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anko3881 都会の自然公園 子ありすの選択 中編
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『都会の自然公園 子ありすの選択 中編』 34KB
いじめ 観察 自業自得 仲違い 追放 群れ 飼いゆ 野良ゆ 子ゆ 自然界 独自設定 リハビリ
子ありすが公園を出てから数日後。
「ゆはぁ!ゆはぁ!ゆぐぐぐぐぐぐ、ゆっくりしたいよおおおおおおおおおお!」
子ありすはボロボロの姿で街をさまよっていた。
今まで野良にしては小奇麗だった身体は薄汚れ、あんよは土ではない固いコンクリートを移動したせいで傷だらけになり、
髪の毛にはどこで引っかけたのかガムがべっとりと引っ付いている。
当然のごとく群れを出てから今までの間は食事などとっていないので、空腹は限界を超えており、歩きっぱなしだっため疲労も極限だった。
こんな惨めとしか言いようのない状態の子ありすだが、それでもまだこうして生きているのはそれだけで奇跡といっていい幸運である。
何せ何の身よりも特技もない子ゆっくりが、野良状態で数日も生存できていたのだ。
本来ならば群れを出た瞬間、車や人間に踏み潰されたり、野良猫やカラスといった外敵に即刻殺されていても全然不思議ではなかったのだから。
だがその幸運にもいい加減限界があるというものだ、いくら運よく外敵に襲われていないとはいえ、
子ありすが自力で餌を獲得することが不可能な以上、いつかは餓死する運命は確定しているだろう。
「ゆぐぐ!どうしてとくべつなありすが、こんなめに!こんな!こんなぁぁぁぁぁ!」
こんなはずではなかったと、悲壮な叫びをあげる子ありす。
だがいくら嘆いたところで目の前の現実が変わるはずもない。
そもそも勢いに任せて群れを出てきてしまったものの、子ゆっくりがノープランで生きていけるほど野良は甘くないのだ。
このままでは死んでしまう。
いくら頭がおめでたい子ありすでも、それぐらいは理解できた。
しかし子ありすはこんな絶望的な状況にあっても、希望を失ってはいなかった。
「ゆうう!こっちよ!こっちからぷれいすのけはいをかんじるわ!」
ズリズリと身体を引きずりながら、ノロノロと前進する子ありす。
子ありすはただ闇雲にさまよっているわけではなかった。
子ありすにはある確信があったのだ。
公園内の森にいたときにはわからなかったが、外に出た途端、自身の出生の記憶が反応したのだ。
自分はこの街を知っている、そして自分の生まれたぷれいすまでの道筋を覚えているのだ。
自らの餡子に刻まれた本能のままに進めば、きっと自分が生まれた場所である特別なゆっくりぷれいすにたどり着けるはず。
そしてそこにたどり着きさえすれば、きっとそこから素晴らしい日々がはじまるのだ。
そう信じることで、かろうじて子ありすは心を折らずに前に進み続けていたのである。
さて、子ありすが感じているこの奇妙な確信。
それはいわゆる帰巣本能というものであった。
帰巣本能とは大雑把に言えば、動物などが自分の巣や生まれた場所などに戻ってこれらる性質や能力のことである。
これを利用したものとして伝書鳩などが有名であり、知っている人も多いだろう。
とはいえ、もちろんゆっくりと動物とでは話が違う。
違うのだが、だからといってゆっくりが帰巣本能を持っていないとは限らない。
そもそも帰巣本能の仕組み事態が、今だ正確に解明されていないのだ。
ある説では体内に磁石を持っているとか、またある説では匂いをたどって戻ってくるとか言われている。
子ありすが今感じている気配はそれに類するものなのか、あるいはそれ以外の何か今だ明らかになっていないゆっくり特有の能力なのか?
それはわからない。
しかし、それでも子ありすは進み続けた。
自分の本能に感じるままに。
「はぁ!はぁ!ゆふふ、ちかい!ちかいわぁ!」
いったいどれほどの距離を進んできたのだろうか。
ズタボロの身体を引きずりながら、しかし子ありすはニヤリと下品に顔を歪めた。
ぷれいすに近づけば近づくほど、自身の内から湧き出る記憶は鮮明になっていく。
もう間違いない。
自分はこの近くで生まれたのだ。
そしてどういうわけか、生後すぐにぷれいすからあの公園へと移動させられた。
それを身体が覚えているのだ。
「ゆぷ!ゆぷぷぷ!ここのばしょ!おぼえてるわ!ゆふふふふ!」
そしてついに感覚だけでなく、実際に見覚えがある風景に遭遇する。
あそこに立っているあの赤いポスト。
自分は確かにあれを見たことがある!
もし公園内で生まれ、今まで外に出たことがないならば知っているはずもない光景のはずである。
近い!近いぞ!
確かこのポストの先に……。
「あっ!あああああああ!こっ、ここよ!まちがいない!まちがいないわあああああああ!」
子ありすは、とある一軒家を前に立ち止まる。
決定的だった。
この色、この形、この匂い。
ここがそうだ!
ここ以外に考えられない!
だって、覚えてるんだから!
「ゆはぁ!ゆはぁ!うほ………」
目的のプレイスにたどり着いたためか、自然と興奮で息が荒くなる。
子ありすは早速、家の敷地内へと侵入した。
遠慮する必要などない。
だってここはありすのゆっくりプレイスなのだから。
勝手知ったる我が家というやつだ。
「はぁ!うほほほ!ゆぶう!んほ!……」
熱い体が妙に熱い。
何かが目覚めそうな気がする。
子ありすは家のドアの前に立つ。
こっちじゃない。
そう、こっちだ。
ドアのから塀に沿って横に移動する。
そこには庭が広がっていた。
この庭は見覚えがある!いつも自分は部屋からこの庭を見ていたんだから。
「んほ!んほほほ!ゆほぉぉお!……」
何だか体の一部が妙に昂ぶっている。
とても抑えきれない。
いや抑える必要などない。
子ありすは庭からおうち内を見やる。
はたしてそこにはいた!
一匹のまりさが!
座布団の上ですやすやと寝息を立てている!
あのまりさが自分の親に間違いない!夢にまで見た!
それを子ありすが認識した瞬間……。
「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
子ありすは雄叫びを上げながら、室内のまりさに向かって飛び出していった。
まりさに迫る子ありすは、焦点の定まらない目をし、体中から謎の体液を撒き散らし、だらしなく緩みきった口からはよだれが滝のように流れ、
そして下半身のとある一部がこれ以上ないくらい醜く盛大に起立していた。
「んほおおおおおおおおおおおお!ありすよおおおおおおおおおおおおお!とかいはああああああああああああ!
かわいいかわいいありすが、かえってきたのおおおおおおおお!すっきりしましょおおおおおおおおおおおおおおおお!」
バン!
「ゆべえ!」
勢いよく飛び出した子ありすであったが、見えない壁(ガラス窓のことです)に盛大にぶち当たり跳ね返される。
「ゆがああああああああああああ!なんなのおおおおおおおおおお!ここまできてじゃまするやつわああああああああ!」
寸でのところを思わぬ妨害に遭い、怒りに打ち震える子ありす。
ふざけるな!じゃましやがって!
せっかくこれから本当の両親と感動の再会をして、とかいはなあいの○イプをするところだってのに!
ちきしょう!なめるな!こんな壁!こんなかべえええええええええええ!
「ぶちやぶってやるぞおおおおおおおおお!いしさんはどこだああああああああああああ!」
子ありすは目を血走らせながら庭を見渡す。
丁度口に咥えるのに具合の良い大きさの石がいくつか転がっているのが目に入る。
子ありすはこれ幸いとばかりに早速石を口に咥えると、助走をつけ、見えない壁に向かって跳ねだす。
そのまま体当たりを仕掛け、窓ガラスを割る気である。
まあ、最近のガラスは結構頑丈なので、ゆっくりごときが石を加えて体当たりしたところでバリンと割れることはないだろう。
が、しかし傷ついたりヒビが入ったりくらいはするかもしれない。
もしそうなったら大変だ、ガラス窓は一部傷がついただけで全とっかえしなければならない。
おまけに庭に面した窓はでかいのですごく高い。
普通ならゆっくりなんぞにそんな出費を強いられるのは、絶対にごめんこうむりたいと誰もが思うだろう。
だから……。
「おいおい、人の家の庭でなにやってんだい?」
ドガ!
「ゆがっぐ?」
勢いをつけて跳ねていた子ありすに突然凄まじい痛みが襲った。
背後から棒のようなもので後頭部を攻撃されたのだ。
攻撃したのは当然この家の持ち主だった。
子ありすは一匹で大騒ぎしすぎた。
あれだけでかい声で暴れれば、家の住民に気づかれるに決まっている。
だからこういう結果になるのは必然なのだ。
そしてもとより限界ギリギリだった子ありすの意識は、この一撃により闇へと深く沈んでいったのであった。
「……ゆ、ぐう、うん」
「やあ、目が覚めたかな?」
「うっ………なっ!」
何だこれは?
狭い。
それが子ありすが最初に感じた感覚だった。
よくわからないが、どうやら自分は窮屈な箱に押し込められているようだ。
辺りを見回してみると(といっても体が動かせないので目線だけ動かしたわけだが)自分の目の前には見たこともない人間の女が立っている。
そしてそれ以外の部屋の様子は、薄暗く殺風景で特に変わったものはない。
どうやら室内であることは間違いなさそうだが、ここが自分の追い求めていた理想のゆっくりぷれいすとは程遠い場所であることはすぐに理解できる。
何だって自分はこんなわけのわからないところに?
「なんなのよ!ここはいったいどこ?
いったいありすはどうしてこんなことにいるの!」
目の前に立っている女に率直な疑問をぶつける子ありす。
「ここは私の家の地下室。
そして君は今ゆっくり拘束用の道具、通称透明な箱の中にいる。
君がここにいる理由は、私の家の庭で暴れてたからだ。
だから捕まえてここに閉じ込めたというわけさ」
子ありすの疑問に簡潔に答える人間。
しかしそれらの答は、子ありすにとっては満足な回答ではなかった。
「ふざけないでちょうだい!なにわけのわからないことをいってるの!
ここはありすのおうちなのよ!ありすは、このおうちのとくべつなかいゆっくりのこなのよ!
それなのに、なんなの!このあつかいは!わかったらさっさとここからだして、あまあまをよういしなさい!
