夢 - (2007/05/29 (火) 15:40:41) の編集履歴(バックアップ)
映画館に、今までの面影はない。
完膚なきまで崩壊したそれは、今となってはただの瓦礫の山。
何も音を発せず、何も見せず。
ただ、夕日に照らされながら、その痕を見せるのみ。
しかし……瓦礫の一部が、突如ゆれ始めた。
ゆっくりと、確実に。
そうして、その瓦礫が崩れ落ちて。中から二つの背中が同時に姿を現した。
誰か、などというのは言うまでもない。
そのまま、二人は息を吐きながら体を持ち上げていく。
痙攣しながら、ゆっくりと。何秒も、何十秒もかけて。
立ち上がったのもまた、ほぼ同時。
セイバーの手に、風王結界はない。刀さえない。
カズマの腕は、生身だった。アルターは粉砕され、構築することもできない。
完膚なきまで崩壊したそれは、今となってはただの瓦礫の山。
何も音を発せず、何も見せず。
ただ、夕日に照らされながら、その痕を見せるのみ。
しかし……瓦礫の一部が、突如ゆれ始めた。
ゆっくりと、確実に。
そうして、その瓦礫が崩れ落ちて。中から二つの背中が同時に姿を現した。
誰か、などというのは言うまでもない。
そのまま、二人は息を吐きながら体を持ち上げていく。
痙攣しながら、ゆっくりと。何秒も、何十秒もかけて。
立ち上がったのもまた、ほぼ同時。
セイバーの手に、風王結界はない。刀さえない。
カズマの腕は、生身だった。アルターは粉砕され、構築することもできない。
「いい、加減、諦めやが、れ、てめえ……」
「それは、こち、らの、セリフ、です」
「それは、こち、らの、セリフ、です」
互いの言葉は不明瞭。疲れも傷も限界。それでも、どちらも諦めようとはしない。
ふらつきながら、カズマが歩き出した。本人は走っているつもりだろう。
しかし、その速さはかなみのそれよりも遅かった。
それでも、カズマはセイバーの傍まで歩み寄り、拳を振り上げる。
アルターも技法も糞もない、市井の喧嘩でよく見るデタラメな攻撃だ。
隙だらけのそんな攻撃を、今のセイバーは防げない。
なんの変哲もないただの拳を、何もすることができずに擦り傷だらけのその顔に受けた。
ふらつきながら、カズマが歩き出した。本人は走っているつもりだろう。
しかし、その速さはかなみのそれよりも遅かった。
それでも、カズマはセイバーの傍まで歩み寄り、拳を振り上げる。
アルターも技法も糞もない、市井の喧嘩でよく見るデタラメな攻撃だ。
隙だらけのそんな攻撃を、今のセイバーは防げない。
なんの変哲もないただの拳を、何もすることができずに擦り傷だらけのその顔に受けた。
「……っあああ!」
わずかな魔力を振り絞って、セイバーが拳を返す。
明らかに鈍い攻撃。その辺の女子高生が殴っても大して変わらない。
それでも、カズマはそれを顔面にあっさりと受けて……見事なまでにふらついた。
なんとか姿勢を立て直し、息を吐きながら足を振り上げる。
カズマの回し蹴り――というには不恰好すぎるが――はセイバーに直撃し、
それでも、セイバーは転びそうになりながらその足を掴んで、投げ飛ばした。
受け身を取ることもできず、瓦礫の山からカズマが転がり落ちる。
それを追おうとして……セイバーはその場に倒れこんだ。
痛みで顔を歪ませながらも、セイバーは何とか立ち上がって姿勢を直し、ジャンプした。
そのままカズマの上に着地し、踏みつける。一回に留まらず、何度も。
本能的に、カズマは肺の空気や口の中の血を吐き出していた。
ただでさえ夕日で赤い地面が、違う赤に染まっていく。
明らかに鈍い攻撃。その辺の女子高生が殴っても大して変わらない。
それでも、カズマはそれを顔面にあっさりと受けて……見事なまでにふらついた。
なんとか姿勢を立て直し、息を吐きながら足を振り上げる。
カズマの回し蹴り――というには不恰好すぎるが――はセイバーに直撃し、
それでも、セイバーは転びそうになりながらその足を掴んで、投げ飛ばした。
受け身を取ることもできず、瓦礫の山からカズマが転がり落ちる。
それを追おうとして……セイバーはその場に倒れこんだ。
痛みで顔を歪ませながらも、セイバーは何とか立ち上がって姿勢を直し、ジャンプした。
