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愛する者の為の騎士("La mort de Chevalier"Remix) - (2007/02/03 (土) 22:33:56) の最新版との変更点
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*愛する者の為の騎士("La mort de Chevalier"Remix) ◆wlyXYPQOyA
自身は騎士で、相手は射手と剣士。
それはまさしく三種三様。一人として同じ者はいない。
時代や国、様々なものを超えて自分たちは向き合っている。
さて。
黒の射手が拳銃を使うのは既に知る通りだ。
そしてこの剣士――日本のサムライという人種だろうか――も危険だ。
手練である事など簡単にわかる。殺気、立ち回り、態度。全てが戦いに生きる者である何よりの証拠。
この状況では二つの存在は脅威だ。恐ろしい畏怖の対象であり、力そのものだ。
いや、だがそれがどうした。ならば自分は人としての生を逸脱した騎士だ。
武器を持ち、人を護るべく人を殺す矛と盾となる強き者だ。何も恐れる事はない。
そんな今の自分の片手は、敵には一体何に見えているだろうか。
人を射抜く槍か。化け物を打ち抜く白木の杭か。
違う。今の自分のこの手はそんな”ちゃちな”ものではない。
今のこの手は、人と化け物を分け隔てなく殺す白銀の”剣”だ。
槍でも杭でもない。貫く為だけのものではない。敵を「斬る」剣なのだ。
意思を纏い、ソロモンは敵の姿を眺めた。
この三つ巴という言葉が良く似合う状況でどう動くかを思案する。
一挙一動に全てが掛かっているという事は本人もよく理解していた。
だからこそ状況を見極める為に、彼は敵を眺めている。
「しかし次元、”兵”をここに誘った事は評価に値するぞ」
「そうかい」
「だからこそ、そなたとも余計に闘いたくなった」
「そうかい……だが今はアイツと戦った方が面白いと思うぞ」
目の前では血を流す射手と未だ余裕のサムライが会話をしている。
彼らは手を組んでいるわけではないだろう。だが状況がどう転ぶかは判らない。
状況が不安定に過ぎる。ここは賢く立ち回るべきか。ならばどうするか。
「私はアサシンのサーヴァント……佐々木小次郎。剣士よ、お主の名は?」
「ソロモン・ゴールドスミス……それと剣士ではありません、騎士です」
突然サムライが名乗り、こちらにもそれを要求してきた。
一応答える事にした。何故なら自分は礼節を重んじる「騎士」だからだ。
戦いを求めるだけの剣士ではない。人や国への愛の為に戦う騎士なのだ。
レイピアを袋にしまう。本来自分は二刀流という戦術は好まない為だ。
いままでは余分な力の消耗を避ける為に、こうして与えられた武器を使っていたが
こうなってしまってはもうそんな事を考える暇は無い。この刃と化した片手で戦うだけだ。
狙うはあの佐々木小次郎と名乗った男。まずは彼を一番に排除せねばならない。
次元は先程の自分の攻撃によって負傷しているし、何より闘う意思を喪失している。
何せこの三者拮抗の状況で次元は少しずつ、そしてさり気無く後ろへと下がっているのだ。
その脚が向かうであろう位置を推測してみると、その近くには圭一がいた。成程、そういう事か。
『圭一君を保護してどさくさで逃亡するか、小次郎に勝利した僕を狙い撃ちにするか……そんなところでしょうか』
先程の小次郎との会話で小次郎の注意を別へと向けさせたのもこの為だろう。
実力を隠し持っているのだろうに、随分とまた狡い事をする。だがおかげで戦闘以外の苦労は無さそうだ。
問題は未だ怪我一つ負っていないこのサムライのみ。今はただ、この敵を倒すしかなくなったという事。
――そうと決まれば話は早い。
突如、ソロモンは人間離れの速度で小次郎に迫った。
だが余裕なのだろうか。小次郎は走るソロモンを見て笑みを浮かべている。
馬鹿な、このまま難なく事が進めば自分の勝利だというのに。それすら楽しいと思っているのだろうか。
ソロモンは怪訝そうにその表情を眺める。その間も距離は詰まっていき、遂に彼は小次郎の懐へと潜り込んだ。
そして呆気なく敵を射殺す為に、遂にその力を放つ。白銀の刃が目にも留まらぬ速度で小次郎に迫っていった。
そう、ソロモンはこうして速度を頼りに敵を切り刻む戦法を最も得意としていた。
研ぎ澄まされた刃を人間離れの速度で振るい、敵自身も気付かぬ内に殺す。
今も昔もその戦いは変わらない。故に小次郎は、この一手で刺し貫かれるはずだった。
――だが、その一撃は漆黒の剣でいとも簡単に防御されていた。
小次郎の得物、その巨大な刀身が盾の如く攻撃を阻んでいたのだ。
馬鹿な、とソロモンは驚愕の表情を浮かべ、仕方なくバックステップで一度後ろに退いた。
笑みを浮かべている小次郎にいとも簡単に防御をされる。正直なところ、衝撃を隠しきれなかった。
やはりこの男、強い。戦いを求め、敵を求めるだけあって只者ではない。
攻撃と退避。相手のその二つの素早い動作すらも、小次郎は余裕の表情で眺めていた。
退避の邪魔をするわけでもなく、ただ眺める。まるで実力を測っているかのごとく眺めるだけ。
まるで相手から剣術の指南を受けているかの様だ。翼手を生徒扱いとはなんと恐ろしいことか。
佐々木小次郎、やはり一筋縄ではいかない。
『いや……え? ”佐々木小次郎”……?』
突然、本当に突然に思い出した。自分はその名を何処かで聞いたことがある。
そうだ、「佐々木小次郎」は日本の歴史や伝承で確かに存在した剣豪だ。
雑学程度でしか知らないが、あの小夜が過ごしていた日本で名を遺している人物だ。
戦乱の時代に生まれ、戦乱の時代で育ち、常識外れの得物で敵を斬り伏せた伝説のサムライ。
敵を容赦無く死へと導く一撃必殺の奥義「秘剣・つばめ返し」とやらを創り出した人物だったと聞く
だが記憶が正しければ、彼は巌流島という場所で宮本武蔵という剣士と戦い、その後にその一生を終えた筈だ。
まさか目の前にいるのは”その”佐々木小次郎なのだろうか。そんなとんでもない相手と戦っているのだろうか。
だが可能性は十分にある。何せあの怪盗アルセーヌ・ルパンの孫とやらまでいるのだ。
この奇妙な空間ではどんな常識外れな相手がいてもおかしくはない。それならばこの強さにも納得はいく。
それに、仮にその仮説が間違っていたとしても、実際にとんでもない強さという事には変わりは無いのだ。
色々と常識外れで規格外。そんなサムライをどう排除するべきだ。
ソロモンは考えるが答えは出ない。そうこうしている内に、遂には小次郎から動いた。
「速度と心意気は良し。気に入ったぞ……往こう!」
さながら銃弾の如く正面から向かってくる。先程までの自分を見ている様だ。
そして小次郎は間合いに入った途端に、巨大な鉄塊というべき刃を薙いで攻撃を仕掛けてきた。
『巨大な剣だというのに……速い!』
ソロモンは小次郎の激しい一撃をバックステップで避けた。風を斬る音が大音量で響く。
こんな物を腕で受け止めようものなら、骨折どころの騒ぎではない。必ず回避せねば。
だが物事を深く考える暇も与えぬままに、更なる攻撃が襲い掛かってきた。
暴力的なまでの闘気と殺意を纏い、小次郎が笑みを浮かべながら豪快に斬撃を放ったのだ。
先程とは違う上から下への軌道。だがやはりソロモンはその攻撃からも全力で退がり、避けた。
と、その瞬間に重大な事に気付いた。
背後に新たな気配――否、殺意を感じたのだ。体が危険だと騒いでいる。
小次郎ではない。それならばまさか次元だろうか。最初の読みが外れてしまったのか。
『違うッ!?』
だが振り向けばその仮説が間違っていたのは明らかだった。
背後にいたのは圭一。彼が大鉈を勢い良く振りかぶっていた。
しまった、忘れていた。注意すべき敵は射手と剣豪だけではなかったのだ。