それから、あのまりさにあわせて!あれはありすのほんとうのおやなのよ!」
女に向かって見当違いな要求をまくし立てる子ありす。
普通ゆっくりにここまで舐めた態度を取られれば、挨拶代わりに一発かましたくなってもおかしくない。
しかし女の反応は違った。
「そうそう、それ!それなんだよ!私が君を生かしておく理由はさ」
女は子ありすを指差し、何故か嬉しそうに言った。
「自分の家の庭に野良ゆっくりが進入し、石を持ってガラスを割ろうとしている。
本来ならさ、これ問答無用でぶっ潰すところでだよね。
ていうか君、そもそも私が手を下すまでもなく、もう疲労と栄養失調で今にも死にそうな状態だったしね。
でもさ、君の姿を見たときちょっと気になることがあったわけよ。
だからこうして殺さず、しかも栄養補給までして確保しておいたわけだ」
女の言ったことは事実だった。
実際に子ありすはこの家にたどり着いたときに比べ、格段に血色がよくなっている。
子ありすが気絶している間に、女がオレンジジュースを注入しておいたおかげだ。
「でさ、あらためて訊きたいんだけど、やっぱ君この家で生まれたありすなわけ?」
「だからさっきからそういってるでしょおおおおおおおお!
なんでくそにんげんってのは、こんなにあたまがわるいのおおおおおおお!」
今更といえば今更の質問に子ありすは憤慨し、狭い箱の中でガタガタと暴れる。
「ふーん、そうかそうか。
あまりにも似てたもんだから、まさかとは思ったんだ。
いやごめんごめん、はっきりいってさ、今の今まですっかりその存在を忘れてたようん」
女は頭の裏をポリポリとかきながら大して悪びた様子もなく言う。
「でもさ、もしそうだとすると、色々と疑問が生じるだよね。
ちょっと辻褄があわないって言うかさ。
そんな訳だから、本当にこの家出生まれたあのありすかどうかちょっと質問させてくれない?」
「ゆがあああああああああああああああ!なんでとくべつなかいゆっくりのこであるこのありすが、そんなことにこたえなきゃいけないんだああああああ!
だせえええええええ!そんなことより、ここからだせええええええええ!
こんなこと、ゆるされることじゃないわよおおおおおおおおおおおお!」
もう我慢ならないといった様子で、さらにバタバタと箱の中で無意味に暴れる子ありす。
「あっそう。じゃ潰しちゃおっかな」
「ゆゆ!?」
「だって私が君を生かしている理由って、もしかしたらあのときのありすのかもしれないと思ったからだしね。
でも私の質問に答えられないってことは、違うってことじゃない?
もし、そうなら君は単なる不法侵入した野良ゆっくりってことで、生かしておく意味ないよ」
「ゆぐぐぐぐ!」
子ありすは唸った。
どうやら目の前にいるこの人間は、愚かしいことにも自分がこの家の飼いゆっくりの子であるということが見ただけでは理解できないらしい。
これほどにまでもとかいはなおーらを放っている自分を見ても、それがわからないなんてなんて節穴なんだろうか!
しかたがない。
ここは不本意ではあるがこの人間の質問に答えてやるほかないようだ。
何よりも、自分が野良ゆっくり扱いされるなど、耐えられることではない!
「わかったわよ!なんでもきけばいいじゃないの!」
「あっそう?
それじゃまずさ、そもそもの疑問として、なんで自分の生まれがこの家だと思ったわけ?
君今までずっとあの公園で育ったはずだよね?
しかも両親ちゃんといるはずなんだけど?
あっ、もしかして両親から直接聞いたのかな?
あなたは本当は自分たちの子じゃなくて、飼いゆっくりの子だったのよ、みたいにさ」
「ゆふん!あいつらがありすに、そのことをばらすはずないでしょおおおおおおおおお!
さんざん、えらばれたかいゆっくりのこである、ありすのじゃまをしていたんだからね!
ああ、いまおもいだすのもはらだたしい!
ありすがかいゆっくりの、かいぬしにあうのをじゃましたあげく、むれからついほうなんていいだしてえええええええ!
そのせいで、ありすがどれだけくろうしたかあああああああああ!」
数日前の出来事を思い出したのか、怒りに打ち震える子ありす。
「いやいや、飼いゆっくりの飼い主に会うのを邪魔って、そりゃそんなことすれば当然追放されるわねそりゃ。
てか、なーんだ。
あの連中がばらしたわけじゃないのか。
つまりちゃんとあのときの約束守ってたってことね、ちょっと残念」
女はやや期待はずれといった表情で言う。
「ならさ、両親に聞いたんじゃないなら、結局どうしてわかったわけよ?」
「それはね、ゆめよ!」
子ありすは胸をはって答える。
「……あ?夢だぁ?」
「そうよ!ありすがうまれるまえの、このおうちにいたときのゆめをみたのよ!
それでかくしんしたの!ありすはあんなにせのくずりょうしんや、むれのれんちゅうとはちがう!
えらばれた、かいゆっくりのこなんだってことをね!」
「……ふむ」
(夢、生まれる前の夢か……。
そういえばこいつ、確か茎に成ってるときは一匹だけだったかね。
本来ならば複数の実ゆに行き渡る栄養が一匹に集中したことにより、まだ生れ落ちる前の実ゆ状態であったにも関わらず、
薄い意識が存在し、それがこの家を記憶にとどめていたのかもしれない。
そしてそれらの曖昧な記憶が、何かのきっかけで夢として出た。
それならばこの家のことを覚えていてもおかしくはないか。
だが、しかし…)
「じゃあ公園からこの場所までの道はどうしてわかったの?それも夢なわけ?」
「ゆふふん!とかいはなありすにはわかるのよおおおおおおお!じぶんがほんらいいるべきぷれいすのばしょがねえええええええええ!
かんじるのよおおおおお!ぷれいすが、ほんらいのもちぬしである、ありすをよぶのをねえええええええええ!」
「ふーん」
(つまりはカンだけでここまでやってきたってことね。こりゃ驚いたわ。
まあ帰巣性ってやつかな。
そういえば、遠くの山に捨てたはずの飼いゆっくりが、どうやってか飼い主の家に戻ってきたなんて例がいくつかあったっけ。
あるいはもっと単純に、ここから公園まで運ぶ途中に既に意識あったのかもね。
それらを考えればここからあの公園までは距離も近いし、まったくあり得ない話でもないかな……)
「なるほどね、大体わかったわ。
じゃこれが最後の質問だけどさ、結局のところ君ここに何しにきたわけ?」
「ゆへ?」
女の質問に、子ありすがきょとんとした声をあげる。
子ありすは質問の意味がわからない。
いや、一応言葉としての意味は理解しているのだが、何故そんなことを訊ねるのかがわからないのだ。
「はああああああああああああああああん!そんなのきまってるでしょおおおおおおおおおおおお!
かいゆっくりにもどるためよおおおおおおおおおおおおおお!
ありすは、えらばれたかいゆっくりのこなのよおおおおおおおおお!」
「そうね。確かにあの居間で寝てたまりさは金バッジの飼いゆっくりだし、
君が正真証明あのまりさと餡子が繋がった子に間違いない(本当は今の話だけじゃ100%そうだとは限らないんだけどそれはどうでもいいや♪)ことは認めよう。
で、それがなに?」
「それがなに?じゃないいいいいいいいいいいいいいい!
ありすは、このいえのかいゆっくりのこなのよおおおおおおおお!
だからありすも、かいゆっくりになるのはとうぜんのことでしょおおおおおおお!
わかったら、さっさとここからだして、あまあまと、ゆっくりぷれいすをよういしろおおおおおおお!」
「やだ」
「やだじゃないでしょおおおおおおお!
ありすはえればれた、かいゆっくりのこなのにいいいいいいいい!」
「ふう、やれやれ」
女は溜息をついた。
彼女にしてみれば、大体知りたかったことは知り終えたので、もう子ありすは用済みも同然だった。
これ以上会話を続けたところで、この子ありすは自分を飼いゆっくりにしろと叫び続けるだけだろう。
だが女はこの子ありすを飼う気など毛頭ないので、これ以上の会話はあまり意味がない。
このまま問答無用に潰してしまってもかまわなかった。
とは言え、流石にそれは少々興ざめというものである。
せっかく奇跡的な確率でここまではるばるやってきたのだ。
ここで始末するのも勿体ない。
それに興味深い話も聞けたことだし、もう少しコイツとおしゃべりするのも悪くないか。
そう思った女は口を開く。
「選ばれた飼いゆっくりの子ねぇ。
君、さっきからそれ何度も口にしてるけどさ、生まれがそんなに大事なことなわけ?
例えばさ、今にも死にそうな野良ゆっくりが、せめて飼いゆっくりに生まれてきたかったとかそういうのはわかるよ。
飼いと野良じゃ生活の豊かさが段違いだからね。
そういう境遇に対する憧れや羨望の話ならわかりやすいんだ。
でもなんか君の場合だと、まるで飼いゆっくりに生まれたから偉い、野良ゆっくりに生まれたから劣ってるみたいに聞こえるよ。
もちろん私たち人間限定の視点なら、それはある程度正しいいんだけどね。
飼いゆっくりってのは所詮人間に都合のいいゆっくりのことを言うからさ。
しかし、ゆっくりたちの世界ではそれはちょっとばかし意味が違うんじゃないのかな?」
「はあああああああああん!なにいってるよおおおおおおおおおおおおお!
かいゆっくりはとくべつなのよ!むれにいたような、あんなのられんちゅうとはぜんぜんちがのよ!
そんなかんたんなこともわからないの!ばかなの!しぬのおおおおおおおおお!」
子ありすは子バカにしたような態度で女に言う。
野良ゆっくりの子は平凡でくだらない存在であり、飼いゆっくりの子は特別でとかいはな存在である。
これは子ありすにとっては確定していることであり、今の子ありすを構成する信念でもある。
その信念があったからこそ、ここまではるばるやってこれたのだ。
「それはゆっくりの価値は全て生まれで全て決まっていて、それ以外は覆らないってことかな?
つまりは飼いゆっくりの生まれの子は、野良ゆっくり生まれの子よりも、絶対的にゆっくりとしての格が上ということかい?」
「そうよ!そのとおりよ!
それはきまっていることなの!
そして、ありすは、あのにせのりょうしんや、むれのれんちゅうなんかとは、ひかくにならないくらいとかいはでゆっくりしているの!
