃が手の中で暴れる。
心地よい音を上げながら激しく振動し、熱い弾丸(モノ)をぶちまける。
しばしその快感に身を任せ、グリフィスは発砲を止める。
多量に上がる硝煙の匂いを嗅いで咳き込みながら、ウォルターに目を向ける。
どんなことになっているだろうか―――と、思いながら。
そこには、蜂の巣になって倒れている死体も、憤怒の声を上げて姿を変え、襲い掛かる怪物もいなかった。
グリフィスの目に初めて焦りがよぎる。
「ほう……ウージーか。ワルシャワではお目にかからかった銃をこんなところで」
不意に背後から声が聞こえ、グリフィスは銃を構えたまま咄嗟に体を後ろに向ける。
「……見るとはね。銃火器の運用に慣れていないのかね?銃に意識をやっているのがみえみえだったよ」
ウォルターは言いながら、懐から得物を取り出す。
鎖を付けた鎌。鎖の先には分銅が。
「慣れない武器に命を預けるものじゃない……強力な武器であるならなおさらのことだ」
分銅を指で弄くりながらウォルターが云う。
「わたしはウォルター。ウォルター・C・ドルネーズ。ヘルシング家執事、元はヘルシング機関のゴミ処理係をやっていた」
鎖を自在に操って分銅を振り回し、眼を鋭くして言うウォルター。
グリフィスは不敵に笑い、銃を構え直して言い放つ。
「騎士として、名を名乗られたからには名乗らぬわけには参りませんね。私はグリフィス。恥ずことながら仕える主はおりません」
ウォルターが薄く笑って返す。
「礼儀を弁えたいい若者だ。教育してやりたいが……残念、ここは実戦場だ」
「いえ、是非とも御教授願います―――実戦の中でね!」
銃声。
ウォルターは銃弾をかわしながら走り、グリフィスに分銅を発射する。
グリフィスは横っ飛びに避け、地面を転がって鎖を手操ることによる分銅の追撃をも避ける。
分銅が地面に当たって穴を穿つ。
(戦闘のセンスはなかなかのもの……恐らくは軍人か傭兵。随分と前時代的な出で立ちだが)
グリフィスは倒れたままで半身を起こして発砲。
銃弾が迫り、鎌の部分で受け流す。
(前時代的というのはこちらの武器も同じか。鎖鎌とは……さっきはあんなことを言ったが、なかなかいい武器だ)
分銅を戻し、鎖を数十センチ垂らして回転させ、走りながら狙いをつけ、再び分銅を発射。
体勢を崩しているグリフィスは、かわしきれずに甲冑の腹に分銅の直撃を喰らい、吹き飛ばされる。
だが鎧のおかげで大した衝撃はなかったようで、立ち上がって再び銃を構えた。
(首を狙ったのだが……昔のようにはいかないものだな。しかしあの鎧は厄介だ)
分銅を手元に戻し、回転させながら再び狙いをつける。
銃弾が飛び交うが、意に介さずにグリフィスにジグザグに走りながら突っ込む。
(射程に差があるのだ、怪我の一つ二つは覚悟しなくてはな!芳しい硝煙の匂い、若かりし日の戦場を思い出す!)
分銅がグリフィスの下に一直線に発射される。
同時に一瞬生まれたウォルターの隙を逃さず、銃弾がウォルターの左腕を貫く。
痛みに足を止めたように見えたウォルターに向け『しめた』と笑んで銃の引き金を引こうとしたグリフィスに、ウォルターも笑みを返す。
発射された分銅は鎧の胸の部分の甲冑―――心臓の上の甲冑をはじき飛ばすと同時に、マイクロUZIをも同心円状の動きで宙に舞い上げる。
「Check!」
叫びながら一瞬で間合いを詰めるウォルター。
後ろに逃げようとするグリフィスは、しかし瓦礫に躓く。
そう、追い詰められたるは観覧車の真下。
鎌が剥がれた甲冑の部分、心臓を狙って振り下ろされる。
―――しかし刃は止まった。
「!?」
「本当にっ……便利だな、これは!」
グリフィスは言ってウォルターの襟元を掴んで後ろに投げ飛ばし、デイパックからロープを取り出す。
ウォルターは受身を取りつつ鎖鎌を持ち直し、立ち上がる。
(防弾……いや防刃か!)
