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巌流無名 -佐々木小次郎- - (2007/03/12 (月) 19:09:28) のソース
*巌流無名 -佐々木小次郎- ◆2kGkudiwr6 風の龍と竜殺しの大剣の衝突が終わり―― その場は空恐ろしいほどに静まり返っていた。 虫の鳴き声も、葉が風にそよぐ音も無い。ただ、月光がその場を照らすだけ。 地面には、しっかりと両足で大地を踏みしめるアサシンの姿。 そして、その目前に……すとり、とセイバーは降り立った。 アサシンからの追撃は無い。ただ恋焦がれた相手かのように、セイバーを見つめるだけだ。 静かに――この場の空気を惜しむかのように。 「――――見事」 その声は、果たしてどちらのものだったか。 それが響くと共に、アサシンは膝を折り、地面へ倒れこんだ。 そのままごろりと転がり、仰向けになる。死に際までしっかりと、美しいものを視界に納めるために。 本来なら体を粉砕されても不自然ではない暴風を受け……それでもなおアサシンにはほとんど傷が無い。 ただ申し訳程度に――しかししっかりと、左肩から心臓にかけて傷が刻まれていた。 そして……不幸にも。それは、致命傷であったのだ。 「……私の負けですね」 セイバーが呟く。 暴風という龍は両断されていた……いや、殺されていた。竜殺しという大剣によって。 小次郎の周囲の大地が無残に、そして綺麗に両断されているのがそれを示している。 四散した龍の殆どが行き場を無くし、暴れ狂った結果だ。 ……惜しむらくは、その秘剣が完全でなかったことだろう。 たった一つ、三の太刀のみがコンマ数秒遅れ……斬り損ねた龍が小次郎の肩口を、心臓を穿っていったのだ。 完全なものならば龍は完全に断たれ――アサシンを傷つけることは叶わなかっただろう。 「ふ……得物が悪かった、隻腕だったなどという言い訳などせぬよ。 この剣は『竜殺し』なのだからな。ならば、龍を殺し損ねたのは私の咎であろう。 それに、佐々木小次郎は物干し竿よりも長い櫂によって倒されたと伝えられる。 ――ならば、この結果も道理。相手は風によって生み出された長大な『剣』なのだからな」 それでもなお、彼は笑っていた。 くっくっと、運命の皮肉をも愉しむかのように。 そんな彼を見ながら、セイバーもまた口を開く。彼に釣られたかのように、笑顔で。 「まったく、大した剣士ですね『佐々木小次郎』」 「…………それは」 「名が偽りだろうと関係はありません。 少なくともその剣技は本物だ。私より強いのだから。 もしそれでもなお贋物などというのであれば、我が国の剣士は贋物揃いということになる」 「ふっ、可憐な花に言われては否定する気も起きん」 「……本当、大したものだ」 今際の際に及んで減らず口を叩くアサシン――いや、佐々木小次郎に、セイバーは呆れるような声を上げた。 しかし、その表情は笑顔だ。好敵手を称える、剣士としての。 そのままセイバーは軽々と片手で竜殺しを拾い上げ……どさり、とその場に座り込んだ。 ちょうど、小次郎が倒れている側だ。 「…………?」 小次郎の表情が怪訝なものに変わる。 互いの剣は常に急所を狙っていた。その全てが防がれ、避けられている。 苛烈な死闘にも関わらず、相手に傷を負わせたのはセイバーの最後の一撃のみ。 彼女自身は傷を負っていない以上、ここに留まる意味は無いはずだ。 そう怪訝に思い、小次郎は声を上げた。 「……行かぬのか? 傷は負ってはいまい」 「せっかく回復した魔力をまた使ってしまいました。貴方のせいです」 だからしばらく休みます、と告げてセイバーは小次郎の脇に座り込んだ。 「……ふむ」 沈黙がその場を支配する。 セイバーは食料を取り出してもっきゅもっきゅと食べながら月を眺めている。それだけ。 小次郎はそんなセイバーを愉しげに眺めながら、時折月へと目を移す。