だってありすはかいゆっくりのこなんだから!」
堂々と自信満々に宣言する子ありす。
生まれつき飼いゆっくりの子である自分が、かつて群れにいたゆっくりたちよりも圧倒的に優れているという、
自身の優位性をこれっぽっちも疑っていないのだ。
「君のその信念はさ、君がたまたま飼いゆっくりの子だと確信しているからこそ言えることなんじゃないかな?
無知のヴェールの話をしってるかい?
君がもし自身を取り巻く背景を何も知らずにいたとしたら、そんな特定のゆっくりが一方的に不利になるよな考えを………ってやめた。
この話は長くなる。それにゆっくりにこんなこと言ってもしかたない。
まあともかくさ、野良でも優秀なやつ、飼いゆっくりでもゲスなやつはいるんじゃないか?
それを生まれ一つで一緒くたにするのは間違ってるんじゃないかい?」
「そんなことないわ!
ばかなにんげんにはわからないでしょうけど、かいゆっくりにはね、どくとくの『とかいはなおーら』があるの!
ゆっくりのないめんからあふれでる、こうきさや、かしこさ、ゆうしゅうさがそれよ!
ありすにはそれがわかるのよ!
むれにいたれんちゅうには、そのおーらをまるでかんじなかったわ!
そしてもりに、にんげんといっしょにやってきたかいゆっくりからは、みなそのおーらをかんじたわ!
これはつまり、すべてのかいゆっくりがすぐれていて、のらゆっくりがおとっているというなによりのしょうこよ!
うまれがすべてよ!このさは、ぜったいにくつがえらないの!」
「生まれが全てね。よくわかったよ」
女はやや呆れたように呟くと、しかし急にパッと笑顔になって子ありすに言い放った。
「じゃあきみは、自身がゆっくり界における最底辺にいるゴミクズだということを自ら認めるわけだ」
「ゆへ?」
「私はさ、例え親が何者であろうとも、それが子供の価値を固定するものだとは思わない。
たとえ親がクズでも子が必ずクズになるとは限らないし、その逆もしかりで親が優れていても子がクズになることだってあるだろう。
これは私だけではなく殆どの人がそう考えている、と思う。
だがしかし、君がどうしても親の生まれが全てだと主張するならそれもいいだろう。
そんなにも自分がゴミ以下の存在だと力説するとは、ある意味潔いとも言える」
「なっ、なにをいってるの!」
突然に笑顔になり、饒舌にわけのわからないことをのたまう女にたじろぐ子ありす。
いったい何だというのか?
この人間はやはり頭がおかしいのか?
所詮飼いゆっくりの奴隷である人間と、まともにコミュニケーションをとろうとしたのが間違いだったのか?
だがしかしこの女の笑顔には、そこはかとなく危険な気配を感じる。
本来ならば聞き流していいはずの戯言なのに、何故か凄まじくゆっくりできないような気がしてならない。
何かを見逃している。
そんな危惧を覚えずにはいられないのだ。
だとしたら一体何を?
………………。
いや、大丈夫だ。
何の問題もない。
第一さっきこの人間自らが、自分は金バッジの飼いゆっくりの子に間違いないと言っていたではないか!
自分は選ばれた特別な飼いゆっくりの子なのだ。
それは間違いない。
だから問題ない!問題ないはずだ!
だからそんな不安になるような顔でありすを見るのをやめろおおおおおおおおおおおお!
「ふふ、なんだか不思議そうな顔をしているね。
私の言っていることの意味がわからないかな?
だがこれは至極簡単な話なんだ
君はね、実は薄汚い野良のれいぱーの子なんだから」
「!?」
「それはある晴れた日のことでした。
あまりにも天気がよかったので、私は散歩がてら買い物に出かけることにしました。
しかし私はなんと、出かけるときに庭に面した窓の鍵をついうっかり閉め忘れてしまったのです。
そして偶然か、はたまた以前から目をつけていたのか、そのスキにつけこんで野良のれいぱーありすが家に進・入!
哀れ、そのとき室内にいた飼いゆっくりのまりさはレイプ!されてしまいましたさ。
さて、私が家に帰ったときには、れいぱーありすの白熱したレイプ回数は二桁にも到達する勢いで、
周囲には食い散らかされたり、犯されたり、黒ずんだりしてる実ゆっくりがいくつも転がっており、
その中心では額から複数本の茎を生やし、泣きながらレイプされている飼いゆっくりまりさがいました。
私は面白かったのでそのまま見ていてもよかったのですが、流石にこれ以上放置しておくとまりさが死にそうだったので、
まりさにのしかかっているれいぱーを気絶させ引き離しました。
その際まりさの額の茎の中では奇跡的に一匹だけ無事な実ゆが成っていました。
まりさは嫌がったのですが、私は面白そうだったのでその一匹を殺さず生ませることにしたのです。
その生き残った一匹の実ゆこそが………」
女はスッと子ありすを指差し言い放った。
「君だ!」
「……うそ、うそよ!」
呆然として呟くように言う子ありす。
突如叩きつけられる事実に思考が追いつかない。
「嘘じゃないよ。嘘つく理由も無いしね。
実際君はそっくりだよ、君の親であるのれいぱーにさ。
さっきの庭で、醜いもんをおっ立ててながらまりさに迫っていくところなんて、まさに瓜二つ。
過去に家に侵入してまりさを犯してた、君の親と思わずダブって見えたくらいだよ。
実のところその姿を見たからこそ、君の存在を思い出したくらいさ。
ついさっき親は関係ないとか言っといてなんだけど、やっぱり血は争えないもんだね、
まさか自分の実の親を突然レイプしようとするなんてさ。
(まっ、最もアレは自身の生命の危機に瀕した際に、子孫を残そうとする生命的本能の結果と言えなくもないけど別にそんなこと言わなくてもいいよね♪)」
「あっ、………あああ…あああああああ」
口から言葉にならない声が漏れる。
全身が小刻み震え意味のある発音ができない。
「ああ、ちなみにその君の親のれいぱーありすはその後一ヶ月かけて『生まれてきてごめんなさい!どうか殺して下して下さい』
って言いながら死んでいったからもう会えないや。
ゴメンね。
それと君の親の罪のことなら気にしなくていい。
私は親の罪を子に引き継がせるようなことはしないからね。
だから君は安心して自分の片親が薄汚いクズれいぱーである事実を受け入れればいい」
「あっ、あああああああああああ!ちっちがうううううううううううううう!
ありすは!ありすはれいぱーのこなんかじゃないいいいいいいいいいいいいいいい!」
否定の雄叫びを上げる子ありす。
だがその時、子ありすの脳裏に突然何かがフラッシュバックした。
それは、以前見た夢と同じように自身が生まれる前の記憶。
自身が実ゆっくりだったときのおぼろげな記憶。
『ゆぎゃあああああああ!ぼうやべでえええええええ!もうすっきりしたくないいいいいいいいい!』
『ゆほほ!まりさったらまだそんなこといって、つんでれなのね!もえるわあああああ!んほおおおおおおおおおお!
すっきりいいいいいいいいいいいいいい!』
『ずっ、ずっきりいいいいいいいい!もっ、もうやだああああああ!もうすっきりも、おちびじゃんもつぐりだぐないいいいいいい!』
『ゆっほっほおおおお!またありすとまりさの、あいのけっしょうがうまれたわあああああああ!
それじゃさっそく、むーしゃ!むーしゃ!しあわせえええええええええ!やっぱりとかいはなこういのあとの、
おちびちゃんのあじはかくべつねえええええええ、このこたちも、たべられてよろこんでるわああああああああ!
さあ、もういちらうんどいくわよおおおおおおおおおお!んほおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
『ゆああああああああああああああ!だずげでええええええええええええええ!やべでえええええええええ!
すっすっすっすっきりいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!』
『ゆっふっふうううううううううん!うほほほ!またまりさのひたいから、あいのけっしょうがうまれたわよおおおおおおおおおおお!
ゆほ?このくきになってるおちびちゃんは、ほかのことくらべてなんだかありすににて、とってもとかいはねぇ!
きめたわ!このこだけはたべずに、とくべつにいかしておきましょう!
きっととんでもなく、とかいはなゆっくりになるわよおおおおおおお!
さあさあまりさ!ふたりのあいのけっしょうのたんじょうをいわって、すっきりするわよおおおおおおおおお!』
『あっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛もう!もうやべええええええええええええええええ!』
『んほほほおおおおおおおおおおおおおお!まりさ!いいしまりよおおおおおおおおおおおお!かんじてるのねええええええええ!
やっぱりとかいはなあいのこういをするには、かいゆっくりがさいこうねえええええ!
そのへんの、のられんちゅうじゃはなしにならないわああああああああああ!とかいはなおーらをかんじるわああああああ!
かいゆっくりこそ、ありすのあいをうけるにあたいするゆっくりよおおおおおおおお!んほおおおおおおおおおおお!
