ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0561 弱虫まりさとほんとの勇気
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ankoss
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・また長いよ!時間がある人向けだね!
・現代設定だよ!
・虐待成分皆無だよ!どちらかと言うと愛で寄りかもね!気をつけてね!
・俺設定の中に金バッジは賢いっていうのがあるよ!わかってねー。
・最後まで死なないゆっくりがいるよ!
・感想やご指摘があると、とってもうれしいよ!
でもこんかいはあんまりいじめないでね……
・最後に、今回は個人的には問題作ですが、
それでも楽しんで下さる人がいらっしゃればこの上なく幸いです。
では、ゆっくりしていってくださいね!!!
まりさは、少し普通と違う飼いゆっくりだ。
少し意地悪だけど優しいお兄さんと、二人で平和に暮らしている。
頑張ってとった金のバッジが輝く、真っ黒な帽子をかぶり、サラサラと光る髪にもちもちの肌を持つ。
努力家で頭も良く気が弱いという欠点はあるものの、それを除けば穴のない美ゆっくりだった。
そのまりさ種にはあまりない、気が弱いという部分が最大の問題なのだが。
ある日お兄さんが、気になる女の人がいる、と話してくれた。
まりさは喜んだ。以前からしきりに彼女が欲しいと悲しげに言っていたお兄さんにも、
ついに一緒にゆっくりできる人が現れたのだと。
だが、祝福するとお兄さんは少し肩を落としてこう言った。
「いや、好きな人が出来たは良いんだけどな?
まだ少しお知り合いになれた程度でさ。彼女だなんて全然・・・」
「ゆぅ…そうなんだ。でもまだこれからだよ!がんばってね、おにーさん!!」
「あたりまえだっつーの。そう簡単に諦めないって!
でさ、お前にも少し手伝ってもらいたい事があるんだけど…」
「ゆっ、なに?おにーさん。
まりさにできることならまかせてね!!」
まりさは胸を張ってお兄さんに答えた。
何せ自分は金バッジだ!ゆっくりに出来る事であれば、だいたいは出来る。
いつもお世話になっている、大好きなお兄さんに少しでも恩を返すチャンスだとまりさは思った。
それに、いつも『ヘタレ』だ『弱虫』だとまりさを小馬鹿にするお兄さんを見返すチャンスだとも、少しだけ。
「そっか!いやー、良かったぜ。
お前に嫌だって言われたらもうどうしようかと…」
「そんなわけないよ、まりさにできることならなんでもいってね!!」
「じゃ、遠慮なくお願いするよ。
…実はさ、その気になる人、愛子さんって言うんだけど。
ゆっくりが凄く好きで、金バッジのゆっくりを飼ってるらしくてな。
俺も金バッジのゆっくり飼ってるって言うと話が弾んじゃってさ。
で、つい今度お互いのゆっくりを会わせましょうって事になっちまった…
ほらお前ら金バッジって、言っちゃ何だけど頭良過ぎて友達いないだろ?」
「ゆ!?じゃあ、おにーさんがまりさにたのみたいことって、もしかして……」
「頼む!もちろんお前が極度の人見知りだってことはわかってる!
でも今回だけは、俺の恋を助けると思ってさ!
それに、お前にも金バッジの友達が出来るかもしれないぞ?」
まりさは困った。
なにせ自分はお兄さんの言う通り(認めたくは無いが)超が付くヘタレで人見知りが強い。
頑張って受けた躾のおかげで、人間相手なら礼儀正しく完璧にふるまえるが、
他のゆっくりとでは挨拶を交わすのがやっと。
金バッジは野良と接触してはいけないという決まりがあるが、
まりさの場合は野良が怖くて接触できないから、というほどである。
悩みに悩んだまりさだったが、最終的には承諾した。
お兄さんがこうも真剣にお願いする事など、これが初めてだったし、
まりさ自身も、このままではいけないと最近思っていたからだ。
それに金バッジのお友達が出来るというなら、この上なく良い条件だといえる。
金バッジを持つゆっくりは非常に数が少ない。試験の難易度による敷居が高すぎるのだ。
そしてその分、金バッジと他のゆっくりとでは知能に埋めがたいまでの差が出来る。
そのためか、他のゆっくりとまりさとでは話が噛み合わずコミュニケーションが取り辛いため、
まりさにはゆっくりの友達がおらず、それがまりさの人見知りの原因の一部となっていた。
久しぶりに、ちゃんとしたお話ができるゆっくりに会える。それだけでも行く価値はあるだろうとまりさは考えたのだ。
大層喜ぶお兄さんを見て、これで良かったのだと自分に言い聞かせながらまりさは運命の日を待った。
――――――――――
「さあまりさ、気合入れろよ…」
「わ、わかってるよ!おにーさんもね」
「おうよ。いいか、こういうときは、当たって砕けろだ!!
いや砕けちゃ駄目か。とにかく、練習通りにな。」
とあるマンションのドア前でぼそぼそと呟く二人。怪しい事この上ない。
とうとうやってきた運命の日。二人は緊張しながらも彼女の家の前にやってきた。
いきなり家に呼ばれるという事は、お兄さんは少なくとも嫌われてはいないのだろう。
決して粗相は出来ないと、二人はこの日のために準備を重ねた。
とは言ってもまりさのやる事は一つ、愛子さんのゆっくりと仲良く遊ぶだけである。
だが、まりさにとってそれは難関の金バッジの試験よりも遥かに難しい事であった。
緊張した面持ちで呼び鈴を鳴らすと、
すぐにトントンという軽い足音が近づき、ドアが開いた。
現れたのは、大層美人で、小柄な女性であった。
ゆっくりであるまりさから見ても、とっても綺麗な人だと思ったぐらいだ。
「あら、こんにちは。
今日は遠いところ、わざわざ来て下さってありがとうございます。
・・・あら?そちらがこの前言っていたまりさちゃん?」
「ええ、そうです。まりさ」
「こんにちは、おねーさん!
きょうはゆっくりさせていただきます!!!」
「はい、ゆっくりしていってね。
ふふっ、本当に賢い子ですね。ありすもきっと喜んでくれるわ」
ありす。このお姉さんと住んでいるのはありすなのか。
それならまだ話しやすいかもしれない。
もしも自分の知能では足元にも及ばない希少種さんだったらどうしようかと、内心不安だったのだ。
「ありすー。まりさちゃんがいらっしゃったわよ。
こっち来て挨拶なさい」
「はーい、おねえさん。いまいくわ」
お姉さんと同じくらい軽い足取りで跳ねて来たありすに、まりさは目も、心も奪われた。
今までまりさが見た事もないような、宝石のように綺麗な青い目。
ポストさんよりも尚赤い、鮮やかな色のカチューシャ。
そして、サラサラの金色の髪に着けられた、まりさと同じ金のバッジ。
何もかもが、完璧な美ゆっくりに見えた。俗に言う一目ぼれである。
「ようこそまりさ。はじめまして。
きょうはゆっくりしていってね!!!」
「………!
ゆっ、ゆっくりしていってね、ありす!!!」
「どうかしたの?まりさ」
「ははっ。さてはあんまりにもありすが可愛くて見とれてやがったな、お前!」
「ゆっ!?ち、ちがうよ、おにーさん!
あっ、いや、ちがうくもないよ、ありす!ありすはとってもきれいだよ!
もう、へんなこといわないでね、おにーさん!」
「まあ、おじょうずね。
…でもうれしいわ。ありがと、まりさ」
一斉に笑い出す一同の中、まりさだけがありすの笑顔に胸を高鳴らせていた。
――――――――――
それからというもの、ヘタレにしては驚くほど頑張ったまりさは、
お兄さんの応援もあって、ありすとどんどん仲良くなっていった。
ありすと一緒に居る時間は、お兄さんとゆっくりしている時間に負けず劣らず素晴らしい物だった。
知識でしか知らないけど、すっきりなんてめじゃないと確信できるほどに。
しばらく経ち、一緒にすーりすーりできるくらいにまで仲は深まったものの、
未だにもう一歩が踏み出せない。
プロポーズに等しい「いっしょにゆっくりしていってね」の一言が言えないのだ。
まりさは日課の散歩中、お姉さんとバッタリ会ったお兄さんを残して、
一人公園内のそこら辺をゆっくり跳ねていた。ありすの姿は無い。
その事を確認してから、ため息をついて呟いた。
「ゆぅ~…はやくしなくちゃ、
ありすが他のゆっくりとゆっくりしちゃうよ。
まりさそんなのやだよ……」
ありすは見た目だけでなく、その他も全てが完璧な美ゆっくりである。
誰に対しても気配りが出来るし、豊富な知識を持ち、礼儀作法だって完璧だ。
そんなありすに誰も興味が無いなんて事は、きっと無い。
早くしなくては誰かにありすを取られてしまうという想いが、
ヘタレなまりさをここまで頑張らせたのだ。
が、最後の壁はとてつもなく高く、険しく、頑丈だった。
「ゆっ、でもあきらめないよ!ぜったいありすにいうんだよ!
……そのうち」
そんな後ろ向きな決意に燃えるまりさの後ろから、まりさが好きなあの声が聞こえた―――
「あら、まりさ。ゆっくりしていってね!!!」
「ありす!ゆっ、ゆっくりしていってね!!!」
突然ありすに話し掛けられたまりさは、またもや固まってしまった。
「もう、まりさ。どうしたの?
こんなところでひとりでゆっくりしてちゃだめよ?
