永久凍土

26◇永久凍土



 目を開けると世界は横向きで。
 薄曇りの空よりずっと暗くて。
 すぐ隣は、センくんの血まみれの顔があった。 

「セン……くん?」
「……」

 問いかけた。返事はない。
 でも頭から顔に流れ落ちている赤い液体がセンくんの口に入ると、
 音を立ててセンくんがそれを吐き出すのが見えた。
 あたしたちはそう、攻撃されたんだ。
 浅葱色の着物のおじさんが本気を出して、車を幻想の腕で動かしてあたしたちに投げつけてきた。
 それで、避けられなくて、車の下敷きになったのだ。

「え?」

 だけどそこまで思い出して、あたしはひとつおかしいことに気付いた。
 あたしが何も痛くない。
 センくんは車と地面に挟まれてだらだらと血を流しているのに、
 そのとなりで倒れているあたしの体は車の重みを全く感じていない。
 どうして? 目をぱちくりさせて体を動かしてみると、視界の端に見えたものがあった。
 あたしがさっきまで振り回していた、角材が。
 つっかえ棒のようにして、車と地面の間にはさみこまれている。
 そしてその角材の下のほうにセンくんの腕が伸びている。
 つまり。
 センくんがとっさの機転で角材をつっかえ棒にしたことで、
 あたしは車の下敷きにならずに済んだ、ということだ。
 ……どうして?
 見つけてすぐあたしが思ったのは、見つける前と同じ四文字。
 でも意味は全然違う。最初は、”どうしてこんなことになってるの?”
 いまのは、”どうしてこんなことまで、してくれるの?”

「ぐ……ああ、青息吐息さん、無事でしたか」
「センくん!」
「無事ですね。足は挟まってないですか? 車の下から抜け出れたら抜けてください。
 ボクは後で行くので、青息吐息さんは一旦引いて。見立てではこのエリアから出さえすれば《幻想》は」
「ねえ。なんであたしを助けたの!?」
「はい?」
「だって、そっち側に角材を挟めばセンくんは傷を負わなかった!」
「……ええ」

 意識を取り戻したセンくんにあたしは思いをぶつける。
 あのときははぐらされたけれど、最初からずっと思っていたことだ。
 目を見開き、ひとつだけ頷くとセンくんは黙り込んだ。その額にまた一筋赤い線がかかっていく。
 早く助けないと死んでしまうかもしれない。
 あたしは角材に引っかからないように、いもむしみたいに這って車の下から出て、
 言われた言葉なんて無視して車の下部の縁に手をかけた。

「青息吐息さん?」
「センくん、……センくんは、おかしいよ」
「青息吐息さん」
「言葉の上では自分のことしか考えてないように見えるけど、実際自分でもそう思ってるのかもしれないけど、
 やってることだけ見たら、あなたは私を最初からずっと助けてるんだよ。本当にずっとだ。
 凍って動けなくなってたあたしを禁止エリアから出した。鏡花水月さんに襲われてたあたしをサポートした。
 いまだって、助けた。センくん、本当は……センくんは、誰も」
「青息吐息さん。それ以上はダメだ」
「……いいえ。言うわ」

 思ったよりは車は軽かった。
 ぐぐぐぐ、と力を込めると、あたしの乙女チックとは自分では言えない程度の細腕でもどうにか少し持ち上がる。
 改めて見えてきたセンくんの顔はどうにも申し訳なさそうな表情。そんな顔をするな、と思う。
 そんな顔をされたら。捨て置いて逃げることなんて出来るわけがない。

「センくん、あなたは。本当は誰も殺す気なんてないんじゃないの。
 ”乗っている”なんて言葉だけ。心の中じゃ、あたしと同じで、怖がっているんでしょ。
 でもそれを認めたら優勝できない。誰も殺さずに生き残るなんて絶対無理だって、
 あなたの頭が計算してしまってるから……だから自分を偽ってるんだ」
「ち、違いますね。あなたを助けているのは、あくまで、戦況を見ての判断です。
 ボクはいざとなればあなただって殺す。そういう男ですよ」
「それこそ嘘でしょ! 戦闘であたしが役に立ってた? そんなことはないわ。
 自分が足手まといになってるかどうかくらい分かる。ホントに戦況を判断してるなら、
 あたしを殺してセンくんが生き残ったほうがいいに決まってる! なのにセンくんはあたしを助けた!
 助けてくれた。だから、今はあたしがセンくんを助けるの! なのに助けなくていい、逃げろだなんて!
 そんなことばっかり言うから、あたしは困るのよ。あたしに、ため息をつかせないでよっ!」