対抗策を考えながら振り向くと、天に伸び、どうしたことか空中で固定されたロープを握ってグリフィスが冷たい眼で見つめていた。
「―――ハァッ!」
ロープがしなり、グリフィスが捕まりながら宙に舞う。
放り上げられていたマイクロUZIをキャッチし、一回転してウォルターの真上、辛うじて落下を免れたゴンドラの上に降り立つ。
「真逆―――!?」
ウォルターが一瞬で予測した通りに、グリフィスはゴンドラを支える支柱に銃を向け、発砲する。
絶え間ない銃声、そして―――!
ガコンッ!
ゴンドラが、落下した。
「無茶をする若造だ!」
落下してきたゴンドラを辛くもかわしたウォルターは、舌打ちしながら周囲を見回した。
埃が充満していて視界が悪い。
あの男は上か、右か、左か、後ろか、正面か―――?
眼では見つけるのは不可能、とウォルターは悟る。
(視覚でも触覚でも味覚でも嗅覚でもない、聴覚を、聴覚だけを研ぎ澄ませ。反射する音の源を突き止めろ)
脱力する。
飛び散り触れる破片を認識する触覚。
舌を麻痺させる。
破片によって切れた唇から流れる血の味を認識する味覚。
眼を閉じる。
埃と破片のみを認識する視覚。
息を止める。
硝煙と立ち上がる埃の臭いを認識する嗅覚。
全てを断ち、聴覚だけを研ぎ澄ます。
―――聴こえた。
連続的に金属と金属がぶつかり合う音。
それは鎧をつけた男が柱を歩くような。
(――――――上か!)
音の源を感知し、鎌を外して投擲する。
音は止んだ。直撃。
眼を開け、風を切って落ちてくる音源を見遣る。
――――――それは、マイクロUZIの予備カートリッジ。
先程のロープが括り付けられ、そして先程投げた鎌で切れて落ちたようだ。
「ブービー……」
刹那、足元の瓦礫の山からグリフィスが飛び出す。両手に先が尖った長い鉄の棒を握っている。
(ゴンドラの中に―――)
かわせない。
ウォルターのどてっ腹に棒が突き刺さる。
「―――ォォォ」
グリフィスが気合の篭った声を上げながら、更に鉄の棒、いや、杭を刺し込む。
それは。
「オオオオォォォオオオォォオォオオッ!!」
それは、勝ち鬨の声。
「―――ありがとうございました」
グリフィスは胸の甲冑を拾って付け直し、予備カートリッジを拾い、マイクロUZIを懐に仕舞いなおし、そしてロープを回収して言った。
相手は串刺しになってなお生きている、ウォルター・C・ドルネーズ。
彼のデイパックから食料を抜き取りながらさらに言を続ける。
「慣れない武器に頼りすぎるな―――まったくその通りですね。私は剣を探すとします」
殆ど当たらなかった自分の銃の腕前を恥じているのか、少し顔を俯けている。
「教授代を払いたいところですが……楽にしてあげましょうか?銃弾はもったいないから、この棒を捻って引き抜くことになりますが」
「まあ、食料をくすねておいて言うのもなんですけどね……」
鉄の棒に手を掛け、悪びれることなく言うグリフィスにウォルターは苦笑いして言う。
「ク……ク……構……わんよ。今……走馬灯が見えているんだ。余計な……真似は……しないでくれ」
ゴフッ、と血を吐くウォルター。
グリフィスは肩をすくめると、「では、いい夢を」と言い残し、去っていった。
一人残されたウォルターは呟く。
「フフ……串刺しで死ぬ……とは、アーカードは……うらやましがるかも……知れんな?」
そして、グリフィスが甲冑を探している間に懐に隠しておいた、輸血用の血液パックを取り出す。
彼は、支給されたアイテムが武器だと思っていたため、これは全員に支給されたものだと思っていた。
それを眺めながら、恐らくは最後になるであろう、脳の活動を行う。
(セラス嬢……アーカード……ここに来るかは知らんが……死人の……それも老いぼれの血などより、こちらの方がいいだろう……?)