ここだってどこにのらがいるかわからないんだから。」
クスクスと笑うありすに恥ずかしくなったまりさは、
慌てて、話題を変えるためにお兄さん達に関する世間話に移そうとした。
「ね、ねえありす。そういえば、おにーさんってば、またまりさのことを―――」
楽しい時間はどんどん過ぎていく。
「あら、もうこんなじかん。おねえさんがしんぱいしちゃうわ。
たのしかったわね、まりさ。またゆっくりしましょうね」
「あ、あ……ありす!!!」
行ってしまう。そう思った途端言いようも無い寂しさに襲われたまりさは、
とっさにありすを呼び止めてしまった。
このままでは、二度と会えない気がする。そう感じたのだ。
「どうしたの?まりさ。なにかあったの?
はやくおねえさんたちのところにもどらないと、
さいきんはのられいぱーがでてゆっくりできないってきいたわ。」
「ま、まりさ…まりさと…いっしょ……」
だが、言えない。またこのまま終わってしまうのか。
言い淀んでいるまりさを、ありすは痺れを切らしたかのように叱りつけた。
「もう、いいかげんにして、まりさ!
まりさはいっつもそう。いいたいことがあるなら、ちゃんといいなさい!
そんなのだから、のらなんかにびくびくしちゃうよわむしなのよ!!!」
「ゆ…あ…ありす……」
「もう『へたれ』のまりさなんかしらないわ!いくじなし!じゃあね!!」
そう言い残すと、ありすは早足で行ってしまった。
「あ、ありすぅ…いかないで……まりさ、まりさいっしょに…」
―――嫌われた。弱虫だと、意気地なしだと言われた。よりにもよって、大好きなありすに。
まりさは、自分のヘタレた性格が、今ほど憎く思えたことはなかった。
わかっている。全ては自分が悪いのだ。
だが、それでも尚、簡単に割り切れるものではなかった。
いくら周りから滑稽に見えても、自分にとっては一世一代の大恋愛だったのだ。
「……おにーさんのところにかえらないと…
れいぱーはゆっくりできない……ぐすっ」
でもレイパーなんていなくても、今の自分はゆっくりできてないじゃないか。
お兄さんに全て話そうと、まりさは来た道をゆっくりと戻った。
――――――――――
ありすはお姉さんを探しながら、先ほどのまりさについて考えていた。
(なんでまりさは、いっつもびくびくしてるのかしら。
かしこくて、きれいなまりさ。あれさえなければ、ありすだって―――)
ありすもまた、まりさに惹かれていた。
最初はとても綺麗だけどなんだか元気が無い変なまりさだと思っていた。
だが、今までありすが必死になって学んできた事に負けない知識。
それに控えめに、かつさり気無く人を立てる金バッジゆっくりとしては完璧な姿勢。
そしてなによりも、他のどのゆっくりにも無いあの不器用ながらも伝わってくる、
ゆっくりさせてあげたいという優しさが、ありすをまりさの虜にさせた。
気がつけば、言い寄ってくる他の飼いゆっくりよりも、
まりさとこそ一緒にゆっくりしたいとありすは本気で考えるようになっていた。
だが、まりさにそれを伝えようとする気になる度に
まりさは自信がなさげに、あのオドオドした目でこちらを見てくる。
ありすにはそれが耐えられなかった。
まりさは自分が思っているよりも、ずっと凄いゆっくりなのだ。もっと胸を張って、自信を持って欲しい。
そう言いたかったのだが、上手く伝える事ができなかったどころかあんな事を―――
これがつんでれ、というやつなのだろうか?
人間と上手くやっていくために努力して直したはずなのに、こんな時に出てしまった。ありすはそれが、恨めしかった。
「やっぱりこのままじゃいけないわ。もどらないと。
まりさにちゃんといわないと。まりさ「んほぉぉぉ!!きれいなありすねぇぇぇ!!!」 ゆ゛っ!?」
突然木の陰から出てきた大きな塊に、ありすは吹っ飛ばされてしまった。
少し転がった後、全身に走る激痛を我慢して、ありすは起き上がる。
「な…なんなの…?いまのこえは、まさか……!」
ありすが周囲を見渡すと、ありすを突き飛ばした犯人はすぐそこにいた。
「んふふぅ。ありすのねつれつなかんげいをうけてそんなにげんきなんて
そんなにありすのことがすきなのぉ?
いいわぁ。じゃあそんなとかいはなありすにはありすのとってもとかいはなあいをあげましょうねぇぇ!」
ボロボロの肌。くすんだ金髪。切れ端しか残ってないカチューシャ。
そして、その象徴たるそそり立ったぺにぺに。間違いない、レイパーだ。
きっと近所でうわさになっている野良レイパーはこいつの事だろう。
くらくらする頭で一通り確認したありすは、心中で自分を笑った。
(まさかありすがゆっくりしてておそわれるなんて、これじゃまりさをわらえないわ…)
不意を突かれてすでに満身創痍なありすに、元々身体能力に優れるレイパーを退ける力は無い。
だがしかし、これで終わるわけにはいかない。ありすにも、譲れぬ意地があるのだ。
知識でも、話術でも、今まで自分が得たもの全てを使って、一矢報いてやる―――
「ふん…!とかいはなあいですって…?
そんな…きたない…ぺにぺにの、どこがとかいはなのかしら…!」
「んほぉぉぉ、ありすったらつんでれさんなのねぇぇ!
いままでのことおなじだけど、かわいいわぁぁぁぁ!!!」
例によって話を聞かず、いつもの調子で返してくるレイパーだったが、
ありすはそれを息も絶え絶えな状態で、鼻で笑って言い返した。
「つんでれ…?ありすのつんでれは、ほんとうにだいすきなゆっくりのためにあるものなのよ……
あなたみたいなひんそーなぺにぺにとあんこのうしかもたないれいぱーなんかのためじゃないわ…
りかいしなさい、この…いなかもの!!!」
「あ・・・ありすが、ありすのじまんのぺにぺにがいなかもの……?」
レイパーにとって何より自慢であるぺにぺにへの侮辱と、
ありす種にとって最大の侮辱であるいなかものという言葉を組み合わせて使う事で、
今まで誰の言葉も真に届かなかったレイパーの心を、ありすは貫いた。
「そうよ…あなたはとかいはでも…なんでもないわ…
みにくい、すっきりしかのうのない、きたないぺにぺにをもった…ただのいなかものよ!!」
「ふ…ふん。ありすのぺにぺにがあまりにもとかいはだからって、しっとしてるのね!
そんなゆっくりできないありすでも、とかいはなありすはかわいがってあげるわぁぁぁ!!」
だが、かろうじて自身のプラス思考に助けられたレイパーは、
なんだかゆっくりできないありすを黙らせてしまおうと、にじり寄った。
そんなレイパーに、ありすは更に追い討ちをかける。
「そんなみじめなかちゅーしゃじゃ…ありすのことばはきこえないのかしら…?
そうですものね…きたない、おかざりのない…のらのいなかものじゃ、しかたないわよね…
おお、ぶざまぶざま」
もはやこちらもなりふり構ってはいられない。
そうこうしているうちに少しは体力も回復した。後は、こちらの挑発に乗ってくれれば…
「ふ、ふ…ふざけるんじゃないわぁぁ゛!
ありすがいなかものならあなたはどうなの!?
いぐらばっじがあっでもいまはありすとおなじ、ぼろぼろのいなかものじゃな゛い゛!!」
しかしその言葉が、ありすの矜持に傷をつけた。
「―――なんですって?
あなたに・・・あなたみたいなれいぱーに…ありすのなにがわかるっていうの!?」
いつもの淑女的な様子など、どこにもない。激昂したありすがそこには居た。
「うまれたときからずっとあんこをはくようなおもいでべんきょうしてきたありすが!
みんなをゆっくりさせたいって、たのしくくらせるようにひっしにがんばってきたありすが!
あなたのようなれいぱーにならないように、はをくいしばってきたありすが!!
すっきりのことなんてかんがえなくたって、まりさのことがこんなにすきなありすが!!!
みにくくて、じぶんかってで、ゆっくりもわすれてしまったようなれいぱーとおなじですって!?」
これまでに見た事が無いであろう剣幕で怒鳴るありすを見て、レイパーは呆然としていた。
そんなレイパーには構わず、落ち着いたありすは静かに、しかし力強く言った。
「たしかにいまはぼろぼろだわ。
でもね。とかいはなんてことばにたよらなくても、
これまでひっしにがんばってきたっていうほこらしさが、
だれかをゆっくりさせてあげたいっていうきもちが、
おねえさんやまりさがほんとうにだいすきだっていうこころが、ありすにはあるのよ!!!
きれいなからだをして、かしこくて、ばっじさんをつけているゆっくりがきんばっじなんじゃないわ。
あなたみたいなげすにまけない、だれかをゆっくりさせたいってこころをもったゆっくりを、きんばっじとよぶのよ!!!」
全てを言い終えたありすはたじろぐレイパーに対して、フラフラになりながらも凛とした佇まいで、堂々と胸を張った。
「きなさい、れいぱー!!そのひんそーなぺにぺに、かみちぎってあげるわ!!!」
「ゆ゛…ゆあぁぁぁ゛ぁ゛!!!
ぼうゆるざない゛!おもぢゃにじでやるがらかぐごなざい、ごのいながもの!!!」
ありすは飛び掛ってくるレイパーを前に身構えた。
勢い良く啖呵を切ったは良いが、おそらく自分は勝てないだろう。
だが、せめてぺにぺにくらいは道連れにしてみせる。
それならきっと、近くに居るであろうまりさがすっきりされることも無いだろう。
後は逃げ切ればお兄さん達が守ってくれるはずだ。
あの弱虫なまりさを守って永遠にゆっくりできる事に、ありすは少しも後悔の気持ちは無かった。
腹を決めたありすは目をそらさず、飛び掛ってくるレイパーのぺにぺにに狙いを定める。
(おねえさん、ごめんね。いままでたくさんゆっくりさせてくれてありがとう。
まりさ、ごめんね…できればいっしょにゆっくりしてねっていいたかったけど…
せめてまりさひとりだけでも………ゆっくりしていってね!!!!)
