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消えずに残るモノ、蘇ったモノ -Eternal Blaze- - (2007/07/01 (日) 04:29:24) のソース
*消えずに残るモノ、蘇ったモノ -Eternal Blaze- ◆2kGkudiwr6氏 「各員散らばるギガ! もう相手の投げてくる瓦礫はないギガ!」 天から降ってくる瓦礫。しかしツチダマ達は臆することなく回避運動を取った。 彼らは慣れたのだ。慣れとは学習だ。そして、ツチダマ達も学習することができる。 もちろん、授業料は大きかった。今やツチダマの数は五十を割っている。 しかし、今生き残っているツチダマは、凛やフェイトの魔法を、闇の書の闇の暴走を、 神人からの天罰を受けて生き残った、いわば精鋭たちだ。 瓦礫を降らされても、犠牲になるのは2,3体だけ。残りは投擲の隙に射撃を撃ち込む余裕さえ見せている。 神人には、回避する手段も防御する手段も無い。 『疲労が色濃くなっているようですが……』 「大丈夫! まだやれるわよ!」 それでも、額に汗を浮かばせるほど疲労しても、ハルヒはそう断言した。 神人のダメージは、ハルヒへフィードバックされることはない。 だが受けた損傷を修復しようとすれば、自然力を使うことになりハルヒ自身が消耗する。 グラーフアイゼンによる防御魔法はローザミスティカの魔力を使っているが、それもいつまで持つか。 だが、彼女は諦めない。 (今は残り四十体くらい……二十体位に減らせればなんとかなる!) そう判断して、ハルヒは神人を前進させた。 向かう先はツチダマの群れ。ある程度分散したとは言え、集まっていることには変わりない。 もちろん、それを黙ってみているはずもなく。 「飛び道具はなくなったギガ! 撃てーっ!」 『Panzerhindernis』 「う……」 火線が奔る。それは文字通り、一斉射撃だ。 今までの雑なものとは違い、対象が二つに絞られている。 一つは神人、もう一つはハルヒ本人。 実戦慣れしていないハルヒなら、その光だけでも顔を背けて当然だ。 ましてや衝撃さえ殺しきれていないとなれば、転倒しても文句は来ないだろう。 それでも……ハルヒは腕で顔を隠しながらも、障壁を見つめたまま退かない。神人も同じだ。 「マシンガンなど、小口径のものはあの小娘本人を! ジャンボガンや無敵砲台などは神人を中心に狙っていくギガ! 決して接近を許すんじゃあないギガ!」 様々な弾丸がそれこそ戦争並みの勢いで撃ちこまれて行く。 さすがにたまらずにハルヒは後ずさり、神人もまたよろめいたように、膝をついた。 「やったギガ! 畳みかけ――」 そうして神人は、地面から引き抜いた電灯を投擲した。 流石に瓦礫で慣れたのか、ツチダマの回避運動が早い。 それでも攻勢に出ようとした所を叩かれた以上、手痛い一撃となるのは当然。 電灯は三体のツチダマに直撃し、更にスパークを起こして周囲のツチダマを巻き込んでいく。 その間に、神人は体勢を立て直していた。 「あと……三十四!」 ■ 「そう……ですか。レイジングハートが、私のために……」 フェイトが目覚めるまでに、そう時間は掛からなかった。 以前士郎を蘇生させた時も、それほど時間は掛かっていない。 始めこそフェイトはふらついていたものの、すぐにまともに動けるようになるまで回復した。 ……そうして、彼女は現在の状況について聞いたのだ。 「その……ごめん。 レイジングハートは、フェイトにとっても大切なものなのに……」 「凛さんが、泣いてくれたんですよね? だったら、それだけでいいです」 「え? 私そんなこと言って……」 「目の下、真っ赤ですよ」 「あ、えっと、これは、その」 「恥ずかしがることじゃないと思いますよ。 それに……なんて言えばいいか、分からないんですけど……」 「?」 少し迷いながらも、フェイトはそのまま話し続けた。 信じてもらえないかもしれませんけど、と前置きして。 「夢を、みたんです。夢じゃなかったのかもしれないんですけど。 なんだか、よく分からないところを歩いていたら、なのはの声が聞こえて」 何も無い、真っ白な空間。母が落ちていったものような、そうでないような……あやふやな空間。 その中でなのはの声を聞いたようなフェイトは、思わず声のした方向に走ろうとして…… 金髪赤目の女性に腕を捕まれて、止められたという。 