ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko3324 存在価値
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『存在価値』 38KB
虐待 調理 野良ゆ 赤ゆ 捕食種 加工場 現代 以下:余白
『存在価値』
序、
静かな夜。生暖かい風が森の木々をざわつかせた。夜空を漂う雲が今宵の月を見え隠れさせる。
中規模程度の森の端に沿って小さな県道が走っていた。二車線すらない細い道。そこを二条の光が移動していく。運搬用のトラックだ。
舗装はされているものの、ところどころ穴が開いていたりするせいで走行中のトラックがガタガタと揺れる。
トラックのエンジン音で何も聞こえないが、コンテナの中にはすすり泣くたくさんのゆっくりたちがいた。
月明かりに照らされたコンテナの側面には黒塗りのペンキで「虹浦町保健所」との文字が見える。
積載されているのは、町で捕まえられた野良ゆっくりたちだ。或いは捨てられた飼いゆっくりたち。
「ゆっくりぃ……ゆっくりぃ……」
「おきゃーしゃん……、きょわいよぉ……しゅーりしゅーりしちぇぇ……」
「どぉして……こんなことにぃ……」
虹浦町には野良ゆっくり回収ボックスというゴミ箱があった。
その中に押し込められていた野良ゆっくりたちは、自分たちをそこから出してくれた保健所の職員に対して泣きながら感謝したのだ。しかしまた、今度は大きな箱の中。
野良ゆっくりたちは自分たちの境遇を嘆き悲しんだ。
生まれた時から野良ゆっくりで、町で静かに暮らしていただけだと言うのに人間たちは皆、自分たちを捕まえる。
どんなに謝っても、何も悪い事をしていないと主張しても聞き入れて貰えない。それどころか、その場で潰されてしまう仲間たちもいた。
しかし、どれだけ己の不遇を呪おうとも、それをどうにかする力は雀の涙ほども持ち合わせていない。
性質の悪い事に、野良ゆっくりたち自身もそれを十分に理解しているせいで尚の事救いが無いと言えた。
「ねぇ……これから、ありすたちはどうなるの……?」
「むきゅー……わからないわ」
トラックの中で交わされる会話。こんなやり取りがコンテナの中で延々繰り返されていた。
(れいむは……しってるよ)
コンテナの一番奥。隅っこで壁に頬を押し付けていた一匹のれいむが心の中で呟く。
そのれいむは同乗している野良ゆっくりと比べて小奇麗な身なりをしていた。黒い髪にはまだ艶があり、顔にも泥や埃が付着していない。
(れいむたちは、きっと……“かこうじょ”につれていかれるんだよ……)
ゆっくり視点で見ればなかなかの美ゆっくりであるれいむだったが、それに対して声を掛けるようなゆっくりは一匹としていなかった。
れいむの赤いリボン。それが半分近く破られている。それだけで、周囲のゆっくりにとってれいむはとてつもなく惨めな姿に映っているのだ。
泥にまみれ、生ゴミの匂いが纏わりつき、目玉を片方失っていても尚、れいむの姿を見て嘲笑するゆっくりたちがいる。
「おお、あわれあわれ……」
「ゆぷぷ……あれじゃ、こいびとさんもみつからないんだぜ」
そんなゆっくりたちの誹謗中傷はどこ吹く風と言った様子で、れいむが静かに目を細めた。
(おにいさん……れいむのこと、きらいになっちゃったの……?)
飼いゆっくりだったれいむは、ある日突然捨てられた。
れいむは虹浦町に住んでいたわけではない。そこから三十キロ近くも離れた虹黒町で、飼い主と幸せな生活を送っていたのだ。
目を閉じればすぐに思い浮かべることのできる「お父さん」と「お母さん」と「お兄さん」。みんな、とてもれいむを可愛がっていた。
それなのに、幸せな生活はいきなり終わりを告げたのである。
必死に知りたくもないことを教えられて、叩かれたり蹴られたりしながら死ぬような思いで取得した銅バッジ。加工所の事もその時に得た知識だ。
そんな大事な銅バッジを命よりも大切なリボンごと破られて毟り取られた。何がなんだかわからなかった。涙も出なかった。ただ、ただ呆けている事しかできなかった。
それから、れいむは車に乗せられた。いつも「家族みんな」でお出かけするのに使っていた自家用車。
れいむは少しだけ安心した。バッジがなくても一緒にいてもらえるのだと。
家族は河川敷に車を止めるとれいむを堤防の下に向けて転がした。草の上をころころと転がるのが気持ち良かった。何度もこうやって遊んでもらっていたのだ。
だから、今日もたくさん遊んでもらえると思い込んでいた。
しかし、いつまで経っても堤防の下に家族はやって来ない。
れいむはずっと待っていた。日向ぼっこをしたり、草を食べたり、虫を追いかけたりしながら暇をつぶしていた。
それから数時間。
夕日が山の向こうに沈んで行くのを見ながら、ようやくれいむは気付いたのである。
――自分は、捨てられたのだ……
と。
れいむはペットショップで虐待と言っても過言ではない程の学習を強要させられた。
自分のしたいことは何一つさせてもらえず、毎日毎日ゆっくりできない日々を強いられ、泣きながら眠りにつく日々。
そうまでして頑張って、ようやく与えられた幸せも呆気なく失ってしまった。
自分に幸せを与えたのも人間ならば、それを奪ったのもまた人間だった。
れいむは必死になって考えた。
――自分にとっての生きる意味とは何なのだろうか。自分の価値とは何なのか。
無論、そんな高尚な言葉を使って物事を深く考えていたわけではないが、餡子脳でれいむなりにそのニュアンスに近しい事を考えていたのである。
だから。
これから行くことになるであろう“加工所”で殺される前に……どうしても、知りたいのだ。
どうしても……。
そして、願わくば……自分が今日まで生きてきた理由を誰でもいいから自分に教えてほしかった。
一、
某日。早朝。
夜中のうちに搬入された野良ゆっくりたちとれいむは殺風景な白い部屋の中に入れられた。
緊張と空腹で疲弊しきった野良ゆっくりたちは、部屋の隅っこで一塊になって震えている。
れいむはその輪の中に入れてもらえなかった。もう片方の隅っこで一匹俯くれいむ。飾りのあるなしの隔たりは余りにも大きいものだった。
それから、コツーン……コツーン……という足音が扉の向こう側から聞こえてきた。
一斉に身構える野良ゆっくりたち。互いの頬を更に強く押し付け合った。成体ゆっくり、子ゆ、赤ゆ問わず泣きながら震えている。
ここがどういう場所かはわからずとも、何か嫌な予感だけはひしひしと感じているのだろう。
不意に部屋の扉が開く。
臆病な赤ゆが一匹、「ゆぴぃ?!」と飛び上がった。
一斉に部屋の中に入ってきた人間に目を向ける野良ゆっくりたち。れいむも、久しぶりに見た人間をぼんやりと眺めていた。
「多いな……。まったく、潰しても捨てても勝手に生えてくるゴミとか本当にタチが悪い……」
白衣を着た加工所職員が面倒臭そうに、用紙が挟まれたバインダーを取り出して、連れてこられたゴミの数を種別ごとに記入していく。
「ま、まりさたちは……」
「あ?」
「まりさたちは、かってにはえてこないのぜ……っ! ごみんさんでもないのぜっ!」
「だから何だ?」
「あ……あやまるのぜっ! ひどいことをいうにんげんさんは……あやま……ゆひぃぃぃぃ?!!」
生意気な口を利いたまりさに向けて一直線に歩み寄る職員。すぐにまりさのお下げを掴んで宙釣りにした。
お下げが千切れようとしているのか、ミチミチ……という不快な音が聞こえる。まりさは身を捩らせて苦痛に泣き叫んでいた。
そのまりさを床に向けて思い切り叩きつける。
まりさの顔面が床に激突した瞬間、まるで水風船が勢いよく弾けるように中身の餡子を四方八方にぶち撒けて爆散した。
飛び散った餡子が目を丸くして微動だにできない野良ゆっくりたちの顔にべちゃべちゃとかかっていく。
静まり返る部屋の中。
職員の声だけがやたらと大きく聞こえる。
「ゴミだし、勝手に生えてくるよ……。お前ら、ゆっくりなんていくらでもな……。ったく、数字が変わっちまったじゃねぇか」
まりさ種の項目に書いてあった数字を消しゴムで消して、消した数字から一匹減らした数字を新たに書く。
「どぼ……じで、ごんな゛ごど……」
「おい、そこのゆっくり」
「ゆ゛ッ!?」
潰される、と思ったのだろう。目をぎゅっと閉じて顔を下に向ける野良ゆっくりの一匹。
「喋るな。ゴミは喋らない」
「~~~~っ」
分かりました、と言うように口を真一文字に結んで額を地面に何度も打ち付ける。
一連のやり取りを見た野良ゆっくりたちはぼろぼろと涙を流しながら、小刻みに震えていた。泣き叫びたい気持ちを必死に抑える。声を出したら殺されるのだ。
職員は用紙に記入したちぇんとぱちゅりーの数字を鉛筆の後ろでコツコツと叩きながら溜め息をついた。
「チョコと生クリームが不足気味だったんだがな……」
それぞれ二、三匹ずつしかいないちぇんとぱちゅりーをじろりと睨み付ける職員。
それから近くにいた薄汚いれいむを思いっきり蹴り飛ばして壁にぶつけた。壁と濃厚なちゅっちゅをしたれいむが、「ゆ゛っ、ゆ゛っ」呻きながら痙攣を起こす。
「大して需要のない餡子は毎回、毎回、馬鹿みたいに持って来られるってのによ……」
職員が部屋を出て行く。
ガタガタと震える野良ゆっくりたち。どれ一匹として声を上げようとしない。ただ、ぽろぽろと涙を流すのみ。
しばらくして職員が別の男をつれて部屋に帰ってきた。
その男が大きな袋の中にちぇんとぱちゅりーを掴んで投げ込む。ちぇんとぱちゅりーであれば、成体、子などのサイズは関係ないらしい。
「むきゅぅぅぅぅん!! いや、いやよっ! たすけてちょうだいっ!!」
「わからないよーー!! こわいんだねぇぇ!!」
袋の中からちぇんとぱちゅりーの悲鳴が聞こえてくる。野良ゆっくりたちは皆、一様に俯いたまま歯をカチカチと鳴らしていた。
そんな残りの野良ゆっくりたちには目もくれずに部屋を出て行く男。ちぇんとぱちゅりーの悲鳴がだんだんと遠くなっていき、最後には何も聞こえなくなった。
しばらくして今度は別の男が部屋に入ってきた。今度は泣き叫ぶありすを手当たり次第に袋の中へと投げ込んでいく。
「とりあえず、ホワイトチョコはまだいいかな……。残りは全部、ミキサーにかけてゆっくりフードにするか……」
職員の言葉の意味がわからない野良ゆっくりたちは「ゆ? ゆゆ?」と互いの顔を見合わせている。
それから、職員が思い出したように呟いた。
「れみりゃにやる生餌を忘れてたな。何匹か持って行くとするか……」
“れみりゃ”という単語に何匹かの野良ゆっくりが反応する。それだけで目にじんわりと涙を浮かべるモノもいた。
職員が入り口の扉とは別の扉に手をかけてそれをゆっくりと開けると、すぐに中の電気をつけた。
そこは殺風景な小さな部屋。その中央には焼却炉を彷彿とさせるような機械が設置してある。
それを見た途端、一匹のありすがカタカタ震えて涙を流した。
「いや……ゆっくりできない……」
ありすの消え入るような声を聞いて、周りの野良ゆっくりたちがありすと同じ視点へと移動する。
そして。
「ゆ、ゆ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!」
「ゆ゛ぎぃぃぃ……っ! ゆっぐ……でぎ、な……っ、あ゛……ぁあ゛ぁ゛っ!!!」
その機械から放たれる強烈な死臭。人間には決して感知できないにも関わらず、鼻を持たないゆっくりたちはこの“ゆっくりできない臭い”を激しく嫌悪する。
それはフェロモンの一種であるとする研究者もいれば、残留思念の様なものであるとする研究者もいた。
理屈はともかく、目の前の機械から放たれる死臭に野良ゆっくりたちは、まるでおぞましい悪霊でも見ているかのように全身を震わせた。
職員が慣れた手つきで機械の中央付近にある小窓のようなものを開く。それに合わせてよりいっそう強くなる野良ゆっくりたちの悲鳴。
全ての赤ゆは漏れなくしーしーを漏らしていた。目はどこを見ているのかわからない。或いは、宙を漂うゆっくりの亡霊でも見えているのだろうか。
そこから始まる淡々とした作業。
職員は、れいむの揉み上げを、まりさのお下げを、ありすの髪を乱暴に引っ掴んで次々と機械の中に放り込んでいった。
「ゆぎゃあぁぁ!! だじで!! だじでぇ!! お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛ぅ゛ぅ゛ッ!!!」
「い゛や゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! じに゛だぐない゛ぃ゛ぃ゛!! れ゛い゛む゛、もっどゆっぐりじでたい゛よ゛ぉ゛ぉ゛!!」
外観に比べて機械の内側は狭い造りになっていた。
どうやら内部は中身を刳り抜かれた円柱のような形になっていて、その中心に巨大な柱が立っているようだ。