「やべろ゛ぉぉぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
――――――――――
まりさはべそを掻きながら一人、フラフラとそこら辺を跳ねていた。
自分ではお兄さんの元に帰っているつもりなのだろうが、
茫然自失とした状態のおぼつかない足取りではまっすぐ着ける筈もない。
「まりさはどうすればいいんだろ……おしえてよぉ、おにーさん……」
もはや今のまりさにすがれる者は、お兄さんしかない。
少し意地悪を言うけど本当は優しいお兄さん。
こんな弱虫まりさをいつも見守ってくれていた、お兄さん。
ありすにも負けないくらい大好きなお兄さん。
「こんなとき、おにーさんならなんていうんだろ……」
まりさは今までお兄さんが何か言っていたかを思い出そうとしていた。
まりさが困って泣きそうになった時、お兄さんはいつも凄いアドバイスをくれた。
それなら今回の事も何とかなるようなのがひとつ位は―――
そう思ったが、今回は今までとは別だ。自業自得な上に状況は絶望的。
もう、だめかもしれない。
そう思ったまりさの頭に、お兄さんの声がよみがえる。
好きな人が出来たと言ったあの日、お兄さんはなんと言ってただろうか。
―――あたりまえだっつーの。そう簡単に諦めるかって!―――
お兄さんは、何が何でもめげない人だった。まりさは、まだ終わってないのに諦めちゃうの?
初めてありすに会ったとき、お兄さんはなんと言っていた?
―――わかってるって。いいか、こういうときは、当たって砕けろだ!!―――
お兄さんはいつでも全力で物事にぶつかる人だった。まりさは、ぶつかる事もしなかったのに?
―――まりさは本当に、本気でぶつかりもせず簡単に諦めちゃうの?
そんなわけない。あってたまるものか。まりさはまだ、何もしていないではないか。
今からでも遅くない。ありすを追いかけて自分の気持ちを伝えよう。
駄目だったら、それでも構わない。そもそも、まだ嫌いだとは言われてはいないじゃないか。
いつだってお兄さんの存在は、まりさに勇気を与えてくれる。
吹っ切れたまりさの行動は、非常に早かった。
行こう。ありすもまだそこまで遠くには行ってない筈だ。
もしかしたらお姉さんの下へ―――「・・・ありすのなにがわかるっていうの!?」
なんだ、今の声は?今のは…間違いない、あれはありすの声だ!
あんなに恐いありすの声は聞いた事がないけど、それでも間違えるはずがない!
もしかしたら、何かゆっくりできない事に巻き込まれているのかも。
急いで向かわなくては!
声のする方向へ、今度こそまりさはゆっくりせずに、まっすぐ跳ねだした。
――――――――――
まりさがありすの元に到着した時、ありすはボロボロになっていて、
ありすと良く似た色の薄汚れたゆっくりが、今にもありすへと向かわんとしていた。
あれは、ゆっくり用のさんこうしょで見た。たしかレイパーというやつだ!
そういえば、さいきん野良レイパーが出るという噂があったではないか。
ならありすはそのレイパーに襲われているのだろう。見たところにんっしんっはしていないようだ。
だが、それは何の気休めにもならない。
現に今、ありすは襲い掛かられようとしている。
まりさは戸惑った。
―――助けを呼ばないと!……だれに?人は誰もいないし、お兄さんを呼んでたら、絶対間に合わない。
なら、行くしかない。…誰が?決まってる、自分がだ。 誰に?決まってる、レイパーにだ。
そんな事を考えるだけで、まりさはしーしーを漏らしそうになった。
ただでさえ野良は恐いのに、更に相手は他のゆっくりを何度も襲っているレイパーだ。
ろくに誰かとケンカした事もない、弱虫な自分がレイパーと戦う?無理だ、勝てっこない。
あれこれと迷っているうちにレイパーがありすに襲い掛かろうと、跳ねた。
どうしよう。―――諦めるのか?
まりさがよわむしなせいでありすがゆっくりしちゃう。―――おまえはまだ何もしてないだろう。
……いやだ、そんなのぜったいいやだ!!!―――なら当たって砕けてみせろ!!!
(おにーさん!まりさにゆうきをちょうだいね!!)
レイパーを鋭く見据えたまりさは、これまでに無い速さでレイパーへと突撃した。
「やべろ゛ぉぉぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
――――――――――
レイパーに力の限りぶつかって突き飛ばしたまりさは、ありすを守るように、レイパーの前に立ち塞がった。
「ま、まりさ!?」
「ありずに゛でをだずなぁぁ゛!!!」
ありすは一瞬何が起きたのか、わからなかった。
あの弱虫なまりさが、守ってくれた…?
レイパーを突き飛ばし、凄んで見せたまりさは、
先ほどとは打って変わって、いつもの様子でありすに話し掛けた。
「ゆっ!ありすだいじょうぶ?ひとまずはあんしんだね!!!」
「まりさ…どうしたの?おにいさんのところにもどったんじゃ」
「ありすのおおきなこえをきいていそいできたよ!!」
「まりさ…こわくないの?ゆっくりできないれいぱーがあいてなのよ?」
「こわいにきまってるよ!でも、ありすがいなくなっちゃうのはもっとこわいよ!!
ゆっくりりかいしてね!!」
「まりさ……」
無事を確かめ合う二人を見て、レイパーが喜び勇んで起き上がった。
「うふふぅ、まりさのつんでれなあい、きもちよかったわぁ…
おれいにきれいなまりさにはとかいはなありすのあいをあげましょうねぇぇぇ!!」
「うるさいよ!ありすにてをだそうとするれいぱーはゆるさないよ!!
ゆっくりしないでりかいしてね!!!」
とは言っても、まりさはここからどうしようか全く考えていない。
このままやり合っても、おそらくまりさは負けてしまうだろう。
先ほどの不意打ちがほとんど効いてないのが、いい証拠だ。
ボロボロのありすをつれていては逃げる事もできない。どうしようか。
「とかいはなまりさにそんないなかもののありすはにあわないわぁ。
さっさとありすがすっきりのどうぐとしてつかってあげるから
そのいなかものがつぶれたあとにまりさはありすとゆっくりすっきりしましょうねぇ!」
今、こいつはなんと言った。ありすを、潰す?すっきりの道具にする?まりさの大切なありすを?
―――そうか。本気にならなくちゃ、いけなかったんだ。
砕ける覚悟だけじゃなく、本気になる覚悟が必要なんだ。
ありすは守ってみせる。その為ならなんだってしてみせる。
たとえ、その結果まりさがゆっくりできなくなったとしても―――
―――おにーさん、ごめんね。まりさにもうすこしだけ、ゆうきをちょうだいね。
「さあまりさぁ!!そこをどいてねぇぇ!
それともそんなにさきに「だまれ……」…まりさ?」
「だまるんだぜぇぇ!まりさのなまえをきやすくよぶんじゃないんだぜ!!!」
「まりさ……?どうしたの…?」
急に豹変してしまったまりさに、ありすは言葉を失った。
が、気にせずまりさはレイパーに言葉を叩きつける。
「まりさのなまえをおまえみたいなくそれいぱーが、きやすくよぶんじゃないんだぜ!!!」
呆然としていたレイパーだったが、まりさの発言を聞いた途端、
お決まりのプラス思考でまりさの言葉を捻じ曲げて、受け入れた。
「んほぉぉぉ!!それはつんでれなのね!まりさ!!
ちょっとげすなくちょうも「うるざいんだぜぇぇ!!!」!?」
今まで感じた事のない気迫に、異常を感じるレイパー。
それは今まで捕食者だった自分が感じたことの無いもの。即ち、本物の殺意だった。
自分にのみ向けられる純粋な殺意に、レイパーはもうプラス思考が働かない。
それどころか怖くて、体が震えて仕方が無かった。
「もうゆるさないんだぜ!!
ありすをつぶすなんていうくずは、まりさがせーさいしてやるのぜ!!!」
「ゆっ、ゆっくりごろしはげすのすることなのよぉぉ!!?
ゆっくりできなくてもいいの!?このげすぅぅ!!!」
「だからどうしたんだぜ!!
ありすがつぶされると、おねーさんがかなしむのぜ!
おねーさんがかなしむと、おにーさんがゆっくりできなくなるんだぜ!!
そしてなによりもおにーさんや、まりさがだいすきなありすがゆっくりできなくなることが、
まりさにとってなによりもゆっくりできないことなんだぜ!!!」
「ま、まりさ……」
「まりさのたいせつなひとたちがゆっくりできなくなるくらいなら、
まりさはれいぱーごろしだってなんだってやってやるんだぜ!!!
れいぱーごろしがゆっくりできないことだっていうんなら、
まりさはいくらだってげすになりさがってやるんだぜ!!!」
まりさの迫力に押されて、レイパーが少し後ろに退いた。
「……おまえはまりさのたいせつな、かけがえのないゆっくりをきずつけようとしたんだぜ!!
まりさがげすならおまえもげすなんだぜ!!!つぶせるものならつぶしてみるんだぜ、このいなかもの!!!」
怒鳴って、息を切らしながらレイパーを睨み付けるまりさ。
少しの間まりさの迫力に押されていたレイパーも、いなかものの一言でまりさとやる気になったようだ。
「もうゆるさないわ、このげすまりさぁぁぁぁ!!!