先程までまるで無抵抗だった所為で、圭一のことを失念していた。
「く……っ!」
何とか大鉈での攻撃から体を逸らすが、如何せん自分は小次郎の動きにのみ集中していた。
回避が間に合わず、不意の攻撃を避けられぬまま背中に刃を受け止める結果となってしまった。
そのおかげで背中は血みどろだ。傷も深く、かなりの痛手だ。
だが不運は更に続く。
いつもならソロモンは――否、シュヴァリエはこの程度の傷は瞬時に治癒出来る。
だが今は何故かそれが不可能。傷の癒える速度が異常なまでに遅いのだ。
『腕を刃へと変化させた時にも感じましたが……やはりいくつかの行動に支障が生じているようですね……』
怪我を治癒出来ない事を知り、ソロモンは更に焦りを見せ始めた。
依然圭一の攻撃は続く。我武者羅に大降りで力に頼るばかりの攻撃だが、怪我をした身では大変だ。
受け流し、受け止め、回避し、これ以上の怪我を防ごうとソロモンは孤独に奮戦する。
しかし流石にこのままでは、疲労を蓄積した挙句に小次郎へ背中と隙を見せているだけだ。
「仕方がありません……!」
それならば、とソロモンは防御姿勢から回避の為の跳躍へとその動作を移した。
後方かかえ込み二回宙返り一回ひねり。通称、月面宙返りと呼ばれる特殊な跳躍法。
「ムーンサルト」という名で有名な高難易度の動作を、怪我を負った状態で瞬時に行ったのだ。
何の前触れもなく高等技術を披露し、見舞う。
それは人を超えた力を持つシュヴァリエだからこそ可能な芸当だ。
『そう、落ち着け……僕には力がある……信頼出来る力がある。
人間が越えられない壁を飛び越えた挙句に破壊出来る存在、それが僕だ』
再確認。自分は人間ではない、紛れも無い翼手だ。
シュヴァリエの女王を護る為の力を有した最強の騎士――それが自分だ。
『人間には不可能な事が出来る僕が負けるはずは無い』
頭を冷やし、ソロモンは圭一の背後へと華麗に着地をした。
これならすぐに終わる。邪魔をする圭一をこのまま切り伏せ、そのまま刺し殺せば良いのだ。
圭一を貫かんと、ソロモンは刃を振るった。
◆
圭一が拙い。
次元がその事実に気付いたのはソロモンの着地する一寸前。
何故拙いのか、そんな事は見れば判る。一目瞭然だ。
『あの野郎……圭一をッ!』
勘が当たったとか、そういうレベルではない。
確実にソロモンは圭一の後ろを取り、殺すつもりだと自分の本能が知らせた。
ならばそんな事をさせるわけには行かない。圭一は保護してみせる。
第六感、本能、全てを信じて次元は圭一へと飛び込んでいく。
その結果、次元はソロモンの攻撃に間に合った。
そう、”攻撃自体には”だ。
「マズッたな……」
不運な事にその救助の手は僅かに間に合わず、無事に保護したとは言えなかった。
圭一の背中には袈裟斬りの傷が生まれ、そこから血が大量に流れていたのだ。
直前に圭一の襟首を掴み、引っ張って退避させたがそれも間に合わなかったのか傷は深かった。
だが、状況の悪化は更に続く。なんと圭一が意識を失っているのだ。
見れば顔も蒼白。頭からの流血は一層酷さを増し、止まる事を知らない。
やられた。こんな状態で大鉈を振り回し、背中からも大量の血を流せば
失血死という事態へと順調に歩を進める結果になるのは明白。最初から止めるべきだった。
圭一自身の体温も徐々に低下している。これではもう彼は助からないだろう。
そして更に拙い事に、ソロモンが先程からこちらを睨みつけていた。
相手の怒りが手に取るように解る。恐らくは排除にかかるだろう。当然であり最悪の展開だ。
次元は苦悩するが、自身が怪我をした所為で激しい運動は期待出来ないであろう事も理解している。
というより、その怪我も悪化してしまった。抉られた脇腹から血が流れ始めており、これでは安静にしなくてはならない。
チェックメイト。完全に詰みだ。辞世の句と戒名を用意しておくべきだった。
『俺も終わったか。最期にソロモンに説教してやりたかったが……ん?』
だがその時、ノーマークだった方向から足音が聞こえた。
まるで獲物を見つけた獣が超スピードで走ってくる様な音――まさか。
「余所見をしている場合か、ソロモン」
この声は佐々木小次郎だ。ああ、そうか。こいつが残っていた。
別にこいつは闘いたいだけで助けに来てくれたわけではないだろうが、こっちは一方的に助かった。
ソロモンが小次郎の攻撃を回避しているその間に
次元は圭一を背中に背負い、ゆっくりと後ろに退避することにした。
蒼星石とレナが死んだあの場所から、ソロモンと小次郎が戦っている場所からゆっくりと離れていく。
小次郎とソロモンを闘わせるという作戦は十分に成功した。圭一の保護は失敗したが、後は自分が退くだけだ。
ここから逃げるだけで良いのだ。逃げて、この場から立ち去れば良いだけなのだ。
だが、それでは自分の気が治まらない。あの男達にはガツンと言ってやりたい。
保護者みたいなことを考えた所為か、足が重くなる。とんだ熱血漢だな、と次元は苦笑した。
「この、死合いとやら……最後まで見届けるか」
◆
敵を刻まんと再び迫る巨大な刃。ソロモンはそれを必死に避けた。
とにかく全力で退避をするが、小次郎は尚も追いつつ攻撃を続けてくる。
横槍が入った所為で、今や闘いは小次郎が優勢になっている。
『圭一君に次元……やはり彼らも視野に入れておくべきでしたね……』
今更後悔しても仕方が無い。自分の落ち度なのだ。
背中からは血が流れ、疲労困憊。不利な状況に立たされている。
痛みを伴う大怪我を負った今、彼らを一気に殺さなくてはならない。
だがいくらシュヴァリエといってもこの複雑な状況を簡単に看破出来るかどうかは怪しい。
かつてシフと言う少年少女に複数人で襲いかかれた際には楽に攻略をしたが、
今回はその比ではないし、状況が状況だ。非常に拙い、本当に拙い。
こうなれば、人の姿を捨てて全身全霊で挑むしか勝利する方法は無い――のだが。
『……やはり無理ですか』
だが、すぐにそれが無理だと知った。
『姿を変えよ』と体に命じるが、その力が発動する事は無かった。
やはりこの世界では、肉体全てを翼手のそれに変化させる事すら出来ないのだ。
敵を掴む強力な脚や敵を噛み砕く牙を生み出せない。あまりにも無慈悲すぎる。
「追いついたぞ」
小次郎に追いつかれ、遂には左肩を切り裂かれてしまった。
その所為か急にバランスを崩し、ソロモンは倒れてしまう。
切り飛ばされはしなかったが痛みで左腕が動かない。
――だがそれなら右手だけで闘えば良いだけだ。
『小次郎、僕はまだ……倒れませんよ……』
ソロモンは立ち上がる。小夜の為に、小夜のために死ぬわけには行かない。
たとえ体の一部を失ったとしても、立ち上がらなければならないのだ。
そうでなければ、解り合えた盟友を殺した意味が無くなってしまう。だから立ち上がる。
しかしこの状況では、完全に不利だ。人間の姿を保ったままの勝利は不可能だろう。
だが自分には片手を刃に変える以外の部分的な変形は不可能だ。どうする、どうすれば。
『いや……あの方法なら……』
小夜のシュヴァリエであるあのハジという男を思い出した。
彼は自分の目の前で、翼手の姿にならないままに腕以外のもう一つの変化をやってのけたのだ。
あれだ、あれに賭けるしかない。常識から逸脱する手段はそれしか残されていない。
自分にそれは出来るだろうか。一瞬不安になる。
いや、だがやはりこれに賭けるしかない。残された手はこれだけだ。
大丈夫、きっと出来る。ハジの様に力を解放してみせる。
絶対に”飛んでみせる”。
――ハジとは、小夜のシュヴァリエの名だ。
彼は一風変わっており、酷く寡黙な男だった。
更には自身がシュヴァリエであることを罪であるかの様に振舞う。
それを受け止めているつもりなのか、右腕は常に翼手のそれに変化させたままだった。
だが変わっていることはそれだけではない。彼は”翼手の形態にならずに”空を飛べるのだ。
