ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2124 生きにくい 後編
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ankoss
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・タイトルのとおりです。前編を見てからお楽しみください。
※大変申し訳ございませんが、後編の話の中で入れ忘れた部分を発見しました!
しかもそれが無いと話が噛み合わなくなる、致命的なミスです。
よって、大変心苦しいのですが、後編を一度上げ直させて頂くことにしました。
評価、閲覧していただいた方々には、大変失礼な事を致しました。この場を借りてお詫び申し上げます。
本当に、申し訳ございませんでした。
お目汚し失礼致しました。では、続きをどうぞ。
「じゃあ、留守番頼んだな。晩御飯何がいい?」
「まかせてね。おにいさんがいないあいだ、おうちはまりさがまもるからね!
ごはんのことはきにしないでね!おにいさんのごはんなら、まりさはなんでもしあわせーっになれるよ!」
「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどなあ。
まあいいや、今日も期待してくれてていいから、ゆっくり待ってろよ。 いってきます!」
「いってらっしゃい。ゆっくりおしごとがんばってね」
ここは同町内の、とある一軒家。
今日も飼い主であるお兄さんが仕事に出かけるのを見送って、まりさの一日は本格的に幕を開ける。
「ふう。きょうは・・・てれびをつかっておべんきょうだね。
おにいさんとたのしくおはなしするには“よのなかのはやり”をしっておかないと・・・」
なにやら真剣な顔で小難しく言っているまりさであるが、言ってる事の内容はというと、要するにワイドショーの視聴である。
「けいさんともじのおべんきょうはもうすませたから、あいたじかんはおそうじするよ。
あぁ・・・やっぱりたんすさんのすきまにほこりさんが・・・むーしゃむーしゃ、げほっごほっ!!うぅ・・・」
さらに、部屋を跳ね回り、家具の隙間を見ては下を伸ばして噎せ返っている。
普通に見ているだけならゆっくりが暢気に部屋の動き回って馬鹿をやっている、ただの面白い光景なのだが、
まりさが言っている事も合わせて考えるならば、それもなかなか切羽詰っているように見える。
このまりさは両親に金バッジ持ちのゆっくりを持つ、生粋のエリートである。
ゆっくり好きの人間が飼い主の家庭に生まれたのだが、生まれてすぐに今の飼い主の元に貰われてきたという経歴を持つ。
生まれてから別れるまでのたった数日間で、まりさは本ゆんの意思に関係無く両親から色々な事を教わった。
人間に逆らってはいけない事。生意気な口を利けば捨てられて野垂れ死ぬしかなくなること。
そうならずに幸せなゆん生を送るには、努力を惜しまず色んな事を学ばなければならないこと。
食事の作法。飼い主の癇に障らない話し方。汚らしい野良への対応。
飼い主を飽きさせないだけの語彙力に、人間の日常生活に支障が出ないだけの一般常識。
そして、最低でも小学二年生程度の読み書きそろばん。
自分たちから離れて独りになってもそれらを完璧にして、自分達と同じような金のバッジを必ず取得するべきということ。
誕生して間もなく、まだ未発達で小さい中枢餡には到底覚えきれない量の言いつけを、
まりさの両親は本来我が子に注ぐべき愛情と引き換えに必死になって言い残した。
それでも、それは両親の自分に対する、愛情のカタチの一つだったのだろう。
そして生後からたった三日経ち。無常にもまりさは両親と引き離された。
別れの涙は無い。それは人間たちを困らせることだと、事前に口をすっぱくして言われたからだ。
結局まりさが親から受けた明確にわかる愛情とは、誕生直後にかけられた、祝福の「ゆっくりしていってね!!!」だけだった。
それから独りっきりになって。
運良くというべきか、それだけの量の言いつけをまりさは全て覚えていた。
覚えていただけでなく、それらを守ろうとする意志の強さも、守れるだけの優秀さもあった。
そう、まりさは優秀なゆっくりだったのだ。少なくとも、飼い主を十分に満足させられるくらいには。
しかし、まりさは一切の油断も、慢心もしない。
自分がゆっくりだという事をよく噛み締めながらも、ゆっくり特有の愚かさは決して見せまいとした。
もはやぼんやりとしか覚えていない両親の顔を思い出しながら、その言いつけを愚直に守った。
その甲斐あって、立派な成ゆっくりとなった今では、自慢の帽子についた金色のバッジが輝いている。
が、それでもまりさは満足しない。いや、満足などできない。
傍から見れば、ワイドショーを見るだけでお勉強など片腹痛くなるだろう。
しかし、まりさはこの上なく真剣なのだ。
難しい漢字が多すぎて新聞が読めないまりさにとって、テレビは唯一の情報源である。
テレビを見なければ世間の流れを知る手段が皆無となり、飼い主を落胆させる原因になりかねない。
だからこそ、暇潰しなどではなく、真剣にワイドショーを見てその内容を覚えるのだ。
全ては、この穏やかで、平和な暮らしを守るため。
自分が野良など寄せ付けずに、立派に留守番をやり遂げればきっと飼い主は喜ぶだろう。
自分が人間の話し相手として相応しくなれば、飼い主はもっと喜ぶだろう。
部屋を隅にある埃を食べて、いつも綺麗にしておけばもっともっと喜ぶだろう。
喜んでくれれば、きっと自分は捨てられない。捨てる理由を作らなければ、自分はきっと大丈夫。
「ゆふーっ、ゆふーっ。・・・だいじょうぶ、まだがんばれるよ。
はきだすとゆかさんがよごれちゃうから、がまんしてがんばらないと。
したがゆかさんにふれないように、ほこりさんだけをくっつけて・・・ゆーしょ、ゆーしょ・・・」
そう信じて疑わずにまりさは今日も、苦行とも言えるであろう『お勉強』に精を出す。
そこには、野良ゆっくりであれば誰もが羨む“ゆっくりした生活”など、どこにもない。
ただ、まりさは時々考える。
もしも自分が野良であれば。今の快適な生活を捨てる事になるが、
その代わりに自由気ままに生き、両親ともずっと一緒にいられたのだろうかと。
勿論、まりさは野良ゆっくりの生活が如何に苦しく、そして野良自体が如何に疎まれているのかを知っている。
もし親と一緒にいられても、成長する前になんらかの事情で死に別れるほうが多いという事も知っている。
そして、自分が野良ゆっくりとなってしまえば到底満足に生きることはできないだろうという事も、知っている。
今の生活が心底嫌というわけでも無い。むしろ、頑張った分だけ結果が出るのだから、それでいいと思っている。
さっきからまるで恐ろしい物の代表のように言っているが、飼い主だって嫌いじゃない。
両親の代わりに親切に接してくれているし、家族として自分を愛してくれている事もわかっている。