 がしゃん!
 と大きな音をたてて、車を一台あたしはひっくり返した。
 完全に自由になったセンくんの手を掴んで、引っ張って立ち上がらせる。

「ため息を……つかせないでよ」
「……青息吐息さん。ですが、……」

 あたしはもう片方の手で、センくんの顔の血をぬぐった。
 メガネを外していたのが功を相したのか顔にはダメージがない。
 センくんはばちばちと二回瞬きをして、あたしの目を見つめる。だけどきっと、あたしは見ていない。
 いまどうすればいいのか、自分の頭の中に閉じこもって計算ばかりしているのだ。
 現実と理想がイコールじゃないことに気付いていないのだ。
 あたしが言えた義理ではない? もちろんそうだ。
 だけどたぶん、あの浅葱色のおじさん風に言うならば、ここでこう言うのがあたしの”役割”だ。
 選択肢を、気付かせてあげることを。

「あたしを使っていいわ」
「な……?」

 あたしは、センくんに提案した。

「正直言って、あたしは全然使えないかもしれないけど。さっきの拡声器みたいに、どんどんあたしを使って。
 盾にしたりしてもいい。無茶な指示をしてもいい。あたしは全部受ける。”死ね”とでも言われない限り。
 だから、必ずあたしをここから生き延びさせて。最終的にはあたしとセンくん以外、全員殺して。
 その痛みもあたしのせいにしていいわ。最後にあたしを殺すかどうかは、二人になったら決めればいい」
「使う……いや、そんな。ボクは」
「センくんがどう思ってようが関係ないわ。別にセンくんが悪い人だったとしても、さっきの戦いまでで感じたの。
 あなたについていけば生き延びれるって、あたしが勝手に思ったの。だから、ね?」

 センくんの両肩を両手でつかんで、無理やり揺さぶる。
 焦点がぶれて、頭もぐらぐらと揺れて、センくんがぐらぐら揺れて、そしてあたしはさらに言った。

「一緒に戦おう」
「……!」
「一緒に、生き延びよう?」

 揺さぶりを止めて――ようやく、センくんの目が、あたしの目を見てくれたような気がした。
 霧がかかった世界の中で、あたしとセンくんは見つめ合った。
 お互いに体力なんてもう欠片もない。
 一回目の放送まではぜんぜん、まったく殺し合いに参加してなかったのに、
 いまのこの仕打ちはまるで遅刻者に対する罰みたいだった。いいや、きっとそうなのだと思う。
 ほかの皆が必死に戦っている中、あたし達はそれから逃げ続けていたのだから、神様だって怒るだろう。
 でももはや、それを後悔するとか、恥じるとか、そういう領域にあたし達はいない。
 傷だらけでも泥まみれでも、みっともなくったって、第三者から見て悪者になったって。
 例え誰かを殺すことになったとしても、生き残ることが大事なのだ。
 感傷や反省は……後ですればいい。
 いま、あたしたちは戦わなければならない。

「そろそろ良いか、ご両人」

 霧が動いた。
 全体にぼんやりと漂っていた霧が、ざあっと渦を巻くようにあたしとセンくんの周りを取り囲んだ。
 霧はぐるぐると回りながらだんだんと層を厚くしていき、まるで台風の目の中にいるみたいになった。
 一部の霧がさらに形を変え、大きな口を空けた。その口は雄弁に動いて、

「次が最期の戦乱、幕引きとなるだろう。用意をしておけ」

 それだけ告げると消える。
 あたしは視界の片隅にそれを捕らえていたけど、もう驚きはしなかった。
 そんな場合じゃないのだ。センくんとただ、見つめ合った。
 疲れと緊張と焦り、いろんな感情が混ざり合って、あたしもセンくんも荒い息をしている。
 吸って、吐いて。
 吸って、吐いた。
 まるでため息を繰り返すかのように。
 《ため息》を、繰り返すかのように。