人の体を形成したまま蝙蝠に似た翼を背に生やし、飛び立つ事が出来るのだ。
ソロモン自身も空を飛ぶ翼を持った翼手だ。
だがハジの様に翼手の姿にならずに空を飛んだことは無いし試した事も無い。
だがその気になれば、自分もあのシュヴァリエの様に人の姿のままで空を飛ぶことは出来るだろうか。
いや、やってみせる。最初から小夜のシュヴァリエだったあの羨ましい男の様に飛んでみせる。
勝つために、生き残る為に。蒼星石の分まで生き残り、小夜を生き返らせる為に。
一か八かの賭けに出た彼は肉体全てに全力で命じた。
「飛翔せよ」と。
「……それがそなたの秘策か。素晴らしい、そなたはやはり素晴らしいな!」
「お褒めに与り、光栄ですよ……」
そして、賭けに勝った。
ハジの様に完全な翼手の姿にならず、背中から蝙蝠の如き羽を生やして空を飛ぶ。
初めての試みだったが、それは見事に成功した。ソロモンは今まさに人の姿を保ちながら空を飛んでいる。
『ギガゾンビの敷いた翼手形態への変化の抑制……これがぎりぎりのラインでしたか』
ハジと真逆の白い色をした羽を満足そうに眺め、ソロモンは更に空へと上昇した。
そして小次郎の姿に狙いを定める事が出来るぎりぎりの高さで止まり、見下ろす。
後はこれで闘うだけだ。上空からあの男へと、剣を放つしかない。
これは真の最終手段。天空から一直線に舞い降り、速度と力を乗せて敵を貫く。
どうせ連続攻撃を行ったところで、剣は受け止められるだけだろう。一撃で決めるしかない。
もうソロモンにはこの策しかなかった。人間を殺す為にはもうこの策しか残されていなかったのだ。
今のこの瞬間も血が流れ、多大な疲労が蓄積されていく。
時間が無い。これ以上背中から血を流し続ければ圭一の様になる。
深呼吸をし、空を眺めた。蒼星石が着ていたあの色を思い出す。
そうだ、自分は解り合えた盟友を殺した。小夜の為に殺したのだ。
蒼い蒼い空を見つめ、それを再確認したソロモンは小次郎を睨み付けた。
そう、彼を今ここで殺し――そして最後まで生き残るのだ。
『僕が蒼星石とレナさんを殺した事を無駄にしない為に、生き残ってみせる。
待っていてください、小夜。僕が必ずあなたを元の世界へと帰しますから。
そして全てが終わったら……また向こうで会いましょう、蒼星石…………』
ソロモンは空に紅い帯を作りながら、急降下した。
狙うは佐々木小次郎。あの強過ぎた剣豪、唯一人の首だ。
「小夜の為に……佐々木小次郎ッ! あなたを殺すッッ!!」
◆
気付けば、近くにはもう邪魔をする者はいなかった。
天空には背から羽を生やし、右腕の刃を持つ騎士。
地上にはそれを打ち落とさんと構える私という侍のみ。
次元は子供を背負いながらゆっくりとこの場から離れ、見物人と化している。
いや、だがこれで良い。少なくともこれで邪魔者のいない死合いが出来るのだから。
先程水を差したあの子供に対して少しばかり殺意が沸いたが、もうどうでもいい。
死合いが出来る。遂にソロモンと決着をつける事が出来るのだ。特別に許してやろう。
ところでソロモンよ、その「サヤ」というのはそなたの恋人か何かか?
もしそうであるなら……その女は外も内もとても美しいのであろうな。
否、そのサヤがもしも恋人でなく家族だったとしても、私のその推測は変わらないであろう。
私には解るのだ。そなたのその想いを私は剣で受け止めたからこそ理解したのだ。
右腕の刃、背の白き羽、背と片腕を切られて尚立ち上がるその力。
その全てがそなたの言うサヤの為の力なのだろう。
そこまでそなたを燃え上がらせる女がいたとは。
私も是非一度、出会ってみたかったものだ。
天高く飛び、一直線に光のように舞い降りる。
これがそなたの「愛の力」というものか。素晴らしい。
ではその愛の力を、私は真正面から受け止めてやろう。
最早小細工は無用。そなたが私を穿つなら、ただそれを受け止めるまで!
全身全霊の”秘剣・燕返し”……そなたに放つぞ!
ソロモン・ゴールドスミスッッ!!
◆
闘いは一瞬で幕を閉じた。
天空から降る一陣の刃が、目を見張るスピードで小次郎に襲い掛る。
地上では竜殺しを構えた小次郎が、それを待ち構えていた。
ソロモンは勢いをそのままに、小次郎に刃を放った。
小次郎は”秘剣・燕返し”を全身全霊で放った。
そしてソロモンの刃は、小次郎の左腕の肘から先を吹き飛ばし、そのまま右手をも切り裂いた。
そして小次郎の放った三種の刃は同時にソロモンへと襲い掛かり、腕と脚、更には体さえも切り裂いた。
差は単純な力と技量のみ。
侍の磨き上げられた剣技が、空をも制した騎士を大地へと墜としたのだ。
ソロモン・ゴールドスミスは天を仰ぐように倒れ、血の海を作り出している。
佐々木小次郎は吹き飛んだ左腕に目もくれず、騎士のその姿を見つめていた。
死合いが、終焉を迎えた。
◆
激しいぶつかり合い。それが終わり、辺りは静けさを迎える。
次元はしばらく時間を置き、やっと両者の闘いが終わった事を実感した。
未だに意識が戻らない圭一を背負い、再びあの決闘の場へと次元は戻っていく。
脇腹が痛いし小次郎が自分を襲う可能性もある。だがそれでも自分は行かなければならなかった。
為すべき事を、為す為だ。
「おお、そなたか……終わったぞ。全く、久々に熱くなってしまった」
「そうかい……左腕、吹っ飛んだんだな」
「ああ。すぐにそなたと闘いたかったが仕方が無い……後だ」
「そうかい、そりゃ助かった……後ってのが気になるが」
到着するなり嬉しそうな小次郎の報告を聞く羽目になってしまった。
だが突然襲われなかっただけマシか。しっかし嬉しそうだなこいつ。
仕方が無いので適当に相槌を打ちながら、圭一を地面に横たえた。
流石に小次郎もこんな無力な相手を狙うとは考えにくい。
あの黒く巨大な得物を右手に持ったままではあるが、殺意は無い。まあ大丈夫だろう。
勝手に自己完結すると、そのままソロモンの倒れている方向へと視線を向けた。
彼は何も言わず、何もせずに血の海の真ん中で仰向けに寝転がっている。
羽も消え、右腕も刃の形ではない人のそれに戻っていた。
そして、偶然にもそのソロモンの倒れている場所はあの因縁の場所だった。
彼が蒼星石とレナを刃で刺し殺した場所。ソロモンはその場所で倒れていたのだ。
近くにはレナの死体がある。更には砕けた蒼星石の体も散らばっている。
自身が殺した相手と共に倒れて人生を終えるとは、皮肉な話だ。
そんな一銭の得にもならないような事を考えつつ眺めていると、
「……死合いも出来て満足だ。あの男は好きにしろ」
「……そうか、じゃあ好きにさせて貰おうか」
意外にも、突然有難い許しが出た。驚いたが好意に甘える事にする。
足取りこそ少し頼りないが、すぐに次元はソロモンの元へと向かった。
為すべき事――ソロモンとの対話と、場合によっては自分で止めを刺す――を為す為だ。
◆
俺は、何をしていたんだろう。
そうだ……確かソロモンさんに大鉈を振るって、次元さんに護られた。
けれど俺は背中を斬られちまって、それからどうしたんだっけ……。
あ、そっか。俺は……気絶してたのか。
駄目だな、俺。殆ど自滅だ。
次元さんも護ってくれたのに……ごめん。
血をだらだら流しながら激しく動けばそりゃ気絶する。
それに背中からも血が止まらない。俺も終わったな。
レナ……仇、討てなかったよ。
ソロモンさんを倒す事が出来なかった。ギガゾンビにももう……会えないな。
会って一発殴りたかったよ。ソロモンさんやレナを狂わせやがった罰だ、ってな。
でもごめん、レナ。もう俺無理だ。そっちに行くよ……向こうで会えると良いな。
帰りたかったなぁ……雛見沢に……帰りたかったなァ……。
レナと一緒に……皆と一緒に……だって、あそこにいれば幸せだったもんな。
また部活で勝負したかったな……悔しい、悔しいよ俺。
『圭一君』
……え?