そして……そこでやっと、フェイトはなのはが何を言っているか分かったのだ。 ――こっちに来ちゃ、ダメだよ。 「一度も見たことない人だったけど、分かったんです。 この人は、レイジングハートだなって……。 私の言ってること、もしかして変ですか?」 「さあ。少なくとも、私は死後の世界を覚えていない」 「私は、信じるわよ。根源はまだ見たことないもの」 そう返しながら、凛は大きな扉を開けた。 その先に広がっていたのは、がらんとして人気のない、寂しげなフロア。 「やっぱりここは、時の庭園……」 「知ってるの?」 「……はい。私達の、家でした」 「……そう」 凛は、それ以上追求しなかった。わざわざ過去形で言うようなことだ。それだけで、複雑な事情があると理解できる。 事実……今のフェイトの心境は複雑だ。 以前吸収された時は、緑に満ち溢れ平和な様子だった。 だが今回は、違う。まるで、以前なのは達が攻め入った時のような、暗い雰囲気に満ちた姿となっている。 「前とは、同じようで違うんですね」 「先に来たのがお前である以上、彼女を基準にして構築されるのは当然だろう。 もっとも私の本体が暴走している以上、前回とはだいぶ趣が変わっているが」 「それより、こっちで間違いないの? ジュエルシードがあるって言うのは?」 「正確に言えば……ジュエルシードがある空間に繋げられる場所、だな。 今、私が私自身を自由にできる場所は少ない。もし凛がいなかったら、こうして会話することもできなかったという状態だ。 それでも、まだ侵食されていない場所はいくつかある。 そこからジュエルシードが存在する部分へと転送呪文を繋げ、ジュエルシードを封印する。 そうして力が弱まった隙に脱出し、ほんの少しでも本体に傷を付ければ、勝手に自壊するのはさっき言った通りだ。だが……」 「侵食されていない場所はプログラム的に言えば、まだシステムが脆弱なところ。当然、警戒もされてる。 私達を実力で排除するべく、なんらかの妨害が来て当然……そういうことですね?」 「ああ。更に、あのジュエルシードと暴走プログラムの出力を考えれば…… 同時に二つ、強力な砲撃を撃ち込まなければ不可能だろう」 そう答えながらドアを開けて、リインフォースは立ち止まった。 その視線の先にあるのは、装飾性の欠片もないエレベーター。フェイトもしっかりと覚えている。 「ここで分かれよう。 私と凛は現実世界において駆動炉の役割を果たしていたロストロギアがあった場所へ。 そしてお前はプレシア・テスタロッサがいた場所へ。 その二つがまだ侵食が及んでいない場所だ。二方面から攻め入り、敵の防衛網を分散する。 それに同じ場所から二つ繋げたところで、一緒に潰されて失敗するだけだ。二方面から行ったほうがいい。 フェイト、これを」 リインフォースがフェイトに差し出したのは、クラールヴィント。 少し改造を施すために、リインフォースがあらかじめ受け取っていたものだ。 「魔力を流せばそれだけジュエルシードがある空間へ『旅の鏡』を行使できるように設定しておいた。 言った通りの地点で起動させればすぐに行使できるし、私達に念話を送ることもできる」 「受け取るのは私なんですか? 凛さんのデバイスがなくなってしまうんですけど……」 「悪いが私は、あまり凛から離れることはできない。 作戦が二方面から攻めるものである以上、クラールヴィントは渡すしかない」 「安心なさいって。しっかりレイジングハートの魔法が残ってるんだから」 そう返事をして、凛はエレベータのスイッチを押した。 静寂に満ちていた空間の中に、重苦しい音が響く。 ただでさえ暗い庭園の内部。圧迫されるような闇の中に、響くのはその音だけ。 そうして、エレベーターは到着した。やはり、重苦しい金属音と共に扉が開く。 それを遮るかのように、フェイトは言葉を出していた。 「絶対に、無事に帰ってきてください。それをレイジングハートは願ったはずです」 足を踏み出そうとした、凛の動きが止まる。 そうして彼女が振り返って……返ってきたのは、まぎれもない、笑顔。 「フェイトもね。バルディッシュは、そう願っているでしょう?」 ■ 神人が拳を地に叩きつける。それだけで、数体のツチダマがまた吹き飛んだ。 しかし、それで神人が有利だと判断する者はいないだろう。神人は、地面に膝をついているのだから。 生き残ったツチダマ達は相手の足が止まったのを好機とばかりに火線を集中する。 