そーれ、すっきり!すっきりいいいいいいいいいいいいいいいい!』
「ゆあああああああああ!そんな!そんなああああああああああああああああああ!」
突如再生される身の毛もよだつ悪夢のような光景。
見るもおぞましい汚物が、飼いゆっくりまりさにのしかかり徹底的に犯し蹂躙している。
そんな本来ならば見覚えのないはずの光景であるにもかかわらず、子ありすは以前見た夢と同じように奇妙な確信を覚えていた。
あの汚物こそが自分の親なのだと。
そしてそれをこの行為を頭上から見ている一匹だけ残された実ゆっくり。
れいぱーありすの気まぐれによってたまたま一匹だけ生かさされた実ゆっくり。
それこそが子ありすなのだと。
「うわあああああああああああああ!いやだああああああああああああああああああ!れいぱーのこだなんてええええええええええ!」
事実を認識し、わけもわからず吼える子ありす。
れいぱーの子。
これはゆっくり界において特別な意味を持つ概念の一つなのである。
ゆっくりとはとにかく自分がゆっくりするために、何かを見下すことに特化した性質を持つナマモノだ。
例えば、誰もが振り返るような美ゆっくりで、さらに狩が上手で、おうち作りも完璧な上級ゆっくりがいたとする。
しかしこの完璧なゆっくりでさえも、お飾りをなくせば一瞬にしてゆっくりのヒエラルキー最下層へと貶められる。
ゆっくりするために自身が努力するよりも、相手の粗探しをして貶めたほうがはるかに簡単だからだ。
これはつまり、何か一つでも欠点があれば他はいくら優れていてもまったく関係がないということを意味する。
そしてこれは子ありすのケースでもそのまま当てはまる。
子ありすの片親は飼いゆっくりだった。
そこまではいい。まあ一応のプラス要素といえるだろう。
だがもう片方の親はれいぱーだったのだ。
れいぱーによるレイプによってできた子は、ゆっくり界の誰からも忌み嫌われる存在。
仮に子ありすがどれほどいい子で、優秀なゆっくりだったとしても、そんなことはまったく意味がない。
それこそ片方の親が飼いゆっくりだったなんて、何のアドバンテージにもならないほどの汚点。
ゆっくり界の最底辺。
みんなから迫害されるためだけに存在しているゆっくり。
それがれいぱーの子の一般的な境遇である。
しかも子ありすは自分の口から散々生まれが全てだと主張してきている。
ゆっくりは生まれが全てで、その地位は絶対に覆らないと。
それはつまり、れいぱーの子である自分はゆっくり界における最下層のゴミクズであり、生涯その地位のままであると宣言していたも同義なのだ。
子ありすが今の今まで自分の優位性として固く信じてき信念は今となってはまったく逆、
一瞬にして自らを貶める呪いへと変貌したのである。
「ああそうそう、それとさ、君はあの群れに住んでいた仮の両親のこと散々バカにしてたけど、
元飼いゆっくりだぞ、君の片親であるぱちゅりーは」
「………ゆへ?」
放心状態子ありすに、追い討ちをかけるように話を続ける女。
「だから飼いゆっくりだよ、飼いゆっくり。
君の仮の両親でもあるぱちゅりーは、君が崇拝している飼いゆっくりだったのさ。
多分銀くらいかな。
粗相をしたんじゃなくて、飼い主の勝手な都合で捨てられたタイプだろうなありゃ。
その他にもあの群れには、捨てられた元飼いゆがちらほらといるんだよ。
ご自慢の『とかいはなおーら』とやらで気がつかなかったのかい?」
「ゆっ………そんな!ばかな………!」
驚愕の事実に再び絶句する子ありす。
「まっ、気づくはずもないか。
君はそもそも、飼いゆっくりってものを根本的に誤解している典型的なゆっくりみたいだからね。
どうせ飼いゆっくりになれば、毎日恵まれた環境でゆっくりし放題、側にいる人間はゆっくりの奴隷か何かだとでも思っていたんだろ。
そして、そんなことはないという話を両親から聞かされても、戯言だと聞き流していた。
生まれも卑しければ、頭も悪いし他ゆんを見る目もまったくない。
どうしようもないクズゆ。
それが君だよ」
「ゆっが!ちがっ…………」
「違わないって。
あれだけ飼いゆっくり飼いゆっくり言ってたくせに、自分の一番近いところにいたゆっくりが、元飼いゆっくりだと気づけないなんてこんな間抜けな話があるかい?
とかいはなおーら(笑)だって?ふざけちゃいけない。
所詮君はゆっくりの内面的な良し悪しなんて見ちゃいないんだ。
見ているのは外見的な見栄えだけさ、それこそ親と同じように本能的にレイプしたときに、
どれだけ具合がよさそうかでしか判断してないんだ。
ああ、おぞましいね、卑しいね、ゆっくりの価値は自分がレイプしたいかどうかで決まるってわけだ。
そりゃ人間の手元にいるゆっくりの評価は高いだろうよ。
人間に飼われてるゆっくりは金でも銀でも銅でも、一応見た目だけは同じようにいいからね」
「そんな……ありすは………」
弱々しく唸る子ありす。
もはや何かを言い返す気力はない。
自身の生まれは考えうる最悪のものであると知ってしまったし、
そもそも今まで自身の特別性の根拠であった飼いゆっくりという概念も、形のない虚構であるとわかってしまった。
子ありすは今までまるで意識してなかったが、先程女の言った通り所詮子ありすが飼いゆっくりから感じていたと主張する『とかいはなおーら』などというものは、
パッと見の外見のみで判断したものであり、ゆっくりの内面を感じ取ったものではないのだ。
なんだかんだ偉そうなこと言っといて、結局外面以外は見ていない。
そもそもずっと森に引き持っていてろくに世間を知らない子ありすに、物事の良し悪しを判断する能力があろうずもないのだ。
全ては子ありすの妄想、思い込み、ファンタジー。
能力もなければ、生まれの地位もない、実力もなけりゃ、器もない。
ないないづくしゴミゆっくり。それこそが子ありすの正体だった。
「…………………」
子ありすは黙っている。
違うと否定しなければならないのだが、もはやなにが違うのかすらもうわからない。
何かを言わなければならないのだが、いったいなにを言えばいいのかわかない。
どうしていいのかわからない。
いや、そもそも何のために自分は群れを抜け出し、死ぬほどの苦労してこんなところまで遥々やってきたのだ?
飼いゆっくりになるため?
馬鹿馬鹿しい。
群れにいた両親が言っていたではなか、飼いゆっくりなどろくなものじゃないと。
その通りだった。
こんなゆっくりできない人間の側なんて絶対にお断りだ。
そうだ、そんなことよりも両親だ。
自分の真の両親は、こんな人間と一緒にいるようなくだらないゆっくりなどではない。
そもそも生まれてから今まで一度もしゃべったこともないようなまりさを、真の両親として認識するなんてどうかしていた。
関係ない!断じて自分はここにいた飼いゆっくりまりさや、薄汚いれいぱーなどとは一切関係ないのだ。
あの森で今までずっと一緒に暮らしてきた両親こそ本当の両親なのだ。
そうとも、餡子の繋がりなど取るに足らないくだらないものだ。
今まで一緒に暮らしてきた、ゆっくりとしての絆こそが大切なものなのだ。
よって自分は断じてれいぱーの子などではない!
帰ろう。
あの素晴らしい森のゆっくりプレイスへ。
生まれ育った本当のおうちへと。
自分の居場所はここではないのだ。
「………かえして!」
「はい?」
「かえしてよ!ありすをもりへかえして!もとはといえば、くずにんげんがありすをもりにつれてったんでしょう!
だったらくずにんげんには、ありすをまたもりへとおくりかえすぎむがあるわああああああああ!」
「なんなんだ急に?
いや、まあ確かに生まれた直後の君を、あの公園にある群れへと預けたのは私だよ。
とりあえず生かしておくことにしたものの、まりさだけでもうざいのにその上れいぱーの子まで家に置くなんて冗談じゃないからね。
あの群れの長に、あまあまと一緒に君を押し付けたのは間違いない。
だけどそれがどうして君を公園へ帰すことに繋がるんだ?
そもそも君は公園がいやだったからこそ、真の親を求めてここまで来たんだろ?」
「ゆふん!しんのりょうしん?ふざけないで!
ありすのりょうしんは、こうえんにいるあのにひきだけよ!
にんげんなかといっしょにいるゆっくりとありすとは、なんのかんけいもないわ!
くそにんげんにはわからないだろうけど、だいじなのは、あんこのつながりじゃないの!
ゆっくりとしてのきずなのつよさなのよ!
りかいしたら、さっさとありすをこうえんにもどしてよ!こんないなかには、もういちびょうだっていたくないわ!」
キッと女を見据え吐き捨てるように言い放つ子ありす。
「………………。
あーなるほどなるほど。
そうか、そういうふうに逃避したってことか。
うん、まあクズゆっくりの思考としては無難なとこかな」
子ありすによる突然の意味不明な発言に対して、女はしばらく腕を組んで何かを思案するような仕草をしていたが、
急に納得がいった風に頷いた。
子ありすは知る由もないがこの時の女は、子ありすがたどった思考の道筋を子ありす以上に正確にトレースし、
その発言にある裏の真意を理解していたのである。
子ありすがたどった思考。
それはつまるところ現実から逃避した上での両親の乗り換えである。
もし仮に子ありすがこのままこの場所にとどまり、飼いゆっくりとして暮らす(そんなことは絶対に不可能なのだが、子ありすの思考ではそこまで及ばない)
こととなれば、嫌でもも自分の片親がれいぱーであるという事実を突きつけられ続けることになる。
そんな最悪なことになるくらいならば、いっそのこと本当の両親を切り捨て、今までの一緒に暮らしていた公園での仮の両親を本当の両親ということにして、
自らの汚点を消し去ろうと考えたのだ。
突然ありもしない『ゆっくりとしての絆(笑)』などという新概念を持ち出しきたのはそのためである。
勿論これは、『とかいはなおーら(笑)』とまったく同等に中身のまるでない性質のものと思って間違いないだろう。
結局子ありすにとっては自分都合のいいことが真実であり信念なのだ。
そして自身に都合が悪しと悟れば、即座に実の両親をも切り捨てる。
ある意味どこまでもゆっくりらしいゆっくり。それこそが子ありすだった。
「ふむ。本来ならそんな義理まったくないんだけど、まぁいいか。
そんなに言うのなら私が再びあの公園まで連れて行ってあげよう(それはそれで面白そうだし♪)」
「ゆほ!ほんと!」
「ただし!」
女はスッと目を細める。
「私と君の付き合いはもうこれっきりだ。
今度この付近でそのふざけた面を見かけたら、警告なしで問答無用に踏み潰す。
わかったかな?」
「ゆっくりりかいしたわ!
ゆふん!だれがこんなところににどとくるもんですか!
たのまれたってごめんだわ!」
当然だという風に頷く子ありす。
実際もう二度とこの場所に来る気はなかった。
忌まわしい事実が眠るこの場所には。
「わかった。
それじゃいこうか。
ああ、そういえば最後に自分の生みの親のまりさに一目あっていかなくていいのか?」
「はぁん!ふざけたこといわないでね!
いったでしょう!ありすのりょうしんは、こうえんにいるあのにひきだけよ!
それいがいはいないわ!
あったこともない、うみのおやなんて、くそくらえよ!」
「さいですか。
それじゃ早速いこうか。
君の真の両親とやらに再び会いにさ」
女はパカリと透明な箱の蓋を開け、子ありすを取り出す。
そして、向かうは近所にある巨大自然公園。
冒険の果てに、ゆっくりとしての絆(笑)に目覚めた子ありすは公園への帰還を決意する。
果たしてその帰還は公園の群れに何をもたらすのか?