『圭一君、レナは大丈夫だから』
突然、目の前にレナが現れた。心なしか半透明だ。
されは幻か? それとも幽霊……いや、もうそんな事はどうでもいい。
レナがいる……レナが会いに来てくれた。こんな俺なんかに……レナが。
『だから圭一君……自分を責めないで』
心地よいレナの声を聞いている内に、力が抜けていく。
拙い、最期にレナに言わなきゃいけない言葉があるってのに。
ありがとう、レナ。俺なんかと一緒にいてくれて……ありがとう!
ありがとう、ありがとう、ありがとう! ありがとう!!
「ありが、とう……レナ」
力を振り絞って声に出す。レナは聞いてくれただろうか。
だがそれを確かめる事も出来ず、俺は瞼を静かに閉じた。
◆
俺はソロモンの顔を覗き込む。
するとこいつが自嘲するような笑みを浮かべている事に気付いた。
よう、ソロモン。そんな表情してるんじゃねぇよ。
「次、元……笑いにでも……来たんですか……」
おいおい、そんなわけあるか。俺はお前と真剣に話しに来ただけだよ。
話しかけた途端に憎まれ口かこの野郎。畜生、そんな笑みを浮かべるなよ。畜生。
なぁ、ソロモン。俺はお前を許さねぇからな。
俺はお前のした事を許さねぇし、忘れねぇ。絶対だからな。
今から謝っても遅いぞ、本気だ。
「……そう、ですか……いいですよ……」
――そう、俺は絶対に許しはしない。仲間を裏切った挙句に殺した事を許しはしない。
だがお前の事はもう憎まない。憎むのはお前を追い詰めたギガゾンビのクソ野郎だ。
だから、俺はお前を嫌いにはならないし、お前の分まで生き残る事にする。
そしてあのギガゾンビとかいう馬鹿を撃ち殺してやる……だから、心配すんな。
俺のこの言葉を静かに聞いているソロモンの顔は、圭一以上に蒼白だった。
まだ立ち上がってどうにかする様なら俺が止めを刺す事も考えてたが、その必要も無いみたいだ。
小次郎の妙な構えから打ち出された妙な技が、ソロモンをしっかりと捉えている。完璧に致命傷だ。
「……ありがとう、ございます」
笑みを浮かべ、ソロモンが礼を言った。
畜生、こいつのこんな弱弱しい「ありがとうございます」なんて聞きたくなかったよ。
いけ好かない気障な奴だったが、一緒にこのゲームをぶち壊してやりたかったぜ。
それなのにお互いになんてザマだ。全く、本当にこのゲームはふざけてるぜ。畜生。
まあいい、まあいいや。もうお前とはお別れだ。
大丈夫、約束通り俺はお前の分まで生き残ってやる。
俺がジイさんになってそっちに逝ったら酌でもしてくれ。
……じゃあな。
回れ右。俺は圭一と小次郎の元へと向かう。
もう俺がソロモンに対してやれる事は全部やりきった。
これから、どうするかな。
◆
『もう、全てを失ってしまった……馬鹿ですね、僕も』
愛する者も、共に歩んだ友も、自分の命すらも失う。
ソロモンはそんな無様な自分を、ただ責め続けていた。
小夜と会う資格を失い、蒼星石やレナの分まで生きる事が出来なかった。
もう自分の周りには何も無い。本当に自分は馬鹿で不器用だった。
『蒼星石、僕は解っています。小夜が喜ぶはずがないとは解っています。
元々愛を拒まれていた身ですし、今更何かをしたところで無意味でしょう。
僕は解っていた……そんな事は最初から解っていた筈だったんですよ』
言い訳は簡単に思い浮かぶが、それは最早無意味。
自分はもう終わりだ。死に誘われるだけ、それだけなのだ。
それが酷く悲しい。覚悟を決めた時に棄てた悔いにも似た感情が押し寄せる。
「小夜……蒼星石……」
呟いても、戻ってくる筈が無い。二人はもうとっくに死んでしまったのだ。
小夜は知らない場所で死んだ。蒼星石に至っては自分自身が殺した。
なんて哀しい話なのだろうか。なんと報われぬ、寂しい話なのだろうか。
――そんな事を考えていると、不意に赤い光が目に入った。
首を傾けてその光に視線を移すと、目と鼻の先で宝石が光っている。
この宝石はそうだ、間違いない。あの”ローザミスティカ”だ。
そう、それは蒼星石から話だけは聞いていた。
紅く光り輝き、彼女達の核となっている宝石。それがこのローザミスティカ。
つまり、蒼星石の命の塊だ。殺してしまった盟友である彼女の命なのだ。
だが、蒼星石のローザミスティカは未だ輝いていた。生きているかの様に、淡い光を放っている。
近くで見るそれはとても綺麗で、とても温かい。まるで優しく語りかけてくれている様だ。
ソロモンはその光に彼女の姿を重ねた。
姉を想い、護りたいと言い、意気投合してくれた少女。
大袈裟な演技に堅くなってしまったり、ばれた瞬間必死に弁明してくれた彼女。
ほんの少しの間だったが、美しい思い出は尽きず浮かんでくる。
『蒼星石……僕は、あなたと解り合えて嬉しかったですよ』
笑みを浮かべ、心中で彼女にそっと思いを伝えた。
紛れも無い本心。一点の穢れも無い感情だ。
出来るなら、小夜と共に在り続けたかった
蒼星石の大切な姉を捜してあげたかった。
盟友と共に騎士となって護るべきものを護りたかった。
そして自分は小夜と蒼星石を護る、強き存在でありたかった。
「最期まで……騎士で、いたかった…………」
最期の呟きは、もう叶う事は無い儚い夢。
その呟きはとても小さく、誰の耳に届く事も無かった。
【B-4・路上/一日目/日中】
【次元大介@ルパン三世】
[状態]:疲労大、深いショック、わき腹にケガ(激しく動くと大出血の恐れあり)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:6/7)@ヘルシング ズボンとシャツの間に挟んであります
[道具]:支給品一式(水食料一食分消費)、13mm爆裂鉄鋼弾(35発)
[思考・状況]
1:「これからどうすっかなぁ?」
2:『圭一……ソロモン……』
3:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す
4:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する
基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:右臀部に刺し傷(手当て済み)、左腕喪失(肘から先)、右腕に怪我、満足気
[装備]:無し
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:次元と闘いたいが、それは今はお預け。
2:セイバーが治癒し終わるのを待ち、再戦。それまで違う者を相手にして暇を潰す。
3:竜殺しの所持者を見つけ、戦う(?)。
4:物干し竿を見つける。
基本:兵(つわもの)と死合たい。基本的には小者は無視。
※ソロモン、圭一のディパックと装備は死体付近に放置。
※ソロモンの体は人間の形態であり、羽は消えて刃は普通の手へと戻っています。
※蒼星石のローザミスティカは尚も光り輝いています。しかし誰かの元へは向かいません。
※竜殺し@ベルセルクは折れました。エリア内に放置されています。
※佐々木小次郎の左腕(肘から先)もエリア内に放置されています。
&color(red){【前原圭一@ひぐらしのなく頃に 死亡】 }
&color(red){【ソロモン・ゴールドスミス@BLOOD+ 死亡】 }
&color(red){[残り45人]}
*時系列順で読む
Back:[[いざない]] Next:[[峰不二子の消失]]
*投下順で読む
Back:[[いざない]] Next:[[勝利者の為に]]
|167:[[嘘800]]|次元大介||
|167:[[嘘800]]|佐々木小次郎||
|167:[[嘘800]]|COLOR(red):前原圭一||