すっきりなんてせずに、ごろじでやるぅぅぅ!!!」
「ゆがぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
「まりさーーー!!!」
――――――――――
戦いは、終わった。
レイパーは髪を皮ごとえぐられ、ぺにぺにもズタズタになって、無残に息絶えていた。
そしてまりさも―――また、ボロボロになっていた。
帽子は破れ、綺麗なおさげはボサボサ、歯も抜け落ち、皮もところどころ破れている。
ヒューヒューと辛うじて息を漏らすまりさは、どこからどう見ても、死んでしまう一歩手前だった。
一人無事だったありすは、自分を守ってくれた“弱虫まりさ”に近寄り、傷口を舐めた。
「まりざぁ…ばでぃざぁ……ゆっぐりじでよぉ……
こんなんじゃ、あり゛ずだってゆっぐりでぎないよぉ゛……」
いくら豹変しようとも、まりさは元の優しい、あのまりさのままだった。
そう、ありすが大好きだった、あのまりさに―――
「あ…でぃ……ずぅ……?」
「ま…までぃざぁぁ゛!!」
「よがった、あでぃず…ぶじ…だったんだね……
まりざとっでも、うれじいよ……」
「もうじゃべらなぐでいいがら!
べーろべーろじであげるがら!おねがいだがらぁ……」
ゆっくりの唾液には、ゆっくりの傷に対して弱いものの、治癒効果がある。
それを知っていたありすは泣きながら必死にぺーろぺーろするも、
もはやそれだけでは処置が追いつかない事は、深い傷を見れば明らかである。
それでもありすは、自分に出来る限りの事をしようと、諦めようとしなかった。
「ごべんね、ありず…まりざきんばっじざんのくせにばかだがら、『へたれ』だから…
ありずのおねがい、ぜんぶはきいであげられないよ……」
「ぞんなごどないよ!!まりざとっでもがっこよがっだよ!!!
とってもゆうきがあっだよ!!『へたれ』なんがじゃないよぉ!!!」
「ほんどう?…そっかぁ。じゃあこれでやっど…ありずにおにあいのゆっぐりになれだのがなぁ…」
満足げに微笑むと、まりさはゆっくりと目を閉じた。
「……までぃざ?…やだぁ……までぃざぁ、ごんなのやだよぉ……どぼじでぇ…
ゆああ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!!!」
―――ありがとう、おにーさん。おにーさんがゆうきをくれたおかげでまりさ、ありすをまもれたよ。
ゆうきのあるゆっくりになれたよ。きれいなありすにおにあいのゆっくりになれたよ。
それと、ごめんね。まりさ、おにーさんにたくさんゆっくりさせてもらったのに、なんにもかえせなかったよ。
おにーさんをもっとゆっくりさせてあげたかったのにな……
でも、おねーさんやありすがいるから、きっとだいじょうぶだよね。
きっとこれからいっぱいゆっくりできるよね。
ああ、なんだかねむくなってきちゃったよ。
それじゃみんな、ゆっくりしていってね―――「おい、勝手に逝くな。だから『ヘタレ』なんだよお前は」…ゆ?
まりさが目を開けると、お兄さんとお姉さんがこっちを覗き込んでいた。
…どういうことだろう?体がとっても軽い。全然痛くない。
「お兄さん、どおして……」
「いやー、危なかった。お前達の声を聞いて急いで駆けつけたんだけど、
もう少しで手遅れになるところだったぜ。
こういうときに、お前らの適当な生態って役に立つよなぁ。
まさかこんなに簡単に、帽子以外元通りとは思わなかった」
そういって軽く笑うお兄さんの両手には、空になったオレンジジュースの缶が握られていた。
このあまあまさんを使って、まりさを助けてくれたのだろうか。
良く見れば、お兄さんは軽く肩で息をしていて、うっすらと汗をかいている。
(……そっか。まりさをしんぱいしてくれてたんだね。)
やっぱりお兄さんは優しい人だ。
「ありがとうね、おにーさん。まりさもうゆっくりしちゃうっておもってたよ」
「ああ。俺にもだけど、特にありすにお礼言っとけよ」
「ゆ?ありす?」
お兄さんの足元を見ると、バツが悪そうにこっちを見ている、いつも通りの綺麗なありすがいた。
「ありすがずっとお前を舐めてなけりゃ、間に合わないところだったんだぜ」
「ゆっ、そうなの?ありす……?」
「……ええ、そうみたいね。」
「…ありがとうね。」
「…おたがいさまよ。」
「おまえは、いっつもそうやって肝心なところで諦めようとするだろ。だからヘタレだっていうんだよ」
「そんな事言いながら、まりさちゃんの声が聞こえたとき、
凄い顔して自販機に走っていったの誰だったかしら?ほんとに大切なのね。羨ましいなー」
「うっ…愛子さん。いや、その…」
じゃれつく二人をよそに、まりさはありすと向き合った。
(ありすやまりさがたすかったのはうれしいけど、ちゃんといわないとね……)
「……ありす。ごめんね。」
「…なにがかしら?」
「まりさ、げすになっちゃったよ。
せっかくありすがゆうきがあるっていってくれたのに、
やっとありすにすきってちゃんといえたのに、
げすになっちゃったらきんばっじさんじゃいられないよ……
せっかくありすやおにーさんにふさわしいゆっくりになれたとおもったけど、
きんばっじさんじゃないげすゆっくりじゃ、もうありすたちとはいっしょに……」
そうだ。まりさはゲスになってしまった。金バッジにゲスは居てはいけない。
ゲスに堕ちてしまったゆっくりはバッジを剥奪される決まりだ。
ゲスの烙印を押されたゆっくりが、金バッジ持ちと一緒にゆっくりできるはずがない。
それでもありすを守れたのだから、まりさは後悔などしていなかった。
だがたとえそうであっても、やっぱり、すごく悲しかった。
「……ばか。」
「ゆっ?」
「まりさのばか!!」
「ゆ゛ん゛!!!」
ありすはまりさに、思いっきり体当たりした。
まりさはごろごろ転がって、また傷だらけになってしまった。
「な、なにするの!?ありす!ゆっくりせつめいしてね!!」
「まりさのばか!!かってにはなしをすすめないでよね!
なんなの!?ばかなの!?しぬの!?しにかけてるの!?」
「う…ごめんね……」
「ごめんじゃないよ!ありすがいつまりさがげすだからきらいだなんていったの!?
ありすはまりさのかしこいところとか、みんなをゆっくりさせようとしてくれるやさしいところがすきなのに!
ありすのためにあんなにひっしになっておこってくれたまりさのどこがげすなの!?
きんばっじなんかかんけいないでしょ!ゆっくりしないでりかいしてね!!!」
「あ、ありす…」
今までの凛とした態度からは想像もつかない、ありすの攻め立てるような話し方に、
まりさは不意を突かれた。そして、ある一言が気になる。
「あ、ありす…?いま、まりさのやさしいところがすきって……」
「いったよ!ありすはまりさのやさしいところがとってもすきなのよ!
でも『へたれ』なところはきらいよ!ゆっくりでいいからちゃんとなおしてね!!」
「ゆ…ゆっ…?じゃあ、ありすまりさとずっといっしょにゆっくりしてくれるの……?」
「……ふう。ええ、もちろんよ。これからもよろしくね、まりさ!!」
「ゆっ…?…え?だって……」
あまりの急な事に、まりさの頭はついて行けず混乱してしまった。
お兄さんはそんなまりさの頭に手を置き、くしゃくしゃ撫で回しながら言う。
「まさか、お前に先越されるとはなぁ。ちょっとショックだぜ。
ま、俺もそう遠い話ってわけじゃないけどな!
よくやったな、まりさ。お前は間違いなくゲスなんかじゃないさ。胸張れよ。
あ、俺もこれからもっと、お前にゆっくりさせてもらうからな?よろしく頼むぜ」
お兄さんの言葉を聴いて、まりさの中の糸なにかが切れた。
「ゆ…ゆ…ゆ……ゆああぁぁぁぁ!!!ゆ゛ああ゛あ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!!!」
関を切ったように泣き出したまりさを前に、お兄さんはやれやれといった様子で肩をすくめる。
ありすやお姉さんは、仕方ないなぁといった顔で、少し困ったようにまりさを笑った。
まりさは何だってかまわなかった。
これからまた、お兄さんとゆっくりできるのだ。
これからはありす達とも一緒にゆっくりできるのだ。
その喜びに比べれば、みんなの前で大泣きする恥ずかしさや、
お兄さんにそれをからかわれる事なんて大した問題じゃない。
今までで一番沢山泣いた弱虫まりさの心の中は、これ以上ないほどに暖かかったのだから。
――――――――――
それからは、特にこれといって話すようなことは無い。
程無くしてお兄さんとお姉さんは結ばれ、まりさとありすはいつでも一緒にいられるようになった。
まりさのおぼうしはお姉さんが見事に、この上なく完璧に修繕してくれた。まりさも大喜びだ。
ちなみに正当防衛であるとして、ゆっくり殺しの件はチャラになった。
むしろ飼い、野良無差別のゆっくり連続襲撃犯をやっつけたという事で褒められた。
もちろん、ゲス口調はあれから一度も出ていない。
そして、まりさにほんの少しだけど、勇気がついた。
今は少しだけれど、まだまだこれからだ。
まりさは幸せだった。これからもこの幸せが続くのだと思ったら、また少し涙が出そうになった。
弱虫まりさと呼ばれなくなるには、もう少し時間が必要みたいだ。
・あとがき
なんだこれ。
気分が進むままに書くと、何故かこんなの出来ました。相変わらず長いし。
正直書きたかったものとは違うので蔵入りさせようとも思いましたが、
せっかくだから、ということで仕上げてみました。
ゆっくり視点で書くのが難しくて困る。
次はいい加減そろそろさとりとかが書きたい……
後、感想でご指摘いただいた方々、ありがとうございます。
ところで、感想で言われたんですが、名前って決めた方がいいんですかね?
・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 412 僕と『あの子』とゴミ饅頭と
ふたば系ゆっくりいじめ 446 俺とゲスと自業自得な餡子脳
・現代設定だよ!