優しい飼い主に、十二分に用意された食事や寝床。現状に対して、特に不満といえる不満もない。
そんなまりさの暮らしは第三者からすれば羨ましい事この上ない環境であり、また、まりさもそう感じていた。
しかし、それでも考えてしまう。
知識でしか知らない、野良ゆっくりの生活を実際に味わえたなら、それはどんな気分なのだろうかと。
餌を自分で探さなければならない代わりに、思う存分しあわせーっと叫べる。
こんなに綺麗で大きいおうちが無い代わりに、いつでも思ったときに好きなところへ行ける。
人間や車、その他諸々の脅威から逃げなければならない代わりに、もう勉強などしなくて済む。
辛くとも、自らの行動を選べる自由。それは、今のまりさからしてみればとても贅沢な事に思えた。
だからといって、全てを捨てて野良になってしまいたいのか、と聞かれれば、それはNOである。
実際に、自分が思っているよりも野良暮らしはずっと厳しくて危険なのだという事を、まりさはちゃんとわかっているのだ。
第一、今更捨てられたとして何がどうなるというのか。
一番のメリットである両親との時間など、もはや取る事は叶わない。
野良ゆの餌となる生ゴミや雑草などまともに見たこともない自分が、苛酷な路上暮らしに適応できるとも思えない。
まりさは賢かった。
賢いからこそ、自分が野良になるということの愚かしさを、
根っからの飼いゆっくりである自分が捨てられてしまうという事の危険性を、
そして野良の生活と、今の生活。どちらを選んだほうが幸せでいられるのかを正確に理解してしまった。
いっそ自分が立場もわきまえぬ愚か者だったら・・・。最初から家族みんなが野良だったら・・・。
そんなありもしない『もしも』の話を想像して、そんな事など有りえないという事実にほんの少しだけ落胆し、
いつもまりさは飼い主のおにいさんを出迎えるため、全てを忘れて日課である笑顔の練習に戻るのだった。
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現代において、捨てゆっくりというのはほとんど存在しない。
なんらかの事情で飼えなくなったゆっくりを捨てるという風習など、最早とうの昔に消えているのだ。
理由は簡単。皆、自分が飼っているゆっくりを捨てる意味や理由など何も存在しないからである。
ゲス化してしまったゆっくりを捨てたり、言う事を聞かない馬鹿なゆっくりを捨てたり、
引越しなどのやむをえない事情があって連れて行けないゆっくりを捨てたりという光景は、確かに十数年前ならザラにあった。
結果、頭の悪い元飼いゆっくりから妙な偏った知識と小賢しさを手に入れた野良ゆっくりに、人々は更に手を焼かされる事になる。
が、人間とは学習する生き物である。
日に日に増長する野良ゆっくりや一向に減らない捨てゆっくりの数を減らすため、加工所の研究班は毎日毎日様々な案を検討した。
そして最終的に出した結論が、『中毒性のある薬物による催眠効果』であった。
ご存知のとおり、ゆっくりは口に入れたものに対して、非常に影響されやすい。
どういった理屈かは知らないが、ラムネを食べれば眠り、辛いものを食べれば餡子を噴き出し、
苦いものを食べればドス黒くなって死ぬなど、食用か否かは別として、口にした物によって様々な効果を表すナマモノだ。
それに目を着けた加工所は自分たちに都合の良い、特定の効果を持つ薬の開発に着手した。
その効果とは『ある特定の命令を忠実に守る催眠効果を出し、それを餡子を通じて末代にまで伝える』という物である。
それを野良には無理でも、飼いゆっくり全てに打ち込む事で、ゆっくりが捨てられる理由を無くそうとしたのだ。
そうすれば野良ゆっくりは知恵が回らなくなり、代を重ねていくうちに弱体化するという目論見だ。
今までに類を見ない、前代未聞の試み。当然、薬の開発は難航した。
なにせ催眠などという、科学者として受け入れがたいオカルトじみたものを必然的に起こそうというのだ。
人。動物。ありとあらゆる生物の中でも例を見ない類の研究を、人々は手探りで行わざるを得なかった。
しかし、人類はこれまでどんな不可能といわれる事でも、時間と、その英知によって叶えてきた。
大空を夢見て空を飛ぶ機械の鳥を作り出し、自らが住む星の姿を想像して宇宙に繰り出すロケットを作った。
そんな人間にとって、ゆっくりという不思議饅頭が作り出す壁は、あまりにも低すぎたのかもしれない・・・
開発開始から数年。様々な危機や思わぬところから来た応援、紆余曲折があってとうとう目的の物が完成した。
こうも完成が早かったのは皮肉と言うべきか、大量増殖したゆっくりのおかげだと言わざるを得ない。
研究者たちが死に物狂いで薬の開発に没頭している影で、
各地で捕らえられた野良ゆっくりたちが、研究材料や実験体として犠牲になっていたのだ。
「ゆぎぃぃぃぃ!!はやくはなせくそにんげんどもぉぉぉぉぉ!!・・・ゆん?
おいじじいども!あんまりれいむのきゅーとなあにゃるをじろじろみないでね!
あんまりじろじろみてるとおだいとしてあまあまをようきゅう゛っ!!! ・・・?
・・・あ、あぁ・・・でいぶのあにゃるさん・・・?なんで、あんよとまむまむまで・・・
いぃ゛っ!!?やべでぇぇぇ!!でいぶのあんごがぎまわざないでぇぇぇぇ!!!
ぎぼぢわる゛っ、い゛っ!!あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、ぁ゛っ、ぁ゛っ・・・」
「いだっ!な、なにするんだぜ。はやくこのへんなのをまりささまからはずすんだぜじじ、い゛い゛い゛い゛い゛!
ゆひゅー、ゆひゅー・・・・・・ごべんなざい。ばでぃざがなまいぎでじだ。だがらだずげ・・・
あ゛あ゛あ゛あ゛!!!あ゛づいぃぃぃ゛ぃ゛!! じぬ!!じんじゃうよぉぉぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「やべちぇ!!しょんにゃにょのみちゃくにゃいよ!!
や・・・ゆぶっ!!?・・・え゛っ。お゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!
げぇぇ゛ぇ゛っ!!ゆげっ!ゆげぇぇぇぇぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!
え゛っ・・・ぇ゛っ。ぼっ、ぼっちょ・・・ぼっちょゆっぐち・・・ちた・・・・・・ちゃ・・・」
「おぢびぢゃぁぁぁぁぁん!!どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!
でいぶだぢなんにぼわるいごどじでないのに!!くざざんたべでがんばっでいぎでだだげなのに!!
どぼじで・・・どぼじでにんげんざんはごんなひどいごど・・・・・・?
なに・・・?なんなの・・・?やめてね。こっち、こっちこないでね!!
やだ!れいむまだじにだぐない!!それのむとおぢびぢゃんみだいになっちゃうんでじょ!!?
やだ!!でいぶまだろくにゆっぐりじでないのに!だずげでね!!だずげでまりむぐぅ!!?