|167:[[嘘800]]|COLOR(red):ソロモン・ゴールドスミス||
*愛する者の為の騎士("La mort de Chevalier"Remix) ◆wlyXYPQOyA
自身は騎士で、相手は射手と剣士。
それはまさしく三種三様。一人として同じ者はいない。
時代や国、様々なものを超えて自分たちは向き合っている。
さて。
黒の射手が拳銃を使うのは既に知る通りだ。
そしてこの剣士――日本のサムライという人種だろうか――も危険だ。
手練である事など簡単にわかる。殺気、立ち回り、態度。全てが戦いに生きる者である何よりの証拠。
この状況では二つの存在は脅威だ。恐ろしい畏怖の対象であり、力そのものだ。
いや、だがそれがどうした。ならば自分は人としての生を逸脱した騎士だ。
武器を持ち、人を護るべく人を殺す矛と盾となる強き者だ。何も恐れる事はない。
そんな今の自分の片手は、敵には一体何に見えているだろうか。
人を射抜く槍か。化け物を打ち抜く白木の杭か。
違う。今の自分のこの手はそんな”ちゃちな”ものではない。
今のこの手は、人と化け物を分け隔てなく殺す白銀の”剣”だ。
槍でも杭でもない。貫く為だけのものではない。敵を「斬る」剣なのだ。
意思を纏い、ソロモンは敵の姿を眺めた。
この三つ巴という言葉が良く似合う状況でどう動くかを思案する。
一挙一動に全てが掛かっているという事は本人もよく理解していた。
だからこそ状況を見極める為に、彼は敵を眺めている。
「しかし次元、”兵”をここに誘った事は評価に値するぞ」
「そうかい」
「だからこそ、そなたとも余計に闘いたくなった」
「そうかい……だが今はアイツと戦った方が面白いと思うぞ」
目の前では血を流す射手と未だ余裕のサムライが会話をしている。
彼らは手を組んでいるわけではないだろう。だが状況がどう転ぶかは判らない。
状況が不安定に過ぎる。ここは賢く立ち回るべきか。ならばどうするか。
「私はアサシンのサーヴァント……佐々木小次郎。剣士よ、お主の名は?」
「ソロモン・ゴールドスミス……それと剣士ではありません、騎士です」
突然サムライが名乗り、こちらにもそれを要求してきた。
一応答える事にした。何故なら自分は礼節を重んじる「騎士」だからだ。
戦いを求めるだけの剣士ではない。人や国への愛の為に戦う騎士なのだ。
レイピアを袋にしまう。本来自分は二刀流という戦術は好まない為だ。
いままでは余分な力の消耗を避ける為に、こうして与えられた武器を使っていたが
こうなってしまってはもうそんな事を考える暇は無い。この刃と化した片手で戦うだけだ。
狙うはあの佐々木小次郎と名乗った男。まずは彼を一番に排除せねばならない。
次元は先程の自分の攻撃によって負傷しているし、何より闘う意思を喪失している。
何せこの三者拮抗の状況で次元は少しずつ、そしてさり気無く後ろへと下がっているのだ。
その脚が向かうであろう位置を推測してみると、その近くには圭一がいた。成程、そういう事か。
『圭一君を保護してどさくさで逃亡するか、小次郎に勝利した僕を狙い撃ちにするか……そんなところでしょうか』
先程の小次郎との会話で小次郎の注意を別へと向けさせたのもこの為だろう。
実力を隠し持っているのだろうに、随分とまた狡い事をする。だがおかげで戦闘以外の苦労は無さそうだ。
問題は未だ怪我一つ負っていないこのサムライのみ。今はただ、この敵を倒すしかなくなったという事。
――そうと決まれば話は早い。
突如、ソロモンは人間離れの速度で小次郎に迫った。
だが余裕なのだろうか。小次郎は走るソロモンを見て笑みを浮かべている。
馬鹿な、このまま難なく事が進めば自分の勝利だというのに。それすら楽しいと思っているのだろうか。
ソロモンは怪訝そうにその表情を眺める。その間も距離は詰まっていき、遂に彼は小次郎の懐へと潜り込んだ。
そして呆気なく敵を射殺す為に、遂にその力を放つ。白銀の刃が目にも留まらぬ速度で小次郎に迫っていった。
そう、ソロモンはこうして速度を頼りに敵を切り刻む戦法を最も得意としていた。
研ぎ澄まされた刃を人間離れの速度で振るい、敵自身も気付かぬ内に殺す。
今も昔もその戦いは変わらない。故に小次郎は、この一手で刺し貫かれるはずだった。
――だが、その一撃は漆黒の剣でいとも簡単に防御されていた。
小次郎の得物、その巨大な刀身が盾の如く攻撃を阻んでいたのだ。
馬鹿な、とソロモンは驚愕の表情を浮かべ、仕方なくバックステップで一度後ろに退いた。
笑みを浮かべている小次郎にいとも簡単に防御をされる。正直なところ、衝撃を隠しきれなかった。
やはりこの男、強い。戦いを求め、敵を求めるだけあって只者ではない。
攻撃と退避。相手のその二つの素早い動作すらも、小次郎は余裕の表情で眺めていた。
退避の邪魔をするわけでもなく、ただ眺める。まるで実力を測っているかのごとく眺めるだけ。
まるで相手から剣術の指南を受けているかの様だ。翼手を生徒扱いとはなんと恐ろしいことか。
佐々木小次郎、やはり一筋縄ではいかない。
『いや……え? ”佐々木小次郎”……?』
突然、本当に突然に思い出した。自分はその名を何処かで聞いたことがある。
そうだ、「佐々木小次郎」は日本の歴史や伝承で確かに存在した剣豪だ。
雑学程度でしか知らないが、あの小夜が過ごしていた日本で名を遺している人物だ。
戦乱の時代に生まれ、戦乱の時代で育ち、常識外れの得物で敵を斬り伏せた伝説のサムライ。
敵を容赦無く死へと導く一撃必殺の奥義「秘剣・つばめ返し」とやらを創り出した人物だったと聞く
だが記憶が正しければ、彼は巌流島という場所で宮本武蔵という剣士と戦い、その後にその一生を終えた筈だ。
まさか目の前にいるのは”その”佐々木小次郎なのだろうか。そんなとんでもない相手と戦っているのだろうか。
だが可能性は十分にある。何せあの怪盗アルセーヌ・ルパンの孫とやらまでいるのだ。
この奇妙な空間ではどんな常識外れな相手がいてもおかしくはない。それならばこの強さにも納得はいく。
それに、仮にその仮説が間違っていたとしても、実際にとんでもない強さという事には変わりは無いのだ。
色々と常識外れで規格外。そんなサムライをどう排除するべきだ。
ソロモンは考えるが答えは出ない。そうこうしている内に、遂には小次郎から動いた。
「速度と心意気は良し。気に入ったぞ……往こう!」
さながら銃弾の如く正面から向かってくる。先程までの自分を見ている様だ。
そして小次郎は間合いに入った途端に、巨大な鉄塊というべき刃を薙いで攻撃を仕掛けてきた。
『巨大な剣だというのに……速い!』
ソロモンは小次郎の激しい一撃をバックステップで避けた。風を斬る音が大音量で響く。
こんな物を腕で受け止めようものなら、骨折どころの騒ぎではない。必ず回避せねば。
だが物事を深く考える暇も与えぬままに、更なる攻撃が襲い掛かってきた。
暴力的なまでの闘気と殺意を纏い、小次郎が笑みを浮かべながら豪快に斬撃を放ったのだ。
先程とは違う上から下への軌道。だがやはりソロモンはその攻撃からも全力で退がり、避けた。
と、その瞬間に重大な事に気付いた。
背後に新たな気配――否、殺意を感じたのだ。体が危険だと騒いでいる。
小次郎ではない。それならばまさか次元だろうか。最初の読みが外れてしまったのか。
『違うッ!?』
だが振り向けばその仮説が間違っていたのは明らかだった。
背後にいたのは圭一。彼が大鉈を勢い良く振りかぶっていた。
しまった、忘れていた。注意すべき敵は射手と剣豪だけではなかったのだ。
先程までまるで無抵抗だった所為で、圭一のことを失念していた。
「く……っ!」
何とか大鉈での攻撃から体を逸らすが、如何せん自分は小次郎の動きにのみ集中していた。