・虐待成分皆無だよ!どちらかと言うと愛で寄りかもね!気をつけてね!
・俺設定の中に金バッジは賢いっていうのがあるよ!わかってねー。
・最後まで死なないゆっくりがいるよ!
・感想やご指摘があると、とってもうれしいよ!
でもこんかいはあんまりいじめないでね……
・最後に、今回は個人的には問題作ですが、
それでも楽しんで下さる人がいらっしゃればこの上なく幸いです。
では、ゆっくりしていってくださいね!!!
まりさは、少し普通と違う飼いゆっくりだ。
少し意地悪だけど優しいお兄さんと、二人で平和に暮らしている。
頑張ってとった金のバッジが輝く、真っ黒な帽子をかぶり、サラサラと光る髪にもちもちの肌を持つ。
努力家で頭も良く気が弱いという欠点はあるものの、それを除けば穴のない美ゆっくりだった。
そのまりさ種にはあまりない、気が弱いという部分が最大の問題なのだが。
ある日お兄さんが、気になる女の人がいる、と話してくれた。
まりさは喜んだ。以前からしきりに彼女が欲しいと悲しげに言っていたお兄さんにも、
ついに一緒にゆっくりできる人が現れたのだと。
だが、祝福するとお兄さんは少し肩を落としてこう言った。
「いや、好きな人が出来たは良いんだけどな?
まだ少しお知り合いになれた程度でさ。彼女だなんて全然・・・」
「ゆぅ…そうなんだ。でもまだこれからだよ!がんばってね、おにーさん!!」
「あたりまえだっつーの。そう簡単に諦めないって!
でさ、お前にも少し手伝ってもらいたい事があるんだけど…」
「ゆっ、なに?おにーさん。
まりさにできることならまかせてね!!」
まりさは胸を張ってお兄さんに答えた。
何せ自分は金バッジだ!ゆっくりに出来る事であれば、だいたいは出来る。
いつもお世話になっている、大好きなお兄さんに少しでも恩を返すチャンスだとまりさは思った。
それに、いつも『ヘタレ』だ『弱虫』だとまりさを小馬鹿にするお兄さんを見返すチャンスだとも、少しだけ。
「そっか!いやー、良かったぜ。
お前に嫌だって言われたらもうどうしようかと…」
「そんなわけないよ、まりさにできることならなんでもいってね!!」
「じゃ、遠慮なくお願いするよ。
…実はさ、その気になる人、愛子さんって言うんだけど。
ゆっくりが凄く好きで、金バッジのゆっくりを飼ってるらしくてな。
俺も金バッジのゆっくり飼ってるって言うと話が弾んじゃってさ。
で、つい今度お互いのゆっくりを会わせましょうって事になっちまった…
ほらお前ら金バッジって、言っちゃ何だけど頭良過ぎて友達いないだろ?」
「ゆ!?じゃあ、おにーさんがまりさにたのみたいことって、もしかして……」
「頼む!もちろんお前が極度の人見知りだってことはわかってる!
でも今回だけは、俺の恋を助けると思ってさ!
それに、お前にも金バッジの友達が出来るかもしれないぞ?」
まりさは困った。
なにせ自分はお兄さんの言う通り(認めたくは無いが)超が付くヘタレで人見知りが強い。
頑張って受けた躾のおかげで、人間相手なら礼儀正しく完璧にふるまえるが、
他のゆっくりとでは挨拶を交わすのがやっと。
金バッジは野良と接触してはいけないという決まりがあるが、
まりさの場合は野良が怖くて接触できないから、というほどである。
悩みに悩んだまりさだったが、最終的には承諾した。
お兄さんがこうも真剣にお願いする事など、これが初めてだったし、
まりさ自身も、このままではいけないと最近思っていたからだ。
それに金バッジのお友達が出来るというなら、この上なく良い条件だといえる。
金バッジを持つゆっくりは非常に数が少ない。試験の難易度による敷居が高すぎるのだ。
そしてその分、金バッジと他のゆっくりとでは知能に埋めがたいまでの差が出来る。
そのためか、他のゆっくりとまりさとでは話が噛み合わずコミュニケーションが取り辛いため、
まりさにはゆっくりの友達がおらず、それがまりさの人見知りの原因の一部となっていた。
久しぶりに、ちゃんとしたお話ができるゆっくりに会える。それだけでも行く価値はあるだろうとまりさは考えたのだ。
大層喜ぶお兄さんを見て、これで良かったのだと自分に言い聞かせながらまりさは運命の日を待った。
――――――――――
「さあまりさ、気合入れろよ…」
「わ、わかってるよ!おにーさんもね」
「おうよ。いいか、こういうときは、当たって砕けろだ!!
いや砕けちゃ駄目か。とにかく、練習通りにな。」
とあるマンションのドア前でぼそぼそと呟く二人。怪しい事この上ない。
とうとうやってきた運命の日。二人は緊張しながらも彼女の家の前にやってきた。
いきなり家に呼ばれるという事は、お兄さんは少なくとも嫌われてはいないのだろう。
決して粗相は出来ないと、二人はこの日のために準備を重ねた。
とは言ってもまりさのやる事は一つ、愛子さんのゆっくりと仲良く遊ぶだけである。
だが、まりさにとってそれは難関の金バッジの試験よりも遥かに難しい事であった。
緊張した面持ちで呼び鈴を鳴らすと、
すぐにトントンという軽い足音が近づき、ドアが開いた。
現れたのは、大層美人で、小柄な女性であった。
ゆっくりであるまりさから見ても、とっても綺麗な人だと思ったぐらいだ。
「あら、こんにちは。
今日は遠いところ、わざわざ来て下さってありがとうございます。
・・・あら?そちらがこの前言っていたまりさちゃん?」
「ええ、そうです。まりさ」
「こんにちは、おねーさん!
きょうはゆっくりさせていただきます!!!」
「はい、ゆっくりしていってね。
ふふっ、本当に賢い子ですね。ありすもきっと喜んでくれるわ」
ありす。このお姉さんと住んでいるのはありすなのか。
それならまだ話しやすいかもしれない。
もしも自分の知能では足元にも及ばない希少種さんだったらどうしようかと、内心不安だったのだ。
「ありすー。まりさちゃんがいらっしゃったわよ。
こっち来て挨拶なさい」
「はーい、おねえさん。いまいくわ」
お姉さんと同じくらい軽い足取りで跳ねて来たありすに、まりさは目も、心も奪われた。
今までまりさが見た事もないような、宝石のように綺麗な青い目。
ポストさんよりも尚赤い、鮮やかな色のカチューシャ。
そして、サラサラの金色の髪に着けられた、まりさと同じ金のバッジ。
何もかもが、完璧な美ゆっくりに見えた。俗に言う一目ぼれである。
「ようこそまりさ。はじめまして。
きょうはゆっくりしていってね!!!」
「………!
ゆっ、ゆっくりしていってね、ありす!!!」
「どうかしたの?まりさ」
「ははっ。さてはあんまりにもありすが可愛くて見とれてやがったな、お前!」
「ゆっ!?ち、ちがうよ、おにーさん!
あっ、いや、ちがうくもないよ、ありす!ありすはとってもきれいだよ!
もう、へんなこといわないでね、おにーさん!」
「まあ、おじょうずね。
…でもうれしいわ。ありがと、まりさ」
一斉に笑い出す一同の中、まりさだけがありすの笑顔に胸を高鳴らせていた。
――――――――――
それからというもの、ヘタレにしては驚くほど頑張ったまりさは、
お兄さんの応援もあって、ありすとどんどん仲良くなっていった。
ありすと一緒に居る時間は、お兄さんとゆっくりしている時間に負けず劣らず素晴らしい物だった。
知識でしか知らないけど、すっきりなんてめじゃないと確信できるほどに。
しばらく経ち、一緒にすーりすーりできるくらいにまで仲は深まったものの、
未だにもう一歩が踏み出せない。
プロポーズに等しい「いっしょにゆっくりしていってね」の一言が言えないのだ。
まりさは日課の散歩中、お姉さんとバッタリ会ったお兄さんを残して、
一人公園内のそこら辺をゆっくり跳ねていた。ありすの姿は無い。
その事を確認してから、ため息をついて呟いた。
「ゆぅ~…はやくしなくちゃ、
ありすが他のゆっくりとゆっくりしちゃうよ。
まりさそんなのやだよ……」
ありすは見た目だけでなく、その他も全てが完璧な美ゆっくりである。
誰に対しても気配りが出来るし、豊富な知識を持ち、礼儀作法だって完璧だ。
そんなありすに誰も興味が無いなんて事は、きっと無い。
早くしなくては誰かにありすを取られてしまうという想いが、
ヘタレなまりさをここまで頑張らせたのだ。
が、最後の壁はとてつもなく高く、険しく、頑丈だった。
「ゆっ、でもあきらめないよ!ぜったいありすにいうんだよ!
……そのうち」
そんな後ろ向きな決意に燃えるまりさの後ろから、まりさが好きなあの声が聞こえた―――
「あら、まりさ。ゆっくりしていってね!!!」
「ありす!ゆっ、ゆっくりしていってね!!!」
突然ありすに話し掛けられたまりさは、またもや固まってしまった。
「もう、まりさ。どうしたの?
こんなところでひとりでゆっくりしてちゃだめよ?