後から後から野良ゆっくりが放り込まれるものだから、内部はだんだんとすし詰めのような状況に変化してきている。
そんな時、一匹のありすの頬に鋭い痛みが走った。
「いた゛ぃぃ!! ありすの゛どがい゛はな゛お゛がお゛がぁぁぁ!!!」
「つ゛ぶれ゛る゛……どいで、ね……どいでねっ!! れ゛い゛む゛、あんよ゛が……い゛だいよ゛ぉ゛っ!!!」
柱。床。壁。その三カ所には巨大な刃が取り付けられていた。それらは全て内側を向いており、その三カ所に密着している野良ゆっくりたちの皮を切ろうとしているのだ。
加工所特製の巨大なジューサーミキサー。いや。ゆっくりミキサーとでも言うべきだろうか。
ここで挽き肉ならぬ挽き饅頭にされた野良ゆっくりたちは様々な製造工程を経て、固形のゆっくりフードへと生まれ変わる。
職員の動きを見ながら、れみりゃの生餌用に選ばれた五匹の野良ゆっくりは怯えていた。
その中には元・飼いゆっくりのれいむの姿も見える。
職員がおもむろに機械のスイッチをオンにした。
「ゆ?」
「ゆかが……ゆっくり、うごきはじめたよ……?」
真っ暗で何も見えないが床が回転し始めているは理解できた。そして、少しずつ両側の壁が内側に向けて迫ってくる。
「え゛ぎゅぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ?!! れ゛い゛む゛……づぶれ゛ぶりゅあ゛ぁ゛ぁ゛ッ?!!」
柱と壁の中央付近にいた野良ゆっくりたちが同胞たちによって押し潰されて絶命した。
柱や壁に頬がくっついていた野良ゆっくりたちは、鋭利な刃が少しずつ体内へ潜り込んでくるという恐ろしい感触に、この世の物とは思えない叫び声を上げている。
やがて、中央の柱が時計周りに。周囲の壁が反時計周りに回転し始めた。その回転速度が徐々に上がっていく。
そこからはもう何が何だかわからなかった。
皮が千切れ飛んだ。流出した中身がまるで命を得たかのように所狭しと暴れ回る。弾け飛ぶ目玉。涙か、しーしーか、涎か……とにかく大量の液体。
それらが全てが一つになって、また滅茶苦茶に引っ掻き回されていく。
ほとんどゲル状にまで変質してしまった大量の野良ゆっくりたちの成れの果てが、ミキサーの中で無言のままダンスを踊り続けていた。
回り、飛び、くっついては離れてを繰り返し、また勢いよく爆ぜる。
野良ゆっくりたちの絶叫は轟音に掻き消され、流した涙はどれのものとも分からぬ皮や中身によって埋め立てられる。
機械は程なくして停止した。もう、何も聞こえない。不気味なまでの静寂。
外側からは見えないが、体をぐちゃぐちゃに引き裂かれて中身を全て流出させてしまった野良ゆっくりたちが、ペースト状になって機械の底に溜まっていた。
死ぬ最後の最後まで足掻き苦しんだのだろう。新たな死臭が生かされた命に語りかけてくる。
気丈に仲間たちの最期を見つめていたれいむも、中身を吐き出しそうになるのを必死に抑えながら無言で泣き続けている。
その傍らでまりさは白目を剥いて気を失っていた。
「お前らは全部れみりゃに食わせる。良かったな。今、死んだ連中より少しだけ長く生きることができて。……ゆっくりすることができて、か?」
「ゆひっ……ゆひぃ……」
顔を横にふるふると振って厭だ嫌だイヤだと必死にアピールする野良ゆっくりたち。
どれだけ泣かれても、叫ばれても、嫌がられても、それで職員の気持ちが揺らぐ事はないのだ。職員歴十五年。十五年も職員はこうしてゆっくりを殺し続けてきた。
「ゴミの言葉に耳を貸すほど優しくないんだよ、俺は」
振り返らずに言葉だけ発する。今度は倉庫の扉を開けてそこから約一メートル四方のアクリルケースを取り出した。それを備え付けてあった台車に載せる。
職員が野良ゆっくりたちに近づくと、それだけで数匹がしーしーを漏らした。自分たちが何をされるか分からないのが恐ろしくてたまらないのだろう。
逃げようとするがあんよが動かない。それどころか何も考えることさえできなかった。
れいむも職員に訊きたいことがあったが訊くことができないでいた。喋っただけで殺されるかも知れない。それがれいむの言葉を詰まらせる。
どれもが何かを言いたそうだった。しかし、何を言うでもなく一匹ずつアクリルケースの中に入れられていく。
もちろん、れいむもその中に入れられた。
ガラガラと音を立てて進む台車の上は、コンテナの中ほど乗り心地は悪くなかったが、生きた心地がしなかった。
二、
台車に載せられたれいむたちは、職員によって開けられた扉の向こう側へと進み、新たなフロアへとやってきた。
「んっほぉぉぉ!!! まりさの……まむ、ま……ずっぎ……もう、い゛や゛……ずっぎり゛じだぐ……ゆぅぅ……ず、ずっぎり……じぢゃ……」
「ゆぎゃぁぁ!! あでぃずぅぅ!!! もうやべでぇぇ!! までぃざ、もう゛、ちびちゃんうみ゛だぐな゛ぃぃ……ゆぁぁ……す、すっぎ……」
「「ずっぎりぃぃ!!!」」
こんなやり取りがフロア全体から聞こえてくる。
れいむたちは自分たちの目を疑った。
台車に載せられたものと同じようなアクリルケースがフロア全体に敷き詰められている。
アクリルケースは二匹につき一箱となっているようで、傍から見れば透明のロッカーか、或いはカプセルホテルを彷彿とさせた。
「ゆああぁぁ……まだ、ぢびぢゃんがうばれぢゃう゛ぅぅぅ」
「まりさぁ……ごべんなざい、ごべんなさいぃぃい!! ありず、からだがいう゛ごどをぎいでくれ゛ないの゛ぉぉ……」
先程、すっきりー!を行っていたまりさの額からにょきにょきと茎が生えて、そこに赤まりさと赤ありすが実る。
まりさはうつ伏せのような姿勢でアクリルケースの一番手前に固定されているようだった。しかも、尻はありすに向けて突き出すような形になっている。
茎は、アクリルケースに開けられた小さな穴から外側に向かって伸びていた。まりさの額はその小さな穴に合わせて固定されているようだ。
「ちびちゃん……っ!! ゆぐぅ……ひっく、がわいい゛よぅ……ゆっぐりでぎる゛よぉ……」
泣きながら笑うまりさ。
れいむたちにはまりさのこの行動が理解できなかった。
あんなに可愛いちびちゃんを見て、どうして涙を流す必要があるのかと。この地獄でも新しい命を芽吹かせることができる。素晴らしいことではないのだろうか。
不意にどこからともなく、やはり白衣を着た男性職員が現れる。
まりさはその男性職員の姿を見て、顔をぐしゃぐしゃにしながら力の限りに叫び声を上げた。
「お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!! ぢびぢゃんをごろざな゛い゛でぐだざい゛ぃ゛い゛ぃぃぃい!!!」
「――――!?」
台車の上でれいむたちが驚愕の表情に変わる。
まりさを後ろから犯し続けていたありすも、ぼろぼろと涙を流していた。先ほどの興奮が未だに醒めぬのか、頬を染め、舌を垂らし、虚ろな瞳で男性職員を見つめている。
「ゆんやぁぁ! おきゃーしゃん、にんげんしゃんが、こっちにくりゅよぅ! たしゅけちぇにぇ!!」
「ぢびぢゃん……ごべんね……ごべんねぇ……」
「お、おきゃーしゃ……?! なにをやっちぇりゅにょ?! はやきゅ、にげちぇにぇ!」
「ときゃいはじゃにゃいわぁぁ! ありしゅたち、ゆっくちできにゃえびゅぇッ?!!!!」
「う、うわあああぁぁぁぁ!!!」
赤ゆは、茎からぶら下がっているだけの存在だ。
自分で身を守ることはおろか、動くことすらできない。母親ゆっくりが動かなければ、その場から離れられないのだ。
だから、赤ありすは呆気なく潰されて死んだ。僅か十秒弱の命。ただ、親指と人差し指で挟まれて潰されただけ。生まれてきて自分の身に起きたのは、たったのそれだけ。
初めての挨拶もできず、食べることも、笑うことも、眠りにつくこともできずに、赤ありすは死んだ。
同じ茎に実っていたもう一匹の赤ありすも同様にして殺された。
茎に残った二匹の赤まりさが絶句してガタガタ震えている。茎に実ったばかりでどこにそんな水分があるのかと問うほどに、涙としーしーを無様に垂れ流していた。
「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! あ゛でぃずのどがいはな゛ちびぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「何回目だよ、その反応。いい加減慣れろよ。うるせぇ糞ゆっくりが」
「ひどいよ゛ぅ……ひどずぎる゛よ゛ぉ……。ちびちゃん、なんに゛も、じでな……わる゛い゛ごどだげじゃなぐで……な゛ん゛に゛も゛じでな゛い゛のにぃぃぃ!!!」
まりさがぎゅっと瞼を閉じて全身を震わせながら泣く。
ありすはうわ言のように「ごめんね、ごめんね」と繰り返していた。
ここは、食用ゆっくりの養殖部屋。このアクリルケースの中に入れられた二匹一組のゆっくりは、赤ゆ製造機だ。
アクリルケース内の床はスイッチ一つで小刻みに振動し、中に入ったゆっくりをあっと言う間に発情させる。
まりさ同様の姿勢で固定された各種ゆっくりの後ろには常にありすが入れられており、興奮状態になったありすがもう一匹を犯して子供を作るという仕組みだ。
良く見れば“受け側”のゆっくりの頬には全てチューブが突き刺さっている。あのチューブから常に栄養が送られてくるため、何度すっきりー!しても疲れることがない。
結果、栄養不良で死ぬこともできず、毎日ひたすら望まぬすっきりー!を繰り返し、実った赤ゆは目の前で潰されるという凄惨な毎日を過ごす羽目になっているのだ。
まず、ここで実った赤ありすの九割が生まれると同時に潰される。
ありすは他のゆっくりよりも性欲が強いということで、常に“責め側”のポジションだ。すっきりー!を繰り返せば、赤ありすが溢れてしまうことになる。
だから、赤ありすは間引くのだ。そうすることによって、残ったありす種以外の赤ゆに多く栄養が行き渡る。つまり、成長速度が速くなるのだ。
もちろん、ありすを養殖するためのアクリルケースも存在しており、そこでは赤ありす以外の赤ゆが生まれてすぐに潰される。
日進月歩でゆっくりの研究は続いているが、未だに人工的なゆっくりの繁殖に成功した例はない。
だが、こうして一度に発情させて一度にすっきりー!させて、一度に赤ゆを実らせれば意外と採算は取れるものである。
アクリルケースの数は総数で三百箱を数えるほどだ。二匹ずつ赤ゆを養殖したとして、一日に六百匹もの赤ゆが“生産”されることになる。
大体、母親ゆっくりの額に茎が実ってから三時間ほどで栄養供給が安定してくるのか、赤ゆは「ゆぴぃ」と眠りにつく。
その頃合いを見計らって、母親ゆっくりから茎を引き抜き、それを今度は砂糖水の中に突っ込むのだ。
大量の茎が刺された砂糖水の入った容器を見ると、まるで生け花ならぬ生け赤ゆとでも表現できそうな様子だ。
「や゛べでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛のおぢびぢゃん、づれでいがない゛でぇぇぇぇぇ!!!!」
今度は別のゆっくりが悲痛な声を上げた。
先程、すっきりー!が終わったばかりのアクリルケース列とは、別の列から聞こえた絶叫である。
こちらの列の茎に実った赤ゆは三時間が経過して安定期に入ったのだろう。
数人の職員が手分けして茎を指で触ったり、赤ゆの頬をぷにぷにしたりして完全に安定しているかどうかを判別する。それは彼らの熟練した赤ゆの観察眼が成せる技だった。
「おきゃーしゃあぁぁん!!! たしゅけちぇぇぇぇ!!! れーみゅ、はにゃれちゃくにゃいよぉぉぉぉ!!!!」
「にんげんざん゛ん゛ん゛ん゛!!! お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ゆっぐりじだごにぞだででみぜばずがら゛あ゛ぁ゛ああぁ゛!!!」
「育てなくていい。お前らはガキを造り続ければそれでいいんだよ」
「どぼじでぞんな゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!?」
「こんなの育てて誰が得するっていうんだよ。お前らが馬鹿の一つ覚えみたいに“ゆっくりできる”とか言うだけじゃねーか」
「おいコラ新入り。いちいちゆっくりの話を聞くんじゃない。そんなことより一本でも多く茎を抜け」
「す、すいませんっ」
こうやって新人はたまにゆっくりの言葉に反応してしまう。
しかし、ゆっくりを生き物だとは決して思ってはいけない。ここにいるのは赤ゆを造るためだけの道具なのだ。
メンテナンスは週に一回行われている。とは言っても、二匹の後頭部に注射器を突き刺してオレンジジュースを流し込むだけの簡単な作業ではあるが。
一本、また一本……と茎が引き抜かれるたびに母親ゆっくりが絶叫を上げる。
ワンパターンな反応。いい加減慣れろと言われても慣れるわけがないだろう。