血液パックを自分のすぐ側の瓦礫の下に隠す。
そして、空を見上げる。
――――――朝を迎えそうだった。
ああ―――自分の使える主は、目覚めて自分と頼れる僕のアーカード、そのまた僕のセラス嬢がいないと気付いてどうするだろう?
錯乱するだろうか?
悲しむだろうか?
それとも、全力で探し出そうとするだろうか?
探し出せたとしても、自分はもう死ぬ。
主に失望されるかもしれない。
(イン……テ……も……せん……)
今、老兵が死んだ。
―――――――――しかし、物語は終わらない。
【G-5 遊園地・1日目 早朝】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:疲労
[装備]:マイクロUZI(残弾数18/50)・耐刃防護服
[道具]:予備カートリッジ(50発×1)・ターザンロープ@ドラえもん・支給品一式(食料のみ二つ分)
[思考・状況]
1:皆殺し
2:剣欲しい
備考:ターザンロープは一部切れましたが、運用は可能です。
&color(red){【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING 死亡】}
&color(red){[残り64人]}
[備考]:輸血用血液パック×3が近くの瓦礫の下に隠されています。
*時系列順で読む
Back:[[何だってんだ]] Next:[[「夢を見ていました」]]
*投下順で読む
Back:[[最悪の軌跡]] Next:[[峰不二子の憂鬱]]
|40:[[たのしい遊園地]]|ウォルター・C・ドルネーズ||
|51:[[淵底に堕ちた鷹]]|グリフィス||
*老兵は、 ◆UJlsurBQPM
白銀の髪が突風に揺れる。
珍妙で巨大な建築物が破壊され崩れ落ちていく。
鉄で出来た箱が次々と地表に激突し、またも突風を生む。
背筋が凍る。
身に着けた甲冑を。
その下に着込んだ耐刃防護服を。
一見華奢ながら、戦場で鍛え上げられた体皮と筋肉を。
脈々と流れる平凡ながら野心に燃える熱い血潮を。
戦慄が穿って奔り、心臓を強く速く打ち鳴らす。
冷や汗が頬を伝う。
円形のリングの中に居た馬たちが一瞬で引き千切られて宙に舞う。
血を噴出さないところをみると、作り物だろうか。
およそ常識では考えられない超大な破壊を行った、全身を鎧で纏った者が飛び上がって高い柱の上に立つ。
月光に映える威容。
そして彼のものは、およそ常識では考えられない速度でどこへともなく消え去った。
その破壊を遠くから眺めていた男、グリフィス。
彼は破壊が終了したことに数秒遅れて気付き、深く空気を吸い込んで一歩退く。
引かれた足が当たり、店先に置かれたマスコットのような大きな人形を倒してしまう。
「何だ……今のは」
グリフィスは右手に構えた銃を取り落とす。
剣と矢による戦争を生き抜いてきた者にとって、その光景は余りに刺激が強すぎた。
それはまさしく一騎当千。
人の想像届き得ぬ、人外の破壊活動だった。
「あれではまるで……」
脳裏に浮かぶは同じく人外のバケモノ。
常人の十倍近い背丈を持つ牛面の異形、『不死の』(ノスフェラトゥ)ゾッド。
「―――――ッ」
そうだ、今見たものは人間ではない。
自分に絶え間なく近づき蝕の刻を渇望する者たちの一種。
使徒―――とか名乗っていたか?
「贄ばかりではないということか」
あの闇の世界のもの達も、この宴には招かれているのか。
「だが、何も恐れることはない」
あのガッツでさえ手に余した化物たち。
自分には、それすら従えさせられるという自信が、確信があった。
「―――心配ない」
グリフィスは自分に言い聞かせるように呟いて銃を拾い、崩れていく建物に向かった。
片眼鏡の老人が遊園地を闊歩している。
彼、ウォルター・C・ドルネーズも先の破壊に惹きつけられて歩を進めていた。
「ふむ、ここにくるまで誰にも会わなかったが……」
この通りを抜ければあの観覧車は目前。
あの破壊を行った者はその場を動いていないのか?