回避が間に合わず、不意の攻撃を避けられぬまま背中に刃を受け止める結果となってしまった。
そのおかげで背中は血みどろだ。傷も深く、かなりの痛手だ。
だが不運は更に続く。
いつもならソロモンは――否、シュヴァリエはこの程度の傷は瞬時に治癒出来る。
だが今は何故かそれが不可能。傷の癒える速度が異常なまでに遅いのだ。
『腕を刃へと変化させた時にも感じましたが……やはりいくつかの行動に支障が生じているようですね……』
怪我を治癒出来ない事を知り、ソロモンは更に焦りを見せ始めた。
依然圭一の攻撃は続く。我武者羅に大降りで力に頼るばかりの攻撃だが、怪我をした身では大変だ。
受け流し、受け止め、回避し、これ以上の怪我を防ごうとソロモンは孤独に奮戦する。
しかし流石にこのままでは、疲労を蓄積した挙句に小次郎へ背中と隙を見せているだけだ。
「仕方がありません……!」
それならば、とソロモンは防御姿勢から回避の為の跳躍へとその動作を移した。
後方かかえ込み二回宙返り一回ひねり。通称、月面宙返りと呼ばれる特殊な跳躍法。
「ムーンサルト」という名で有名な高難易度の動作を、怪我を負った状態で瞬時に行ったのだ。
何の前触れもなく高等技術を披露し、見舞う。
それは人を超えた力を持つシュヴァリエだからこそ可能な芸当だ。
『そう、落ち着け……僕には力がある……信頼出来る力がある。
人間が越えられない壁を飛び越えた挙句に破壊出来る存在、それが僕だ』
再確認。自分は人間ではない、紛れも無い翼手だ。
シュヴァリエの女王を護る為の力を有した最強の騎士――それが自分だ。
『人間には不可能な事が出来る僕が負けるはずは無い』
頭を冷やし、ソロモンは圭一の背後へと華麗に着地をした。
これならすぐに終わる。邪魔をする圭一をこのまま切り伏せ、そのまま刺し殺せば良いのだ。
圭一を貫かんと、ソロモンは刃を振るった。
◆
圭一がまずい。
次元がその事実に気付いたのはソロモンの着地する一寸前。
何故まずいのか、そんな事は見れば判る。一目瞭然だ。
『あの野郎……圭一をッ!』
勘が当たったとか、そういうレベルではない。
確実にソロモンは圭一の後ろを取り、殺すつもりだと自分の本能が知らせた。
ならばそんな事をさせるわけには行かない。圭一は保護してみせる。
第六感、本能、全てを信じて次元は圭一へと飛び込んでいく。
その結果、次元はソロモンの攻撃に間に合った。
そう、”攻撃自体には”だ。
「マズッたな……」
不運な事にその救助の手は僅かに間に合わず、無事に保護したとは言えなかった。
圭一の背中には袈裟斬りの傷が生まれ、そこから血が大量に流れていたのだ。
直前に圭一の襟首を掴み、引っ張って退避させたがそれも間に合わなかったのか傷は深かった。
だが、状況の悪化は更に続く。なんと圭一が意識を失っているのだ。
見れば顔も蒼白。頭からの流血は一層酷さを増し、止まる事を知らない。
やられた。こんな状態で大鉈を振り回し、背中からも大量の血を流せば
失血死という事態へと順調に歩を進める結果になるのは明白。最初から止めるべきだった。
圭一自身の体温も徐々に低下している。これではもう彼は助からないだろう。
そして更にまずい事に、ソロモンが先程からこちらを睨みつけていた。
相手の怒りが手に取るように解る。恐らくは排除にかかるだろう。当然であり最悪の展開だ。
次元は苦悩するが、自身が怪我をした所為で激しい運動は期待出来ないであろう事も理解している。
というより、その怪我も悪化してしまった。抉られた脇腹から血が流れ始めており、これでは安静にしなくてはならない。
チェックメイト。完全に詰みだ。辞世の句と戒名を用意しておくべきだった。
『俺も終わったか。最期にソロモンに説教してやりたかったが……ん?』
だがその時、ノーマークだった方向から足音が聞こえた。
まるで獲物を見つけた獣が超スピードで走ってくる様な音――まさか。
「余所見をしている場合か、ソロモン」
この声は佐々木小次郎だ。ああ、そうか。こいつが残っていた。
別にこいつは闘いたいだけで助けに来てくれたわけではないだろうが、こっちは一方的に助かった。
ソロモンが小次郎の攻撃を回避しているその間に
次元は圭一を背中に背負い、ゆっくりと後ろに退避することにした。
蒼星石とレナが死んだあの場所から、ソロモンと小次郎が戦っている場所からゆっくりと離れていく。
小次郎とソロモンを闘わせるという作戦は十分に成功した。圭一の保護は失敗したが、後は自分が退くだけだ。
ここから逃げるだけで良いのだ。逃げて、この場から立ち去れば良いだけなのだ。
だが、それでは自分の気が治まらない。あの男達にはガツンと言ってやりたい。
保護者みたいなことを考えた所為か、足が重くなる。とんだ熱血漢だな、と次元は苦笑した。
「この、死合いとやら……最後まで見届けるか」
◆
敵を刻まんと再び迫る巨大な刃。ソロモンはそれを必死に避けた。
とにかく全力で退避をするが、小次郎は尚も追いつつ攻撃を続けてくる。
横槍が入った所為で、今や闘いは小次郎が優勢になっている。
『圭一君に次元……やはり彼らも視野に入れておくべきでしたね……』
今更後悔しても仕方が無い。自分の落ち度なのだ。
背中からは血が流れ、疲労困憊。不利な状況に立たされている。
痛みを伴う大怪我を負った今、彼らを一気に殺さなくてはならない。
だがいくらシュヴァリエといってもこの複雑な状況を簡単に看破出来るかどうかは怪しい。
かつてシフと言う少年少女に複数人で襲いかかれた際には楽に攻略をしたが、
今回はその比ではないし、状況が状況だ。非常にまずい、本当にまずい。
こうなれば、人の姿を捨てて全身全霊で挑むしか勝利する方法は無い――のだが。
『……やはり無理ですか』
だが、すぐにそれが無理だと知った。
『姿を変えよ』と体に命じるが、その力が発動する事は無かった。
やはりこの世界では、肉体全てを翼手のそれに変化させる事すら出来ないのだ。
敵を掴む強力な脚や敵を噛み砕く牙を生み出せない。あまりにも無慈悲すぎる。
「追いついたぞ」
小次郎に追いつかれ、遂には左肩を切り裂かれてしまった。
その所為か急にバランスを崩し、ソロモンは倒れてしまう。
切り飛ばされはしなかったが痛みで左腕が動かない。
――だがそれなら右手だけで闘えば良いだけだ。
『小次郎、僕はまだ……倒れませんよ……』
ソロモンは立ち上がる。小夜の為に、小夜のために死ぬわけにはいかない。
たとえ体の一部を失ったとしても、立ち上がらなければならないのだ。
そうでなければ、解り合えた盟友を殺した意味が無くなってしまう。だから立ち上がる。
しかしこの状況では、完全に不利だ。人間の姿を保ったままの勝利は不可能だろう。
だが自分には片手を刃に変える以外の部分的な変形は不可能だ。どうする、どうすれば。
『いや……あの方法なら……』
小夜のシュヴァリエであるあのハジという男を思い出した。
彼は自分の目の前で、翼手の姿にならないままに腕以外のもう一つの変化をやってのけたのだ。
あれだ、あれに賭けるしかない。常識から逸脱する手段はそれしか残されていない。
自分にそれは出来るだろうか。一瞬不安になる。
いや、だがやはりこれに賭けるしかない。残された手はこれだけだ。
大丈夫、きっと出来る。ハジの様に力を解放してみせる。
絶対に”飛んでみせる”。
――ハジとは、小夜のシュヴァリエの名だ。
彼は一風変わっており、酷く寡黙な男だった。
更には自身がシュヴァリエであることを罪であるかの様に振舞う。
それを受け止めているつもりなのか、右腕は常に翼手のそれに変化させたままだった。
だが変わっていることはそれだけではない。彼は”翼手の形態にならずに”空を飛べるのだ。
人の体を形成したまま蝙蝠に似た翼を背に生やし、飛び立つ事が出来るのだ。