そのままカズマの上に着地し、踏みつける。一回に留まらず、何度も。
本能的に、カズマは肺の空気や口の中の血を吐き出していた。
ただでさえ夕日で赤い地面が、違う赤に染まっていく。
「……ご、のぉ!」
「うっ……!?」
「うっ……!?」
痙攣しながらも、カズマはとっさに手を振る。その中にあったのは砂。
兜がないセイバーには、目潰しとして十分すぎる……もっとも、鎧もほとんどが砕けているが。
セイバーがふらついている隙に起き上がったカズマは、そのまま肘を相手の胸へと叩きつけた。
今度はセイバーが血を吐く番だ。しかしカズマは止まらずに頭突きをかまし、更にタックルを仕掛けて一緒に倒れこんだ。
肘と膝を揺らしながらも、なんとかカズマはセイバーの上に馬乗りになろうとして……
股間を蹴り上げられ、耐え切れずに悶絶する。
その隙にセイバーは相手を振り払い、這いながら距離を取った。
兜がないセイバーには、目潰しとして十分すぎる……もっとも、鎧もほとんどが砕けているが。
セイバーがふらついている隙に起き上がったカズマは、そのまま肘を相手の胸へと叩きつけた。
今度はセイバーが血を吐く番だ。しかしカズマは止まらずに頭突きをかまし、更にタックルを仕掛けて一緒に倒れこんだ。
肘と膝を揺らしながらも、なんとかカズマはセイバーの上に馬乗りになろうとして……
股間を蹴り上げられ、耐え切れずに悶絶する。
その隙にセイバーは相手を振り払い、這いながら距離を取った。
「あ……く、ああああああ!」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」
もう、完全にどちらも土まみれだ。
着衣はボロボロ、体は傷だらけ、立ち上がるのにさえ時間が必要。
ボクシングだったらとっくの昔にタオルが投入されている。
それでも、二人は何とか立とうとする。勝つために。
着衣はボロボロ、体は傷だらけ、立ち上がるのにさえ時間が必要。
ボクシングだったらとっくの昔にタオルが投入されている。
それでも、二人は何とか立とうとする。勝つために。
「気に、いら、ねえんだよ……」
そのさなか。
突然、カズマが声を上げた。
疲れと負傷で、普段の声よりそれは遥かに小さく。
本人の意識もかなり白濁していたけれど。
突然、カズマが声を上げた。
疲れと負傷で、普段の声よりそれは遥かに小さく。
本人の意識もかなり白濁していたけれど。
「てめえの、その、後ろ向きな、姿勢が、気にいらねえ!」
口の中に溜まった血を吐きながら、カズマは言葉を吐き出した。
自分の中に溜まった敵意をも、吐き出すように。
それに帰ってきたのは、セイバーの敵意を籠めた視線。
敵意と敵意は、空気を漂いながら夕日に照らされつつ相殺しあう。
自分の中に溜まった敵意をも、吐き出すように。
それに帰ってきたのは、セイバーの敵意を籠めた視線。
敵意と敵意は、空気を漂いながら夕日に照らされつつ相殺しあう。
「やり直しなんて、望むかよ!
ましてや、あんなヤローに、与えられるモン、なら、尚更だッ!
悔しくても、すげえむかつく過去でも!
むかつくヤローに与えられる、やり直しなんか、望むか!」
「だから、相容れないと、いったんです。
自分のやったことに、責任くらい持たないで、何が王か!」
「それで、てめえはどうする!
後ろの、責任、取るために、立ち止まっている間に、また、責任増えてんだろうが!」
「私は、本来なら、とうに、終わった人間です。
いつもいる、のは、聖杯が、ある場所。
死んでは、目的を果たせなくなっては。違う、時代、違う、場所に、蘇る。呼び出される。
先に進むことなど、許されては、いないし、できもしない!」
「できる、できないが、問題じゃ、ねえ!
やるんだよ!!!」
「人間と、英霊の、違いも、知らないで……!」
ましてや、あんなヤローに、与えられるモン、なら、尚更だッ!
悔しくても、すげえむかつく過去でも!
むかつくヤローに与えられる、やり直しなんか、望むか!」
「だから、相容れないと、いったんです。
自分のやったことに、責任くらい持たないで、何が王か!」
「それで、てめえはどうする!