神人が腕で体を抱え込むと同時に、ハルヒは素早く後ろへ向いて走り出した。 同時に、神人はまるでゼリーのように崩れ落ちていく。 湧き上がったのはツチダマだ。全員がもう勝ったかのように喝采を上げ、一部は文字通り舞い上がる始末だ。 警戒心の欠片もない。 「どうするギガ? 追うギガか?」 「決まってるギガ! さんざん手こずらせてくれたあの小娘に思い知らせてやるギガ!」 「病院や闇の書は放置するギガか?」 「あと十五体しかいないギガ、部隊の分散は得策ではないギガ」 その言葉に反論はない。 確かに彼らは精鋭である。ここで生き残った実績がある。 しかし、それが慢心や油断を生んだ。 神人を失ったハルヒごとき、すぐに殺せると思い込んだ。 (よし、全員ついてきてくれた……!) ――ハルヒが自分から神人を消したとは、気付かずに。 ハルヒの考えていたことは、根底においてはグラーフアイゼンと同じだ。 彼女自身、どうせ戦うなら森林で戦った方がいいと理解していた。 だが、ハルヒにとって第一目標は「病院まで一体も行かせないこと」。 故に、上手くコントロールして誘き出せる数まで相手を減らす必要があったのだ。 事実、こうして相手は調子に乗り、部隊を分けることもせず全員で森林へと追撃してきている。 ……だが。 (なんか……具合、悪くなってきたかな……) 木の影で、ハルヒは思わず足を止めていた。そうして、息を一旦吐いて休んでまた走りだろうとして…… 興奮状態から冷めた脳は、余計に自分の状態を主張し始めた。 襲ってきたのは頭痛に吐き気に目まい。基本的な体調不良のフルコースだ。 (これじゃ、一瞬で神人を呼び出して攻撃を仕掛けることは無理かも。 誘い込んだ後、なんとかして呼び出す時間を稼がないと……) 『後方より敵の追撃を確認』 「……もう少しくらい、休ませてほしいわよ。全く……」 そうやって愚痴るハルヒの表情は、いつもよりどこかやつれている。 一応普通の女子高生として暮らしてきた彼女にとって、今の状況は流石に過酷に過ぎた。精神的にも、肉体的にも。 それでも首を振って、彼女は再び足を踏み出した。 ■ ふわりと、黒いマントをなびかせて。 フェイトはずっと忘れない、忘れられない場所に着地した。 「私の記憶のまま、か……」 目の前に広がるのは、研究場所とも人が住む場所とも思えない場所。 ただ岩石と虚数空間に彩られた、アルハザードという幻想を遺す廃墟。 ……フェイトが、母親と永遠に別れた場所。 違うところは、今のここにはプレシアもアリシアもいないこと。 代わりにいたのは…… 「……予想は付いていました。もし敵が現れるとすれば、それは母さんかあなたのどちらかの形を取るって。 もし暴走プログラムがここは記憶の世界だってことを重視するなら母さん。 そして、あくまで闇の書本来の機構を重視するならあなた。正解は、後者だった」 中心部から射抜くような視線を返してきた相手に、フェイトは穏やかに話しかけた。まるで知り合いに話しかけるように。 いや、それは比喩ではない。話している相手は、本当の知り合いだ。 「――そういうことですね、シグナム?」 佇んでいた烈火の将からの返答はない。 今の彼女は、暴走した闇の書と同じ。意志を介在させず、ただ敵を討つだけの存在だ。 それでも、フェイトは言葉を続けていく。 「私にとっては、幸運でした。 母さんを相手にするより、ずっといい。それに……いつか貴女とは決着を付けたいと思っていた」 『Haken form』 フェイトの言葉にバルディッシュが反応し、鎌の形を取る。 そのまま、フェイトはバルディッシュを正眼に構えた。そこに、迷いはない。 「これが私達の最後の勝負です――シグナム!」 ■ 駆動炉がある部屋の前は、恐らく静かだった。 当然と言えば当然だ。駆動炉は所詮、記憶を再現するための舞台装置であり、実際にエネルギーを生み出してはいない。 薄暗い通路の中、リインフォースは静かに扉を手で触れた。 扉を開けようとするためではなく、扉の向こうを探るために。 「やはり――この先で待ち構えているのは、紅の鉄騎」 「ヴォルケンリッターの一人、ヴィータちゃんだっけ…… 一人だけなのね。もっとケチケチせずに色々と戦力出してくるかと思ったけど」 「回収されたのは紅の鉄騎と烈火の将のリンカーコアだけである以上、 他の守護騎士を生み出すことは不可能だ。 