・・・ゆがあぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!あ゛っ、いぢゃっ!・・・・・・ねぎぃ!!!」
あるゆっくりは体を切り開かれて、生きたまま中枢餡をいじくられ、
あるゆっくりはコードを何十本も挿されたまま、電流を流したり高熱を加えられたりと様々な反応を計測する為にいたぶられ、
また、あるゆっくりは試作品であったり従来の薬であったりなどを投薬され、異常な反応を示して息絶えたりと、
モルモットよりも遥かに酷い扱いを受けた野良ゆっくりが、何百、何千、何万、何十万。
それこそ比喩表現でなく、本当に山が出来るぐらいに死んでいった。
人柱ならぬ饅頭柱に事欠かない加工所の研究は、これまでに見ないほど劇的に進んだ。
が、人とは到底思えないその所業。当たり前だが、そのやり方に反発する者たちもいた。
ご存知、自称ゆっくり権利保護団体。ゆっくりんピースである。
無論、研究は機密裏に進めていたが、そうそう完全な秘密など作れるわけがない。きっとどこからか情報が漏れたのだろう。
権利保護団体ならぬ愛護団体として世間に知られている同団体が、加工所のやり方を見逃すわけがない。
『加工所は、飼いゆっくりを操って野良ゆっくりを壊滅させるための薬を、野良ゆっくりを実験台にして開発している』
そんな事を叫びながら、ゆっくりんピースは加工所を徹底的に糾弾し、徹底抗戦の構えを見せた。
確かに今、加工所がやっていることは(目的はともかく)決して褒められた事ではない。
が、ゆっくりんピースの言っている事には事実で無い部分の多量に含まれている。
加工所はただ、飼いゆっくりをコントロールする事で捨てゆっくりを減らし、野良を弱体化させようとしただけだというのに。
しかし、たとえ少なかろうが事実も含まれている上に、ゆっくりんピースには結構な権力を持った人物も何人か属している。
まともに争えば、状況としてはかなり不利になるだろう。
このままでは見えざる力の圧力により開発を中止せざるを得なくなる上に、訴えられてえらい事になってしまう。
思わぬところで窮地に立たされた加工所を救ったのは、他ならぬ、市民たちであった。
ニュースを聞いた全国の有権者も、そうでない子供たちも、そろって加工所を支持し始めたのだ。
町で暮らす人々は、もう堪忍袋の尾がいつ切れるかといった状態だった。
当たり前のように公共の場を荒らし、数の多さを良いことに我が物顔で町中を闊歩する野良ゆっくり。
それどころか子供に手を出したりと人々の生活を脅かすようになったその存在に、皆もううんざりしていたのだ。
加えて、民衆を味方につけるにはゆっくりんピースの心象が悪過ぎた。
同団体は、今まで構成員の権力を傘に着て随分と無茶をしてきたのである。
野良ゆっくりを保護するような条例、ゆっくりの身の丈を一切無視した無茶苦茶なバッジ制度。
勿論迷惑なゆっくりへの対策など何もしない上に、果てはゆっくりによる市民権の獲得を検討するなど、
他の人間の意思を半ば無視してやりたい放題だったゆっくりんピースに、良い印象を抱くものなど居るはずがない。
対して加工所はというと、多少強欲な面もあったがゆっくりに関することであればいつでも真摯に対応してきた。
ゆっくりを何かに活かせないかと様々な製品を開発し、ゆっくりに何らかの価値を見出そうとゆっくりを使ったサービスも展開した。
ゆっくりにも人間にも迷惑がかかるゲスゆっくりを排除しようとし、みんなが住みやすい町を作ろうとした。
ゆっくりの為に何も考えず動いた者たちと、人とゆっくりの為に尽力した者たち。
それらをまともに見てきた人々がどちらに味方するのかなど、決まりきっているだろう。
そもそも、生きたゆっくりがゆっくりフード等の原料になっている事など、もはや周知の事実だ。
今更鬱陶しい野良饅頭が犠牲になったところでなんだというのか、というのが民衆の創意であった。
『そこまで文句を言うならお前たちが代わりに良い案を出してみろ、この能無しども』
声を揃えてそう言われたゆっくりんピースが空気を読んで口を閉ざしたのは、当然の流れであったといえるだろう。
なにはともあれ、無事にゆっくり矯正用の薬が完成した。
先ず、生産ラインが整うまではこれから出荷されるゆっくりに対して使う事に。
安定して供給できるようになったのであれば、希望者の飼いゆっくりに使う事に決められた。
尚、この薬は言ってみれば『ゆっくりになんでも好きな事を命令できる薬』と同じような物である。
使い方を違えれば危険極まりない代物になるので、加工所によって厳重に管理されている。
勿論、一般人にはそこまで危険な効果がある薬だとまでは詳しく知らされていない。
が、万が一出回って悪事などに使われればどうなるかわかったものではないから、という理由での処置だった。
加工所職員のみが取り扱う事を許された、この薬。
これを使ってゆっくりに刷り込ませる命令は、至ってシンプルな物。
『人間の言う事に逆わず、自分の欲は捨てて人間のためになる事だけを考えろ』 これだけだ。
薬の特性上、完全な効果を発揮するにはこのように非常に曖昧な命令が限界なのだが、問題はない。
必要とあれば親から子によるゆっくり特有の知識の継承や、自身の学習次第でそんなのはどうとでもなるからだ。
余談だが、この薬。実は致命的な弱点が一つある。
胴付き化が起きた際に、効果が無くなってしまうのだ。
おそらくは体組織が大幅に変わることによって薬の効果が変質、消滅してしまったのだろうが・・・。
しかも困ったことに、一度胴付き化を起こして無効化されると、耐性が付いて薬が効かなくなってしまう。
しかも薬の嫌な効果の部分はなくなっておらず、耐性は末代まで付き続けるようだ。
幸いというべきか、頻繁に胴付き化を起こすのはれみりゃ種のみである。
なので、先程言ったとおり胴付き化したれみりゃ種から生まれたれみりゃは、
飼いゆっくり用ではなく加工所で使う事にしたというわけである。
勿論飼いゆっくり用のれみりゃには薬は投与してある。
が、もし胴付き化を起こした場合。
以後子供を作る事は禁止され、性格矯正の際にそのれみりゃは去勢されてしまう運命にあるらしい。
話は戻るが、事実、薬を打たれたゆっくりが出回り始めた当初は
『おにいさんのためにすてきなこーでぃねいとをしてあげたわ!』
『おねえさんがよろこぶとおもってあかちゃんたっくさんつくったんだよ!!』
といった行動を完全な善意で行うバカも居たのだが、ブリーダーによる教育体制がとられる様になってからはそれも無くなった。
やむを得ずに一緒に暮らせなくなったゆっくり等に関しても、それを引き取る専門施設が出来た。
飼えなくなったゆっくりを無料で引き取り世話をし、次の里親探しを引き受ける夢のような施設。
それを立ち上げたのは、意外なことにゆっくりんピースだった。
先程の失態で、自分たちの立場の危うさがようやく少しは理解できたのか。
加工所が捨てゆっくりの問題にまで手が回らない事を知ると、すぐさまそれに飛びついた。
無論、それすらも面倒臭いと言ってゆっくりを捨てる愚か者は居たのだが、
それに対してゆっくりんピースは、その権力を使ってゆっくりを捨てる事に対して罰金を設けるという条例を各地に作り出した。
今までに比べると極めてまともな内容のそれは、今では野良ゆっくりが集まる主だった都市の殆どに制定されている。
イメージの回復には、それこそゆっくりんピースが総出で当たっていたようだが、
元はと言えば、あれこれ好き勝手やっていたのは上の方だけで、末端の構成員の多くは純粋にゆっくりを想う者達である。
単純に誠意を込めて色々な活動に勤めれば、理由も無く嫌う者などそうそう居ない。
他にもバッジ制度を見直したり、技術面で加工所に協力を依頼して恵まれないゆっくりを保護したりと、
以前のような暴走はある程度鳴りを潜め、結構な資金の消費と引き換えに幾ばくかの名誉を挽回したようだ。
ちなみに、加工所はというと今回の件で株を上げ、ゆっくり業界のシェアを独占するほどの勢いに乗った。
今では先程挙げたように、ゆっくりの駆除にも乗り出す市民の味方というイメージが板についたようだ。
こうして当初の目的は果たされ、これによって確かに人々は平和に楽しく暮らせるようになった。
それから更に十数年経って、再び小賢しさが抜けてただの愚かな饅頭に戻った野良ゆっくり。
何でも言う事を聞いて面倒をかけずに、子供が生まれるたびに賢くなってゆく自分のペット。
今では留守番を任せることすら出来るそれをわざわざ手放す者など、誰一人としていない。
が、当の飼いゆっくりはどうだろうか?
自分のしたいことも、それを考える事すらも出来ず、飼い主に媚びる毎日。
多くのゆっくりにとっては苦痛でしかない勉強を楽しいものと思い込まされ、
ゆっくりとしての本能であろう「ゆっくりしていってね!!!」の大声による挨拶ですら抑制される。
・・・幸せなはずがない。
ゆっくりとしての『ゆっくり』を八割方奪い去られ、あるのは人間によって与えられた施しのみ。
野良ゆっくりが夢見てやまないそれを手に入れるために野良ゆっくりでは到底耐え切れない苦行を強いられ、
それを辛いと思う自由さえも与えられず、今の自分は幸せなのだと言う脅迫概念じみたものに突き動かされる。
そんなものに心の底からゆっくりを感じられることなど、ゆっくりどころか人間にだって不可能だろう。
しかし、生憎と今存在するほとんどの飼いゆっくりがそういったものである。
現在飼いゆっくりの制度として、銀、金の二種類のバッジが存在する。
銀は、最低限人と暮らすために必要な知識を身に着けたゆっくりに送られるもの。
金は人と暮らすにあたって十分な、あるいはペットとしての役割以上を果たす事が出来るゆっくりに送られるもの。
現代のバッジ制度に銅バッジなどという物は無い。
何故なら銀バッジすら取れないゆっくりなど、ゆっくりではないゴミ、不良品と扱われるからだ。
そういった場合、そのゆっくりは『正常』なゆっくりと取り替えられて、加工所行きとなる。
「えーっと、こいつの個体番号は、確か3588270だったっけ・・・これでいいかな?」
「おにいさん!?まって!おいてかないでれいむをつれてかえってよ!!