無理矢理子供を作らされ、生まれた傍から半分が潰されて、三時間後には茎ごとどこかに連れていかれる。
「ゆ、ゆひっ、ゆふへ……ぱ、ぱぱぱ、ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽーーーーーー!!!」
「う、うわぁぁぁ!! まりさ! まりさ! しっかりしてよぉぉぉ!!!!」
中にはこうして発狂してしまうゆっくりも当然ながらいた。それを見つけた職員がすぐに内線で別の部署と連絡を取る。
「はい。三十六番のまりさ、発狂しました。こちらで処分しておきますので替えのまりさを用意してください」
それから気が狂ったまりさは職員によってあっと言う間に処分され、替わりに別のまりさがすぐにアクリルケースの中に入れられた。
こちらの列の茎の回収が全て終わったのだろう。
職員の一人がスイッチを押して、床を小刻みに振動させる。そこから始まる醜悪な性の営み。
無数のゆっくりの喘ぎ声と、互いの皮がぶつかり合う乾いた音がフロア全体に響き渡る。
そして、そこかしこから「すっきりー!」という絶望に染まった絶頂から漏れ出す歓喜の声が上がり始めた。
「も゛う゛……ずっぎり、じだぐない゛……。ぢびぢゃん……う゛み゛だぐ、な゛い゛……ゆぐっ、ひっく……」
泣こうが喚こうが、ゆっくりたちは子供を作り続ける。眠ることすら許されず、ただひたすらに。
れいむたちは台車の上で泣いていた。こんな理不尽は話があるものか、と悲しみに打ち震えていた。
そんなれいむたちに、台車を押し始めた職員が優しく語りかける。
「な? お前らは勝手に生えてくるだろ?」
生えては引き抜かれを繰り返す赤ゆの実った茎を横目で見ながら、ゆっくりたちは言葉を失って俯いた。
しかし、れいむだけはぽそりと呟いた。
「かってには、はえてこないよ……」
「あ?」
「あのはこのなかにいる、ゆっくりたちががんばってるから……っ! かけがえのないちびちゃんたちがうまれるんだよっ!!! そんないいかたしないでねっ!!!」
「れ、れいむ……」
泣きながら叫ぶれいむを見ながら、台車に載せられたゆっくりたちが涙を流す。
職員はそんなゆっくりたちのくだらない茶番に声を出して笑った。それに対してれいむが威嚇を始める。この地獄のど真ん中で泣きながら頬を膨らませた。
「かけがえのない命があんなにポンポン生まれるわけねーだろ。饅頭の癖に命がどうとか夢見てんじゃねぇよ」
それっきり、れいむは黙りこくってしまった。何を言っても自分たちの言葉は通らない。それを理解して、また何か反論しようという気にはならなかった。
無情にも繰り返される母親ゆっくりと赤ゆの絶叫を後方に聞きながら、れいむたちはようやくこの場所から次のフロアへと移動をさせられた。
三、
台車に載せられたまま、加工所の更に奥へと入っていく。
透明な壁で仕切られた長大な部屋を分断する中央の廊下部分を進む職員と野良ゆっくり一同。
周囲を見渡した野良ゆっくりたちが再び息を呑む。
「あ゛づい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!!」
「あ゛ん゛よ゛が……ゆ゛っぐり゛でぎな゛ぃよ゛ぉ゛ぉお゛おおぉ゛!!!!」
壁からゆっくりが五匹ずつ一列に整列した状態で下ろされる。それぞれの頭は金属製のアームで挟まれ身動きができないようになっていた。
下ろされた先は黒い鉄板。鉄板はゆっくりたちのあんよを焼くためのものだ。あんよは、機械的に十五秒間ずつ高熱で一気に焼き上げられる。
垂れ流される涙としーしーがジュワジュワと音を立て蒸発していくのを見れば、あの鉄板がいかに高温であるかが理解できるだろう。
鉄板の上でゆっくりたちは自分たちの顔の皮が引き千切れるのではないかと思うほどに、身を捩らせていた。しかし、それ以上の動きは頭のアームが許さない。
まさか自分の顔を引き千切るわけにもいかないので、抵抗はすべて虚しく、最後には並んだ五匹が五匹ともあんよの機能を完全に喪失させられるのである。
この仕掛けは壁に六ヶ所設置されており、大体三十秒間隔で三十匹のゆっくりが同時にあんよを焼かれる仕組みとなっていた。
十五秒間が過ぎると、アームは再び放心状態……或いは完全に意識を失っているゆっくりたちをその傍らで流れているベルトコンベアへと移動させる。
無言のまま、ベルトコンベアの上を流れて行くあんよが炭化したゆっくりたち。
中には、あんよを徹底的に焼き上げられても必死に周囲の職員に助けを求めるゆっくりもいた。
「だずげでぐだざい゛ぃ゛ぃ゛!! あ゛ん゛よ゛がう゛ごがな゛い゛ん゛でずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ばでぃざは、も゛っどゆ゛っぐり゛じだい゛んでず゛ぅ゛ぅ゛!!」
「お゛でーざんっ!! あ、あぁぁ゛っ!! お、お゛に゛ぃ゛ざん゛っ!! だずげ……む、むじじないでぇ゛え゛ぇ゛ええぇえ!!!」
もちろん、誰も耳を貸さない。雑音にいちいち答えてやるほどこの職場は暇な場所ではなかった。中には耳栓をつけて仕事をしている者もいる。
ベルトコンベアの先には分岐点があり、そこには二人の職員が立っていた。
れいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種、みょん種。それぞれ専用のベルトコンベアが用意されているのだ。
職員は一緒くたにベルトコンベアに載せられたゆっくりたちをを種類ごとに分けていくために配置されている。
「あ゛でぃずのぎゅーでぃぐる゛ながみ゛のげざんがぁあぁっ!!!」
「までぃざのお゛ざげざんが、ぢぎれ゛る゛の゛ぜぇぇぇぇ!!!!」
丁寧に扱う必要はなかった。それぞれが髪を掴まれて別のベルトコンベアに載せられていく。
ゆっくりの状態など、この後関係なくなるのだ。とりあえずは“中身を仕分けできればそれでいい”のである。
それぞれの種族ごとに流されていくベルトコンベアの先にはトンネルのようなものがあった。そのトンネルの入り口には赤い光が見えた。
トンネルの中は暗い。この先に何があるか分からない。恐ろしくてたまらないのだろう。ベルトコンベアの上でちょろちょろとしーしーを漏らすゆっくり。
程なくしてそのトンネルの中に入っていく。赤い光にゆっくりが触れた瞬間、音を立てて機械が動き始めた。
「ゆひぃぃぃっ?!!」
勢いよくしーしーを前方に発射させる。動かぬあんよを呪いながら、顔の部分だけを少しでも後ろに後ろにと持っていくが無駄な抵抗だった。
「がひっ!??」
いきなり。頭頂部に何かが突き刺さったかと思えばそれがあんよを貫いて貫通した。
瞳孔が開く。全身から汗が噴き出すのを感じた。眩暈。吐き気。まるで脊髄にナイフが刺さったかのようような衝撃と虚脱感。
体全体が小刻みに震える。身を捩らせようとすることもできなかった。瞬きをするだけで全身に痛みが走る。
そして。
「ゆ゛べばあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ??!!!」
貫通していた何かが体内で二つに分かれて一気に拡がった。突き刺さっていた底部が勢いよく引き裂かれ、顔を真っ二つにされる事でそのゆっくりは死んだ。
行き場を失った餡子がぼとぼととその真下に設置してあったトレイに落ちて行く。
他の場所でも同様に、カスタードや生クリームが次々とトレイに載せられていった。
このエリアは“ゆっくりの中身を抉り出して食用品として回収”していくための場所。だから、髪が千切れようがあんよが炭化していようが関係ないのである。
ベルトコンベアに載せられたゆっくりは、その中身にしか価値を見出されないのだ。いや、見出されるだけマシというものかも知れない。
「か、かわいそうなんだぜっ! みんな、いやがってるのぜっ!! やめてあげるのぜぇっ!!!」
先程のフロアでのれいむの勇気にほだされたのか、台車に載せられたまりさが涙ながらに叫んだ。
その声を聞いて、加工所内にいたゆっくりたちが同じように声を上げる。
「だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛、い゛ぎでい゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」
「ゆっぐりじだいだげな゛のに゛ィィィイィィ!!!」
「ごんな゛じにがだはいや゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!! ずぎな゛ゆっぐりどい゛っじょに、え゛いえ゛ん゛にゆっぐりじだいよ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛ぉぉお゛ぉ゛!! み゛ん゛な゛、なんに゛も゛わる゛いごどじでないの゛にぃいぃぃ゛い゛いぃぃぃ!!!!!」
絶望の合唱。心の底から絞り出されるかのような強い懇願。
それでも、与えられるモノと言えば、焼かれて、貫かれて、引き千切られて。そんな苦痛と、決して穏やかであるとは言えない凄惨な“死”のみ。
このエリアで加工されるゆっくりは、全て加工所産のゆっくりである。ここで殺されるためだけに生まれてこさせられて、今日まで生かされてきただけの存在。
それ故に野良ゆっくりのような不衛生さは皆無だ。
今、れいむたちを載せた台車がある渡り廊下と生産ラインの部屋が完全に仕切られているのは安全衛生のためである。職員たちも白衣にマスク、帽子、滅菌手袋と完全装備だ。
阿鼻叫喚の地獄の中、台車が移動を始める。
「だずげでぇぇぇ!! れいむぅぅぅ!!! だずげでよぉぉぉ!!!」
ベルトコンベアを流れるゆっくりと目が合ったれいむが助けを求められた。しかし、どうすることもできない。
そのゆっくりはずっとれいむの事を見ていた。れいむも、目を逸らすことができなかった。
結局、お互いの姿が見えなくなるまで、二匹はずっと視線を合わせていた。
うなだれたままのれいむたちを載せた台車がすぐ隣のフロアへと移動する。
そこでもまた、甲高い悲鳴がれいむたちを迎えた。
「ゆんやあぁぁぁぁ!!! やじゃ、やじゃ、やじゃあぁぁぁぁ!!!!」
「やめちぇにぇっ!! やめちぇにぇっ!! ゆっくちできにゃいよぉぉぉぉ!!!!」
先程のフロアは、成体ゆっくりの食品加工を行う場所だった。対してこのフロアは、赤ゆっくりの食品製造場所だったのである。
このフロアには先ほどのベルトコンベアのようなものはないが、代わりに内部がホテルの厨房のような作りをしており、壁には無数の調理器具が掛かっていた。
室内は熱気に包まれており、ここで働く職員たちは額にうっすらと汗を浮かべている。
フロアの一画には巨大な鍋が設置してあった。傍らには大量の赤ゆが生きたまま入った透明なボウルが見える。その中の赤ゆたちは喉を枯らさんばかりの勢いで泣いていた。
おもむろに職員の一人がそこに近づく。その姿を見た赤ゆたちはボウルの中で一斉にしーしーを噴射した。ボウルが職員によって持ち上げられると、悲鳴は更に大きくなった。
れいむたちは台車の上からその様子を固唾を飲んで見守っていた。これから起こるであろう何かに対して嫌な予感だけが餡子脳裏をよぎる。
そして、その嫌な予感は見事に的中した。
巨大な鍋。
れいむたちからは見えないが、中には油の海が広がっており、それは十分すぎるほどに加熱されていた。そこに、ボウルの中の赤ゆがぼちゃぼちゃと放り込まれる。
「ゆ゛っぎゃああ゛あ゛あぁ゛ああ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!!!????」
鼓膜を突き破らんばかりの勢いで、上げられる凄まじい絶叫。
台車に載せられていたありすは、おそろしーしーをぷしゃぁぁ……と漏らしていた。他のゆっくりも開いた口が塞がらない。頬に涙が伝う感触だけを感じていた。
ジュワアァァ……という音と共に、絶命した赤ゆたちが一匹、また一匹と油の海面に浮かんでくる。ぴくりとも動かない。既に死んでいるのだろう。
職員は皮がこんがりと狐色に揚げあがった赤ゆを一匹ずつ掬い、キッチンペーパーと新聞紙の敷かれた場所に並べて行った。
ここから様々な製造工程を経て、加工所産のお菓子として人気の高い“揚げ赤ゆ”が市場に並ぶ。
眩暈がするような凄惨な光景を見続けていた台車の上のれいむたちが虚ろな表情に変わっていった。
「だしちぇにぇっ!! しゃむいよぉぉぉ!!!! もうやじゃあ、れーみゅ、おうちかえりゅぅぅぅ!!!!」
れいむたちが声のした方向へと振り返る。
そこにはステンレス製の巨大な冷凍庫のようなものが置いてあった。これは、赤ゆを瞬間冷凍して、冷凍食品に加工するための機械である。
使い方は簡単で指定された数の赤ゆを内部に放り込み、スイッチを入れるだけ。