それに、守護騎士が二人いたら今の私達では勝ち目はない」 「まあそうだけど……って、リインも戦うの?」 「支援くらいならできるだろう。 私が自由にできる機能は少なく、使える魔法も魔力も、それほど多くはないが。 管理局式の表現で言えば、総合でA+程度か」 「私にそんな表現で言われても……ヴィータちゃんはどれくらい?」 「AAA+だ」 「…………」 微妙に凛の顔が引きつったのは、気のせいではないだろう。 「じゃあ……デバイスとして、貴女を使うっていうのは?」 「無理だ。融合に関する機能は完全に侵食を受けてしまっている」 「……さすがに参るわね」 むき出しにした左腕、青く輝く魔術刻印を見つめながら凛は溜め息を吐いた。 魔術刻印は魔術の記録と言う点ではデバイスをも上回るが、魔力の増幅や誘導などの点でデバイスよりも遥かに劣る。 例えディバインバスターを使ったとしても、レイジングハートを使って撃つそれより威力は大幅に減衰されるだろう。 なのはの魔法はあくまで、レイジングハートを前提としたものなのだ。 レイジングハートだって、素手で魔法を撃たせるために蒐集させたのではない。 そんな状況下でスターライトブレイカーを撃ったとしても、相手に通用するかどうか。 カートリッジを宝石魔術の要領で消費すれば別だろうが…… ジュエルシードの封印のことを考えれば、できるだけ多くのカートリッジを残しておきたいところだ。 「まあ、ぐだぐだ言っている場合じゃないか。それよりリイン、大丈夫なの?」 「何がだ?」 「リインにとって、あの子達は娘というか……ともかく、家族みたいなものなんでしょう? そんな相手を攻撃するのは……」 「大丈夫だ。最低限の分別程度ちゃんとつけている。 お前こそ、下らないミスをして死ぬな。レイジングハートが浮かばれない」 「言われなくても分かってるわよ。 だって、私が死んだらリインフォースを助ける手段は無くなるんだから」 「……は?」 思わず口を開けたまま動きを止めてしまったリインフォースに、 凛は何を驚いているんだと言わんばかりの調子で続けていく。 「あんたが無事なら、守護騎士の二人を生き返せられるかもしれないんでしょ?」 「……そんなことは、無理だ。許されない。 何より、私が原因でたくさんの人を死なせてしまった。主でさえ死んでしまったのに、私だけがおめおめと……」 「あんたの意見は聞いてないわよ。私が助けるって決めたから助けるの」 「は……!?」 「レイジングハートといい、デバイスは自己犠牲が大好きみたいだけどね―― できるだけ多くの人が助かった方が、気分がいいに決まってるでしょ」 そう返して、ぽかんと突っ立っているリインフォースを尻目に凛は扉を開けた。 ゆっくりと、地響きを上げて巨大な扉が開いていく。 そうして、数秒掛けて開ききった扉の向こう。 動かない駆動炉の上に立っているのは、一人の少女――。 赤い騎士甲冑を身に纏い、蒼い瞳で凛たちを睨みつけている。そこに、感情は無い。 その手にあるのは、新たに生み出された鉄の伯爵。それはまるでただの機械かのように、何の助言も行いはしない。 「さ、やるわよ、リインフォース」 「……無茶苦茶だな、お前は」 思わず、そんなことを呟いていたリインフォースの顔は。 どこか嬉しそうに、笑っていた。 ■ 戦斧と魔剣が交差する。 金色の刃と紫色の焔がぶつかり合い……焔は雷を弾き飛ばした。 足から砂煙を巻き上げ体ごとずらされながらも、フェイトは倒れずになんとか踏みとどまり、素早く反撃に移る。 (パワーじゃ勝てない……前から分かってたこと!) 『Device Form, Plasma Lancer』 吹き飛ばされながらも放った弾は、烈火の将に直撃した。 轟音と共に、派手な黒煙が上がる。だが、フェイトに安心する暇は無い。 轟音に紛れるような小さな金属音……炎の魔剣がカートリッジを排出する音を、フェイトの耳は微かに捉えていた。 『Schlangebeisenangriff』 『Round Shield』 煙の中から飛び出たのは、鞭と化した炎の魔剣により行われる蛇の噛み付きだ。 一撃目を防御魔法で弾き返したものの、それを予期していたかのように炎の蛇は直接攻撃から標的の包囲へと移行する。 周囲を取り囲む蛇の動きに目をやりながらも、フェイトの頭にはふと疑問がよぎっていた。 (これでシグナムがカートリッジをロードしたのは五発目。 予備のカートリッジを持ってきたようには見えないし、リロードした様子も無い……) 一瞬そう考えて……意識を戻した瞬間。 