ソロモン自身も空を飛ぶ翼を持った翼手だ。
だがハジの様に翼手の姿にならずに空を飛んだことは無いし試した事も無い。
だがその気になれば、自分もあのシュヴァリエの様に人の姿のままで空を飛ぶことは出来るだろうか。
いや、やってみせる。最初から小夜のシュヴァリエだったあの羨ましい男の様に飛んでみせる。
勝つために、生き残る為に。蒼星石の分まで生き残り、小夜を生き返らせる為に。
一か八かの賭けに出た彼は肉体全てに全力で命じた。
「飛翔せよ」と。
「……それがそなたの秘策か。素晴らしい、そなたはやはり素晴らしいな!」
「お褒めに与り、光栄ですよ……」
そして、賭けに勝った。
ハジの様に完全な翼手の姿にならず、背中から蝙蝠の如き羽を生やして空を飛ぶ。
初めての試みだったが、それは見事に成功した。ソロモンは今まさに人の姿を保ちながら空を飛んでいる。
『ギガゾンビの敷いた翼手形態への変化の抑制……これがぎりぎりのラインでしたか』
ハジと真逆の白い色をした羽を満足そうに眺め、ソロモンは更に空へと上昇した。
そして小次郎の姿に狙いを定める事が出来るぎりぎりの高さで止まり、見下ろす。
後はこれで闘うだけだ。上空からあの男へと、剣を放つしかない。
これは真の最終手段。天空から一直線に舞い降り、速度と力を乗せて敵を貫く。
どうせ連続攻撃を行ったところで、剣は受け止められるだけだろう。一撃で決めるしかない。
もうソロモンにはこの策しかなかった。人間を殺す為にはもうこの策しか残されていなかったのだ。
今のこの瞬間も血が流れ、多大な疲労が蓄積されていく。
時間が無い。これ以上背中から血を流し続ければ圭一の様になる。
深呼吸をし、空を眺めた。蒼星石が着ていたあの色を思い出す。
そうだ、自分は解り合えた盟友を殺した。小夜の為に殺したのだ。
蒼い蒼い空を見つめ、それを再確認したソロモンは小次郎を睨み付けた。
そう、彼を今ここで殺し――そして最後まで生き残るのだ。
『僕が蒼星石とレナさんを殺した事を無駄にしない為に、生き残ってみせる。
待っていてください、小夜。僕が必ずあなたを元の世界へと帰しますから。
そして全てが終わったら……また向こうで会いましょう、蒼星石…………』
ソロモンは空に紅い帯を作りながら、急降下した。
狙うは佐々木小次郎。あの強過ぎた剣豪、唯一人の首だ。
「小夜の為に……佐々木小次郎ッ! あなたを殺すッッ!!」
◆
気付けば、近くにはもう邪魔をする者はいなかった。
天空には背から羽を生やし、右腕の刃を持つ騎士。
地上にはそれを打ち落とさんと構える私という侍のみ。
次元は子供を背負いながらゆっくりとこの場から離れ、見物人と化している。
いや、だがこれで良い。少なくともこれで邪魔者のいない死合いが出来るのだから。
先程水を差したあの子供に対して少しばかり殺意が沸いたが、もうどうでもいい。
死合いが出来る。遂にソロモンと決着をつける事が出来るのだ。特別に許してやろう。
ところでソロモンよ、その「サヤ」というのはそなたの恋人か何かか?
もしそうであるなら……その女は外も内もとても美しいのであろうな。
否、そのサヤがもしも恋人でなく家族だったとしても、私のその推測は変わらないであろう。
私には解るのだ。そなたのその想いを私は剣で受け止めたからこそ理解したのだ。
右腕の刃、背の白き羽、背と片腕を切られて尚立ち上がるその力。
その全てがそなたの言うサヤの為の力なのだろう。
そこまでそなたを燃え上がらせる女がいたとは。
私も是非一度、出会ってみたかったものだ。
天高く飛び、一直線に光のように舞い降りる。
これがそなたの「愛の力」というものか。素晴らしい。
ではその愛の力を、私は真正面から受け止めてやろう。
最早小細工は無用。そなたが私を穿つなら、ただそれを受け止めるまで!
全身全霊の”秘剣・燕返し”……そなたに放つぞ!
ソロモン・ゴールドスミスッッ!!
◆
闘いは一瞬で幕を閉じた。
天空から降る一陣の刃が、目を見張るスピードで小次郎に襲い掛る。
地上では竜殺しを構えた小次郎が、それを待ち構えていた。
ソロモンは勢いをそのままに、小次郎に刃を放った。
小次郎は”秘剣・燕返し”を全身全霊で放った。
そしてソロモンの刃は、小次郎の左腕の肘から先を吹き飛ばし、そのまま右手をも切り裂いた。
そして小次郎の放った三種の刃は同時にソロモンへと襲い掛かり、腕と脚、更には体さえも切り裂いた。
差は単純な力と技量のみ。
侍の磨き上げられた剣技が、空をも制した騎士を大地へと墜としたのだ。
ソロモン・ゴールドスミスは天を仰ぐように倒れ、血の海を作り出している。
佐々木小次郎は吹き飛んだ左腕に目もくれず、騎士のその姿を見つめていた。
死合いが、終焉を迎えた。
◆
激しいぶつかり合い。それが終わり、辺りは静けさを迎える。
次元はしばらく時間を置き、やっと両者の闘いが終わった事を実感した。
未だに意識が戻らない圭一を背負い、再びあの決闘の場へと次元は戻っていく。
脇腹が痛いし小次郎が自分を襲う可能性もある。だがそれでも自分は行かなければならなかった。
為すべき事を、為す為だ。
「おお、そなたか……終わったぞ。全く、久々に熱くなってしまった」
「そうかい……左腕、吹っ飛んだんだな」
「ああ。すぐにそなたと闘いたかったが仕方が無い……後だ」
「そうかい、そりゃ助かった……後ってのが気になるが」
到着するなり嬉しそうな小次郎の報告を聞く羽目になってしまった。
だが突然襲われなかっただけマシか。しっかし嬉しそうだなこいつ。
仕方が無いので適当に相槌を打ちながら、圭一を地面に横たえた。
流石に小次郎もこんな無力な相手を狙うとは考えにくい。
あの黒く巨大な得物を右手に持ったままではあるが、殺意は無い。まあ大丈夫だろう。
勝手に自己完結すると、そのままソロモンの倒れている方向へと視線を向けた。
彼は何も言わず、何もせずに血の海の真ん中で仰向けに寝転がっている。
羽も消え、右腕も刃の形ではない人のそれに戻っていた。
そして、偶然にもそのソロモンの倒れている場所はあの因縁の場所だった。
彼が蒼星石とレナを刃で刺し殺した場所。ソロモンはその場所で倒れていたのだ。
近くにはレナの死体がある。更には砕けた蒼星石の体も散らばっている。
自身が殺した相手と共に倒れて人生を終えるとは、皮肉な話だ。
そんな一銭の得にもならないような事を考えつつ眺めていると、
「……死合いも出来て満足だ。あの男は好きにしろ」
「……そうか、じゃあ好きにさせて貰おうか」
意外にも、突然有難い許しが出た。驚いたが好意に甘える事にする。
足取りこそ少し頼りないが、すぐに次元はソロモンの下へと向かった。
為すべき事――ソロモンとの対話と、場合によっては自分で止めを刺す――を為す為だ。
◆
俺は、何をしていたんだろう。
そうだ……確かソロモンさんに大鉈を振るって、次元さんに護られた。
けれど俺は背中を斬られちまって、それからどうしたんだっけ……。
あ、そっか。俺は……気絶してたのか。
駄目だな、俺。殆ど自滅だ。
次元さんも護ってくれたのに……ごめん。
血をだらだら流しながら激しく動けばそりゃ気絶する。
それに背中からも血が止まらない。俺も終わったな。
レナ……仇、討てなかったよ。
ソロモンさんを倒す事が出来なかった。ギガゾンビにももう……会えないな。
会って一発殴りたかったよ。ソロモンさんやレナを狂わせやがった罰だ、ってな。
でもごめん、レナ。もう俺無理だ。そっちに行くよ……向こうで会えると良いな。
帰りたかったなぁ……雛見沢に……帰りたかったなァ……。
レナと一緒に……皆と一緒に……だって、あそこにいれば幸せだったもんな。
また部活で勝負したかったな……悔しい、悔しいよ俺。
『圭一君』
……え?