一瞬で凍結した赤ゆたちはそのまま物言わぬ冷凍饅頭となり、各家庭の電子レンジで再び目が覚めるのだ。目が覚めたところで、その先に未来はないのだが。
冷却作業が終わったのか、冷凍庫の扉が開けられる。凍りついた赤ゆたちを次々に回収していき、袋の中に詰める作業が始まった。
更に他の場所に目を向けると、今度は三匹ほどの赤ゆが生きたまま袋の中に入れられていた。
「くりゅぢぃよぉぉ!!!」
小さな袋の中で赤ゆたちがぎゅうぎゅう詰めにされている。その袋の口に掃除機のチューブのようなものが当てられていた。
職員がその掃除機のようなもののスイッチを入れる。
刹那、袋は一瞬にして圧縮され、内部の赤ゆも苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなった。赤ゆの真空パック、である。
滝のように涙を流し、涎を撒き散らして、しーしーを所構わず噴射しながら、赤ゆたちは泣きに泣き叫んでいた。
誰も助けてくれないことを呪いながら。自分たちの置かれた境遇を呪いながら。
自分たちをこの世に産み落とした母親ゆっくりを呪いながら。
「さっき生まれたガキ共も、半分はここで死ぬんだよ」
「…………」
「ここで死ななかった連中も、大人になってから食べ物に加工される。……あぁ、さっき見せたな。あんよを焼かれてたゆっくりがそれだよ」
「…………なんなの?」
「ん?」
「にんげんさんたちにとって、れいむたちゆっくりは……なんなの?」
れいむが職員と目を合わせないようにしながら、恐る恐る言葉を紡いだ。台車の上のゆっくりたちは、完全に意気消沈してしまっており、無言のまま動く気配がない。
職員はれいむの問いかけに、「クク」と喉を鳴らして嗤った。
「さっきも言っただろ。勝手に生えてくるゴミだよ。お前らは」
「…………あんまりだよ…………」
「あんまり? 失礼なヤツだな、お前は。生きてるうちは何の役にも立たないお前らに俺たち加工所職員は価値を与えてやってるんだぜ?」
れいむの揉み上げがぴくん、と動いた。
悲しみを通り越して、沸々と怒りが湧き上がっていく。あまりにも理不尽な物言いに、れいむはこの人間が憎らしくてたまらなくなった。
「お前らゆっくりはな。死んでからやっと世の中の役に立てるんだ。路地裏で野垂れ死ぬ連中よりも、よっぽど生きた意味があると思わないか?」
「れいむたちが、いきるいみは、れいむたちがさがすよ……。にんげんさんたちにみつけてもらうものじゃないよ」
「そう言ってお前らゆっくりは何をする? せいぜい、ゴミを漁って街を汚し、死んでも誰も片づけないからやはりゴミが生まれるだけじゃないか」
「……ゆぐぅ……っ!!」
「さ、行くぞ。これから、お前らに生まれてきた意味を与えてやる」
そう言いながら職員は台車を押し始めた。台車は更に奥へとやってきたようだ。
職員が陽気な声で呟く。
「終点だよ」
部屋の中は真っ暗だった。れいむたちがアクリルケースの中で不安そうにきょろきょろと周囲の様子を伺う。
そして。
「うー☆ うー☆」
台車の上のゆっくりたちが一斉にしーしーをぶちまけた。
四、
職員が部屋の電気をつけるとそこには四匹のれみりゃがいた。どれも張り付いたような笑顔のまま、自由気ままに空を飛び回っている。
れみりゃたちは「うっうー☆」と言いながら、職員の下へと集まってきた。
その様子を見てれいむたちがアクリルケースの中で目を丸くする。
自分たちと同じようにれみりゃも人間が怖いはずだ。そう思っていた。
しかしどうだろうか。れみりゃは地面にあんよをつけて職員の足に頬を摺り寄せている。しゃがみ込んだ職員はれみりゃの頭を優しく撫でた。
ここはゆっくりの加工所。
この部屋に連れて来られるまで、ゴミ同然に弄ばれる数多の命を見てきた。どれ一匹、慈悲の言葉をかけられることなくただ淡々と潰されていた同胞たちの姿。
それなのになぜ。何故、目の前のれみりゃは人間を恐れず、また人間はれみりゃに対してこうも好意的なのだろうか。少しも理解が追い付かない。
「どうして、れみりゃも自分たちと同じゆっくりなのに、こんなにも扱いが違うのかっていうような顔をしてるな」
職員の言葉にれいむたちの表情が変わる。自分たちの考えていたことをピタリと言い当てられて戸惑っているようだった。
「体で教えてやるよ」
そう言ってアクリルケースの上に手を伸ばす職員。
ありすの金髪が乱暴に鷲掴みされて持ち上げられた。あんよをくねらせながら悲鳴を上げるありす。漏れ出たしーしーが滴のように床へポタポタと落ちていた。
「い、や……。と、とかいはじゃ……」
「そら、れみりゃども! 餌だぞ!」
ありすの言葉には一瞬たりとも耳を貸さずに右手に持っていたありすをれみりゃたちの中に放り込んだ。
顔面から床に叩きつけられたありすが、二度、三度とバウンドしてようやくその動きを止める。そして、ありすが泣きながら顔を上げようとしたその時だった。
「ゆ゛ぎゃあ゛ぁ゛!! い゛だい゛ぃぃい゛ぃ゛!!!」
四匹のれみりゃが一斉にありすに飛び掛かる。その鋭い牙がありすの皮に突き立てられて、あっという間に引き裂かれていく。カスタードが弾けるように宙を舞った。
ぶちぶちと引き千切られる髪の毛。カチューシャはとっくに毟り取られて近くに放り捨てられていた。
舌を絡めるような艶めかしいキス……ではなく、れみりゃがありすの舌に噛み付いてそれを引き抜きながら租借していく。
ありすは瞳孔を開き切ったまま、その目尻からカスタード混じりの涙をぼろぼろと流していた。
れみりゃがありすの唇を剥ぎ取る。そのまま、ありすの口を横に側頭部付近まで引き裂いた。
もはや、吐き出されているのか、漏れ出しているのか、それすらも分からないほどにありすの体内から流出していくカスタード。
「かひーーーっ、こひゅっ……ひっ、ひゅー、ひゅっ、……ッ!!!」
声は出せない。ありすの口は完全に破壊され、音を発することができなくなっていた。
目はずっと台車の上に載せられたアクリルケースに向けられている。助けを求めているのだろう。求めているつもりなのだろう。
ありすは、その二つの目玉をれみりゃに抉り出されて食べられるまで、アクリルケースを見つめていた。
それから激しい痙攣を起こし始めるありす。やがてその痙攣は止まり、今度はれみりゃがありすの体内を貪ることで残された皮が生き物のように蠢く。
「ゆげろぉぉぉッ!?? ゆ゛ぉ゛え゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!」
「う、うわあぁぁぁ!!! あ゛でぃずがあ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
目の前で繰り広げられる残酷で凄惨な弱肉強食の現実に、アクリルケース内のゆっくりたちは嫌悪感から中身を吐き出したり、叫び声を上げたりした。
ありすの残骸の上で羽をぱたつかせるれみりゃが嬉しそうにアクリルケースを眺めている。
その中のゆっくりたちは歯をカチカチと鳴らして震えていた。
今、ありすがれみりゃに捕食されるまでどれくらいの時間があっただろうか。短い時間ではないということだけは、どのゆっくりにも理解できた。
痛いのか。熱いのか。苦しいのか。泣きたくなるのか。中身を吐くのか。動けなくなるのか。
わからない。
“死”の感覚はわからない。今際の際にならねばわからない“死”の感覚にゆっくりたちは怯えた。恐怖であんよを動かすことができない。
「にんげんさんのいう、れいむたちがうまれてきたいみをおしえてくれる、っていうのはこういうことなの……?」
れいむが呟いた。れいむは震えていなかった。“死”を覚悟して受け入れたのだろう。穏やかな表情でアクリルケースの中から職員を見上げていた。
「ああ、そうだよ」
職員が平然と答えながらアクリルケース内のゆっくりを次々とれみりゃたちの元へ放り投げた。
れいむは動かない。綺麗な放物線を描いて、床に叩きつけられ、それかられみりゃたちに食い散らかせる仲間を見ながら、なおも職員に質問を続けた。
「にんげんさんたちのごはんになるか、れみりゃたちのごはんになるか……。れいむたちは、そのどっちかにしかなれないの?」
「何かになれるだけマシだろう」
「じゃあ、どうして、れみりゃは……れいむたちとおなじゆっくりなのに、にんげんさんにごはんさんをたべさせてもらえるの?」
「れみりゃは、お前らみたいなゴミを無償で食べてくれるからな。例えるなら、お前らが害虫でれみりゃは益虫なんだよ。……ああ、わからないか」
ぐちゃぐちゃに引き千切られていく、かつてゆっくりだった物。
れいむはそれをぼんやりと眺めていた。
あんなぐちゃぐちゃの姿になるまでは、ゆっくりしようと一生懸命頑張っていたのだろう。
必死になって食糧を探してゴミを漁り、死に物狂いでおうちを作って街の景観を損なわせたのだ。
れいむは一つの答えにたどり着いた。
(れいむ、ゆっくりりかいしたよ……)
れみりゃたちがアクリルケースの中のれいむに向けて「うー☆」と合唱を始める。れいむを食料として欲しているのだろう。
(れいむたちみたいなゆっくりがいきようとすることが……にんげんさんたちにめいわくをかけちゃうんだね……)
れいむのあんよが宙に浮いた。片方の揉み上げを掴まれ宙釣りにされる。
(……だから、にんげんさんたちにとって、れいむたちはいきてちゃいけないんだ……)
放り投げられたれいむがれみりゃによって滅茶苦茶に食い荒らされていく。
生きる意味などなかった。この世界で自分たちが生きて行くことの価値は見出せない。どこに行っても疎まれる。
それをゆっくりと理解した。釈然としない気持ちはあったけれども、それを覆すような力も知識も何もない。
れいむの存在した証が……体が、少しずつ失われていく。
薄れゆく意識の中でれいむは静かに呟いた。
――れいむ、うまれてきてごめんね
La fin
『存在価値』をゆススメに登録する
虐待 調理 野良ゆ 赤ゆ 捕食種 加工場 現代 以下:余白
『存在価値』
序、
静かな夜。生暖かい風が森の木々をざわつかせた。夜空を漂う雲が今宵の月を見え隠れさせる。
中規模程度の森の端に沿って小さな県道が走っていた。二車線すらない細い道。そこを二条の光が移動していく。運搬用のトラックだ。
舗装はされているものの、ところどころ穴が開いていたりするせいで走行中のトラックがガタガタと揺れる。
トラックのエンジン音で何も聞こえないが、コンテナの中にはすすり泣くたくさんのゆっくりたちがいた。
月明かりに照らされたコンテナの側面には黒塗りのペンキで「虹浦町保健所」との文字が見える。
積載されているのは、町で捕まえられた野良ゆっくりたちだ。或いは捨てられた飼いゆっくりたち。
「ゆっくりぃ……ゆっくりぃ……」
「おきゃーしゃん……、きょわいよぉ……しゅーりしゅーりしちぇぇ……」
「どぉして……こんなことにぃ……」
虹浦町には野良ゆっくり回収ボックスというゴミ箱があった。
その中に押し込められていた野良ゆっくりたちは、自分たちをそこから出してくれた保健所の職員に対して泣きながら感謝したのだ。しかしまた、今度は大きな箱の中。
野良ゆっくりたちは自分たちの境遇を嘆き悲しんだ。
生まれた時から野良ゆっくりで、町で静かに暮らしていただけだと言うのに人間たちは皆、自分たちを捕まえる。
どんなに謝っても、何も悪い事をしていないと主張しても聞き入れて貰えない。それどころか、その場で潰されてしまう仲間たちもいた。
しかし、どれだけ己の不遇を呪おうとも、それをどうにかする力は雀の涙ほども持ち合わせていない。
性質の悪い事に、野良ゆっくりたち自身もそれを十分に理解しているせいで尚の事救いが無いと言えた。
「ねぇ……これから、ありすたちはどうなるの……?」
「むきゅー……わからないわ」
トラックの中で交わされる会話。こんなやり取りがコンテナの中で延々繰り返されていた。
(れいむは……しってるよ)
コンテナの一番奥。隅っこで壁に頬を押し付けていた一匹のれいむが心の中で呟く。
そのれいむは同乗している野良ゆっくりと比べて小奇麗な身なりをしていた。黒い髪にはまだ艶があり、顔にも泥や埃が付着していない。
(れいむたちは、きっと……“かこうじょ”につれていかれるんだよ……)
ゆっくり視点で見ればなかなかの美ゆっくりであるれいむだったが、それに対して声を掛けるようなゆっくりは一匹としていなかった。
れいむの赤いリボン。それが半分近く破られている。それだけで、周囲のゆっくりにとってれいむはとてつもなく惨めな姿に映っているのだ。
泥にまみれ、生ゴミの匂いが纏わりつき、目玉を片方失っていても尚、れいむの姿を見て嘲笑するゆっくりたちがいる。
「おお、あわれあわれ……」
「ゆぷぷ……あれじゃ、こいびとさんもみつからないんだぜ」
そんなゆっくりたちの誹謗中傷はどこ吹く風と言った様子で、れいむが静かに目を細めた。
(おにいさん……れいむのこと、きらいになっちゃったの……?)