破壊者が人を呼び寄せて順次撃破していく腹だとしたらそうだろう。
その場合は呼び寄せる手段として大規模な破壊を行った事から強者を求めていると推測される。
「……アーカードだったらお笑い種だな」
チラと浮かんだ想像を押し込める。
まあ破壊者がこちらの方向に向かわなかっただけかもしれないし、そもそもあの破壊が戦闘の副産物で破壊者は死んでいる可能性もある。
「まあ色々考えても仕方ない」
通りを抜け、観覧車の全貌が目に入る。
恐らくは四十個ほどあったと思われるゴンドラのほとんどが地面に叩きつけられ、砕けて瓦礫の足場を作っている。
車輪状のフレームもあちこちが軋んでおり、正常に稼動することは不可能だろう。
脇にあるメリーゴーランドもボロボロだ。
「……無粋な真似をするものだ」
この観覧車など、周囲の様子を確認するにはもってこいの物だというのに(動くかどうかは知らないが)。
恐らくこれを行った者はそうとうに短絡的な思考の持ち主なのだろう。
ウォルターは周囲を見回し、観覧車の近くに自分と同じくこの惨状を見上げている男を発見する。
中世の鎧を身に纏った優男。
白銀の髪が闇夜によく映えている。
(……あの男が?)
ウォルターは臆することなく気配を断って近づき、50mほど離れた位置から話しかける。
「これは貴方の仕業ですかな?」
鎧の男、グリフィスはウォルターに気付いていたかのように驚いた素振りも見せず顔を向ける。
焦ることもなく、静かにウォルターを見つめ、再び観覧車に目をやって言う。
「そう見えますか、御老人?」
ウォルターも観覧車に目をやり、その惨状をまじまじと眺めて言う。
「まあ見かけによらない、という言葉がありますしな……人も、人ではないものも……」
ぼそりと、しかしグリフィスには確実に聞こえるような大きさで呟くウォルター。
グリフィスは『人ではないもの』と聞いて横目でウォルターを睨み、満面の笑みで振り向く。
そして懐から短機関銃―――マイクロUZIを引き抜き、無造作にウォルターに向けて乱射する。
銃が手の中で暴れる。
心地よい音を上げながら激しく振動し、熱い弾丸(モノ)をぶちまける。
しばしその快感に身を任せ、グリフィスは発砲を止める。
多量に上がる硝煙の匂いを嗅いで咳き込みながら、ウォルターに目を向ける。
どんなことになっているだろうか―――と、思いながら。
そこには、蜂の巣になって倒れている死体も、憤怒の声を上げて姿を変え、襲い掛かる怪物もいなかった。
グリフィスの目に初めて焦りがよぎる。
「ほう……ウージーか。ワルシャワではお目にかからなかった銃をこんなところで」
不意に背後から声が聞こえ、グリフィスは銃を構えたまま咄嗟に体を後ろに向ける。
「……見るとはね。銃火器の運用に慣れていないのかね?銃に意識をやっているのがみえみえだったよ」
ウォルターは言いながら、懐から得物を取り出す。
鎖を付けた鎌。鎖の先には分銅が。
「慣れない武器に命を預けるものじゃない……強力な武器であるならなおさらのことだ」
分銅を指で弄くりながらウォルターが云う。
「わたしはウォルター。ウォルター・C・ドルネーズ。ヘルシング家執事、元はヘルシング機関のゴミ処理係をやっていた」
鎖を自在に操って分銅を振り回し、眼を鋭くして言うウォルター。
グリフィスは不敵に笑い、銃を構え直して言い放つ。
「騎士として、名を名乗られたからには名乗らぬわけには参りませんね。私はグリフィス。恥ずことながら仕える主はおりません」
ウォルターが薄く笑って返す。
「礼儀を弁えたいい若者だ。教育してやりたいが……残念、ここは実戦場だ」
「いえ、是非とも御教授願います―――実戦の中でね!」