『圭一君、レナは大丈夫だから』
突然、目の前にレナが現れた。心なしか半透明だ。
これは幻か? それとも幽霊……いや、もうそんな事はどうでもいい。
レナがいる……レナが会いに来てくれた。こんな俺なんかに……レナが。
『だから圭一君……自分を責めないで』
心地よいレナの声を聞いている内に、力が抜けていく。
まずい、最期にレナに言わなきゃいけない言葉があるってのに。
ありがとう、レナ。俺なんかと一緒にいてくれて……ありがとう!
ありがとう、ありがとう、ありがとう! ありがとう!!
「ありが、とう……レナ」
力を振り絞って声に出す。レナは聞いてくれただろうか。
だがそれを確かめる事も出来ず、俺は瞼を静かに閉じた。
◆
俺はソロモンの顔を覗き込む。
するとこいつが自嘲するような笑みを浮かべている事に気付いた。
よう、ソロモン。そんな表情してるんじゃねぇよ。
「次、元……笑いにでも……来たんですか……」
おいおい、そんなわけあるか。俺はお前と真剣に話しに来ただけだよ。
話しかけた途端に憎まれ口かこの野郎。畜生、そんな笑みを浮かべるなよ。畜生。
なぁ、ソロモン。俺はお前を許さねぇからな。
俺はお前のした事を許さねぇし、忘れねぇ。絶対だからな。
今から謝っても遅いぞ、本気だ。
「……そう、ですか……いいですよ……」
――そう、俺は絶対に許しはしない。仲間を裏切った挙句に殺した事を許しはしない。
だがお前の事はもう憎まない。憎むのはお前を追い詰めたギガゾンビのクソ野郎だ。
だから、俺はお前を嫌いにはならないし、お前の分まで生き残る事にする。
そしてあのギガゾンビとかいう馬鹿を撃ち殺してやる……だから、心配すんな。
俺のこの言葉を静かに聞いているソロモンの顔は、圭一以上に蒼白だった。
まだ立ち上がってどうにかする様なら俺が止めを刺す事も考えてたが、その必要も無いみたいだ。
小次郎の妙な構えから打ち出された妙な技が、ソロモンをしっかりと捉えている。完璧に致命傷だ。
「……ありがとう、ございます」
笑みを浮かべ、ソロモンが礼を言った。
畜生、こいつのこんな弱弱しい「ありがとうございます」なんて聞きたくなかったよ。
いけ好かない気障な奴だったが、一緒にこのゲームをぶち壊してやりたかったぜ。
それなのにお互いになんてザマだ。全く、本当にこのゲームはふざけてるぜ。畜生。
まあいい、まあいいや。もうお前とはお別れだ。
大丈夫、約束通り俺はお前の分まで生き残ってやる。
俺がジイさんになってそっちに逝ったら酌でもしてくれ。
……じゃあな。
回れ右。俺は圭一と小次郎の下へと向かう。
もう俺がソロモンに対してやれる事は全部やりきった。
これから、どうするかな。
◆
『もう、全てを失ってしまった……馬鹿ですね、僕も』
愛する者も、共に歩んだ友も、自分の命すらも失う。
ソロモンはそんな無様な自分を、ただ責め続けていた。
小夜と会う資格を失い、蒼星石やレナの分まで生きる事が出来なかった。
もう自分の周りには何も無い。本当に自分は馬鹿で不器用だった。
『蒼星石、僕は解っています。小夜が喜ぶはずがないとは解っています。
元々愛を拒まれていた身ですし、今更何かをしたところで無意味でしょう。
僕は解っていた……そんな事は最初から解っていた筈だったんですよ』
言い訳は簡単に思い浮かぶが、それは最早無意味。
自分はもう終わりだ。死に誘われるだけ、それだけなのだ。
それが酷く悲しい。覚悟を決めた時に棄てた悔いにも似た感情が押し寄せる。
「小夜……蒼星石……」
呟いても、戻ってくる筈が無い。二人はもうとっくに死んでしまったのだ。
小夜は知らない場所で死んだ。蒼星石に至っては自分自身が殺した。
なんて哀しい話なのだろうか。なんと報われぬ、寂しい話なのだろうか。
――そんな事を考えていると、不意に赤い光が目に入った。
首を傾けてその光に視線を移すと、目と鼻の先で宝石が光っている。
この宝石はそうだ、間違いない。あの”ローザミスティカ”だ。
そう、それは蒼星石から話だけは聞いていた。
紅く光り輝き、彼女達の核となっている宝石。それがこのローザミスティカ。
つまり、蒼星石の命の塊だ。殺してしまった盟友である彼女の命なのだ。
だが、蒼星石のローザミスティカは未だ輝いていた。生きているかの様に、淡い光を放っている。
近くで見るそれはとても綺麗で、とても温かい。まるで優しく語りかけてくれている様だ。
ソロモンはその光に彼女の姿を重ねた。
姉を想い、護りたいと言い、意気投合してくれた少女。
大袈裟な演技に堅くなってしまったり、ばれた瞬間必死に弁明してくれた彼女。
ほんの少しの間だったが、美しい思い出は尽きず浮かんでくる。
『蒼星石……僕は、あなたと解り合えて嬉しかったですよ』
笑みを浮かべ、心中で彼女にそっと思いを伝えた。
紛れも無い本心。一点の穢れも無い感情だ。
出来るなら、小夜と共に在り続けたかった
蒼星石の大切な姉を捜してあげたかった。
盟友と共に騎士となって護るべきものを護りたかった。
そして自分は小夜と蒼星石を護る、強き存在でありたかった。
「最期まで……騎士で、いたかった…………」
最期の呟きは、もう叶う事は無い儚い夢。
その呟きはとても小さく、誰の耳に届く事も無かった。
【B-4・路上/一日目/日中】
【次元大介@ルパン三世】
[状態]:疲労大、深いショック、わき腹にケガ(激しく動くと大出血の恐れあり)
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:6/7)@HELLSING ズボンとシャツの間に挟んであります
[道具]:支給品一式(水食料一食分消費)、13mm爆裂鉄鋼弾(35発)@HELLSING
[思考・状況]
1:「これからどうすっかなぁ?」
2:『圭一……ソロモン……』
3:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す
4:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する
基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:右臀部に刺し傷(手当て済み)、左腕喪失(肘から先)、右腕に怪我、満足気
[装備]:竜殺し@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:次元と闘いたいが、それは今はお預け。
2:セイバーが治癒し終わるのを待ち、再戦。それまで違う者を相手にして暇を潰す。
3:竜殺しの所持者を見つけ、戦う。
4:物干し竿を見つける。
基本:兵(つわもの)と死合いたい。基本的には小者は無視。
※ソロモン、圭一のディパックと装備は死体付近に放置。
※ソロモンの体は人間の形態であり、羽は消えて刃は普通の手へと戻っています。
※蒼星石のローザミスティカは尚も光り輝いています。しかし誰かの下へは向かいません。
※佐々木小次郎の左腕(肘から先)もエリア内に放置されています。
&color(red){【前原圭一@ひぐらしのなく頃に 死亡】 }
&color(red){【ソロモン・ゴールドスミス@BLOOD+ 死亡】 }
&color(red){[残り45人]}
*時系列順で読む
Back:[[いざない]] Next:[[峰不二子の消失]]
*投下順で読む
Back:[[いざない]] Next:[[勝利者の為に]]
|167:[[嘘800]]|次元大介|185:[[どうしようか]]|
|167:[[嘘800]]|佐々木小次郎|185:[[どうしようか]]|
|167:[[嘘800]]|COLOR(red):前原圭一||
|167:[[嘘800]]|COLOR(red):ソロモン・ゴールドスミス||
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