目の前に……いや、360°から炎の魔剣が踊りかかった。その様子は、まさしく獲物を巻き取ろうとする大蛇。 しかし、フェイトに焦った様子は無い。それどころか、不敵な笑みを浮かべている。 「――それが通用しないってことは、以前証明したはずです」 シュランゲバイセン・アングリフが地面に直撃した瞬間には、フェイトの姿は消え。 得意の高速機動魔法で、烈火の将のちょうど真上を取っていた。 「バルディッシュ! 練習中のあの魔法、いける!?」 『Yes, sir』 答えると共に、バルディッシュはカートリッジを四発ロード。 素早くフェイトは左手をかざし、叫んだ。 「トライデント――スマッシャーッ!!!」 放たれた砲撃は二つ。左手から枝分かれした金色の砲撃は、烈火の将へ向かって突き進む。 それは烈火の将の展開した防御魔法を軽々と突破し、確かに直撃した。 それでも勢いは止まらず、地面を割り以前プレシアが落ちていった空間へと烈火の将自身を叩き込む。 しかし――本来なら魔法を行使できないはずのその空間の中、烈火の将は紛れもない飛行魔法で体勢を立て直していた。 「流石に、虚数空間までは再現されてないか……!」 それでも、フェイトに気落ちした様子は無い。 少なくとも、彼女ができる砲撃魔法の中ではトップレベルの砲撃が直撃したのは事実。 相当なダメージを与えられて当然だし、事実、地面の上に戻ってきた烈火の将は左腕をなくしている。 これでこちらが有利――そう思ったフェイトの思考は、一瞬にして否定された。 「な――!?」 烈火の将が、左肩を不自然に天へと掲げ、目を閉じる。 行動に対する疑問への回答の早さは、フェイトが首を傾げるより先に表情を凍らせたほど。 微細な魔力がそこに集い出し――それは一瞬にして、腕の形を成した。 そのまま、烈火の将は感覚を確かめるかのように左腕を見つめ、握り締めては開く。 その機械的な表情は、彼女も知らない人間でさえも周囲に寒気を覚えさせるだろう。知っている人間なら尚更だ。 だが、一番驚くべきフェイトはといえば――理解したかのように表情を戻していた。 「――考えれば、単純。 今の『烈火の将』は、暴走プログラムやジュエルシードと繋がってる。 だから使える魔力に限りなんてないし、傷ついてもすぐに修復する。 つまり、回復する前に一気に倒さなきゃ、駄目ってこと……」 それが意味する所はただ一つ。今の彼女は、今までとは比較にならないほど、強い。 それでもフェイトは、怯えもしないし弱気にもならない。 その表情は静かに。そして、呟く言葉は、どこまでも強気に。 「今までの戦いで十分分かった。 貴女は私の魔法を姿勢や詠唱から予期できていないし、通じない魔法を連発してる。 私と模擬戦を繰り返したシグナムなら、そんなミスはしない。貴女はシグナムの姿をしているだけなんだ。 そんな偽者なんかに――私は負けないッ!!!」 フェイトは烈火の将へと愛用の魔杖を突きつけて、そう宣言した。 ■ 「ディバインバスターッ!」 「刃以て、血に染めよ――穿て、ブラッディダガー!」 赤色に染まった砲撃と、血に染まった刃が奔る。 それは綺麗に紅の鉄騎に直撃する――だが、周辺を覆うはずの爆煙は、亀裂一つない赤い防御壁に吹き飛ばされた。 デバイスも十年宝石もない凛と、軽く3ランクは弱体化したリインフォース。 その二人が放てる魔力量など知れたものだ。 「まともに当てても腕を吹き飛ばすのが限界……これでは……」 「そこ、弱音吐かない!」 リインフォースの言葉を凛はわざわざ向き直って叱咤したが、すぐに顔を戻した。 前からは、鉄の伯爵をラケーテンフォームに変えた紅の鉄騎が突進してきている。 デバイスから魔力を噴射するその攻撃はラケーテンハンマー。かつてなのはを破った強力な打撃攻撃。 素早く凛はカートリッジを取り出し、宝石魔術の要領で魔力を放出した。 「プロテクション・パワード!」 凛の左手から、赤色の魔力防壁が展開される。 しかし、以前ラケーテンハンマーを防いだそれと比べ、この防御はあまりにも脆弱にすぎた。 それを示すかのように、数秒後には障壁に亀裂が走り――更に押し込まれた鉄の伯爵が障壁を粉砕する。 直撃はなんとか避けたもののそのまま凛は吹っ飛ばされ、 地面を五回転したところでリインフォースにようやく止められた。 「い、いったぁ……!」 