銃声。
ウォルターは銃弾をかわしながら走り、グリフィスに分銅を発射する。
グリフィスは横っ飛びに避け、地面を転がって鎖を手操ることによる分銅の追撃をも避ける。
分銅が地面に当たって穴を穿つ。
(戦闘のセンスはなかなかのもの……恐らくは軍人か傭兵。随分と前時代的な出で立ちだが)
グリフィスは倒れたままで半身を起こして発砲。
銃弾が迫り、鎌の部分で受け流す。
(前時代的というのはこちらの武器も同じか。鎖鎌とは……さっきはあんなことを言ったが、なかなかいい武器だ)
分銅を戻し、鎖を数十センチ垂らして回転させ、走りながら狙いをつけ、再び分銅を発射。
体勢を崩しているグリフィスは、かわしきれずに甲冑の腹に分銅の直撃を喰らい、吹き飛ばされる。
だが鎧のおかげで大した衝撃はなかったようで、立ち上がって再び銃を構えた。
(首を狙ったのだが……昔のようにはいかないものだな。しかしあの鎧は厄介だ)
分銅を手元に戻し、回転させながら再び狙いをつける。
銃弾が飛び交うが、意に介さずにグリフィスにジグザグに走りながら突っ込む。
(射程に差があるのだ、怪我の一つ二つは覚悟しなくてはな!芳しい硝煙の匂い、若かりし日の戦場を思い出す!)
分銅がグリフィスの下に一直線に発射される。
同時に一瞬生まれたウォルターの隙を逃さず、銃弾がウォルターの左腕を貫く。
痛みに足を止めたように見えたウォルターに向け『しめた』と笑んで銃の引き金を引こうとしたグリフィスに、ウォルターも笑みを返す。
発射された分銅は鎧の胸の部分の甲冑―――心臓の上の甲冑をはじき飛ばすと同時に、マイクロUZIをも同心円状の動きで宙に舞い上げる。
「Check!」
叫びながら一瞬で間合いを詰めるウォルター。
後ろに逃げようとするグリフィスは、しかし瓦礫に躓く。
そう、追い詰められたるは観覧車の真下。
鎌が剥がれた甲冑の部分、心臓を狙って振り下ろされる。
―――しかし刃は止まった。
「!?」
「本当にっ……便利だな、これは!」
グリフィスは言ってウォルターの襟元を掴んで後ろに投げ飛ばし、デイパックからロープを取り出す。
ウォルターは受身を取りつつ鎖鎌を持ち直し、立ち上がる。
(防弾……いや防刃か!)
対抗策を考えながら振り向くと、天に伸び、どうしたことか空中で固定されたロープを握ってグリフィスが冷たい眼で見つめていた。
「―――ハァッ!」
ロープがしなり、グリフィスが捕まりながら宙に舞う。
放り上げられていたマイクロUZIをキャッチし、一回転してウォルターの真上、辛うじて落下を免れたゴンドラの上に降り立つ。
「真逆―――!?」
ウォルターが一瞬で予測した通りに、グリフィスはゴンドラを支える支柱に銃を向け、発砲する。
絶え間ない銃声、そして―――!
ガコンッ!
ゴンドラが、落下した。
「無茶をする若造だ!」
落下してきたゴンドラを辛くもかわしたウォルターは、舌打ちしながら周囲を見回した。
埃が充満していて視界が悪い。
あの男は上か、右か、左か、後ろか、正面か―――?
眼では見つけるのは不可能、とウォルターは悟る。
(視覚でも触覚でも味覚でも嗅覚でもない、聴覚を、聴覚だけを研ぎ澄ませ。反射する音の源を突き止めろ)
脱力する。
飛び散り触れる破片を認識する触覚。
舌を麻痺させる。
破片によって切れた唇から流れる血の味を認識する味覚。
眼を閉じる。
埃と破片のみを認識する視覚。
息を止める。
硝煙と立ち上がる埃の臭いを認識する嗅覚。
全てを断ち、聴覚だけを研ぎ澄ます。
―――聴こえた。
連続的に金属と金属がぶつかり合う音。
それは鎧をつけた男が柱を歩くような。
(――――――上か!)