飼いゆっくりだったれいむは、ある日突然捨てられた。
れいむは虹浦町に住んでいたわけではない。そこから三十キロ近くも離れた虹黒町で、飼い主と幸せな生活を送っていたのだ。
目を閉じればすぐに思い浮かべることのできる「お父さん」と「お母さん」と「お兄さん」。みんな、とてもれいむを可愛がっていた。
それなのに、幸せな生活はいきなり終わりを告げたのである。
必死に知りたくもないことを教えられて、叩かれたり蹴られたりしながら死ぬような思いで取得した銅バッジ。加工所の事もその時に得た知識だ。
そんな大事な銅バッジを命よりも大切なリボンごと破られて毟り取られた。何がなんだかわからなかった。涙も出なかった。ただ、ただ呆けている事しかできなかった。
それから、れいむは車に乗せられた。いつも「家族みんな」でお出かけするのに使っていた自家用車。
れいむは少しだけ安心した。バッジがなくても一緒にいてもらえるのだと。
家族は河川敷に車を止めるとれいむを堤防の下に向けて転がした。草の上をころころと転がるのが気持ち良かった。何度もこうやって遊んでもらっていたのだ。
だから、今日もたくさん遊んでもらえると思い込んでいた。
しかし、いつまで経っても堤防の下に家族はやって来ない。
れいむはずっと待っていた。日向ぼっこをしたり、草を食べたり、虫を追いかけたりしながら暇をつぶしていた。
それから数時間。
夕日が山の向こうに沈んで行くのを見ながら、ようやくれいむは気付いたのである。
――自分は、捨てられたのだ……
と。
れいむはペットショップで虐待と言っても過言ではない程の学習を強要させられた。
自分のしたいことは何一つさせてもらえず、毎日毎日ゆっくりできない日々を強いられ、泣きながら眠りにつく日々。
そうまでして頑張って、ようやく与えられた幸せも呆気なく失ってしまった。
自分に幸せを与えたのも人間ならば、それを奪ったのもまた人間だった。
れいむは必死になって考えた。
――自分にとっての生きる意味とは何なのだろうか。自分の価値とは何なのか。
無論、そんな高尚な言葉を使って物事を深く考えていたわけではないが、餡子脳でれいむなりにそのニュアンスに近しい事を考えていたのである。
だから。
これから行くことになるであろう“加工所”で殺される前に……どうしても、知りたいのだ。
どうしても……。
そして、願わくば……自分が今日まで生きてきた理由を誰でもいいから自分に教えてほしかった。
一、
某日。早朝。
夜中のうちに搬入された野良ゆっくりたちとれいむは殺風景な白い部屋の中に入れられた。
緊張と空腹で疲弊しきった野良ゆっくりたちは、部屋の隅っこで一塊になって震えている。
れいむはその輪の中に入れてもらえなかった。もう片方の隅っこで一匹俯くれいむ。飾りのあるなしの隔たりは余りにも大きいものだった。
それから、コツーン……コツーン……という足音が扉の向こう側から聞こえてきた。
一斉に身構える野良ゆっくりたち。互いの頬を更に強く押し付け合った。成体ゆっくり、子ゆ、赤ゆ問わず泣きながら震えている。
ここがどういう場所かはわからずとも、何か嫌な予感だけはひしひしと感じているのだろう。
不意に部屋の扉が開く。
臆病な赤ゆが一匹、「ゆぴぃ?!」と飛び上がった。
一斉に部屋の中に入ってきた人間に目を向ける野良ゆっくりたち。れいむも、久しぶりに見た人間をぼんやりと眺めていた。
「多いな……。まったく、潰しても捨てても勝手に生えてくるゴミとか本当にタチが悪い……」
白衣を着た加工所職員が面倒臭そうに、用紙が挟まれたバインダーを取り出して、連れてこられたゴミの数を種別ごとに記入していく。
「ま、まりさたちは……」
「あ?」
「まりさたちは、かってにはえてこないのぜ……っ! ごみんさんでもないのぜっ!」
「だから何だ?」
「あ……あやまるのぜっ! ひどいことをいうにんげんさんは……あやま……ゆひぃぃぃぃ?!!」
生意気な口を利いたまりさに向けて一直線に歩み寄る職員。すぐにまりさのお下げを掴んで宙釣りにした。
お下げが千切れようとしているのか、ミチミチ……という不快な音が聞こえる。まりさは身を捩らせて苦痛に泣き叫んでいた。
そのまりさを床に向けて思い切り叩きつける。
まりさの顔面が床に激突した瞬間、まるで水風船が勢いよく弾けるように中身の餡子を四方八方にぶち撒けて爆散した。
飛び散った餡子が目を丸くして微動だにできない野良ゆっくりたちの顔にべちゃべちゃとかかっていく。
静まり返る部屋の中。
職員の声だけがやたらと大きく聞こえる。
「ゴミだし、勝手に生えてくるよ……。お前ら、ゆっくりなんていくらでもな……。ったく、数字が変わっちまったじゃねぇか」
まりさ種の項目に書いてあった数字を消しゴムで消して、消した数字から一匹減らした数字を新たに書く。
「どぼ……じで、ごんな゛ごど……」
「おい、そこのゆっくり」
「ゆ゛ッ!?」
潰される、と思ったのだろう。目をぎゅっと閉じて顔を下に向ける野良ゆっくりの一匹。
「喋るな。ゴミは喋らない」
「~~~~っ」
分かりました、と言うように口を真一文字に結んで額を地面に何度も打ち付ける。
一連のやり取りを見た野良ゆっくりたちはぼろぼろと涙を流しながら、小刻みに震えていた。泣き叫びたい気持ちを必死に抑える。声を出したら殺されるのだ。
職員は用紙に記入したちぇんとぱちゅりーの数字を鉛筆の後ろでコツコツと叩きながら溜め息をついた。
「チョコと生クリームが不足気味だったんだがな……」
それぞれ二、三匹ずつしかいないちぇんとぱちゅりーをじろりと睨み付ける職員。
それから近くにいた薄汚いれいむを思いっきり蹴り飛ばして壁にぶつけた。壁と濃厚なちゅっちゅをしたれいむが、「ゆ゛っ、ゆ゛っ」呻きながら痙攣を起こす。
「大して需要のない餡子は毎回、毎回、馬鹿みたいに持って来られるってのによ……」
職員が部屋を出て行く。
ガタガタと震える野良ゆっくりたち。どれ一匹として声を上げようとしない。ただ、ぽろぽろと涙を流すのみ。
しばらくして職員が別の男をつれて部屋に帰ってきた。
その男が大きな袋の中にちぇんとぱちゅりーを掴んで投げ込む。ちぇんとぱちゅりーであれば、成体、子などのサイズは関係ないらしい。
「むきゅぅぅぅぅん!! いや、いやよっ! たすけてちょうだいっ!!」
「わからないよーー!! こわいんだねぇぇ!!」
袋の中からちぇんとぱちゅりーの悲鳴が聞こえてくる。野良ゆっくりたちは皆、一様に俯いたまま歯をカチカチと鳴らしていた。
そんな残りの野良ゆっくりたちには目もくれずに部屋を出て行く男。ちぇんとぱちゅりーの悲鳴がだんだんと遠くなっていき、最後には何も聞こえなくなった。
しばらくして今度は別の男が部屋に入ってきた。今度は泣き叫ぶありすを手当たり次第に袋の中へと投げ込んでいく。
「とりあえず、ホワイトチョコはまだいいかな……。残りは全部、ミキサーにかけてゆっくりフードにするか……」
職員の言葉の意味がわからない野良ゆっくりたちは「ゆ? ゆゆ?」と互いの顔を見合わせている。
それから、職員が思い出したように呟いた。
「れみりゃにやる生餌を忘れてたな。何匹か持って行くとするか……」
“れみりゃ”という単語に何匹かの野良ゆっくりが反応する。それだけで目にじんわりと涙を浮かべるモノもいた。
職員が入り口の扉とは別の扉に手をかけてそれをゆっくりと開けると、すぐに中の電気をつけた。
そこは殺風景な小さな部屋。その中央には焼却炉を彷彿とさせるような機械が設置してある。
それを見た途端、一匹のありすがカタカタ震えて涙を流した。
「いや……ゆっくりできない……」
ありすの消え入るような声を聞いて、周りの野良ゆっくりたちがありすと同じ視点へと移動する。
そして。
「ゆ、ゆ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!」
「ゆ゛ぎぃぃぃ……っ! ゆっぐ……でぎ、な……っ、あ゛……ぁあ゛ぁ゛っ!!!」
その機械から放たれる強烈な死臭。人間には決して感知できないにも関わらず、鼻を持たないゆっくりたちはこの“ゆっくりできない臭い”を激しく嫌悪する。
それはフェロモンの一種であるとする研究者もいれば、残留思念の様なものであるとする研究者もいた。
理屈はともかく、目の前の機械から放たれる死臭に野良ゆっくりたちは、まるでおぞましい悪霊でも見ているかのように全身を震わせた。
職員が慣れた手つきで機械の中央付近にある小窓のようなものを開く。それに合わせてよりいっそう強くなる野良ゆっくりたちの悲鳴。
全ての赤ゆは漏れなくしーしーを漏らしていた。目はどこを見ているのかわからない。或いは、宙を漂うゆっくりの亡霊でも見えているのだろうか。
そこから始まる淡々とした作業。
職員は、れいむの揉み上げを、まりさのお下げを、ありすの髪を乱暴に引っ掴んで次々と機械の中に放り込んでいった。
「ゆぎゃあぁぁ!! だじで!! だじでぇ!! お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛ぅ゛ぅ゛ッ!!!」
「い゛や゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! じに゛だぐない゛ぃ゛ぃ゛!! れ゛い゛む゛、もっどゆっぐりじでたい゛よ゛ぉ゛ぉ゛!!」
外観に比べて機械の内側は狭い造りになっていた。
どうやら内部は中身を刳り抜かれた円柱のような形になっていて、その中心に巨大な柱が立っているようだ。
後から後から野良ゆっくりが放り込まれるものだから、内部はだんだんとすし詰めのような状況に変化してきている。
そんな時、一匹のありすの頬に鋭い痛みが走った。
「いた゛ぃぃ!! ありすの゛どがい゛はな゛お゛がお゛がぁぁぁ!!!」
「つ゛ぶれ゛る゛……どいで、ね……どいでねっ!! れ゛い゛む゛、あんよ゛が……い゛だいよ゛ぉ゛っ!!!」
柱。床。壁。その三カ所には巨大な刃が取り付けられていた。それらは全て内側を向いており、その三カ所に密着している野良ゆっくりたちの皮を切ろうとしているのだ。
加工所特製の巨大なジューサーミキサー。いや。ゆっくりミキサーとでも言うべきだろうか。
ここで挽き肉ならぬ挽き饅頭にされた野良ゆっくりたちは様々な製造工程を経て、固形のゆっくりフードへと生まれ変わる。
職員の動きを見ながら、れみりゃの生餌用に選ばれた五匹の野良ゆっくりは怯えていた。
その中には元・飼いゆっくりのれいむの姿も見える。
職員がおもむろに機械のスイッチをオンにした。
「ゆ?」
「ゆかが……ゆっくり、うごきはじめたよ……?」
真っ暗で何も見えないが床が回転し始めているは理解できた。そして、少しずつ両側の壁が内側に向けて迫ってくる。
「え゛ぎゅぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ?!! れ゛い゛む゛……づぶれ゛ぶりゅあ゛ぁ゛ぁ゛ッ?!!」
柱と壁の中央付近にいた野良ゆっくりたちが同胞たちによって押し潰されて絶命した。
柱や壁に頬がくっついていた野良ゆっくりたちは、鋭利な刃が少しずつ体内へ潜り込んでくるという恐ろしい感触に、この世の物とは思えない叫び声を上げている。