「このままではやはり不利か……」 先ほど叱咤されたばかりだが、リインフォースはそう言わずにはいられない。 カートリッジの魔力を宝石魔術の要領で吸い取って活用しているが、 後にジュエルシードに砲撃を撃ち込むことを考えればできるだけカートリッジは残しておかなければならないのも事実だ。 そんな状況で無限に修復される紅の鉄騎を倒すなど、不可能に近い。 もっとも、凛自身分かっている。自分達の致命的な弱さくらいは。 「要するに、なんか火力を増やせる方法があればいいのよね」 「何か手があるのか?」 「これ」 そう言って、凛は赤い聖骸布を脱いでリインフォースに手渡した。 同時に衣服が剥ぎ取れられたことを補うべく、 バリアジャケットが水銀燈のそれに近い、ただし赤く染まったドレスへと形を変える。 「私はアーチャーの実力はよく見てないんだけど…… 蒐集すれば、あいつの宝具を出せるようになるかもしれない。 サーヴァントは魔力で構成される存在よ。それなら同じく魔力で構成されているその服に、記録が残っているかもしれない。 何より、ここはあんたの中。制限も何も関係ない。かもしれないばっかりだけど、それに賭ける」 「……この服から蒐集をしろ、ということか。 だが、レイジングハートから蒐集できたのは、私が高町なのはの魔法を記録していたからだ。 確かにこれは魔力で構成された衣服らしいが、例え蒐集できたところで不完全なものになる。 一定回数使っただけで記録が消えるなど、何らかの影響が出かねん」 「不完全でいいのよ。 それなら、暴走プログラムに活用されないでしょ?」 「……なるほど。 だが、不完全な情報を繋ぎ合わせながら蒐集するのは相当な時間が掛かる。 その間、一人で持ちこたえられるのか?」 その言葉を聞いて、静かに凛は立ち上がった。 そのまま攻撃準備を整えた紅の鉄騎へと体をむけ――顔は、リインフォースへと向き直る。 あの、赤い弓兵のような不敵な笑みを浮かべて。 「時間を稼ぐのはいいけど……倒しちゃっても構わないんでしょ?」 あの弓兵に倣って、そう言った。 もう何度目か分からない。リインフォースは、呆れて。 「……期待している」 「上等!」 笑いながら、そう返す。 それ聞くと同時に、凛は地を蹴って相手へと向かい直進した。 それは、相対する紅の鉄騎も同じ。寧ろ、紅の鉄騎の方が反応は早い。 ハンマーフォルムに戻した鉄の伯爵から、四つの弾丸を撃ち出してから接近を開始する程度には余裕があった。 「……こっちよ!」 強化と軽量、フライヤーフィンを組み合わせながら凛は素早く左へと方向を変え、紅の鉄騎を誘き出した。 同時にガンドを連射してシュワルベフリーゲンを撃ち落としにかかる。 一秒を待たずに数十発が着弾し、二羽の燕は落ち、二羽の燕が回避された。 だがその間に、既に鉄の伯爵を振り上げた紅の鉄騎が凛へと迫っている――! 『Todlichschlag』 「ラウンドシールドッ!」 凛は防御したものの、やはりこの程度の出力では紅の鉄騎の打撃は防ぎきれない。 数十m近くは易々と吹き飛ばされたが、それでもなんとか凛は体勢を崩さずに受けきった。 しかし、吹き飛ばされた凛を紅の鉄騎は追撃するべく飛行していて。 「――近づいたわね」 にやりと、凛は笑った。 同時にその腕がぐるりと回され、持っていた二発分のカートリッジが魔力を放出。それに呼応し、赤色のスフィアが生み出される。 そして足元に展開されるのは、円形のミッドチルダ式魔法陣ではなく三角形のベルカ式魔法陣! 「一撃必倒ぉ! ディバイン――!」 そう――この魔法は、高町なのはとディバインバスターとは違う。 凛が自分の宝石魔術を応用し、なのはのディバインバスターをただ威力だけを重視して組み直した結果、 それに近似した系統、近代ベルカ式として生まれ変わったものであり。 これはありえるかもしれない未来、スバル・ナカジマが生み出す魔法と同じもの――! 「――バスタァーッ!!!」 凛が左腕を突き出すと同時に、スフィアから砲撃が放たれる。 これは射程を大幅に犠牲にした代わりに、威力だけならば相当なものを誇っている。 流石に防御しきれずに、紅の鉄騎も吹き飛ばされた。 しかし――凛の隙を突いて、避けられていた残り二発のシュワルベフリーゲンが背後から迫る! 「しまっ――」 「――投影(トレース)、開始(オン)。 He was the bone of his sword(体は剣で出来ていた)――熾天覆う七つの円環」 だが、それが届くことはない。 