ここだってどこにのらがいるかわからないんだから。」
クスクスと笑うありすに恥ずかしくなったまりさは、
慌てて、話題を変えるためにお兄さん達に関する世間話に移そうとした。
「ね、ねえありす。そういえば、おにーさんってば、またまりさのことを―――」
楽しい時間はどんどん過ぎていく。
「あら、もうこんなじかん。おねえさんがしんぱいしちゃうわ。
たのしかったわね、まりさ。またゆっくりしましょうね」
「あ、あ……ありす!!!」
行ってしまう。そう思った途端言いようも無い寂しさに襲われたまりさは、
とっさにありすを呼び止めてしまった。
このままでは、二度と会えない気がする。そう感じたのだ。
「どうしたの?まりさ。なにかあったの?
はやくおねえさんたちのところにもどらないと、
さいきんはのられいぱーがでてゆっくりできないってきいたわ。」
「ま、まりさ…まりさと…いっしょ……」
だが、言えない。またこのまま終わってしまうのか。
言い淀んでいるまりさを、ありすは痺れを切らしたかのように叱りつけた。
「もう、いいかげんにして、まりさ!
まりさはいっつもそう。いいたいことがあるなら、ちゃんといいなさい!
そんなのだから、のらなんかにびくびくしちゃうよわむしなのよ!!!」
「ゆ…あ…ありす……」
「もう『へたれ』のまりさなんかしらないわ!いくじなし!じゃあね!!」
そう言い残すと、ありすは早足で行ってしまった。
「あ、ありすぅ…いかないで……まりさ、まりさいっしょに…」
―――嫌われた。弱虫だと、意気地なしだと言われた。よりにもよって、大好きなありすに。
まりさは、自分のヘタレた性格が、今ほど憎く思えたことはなかった。
わかっている。全ては自分が悪いのだ。
だが、それでも尚、簡単に割り切れるものではなかった。
いくら周りから滑稽に見えても、自分にとっては一世一代の大恋愛だったのだ。
「……おにーさんのところにかえらないと…
れいぱーはゆっくりできない……ぐすっ」
でもレイパーなんていなくても、今の自分はゆっくりできてないじゃないか。
お兄さんに全て話そうと、まりさは来た道をゆっくりと戻った。
――――――――――
ありすはお姉さんを探しながら、先ほどのまりさについて考えていた。
(なんでまりさは、いっつもびくびくしてるのかしら。
かしこくて、きれいなまりさ。あれさえなければ、ありすだって―――)
ありすもまた、まりさに惹かれていた。
最初はとても綺麗だけどなんだか元気が無い変なまりさだと思っていた。
だが、今までありすが必死になって学んできた事に負けない知識。
それに控えめに、かつさり気無く人を立てる金バッジゆっくりとしては完璧な姿勢。
そしてなによりも、他のどのゆっくりにも無いあの不器用ながらも伝わってくる、
ゆっくりさせてあげたいという優しさが、ありすをまりさの虜にさせた。
気がつけば、言い寄ってくる他の飼いゆっくりよりも、
まりさとこそ一緒にゆっくりしたいとありすは本気で考えるようになっていた。
だが、まりさにそれを伝えようとする気になる度に
まりさは自信がなさげに、あのオドオドした目でこちらを見てくる。
ありすにはそれが耐えられなかった。
まりさは自分が思っているよりも、ずっと凄いゆっくりなのだ。もっと胸を張って、自信を持って欲しい。
そう言いたかったのだが、上手く伝える事ができなかったどころかあんな事を―――
これがつんでれ、というやつなのだろうか?
人間と上手くやっていくために努力して直したはずなのに、こんな時に出てしまった。ありすはそれが、恨めしかった。
「やっぱりこのままじゃいけないわ。もどらないと。
まりさにちゃんといわないと。まりさ「んほぉぉぉ!!きれいなありすねぇぇぇ!!!」 ゆ゛っ!?」
突然木の陰から出てきた大きな塊に、ありすは吹っ飛ばされてしまった。
少し転がった後、全身に走る激痛を我慢して、ありすは起き上がる。
「な…なんなの…?いまのこえは、まさか……!」
ありすが周囲を見渡すと、ありすを突き飛ばした犯人はすぐそこにいた。
「んふふぅ。ありすのねつれつなかんげいをうけてそんなにげんきなんて
そんなにありすのことがすきなのぉ?
いいわぁ。じゃあそんなとかいはなありすにはありすのとってもとかいはなあいをあげましょうねぇぇ!」
ボロボロの肌。くすんだ金髪。切れ端しか残ってないカチューシャ。
そして、その象徴たるそそり立ったぺにぺに。間違いない、レイパーだ。
きっと近所でうわさになっている野良レイパーはこいつの事だろう。
くらくらする頭で一通り確認したありすは、心中で自分を笑った。
(まさかありすがゆっくりしてておそわれるなんて、これじゃまりさをわらえないわ…)
不意を突かれてすでに満身創痍なありすに、元々身体能力に優れるレイパーを退ける力は無い。
だがしかし、これで終わるわけにはいかない。ありすにも、譲れぬ意地があるのだ。
知識でも、話術でも、今まで自分が得たもの全てを使って、一矢報いてやる―――
「ふん…!とかいはなあいですって…?
そんな…きたない…ぺにぺにの、どこがとかいはなのかしら…!」
「んほぉぉぉ、ありすったらつんでれさんなのねぇぇ!
いままでのことおなじだけど、かわいいわぁぁぁぁ!!!」
例によって話を聞かず、いつもの調子で返してくるレイパーだったが、
ありすはそれを息も絶え絶えな状態で、鼻で笑って言い返した。
「つんでれ…?ありすのつんでれは、ほんとうにだいすきなゆっくりのためにあるものなのよ……
あなたみたいなひんそーなぺにぺにとあんこのうしかもたないれいぱーなんかのためじゃないわ…
りかいしなさい、この…いなかもの!!!」
「あ・・・ありすが、ありすのじまんのぺにぺにがいなかもの……?」
レイパーにとって何より自慢であるぺにぺにへの侮辱と、
ありす種にとって最大の侮辱であるいなかものという言葉を組み合わせて使う事で、
今まで誰の言葉も真に届かなかったレイパーの心を、ありすは貫いた。
「そうよ…あなたはとかいはでも…なんでもないわ…
みにくい、すっきりしかのうのない、きたないぺにぺにをもった…ただのいなかものよ!!」
「ふ…ふん。ありすのぺにぺにがあまりにもとかいはだからって、しっとしてるのね!
そんなゆっくりできないありすでも、とかいはなありすはかわいがってあげるわぁぁぁ!!」
だが、かろうじて自身のプラス思考に助けられたレイパーは、
なんだかゆっくりできないありすを黙らせてしまおうと、にじり寄った。
そんなレイパーに、ありすは更に追い討ちをかける。
「そんなみじめなかちゅーしゃじゃ…ありすのことばはきこえないのかしら…?
そうですものね…きたない、おかざりのない…のらのいなかものじゃ、しかたないわよね…
おお、ぶざまぶざま」
もはやこちらもなりふり構ってはいられない。
そうこうしているうちに少しは体力も回復した。後は、こちらの挑発に乗ってくれれば…
「ふ、ふ…ふざけるんじゃないわぁぁ゛!
ありすがいなかものならあなたはどうなの!?
いぐらばっじがあっでもいまはありすとおなじ、ぼろぼろのいなかものじゃな゛い゛!!」
しかしその言葉が、ありすの矜持に傷をつけた。
「―――なんですって?
あなたに・・・あなたみたいなれいぱーに…ありすのなにがわかるっていうの!?」
いつもの淑女的な様子など、どこにもない。激昂したありすがそこには居た。
「うまれたときからずっとあんこをはくようなおもいでべんきょうしてきたありすが!
みんなをゆっくりさせたいって、たのしくくらせるようにひっしにがんばってきたありすが!
あなたのようなれいぱーにならないように、はをくいしばってきたありすが!!
すっきりのことなんてかんがえなくたって、まりさのことがこんなにすきなありすが!!!
みにくくて、じぶんかってで、ゆっくりもわすれてしまったようなれいぱーとおなじですって!?」
これまでに見た事が無いであろう剣幕で怒鳴るありすを見て、レイパーは呆然としていた。
そんなレイパーには構わず、落ち着いたありすは静かに、しかし力強く言った。
「たしかにいまはぼろぼろだわ。
でもね。とかいはなんてことばにたよらなくても、
これまでひっしにがんばってきたっていうほこらしさが、
だれかをゆっくりさせてあげたいっていうきもちが、
おねえさんやまりさがほんとうにだいすきだっていうこころが、ありすにはあるのよ!!!
きれいなからだをして、かしこくて、ばっじさんをつけているゆっくりがきんばっじなんじゃないわ。
あなたみたいなげすにまけない、だれかをゆっくりさせたいってこころをもったゆっくりを、きんばっじとよぶのよ!!!」
全てを言い終えたありすはたじろぐレイパーに対して、フラフラになりながらも凛とした佇まいで、堂々と胸を張った。
「きなさい、れいぱー!!そのひんそーなぺにぺに、かみちぎってあげるわ!!!」
「ゆ゛…ゆあぁぁぁ゛ぁ゛!!!
ぼうゆるざない゛!おもぢゃにじでやるがらかぐごなざい、ごのいながもの!!!」
ありすは飛び掛ってくるレイパーを前に身構えた。
勢い良く啖呵を切ったは良いが、おそらく自分は勝てないだろう。
だが、せめてぺにぺにくらいは道連れにしてみせる。
それならきっと、近くに居るであろうまりさがすっきりされることも無いだろう。
後は逃げ切ればお兄さん達が守ってくれるはずだ。
あの弱虫なまりさを守って永遠にゆっくりできる事に、ありすは少しも後悔の気持ちは無かった。
腹を決めたありすは目をそらさず、飛び掛ってくるレイパーのぺにぺにに狙いを定める。
(おねえさん、ごめんね。いままでたくさんゆっくりさせてくれてありがとう。
まりさ、ごめんね…できればいっしょにゆっくりしてねっていいたかったけど…
せめてまりさひとりだけでも………ゆっくりしていってね!!!!)