後ろの、責任、取るために、立ち止まっている間に、また、責任増えてんだろうが!」
「私は、本来なら、とうに、終わった人間です。
いつもいる、のは、聖杯が、ある場所。
死んでは、目的を果たせなくなっては。違う、時代、違う、場所に、蘇る。呼び出される。
先に進むことなど、許されては、いないし、できもしない!」
「できる、できないが、問題じゃ、ねえ!
やるんだよ!!!」
「人間と、英霊の、違いも、知らないで……!」
そう吐き捨てて、セイバーは平手でカズマを殴りつけた。
小気味いい音がして、カズマの顔の向きが強引に横を向かされる。
ふらつきながらもカズマは歯を食いしばり、セイバーの顔を殴り返した。
後退するセイバーを追おうとして……カズマは数秒掛けて、一歩を踏み出す。
そうして繰り出したカズマの次の拳は、セイバーのエルボーブロックに阻まれた。
カズマの拳からめきりと嫌な音がする。たまらずカズマは後退した。
しかしセイバーもブロック越しの衝撃にふらついて、後退する。
なんとか二人が体勢を立て直して、ただ佇むこと数秒。
小気味いい音がして、カズマの顔の向きが強引に横を向かされる。
ふらつきながらもカズマは歯を食いしばり、セイバーの顔を殴り返した。
後退するセイバーを追おうとして……カズマは数秒掛けて、一歩を踏み出す。
そうして繰り出したカズマの次の拳は、セイバーのエルボーブロックに阻まれた。
カズマの拳からめきりと嫌な音がする。たまらずカズマは後退した。
しかしセイバーもブロック越しの衝撃にふらついて、後退する。
なんとか二人が体勢を立て直して、ただ佇むこと数秒。
両者の間に、ふわりと風が吹いた。
それが合図かのように、カズマは拳を掲げる。
風で舞っていた木の葉や砂が消え去り、霧散し……カズマの右手に集う。
かろうじて右手にだけ、シェルブリットが再構成されていく!
そして、セイバーはぼろぼろになっていた鎧の残骸の一部を剥ぎ取った。
まるでナイフのように尖った形をそれを掲げ、セイバーは目を閉じる。
残った魔力を振り絞り……風王結界を覆わせる!
風で舞っていた木の葉や砂が消え去り、霧散し……カズマの右手に集う。
かろうじて右手にだけ、シェルブリットが再構成されていく!
そして、セイバーはぼろぼろになっていた鎧の残骸の一部を剥ぎ取った。
まるでナイフのように尖った形をそれを掲げ、セイバーは目を閉じる。
残った魔力を振り絞り……風王結界を覆わせる!
「てめ、えの……」
「私、の――」
「私、の――」
そうして、二人は目を見開いた。
最後の力を振り絞って、腕を振り上げて走り出す。
普段のそれよりはずっと遅いけれど……これが、今の二人の全力疾走だ。
最後の力を振り絞って、腕を振り上げて走り出す。
普段のそれよりはずっと遅いけれど……これが、今の二人の全力疾走だ。
「負けだあああああああああああああああああああ!」
「――勝ちだァァァァァァァァァァッ!!!」
「――勝ちだァァァァァァァァァァッ!!!」
そのまま、振り下ろされたそれは。
綺麗に。
互いの心臓を、直撃した。
綺麗に。
互いの心臓を、直撃した。
音はない。ただ、風が舞う。
時が止まったかのように、二人は動かない。
時が止まったかのように、二人は動かない。
そうして、しばらくしてやっと、動き出す。
男と女と言う区別もなく。
反逆者と騎士王と言う区別もなく。
それぞれの誇りの、区別さえなく。
男と女と言う区別もなく。
反逆者と騎士王と言う区別もなく。
それぞれの誇りの、区別さえなく。
ただ、二人は――何も言わず、何もせずに倒れ伏す。
その表情は、まるで。夢を、見ているようで――
その表情は、まるで。夢を、見ているようで――
二人は、動かない。
風が撫でても、動かない。
瓦礫が転がって音を立てていっても。
夕日に照らされ、赤いまま。ただ、寝転んだままで。
風が撫でても、動かない。
瓦礫が転がって音を立てていっても。
夕日に照らされ、赤いまま。ただ、寝転んだままで。
■
そうして、寝転んだまま、たっぷり一分が立った頃だろうか。
突如……夕日を背に、動く影が現れた。
それは、たった一つだけ。