「……ダメかもしれませんが」

 センくんが、そんなあたしを見て言った。
 そしてポケットから銀縁メガネを再度取り出して、
 あたしに差し出しながら、精いっぱいにカッコつけて言った。

「策がまだあります。試してみる価値はあるかもしれない」
「ダメだったら次の作戦を考えればいいわ」

 あたしは《ため息》を一つついて、センくんが差し出した銀縁メガネに吹きかけた。
 銀縁メガネのレンズは曇って、固まって。
 そのままもとに戻らない。フレームもだ。ばき、と音がした。
 そう、あたしの《ため息》はすごく冷たい。

「次の作戦。仕切り直し。やり直し……ええ。そうですね」

 センくんは何かに納得したようにあたしの言葉を聞くと、頭から流れてくる血を今度は自分でぬぐった。
 同時に渦を巻いていた霧が晴れて、視界がざあっと一気に開ける。
 そして広がる風景は殺伐。
 鏡花水月は、再び木拍子を持って真っ直ぐ立ってる。じっと佇む姿は、柳の木の下のおばけのよう。
 地面からは無数の機械の腕が《幻想》みたいに生えて、駐車場中の車を持ち上げている。
 まるで機械の森みたいに無数だ。いくつか《幻想》も交じっているかもしれないけど、
 きっともうすぐ、あの浅葱色の着物のおじさんは、最期のつもりで賽を投げる。
 だけど、最期になんてさせない。
 あたしはセンくんから耳打ちを受ける。

「……です」「分かった」
「では行くぞ、哀れなる男女よ」

 言われた作戦は、あたしでは思いつきもしなかったものだった。 
 センくんが支給された銃を構えると同時に、そばの地面に落ちていた拡声器を拾う。
 もう一度構えると、覚悟は決まった。

「「「さあ――最期の(最後の)”戦乱”を!」」」

 偶然にも、その場にいたあたし達三人は、音だけは同じ言葉を呟いた。
 木拍子が鳴る。 
 あたしは大きく息を吸い込む。
 センくんは、駆け出した。
 そして。
 ……戦乱は、終わった。


◆◆◆◆


 遠くから聞こえた銃声と、少し経ってからまた聞こえた拡声器の音。
 一刀両断さんが帰ってこないという異常事態を前に、僕とタクマさんはこの二つを無視できなかった。
 C-2のバーガー屋には置き手紙を残し、タクマさんの耳を信じて目指したのは西のほう、
 地図上では2マス隣のA-2エリアだ。歩いてみると意外と遠くはなかったけど、
 目をやられてしまってるボクはやはり歩きづらく、若干遅れてしまう。
 ので、見かねたタクマさんにおんぶしてもらうことになった。
 実際こうすることで僕のルール能力の恩恵をタクマさんも得ることができるから、一石二鳥ではある。
 もちろん少し恥ずかしくはあったけど。あと、

「傍若無人にさえ出会わなきゃ、もう少し老師をおんぶできたんだけどな」

 と言うタクマさんに少し悲しい顔をさせてしまったのが、
 少しばかり辛かったけれど。
 現在、僕たちはB-2とA-2の境界線あたりの車の陰に潜んで、隣のエリアを伺っているところだ。
 エリアの境目には駐車場の地区を表示するポールが立っているため、勇み足をしてしまうことはない。
 それに、近くまで来て分かったことだが、A-2には明らかに異常な雰囲気が漂っているらしい。
 薄く霧がかかっているみたいに全体がぼんやりしていて、普通に入るのはどこか躊躇われる、そんな感じで。
 今にもなにかが起こりそうな危うさを確かにはらんでいるとタクマさんが教えてくれた。

「聞こえたのはここからで間違いないんですか? タクマさん」
「ああ。位置的に一刀両断がいるとは思えないが、何かが起こってるのは間違いなさそうだな」
「ですね……少なくとも人はいるでしょう。とりあえず見つからないように……」

 そして、しばらく様子見、と車の陰にしゃがみこもうとしたとき、それは起こった。

「あれ? なんだか寒くないですか?」
「え、俺なんかギャグ言ったか?」
「違います! 体感温度がその、下がっているというか」
「確かに……って凍ってる!?」
「え!?」