「やべろ゛ぉぉぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
――――――――――
まりさはべそを掻きながら一人、フラフラとそこら辺を跳ねていた。
自分ではお兄さんの元に帰っているつもりなのだろうが、
茫然自失とした状態のおぼつかない足取りではまっすぐ着ける筈もない。
「まりさはどうすればいいんだろ……おしえてよぉ、おにーさん……」
もはや今のまりさにすがれる者は、お兄さんしかない。
少し意地悪を言うけど本当は優しいお兄さん。
こんな弱虫まりさをいつも見守ってくれていた、お兄さん。
ありすにも負けないくらい大好きなお兄さん。
「こんなとき、おにーさんならなんていうんだろ……」
まりさは今までお兄さんが何か言っていたかを思い出そうとしていた。
まりさが困って泣きそうになった時、お兄さんはいつも凄いアドバイスをくれた。
それなら今回の事も何とかなるようなのがひとつ位は―――
そう思ったが、今回は今までとは別だ。自業自得な上に状況は絶望的。
もう、だめかもしれない。
そう思ったまりさの頭に、お兄さんの声がよみがえる。
好きな人が出来たと言ったあの日、お兄さんはなんと言ってただろうか。
―――あたりまえだっつーの。そう簡単に諦めるかって!―――
お兄さんは、何が何でもめげない人だった。まりさは、まだ終わってないのに諦めちゃうの?
初めてありすに会ったとき、お兄さんはなんと言っていた?
―――わかってるって。いいか、こういうときは、当たって砕けろだ!!―――
お兄さんはいつでも全力で物事にぶつかる人だった。まりさは、ぶつかる事もしなかったのに?
―――まりさは本当に、本気でぶつかりもせず簡単に諦めちゃうの?
そんなわけない。あってたまるものか。まりさはまだ、何もしていないではないか。
今からでも遅くない。ありすを追いかけて自分の気持ちを伝えよう。
駄目だったら、それでも構わない。そもそも、まだ嫌いだとは言われてはいないじゃないか。
いつだってお兄さんの存在は、まりさに勇気を与えてくれる。
吹っ切れたまりさの行動は、非常に早かった。
行こう。ありすもまだそこまで遠くには行ってない筈だ。
もしかしたらお姉さんの下へ―――「・・・ありすのなにがわかるっていうの!?」
なんだ、今の声は?今のは…間違いない、あれはありすの声だ!
あんなに恐いありすの声は聞いた事がないけど、それでも間違えるはずがない!
もしかしたら、何かゆっくりできない事に巻き込まれているのかも。
急いで向かわなくては!
声のする方向へ、今度こそまりさはゆっくりせずに、まっすぐ跳ねだした。
――――――――――
まりさがありすの元に到着した時、ありすはボロボロになっていて、
ありすと良く似た色の薄汚れたゆっくりが、今にもありすへと向かわんとしていた。
あれは、ゆっくり用のさんこうしょで見た。たしかレイパーというやつだ!
そういえば、さいきん野良レイパーが出るという噂があったではないか。
ならありすはそのレイパーに襲われているのだろう。見たところにんっしんっはしていないようだ。
だが、それは何の気休めにもならない。
現に今、ありすは襲い掛かられようとしている。
まりさは戸惑った。
―――助けを呼ばないと!……だれに?人は誰もいないし、お兄さんを呼んでたら、絶対間に合わない。
なら、行くしかない。…誰が?決まってる、自分がだ。 誰に?決まってる、レイパーにだ。
そんな事を考えるだけで、まりさはしーしーを漏らしそうになった。
ただでさえ野良は恐いのに、更に相手は他のゆっくりを何度も襲っているレイパーだ。
ろくに誰かとケンカした事もない、弱虫な自分がレイパーと戦う?無理だ、勝てっこない。
あれこれと迷っているうちにレイパーがありすに襲い掛かろうと、跳ねた。
どうしよう。―――諦めるのか?
まりさがよわむしなせいでありすがゆっくりしちゃう。―――おまえはまだ何もしてないだろう。
……いやだ、そんなのぜったいいやだ!!!―――なら当たって砕けてみせろ!!!
(おにーさん!まりさにゆうきをちょうだいね!!)
レイパーを鋭く見据えたまりさは、これまでに無い速さでレイパーへと突撃した。
「やべろ゛ぉぉぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
――――――――――
レイパーに力の限りぶつかって突き飛ばしたまりさは、ありすを守るように、レイパーの前に立ち塞がった。
「ま、まりさ!?」
「ありずに゛でをだずなぁぁ゛!!!」
ありすは一瞬何が起きたのか、わからなかった。
あの弱虫なまりさが、守ってくれた…?
レイパーを突き飛ばし、凄んで見せたまりさは、
先ほどとは打って変わって、いつもの様子でありすに話し掛けた。
「ゆっ!ありすだいじょうぶ?ひとまずはあんしんだね!!!」
「まりさ…どうしたの?おにいさんのところにもどったんじゃ」
「ありすのおおきなこえをきいていそいできたよ!!」
「まりさ…こわくないの?ゆっくりできないれいぱーがあいてなのよ?」
「こわいにきまってるよ!でも、ありすがいなくなっちゃうのはもっとこわいよ!!
ゆっくりりかいしてね!!」
「まりさ……」
無事を確かめ合う二人を見て、レイパーが喜び勇んで起き上がった。
「うふふぅ、まりさのつんでれなあい、きもちよかったわぁ…
おれいにきれいなまりさにはとかいはなありすのあいをあげましょうねぇぇぇ!!」
「うるさいよ!ありすにてをだそうとするれいぱーはゆるさないよ!!
ゆっくりしないでりかいしてね!!!」
とは言っても、まりさはここからどうしようか全く考えていない。
このままやり合っても、おそらくまりさは負けてしまうだろう。
先ほどの不意打ちがほとんど効いてないのが、いい証拠だ。
ボロボロのありすをつれていては逃げる事もできない。どうしようか。
「とかいはなまりさにそんないなかもののありすはにあわないわぁ。
さっさとありすがすっきりのどうぐとしてつかってあげるから
そのいなかものがつぶれたあとにまりさはありすとゆっくりすっきりしましょうねぇ!」
今、こいつはなんと言った。ありすを、潰す?すっきりの道具にする?まりさの大切なありすを?
―――そうか。本気にならなくちゃ、いけなかったんだ。
砕ける覚悟だけじゃなく、本気になる覚悟が必要なんだ。
ありすは守ってみせる。その為ならなんだってしてみせる。
たとえ、その結果まりさがゆっくりできなくなったとしても―――
―――おにーさん、ごめんね。まりさにもうすこしだけ、ゆうきをちょうだいね。
「さあまりさぁ!!そこをどいてねぇぇ!
それともそんなにさきに「だまれ……」…まりさ?」
「だまるんだぜぇぇ!まりさのなまえをきやすくよぶんじゃないんだぜ!!!」
「まりさ……?どうしたの…?」
急に豹変してしまったまりさに、ありすは言葉を失った。
が、気にせずまりさはレイパーに言葉を叩きつける。
「まりさのなまえをおまえみたいなくそれいぱーが、きやすくよぶんじゃないんだぜ!!!」
呆然としていたレイパーだったが、まりさの発言を聞いた途端、
お決まりのプラス思考でまりさの言葉を捻じ曲げて、受け入れた。
「んほぉぉぉ!!それはつんでれなのね!まりさ!!
ちょっとげすなくちょうも「うるざいんだぜぇぇ!!!」!?」
今まで感じた事のない気迫に、異常を感じるレイパー。
それは今まで捕食者だった自分が感じたことの無いもの。即ち、本物の殺意だった。
自分にのみ向けられる純粋な殺意に、レイパーはもうプラス思考が働かない。
それどころか怖くて、体が震えて仕方が無かった。
「もうゆるさないんだぜ!!
ありすをつぶすなんていうくずは、まりさがせーさいしてやるのぜ!!!」
「ゆっ、ゆっくりごろしはげすのすることなのよぉぉ!!?
ゆっくりできなくてもいいの!?このげすぅぅ!!!」
「だからどうしたんだぜ!!
ありすがつぶされると、おねーさんがかなしむのぜ!
おねーさんがかなしむと、おにーさんがゆっくりできなくなるんだぜ!!
そしてなによりもおにーさんや、まりさがだいすきなありすがゆっくりできなくなることが、
まりさにとってなによりもゆっくりできないことなんだぜ!!!」
「ま、まりさ……」
「まりさのたいせつなひとたちがゆっくりできなくなるくらいなら、
まりさはれいぱーごろしだってなんだってやってやるんだぜ!!!
れいぱーごろしがゆっくりできないことだっていうんなら、
まりさはいくらだってげすになりさがってやるんだぜ!!!」
まりさの迫力に押されて、レイパーが少し後ろに退いた。
「……おまえはまりさのたいせつな、かけがえのないゆっくりをきずつけようとしたんだぜ!!
まりさがげすならおまえもげすなんだぜ!!!つぶせるものならつぶしてみるんだぜ、このいなかもの!!!」
怒鳴って、息を切らしながらレイパーを睨み付けるまりさ。
少しの間まりさの迫力に押されていたレイパーも、いなかものの一言でまりさとやる気になったようだ。
「もうゆるさないわ、このげすまりさぁぁぁぁ!!!