れいむがんばったんだよ!たくさんおべんきょうしたんだよ!もっとがんばるから!!がんばりますから!!」
「はい、それではこれこちらで処分しておきますので。
すぐにそちらに代わりのれいむを送らせていただきます。では」
「頼むよ、ホント。そんな三ヶ月経ってバッジも取れない出来損ない掴まされるなんて、洒落にもなってないんだから」
「大変申し訳ございませんでした・・・」
「おにい゛ざん!!まっでよぉぉぉ!!れ゛いぶ“しょぶん”はいや゛ぶべら゛っ!!?」
「っせえぞ、ポンコツ!テメーみたいな役立たずのせいで何でこっちがクレーム聞かなきゃなんねえんだ!
第一テメエ一匹仕入れんのにいくら掛かってるかわかってんのか!アァ!?
わかるわけねえよなあ。なにせ銀バッジも取れないクズなんだからよ! 死ねや、このド腐れ饅頭が!!」
「ぶっ!いだ!や、やべ、ぶぅ!!ゆんや゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!いぢゃっ!いぢゃい゛!!!
ごべんなぢゃ!ごべんぢゃぁ!!!いぢゃいよ!だじゅげぢぇおにいぢゃん!!ゆびゃぁぁ゛ぁ゛!!!」
「一丁前の口きいてんじゃねえ!テメーみたいなゴミ、餌にして食わせんのも毒になるだろうぜ!能無しが!!」
「ゆびゃぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!ゆっぐぢぃ!!ゆ゛っぐぢぃぃぃぃ!!!」
・・・以上が、不良品として烙印を押されたゆっくりの末路である。
酷い言われ様ではあるが、このれいむは何もおかしくはない。
むしろ、そこら辺の野良や、一昔前の増長した飼いゆっくりに比べればよっぽど素直で良いゆっくりだと言えるだろう。
ただ、おぼえが悪過ぎた。
何時まで経っても朝起きれば大きな声でゆっくりしていってね!!!と元気に挨拶し、食事のときも少し散らかしてしまう。
それ以外は至ってまともな、普通のゆっくり。それがこのれいむだった。
だが、現代のゆっくり社会においてそれは許されない。
月に一回行われる銀バッジ試験。三回目の挑戦となるそれに落ちたれいむは、無情にも飼い主に見放された。
愛する主人から落胆と侮蔑の表情で見られ、不良品として返品され、腹いせに店員から暴力を受け・・・
最後にはそこら辺の汚らしい、あれほど近寄りたくなかった野良と一緒になって挽き潰される。
今ではバッジを取れなかったゆっくりの末路とは、そういうものになってしまった。
本来、こういった取り得の無い、または問題がある『不良品』たちは虐待専用の二流品として売られる。
そういった趣味を持つ人間のためのビジネスもきちんと存在するのだ。
が、いかんせんゆっくり自体が割といい加減な生き物である。
たま~に生まれたときに出来を測る検査をすり抜ける例外が存在し、それが売りに出されるということもあるのだ。
・・・まあ、そうでなくとも成績が悪ければ、例え検査済みでもなんでも処分というのがゆっくりの現実なのだが。
他の飼いゆっくりもなんとなく、そういった自分たちの立場を察しているのだろう。
だからこそ自分自身の幸せを考え、想いながらもそれを知らぬ間にすり替えひたすら人間に尽くす。
喜んでもらうため。可愛がられるため。捨てられないため。そして、何よりも生きるため。
それだけのためだけに頑張るゆっくりたちの姿に気づいている者は、誰一人としていない。
人間は勿論、ゆっくり自身でさえも。
実際、先程のまりさの飼い主はまりさをただの頑張り屋だと思っている。
まりさの飼い主も、催眠による強制力によって努力させられているなどとは露程も考えていない。
まりさの飼い主であるおにいさんとて、まりさを捨てようなどとは微塵も考えていない。
まりさが気に入ってる彼は、むしろ多少馬鹿になってしまう事があっても飼い続けようと思っていた。
ただ家に居てくれさえすればいいのだ。だって彼にとって、まりさはもう家族の様なものなのだから。
が、そんなおにいさんの心をまりさは知らない。知ったとしても、まりさは何も変えようとしないだろう。
なぜなら、その言葉をまりさは信じないから。
いや、正確には信じたとしても努力をやめる理由にはならないからだ。
まりさを含む、他の飼いゆっくりの存在する目的は、人のために尽くす事。・・・と、思わされている。
それはこれから何代先の子孫が生まれようが、まるで呪いの様に中枢餡に刻まれ続けるだろう。
かつてゆっくりと人間が思い描いた、理想の関係。
現在、それを築けている家庭は、一割にも満たない・・・
――――――――――
「もうやだよ・・・なんでこんなつらいゆんせいしかれいむにはないの・・・?
ゆっくりしたい・・・もしかいゆっくりなら。あんなにきれいなゆっくりになれれば・・・」
「てれびさんがおわったよ。わすれないようにしっかりおぼえておかないと・・・
おべんきょうか・・・。のらゆっくりなら、いまごろきっと・・・
はっ!いけないいけない!ばかなこといってないでおべんきょうしなきゃ・・・」
「にんげんざんやべでぇ!せっかくふゆさんをこせたんだよ!!がんばってみんなでえっとうっできたんだよ!!
そのこはまりさたちのたいせつな・・・「うー☆」い゛やぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!ばでぃざのあんごおぉぉ゛・・・」
貧しくも誰より自由な野良ゆっくりと、
豊かであってもそれに見合う以上の努力を、知らぬ間に強いられている飼いゆっくり。
そして静かに暮らすことだけを望んでいるにもかかわらず、それすらも許されない野生ゆっくり。
今、彼らが住むこの場所は、大半のゆっくりがそれぞれの境遇を思い、羨むある意味平等な世界。
しかし、皮が焼け付くような暑い夏の日でも、餡子の芯まで凍えるほど寒い冬の日でも、その温度差が縮まる事は無いだろう。
現在、ゆっくりは人間に管理、支配されつつある。
野良、飼い、野生、加工所産、虐待用。通常種、希少種。ありとあらゆるゆっくりが、人間の監視下に置かれている。
たしかに、どれだけ頑張っても人にはどうにもならない部分はあるだろう。
いくら念入りに駆除しようが野良ゆっくりは町から完全に居なくならないだろうし、検査漏れの『不良品』も出続ける。
山などに住むゆっくりだって人知れず、自然の淘汰による死饅頭を上回る勢いで数を増やし続けるに違いない。
が、それでもゆっくりの立場は変わらない。
野良ゆっくりは常に死と隣り合わせのゆん生を送って、満足にゆっくりなど知らずに死ぬものの方が多いし、
飼いゆっくりはいくら代が変わろうとも『人間に尽くす事が幸せである』という洗脳からは逃れられない。
野生のゆっくりだって慎ましく暮らしているだけでも、人間に見つかれば気まぐれで駆除されるだろう。
どんな立場でも、どんな種族でも、どこに居るゆっくりでも、きっとさして変わりなど無い。
今現在。ゆっくりにとって、この世界は生きにくいことこの上ない、辛く苦しいものであった。
・あとがき
なんという加工所無双。
実際にこんなに良心的な企業があったら苦労しないよね・・・。
そして本当は一つに纏めて出したかったのですが、容量制限のため泣く泣く前後編に。
なので、二つに分ける意味が無いとか繋ぎの部分が不自然だとかいった部分はスルーしてくれると有り難いです。
では、最後までご覧頂き、まことにありがとうございました!!