それのみ。 二人は口を開かない。喋ることなどない。当然だ。 ただでさえ剣を使って会話をしていたのだから、語ることなどほとんど残っていない。 ……それを、小次郎は嫌った。 (せっかく花が目の前にあるというのに、愛でぬなど趣が無い) 負けたことに心残りなど無い。逝く事に後悔もない。 正真正銘の死闘を心ゆくまで愉しんだ。それで十分すぎる。 だが、彼女のような美少女を前にして放って置くのは彼の流儀に反する。 それに何より、恐らくこれが最後の召還になるだろう。亡霊を呼び出すような奇特な輩など、そうそういるはずも無い。 現世にいられるのはこれが最後。彼に残された時間は最早少ない。 だから、小次郎は。 「一つだけ、聞こう」 上げられた声にセイバーが振り返る。 小次郎の喉に血が溢れてくる。それを強引に飲み干して、言葉を続けた。 「……私は。侍であったか」 彼は、生前からの――たった一つの疑問を上げた。 叶わなかった仕官。既に太平の世では無用のものとなっていた剣技。 そんな中で編み出した秘剣は、戦国の世において他の兵と斬り合えるほどのものであったか、と。 小次郎の言葉に、セイバーは目を瞑った。 考え込むように――あるいは、惜しむように。 月光に照らされ彼女の顔が輝くその様子は、まるで御伽噺のよう。 「私は侍を知らない。だから、騎士を元に判断させてもらおう」 ゆっくりと、セイバーは言葉を紡いでいく。 再び開かれた目には、星空の瞬きが輝いていて。 「――ただ一重に剣のみを求めて生きたその剣撃、我が騎士たちの誰よりも澄んでいた」 そう、見た目相応の少女らしい声で。アーサー王は、無名の剣士を認めたのだ。 その言葉に、返事はない。小次郎は満足げな笑みを浮かべて、視線を月へと移しただけ。 ――月は変わらない。小次郎が生きた日本にも、セイバーが生きたブリテンにも、ここでも。 静かだった。ただひたすらに。まるでどこにでも普通にある草原のように。 あるのは星空の瞬きと、風の音、草木がそよぐ響きだけ。 放って置いても様々な場所でよく見られるであろう光景。それが、小次郎にとって愛おしい。 突然その夜空に、仮面の男が映り始める。月の輝きや星の瞬きを無視するかのように。 佐々木小次郎ならば趣が無いと唾棄していたであろう。だが彼は幸運であった。 なぜなら――目障りなものが映り出すその寸前に、彼の意識は閉じていたのだから。 ■ ただ、剣のみを求め、剣に生き。 燕を斬り、英雄を斬らんとして世界の理をも斬った男。 無名の剣士――ここに眠る。 【C-2北岸/一日目/真夜中(放送開始)】 【セイバー@Fate/ Stay night】 [状態]:腹2分、かなり疲労、全身に中程度の裂傷と火傷、両肩に小程度の傷、魔力消費大 [装備]:ドラゴンころし アヴァロン [道具]:支給品一式(食糧は二人分)、スコップ、なぐられうさぎ(黒焦げで、かつ眉間を割られています) コンバットナイフ、鉈 [思考・状況] 1:また傷と魔力の回復を待つ。 2:エクスカリバーも探してみる。 3:優勝し、王の選定をやり直させてもらう。 4:エヴェンクルガのトウカに預けた勝負を果たす。 5:迷いは断ち切った。この先は例え誰と遭遇しようとも殺す覚悟。 ※アヴァロンが展開できないことに気付いています。 ※防具に兜が追加されています。ビジュアルは桜ルートの黒セイバー参照。 &color(red){【佐々木小次郎@Fate/stay night 死亡】} &color(red){[残り34人]} *時系列順で読む Back:[[月下流麗 -月光蝶- ]] Next:[[SOS団新生]] *投下順で読む Back:[[月下流麗 -月光蝶- ]] Next:[[SOS団新生]] |230:[[月下流麗 -月光蝶- ]]|セイバー|| |230:[[月下流麗 -月光蝶- ]]|&color(red){佐々木小次郎}||