そして依然として謎の行動の多いこの女の真意とは?
物語の舞台は再び巨大な自然公園へと移り変わるのであった。
後編へ続く
いじめ 観察 自業自得 仲違い 追放 群れ 飼いゆ 野良ゆ 子ゆ 自然界 独自設定 リハビリ
子ありすが公園を出てから数日後。
「ゆはぁ!ゆはぁ!ゆぐぐぐぐぐぐ、ゆっくりしたいよおおおおおおおおおお!」
子ありすはボロボロの姿で街をさまよっていた。
今まで野良にしては小奇麗だった身体は薄汚れ、あんよは土ではない固いコンクリートを移動したせいで傷だらけになり、
髪の毛にはどこで引っかけたのかガムがべっとりと引っ付いている。
当然のごとく群れを出てから今までの間は食事などとっていないので、空腹は限界を超えており、歩きっぱなしだっため疲労も極限だった。
こんな惨めとしか言いようのない状態の子ありすだが、それでもまだこうして生きているのはそれだけで奇跡といっていい幸運である。
何せ何の身よりも特技もない子ゆっくりが、野良状態で数日も生存できていたのだ。
本来ならば群れを出た瞬間、車や人間に踏み潰されたり、野良猫やカラスといった外敵に即刻殺されていても全然不思議ではなかったのだから。
だがその幸運にもいい加減限界があるというものだ、いくら運よく外敵に襲われていないとはいえ、
子ありすが自力で餌を獲得することが不可能な以上、いつかは餓死する運命は確定しているだろう。
「ゆぐぐ!どうしてとくべつなありすが、こんなめに!こんな!こんなぁぁぁぁぁ!」
こんなはずではなかったと、悲壮な叫びをあげる子ありす。
だがいくら嘆いたところで目の前の現実が変わるはずもない。
そもそも勢いに任せて群れを出てきてしまったものの、子ゆっくりがノープランで生きていけるほど野良は甘くないのだ。
このままでは死んでしまう。
いくら頭がおめでたい子ありすでも、それぐらいは理解できた。
しかし子ありすはこんな絶望的な状況にあっても、希望を失ってはいなかった。
「ゆうう!こっちよ!こっちからぷれいすのけはいをかんじるわ!」
ズリズリと身体を引きずりながら、ノロノロと前進する子ありす。
子ありすはただ闇雲にさまよっているわけではなかった。
子ありすにはある確信があったのだ。
公園内の森にいたときにはわからなかったが、外に出た途端、自身の出生の記憶が反応したのだ。
自分はこの街を知っている、そして自分の生まれたぷれいすまでの道筋を覚えているのだ。
自らの餡子に刻まれた本能のままに進めば、きっと自分が生まれた場所である特別なゆっくりぷれいすにたどり着けるはず。
そしてそこにたどり着きさえすれば、きっとそこから素晴らしい日々がはじまるのだ。
そう信じることで、かろうじて子ありすは心を折らずに前に進み続けていたのである。
さて、子ありすが感じているこの奇妙な確信。
それはいわゆる帰巣本能というものであった。
帰巣本能とは大雑把に言えば、動物などが自分の巣や生まれた場所などに戻ってこれらる性質や能力のことである。
これを利用したものとして伝書鳩などが有名であり、知っている人も多いだろう。
とはいえ、もちろんゆっくりと動物とでは話が違う。
違うのだが、だからといってゆっくりが帰巣本能を持っていないとは限らない。
そもそも帰巣本能の仕組み事態が、今だ正確に解明されていないのだ。
ある説では体内に磁石を持っているとか、またある説では匂いをたどって戻ってくるとか言われている。
子ありすが今感じている気配はそれに類するものなのか、あるいはそれ以外の何か今だ明らかになっていないゆっくり特有の能力なのか?
それはわからない。
しかし、それでも子ありすは進み続けた。
自分の本能に感じるままに。
「はぁ!はぁ!ゆふふ、ちかい!ちかいわぁ!」
いったいどれほどの距離を進んできたのだろうか。
ズタボロの身体を引きずりながら、しかし子ありすはニヤリと下品に顔を歪めた。
ぷれいすに近づけば近づくほど、自身の内から湧き出る記憶は鮮明になっていく。
もう間違いない。
自分はこの近くで生まれたのだ。
そしてどういうわけか、生後すぐにぷれいすからあの公園へと移動させられた。
それを身体が覚えているのだ。
「ゆぷ!ゆぷぷぷ!ここのばしょ!おぼえてるわ!ゆふふふふ!」
そしてついに感覚だけでなく、実際に見覚えがある風景に遭遇する。
あそこに立っているあの赤いポスト。
自分は確かにあれを見たことがある!
もし公園内で生まれ、今まで外に出たことがないならば知っているはずもない光景のはずである。
近い!近いぞ!
確かこのポストの先に……。
「あっ!あああああああ!こっ、ここよ!まちがいない!まちがいないわあああああああ!」
子ありすは、とある一軒家を前に立ち止まる。
決定的だった。
この色、この形、この匂い。
ここがそうだ!
ここ以外に考えられない!
だって、覚えてるんだから!
「ゆはぁ!ゆはぁ!うほ………」
目的のプレイスにたどり着いたためか、自然と興奮で息が荒くなる。
子ありすは早速、家の敷地内へと侵入した。
遠慮する必要などない。
だってここはありすのゆっくりプレイスなのだから。
勝手知ったる我が家というやつだ。
「はぁ!うほほほ!ゆぶう!んほ!……」
熱い体が妙に熱い。
何かが目覚めそうな気がする。
子ありすは家のドアの前に立つ。
こっちじゃない。
そう、こっちだ。
ドアのから塀に沿って横に移動する。
そこには庭が広がっていた。
この庭は見覚えがある!いつも自分は部屋からこの庭を見ていたんだから。
「んほ!んほほほ!ゆほぉぉお!……」
何だか体の一部が妙に昂ぶっている。
とても抑えきれない。
いや抑える必要などない。
子ありすは庭からおうち内を見やる。
はたしてそこにはいた!
一匹のまりさが!
座布団の上ですやすやと寝息を立てている!
あのまりさが自分の親に間違いない!夢にまで見た!
それを子ありすが認識した瞬間……。
「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
子ありすは雄叫びを上げながら、室内のまりさに向かって飛び出していった。
まりさに迫る子ありすは、焦点の定まらない目をし、体中から謎の体液を撒き散らし、だらしなく緩みきった口からはよだれが滝のように流れ、
そして下半身のとある一部がこれ以上ないくらい醜く盛大に起立していた。
「んほおおおおおおおおおおおお!ありすよおおおおおおおおおおおおお!とかいはああああああああああああ!
かわいいかわいいありすが、かえってきたのおおおおおおおお!すっきりしましょおおおおおおおおおおおおおおおお!」
バン!
「ゆべえ!」
勢いよく飛び出した子ありすであったが、見えない壁(ガラス窓のことです)に盛大にぶち当たり跳ね返される。
「ゆがああああああああああああ!なんなのおおおおおおおおおお!ここまできてじゃまするやつわああああああああ!」
寸でのところを思わぬ妨害に遭い、怒りに打ち震える子ありす。
ふざけるな!じゃましやがって!
せっかくこれから本当の両親と感動の再会をして、とかいはなあいの○イプをするところだってのに!
ちきしょう!なめるな!こんな壁!こんなかべえええええええええええ!
「ぶちやぶってやるぞおおおおおおおおお!いしさんはどこだああああああああああああ!」
子ありすは目を血走らせながら庭を見渡す。
丁度口に咥えるのに具合の良い大きさの石がいくつか転がっているのが目に入る。
子ありすはこれ幸いとばかりに早速石を口に咥えると、助走をつけ、見えない壁に向かって跳ねだす。
そのまま体当たりを仕掛け、窓ガラスを割る気である。
まあ、最近のガラスは結構頑丈なので、ゆっくりごときが石を加えて体当たりしたところでバリンと割れることはないだろう。
が、しかし傷ついたりヒビが入ったりくらいはするかもしれない。
もしそうなったら大変だ、ガラス窓は一部傷がついただけで全とっかえしなければならない。
おまけに庭に面した窓はでかいのですごく高い。
普通ならゆっくりなんぞにそんな出費を強いられるのは、絶対にごめんこうむりたいと誰もが思うだろう。
だから……。
「おいおい、人の家の庭でなにやってんだい?」
ドガ!
「ゆがっぐ?」
勢いをつけて跳ねていた子ありすに突然凄まじい痛みが襲った。
背後から棒のようなもので後頭部を攻撃されたのだ。
攻撃したのは当然この家の持ち主だった。
子ありすは一匹で大騒ぎしすぎた。
あれだけでかい声で暴れれば、家の住民に気づかれるに決まっている。
だからこういう結果になるのは必然なのだ。
そしてもとより限界ギリギリだった子ありすの意識は、この一撃により闇へと深く沈んでいったのであった。
「……ゆ、ぐう、うん」
「やあ、目が覚めたかな?」
「うっ………なっ!」
何だこれは?
狭い。
それが子ありすが最初に感じた感覚だった。
よくわからないが、どうやら自分は窮屈な箱に押し込められているようだ。
辺りを見回してみると(といっても体が動かせないので目線だけ動かしたわけだが)自分の目の前には見たこともない人間の女が立っている。
そしてそれ以外の部屋の様子は、薄暗く殺風景で特に変わったものはない。
どうやら室内であることは間違いなさそうだが、ここが自分の追い求めていた理想のゆっくりぷれいすとは程遠い場所であることはすぐに理解できる。
何だって自分はこんなわけのわからないところに?
「なんなのよ!ここはいったいどこ?
いったいありすはどうしてこんなことにいるの!」
目の前に立っている女に率直な疑問をぶつける子ありす。
「ここは私の家の地下室。
そして君は今ゆっくり拘束用の道具、通称透明な箱の中にいる。
君がここにいる理由は、私の家の庭で暴れてたからだ。
だから捕まえてここに閉じ込めたというわけさ」
子ありすの疑問に簡潔に答える人間。
しかしそれらの答は、子ありすにとっては満足な回答ではなかった。
「ふざけないでちょうだい!なにわけのわからないことをいってるの!
ここはありすのおうちなのよ!ありすは、このおうちのとくべつなかいゆっくりのこなのよ!