一応、小五ロリあき
・すいません。過去作品の番号、自分でも把握できてないんです・・・
※大変申し訳ございませんが、後編の話の中で入れ忘れた部分を発見しました!
しかもそれが無いと話が噛み合わなくなる、致命的なミスです。
よって、大変心苦しいのですが、後編を一度上げ直させて頂くことにしました。
評価、閲覧していただいた方々には、大変失礼な事を致しました。この場を借りてお詫び申し上げます。
本当に、申し訳ございませんでした。
お目汚し失礼致しました。では、続きをどうぞ。
「じゃあ、留守番頼んだな。晩御飯何がいい?」
「まかせてね。おにいさんがいないあいだ、おうちはまりさがまもるからね!
ごはんのことはきにしないでね!おにいさんのごはんなら、まりさはなんでもしあわせーっになれるよ!」
「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどなあ。
まあいいや、今日も期待してくれてていいから、ゆっくり待ってろよ。 いってきます!」
「いってらっしゃい。ゆっくりおしごとがんばってね」
ここは同町内の、とある一軒家。
今日も飼い主であるお兄さんが仕事に出かけるのを見送って、まりさの一日は本格的に幕を開ける。
「ふう。きょうは・・・てれびをつかっておべんきょうだね。
おにいさんとたのしくおはなしするには“よのなかのはやり”をしっておかないと・・・」
なにやら真剣な顔で小難しく言っているまりさであるが、言ってる事の内容はというと、要するにワイドショーの視聴である。
「けいさんともじのおべんきょうはもうすませたから、あいたじかんはおそうじするよ。
あぁ・・・やっぱりたんすさんのすきまにほこりさんが・・・むーしゃむーしゃ、げほっごほっ!!うぅ・・・」
さらに、部屋を跳ね回り、家具の隙間を見ては下を伸ばして噎せ返っている。
普通に見ているだけならゆっくりが暢気に部屋の動き回って馬鹿をやっている、ただの面白い光景なのだが、
まりさが言っている事も合わせて考えるならば、それもなかなか切羽詰っているように見える。
このまりさは両親に金バッジ持ちのゆっくりを持つ、生粋のエリートである。
ゆっくり好きの人間が飼い主の家庭に生まれたのだが、生まれてすぐに今の飼い主の元に貰われてきたという経歴を持つ。
生まれてから別れるまでのたった数日間で、まりさは本ゆんの意思に関係無く両親から色々な事を教わった。
人間に逆らってはいけない事。生意気な口を利けば捨てられて野垂れ死ぬしかなくなること。
そうならずに幸せなゆん生を送るには、努力を惜しまず色んな事を学ばなければならないこと。
食事の作法。飼い主の癇に障らない話し方。汚らしい野良への対応。
飼い主を飽きさせないだけの語彙力に、人間の日常生活に支障が出ないだけの一般常識。
そして、最低でも小学二年生程度の読み書きそろばん。
自分たちから離れて独りになってもそれらを完璧にして、自分達と同じような金のバッジを必ず取得するべきということ。
誕生して間もなく、まだ未発達で小さい中枢餡には到底覚えきれない量の言いつけを、
まりさの両親は本来我が子に注ぐべき愛情と引き換えに必死になって言い残した。
それでも、それは両親の自分に対する、愛情のカタチの一つだったのだろう。
そして生後からたった三日経ち。無常にもまりさは両親と引き離された。
別れの涙は無い。それは人間たちを困らせることだと、事前に口をすっぱくして言われたからだ。
結局まりさが親から受けた明確にわかる愛情とは、誕生直後にかけられた、祝福の「ゆっくりしていってね!!!」だけだった。
それから独りっきりになって。
運良くというべきか、それだけの量の言いつけをまりさは全て覚えていた。
覚えていただけでなく、それらを守ろうとする意志の強さも、守れるだけの優秀さもあった。
そう、まりさは優秀なゆっくりだったのだ。少なくとも、飼い主を十分に満足させられるくらいには。
しかし、まりさは一切の油断も、慢心もしない。
自分がゆっくりだという事をよく噛み締めながらも、ゆっくり特有の愚かさは決して見せまいとした。
もはやぼんやりとしか覚えていない両親の顔を思い出しながら、その言いつけを愚直に守った。
その甲斐あって、立派な成ゆっくりとなった今では、自慢の帽子についた金色のバッジが輝いている。
が、それでもまりさは満足しない。いや、満足などできない。
傍から見れば、ワイドショーを見るだけでお勉強など片腹痛くなるだろう。
しかし、まりさはこの上なく真剣なのだ。
難しい漢字が多すぎて新聞が読めないまりさにとって、テレビは唯一の情報源である。
テレビを見なければ世間の流れを知る手段が皆無となり、飼い主を落胆させる原因になりかねない。
だからこそ、暇潰しなどではなく、真剣にワイドショーを見てその内容を覚えるのだ。
全ては、この穏やかで、平和な暮らしを守るため。
自分が野良など寄せ付けずに、立派に留守番をやり遂げればきっと飼い主は喜ぶだろう。
自分が人間の話し相手として相応しくなれば、飼い主はもっと喜ぶだろう。
部屋を隅にある埃を食べて、いつも綺麗にしておけばもっともっと喜ぶだろう。
喜んでくれれば、きっと自分は捨てられない。捨てる理由を作らなければ、自分はきっと大丈夫。
「ゆふーっ、ゆふーっ。・・・だいじょうぶ、まだがんばれるよ。
はきだすとゆかさんがよごれちゃうから、がまんしてがんばらないと。
したがゆかさんにふれないように、ほこりさんだけをくっつけて・・・ゆーしょ、ゆーしょ・・・」
そう信じて疑わずにまりさは今日も、苦行とも言えるであろう『お勉強』に精を出す。
そこには、野良ゆっくりであれば誰もが羨む“ゆっくりした生活”など、どこにもない。
ただ、まりさは時々考える。
もしも自分が野良であれば。今の快適な生活を捨てる事になるが、
その代わりに自由気ままに生き、両親ともずっと一緒にいられたのだろうかと。
勿論、まりさは野良ゆっくりの生活が如何に苦しく、そして野良自体が如何に疎まれているのかを知っている。
もし親と一緒にいられても、成長する前になんらかの事情で死に別れるほうが多いという事も知っている。
そして、自分が野良ゆっくりとなってしまえば到底満足に生きることはできないだろうという事も、知っている。
今の生活が心底嫌というわけでも無い。むしろ、頑張った分だけ結果が出るのだから、それでいいと思っている。
さっきからまるで恐ろしい物の代表のように言っているが、飼い主だって嫌いじゃない。
両親の代わりに親切に接してくれているし、家族として自分を愛してくれている事もわかっている。
優しい飼い主に、十二分に用意された食事や寝床。現状に対して、特に不満といえる不満もない。
そんなまりさの暮らしは第三者からすれば羨ましい事この上ない環境であり、また、まりさもそう感じていた。