音の源を感知し、鎌を外して投擲する。
音は止んだ。直撃。
眼を開け、風を切って落ちてくる音源を見遣る。
――――――それは、マイクロUZIの予備カートリッジ。
先程のロープが括り付けられ、そして先程投げた鎌で切れて落ちたようだ。
「ブービー……」
刹那、足元の瓦礫の山からグリフィスが飛び出す。両手に先が尖った長い鉄の棒を握っている。
(ゴンドラの中に―――)
かわせない。
ウォルターのどてっ腹に棒が突き刺さる。
「―――ォォォ」
グリフィスが気合の篭った声を上げながら、更に鉄の棒、いや、杭を刺し込む。
それは。
「オオオオォォォオオオォォオォオオッ!!」
それは、勝ち鬨の声。
「―――ありがとうございました」
グリフィスは胸の甲冑を拾って付け直し、予備カートリッジを拾い、マイクロUZIを懐に仕舞いなおし、そしてロープを回収して言った。
相手は串刺しになってなお生きている、ウォルター・C・ドルネーズ。
彼のデイパックから食料を抜き取りながらさらに言を続ける。
「慣れない武器に頼りすぎるな―――まったくその通りですね。私は剣を探すとします」
殆ど当たらなかった自分の銃の腕前を恥じているのか、少し顔を俯けている。
「教授代を払いたいところですが……楽にしてあげましょうか?銃弾はもったいないから、この棒を捻って引き抜くことになりますが
まあ、食料をくすねておいて言うのもなんですけどね……」
鉄の棒に手を掛け、悪びれることなく言うグリフィスにウォルターは苦笑いして言う。
「ク……ク……構……わんよ。今……走馬灯が見えているんだ。余計な……真似は……しないでくれ」
ゴフッ、と血を吐くウォルター。
グリフィスは肩をすくめると、「では、いい夢を」と言い残し、去っていった。
一人残されたウォルターは呟く。
「フフ……串刺しで死ぬ……とは、アーカードは……うらやましがるかも……知れんな?」
そして、グリフィスが甲冑を探している間に懐に隠しておいた、輸血用の血液パックを取り出す。
彼は、支給されたアイテムが武器だと思っていたため、これは全員に支給されたものだと思っていた。
それを眺めながら、恐らくは最後になるであろう、脳の活動を行う。
(セラス嬢……アーカード……ここに来るかは知らんが……死人の……それも老いぼれの血などより、こちらの方がいいだろう……?)
血液パックを自分のすぐ側の瓦礫の下に隠す。
そして、空を見上げる。
――――――朝を迎えそうだった。
ああ―――自分の仕える主は、目覚めて自分と頼れる僕のアーカード、そのまた僕のセラス嬢がいないと気付いてどうするだろう?
錯乱するだろうか?
悲しむだろうか?
それとも、全力で探し出そうとするだろうか?
探し出せたとしても、自分はもう死ぬ。
主に失望されるかもしれない。
(イン……テ……も……せん……)
今、老兵が死んだ。
―――――――――しかし、物語は終わらない。
【G-5 遊園地・1日目 早朝】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:疲労
[装備]:マイクロUZI(残弾数18/50)・耐刃防護服
[道具]:予備カートリッジ(50発×1)・ターザンロープ@ドラえもん・支給品一式(食料のみ二つ分)
[思考・状況]
1:皆殺し
2:剣欲しい
備考:ターザンロープは一部切れましたが、運用は可能です。
&color(red){【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING 死亡】}
&color(red){[残り64人]}
[備考]:輸血用血液パック×3が近くの瓦礫の下に隠されています。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|40:[[たのしい遊園地]]|&color(red){ウォルター・C・ドルネーズ}||
|51:[[淵底に堕ちた鷹]]|グリフィス|120:[[影日向]]|
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