「ーーーーーまどかはまだ死んではいないようね」
ほっ、と安堵の表情を浮かべるほむら。いつも何か気張ったような堅い表情をしている彼女の表情が若干笑顔に近い表情に変わったのを見て、ランサーはカラカラと笑いながら言う。
「そういう顔もできんじゃねえか」
黙りなさい、とほむらは言う。
ランサーの知り合いはアサシン以外に死んではいなかったが、騎士王
セイバーはともかくとして最強の英雄王が生き残っているのは好ましい状況とはとても言えなかった。
奴は英霊さえ瞬時に殺害するレベルの力を持っている。
ランサーも一度戦ったが、結果的には鎖で拘束されて剣に打たれ死亡した。
見つけたら逃げねえとな、と思っていると、急にほむらの顔色が険しくなった。
「どうしたんだ、ほむら」
「魔女の気配がするわ。それもかなり特大の…」
ワルプルギスの夜並みの魔力を放つ魔女。
この
殺し合いの場で魔女化する可能性があるのは鹿目まどかと美樹さやかしか存在しないが、まどかはまだ契約していない筈。つまり、この魔女は美樹さやかーーー『人魚姫の魔女』オクタヴィアということになる。
ーーーありえない。
さやかが魔女になる時間軸はかなり多く見てきた。
しかしオクタヴィアはほむら単体でも撃破できるクラスの力だったはず。もし因果律の影響を受けていたとしても、ワルプルギスクラスになるには早すぎる。
「どうなっているの……?」
「チィッ!ほむら!その魔女ってのが来るみてえだぜ!かなり魔力が高い!」
やがて現れたのは、体の周りに見慣れた『魔女の結界』を発動させた黒髪の少女。
だがその目に光は無く、明らかに異常な存在だと気付かせてくれる。
「ーーー危険ね。消し飛ばすわよ、ランサー!」
「さすがに賛成だな。こいつはきっと元には戻れねえ。殺しちまった方が楽だろう」
ほむらはいきなり時を止めると、浜面仕上から回収したAK-47の弾に魔力を込めて一気に撃ち込む、撃ち込む、撃ち込む。
しかし、魔女ーーー秋山澪には傷一つついてはいない。
後は一緒だった。ランサーの高速の槍撃すら一筋の傷もつけられない。
『死にたくない』という澪の意志と、オクタヴィアの前身である美樹さやかの魔法少女としての性質が混ざり、異常な耐久力になっている。
しかも、澪の放ってくる攻撃は一撃一撃がかなり重い。
ほむらなら一発でも瀕死になること請け合いの威力である。
ーーーーーもう。
ーーーーーもう、諦めるしかないのか。
「逃げやがれ、ほむら」
諦めかけたほむらの耳に、ランサーの静かな声が届いた。
今、ランサーは逃げろと言った。
つまり、彼はこの怪物を一人で倒そうとしているのだ。
「駄目よ…!貴方でも勝てる相手じゃないわ」
「だが、あいつを殺せるようにすることならできる。あいつに捨て身で一発ゲイ・ボルクを叩き込む。それであいつの命そのものに大ダメージを与えれば、きっとただのナイフでも殺せるようになる」
じゃあ、とほむらは言う。
ランサーは死ぬ気なのだ。魔女の力を直に浴びればサーヴァントといえどもただではすまない。彼らで言う「聖杯の泥」ーーー。莫大な負荷に耐えきれず消滅するだろう。
「いいか、ほむら。俺はサーヴァントだ。勝利云々よりも、マスターの命を優先するに決まってんだろ」
「分かったらもう迷ってんじゃねえ」
「とっとと……」
「消えやがれ!」
ほむらは駆けだした。ランサーの想いを無駄にしないために。
鹿目まどかを必ず守る。そのために、ただ駆けた。
【暁美ほむら】
基本:鹿目まどかを守る。
1:まどかを探す。
2:もう振り返らない
◆
「さあて、これで俺の命運は決まっちまった訳だが…それはてめえも同じだ、怪物」
ランサーが最速の脚力で一気に駆け出す。
迸る澪の魔力を槍で殺し、喰らい、澪の心臓めがけて駆けていく。
幾多の攻撃が、ランサーに降り注ぐ。
汚染されていく肉体。
消えていく存在。
それでも、ランサー、いや槍兵クー・フーリンの槍は澪に向いていた。
「ーーーゲイ・ボルク!」
澪の命を一気に人間レベルまで削り取る。
そして、澪の絶叫とともに放たれた魔力の大放出に飲まれ、ランサーは消えていく。
「(ほむら、……望みを叶えて見せろ。鹿目まどかって奴を、必ず救ってやれ)」
そして。槍兵クー・フーリンは消失した。
【ランサー@Fate/stay night】 死亡
【残り20/40人】
【秋山澪】
基本:全てを絶望に突き落とす。
1:………
※理性が残っていないため、放送の意味を理解していません
最終更新:2011年07月16日 01:10