しかし、それでも考えてしまう。
知識でしか知らない、野良ゆっくりの生活を実際に味わえたなら、それはどんな気分なのだろうかと。
餌を自分で探さなければならない代わりに、思う存分しあわせーっと叫べる。
こんなに綺麗で大きいおうちが無い代わりに、いつでも思ったときに好きなところへ行ける。
人間や車、その他諸々の脅威から逃げなければならない代わりに、もう勉強などしなくて済む。
辛くとも、自らの行動を選べる自由。それは、今のまりさからしてみればとても贅沢な事に思えた。
だからといって、全てを捨てて野良になってしまいたいのか、と聞かれれば、それはNOである。
実際に、自分が思っているよりも野良暮らしはずっと厳しくて危険なのだという事を、まりさはちゃんとわかっているのだ。
第一、今更捨てられたとして何がどうなるというのか。
一番のメリットである両親との時間など、もはや取る事は叶わない。
野良ゆの餌となる生ゴミや雑草などまともに見たこともない自分が、苛酷な路上暮らしに適応できるとも思えない。
まりさは賢かった。
賢いからこそ、自分が野良になるということの愚かしさを、
根っからの飼いゆっくりである自分が捨てられてしまうという事の危険性を、
そして野良の生活と、今の生活。どちらを選んだほうが幸せでいられるのかを正確に理解してしまった。
いっそ自分が立場もわきまえぬ愚か者だったら・・・。最初から家族みんなが野良だったら・・・。
そんなありもしない『もしも』の話を想像して、そんな事など有りえないという事実にほんの少しだけ落胆し、
いつもまりさは飼い主のおにいさんを出迎えるため、全てを忘れて日課である笑顔の練習に戻るのだった。
・
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現代において、捨てゆっくりというのはほとんど存在しない。
なんらかの事情で飼えなくなったゆっくりを捨てるという風習など、最早とうの昔に消えているのだ。
理由は簡単。皆、自分が飼っているゆっくりを捨てる意味や理由など何も存在しないからである。
ゲス化してしまったゆっくりを捨てたり、言う事を聞かない馬鹿なゆっくりを捨てたり、
引越しなどのやむをえない事情があって連れて行けないゆっくりを捨てたりという光景は、確かに十数年前ならザラにあった。
結果、頭の悪い元飼いゆっくりから妙な偏った知識と小賢しさを手に入れた野良ゆっくりに、人々は更に手を焼かされる事になる。
が、人間とは学習する生き物である。
日に日に増長する野良ゆっくりや一向に減らない捨てゆっくりの数を減らすため、加工所の研究班は毎日毎日様々な案を検討した。
そして最終的に出した結論が、『中毒性のある薬物による催眠効果』であった。
ご存知のとおり、ゆっくりは口に入れたものに対して、非常に影響されやすい。
どういった理屈かは知らないが、ラムネを食べれば眠り、辛いものを食べれば餡子を噴き出し、
苦いものを食べればドス黒くなって死ぬなど、食用か否かは別として、口にした物によって様々な効果を表すナマモノだ。
それに目を着けた加工所は自分たちに都合の良い、特定の効果を持つ薬の開発に着手した。
その効果とは『ある特定の命令を忠実に守る催眠効果を出し、それを餡子を通じて末代にまで伝える』という物である。
それを野良には無理でも、飼いゆっくり全てに打ち込む事で、ゆっくりが捨てられる理由を無くそうとしたのだ。
そうすれば野良ゆっくりは知恵が回らなくなり、代を重ねていくうちに弱体化するという目論見だ。
今までに類を見ない、前代未聞の試み。当然、薬の開発は難航した。
なにせ催眠などという、科学者として受け入れがたいオカルトじみたものを必然的に起こそうというのだ。
人。動物。ありとあらゆる生物の中でも例を見ない類の研究を、人々は手探りで行わざるを得なかった。
しかし、人類はこれまでどんな不可能といわれる事でも、時間と、その英知によって叶えてきた。
大空を夢見て空を飛ぶ機械の鳥を作り出し、自らが住む星の姿を想像して宇宙に繰り出すロケットを作った。
そんな人間にとって、ゆっくりという不思議饅頭が作り出す壁は、あまりにも低すぎたのかもしれない・・・
開発開始から数年。様々な危機や思わぬところから来た応援、紆余曲折があってとうとう目的の物が完成した。
こうも完成が早かったのは皮肉と言うべきか、大量増殖したゆっくりのおかげだと言わざるを得ない。
研究者たちが死に物狂いで薬の開発に没頭している影で、
各地で捕らえられた野良ゆっくりたちが、研究材料や実験体として犠牲になっていたのだ。
「ゆぎぃぃぃぃ!!はやくはなせくそにんげんどもぉぉぉぉぉ!!・・・ゆん?
おいじじいども!あんまりれいむのきゅーとなあにゃるをじろじろみないでね!
あんまりじろじろみてるとおだいとしてあまあまをようきゅう゛っ!!! ・・・?
・・・あ、あぁ・・・でいぶのあにゃるさん・・・?なんで、あんよとまむまむまで・・・
いぃ゛っ!!?やべでぇぇぇ!!でいぶのあんごがぎまわざないでぇぇぇぇ!!!
ぎぼぢわる゛っ、い゛っ!!あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、ぁ゛っ、ぁ゛っ・・・」
「いだっ!な、なにするんだぜ。はやくこのへんなのをまりささまからはずすんだぜじじ、い゛い゛い゛い゛い゛!
ゆひゅー、ゆひゅー・・・・・・ごべんなざい。ばでぃざがなまいぎでじだ。だがらだずげ・・・
あ゛あ゛あ゛あ゛!!!あ゛づいぃぃぃ゛ぃ゛!! じぬ!!じんじゃうよぉぉぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「やべちぇ!!しょんにゃにょのみちゃくにゃいよ!!
や・・・ゆぶっ!!?・・・え゛っ。お゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!
げぇぇ゛ぇ゛っ!!ゆげっ!ゆげぇぇぇぇぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!
え゛っ・・・ぇ゛っ。ぼっ、ぼっちょ・・・ぼっちょゆっぐち・・・ちた・・・・・・ちゃ・・・」
「おぢびぢゃぁぁぁぁぁん!!どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!
でいぶだぢなんにぼわるいごどじでないのに!!くざざんたべでがんばっでいぎでだだげなのに!!
どぼじで・・・どぼじでにんげんざんはごんなひどいごど・・・・・・?
なに・・・?なんなの・・・?やめてね。こっち、こっちこないでね!!
やだ!れいむまだじにだぐない!!それのむとおぢびぢゃんみだいになっちゃうんでじょ!!?
やだ!!でいぶまだろくにゆっぐりじでないのに!だずげでね!!だずげでまりむぐぅ!!?