 僕からは見えないが、凍っているのだとタクマさんは言った。
 A-2エリアのあたりにある車が、どうしてか知らないが端から順に、
 マンガみたいな透明な層に包まれて凍っていくのが見えるのだとか。
 それだけじゃない。「ふぅうう」という大きな呼吸音が聞こえてくるとともに、
 圧倒的な勢いで僕らがいる方まで空気が冷えて、冬みたいな寒さが訪れたのだ。

「うおお、寒い! なんだ、どうなってるんだ? 上着を着るべきなのか?」
「タクマさん、そういえば上半身裸でしたね……や、僕も寒いですが」

 誰かのルール能力だろうか。
 僕とタクマさんの目の前で、A-2エリアはどんどん極寒の凍土と化していっているらしい。
 その間も、誰かが息を吐くような「ふぅうう」あるいは「はぁああ」という声は微かに聞こえる。
 視界がない僕は異常を肌でしか感じられないが、ここは思考に徹してみる。
 大きな吐息の音。凍っていく世界。
 この二つを結び付ければ、こんな暴論が推測できる。
 向こうのエリアにいる誰かは、《吐息で震わせた空気を凍らせることが出来て》。
 拡声器めいた何かで、吐息の音を増幅しているのではないか。

「いやまさかそんな」
「お、おい、紆余。誰か歩いてくるぞ! 銀髪の男、金髪の女。……気づかれた!」
「え」
「――あ。センくん。やっぱり寄せ付けられてたみたいよ」
「そうですね、青息吐息さん。やれやれ、連戦になってしまいますね……」

 なんてふざけた考え事をしていたら、向こうから歩いてくる影が二つ、僕とタクマさんを捉えた。
 銀髪の男に、金髪の女の人のペア。
 出方を伺う僕とタクマさんを前に雑談に興じているようだ。 

「結局、まんまとあたしたち、あの男に嵌められたってわけね」
「ですがもはや、ボクとあなたのルール能力の前に敵などありません。あの男を屠ったボクらに倒せない敵など」
「ええ、存在しないわ。だから今度も、なんとかなるの」
「ああそうだ、存在しない。だから今度も、殺し合いに”勝つ”」
「タクマさん。相手の武器は」
「男は銃。女のほうは凍ったメガホンみたいなのを持ってる」
「……まさかの予感的中の予感がします」

 タクマさんから聞いた彼らの武器を見る限り、どうもさっきの推測は当たってるようだ。
 それだけじゃなく、分かってはいたけれど、僕にとっては最悪の武器が来た。
 銃。
 これはまずい。

「ねぇ、そこの二人。あたし達は疲れてるから、さっさと死んでくれる?」
「一撃で死ぬか、じわじわと死ぬか。どちらか片方ならあなたたちにも勝機はありますね。
 ただし数パーセントですが」

 綺麗な高い声、続いて厭味ったらしいトーンの声が切り裂くようにして僕らに放たれる。
 僕はその表情まではうかがい知ることが出来ないが、すごい悪い顔をしていそうな奴らだ。

「タクマさん」
「分かってる。見つかった以上戦うぞ。一刀両断に言われたとおり、お前もちゃんと守りながら」
「え……いやあの一旦逃げようって言おうかと……僕をおぶりながら戦えるんですか?」
「ん? 余裕だぞ? 大丈夫だ、老師も言っていた。
 誰かを守ることを意識しながら戦うことで、油断や見落としはむしろ減るんだ」
「あのー。もしかして」
「ん?」
「タクマさん、うずうずとかしてませんか」
「あ、ばれたか」

 はははは、と肩を上下させてタクマさんは笑った。
 そうやら僕はこの瞬間までタクマさんのことを少し誤解していたらしい。
 この人、基本良い人だけど、無理のない範囲で基本的に戦闘狂なのだ。

「よし、じゃああんたらもやる気みたいだしやろう! 俺は切磋琢磨! こいつは紆余曲折だ」
「どうも……正直乗り気じゃないんですが」
「名乗り向上とはあの男のようだ。ボクは先手必勝」
「あたしは青息吐息よ。そしてこれは試合でも遊びでもない、殺し合い」

 一刀両断さんのことが気になる状況なのに、
 僕を除く三人の間で怖いくらいとんとん拍子に話が進んでいく。
 こうなると非戦闘員の僕に口を出せることはほとんど無くなる。タクマさんの本領発揮だ。
 だから僕は、せめてタクマさんの装備品としての効力だけを果たそう。
 紆余曲折として、攻撃を曲げ続ける。
 さあ。……どうなるかな?