現れた四枚の花弁の盾――ロー・アイアスが、燕を食い止めて地に叩きつけた。 その間に、紅の鉄騎は体勢を立て直して攻撃を加えようとするが。 「――投影(トレース)、重装(フラクタル)。 He was the bone of his sword(その骨子は捻れ狂う)――偽・螺旋剣!」 追撃は許されず。 続いて放たれた「矢」――カラドボルグが、紅の鉄騎を容易く吹き飛ばす。 宝具の直撃を受けた紅の鉄騎のダメージは、通常時ならば紛れもなく致命傷。 今の状態でさえ、一時的とは言え行動不能にまで追い込むほどのもの。 故に彼女は回復のため一旦身を隠し……その間に、リインフォースも凛の側に駆け寄った。 「全く――何が倒してもいい、だ。まあ、あんな切り札を隠して土壇場で決めたのは見事だが」 「う、うっさい。それより『蒐集』は成功したみたいね」 「極めて不安定だがな。この持ち主の本来の能力である固有結界は使用できない。 そこから派生した能力である投影――正確には『投影』もどきというべきものを使用できるだけだ」 リインフォースの表現は的確だろう。 アーチャーの投影はただの投影ではなく、等価交換の原則を無視した、反則的な『投影』。 紛れもなく、アーチャーが使用していたそれである。 凛は知らなかったが、アーチャーの能力はあくまで魔術に過ぎないのだ。それなら、リインフォースはしっかりと蒐集できる。 アーチャーの本来の能力、固有結界は継承が可能であるものであることもまた蒐集を成功させる一因となった。 そして……魔力放出量が乏しい今のリインフォースにとって、これほどありがたい魔術はない。 魔力放出量が少なかろうと、宝具が持つ莫大な魔力量で攻撃できるのだから。 「もっとも、不完全な蒐集のツケはある。 投影もやはり予想通り回数制限があるし、できるものも限られているし――」 「――投影。それがアイツの、能力だった。そして、あの呪文は……」 「どうした?」 「別に……」 ふと頭に浮かんだことを、凛は頭から振り払った。 今は、それを考える時ではない。 「それよりさっきの……投影なんでしょ。あんた自身に投影の負担はない?」 「ああ。記録は使えば使うほどに消えていくが、私自身に影響はない」 「なら、投影してほしい宝具が二つあるけど――できる?」 「物による」 「干将・莫耶とルールブレイカー。どっちも宝具としては平均レベルだけど」 「――問題ない。 少なくとも、お前が見たものは確実に投影できるようだ」 「オーケー。じゃ、渡してくれる?」 「ああ。だが、なぜこの二つを?」 双剣を一組、そして短刀を一つ渡しながらそう聞いたリインフォースに、凛はすぐに答えを教えた。 「干将莫耶は揃えて持つことで、使用者の防御力を上げる効果がある。 この特性を利用して防御魔法を使えば、なんとか相手の攻撃も凌ぎきれるはずよ。 そのまま相手の隙を突いてルールブレイカーを刺せば、少なくとも相手の魔力供給は断てる。 無限の魔力さえなくなれば、二人でなんとか削りきれるでしょう。 それに――」 「……それに?」 「うん、やっぱ秘密」 「……さっきから言わないことが多いな」 「さっきのはプライバシーの部分で秘密だけど、今度は貴女を驚かせるために言わない」 「……む」 微妙にむくれたリインフォースを見て、凛は笑った。 無愛想なだけで、結構感情は人並み以上に豊かなんじゃないと、そう思って。 「さあ、こっから反撃に移るわよ――ついてこれるかしら?」 「当たり前だ。お前の方こそ、ついてこい」 【B-4/森林 /2日目・夜】 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:頭痛、吐き気、眩暈、疲労、発熱、頭部に打撲痕、強化魔術による防御力上昇 [装備]:グラーフアイゼン・ハンマーフォルム(カートリッジ-0/0)ローザミスティカ(翠) [道具]:デイバッグと支給品一式 クローンリキッドごくう(使用回数:残り2回)、タヌ機(1回使用可能) インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)、高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード) 着せ替えカメラ(使用回数:残り16回)、どんな病気にも効く薬 トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚 [思考] 基本:元の世界へと帰る 1:なんとかツチダマを倒すチャンスを探す 2:できるだけ早く片付けて、闇の書の様子を見に戻る ※神人の操作以外については出来る限り控える [備考] ※神の如し力について認識しています ※神人の力は、ハルヒ自身の体調とシンクロしてその力が強弱します ※閉鎖空間を作るつもりはもうありません 【???