それなのに、なんなの!このあつかいは!わかったらさっさとここからだして、あまあまをよういしなさい!
それから、あのまりさにあわせて!あれはありすのほんとうのおやなのよ!」
女に向かって見当違いな要求をまくし立てる子ありす。
普通ゆっくりにここまで舐めた態度を取られれば、挨拶代わりに一発かましたくなってもおかしくない。
しかし女の反応は違った。
「そうそう、それ!それなんだよ!私が君を生かしておく理由はさ」
女は子ありすを指差し、何故か嬉しそうに言った。
「自分の家の庭に野良ゆっくりが進入し、石を持ってガラスを割ろうとしている。
本来ならさ、これ問答無用でぶっ潰すところでだよね。
ていうか君、そもそも私が手を下すまでもなく、もう疲労と栄養失調で今にも死にそうな状態だったしね。
でもさ、君の姿を見たときちょっと気になることがあったわけよ。
だからこうして殺さず、しかも栄養補給までして確保しておいたわけだ」
女の言ったことは事実だった。
実際に子ありすはこの家にたどり着いたときに比べ、格段に血色がよくなっている。
子ありすが気絶している間に、女がオレンジジュースを注入しておいたおかげだ。
「でさ、あらためて訊きたいんだけど、やっぱ君この家で生まれたありすなわけ?」
「だからさっきからそういってるでしょおおおおおおおお!
なんでくそにんげんってのは、こんなにあたまがわるいのおおおおおおお!」
今更といえば今更の質問に子ありすは憤慨し、狭い箱の中でガタガタと暴れる。
「ふーん、そうかそうか。
あまりにも似てたもんだから、まさかとは思ったんだ。
いやごめんごめん、はっきりいってさ、今の今まですっかりその存在を忘れてたようん」
女は頭の裏をポリポリとかきながら大して悪びた様子もなく言う。
「でもさ、もしそうだとすると、色々と疑問が生じるだよね。
ちょっと辻褄があわないって言うかさ。
そんな訳だから、本当にこの家出生まれたあのありすかどうかちょっと質問させてくれない?」
「ゆがあああああああああああああああ!なんでとくべつなかいゆっくりのこであるこのありすが、そんなことにこたえなきゃいけないんだああああああ!
だせえええええええ!そんなことより、ここからだせええええええええ!
こんなこと、ゆるされることじゃないわよおおおおおおおおおおおお!」
もう我慢ならないといった様子で、さらにバタバタと箱の中で無意味に暴れる子ありす。
「あっそう。じゃ潰しちゃおっかな」
「ゆゆ!?」
「だって私が君を生かしている理由って、もしかしたらあのときのありすのかもしれないと思ったからだしね。
でも私の質問に答えられないってことは、違うってことじゃない?
もし、そうなら君は単なる不法侵入した野良ゆっくりってことで、生かしておく意味ないよ」
「ゆぐぐぐぐ!」
子ありすは唸った。
どうやら目の前にいるこの人間は、愚かしいことにも自分がこの家の飼いゆっくりの子であるということが見ただけでは理解できないらしい。
これほどにまでもとかいはなおーらを放っている自分を見ても、それがわからないなんてなんて節穴なんだろうか!
しかたがない。
ここは不本意ではあるがこの人間の質問に答えてやるほかないようだ。
何よりも、自分が野良ゆっくり扱いされるなど、耐えられることではない!
「わかったわよ!なんでもきけばいいじゃないの!」
「あっそう?
それじゃまずさ、そもそもの疑問として、なんで自分の生まれがこの家だと思ったわけ?
君今までずっとあの公園で育ったはずだよね?
しかも両親ちゃんといるはずなんだけど?
あっ、もしかして両親から直接聞いたのかな?
あなたは本当は自分たちの子じゃなくて、飼いゆっくりの子だったのよ、みたいにさ」
「ゆふん!あいつらがありすに、そのことをばらすはずないでしょおおおおおおおおお!
さんざん、えらばれたかいゆっくりのこである、ありすのじゃまをしていたんだからね!
ああ、いまおもいだすのもはらだたしい!
ありすがかいゆっくりの、かいぬしにあうのをじゃましたあげく、むれからついほうなんていいだしてえええええええ!
そのせいで、ありすがどれだけくろうしたかあああああああああ!」
数日前の出来事を思い出したのか、怒りに打ち震える子ありす。
「いやいや、飼いゆっくりの飼い主に会うのを邪魔って、そりゃそんなことすれば当然追放されるわねそりゃ。
てか、なーんだ。
あの連中がばらしたわけじゃないのか。
つまりちゃんとあのときの約束守ってたってことね、ちょっと残念」
女はやや期待はずれといった表情で言う。
「ならさ、両親に聞いたんじゃないなら、結局どうしてわかったわけよ?」
「それはね、ゆめよ!」
子ありすは胸をはって答える。
「……あ?夢だぁ?」
「そうよ!ありすがうまれるまえの、このおうちにいたときのゆめをみたのよ!
それでかくしんしたの!ありすはあんなにせのくずりょうしんや、むれのれんちゅうとはちがう!
えらばれた、かいゆっくりのこなんだってことをね!」
「……ふむ」
(夢、生まれる前の夢か……。
そういえばこいつ、確か茎に成ってるときは一匹だけだったかね。
本来ならば複数の実ゆに行き渡る栄養が一匹に集中したことにより、まだ生れ落ちる前の実ゆ状態であったにも関わらず、
薄い意識が存在し、それがこの家を記憶にとどめていたのかもしれない。
そしてそれらの曖昧な記憶が、何かのきっかけで夢として出た。
それならばこの家のことを覚えていてもおかしくはないか。
だが、しかし…)
「じゃあ公園からこの場所までの道はどうしてわかったの?それも夢なわけ?」
「ゆふふん!とかいはなありすにはわかるのよおおおおおおお!じぶんがほんらいいるべきぷれいすのばしょがねえええええええええ!
かんじるのよおおおおお!ぷれいすが、ほんらいのもちぬしである、ありすをよぶのをねえええええええええ!」
「ふーん」
(つまりはカンだけでここまでやってきたってことね。こりゃ驚いたわ。
まあ帰巣性ってやつかな。
そういえば、遠くの山に捨てたはずの飼いゆっくりが、どうやってか飼い主の家に戻ってきたなんて例がいくつかあったっけ。
あるいはもっと単純に、ここから公園まで運ぶ途中に既に意識あったのかもね。
それらを考えればここからあの公園までは距離も近いし、まったくあり得ない話でもないかな……)
「なるほどね、大体わかったわ。
じゃこれが最後の質問だけどさ、結局のところ君ここに何しにきたわけ?」
「ゆへ?」
女の質問に、子ありすがきょとんとした声をあげる。
子ありすは質問の意味がわからない。
いや、一応言葉としての意味は理解しているのだが、何故そんなことを訊ねるのかがわからないのだ。
「はああああああああああああああああん!そんなのきまってるでしょおおおおおおおおおおおお!
かいゆっくりにもどるためよおおおおおおおおおおおおおお!
ありすは、えらばれたかいゆっくりのこなのよおおおおおおおおお!」
「そうね。確かにあの居間で寝てたまりさは金バッジの飼いゆっくりだし、
君が正真証明あのまりさと餡子が繋がった子に間違いない(本当は今の話だけじゃ100%そうだとは限らないんだけどそれはどうでもいいや♪)ことは認めよう。
で、それがなに?」
「それがなに?じゃないいいいいいいいいいいいいいい!
ありすは、このいえのかいゆっくりのこなのよおおおおおおおお!
だからありすも、かいゆっくりになるのはとうぜんのことでしょおおおおおおお!
わかったら、さっさとここからだして、あまあまと、ゆっくりぷれいすをよういしろおおおおおおお!」
「やだ」
「やだじゃないでしょおおおおおおお!
ありすはえればれた、かいゆっくりのこなのにいいいいいいいい!」
「ふう、やれやれ」
女は溜息をついた。
彼女にしてみれば、大体知りたかったことは知り終えたので、もう子ありすは用済みも同然だった。
これ以上会話を続けたところで、この子ありすは自分を飼いゆっくりにしろと叫び続けるだけだろう。
だが女はこの子ありすを飼う気など毛頭ないので、これ以上の会話はあまり意味がない。
このまま問答無用に潰してしまってもかまわなかった。
とは言え、流石にそれは少々興ざめというものである。
せっかく奇跡的な確率でここまではるばるやってきたのだ。
ここで始末するのも勿体ない。
それに興味深い話も聞けたことだし、もう少しコイツとおしゃべりするのも悪くないか。
そう思った女は口を開く。
「選ばれた飼いゆっくりの子ねぇ。
君、さっきからそれ何度も口にしてるけどさ、生まれがそんなに大事なことなわけ?
例えばさ、今にも死にそうな野良ゆっくりが、せめて飼いゆっくりに生まれてきたかったとかそういうのはわかるよ。
飼いと野良じゃ生活の豊かさが段違いだからね。
そういう境遇に対する憧れや羨望の話ならわかりやすいんだ。
でもなんか君の場合だと、まるで飼いゆっくりに生まれたから偉い、野良ゆっくりに生まれたから劣ってるみたいに聞こえるよ。
もちろん私たち人間限定の視点なら、それはある程度正しいいんだけどね。
飼いゆっくりってのは所詮人間に都合のいいゆっくりのことを言うからさ。
しかし、ゆっくりたちの世界ではそれはちょっとばかし意味が違うんじゃないのかな?」
「はあああああああああん!なにいってるよおおおおおおおおおおおおお!
かいゆっくりはとくべつなのよ!むれにいたような、あんなのられんちゅうとはぜんぜんちがのよ!
そんなかんたんなこともわからないの!ばかなの!しぬのおおおおおおおおお!」
子ありすは子バカにしたような態度で女に言う。
野良ゆっくりの子は平凡でくだらない存在であり、飼いゆっくりの子は特別でとかいはな存在である。
これは子ありすにとっては確定していることであり、今の子ありすを構成する信念でもある。
その信念があったからこそ、ここまではるばるやってこれたのだ。
「それはゆっくりの価値は全て生まれで全て決まっていて、それ以外は覆らないってことかな?
つまりは飼いゆっくりの生まれの子は、野良ゆっくり生まれの子よりも、絶対的にゆっくりとしての格が上ということかい?」
「そうよ!そのとおりよ!
それはきまっていることなの!