・・・ゆがあぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!あ゛っ、いぢゃっ!・・・・・・ねぎぃ!!!」
あるゆっくりは体を切り開かれて、生きたまま中枢餡をいじくられ、
あるゆっくりはコードを何十本も挿されたまま、電流を流したり高熱を加えられたりと様々な反応を計測する為にいたぶられ、
また、あるゆっくりは試作品であったり従来の薬であったりなどを投薬され、異常な反応を示して息絶えたりと、
モルモットよりも遥かに酷い扱いを受けた野良ゆっくりが、何百、何千、何万、何十万。
それこそ比喩表現でなく、本当に山が出来るぐらいに死んでいった。
人柱ならぬ饅頭柱に事欠かない加工所の研究は、これまでに見ないほど劇的に進んだ。
が、人とは到底思えないその所業。当たり前だが、そのやり方に反発する者たちもいた。
ご存知、自称ゆっくり権利保護団体。ゆっくりんピースである。
無論、研究は機密裏に進めていたが、そうそう完全な秘密など作れるわけがない。きっとどこからか情報が漏れたのだろう。
権利保護団体ならぬ愛護団体として世間に知られている同団体が、加工所のやり方を見逃すわけがない。
『加工所は、飼いゆっくりを操って野良ゆっくりを壊滅させるための薬を、野良ゆっくりを実験台にして開発している』
そんな事を叫びながら、ゆっくりんピースは加工所を徹底的に糾弾し、徹底抗戦の構えを見せた。
確かに今、加工所がやっていることは(目的はともかく)決して褒められた事ではない。
が、ゆっくりんピースの言っている事には事実で無い部分の多量に含まれている。
加工所はただ、飼いゆっくりをコントロールする事で捨てゆっくりを減らし、野良を弱体化させようとしただけだというのに。
しかし、たとえ少なかろうが事実も含まれている上に、ゆっくりんピースには結構な権力を持った人物も何人か属している。
まともに争えば、状況としてはかなり不利になるだろう。
このままでは見えざる力の圧力により開発を中止せざるを得なくなる上に、訴えられてえらい事になってしまう。
思わぬところで窮地に立たされた加工所を救ったのは、他ならぬ、市民たちであった。
ニュースを聞いた全国の有権者も、そうでない子供たちも、そろって加工所を支持し始めたのだ。
町で暮らす人々は、もう堪忍袋の尾がいつ切れるかといった状態だった。
当たり前のように公共の場を荒らし、数の多さを良いことに我が物顔で町中を闊歩する野良ゆっくり。
それどころか子供に手を出したりと人々の生活を脅かすようになったその存在に、皆もううんざりしていたのだ。
加えて、民衆を味方につけるにはゆっくりんピースの心象が悪過ぎた。
同団体は、今まで構成員の権力を傘に着て随分と無茶をしてきたのである。
野良ゆっくりを保護するような条例、ゆっくりの身の丈を一切無視した無茶苦茶なバッジ制度。
勿論迷惑なゆっくりへの対策など何もしない上に、果てはゆっくりによる市民権の獲得を検討するなど、
他の人間の意思を半ば無視してやりたい放題だったゆっくりんピースに、良い印象を抱くものなど居るはずがない。
対して加工所はというと、多少強欲な面もあったがゆっくりに関することであればいつでも真摯に対応してきた。
ゆっくりを何かに活かせないかと様々な製品を開発し、ゆっくりに何らかの価値を見出そうとゆっくりを使ったサービスも展開した。
ゆっくりにも人間にも迷惑がかかるゲスゆっくりを排除しようとし、みんなが住みやすい町を作ろうとした。
ゆっくりの為に何も考えず動いた者たちと、人とゆっくりの為に尽力した者たち。
それらをまともに見てきた人々がどちらに味方するのかなど、決まりきっているだろう。
そもそも、生きたゆっくりがゆっくりフード等の原料になっている事など、もはや周知の事実だ。
今更鬱陶しい野良饅頭が犠牲になったところでなんだというのか、というのが民衆の創意であった。
『そこまで文句を言うならお前たちが代わりに良い案を出してみろ、この能無しども』
声を揃えてそう言われたゆっくりんピースが空気を読んで口を閉ざしたのは、当然の流れであったといえるだろう。
なにはともあれ、無事にゆっくり矯正用の薬が完成した。
先ず、生産ラインが整うまではこれから出荷されるゆっくりに対して使う事に。
安定して供給できるようになったのであれば、希望者の飼いゆっくりに使う事に決められた。
尚、この薬は言ってみれば『ゆっくりになんでも好きな事を命令できる薬』と同じような物である。
使い方を違えれば危険極まりない代物になるので、加工所によって厳重に管理されている。
勿論、一般人にはそこまで危険な効果がある薬だとまでは詳しく知らされていない。
が、万が一出回って悪事などに使われればどうなるかわかったものではないから、という理由での処置だった。
加工所職員のみが取り扱う事を許された、この薬。
これを使ってゆっくりに刷り込ませる命令は、至ってシンプルな物。
『人間の言う事に逆わず、自分の欲は捨てて人間のためになる事だけを考えろ』 これだけだ。
薬の特性上、完全な効果を発揮するにはこのように非常に曖昧な命令が限界なのだが、問題はない。
必要とあれば親から子によるゆっくり特有の知識の継承や、自身の学習次第でそんなのはどうとでもなるからだ。
余談だが、この薬。実は致命的な弱点が一つある。
胴付き化が起きた際に、効果が無くなってしまうのだ。
おそらくは体組織が大幅に変わることによって薬の効果が変質、消滅してしまったのだろうが・・・。
しかも困ったことに、一度胴付き化を起こして無効化されると、耐性が付いて薬が効かなくなってしまう。
しかも薬の嫌な効果の部分はなくなっておらず、耐性は末代まで付き続けるようだ。
幸いというべきか、頻繁に胴付き化を起こすのはれみりゃ種のみである。
なので、先程言ったとおり胴付き化したれみりゃ種から生まれたれみりゃは、
飼いゆっくり用ではなく加工所で使う事にしたというわけである。
勿論飼いゆっくり用のれみりゃには薬は投与してある。
が、もし胴付き化を起こした場合。
以後子供を作る事は禁止され、性格矯正の際にそのれみりゃは去勢されてしまう運命にあるらしい。
話は戻るが、事実、薬を打たれたゆっくりが出回り始めた当初は
『おにいさんのためにすてきなこーでぃねいとをしてあげたわ!』
『おねえさんがよろこぶとおもってあかちゃんたっくさんつくったんだよ!!』
といった行動を完全な善意で行うバカも居たのだが、ブリーダーによる教育体制がとられる様になってからはそれも無くなった。
やむを得ずに一緒に暮らせなくなったゆっくり等に関しても、それを引き取る専門施設が出来た。
飼えなくなったゆっくりを無料で引き取り世話をし、次の里親探しを引き受ける夢のような施設。
それを立ち上げたのは、意外なことにゆっくりんピースだった。
先程の失態で、自分たちの立場の危うさがようやく少しは理解できたのか。
加工所が捨てゆっくりの問題にまで手が回らない事を知ると、すぐさまそれに飛びついた。
無論、それすらも面倒臭いと言ってゆっくりを捨てる愚か者は居たのだが、
それに対してゆっくりんピースは、その権力を使ってゆっくりを捨てる事に対して罰金を設けるという条例を各地に作り出した。
今までに比べると極めてまともな内容のそれは、今では野良ゆっくりが集まる主だった都市の殆どに制定されている。
イメージの回復には、それこそゆっくりんピースが総出で当たっていたようだが、
元はと言えば、あれこれ好き勝手やっていたのは上の方だけで、末端の構成員の多くは純粋にゆっくりを想う者達である。
単純に誠意を込めて色々な活動に勤めれば、理由も無く嫌う者などそうそう居ない。
他にもバッジ制度を見直したり、技術面で加工所に協力を依頼して恵まれないゆっくりを保護したりと、
以前のような暴走はある程度鳴りを潜め、結構な資金の消費と引き換えに幾ばくかの名誉を挽回したようだ。
ちなみに、加工所はというと今回の件で株を上げ、ゆっくり業界のシェアを独占するほどの勢いに乗った。
今では先程挙げたように、ゆっくりの駆除にも乗り出す市民の味方というイメージが板についたようだ。
こうして当初の目的は果たされ、これによって確かに人々は平和に楽しく暮らせるようになった。
それから更に十数年経って、再び小賢しさが抜けてただの愚かな饅頭に戻った野良ゆっくり。
何でも言う事を聞いて面倒をかけずに、子供が生まれるたびに賢くなってゆく自分のペット。
今では留守番を任せることすら出来るそれをわざわざ手放す者など、誰一人としていない。
が、当の飼いゆっくりはどうだろうか?
自分のしたいことも、それを考える事すらも出来ず、飼い主に媚びる毎日。
多くのゆっくりにとっては苦痛でしかない勉強を楽しいものと思い込まされ、
ゆっくりとしての本能であろう「ゆっくりしていってね!!!」の大声による挨拶ですら抑制される。
・・・幸せなはずがない。
ゆっくりとしての『ゆっくり』を八割方奪い去られ、あるのは人間によって与えられた施しのみ。
野良ゆっくりが夢見てやまないそれを手に入れるために野良ゆっくりでは到底耐え切れない苦行を強いられ、
それを辛いと思う自由さえも与えられず、今の自分は幸せなのだと言う脅迫概念じみたものに突き動かされる。
そんなものに心の底からゆっくりを感じられることなど、ゆっくりどころか人間にだって不可能だろう。
しかし、生憎と今存在するほとんどの飼いゆっくりがそういったものである。
現在飼いゆっくりの制度として、銀、金の二種類のバッジが存在する。
銀は、最低限人と暮らすために必要な知識を身に着けたゆっくりに送られるもの。
金は人と暮らすにあたって十分な、あるいはペットとしての役割以上を果たす事が出来るゆっくりに送られるもの。
現代のバッジ制度に銅バッジなどという物は無い。
何故なら銀バッジすら取れないゆっくりなど、ゆっくりではないゴミ、不良品と扱われるからだ。
そういった場合、そのゆっくりは『正常』なゆっくりと取り替えられて、加工所行きとなる。
「えーっと、こいつの個体番号は、確か3588270だったっけ・・・これでいいかな?」
「おにいさん!?まって!おいてかないでれいむをつれてかえってよ!!