/闇の書内部空間・時の庭園最深部/2日目・夜】 【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】 [状態]:魔力中消費、所々に浅い切り傷、バリアジャケット ※髪型が変わりました。全体的にはショート、右サイドにおさげを垂らしています [装備]:バルディッシュ・アサルト(カートリッジ-1/6)、なのはのリボン [道具]:デイバッグと支給品一式、予備カートリッジ×14発、クラールヴィント、西瓜、エクソダス計画書 [思考]: 基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す 1:シグナムと決着を付ける。 2:一刻も早く内部空間から脱出する。 3:事が終わったら、タチコマ(AI)ともう一度話をしてみたい ※クラールヴィントはリインフォースにより改造が施されています。 ※トライデントスマッシャーは未完成のため、StrikerS時点よりカートリッジを多く消費し、威力もStrikerS時点より劣ります。 【烈火の将@魔法少女リリカルなのはA's】 [状態]:魔力無限・高速自動修復 [装備]:炎の魔剣@魔法少女リリカルなのはA's 騎士甲冑 [思考]:侵入者の排除 【???/闇の書内部空間・時の庭園駆動炉/2日目・夜】 【遠坂凛@Fate/stay night】 [状態]:疲労、全身に打撲痕、魔力中消費、バリアジャケット装備(水銀燈赤色ver) [装備]:干将莫耶、ルールブレイカー、予備カートリッジ×12発、 [道具]:デイバッグと支給品(食料残り1食分、水残り1本と6割)、石化した劉鳳の右腕、エクソダス計画書 [思考]: 基本:レイジングハートのマスターとして、脱出を目指す 1:闇の書の内部空間から脱出する。 2:ハルヒが暴走していないか心配 3:脱出寸前、ルールブレイカーをリインフォースに刺して救出を試みる [備考]: ※リリカルなのはの世界の魔法、薔薇乙女とアリスゲーム、ドラえもんの世界の科学――の知識があります ※闇の書の防衛プログラムとその暴走――の知識があります ※ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い――と推測しています ※膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能――と推測しています ※レイジングハートからなのはの魔法を継承しました。 ※リインフォースの姿は、A's12話と同じ姿となっています。 ※リインフォースは彼女を通して具現化しているため、凛が死亡した場合リインフォースも消えます。 ※リインフォースはStrikerSのリインフォースⅡ程度の性能にまで弱体化しています。 ※リインフォースの『投影』には回数制限があります。 【紅の鉄騎@魔法少女リリカルなのはA's】 [状態]:魔力無限・高速自動修復(回復中、あと数秒で完了) [装備]:鉄の伯爵@魔法少女リリカルなのはA's 騎士甲冑 [思考]:侵入者の排除 ※ルールブレイカーを突き刺すことで、魔力無限と高速自動修復は無効化されます。 【レイジングハート@魔法少女リリカルなのはA's 破壊】 *投下順に読む Back:[[きらめく涙は星に -Raising Heart-]]Next:[[Moonlit Hunting Grounds]] *時系列順に読む Back:[[きらめく涙は星に -Raising Heart-]]Next:[[終わりの始まり Border of Life]] |296:[[きらめく涙は星に -Raising Heart-]]|遠坂凛|| |296:[[きらめく涙は星に -Raising Heart-]]|フェイト・T・ハラオウン|| |296:[[きらめく涙は星に -Raising Heart-]]|涼宮ハルヒ||