「行くぞ!」

 こうしてB-2では、僕とタクマさん、先手必勝と青息吐息のタッグバトルが始まった。
 その奥、問題のA-2エリアにて。
 全参加者中最高のチート能力を誇った四字熟語の死体が斃れていると僕が知るのは、
 もう少しあとの話だ。


【B-2/駐車場B地区】


【紆余曲折/男子高校生】
【状態】顔面崩壊、背中に傷(共に処置済み)
【装備】なし
【持ち物】なし
【ルール能力】攻撃を4秒間迂回させることができる
【スタンス】生き残る

【切磋琢磨/見習いボクサー】
【状態】上半身裸、打撲などいろいろ
【装備】ボクシンググローブ
【持ち物】ピアス、釣り糸、上のシャツ
【ルール能力】誰かと戦うごとに強くなる
【スタンス】戦いたい(傍若無人を倒す) 

【青息吐息/ギャルっぽい女】
【状態】疲労大、覚悟完了
【装備】凍りついた拡声器
【持ち物】なし
【ルール能力】ため息がすごい冷たい
【スタンス】マーダー

【先手必勝/銀縁メガネ】
【状態】頭に怪我、覚悟完了
【装備】拳銃
【持ち物】缶ビール数本など役に立ちそうなもの
【ルール能力】先手を取れば勝利する
【スタンス】マーダー



「なあ、《私》よ」

「……なんてな。もはや《幻想》も出せぬほど消耗したか。全く、天晴なものよ」

 駐車場の片隅、車も地面も空気さえ、
 何もかもが凍った世界の片隅で、鏡花水月は倒れていた。
 その足は凍りついており、その心臓付近の動脈部分には銃創が空いていた。
 血がどくどくと流れて、彼が支配していた舞台を赤く穢していた。
 こんなつもりまでは、無かった。
 勝つつもりなど全くなかったが負けるつもりもなかった。
 駐車場の車がハリボテであり、投げつけても大したダメージにならないことは知っていた。
 四字熟語の語感から、先手必勝の能力が相手より先に攻撃を食らわせることで発動するものだとアタリもつけていた。
 ゆえに最初のフェーズを突破された彼は、対峙していた二人に車を投げるという行動を取り。
 少なくとも先手必勝にダメージを負わせることで敗北を免れようとしたのだが。

「まさか、あの男。ルールの裏をかくとはな……」

 そう。
 鏡花水月を葬ったのは先手必勝だった。
 彼は青息吐息の《ため息》と、ルールの裏をかく行為を最大限に利用して、
 あぶりだした本物の鏡花水月に《必勝の》銃の一撃を浴びせたのだ。

「彼奴は確かに。与えられた”役割”に。ルールに縛られていた私を超えた。
 そして隣の女もまた、それを気づかせ、諭した。ふふ、いいものを魅せてもらった。いい、舞台だった……」

 ごふっ、と、血を吐く音がした。
 続いて彼が持っていた”本物の”木拍子が彼の懐から零れ落ち、カン、と小さな音をたてて跳ねた。
 カンカンカン。数度跳ねた四角い木の棒は、徐々に小さくなる音を発する。
 そして仕舞いには聞こえなくなる。
 鏡花水月の吐息も、ほとんど同時に。
 聞こえなくなる。
 舞台は、終わる。
 幕引きは、あまりにも静かだった。



【鏡花水月:死亡――残り八名】




鬼気迫る 前のお話
次のお話 蓬平団子

前のお話 四字熟語 次のお話
完全試合 青息吐息 確定申告
完全試合 先手必勝 確定申告
完全試合 鏡花水月 実験終了
仲間意識 切磋琢磨 確定申告
仲間意識 紆余曲折 確定申告

用語解説

【青息吐息】
青ざめた顔で吐く息、つまり困ったときやつらいときにつくため息のこと。
青色吐息と誤字をしてしまうのは筆者だけだろうか。なんでなんだろう。
四字熟語ロワではテンションの上下が激しいお騒がせギャル風のわりといい子。
能力も字面からか、なぜか氷属性が付加されて氷結ブレスとなっている。

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最終更新:2015年03月02日 01:19
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