そして、ありすは、あのにせのりょうしんや、むれのれんちゅうなんかとは、ひかくにならないくらいとかいはでゆっくりしているの!
だってありすはかいゆっくりのこなんだから!」
堂々と自信満々に宣言する子ありす。
生まれつき飼いゆっくりの子である自分が、かつて群れにいたゆっくりたちよりも圧倒的に優れているという、
自身の優位性をこれっぽっちも疑っていないのだ。
「君のその信念はさ、君がたまたま飼いゆっくりの子だと確信しているからこそ言えることなんじゃないかな?
無知のヴェールの話をしってるかい?
君がもし自身を取り巻く背景を何も知らずにいたとしたら、そんな特定のゆっくりが一方的に不利になるよな考えを………ってやめた。
この話は長くなる。それにゆっくりにこんなこと言ってもしかたない。
まあともかくさ、野良でも優秀なやつ、飼いゆっくりでもゲスなやつはいるんじゃないか?
それを生まれ一つで一緒くたにするのは間違ってるんじゃないかい?」
「そんなことないわ!
ばかなにんげんにはわからないでしょうけど、かいゆっくりにはね、どくとくの『とかいはなおーら』があるの!
ゆっくりのないめんからあふれでる、こうきさや、かしこさ、ゆうしゅうさがそれよ!
ありすにはそれがわかるのよ!
むれにいたれんちゅうには、そのおーらをまるでかんじなかったわ!
そしてもりに、にんげんといっしょにやってきたかいゆっくりからは、みなそのおーらをかんじたわ!
これはつまり、すべてのかいゆっくりがすぐれていて、のらゆっくりがおとっているというなによりのしょうこよ!
うまれがすべてよ!このさは、ぜったいにくつがえらないの!」
「生まれが全てね。よくわかったよ」
女はやや呆れたように呟くと、しかし急にパッと笑顔になって子ありすに言い放った。
「じゃあきみは、自身がゆっくり界における最底辺にいるゴミクズだということを自ら認めるわけだ」
「ゆへ?」
「私はさ、例え親が何者であろうとも、それが子供の価値を固定するものだとは思わない。
たとえ親がクズでも子が必ずクズになるとは限らないし、その逆もしかりで親が優れていても子がクズになることだってあるだろう。
これは私だけではなく殆どの人がそう考えている、と思う。
だがしかし、君がどうしても親の生まれが全てだと主張するならそれもいいだろう。
そんなにも自分がゴミ以下の存在だと力説するとは、ある意味潔いとも言える」
「なっ、なにをいってるの!」
突然に笑顔になり、饒舌にわけのわからないことをのたまう女にたじろぐ子ありす。
いったい何だというのか?
この人間はやはり頭がおかしいのか?
所詮飼いゆっくりの奴隷である人間と、まともにコミュニケーションをとろうとしたのが間違いだったのか?
だがしかしこの女の笑顔には、そこはかとなく危険な気配を感じる。
本来ならば聞き流していいはずの戯言なのに、何故か凄まじくゆっくりできないような気がしてならない。
何かを見逃している。
そんな危惧を覚えずにはいられないのだ。
だとしたら一体何を?
………………。
いや、大丈夫だ。
何の問題もない。
第一さっきこの人間自らが、自分は金バッジの飼いゆっくりの子に間違いないと言っていたではないか!
自分は選ばれた特別な飼いゆっくりの子なのだ。
それは間違いない。
だから問題ない!問題ないはずだ!
だからそんな不安になるような顔でありすを見るのをやめろおおおおおおおおおおおお!
「ふふ、なんだか不思議そうな顔をしているね。
私の言っていることの意味がわからないかな?
だがこれは至極簡単な話なんだ
君はね、実は薄汚い野良のれいぱーの子なんだから」
「!?」
「それはある晴れた日のことでした。
あまりにも天気がよかったので、私は散歩がてら買い物に出かけることにしました。
しかし私はなんと、出かけるときに庭に面した窓の鍵をついうっかり閉め忘れてしまったのです。
そして偶然か、はたまた以前から目をつけていたのか、そのスキにつけこんで野良のれいぱーありすが家に進・入!
哀れ、そのとき室内にいた飼いゆっくりのまりさはレイプ!されてしまいましたさ。
さて、私が家に帰ったときには、れいぱーありすの白熱したレイプ回数は二桁にも到達する勢いで、
周囲には食い散らかされたり、犯されたり、黒ずんだりしてる実ゆっくりがいくつも転がっており、
その中心では額から複数本の茎を生やし、泣きながらレイプされている飼いゆっくりまりさがいました。
私は面白かったのでそのまま見ていてもよかったのですが、流石にこれ以上放置しておくとまりさが死にそうだったので、
まりさにのしかかっているれいぱーを気絶させ引き離しました。
その際まりさの額の茎の中では奇跡的に一匹だけ無事な実ゆが成っていました。
まりさは嫌がったのですが、私は面白そうだったのでその一匹を殺さず生ませることにしたのです。
その生き残った一匹の実ゆこそが………」
女はスッと子ありすを指差し言い放った。
「君だ!」
「……うそ、うそよ!」
呆然として呟くように言う子ありす。
突如叩きつけられる事実に思考が追いつかない。
「嘘じゃないよ。嘘つく理由も無いしね。
実際君はそっくりだよ、君の親であるのれいぱーにさ。
さっきの庭で、醜いもんをおっ立ててながらまりさに迫っていくところなんて、まさに瓜二つ。
過去に家に侵入してまりさを犯してた、君の親と思わずダブって見えたくらいだよ。
実のところその姿を見たからこそ、君の存在を思い出したくらいさ。
ついさっき親は関係ないとか言っといてなんだけど、やっぱり血は争えないもんだね、
まさか自分の実の親を突然レイプしようとするなんてさ。
(まっ、最もアレは自身の生命の危機に瀕した際に、子孫を残そうとする生命的本能の結果と言えなくもないけど別にそんなこと言わなくてもいいよね♪)」
「あっ、………あああ…あああああああ」
口から言葉にならない声が漏れる。
全身が小刻み震え意味のある発音ができない。
「ああ、ちなみにその君の親のれいぱーありすはその後一ヶ月かけて『生まれてきてごめんなさい!どうか殺して下して下さい』
って言いながら死んでいったからもう会えないや。
ゴメンね。
それと君の親の罪のことなら気にしなくていい。
私は親の罪を子に引き継がせるようなことはしないからね。
だから君は安心して自分の片親が薄汚いクズれいぱーである事実を受け入れればいい」
「あっ、あああああああああああ!ちっちがうううううううううううううう!
ありすは!ありすはれいぱーのこなんかじゃないいいいいいいいいいいいいいいい!」
否定の雄叫びを上げる子ありす。
だがその時、子ありすの脳裏に突然何かがフラッシュバックした。
それは、以前見た夢と同じように自身が生まれる前の記憶。
自身が実ゆっくりだったときのおぼろげな記憶。
『ゆぎゃあああああああ!ぼうやべでえええええええ!もうすっきりしたくないいいいいいいいい!』
『ゆほほ!まりさったらまだそんなこといって、つんでれなのね!もえるわあああああ!んほおおおおおおおおおお!
すっきりいいいいいいいいいいいいいい!』
『ずっ、ずっきりいいいいいいいい!もっ、もうやだああああああ!もうすっきりも、おちびじゃんもつぐりだぐないいいいいいい!』
『ゆっほっほおおおお!またありすとまりさの、あいのけっしょうがうまれたわあああああああ!
それじゃさっそく、むーしゃ!むーしゃ!しあわせえええええええええ!やっぱりとかいはなこういのあとの、
おちびちゃんのあじはかくべつねえええええええ、このこたちも、たべられてよろこんでるわああああああああ!
さあ、もういちらうんどいくわよおおおおおおおおおお!んほおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
『ゆああああああああああああああ!だずげでええええええええええええええ!やべでえええええええええ!
すっすっすっすっきりいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!』
『ゆっふっふうううううううううん!うほほほ!またまりさのひたいから、あいのけっしょうがうまれたわよおおおおおおおおおおお!
ゆほ?このくきになってるおちびちゃんは、ほかのことくらべてなんだかありすににて、とってもとかいはねぇ!
きめたわ!このこだけはたべずに、とくべつにいかしておきましょう!
きっととんでもなく、とかいはなゆっくりになるわよおおおおおおお!
さあさあまりさ!ふたりのあいのけっしょうのたんじょうをいわって、すっきりするわよおおおおおおおおお!』
『あっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛もう!もうやべええええええええええええええええ!』
『んほほほおおおおおおおおおおおおおお!まりさ!いいしまりよおおおおおおおおおおおお!かんじてるのねええええええええ!
やっぱりとかいはなあいのこういをするには、かいゆっくりがさいこうねえええええ!
そのへんの、のられんちゅうじゃはなしにならないわああああああああああ!とかいはなおーらをかんじるわああああああ!
かいゆっくりこそ、ありすのあいをうけるにあたいするゆっくりよおおおおおおおお!んほおおおおおおおおおおお!