もがく様に、痙攣するように動きながら、それでもしっかりと起き上がり。
たっぷり数分掛けて、立ち上がった。
夕日の、黒い影で顔を隠したそれは。
突如……夕日を背に、動く影が現れた。
それは、たった一つだけ。
もがく様に、痙攣するように動きながら、それでもしっかりと起き上がり。
たっぷり数分掛けて、立ち上がった。
夕日の、黒い影で顔を隠したそれは。
「……どう、だ」
高々と、天へ。
自分の力を誇示するかのように、拳を掲げた。
木々が、またもざわめく。
風が、髪を吹き上がる。
夕日が、ほんの少しだけ角度を変え、その顔を赤く照らす。
その顔は……。
自分の力を誇示するかのように、拳を掲げた。
木々が、またもざわめく。
風が、髪を吹き上がる。
夕日が、ほんの少しだけ角度を変え、その顔を赤く照らす。
その顔は……。
「テンカウントは、とっくに、すぎてる、ぜ。
セイバー、さんよお」
セイバー、さんよお」
紛れもない、カズマの顔だった。
その顔は、表現しづらい表情だ。
痛みに歪んでいるのか。
勝利の実感に喜んでいるのか。
今までのことを思い返し、寂寥感を味わっているのか。
自分の強さを、感嘆しているのか。
傷だらけ、痣だらけの顔では、判別しようがない。
ただ夕日と鮮血で赤く染まり、何らかの表情を取っているということが分かるだけ。
その顔は、表現しづらい表情だ。
痛みに歪んでいるのか。
勝利の実感に喜んでいるのか。
今までのことを思い返し、寂寥感を味わっているのか。
自分の強さを、感嘆しているのか。
傷だらけ、痣だらけの顔では、判別しようがない。
ただ夕日と鮮血で赤く染まり、何らかの表情を取っているということが分かるだけ。
それでも、一つだけ言えることがある。
彼は、死にさえ反逆したのだ。
彼は、死にさえ反逆したのだ。
「俺の……勝ちって、ワケ……だ」
そうして、自分の勝利を、しっかりと見届けて。
カズマは。その場に、倒れこんだ。
真実、力尽きて。自分の因縁に、ケリを付けて。
カズマは。その場に、倒れこんだ。
真実、力尽きて。自分の因縁に、ケリを付けて。
「眠ぃ、な。
……ゆめ、でも。見るか……」
……ゆめ、でも。見るか……」
■
あれから何度、転生を繰り返しただろうか。
何度、様々な場所に聖杯を得るために呼び出されたのだろうか。
数回、数十回、数百回。
数え切れないほどの数、表現できない長い探求の旅。
その間に悲劇の具体的な記憶は薄れて磨耗して、罪の意識だけが肥大化した。まるで、悪夢のように。
そうして、ただ必死に聖杯だけを望むようになって。
その最後に――彼女は呼び出された。
何度、様々な場所に聖杯を得るために呼び出されたのだろうか。
数回、数十回、数百回。
数え切れないほどの数、表現できない長い探求の旅。
その間に悲劇の具体的な記憶は薄れて磨耗して、罪の意識だけが肥大化した。まるで、悪夢のように。
そうして、ただ必死に聖杯だけを望むようになって。
その最後に――彼女は呼び出された。
「……問おう」
右手には風に包まれた聖剣。仮とはいえど英霊として登録されている以上、召還される彼女の姿はいつも一定だ。
……けれど、精神は違う。
自分でやり直したいという気持ちは、自分はふさわしくないという考えになって。
そして、心の隅に、どこかで聞いた言葉を無意識のうちに『刻んで』。
素顔を見せて、目を見開いて。少女は赤毛の少年の前に凛と立つ。
……けれど、精神は違う。
自分でやり直したいという気持ちは、自分はふさわしくないという考えになって。
そして、心の隅に、どこかで聞いた言葉を無意識のうちに『刻んで』。
素顔を見せて、目を見開いて。少女は赤毛の少年の前に凛と立つ。
「貴方が、私のマスターか」
――そうして。あるべき物語が、やっと始まる。
【To be continued 『Fate/stay night』】
■
夢を。
夢を見ていたんです。
夢を見ていたんです。
とても烈しく、荒々しく、雄雄しい夢を。
ああ――私達は見続けていたんです。
ああ――私達は見続けていたんです。
――ひたすらに!
【カズマ@スクライド 死亡】
■