やがて、中央の柱が時計周りに。周囲の壁が反時計周りに回転し始めた。その回転速度が徐々に上がっていく。
そこからはもう何が何だかわからなかった。
皮が千切れ飛んだ。流出した中身がまるで命を得たかのように所狭しと暴れ回る。弾け飛ぶ目玉。涙か、しーしーか、涎か……とにかく大量の液体。
それらが全てが一つになって、また滅茶苦茶に引っ掻き回されていく。
ほとんどゲル状にまで変質してしまった大量の野良ゆっくりたちの成れの果てが、ミキサーの中で無言のままダンスを踊り続けていた。
回り、飛び、くっついては離れてを繰り返し、また勢いよく爆ぜる。
野良ゆっくりたちの絶叫は轟音に掻き消され、流した涙はどれのものとも分からぬ皮や中身によって埋め立てられる。
機械は程なくして停止した。もう、何も聞こえない。不気味なまでの静寂。
外側からは見えないが、体をぐちゃぐちゃに引き裂かれて中身を全て流出させてしまった野良ゆっくりたちが、ペースト状になって機械の底に溜まっていた。
死ぬ最後の最後まで足掻き苦しんだのだろう。新たな死臭が生かされた命に語りかけてくる。
気丈に仲間たちの最期を見つめていたれいむも、中身を吐き出しそうになるのを必死に抑えながら無言で泣き続けている。
その傍らでまりさは白目を剥いて気を失っていた。
「お前らは全部れみりゃに食わせる。良かったな。今、死んだ連中より少しだけ長く生きることができて。……ゆっくりすることができて、か?」
「ゆひっ……ゆひぃ……」
顔を横にふるふると振って厭だ嫌だイヤだと必死にアピールする野良ゆっくりたち。
どれだけ泣かれても、叫ばれても、嫌がられても、それで職員の気持ちが揺らぐ事はないのだ。職員歴十五年。十五年も職員はこうしてゆっくりを殺し続けてきた。
「ゴミの言葉に耳を貸すほど優しくないんだよ、俺は」
振り返らずに言葉だけ発する。今度は倉庫の扉を開けてそこから約一メートル四方のアクリルケースを取り出した。それを備え付けてあった台車に載せる。
職員が野良ゆっくりたちに近づくと、それだけで数匹がしーしーを漏らした。自分たちが何をされるか分からないのが恐ろしくてたまらないのだろう。
逃げようとするがあんよが動かない。それどころか何も考えることさえできなかった。
れいむも職員に訊きたいことがあったが訊くことができないでいた。喋っただけで殺されるかも知れない。それがれいむの言葉を詰まらせる。
どれもが何かを言いたそうだった。しかし、何を言うでもなく一匹ずつアクリルケースの中に入れられていく。
もちろん、れいむもその中に入れられた。
ガラガラと音を立てて進む台車の上は、コンテナの中ほど乗り心地は悪くなかったが、生きた心地がしなかった。
二、
台車に載せられたれいむたちは、職員によって開けられた扉の向こう側へと進み、新たなフロアへとやってきた。
「んっほぉぉぉ!!! まりさの……まむ、ま……ずっぎ……もう、い゛や゛……ずっぎり゛じだぐ……ゆぅぅ……ず、ずっぎり……じぢゃ……」
「ゆぎゃぁぁ!! あでぃずぅぅ!!! もうやべでぇぇ!! までぃざ、もう゛、ちびちゃんうみ゛だぐな゛ぃぃ……ゆぁぁ……す、すっぎ……」
「「ずっぎりぃぃ!!!」」
こんなやり取りがフロア全体から聞こえてくる。
れいむたちは自分たちの目を疑った。
台車に載せられたものと同じようなアクリルケースがフロア全体に敷き詰められている。
アクリルケースは二匹につき一箱となっているようで、傍から見れば透明のロッカーか、或いはカプセルホテルを彷彿とさせた。
「ゆああぁぁ……まだ、ぢびぢゃんがうばれぢゃう゛ぅぅぅ」
「まりさぁ……ごべんなざい、ごべんなさいぃぃい!! ありず、からだがいう゛ごどをぎいでくれ゛ないの゛ぉぉ……」
先程、すっきりー!を行っていたまりさの額からにょきにょきと茎が生えて、そこに赤まりさと赤ありすが実る。
まりさはうつ伏せのような姿勢でアクリルケースの一番手前に固定されているようだった。しかも、尻はありすに向けて突き出すような形になっている。
茎は、アクリルケースに開けられた小さな穴から外側に向かって伸びていた。まりさの額はその小さな穴に合わせて固定されているようだ。
「ちびちゃん……っ!! ゆぐぅ……ひっく、がわいい゛よぅ……ゆっぐりでぎる゛よぉ……」
泣きながら笑うまりさ。
れいむたちにはまりさのこの行動が理解できなかった。
あんなに可愛いちびちゃんを見て、どうして涙を流す必要があるのかと。この地獄でも新しい命を芽吹かせることができる。素晴らしいことではないのだろうか。
不意にどこからともなく、やはり白衣を着た男性職員が現れる。
まりさはその男性職員の姿を見て、顔をぐしゃぐしゃにしながら力の限りに叫び声を上げた。
「お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!! ぢびぢゃんをごろざな゛い゛でぐだざい゛ぃ゛い゛ぃぃぃい!!!」
「――――!?」
台車の上でれいむたちが驚愕の表情に変わる。
まりさを後ろから犯し続けていたありすも、ぼろぼろと涙を流していた。先ほどの興奮が未だに醒めぬのか、頬を染め、舌を垂らし、虚ろな瞳で男性職員を見つめている。
「ゆんやぁぁ! おきゃーしゃん、にんげんしゃんが、こっちにくりゅよぅ! たしゅけちぇにぇ!!」
「ぢびぢゃん……ごべんね……ごべんねぇ……」
「お、おきゃーしゃ……?! なにをやっちぇりゅにょ?! はやきゅ、にげちぇにぇ!」
「ときゃいはじゃにゃいわぁぁ! ありしゅたち、ゆっくちできにゃえびゅぇッ?!!!!」
「う、うわあああぁぁぁぁ!!!」
赤ゆは、茎からぶら下がっているだけの存在だ。
自分で身を守ることはおろか、動くことすらできない。母親ゆっくりが動かなければ、その場から離れられないのだ。
だから、赤ありすは呆気なく潰されて死んだ。僅か十秒弱の命。ただ、親指と人差し指で挟まれて潰されただけ。生まれてきて自分の身に起きたのは、たったのそれだけ。
初めての挨拶もできず、食べることも、笑うことも、眠りにつくこともできずに、赤ありすは死んだ。
同じ茎に実っていたもう一匹の赤ありすも同様にして殺された。
茎に残った二匹の赤まりさが絶句してガタガタ震えている。茎に実ったばかりでどこにそんな水分があるのかと問うほどに、涙としーしーを無様に垂れ流していた。
「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! あ゛でぃずのどがいはな゛ちびぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「何回目だよ、その反応。いい加減慣れろよ。うるせぇ糞ゆっくりが」
「ひどいよ゛ぅ……ひどずぎる゛よ゛ぉ……。ちびちゃん、なんに゛も、じでな……わる゛い゛ごどだげじゃなぐで……な゛ん゛に゛も゛じでな゛い゛のにぃぃぃ!!!」
まりさがぎゅっと瞼を閉じて全身を震わせながら泣く。
ありすはうわ言のように「ごめんね、ごめんね」と繰り返していた。
ここは、食用ゆっくりの養殖部屋。このアクリルケースの中に入れられた二匹一組のゆっくりは、赤ゆ製造機だ。
アクリルケース内の床はスイッチ一つで小刻みに振動し、中に入ったゆっくりをあっと言う間に発情させる。
まりさ同様の姿勢で固定された各種ゆっくりの後ろには常にありすが入れられており、興奮状態になったありすがもう一匹を犯して子供を作るという仕組みだ。
良く見れば“受け側”のゆっくりの頬には全てチューブが突き刺さっている。あのチューブから常に栄養が送られてくるため、何度すっきりー!しても疲れることがない。
結果、栄養不良で死ぬこともできず、毎日ひたすら望まぬすっきりー!を繰り返し、実った赤ゆは目の前で潰されるという凄惨な毎日を過ごす羽目になっているのだ。
まず、ここで実った赤ありすの九割が生まれると同時に潰される。
ありすは他のゆっくりよりも性欲が強いということで、常に“責め側”のポジションだ。すっきりー!を繰り返せば、赤ありすが溢れてしまうことになる。
だから、赤ありすは間引くのだ。そうすることによって、残ったありす種以外の赤ゆに多く栄養が行き渡る。つまり、成長速度が速くなるのだ。
もちろん、ありすを養殖するためのアクリルケースも存在しており、そこでは赤ありす以外の赤ゆが生まれてすぐに潰される。
日進月歩でゆっくりの研究は続いているが、未だに人工的なゆっくりの繁殖に成功した例はない。
だが、こうして一度に発情させて一度にすっきりー!させて、一度に赤ゆを実らせれば意外と採算は取れるものである。
アクリルケースの数は総数で三百箱を数えるほどだ。二匹ずつ赤ゆを養殖したとして、一日に六百匹もの赤ゆが“生産”されることになる。
大体、母親ゆっくりの額に茎が実ってから三時間ほどで栄養供給が安定してくるのか、赤ゆは「ゆぴぃ」と眠りにつく。
その頃合いを見計らって、母親ゆっくりから茎を引き抜き、それを今度は砂糖水の中に突っ込むのだ。
大量の茎が刺された砂糖水の入った容器を見ると、まるで生け花ならぬ生け赤ゆとでも表現できそうな様子だ。
「や゛べでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛のおぢびぢゃん、づれでいがない゛でぇぇぇぇぇ!!!!」
今度は別のゆっくりが悲痛な声を上げた。
先程、すっきりー!が終わったばかりのアクリルケース列とは、別の列から聞こえた絶叫である。
こちらの列の茎に実った赤ゆは三時間が経過して安定期に入ったのだろう。
数人の職員が手分けして茎を指で触ったり、赤ゆの頬をぷにぷにしたりして完全に安定しているかどうかを判別する。それは彼らの熟練した赤ゆの観察眼が成せる技だった。
「おきゃーしゃあぁぁん!!! たしゅけちぇぇぇぇ!!! れーみゅ、はにゃれちゃくにゃいよぉぉぉぉ!!!!」
「にんげんざん゛ん゛ん゛ん゛!!! お゛でがい゛じばずぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ゆっぐりじだごにぞだででみぜばずがら゛あ゛ぁ゛ああぁ゛!!!」
「育てなくていい。お前らはガキを造り続ければそれでいいんだよ」
「どぼじでぞんな゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!?」
「こんなの育てて誰が得するっていうんだよ。お前らが馬鹿の一つ覚えみたいに“ゆっくりできる”とか言うだけじゃねーか」
「おいコラ新入り。いちいちゆっくりの話を聞くんじゃない。そんなことより一本でも多く茎を抜け」
「す、すいませんっ」
こうやって新人はたまにゆっくりの言葉に反応してしまう。
しかし、ゆっくりを生き物だとは決して思ってはいけない。ここにいるのは赤ゆを造るためだけの道具なのだ。
メンテナンスは週に一回行われている。とは言っても、二匹の後頭部に注射器を突き刺してオレンジジュースを流し込むだけの簡単な作業ではあるが。
一本、また一本……と茎が引き抜かれるたびに母親ゆっくりが絶叫を上げる。
ワンパターンな反応。いい加減慣れろと言われても慣れるわけがないだろう。
無理矢理子供を作らされ、生まれた傍から半分が潰されて、三時間後には茎ごとどこかに連れていかれる。