すっきりなんてせずに、ごろじでやるぅぅぅ!!!」
「ゆがぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
「まりさーーー!!!」
――――――――――
戦いは、終わった。
レイパーは髪を皮ごとえぐられ、ぺにぺにもズタズタになって、無残に息絶えていた。
そしてまりさも―――また、ボロボロになっていた。
帽子は破れ、綺麗なおさげはボサボサ、歯も抜け落ち、皮もところどころ破れている。
ヒューヒューと辛うじて息を漏らすまりさは、どこからどう見ても、死んでしまう一歩手前だった。
一人無事だったありすは、自分を守ってくれた“弱虫まりさ”に近寄り、傷口を舐めた。
「まりざぁ…ばでぃざぁ……ゆっぐりじでよぉ……
こんなんじゃ、あり゛ずだってゆっぐりでぎないよぉ゛……」
いくら豹変しようとも、まりさは元の優しい、あのまりさのままだった。
そう、ありすが大好きだった、あのまりさに―――
「あ…でぃ……ずぅ……?」
「ま…までぃざぁぁ゛!!」
「よがった、あでぃず…ぶじ…だったんだね……
まりざとっでも、うれじいよ……」
「もうじゃべらなぐでいいがら!
べーろべーろじであげるがら!おねがいだがらぁ……」
ゆっくりの唾液には、ゆっくりの傷に対して弱いものの、治癒効果がある。
それを知っていたありすは泣きながら必死にぺーろぺーろするも、
もはやそれだけでは処置が追いつかない事は、深い傷を見れば明らかである。
それでもありすは、自分に出来る限りの事をしようと、諦めようとしなかった。
「ごべんね、ありず…まりざきんばっじざんのくせにばかだがら、『へたれ』だから…
ありずのおねがい、ぜんぶはきいであげられないよ……」
「ぞんなごどないよ!!まりざとっでもがっこよがっだよ!!!
とってもゆうきがあっだよ!!『へたれ』なんがじゃないよぉ!!!」
「ほんどう?…そっかぁ。じゃあこれでやっど…ありずにおにあいのゆっぐりになれだのがなぁ…」
満足げに微笑むと、まりさはゆっくりと目を閉じた。
「……までぃざ?…やだぁ……までぃざぁ、ごんなのやだよぉ……どぼじでぇ…
ゆああ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!!!」
―――ありがとう、おにーさん。おにーさんがゆうきをくれたおかげでまりさ、ありすをまもれたよ。
ゆうきのあるゆっくりになれたよ。きれいなありすにおにあいのゆっくりになれたよ。
それと、ごめんね。まりさ、おにーさんにたくさんゆっくりさせてもらったのに、なんにもかえせなかったよ。
おにーさんをもっとゆっくりさせてあげたかったのにな……
でも、おねーさんやありすがいるから、きっとだいじょうぶだよね。
きっとこれからいっぱいゆっくりできるよね。
ああ、なんだかねむくなってきちゃったよ。
それじゃみんな、ゆっくりしていってね―――「おい、勝手に逝くな。だから『ヘタレ』なんだよお前は」…ゆ?
まりさが目を開けると、お兄さんとお姉さんがこっちを覗き込んでいた。
…どういうことだろう?体がとっても軽い。全然痛くない。
「お兄さん、どおして……」
「いやー、危なかった。お前達の声を聞いて急いで駆けつけたんだけど、
もう少しで手遅れになるところだったぜ。
こういうときに、お前らの適当な生態って役に立つよなぁ。
まさかこんなに簡単に、帽子以外元通りとは思わなかった」
そういって軽く笑うお兄さんの両手には、空になったオレンジジュースの缶が握られていた。
このあまあまさんを使って、まりさを助けてくれたのだろうか。
良く見れば、お兄さんは軽く肩で息をしていて、うっすらと汗をかいている。
(……そっか。まりさをしんぱいしてくれてたんだね。)
やっぱりお兄さんは優しい人だ。
「ありがとうね、おにーさん。まりさもうゆっくりしちゃうっておもってたよ」
「ああ。俺にもだけど、特にありすにお礼言っとけよ」
「ゆ?ありす?」
お兄さんの足元を見ると、バツが悪そうにこっちを見ている、いつも通りの綺麗なありすがいた。
「ありすがずっとお前を舐めてなけりゃ、間に合わないところだったんだぜ」
「ゆっ、そうなの?ありす……?」
「……ええ、そうみたいね。」
「…ありがとうね。」
「…おたがいさまよ。」
「おまえは、いっつもそうやって肝心なところで諦めようとするだろ。だからヘタレだっていうんだよ」
「そんな事言いながら、まりさちゃんの声が聞こえたとき、
凄い顔して自販機に走っていったの誰だったかしら?ほんとに大切なのね。羨ましいなー」
「うっ…愛子さん。いや、その…」
じゃれつく二人をよそに、まりさはありすと向き合った。
(ありすやまりさがたすかったのはうれしいけど、ちゃんといわないとね……)
「……ありす。ごめんね。」
「…なにがかしら?」
「まりさ、げすになっちゃったよ。
せっかくありすがゆうきがあるっていってくれたのに、
やっとありすにすきってちゃんといえたのに、
げすになっちゃったらきんばっじさんじゃいられないよ……
せっかくありすやおにーさんにふさわしいゆっくりになれたとおもったけど、
きんばっじさんじゃないげすゆっくりじゃ、もうありすたちとはいっしょに……」
そうだ。まりさはゲスになってしまった。金バッジにゲスは居てはいけない。
ゲスに堕ちてしまったゆっくりはバッジを剥奪される決まりだ。
ゲスの烙印を押されたゆっくりが、金バッジ持ちと一緒にゆっくりできるはずがない。
それでもありすを守れたのだから、まりさは後悔などしていなかった。
だがたとえそうであっても、やっぱり、すごく悲しかった。
「……ばか。」
「ゆっ?」
「まりさのばか!!」
「ゆ゛ん゛!!!」
ありすはまりさに、思いっきり体当たりした。
まりさはごろごろ転がって、また傷だらけになってしまった。
「な、なにするの!?ありす!ゆっくりせつめいしてね!!」
「まりさのばか!!かってにはなしをすすめないでよね!
なんなの!?ばかなの!?しぬの!?しにかけてるの!?」
「う…ごめんね……」
「ごめんじゃないよ!ありすがいつまりさがげすだからきらいだなんていったの!?
ありすはまりさのかしこいところとか、みんなをゆっくりさせようとしてくれるやさしいところがすきなのに!
ありすのためにあんなにひっしになっておこってくれたまりさのどこがげすなの!?
きんばっじなんかかんけいないでしょ!ゆっくりしないでりかいしてね!!!」
「あ、ありす…」
今までの凛とした態度からは想像もつかない、ありすの攻め立てるような話し方に、
まりさは不意を突かれた。そして、ある一言が気になる。
「あ、ありす…?いま、まりさのやさしいところがすきって……」
「いったよ!ありすはまりさのやさしいところがとってもすきなのよ!
でも『へたれ』なところはきらいよ!ゆっくりでいいからちゃんとなおしてね!!」
「ゆ…ゆっ…?じゃあ、ありすまりさとずっといっしょにゆっくりしてくれるの……?」
「……ふう。ええ、もちろんよ。これからもよろしくね、まりさ!!」
「ゆっ…?…え?だって……」
あまりの急な事に、まりさの頭はついて行けず混乱してしまった。
お兄さんはそんなまりさの頭に手を置き、くしゃくしゃ撫で回しながら言う。
「まさか、お前に先越されるとはなぁ。ちょっとショックだぜ。
ま、俺もそう遠い話ってわけじゃないけどな!
よくやったな、まりさ。お前は間違いなくゲスなんかじゃないさ。胸張れよ。
あ、俺もこれからもっと、お前にゆっくりさせてもらうからな?よろしく頼むぜ」
お兄さんの言葉を聴いて、まりさの中の糸なにかが切れた。
「ゆ…ゆ…ゆ……ゆああぁぁぁぁ!!!ゆ゛ああ゛あ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!!!」
関を切ったように泣き出したまりさを前に、お兄さんはやれやれといった様子で肩をすくめる。
ありすやお姉さんは、仕方ないなぁといった顔で、少し困ったようにまりさを笑った。
まりさは何だってかまわなかった。
これからまた、お兄さんとゆっくりできるのだ。
これからはありす達とも一緒にゆっくりできるのだ。
その喜びに比べれば、みんなの前で大泣きする恥ずかしさや、
お兄さんにそれをからかわれる事なんて大した問題じゃない。
今までで一番沢山泣いた弱虫まりさの心の中は、これ以上ないほどに暖かかったのだから。
――――――――――
それからは、特にこれといって話すようなことは無い。
程無くしてお兄さんとお姉さんは結ばれ、まりさとありすはいつでも一緒にいられるようになった。
まりさのおぼうしはお姉さんが見事に、この上なく完璧に修繕してくれた。まりさも大喜びだ。
ちなみに正当防衛であるとして、ゆっくり殺しの件はチャラになった。
むしろ飼い、野良無差別のゆっくり連続襲撃犯をやっつけたという事で褒められた。
もちろん、ゲス口調はあれから一度も出ていない。
そして、まりさにほんの少しだけど、勇気がついた。
今は少しだけれど、まだまだこれからだ。
まりさは幸せだった。これからもこの幸せが続くのだと思ったら、また少し涙が出そうになった。
弱虫まりさと呼ばれなくなるには、もう少し時間が必要みたいだ。
・あとがき
なんだこれ。
気分が進むままに書くと、何故かこんなの出来ました。相変わらず長いし。
正直書きたかったものとは違うので蔵入りさせようとも思いましたが、
せっかくだから、ということで仕上げてみました。
ゆっくり視点で書くのが難しくて困る。
次はいい加減そろそろさとりとかが書きたい……
後、感想でご指摘いただいた方々、ありがとうございます。
ところで、感想で言われたんですが、名前って決めた方がいいんですかね?
・過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 412 僕と『あの子』とゴミ饅頭と
ふたば系ゆっくりいじめ 446 俺とゲスと自業自得な餡子脳