れいむがんばったんだよ!たくさんおべんきょうしたんだよ!もっとがんばるから!!がんばりますから!!」
「はい、それではこれこちらで処分しておきますので。
すぐにそちらに代わりのれいむを送らせていただきます。では」
「頼むよ、ホント。そんな三ヶ月経ってバッジも取れない出来損ない掴まされるなんて、洒落にもなってないんだから」
「大変申し訳ございませんでした・・・」
「おにい゛ざん!!まっでよぉぉぉ!!れ゛いぶ“しょぶん”はいや゛ぶべら゛っ!!?」
「っせえぞ、ポンコツ!テメーみたいな役立たずのせいで何でこっちがクレーム聞かなきゃなんねえんだ!
第一テメエ一匹仕入れんのにいくら掛かってるかわかってんのか!アァ!?
わかるわけねえよなあ。なにせ銀バッジも取れないクズなんだからよ! 死ねや、このド腐れ饅頭が!!」
「ぶっ!いだ!や、やべ、ぶぅ!!ゆんや゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!いぢゃっ!いぢゃい゛!!!
ごべんなぢゃ!ごべんぢゃぁ!!!いぢゃいよ!だじゅげぢぇおにいぢゃん!!ゆびゃぁぁ゛ぁ゛!!!」
「一丁前の口きいてんじゃねえ!テメーみたいなゴミ、餌にして食わせんのも毒になるだろうぜ!能無しが!!」
「ゆびゃぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!ゆっぐぢぃ!!ゆ゛っぐぢぃぃぃぃ!!!」
・・・以上が、不良品として烙印を押されたゆっくりの末路である。
酷い言われ様ではあるが、このれいむは何もおかしくはない。
むしろ、そこら辺の野良や、一昔前の増長した飼いゆっくりに比べればよっぽど素直で良いゆっくりだと言えるだろう。
ただ、おぼえが悪過ぎた。
何時まで経っても朝起きれば大きな声でゆっくりしていってね!!!と元気に挨拶し、食事のときも少し散らかしてしまう。
それ以外は至ってまともな、普通のゆっくり。それがこのれいむだった。
だが、現代のゆっくり社会においてそれは許されない。
月に一回行われる銀バッジ試験。三回目の挑戦となるそれに落ちたれいむは、無情にも飼い主に見放された。
愛する主人から落胆と侮蔑の表情で見られ、不良品として返品され、腹いせに店員から暴力を受け・・・
最後にはそこら辺の汚らしい、あれほど近寄りたくなかった野良と一緒になって挽き潰される。
今ではバッジを取れなかったゆっくりの末路とは、そういうものになってしまった。
本来、こういった取り得の無い、または問題がある『不良品』たちは虐待専用の二流品として売られる。
そういった趣味を持つ人間のためのビジネスもきちんと存在するのだ。
が、いかんせんゆっくり自体が割といい加減な生き物である。
たま~に生まれたときに出来を測る検査をすり抜ける例外が存在し、それが売りに出されるということもあるのだ。
・・・まあ、そうでなくとも成績が悪ければ、例え検査済みでもなんでも処分というのがゆっくりの現実なのだが。
他の飼いゆっくりもなんとなく、そういった自分たちの立場を察しているのだろう。
だからこそ自分自身の幸せを考え、想いながらもそれを知らぬ間にすり替えひたすら人間に尽くす。
喜んでもらうため。可愛がられるため。捨てられないため。そして、何よりも生きるため。
それだけのためだけに頑張るゆっくりたちの姿に気づいている者は、誰一人としていない。
人間は勿論、ゆっくり自身でさえも。
実際、先程のまりさの飼い主はまりさをただの頑張り屋だと思っている。
まりさの飼い主も、催眠による強制力によって努力させられているなどとは露程も考えていない。
まりさの飼い主であるおにいさんとて、まりさを捨てようなどとは微塵も考えていない。
まりさが気に入ってる彼は、むしろ多少馬鹿になってしまう事があっても飼い続けようと思っていた。
ただ家に居てくれさえすればいいのだ。だって彼にとって、まりさはもう家族の様なものなのだから。
が、そんなおにいさんの心をまりさは知らない。知ったとしても、まりさは何も変えようとしないだろう。
なぜなら、その言葉をまりさは信じないから。
いや、正確には信じたとしても努力をやめる理由にはならないからだ。
まりさを含む、他の飼いゆっくりの存在する目的は、人のために尽くす事。・・・と、思わされている。
それはこれから何代先の子孫が生まれようが、まるで呪いの様に中枢餡に刻まれ続けるだろう。
かつてゆっくりと人間が思い描いた、理想の関係。
現在、それを築けている家庭は、一割にも満たない・・・
――――――――――
「もうやだよ・・・なんでこんなつらいゆんせいしかれいむにはないの・・・?
ゆっくりしたい・・・もしかいゆっくりなら。あんなにきれいなゆっくりになれれば・・・」
「てれびさんがおわったよ。わすれないようにしっかりおぼえておかないと・・・
おべんきょうか・・・。のらゆっくりなら、いまごろきっと・・・
はっ!いけないいけない!ばかなこといってないでおべんきょうしなきゃ・・・」
「にんげんざんやべでぇ!せっかくふゆさんをこせたんだよ!!がんばってみんなでえっとうっできたんだよ!!
そのこはまりさたちのたいせつな・・・「うー☆」い゛やぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!ばでぃざのあんごおぉぉ゛・・・」
貧しくも誰より自由な野良ゆっくりと、
豊かであってもそれに見合う以上の努力を、知らぬ間に強いられている飼いゆっくり。
そして静かに暮らすことだけを望んでいるにもかかわらず、それすらも許されない野生ゆっくり。
今、彼らが住むこの場所は、大半のゆっくりがそれぞれの境遇を思い、羨むある意味平等な世界。
しかし、皮が焼け付くような暑い夏の日でも、餡子の芯まで凍えるほど寒い冬の日でも、その温度差が縮まる事は無いだろう。
現在、ゆっくりは人間に管理、支配されつつある。
野良、飼い、野生、加工所産、虐待用。通常種、希少種。ありとあらゆるゆっくりが、人間の監視下に置かれている。
たしかに、どれだけ頑張っても人にはどうにもならない部分はあるだろう。
いくら念入りに駆除しようが野良ゆっくりは町から完全に居なくならないだろうし、検査漏れの『不良品』も出続ける。
山などに住むゆっくりだって人知れず、自然の淘汰による死饅頭を上回る勢いで数を増やし続けるに違いない。
が、それでもゆっくりの立場は変わらない。
野良ゆっくりは常に死と隣り合わせのゆん生を送って、満足にゆっくりなど知らずに死ぬものの方が多いし、
飼いゆっくりはいくら代が変わろうとも『人間に尽くす事が幸せである』という洗脳からは逃れられない。
野生のゆっくりだって慎ましく暮らしているだけでも、人間に見つかれば気まぐれで駆除されるだろう。
どんな立場でも、どんな種族でも、どこに居るゆっくりでも、きっとさして変わりなど無い。
今現在。ゆっくりにとって、この世界は生きにくいことこの上ない、辛く苦しいものであった。
・あとがき
なんという加工所無双。
実際にこんなに良心的な企業があったら苦労しないよね・・・。
そして本当は一つに纏めて出したかったのですが、容量制限のため泣く泣く前後編に。
なので、二つに分ける意味が無いとか繋ぎの部分が不自然だとかいった部分はスルーしてくれると有り難いです。
では、最後までご覧頂き、まことにありがとうございました!!
一応、小五ロリあき
・すいません。過去作品の番号、自分でも把握できてないんです・・・