「ゆ、ゆひっ、ゆふへ……ぱ、ぱぱぱ、ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽーーーーーー!!!」
「う、うわぁぁぁ!! まりさ! まりさ! しっかりしてよぉぉぉ!!!!」
中にはこうして発狂してしまうゆっくりも当然ながらいた。それを見つけた職員がすぐに内線で別の部署と連絡を取る。
「はい。三十六番のまりさ、発狂しました。こちらで処分しておきますので替えのまりさを用意してください」
それから気が狂ったまりさは職員によってあっと言う間に処分され、替わりに別のまりさがすぐにアクリルケースの中に入れられた。
こちらの列の茎の回収が全て終わったのだろう。
職員の一人がスイッチを押して、床を小刻みに振動させる。そこから始まる醜悪な性の営み。
無数のゆっくりの喘ぎ声と、互いの皮がぶつかり合う乾いた音がフロア全体に響き渡る。
そして、そこかしこから「すっきりー!」という絶望に染まった絶頂から漏れ出す歓喜の声が上がり始めた。
「も゛う゛……ずっぎり、じだぐない゛……。ぢびぢゃん……う゛み゛だぐ、な゛い゛……ゆぐっ、ひっく……」
泣こうが喚こうが、ゆっくりたちは子供を作り続ける。眠ることすら許されず、ただひたすらに。
れいむたちは台車の上で泣いていた。こんな理不尽は話があるものか、と悲しみに打ち震えていた。
そんなれいむたちに、台車を押し始めた職員が優しく語りかける。
「な? お前らは勝手に生えてくるだろ?」
生えては引き抜かれを繰り返す赤ゆの実った茎を横目で見ながら、ゆっくりたちは言葉を失って俯いた。
しかし、れいむだけはぽそりと呟いた。
「かってには、はえてこないよ……」
「あ?」
「あのはこのなかにいる、ゆっくりたちががんばってるから……っ! かけがえのないちびちゃんたちがうまれるんだよっ!!! そんないいかたしないでねっ!!!」
「れ、れいむ……」
泣きながら叫ぶれいむを見ながら、台車に載せられたゆっくりたちが涙を流す。
職員はそんなゆっくりたちのくだらない茶番に声を出して笑った。それに対してれいむが威嚇を始める。この地獄のど真ん中で泣きながら頬を膨らませた。
「かけがえのない命があんなにポンポン生まれるわけねーだろ。饅頭の癖に命がどうとか夢見てんじゃねぇよ」
それっきり、れいむは黙りこくってしまった。何を言っても自分たちの言葉は通らない。それを理解して、また何か反論しようという気にはならなかった。
無情にも繰り返される母親ゆっくりと赤ゆの絶叫を後方に聞きながら、れいむたちはようやくこの場所から次のフロアへと移動をさせられた。
三、
台車に載せられたまま、加工所の更に奥へと入っていく。
透明な壁で仕切られた長大な部屋を分断する中央の廊下部分を進む職員と野良ゆっくり一同。
周囲を見渡した野良ゆっくりたちが再び息を呑む。
「あ゛づい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ!!!」
「あ゛ん゛よ゛が……ゆ゛っぐり゛でぎな゛ぃよ゛ぉ゛ぉお゛おおぉ゛!!!!」
壁からゆっくりが五匹ずつ一列に整列した状態で下ろされる。それぞれの頭は金属製のアームで挟まれ身動きができないようになっていた。
下ろされた先は黒い鉄板。鉄板はゆっくりたちのあんよを焼くためのものだ。あんよは、機械的に十五秒間ずつ高熱で一気に焼き上げられる。
垂れ流される涙としーしーがジュワジュワと音を立て蒸発していくのを見れば、あの鉄板がいかに高温であるかが理解できるだろう。
鉄板の上でゆっくりたちは自分たちの顔の皮が引き千切れるのではないかと思うほどに、身を捩らせていた。しかし、それ以上の動きは頭のアームが許さない。
まさか自分の顔を引き千切るわけにもいかないので、抵抗はすべて虚しく、最後には並んだ五匹が五匹ともあんよの機能を完全に喪失させられるのである。
この仕掛けは壁に六ヶ所設置されており、大体三十秒間隔で三十匹のゆっくりが同時にあんよを焼かれる仕組みとなっていた。
十五秒間が過ぎると、アームは再び放心状態……或いは完全に意識を失っているゆっくりたちをその傍らで流れているベルトコンベアへと移動させる。
無言のまま、ベルトコンベアの上を流れて行くあんよが炭化したゆっくりたち。
中には、あんよを徹底的に焼き上げられても必死に周囲の職員に助けを求めるゆっくりもいた。
「だずげでぐだざい゛ぃ゛ぃ゛!! あ゛ん゛よ゛がう゛ごがな゛い゛ん゛でずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! ばでぃざは、も゛っどゆ゛っぐり゛じだい゛んでず゛ぅ゛ぅ゛!!」
「お゛でーざんっ!! あ、あぁぁ゛っ!! お、お゛に゛ぃ゛ざん゛っ!! だずげ……む、むじじないでぇ゛え゛ぇ゛ええぇえ!!!」
もちろん、誰も耳を貸さない。雑音にいちいち答えてやるほどこの職場は暇な場所ではなかった。中には耳栓をつけて仕事をしている者もいる。
ベルトコンベアの先には分岐点があり、そこには二人の職員が立っていた。
れいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種、みょん種。それぞれ専用のベルトコンベアが用意されているのだ。
職員は一緒くたにベルトコンベアに載せられたゆっくりたちをを種類ごとに分けていくために配置されている。
「あ゛でぃずのぎゅーでぃぐる゛ながみ゛のげざんがぁあぁっ!!!」
「までぃざのお゛ざげざんが、ぢぎれ゛る゛の゛ぜぇぇぇぇ!!!!」
丁寧に扱う必要はなかった。それぞれが髪を掴まれて別のベルトコンベアに載せられていく。
ゆっくりの状態など、この後関係なくなるのだ。とりあえずは“中身を仕分けできればそれでいい”のである。
それぞれの種族ごとに流されていくベルトコンベアの先にはトンネルのようなものがあった。そのトンネルの入り口には赤い光が見えた。
トンネルの中は暗い。この先に何があるか分からない。恐ろしくてたまらないのだろう。ベルトコンベアの上でちょろちょろとしーしーを漏らすゆっくり。
程なくしてそのトンネルの中に入っていく。赤い光にゆっくりが触れた瞬間、音を立てて機械が動き始めた。
「ゆひぃぃぃっ?!!」
勢いよくしーしーを前方に発射させる。動かぬあんよを呪いながら、顔の部分だけを少しでも後ろに後ろにと持っていくが無駄な抵抗だった。
「がひっ!??」
いきなり。頭頂部に何かが突き刺さったかと思えばそれがあんよを貫いて貫通した。
瞳孔が開く。全身から汗が噴き出すのを感じた。眩暈。吐き気。まるで脊髄にナイフが刺さったかのようような衝撃と虚脱感。
体全体が小刻みに震える。身を捩らせようとすることもできなかった。瞬きをするだけで全身に痛みが走る。
そして。
「ゆ゛べばあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ??!!!」
貫通していた何かが体内で二つに分かれて一気に拡がった。突き刺さっていた底部が勢いよく引き裂かれ、顔を真っ二つにされる事でそのゆっくりは死んだ。
行き場を失った餡子がぼとぼととその真下に設置してあったトレイに落ちて行く。
他の場所でも同様に、カスタードや生クリームが次々とトレイに載せられていった。
このエリアは“ゆっくりの中身を抉り出して食用品として回収”していくための場所。だから、髪が千切れようがあんよが炭化していようが関係ないのである。
ベルトコンベアに載せられたゆっくりは、その中身にしか価値を見出されないのだ。いや、見出されるだけマシというものかも知れない。
「か、かわいそうなんだぜっ! みんな、いやがってるのぜっ!! やめてあげるのぜぇっ!!!」
先程のフロアでのれいむの勇気にほだされたのか、台車に載せられたまりさが涙ながらに叫んだ。
その声を聞いて、加工所内にいたゆっくりたちが同じように声を上げる。
「だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛、い゛ぎでい゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」
「ゆっぐりじだいだげな゛のに゛ィィィイィィ!!!」
「ごんな゛じにがだはいや゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!! ずぎな゛ゆっぐりどい゛っじょに、え゛いえ゛ん゛にゆっぐりじだいよ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛ぉぉお゛ぉ゛!! み゛ん゛な゛、なんに゛も゛わる゛いごどじでないの゛にぃいぃぃ゛い゛いぃぃぃ!!!!!」
絶望の合唱。心の底から絞り出されるかのような強い懇願。
それでも、与えられるモノと言えば、焼かれて、貫かれて、引き千切られて。そんな苦痛と、決して穏やかであるとは言えない凄惨な“死”のみ。
このエリアで加工されるゆっくりは、全て加工所産のゆっくりである。ここで殺されるためだけに生まれてこさせられて、今日まで生かされてきただけの存在。
それ故に野良ゆっくりのような不衛生さは皆無だ。
今、れいむたちを載せた台車がある渡り廊下と生産ラインの部屋が完全に仕切られているのは安全衛生のためである。職員たちも白衣にマスク、帽子、滅菌手袋と完全装備だ。
阿鼻叫喚の地獄の中、台車が移動を始める。
「だずげでぇぇぇ!! れいむぅぅぅ!!! だずげでよぉぉぉ!!!」
ベルトコンベアを流れるゆっくりと目が合ったれいむが助けを求められた。しかし、どうすることもできない。
そのゆっくりはずっとれいむの事を見ていた。れいむも、目を逸らすことができなかった。
結局、お互いの姿が見えなくなるまで、二匹はずっと視線を合わせていた。
うなだれたままのれいむたちを載せた台車がすぐ隣のフロアへと移動する。
そこでもまた、甲高い悲鳴がれいむたちを迎えた。
「ゆんやあぁぁぁぁ!!! やじゃ、やじゃ、やじゃあぁぁぁぁ!!!!」
「やめちぇにぇっ!! やめちぇにぇっ!! ゆっくちできにゃいよぉぉぉぉ!!!!」
先程のフロアは、成体ゆっくりの食品加工を行う場所だった。対してこのフロアは、赤ゆっくりの食品製造場所だったのである。
このフロアには先ほどのベルトコンベアのようなものはないが、代わりに内部がホテルの厨房のような作りをしており、壁には無数の調理器具が掛かっていた。
室内は熱気に包まれており、ここで働く職員たちは額にうっすらと汗を浮かべている。
フロアの一画には巨大な鍋が設置してあった。傍らには大量の赤ゆが生きたまま入った透明なボウルが見える。その中の赤ゆたちは喉を枯らさんばかりの勢いで泣いていた。
おもむろに職員の一人がそこに近づく。その姿を見た赤ゆたちはボウルの中で一斉にしーしーを噴射した。ボウルが職員によって持ち上げられると、悲鳴は更に大きくなった。
れいむたちは台車の上からその様子を固唾を飲んで見守っていた。これから起こるであろう何かに対して嫌な予感だけが餡子脳裏をよぎる。
そして、その嫌な予感は見事に的中した。
巨大な鍋。
れいむたちからは見えないが、中には油の海が広がっており、それは十分すぎるほどに加熱されていた。そこに、ボウルの中の赤ゆがぼちゃぼちゃと放り込まれる。
「ゆ゛っぎゃああ゛あ゛あぁ゛ああ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!!!????」
鼓膜を突き破らんばかりの勢いで、上げられる凄まじい絶叫。
台車に載せられていたありすは、おそろしーしーをぷしゃぁぁ……と漏らしていた。他のゆっくりも開いた口が塞がらない。頬に涙が伝う感触だけを感じていた。
ジュワアァァ……という音と共に、絶命した赤ゆたちが一匹、また一匹と油の海面に浮かんでくる。ぴくりとも動かない。既に死んでいるのだろう。
職員は皮がこんがりと狐色に揚げあがった赤ゆを一匹ずつ掬い、キッチンペーパーと新聞紙の敷かれた場所に並べて行った。
ここから様々な製造工程を経て、加工所産のお菓子として人気の高い“揚げ赤ゆ”が市場に並ぶ。
眩暈がするような凄惨な光景を見続けていた台車の上のれいむたちが虚ろな表情に変わっていった。
「だしちぇにぇっ!! しゃむいよぉぉぉ!!!! もうやじゃあ、れーみゅ、おうちかえりゅぅぅぅ!!!!」
れいむたちが声のした方向へと振り返る。
そこにはステンレス製の巨大な冷凍庫のようなものが置いてあった。これは、赤ゆを瞬間冷凍して、冷凍食品に加工するための機械である。
使い方は簡単で指定された数の赤ゆを内部に放り込み、スイッチを入れるだけ。
一瞬で凍結した赤ゆたちはそのまま物言わぬ冷凍饅頭となり、各家庭の電子レンジで再び目が覚めるのだ。目が覚めたところで、その先に未来はないのだが。
冷却作業が終わったのか、冷凍庫の扉が開けられる。凍りついた赤ゆたちを次々に回収していき、袋の中に詰める作業が始まった。
更に他の場所に目を向けると、今度は三匹ほどの赤ゆが生きたまま袋の中に入れられていた。
「くりゅぢぃよぉぉ!!!」
小さな袋の中で赤ゆたちがぎゅうぎゅう詰めにされている。その袋の口に掃除機のチューブのようなものが当てられていた。
職員がその掃除機のようなもののスイッチを入れる。
刹那、袋は一瞬にして圧縮され、内部の赤ゆも苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなった。赤ゆの真空パック、である。
滝のように涙を流し、涎を撒き散らして、しーしーを所構わず噴射しながら、赤ゆたちは泣きに泣き叫んでいた。
誰も助けてくれないことを呪いながら。自分たちの置かれた境遇を呪いながら。
自分たちをこの世に産み落とした母親ゆっくりを呪いながら。
「さっき生まれたガキ共も、半分はここで死ぬんだよ」
「…………」
「ここで死ななかった連中も、大人になってから食べ物に加工される。……あぁ、さっき見せたな。あんよを焼かれてたゆっくりがそれだよ」
「…………なんなの?」
「ん?」
「にんげんさんたちにとって、れいむたちゆっくりは……なんなの?」
れいむが職員と目を合わせないようにしながら、恐る恐る言葉を紡いだ。台車の上のゆっくりたちは、完全に意気消沈してしまっており、無言のまま動く気配がない。
職員はれいむの問いかけに、「クク」と喉を鳴らして嗤った。
「さっきも言っただろ。勝手に生えてくるゴミだよ。お前らは」
「…………あんまりだよ…………」
「あんまり? 失礼なヤツだな、お前は。生きてるうちは何の役にも立たないお前らに俺たち加工所職員は価値を与えてやってるんだぜ?」
れいむの揉み上げがぴくん、と動いた。
悲しみを通り越して、沸々と怒りが湧き上がっていく。あまりにも理不尽な物言いに、れいむはこの人間が憎らしくてたまらなくなった。
「お前らゆっくりはな。死んでからやっと世の中の役に立てるんだ。路地裏で野垂れ死ぬ連中よりも、よっぽど生きた意味があると思わないか?」
「れいむたちが、いきるいみは、れいむたちがさがすよ……。にんげんさんたちにみつけてもらうものじゃないよ」
「そう言ってお前らゆっくりは何をする? せいぜい、ゴミを漁って街を汚し、死んでも誰も片づけないからやはりゴミが生まれるだけじゃないか」
「……ゆぐぅ……っ!!」
「さ、行くぞ。これから、お前らに生まれてきた意味を与えてやる」
そう言いながら職員は台車を押し始めた。台車は更に奥へとやってきたようだ。
職員が陽気な声で呟く。
「終点だよ」
部屋の中は真っ暗だった。れいむたちがアクリルケースの中で不安そうにきょろきょろと周囲の様子を伺う。
そして。
「うー☆ うー☆」
台車の上のゆっくりたちが一斉にしーしーをぶちまけた。
四、
職員が部屋の電気をつけるとそこには四匹のれみりゃがいた。どれも張り付いたような笑顔のまま、自由気ままに空を飛び回っている。
れみりゃたちは「うっうー☆」と言いながら、職員の下へと集まってきた。
その様子を見てれいむたちがアクリルケースの中で目を丸くする。
自分たちと同じようにれみりゃも人間が怖いはずだ。そう思っていた。
しかしどうだろうか。れみりゃは地面にあんよをつけて職員の足に頬を摺り寄せている。しゃがみ込んだ職員はれみりゃの頭を優しく撫でた。
ここはゆっくりの加工所。
この部屋に連れて来られるまで、ゴミ同然に弄ばれる数多の命を見てきた。どれ一匹、慈悲の言葉をかけられることなくただ淡々と潰されていた同胞たちの姿。
それなのになぜ。何故、目の前のれみりゃは人間を恐れず、また人間はれみりゃに対してこうも好意的なのだろうか。少しも理解が追い付かない。
「どうして、れみりゃも自分たちと同じゆっくりなのに、こんなにも扱いが違うのかっていうような顔をしてるな」
職員の言葉にれいむたちの表情が変わる。自分たちの考えていたことをピタリと言い当てられて戸惑っているようだった。
「体で教えてやるよ」
そう言ってアクリルケースの上に手を伸ばす職員。
ありすの金髪が乱暴に鷲掴みされて持ち上げられた。あんよをくねらせながら悲鳴を上げるありす。漏れ出たしーしーが滴のように床へポタポタと落ちていた。
「い、や……。と、とかいはじゃ……」
「そら、れみりゃども! 餌だぞ!」
ありすの言葉には一瞬たりとも耳を貸さずに右手に持っていたありすをれみりゃたちの中に放り込んだ。
顔面から床に叩きつけられたありすが、二度、三度とバウンドしてようやくその動きを止める。そして、ありすが泣きながら顔を上げようとしたその時だった。
「ゆ゛ぎゃあ゛ぁ゛!! い゛だい゛ぃぃい゛ぃ゛!!!」
四匹のれみりゃが一斉にありすに飛び掛かる。その鋭い牙がありすの皮に突き立てられて、あっという間に引き裂かれていく。カスタードが弾けるように宙を舞った。
ぶちぶちと引き千切られる髪の毛。カチューシャはとっくに毟り取られて近くに放り捨てられていた。
舌を絡めるような艶めかしいキス……ではなく、れみりゃがありすの舌に噛み付いてそれを引き抜きながら租借していく。
ありすは瞳孔を開き切ったまま、その目尻からカスタード混じりの涙をぼろぼろと流していた。
れみりゃがありすの唇を剥ぎ取る。そのまま、ありすの口を横に側頭部付近まで引き裂いた。
もはや、吐き出されているのか、漏れ出しているのか、それすらも分からないほどにありすの体内から流出していくカスタード。
「かひーーーっ、こひゅっ……ひっ、ひゅー、ひゅっ、……ッ!!!」
声は出せない。ありすの口は完全に破壊され、音を発することができなくなっていた。
目はずっと台車の上に載せられたアクリルケースに向けられている。助けを求めているのだろう。求めているつもりなのだろう。
ありすは、その二つの目玉をれみりゃに抉り出されて食べられるまで、アクリルケースを見つめていた。
それから激しい痙攣を起こし始めるありす。やがてその痙攣は止まり、今度はれみりゃがありすの体内を貪ることで残された皮が生き物のように蠢く。
「ゆげろぉぉぉッ!?? ゆ゛ぉ゛え゛ぇ゛ぇ゛ッ!!!」
「う、うわあぁぁぁ!!! あ゛でぃずがあ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
目の前で繰り広げられる残酷で凄惨な弱肉強食の現実に、アクリルケース内のゆっくりたちは嫌悪感から中身を吐き出したり、叫び声を上げたりした。
ありすの残骸の上で羽をぱたつかせるれみりゃが嬉しそうにアクリルケースを眺めている。
その中のゆっくりたちは歯をカチカチと鳴らして震えていた。
今、ありすがれみりゃに捕食されるまでどれくらいの時間があっただろうか。短い時間ではないということだけは、どのゆっくりにも理解できた。
痛いのか。熱いのか。苦しいのか。泣きたくなるのか。中身を吐くのか。動けなくなるのか。
わからない。
“死”の感覚はわからない。今際の際にならねばわからない“死”の感覚にゆっくりたちは怯えた。恐怖であんよを動かすことができない。
「にんげんさんのいう、れいむたちがうまれてきたいみをおしえてくれる、っていうのはこういうことなの……?」
れいむが呟いた。れいむは震えていなかった。“死”を覚悟して受け入れたのだろう。穏やかな表情でアクリルケースの中から職員を見上げていた。
「ああ、そうだよ」
職員が平然と答えながらアクリルケース内のゆっくりを次々とれみりゃたちの元へ放り投げた。
れいむは動かない。綺麗な放物線を描いて、床に叩きつけられ、それかられみりゃたちに食い散らかせる仲間を見ながら、なおも職員に質問を続けた。
「にんげんさんたちのごはんになるか、れみりゃたちのごはんになるか……。れいむたちは、そのどっちかにしかなれないの?」
「何かになれるだけマシだろう」
「じゃあ、どうして、れみりゃは……れいむたちとおなじゆっくりなのに、にんげんさんにごはんさんをたべさせてもらえるの?」
「れみりゃは、お前らみたいなゴミを無償で食べてくれるからな。例えるなら、お前らが害虫でれみりゃは益虫なんだよ。……ああ、わからないか」
ぐちゃぐちゃに引き千切られていく、かつてゆっくりだった物。
れいむはそれをぼんやりと眺めていた。
あんなぐちゃぐちゃの姿になるまでは、ゆっくりしようと一生懸命頑張っていたのだろう。
必死になって食糧を探してゴミを漁り、死に物狂いでおうちを作って街の景観を損なわせたのだ。
れいむは一つの答えにたどり着いた。
(れいむ、ゆっくりりかいしたよ……)
れみりゃたちがアクリルケースの中のれいむに向けて「うー☆」と合唱を始める。れいむを食料として欲しているのだろう。
(れいむたちみたいなゆっくりがいきようとすることが……にんげんさんたちにめいわくをかけちゃうんだね……)
れいむのあんよが宙に浮いた。片方の揉み上げを掴まれ宙釣りにされる。
(……だから、にんげんさんたちにとって、れいむたちはいきてちゃいけないんだ……)
放り投げられたれいむがれみりゃによって滅茶苦茶に食い荒らされていく。
生きる意味などなかった。この世界で自分たちが生きて行くことの価値は見出せない。どこに行っても疎まれる。
それをゆっくりと理解した。釈然としない気持ちはあったけれども、それを覆すような力も知識も何もない。
れいむの存在した証が……体が、少しずつ失われていく。
薄れゆく意識の中でれいむは静かに呟いた。
――れいむ、うまれてきてごめんね
La fin
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