そーれ、すっきり!すっきりいいいいいいいいいいいいいいいい!』
「ゆあああああああああ!そんな!そんなああああああああああああああああああ!」
突如再生される身の毛もよだつ悪夢のような光景。
見るもおぞましい汚物が、飼いゆっくりまりさにのしかかり徹底的に犯し蹂躙している。
そんな本来ならば見覚えのないはずの光景であるにもかかわらず、子ありすは以前見た夢と同じように奇妙な確信を覚えていた。
あの汚物こそが自分の親なのだと。
そしてそれをこの行為を頭上から見ている一匹だけ残された実ゆっくり。
れいぱーありすの気まぐれによってたまたま一匹だけ生かさされた実ゆっくり。
それこそが子ありすなのだと。
「うわあああああああああああああ!いやだああああああああああああああああああ!れいぱーのこだなんてええええええええええ!」
事実を認識し、わけもわからず吼える子ありす。
れいぱーの子。
これはゆっくり界において特別な意味を持つ概念の一つなのである。
ゆっくりとはとにかく自分がゆっくりするために、何かを見下すことに特化した性質を持つナマモノだ。
例えば、誰もが振り返るような美ゆっくりで、さらに狩が上手で、おうち作りも完璧な上級ゆっくりがいたとする。
しかしこの完璧なゆっくりでさえも、お飾りをなくせば一瞬にしてゆっくりのヒエラルキー最下層へと貶められる。
ゆっくりするために自身が努力するよりも、相手の粗探しをして貶めたほうがはるかに簡単だからだ。
これはつまり、何か一つでも欠点があれば他はいくら優れていてもまったく関係がないということを意味する。
そしてこれは子ありすのケースでもそのまま当てはまる。
子ありすの片親は飼いゆっくりだった。
そこまではいい。まあ一応のプラス要素といえるだろう。
だがもう片方の親はれいぱーだったのだ。
れいぱーによるレイプによってできた子は、ゆっくり界の誰からも忌み嫌われる存在。
仮に子ありすがどれほどいい子で、優秀なゆっくりだったとしても、そんなことはまったく意味がない。
それこそ片方の親が飼いゆっくりだったなんて、何のアドバンテージにもならないほどの汚点。
ゆっくり界の最底辺。
みんなから迫害されるためだけに存在しているゆっくり。
それがれいぱーの子の一般的な境遇である。
しかも子ありすは自分の口から散々生まれが全てだと主張してきている。
ゆっくりは生まれが全てで、その地位は絶対に覆らないと。
それはつまり、れいぱーの子である自分はゆっくり界における最下層のゴミクズであり、生涯その地位のままであると宣言していたも同義なのだ。
子ありすが今の今まで自分の優位性として固く信じてき信念は今となってはまったく逆、
一瞬にして自らを貶める呪いへと変貌したのである。
「ああそうそう、それとさ、君はあの群れに住んでいた仮の両親のこと散々バカにしてたけど、
元飼いゆっくりだぞ、君の片親であるぱちゅりーは」
「………ゆへ?」
放心状態子ありすに、追い討ちをかけるように話を続ける女。
「だから飼いゆっくりだよ、飼いゆっくり。
君の仮の両親でもあるぱちゅりーは、君が崇拝している飼いゆっくりだったのさ。
多分銀くらいかな。
粗相をしたんじゃなくて、飼い主の勝手な都合で捨てられたタイプだろうなありゃ。
その他にもあの群れには、捨てられた元飼いゆがちらほらといるんだよ。
ご自慢の『とかいはなおーら』とやらで気がつかなかったのかい?」
「ゆっ………そんな!ばかな………!」
驚愕の事実に再び絶句する子ありす。
「まっ、気づくはずもないか。
君はそもそも、飼いゆっくりってものを根本的に誤解している典型的なゆっくりみたいだからね。
どうせ飼いゆっくりになれば、毎日恵まれた環境でゆっくりし放題、側にいる人間はゆっくりの奴隷か何かだとでも思っていたんだろ。
そして、そんなことはないという話を両親から聞かされても、戯言だと聞き流していた。
生まれも卑しければ、頭も悪いし他ゆんを見る目もまったくない。
どうしようもないクズゆ。
それが君だよ」
「ゆっが!ちがっ…………」
「違わないって。
あれだけ飼いゆっくり飼いゆっくり言ってたくせに、自分の一番近いところにいたゆっくりが、元飼いゆっくりだと気づけないなんてこんな間抜けな話があるかい?
とかいはなおーら(笑)だって?ふざけちゃいけない。
所詮君はゆっくりの内面的な良し悪しなんて見ちゃいないんだ。
見ているのは外見的な見栄えだけさ、それこそ親と同じように本能的にレイプしたときに、
どれだけ具合がよさそうかでしか判断してないんだ。
ああ、おぞましいね、卑しいね、ゆっくりの価値は自分がレイプしたいかどうかで決まるってわけだ。
そりゃ人間の手元にいるゆっくりの評価は高いだろうよ。
人間に飼われてるゆっくりは金でも銀でも銅でも、一応見た目だけは同じようにいいからね」
「そんな……ありすは………」
弱々しく唸る子ありす。
もはや何かを言い返す気力はない。
自身の生まれは考えうる最悪のものであると知ってしまったし、
そもそも今まで自身の特別性の根拠であった飼いゆっくりという概念も、形のない虚構であるとわかってしまった。
子ありすは今までまるで意識してなかったが、先程女の言った通り所詮子ありすが飼いゆっくりから感じていたと主張する『とかいはなおーら』などというものは、
パッと見の外見のみで判断したものであり、ゆっくりの内面を感じ取ったものではないのだ。
なんだかんだ偉そうなこと言っといて、結局外面以外は見ていない。
そもそもずっと森に引き持っていてろくに世間を知らない子ありすに、物事の良し悪しを判断する能力があろうずもないのだ。
全ては子ありすの妄想、思い込み、ファンタジー。
能力もなければ、生まれの地位もない、実力もなけりゃ、器もない。
ないないづくしゴミゆっくり。それこそが子ありすの正体だった。
「…………………」
子ありすは黙っている。
違うと否定しなければならないのだが、もはやなにが違うのかすらもうわからない。
何かを言わなければならないのだが、いったいなにを言えばいいのかわかない。
どうしていいのかわからない。
いや、そもそも何のために自分は群れを抜け出し、死ぬほどの苦労してこんなところまで遥々やってきたのだ?
飼いゆっくりになるため?
馬鹿馬鹿しい。
群れにいた両親が言っていたではなか、飼いゆっくりなどろくなものじゃないと。
その通りだった。
こんなゆっくりできない人間の側なんて絶対にお断りだ。
そうだ、そんなことよりも両親だ。
自分の真の両親は、こんな人間と一緒にいるようなくだらないゆっくりなどではない。
そもそも生まれてから今まで一度もしゃべったこともないようなまりさを、真の両親として認識するなんてどうかしていた。
関係ない!断じて自分はここにいた飼いゆっくりまりさや、薄汚いれいぱーなどとは一切関係ないのだ。
あの森で今までずっと一緒に暮らしてきた両親こそ本当の両親なのだ。
そうとも、餡子の繋がりなど取るに足らないくだらないものだ。
今まで一緒に暮らしてきた、ゆっくりとしての絆こそが大切なものなのだ。
よって自分は断じてれいぱーの子などではない!
帰ろう。
あの素晴らしい森のゆっくりプレイスへ。
生まれ育った本当のおうちへと。
自分の居場所はここではないのだ。
「………かえして!」
「はい?」
「かえしてよ!ありすをもりへかえして!もとはといえば、くずにんげんがありすをもりにつれてったんでしょう!
だったらくずにんげんには、ありすをまたもりへとおくりかえすぎむがあるわああああああああ!」
「なんなんだ急に?
いや、まあ確かに生まれた直後の君を、あの公園にある群れへと預けたのは私だよ。
とりあえず生かしておくことにしたものの、まりさだけでもうざいのにその上れいぱーの子まで家に置くなんて冗談じゃないからね。
あの群れの長に、あまあまと一緒に君を押し付けたのは間違いない。
だけどそれがどうして君を公園へ帰すことに繋がるんだ?
そもそも君は公園がいやだったからこそ、真の親を求めてここまで来たんだろ?」
「ゆふん!しんのりょうしん?ふざけないで!
ありすのりょうしんは、こうえんにいるあのにひきだけよ!
にんげんなかといっしょにいるゆっくりとありすとは、なんのかんけいもないわ!
くそにんげんにはわからないだろうけど、だいじなのは、あんこのつながりじゃないの!
ゆっくりとしてのきずなのつよさなのよ!
りかいしたら、さっさとありすをこうえんにもどしてよ!こんないなかには、もういちびょうだっていたくないわ!」
キッと女を見据え吐き捨てるように言い放つ子ありす。
「………………。
あーなるほどなるほど。
そうか、そういうふうに逃避したってことか。
うん、まあクズゆっくりの思考としては無難なとこかな」
子ありすによる突然の意味不明な発言に対して、女はしばらく腕を組んで何かを思案するような仕草をしていたが、
急に納得がいった風に頷いた。
子ありすは知る由もないがこの時の女は、子ありすがたどった思考の道筋を子ありす以上に正確にトレースし、
その発言にある裏の真意を理解していたのである。
子ありすがたどった思考。
それはつまるところ現実から逃避した上での両親の乗り換えである。
もし仮に子ありすがこのままこの場所にとどまり、飼いゆっくりとして暮らす(そんなことは絶対に不可能なのだが、子ありすの思考ではそこまで及ばない)
こととなれば、嫌でもも自分の片親がれいぱーであるという事実を突きつけられ続けることになる。
そんな最悪なことになるくらいならば、いっそのこと本当の両親を切り捨て、今までの一緒に暮らしていた公園での仮の両親を本当の両親ということにして、
自らの汚点を消し去ろうと考えたのだ。
突然ありもしない『ゆっくりとしての絆(笑)』などという新概念を持ち出しきたのはそのためである。
勿論これは、『とかいはなおーら(笑)』とまったく同等に中身のまるでない性質のものと思って間違いないだろう。
結局子ありすにとっては自分都合のいいことが真実であり信念なのだ。
そして自身に都合が悪しと悟れば、即座に実の両親をも切り捨てる。
ある意味どこまでもゆっくりらしいゆっくり。それこそが子ありすだった。
「ふむ。本来ならそんな義理まったくないんだけど、まぁいいか。
そんなに言うのなら私が再びあの公園まで連れて行ってあげよう(それはそれで面白そうだし♪)」
「ゆほ!ほんと!」
「ただし!」
女はスッと目を細める。
「私と君の付き合いはもうこれっきりだ。
今度この付近でそのふざけた面を見かけたら、警告なしで問答無用に踏み潰す。
わかったかな?」
「ゆっくりりかいしたわ!
ゆふん!だれがこんなところににどとくるもんですか!
たのまれたってごめんだわ!」
当然だという風に頷く子ありす。
実際もう二度とこの場所に来る気はなかった。
忌まわしい事実が眠るこの場所には。
「わかった。
それじゃいこうか。
ああ、そういえば最後に自分の生みの親のまりさに一目あっていかなくていいのか?」
「はぁん!ふざけたこといわないでね!
いったでしょう!ありすのりょうしんは、こうえんにいるあのにひきだけよ!
それいがいはいないわ!
あったこともない、うみのおやなんて、くそくらえよ!」
「さいですか。
それじゃ早速いこうか。
君の真の両親とやらに再び会いにさ」
女はパカリと透明な箱の蓋を開け、子ありすを取り出す。
そして、向かうは近所にある巨大自然公園。
冒険の果てに、ゆっくりとしての絆(笑)に目覚めた子ありすは公園への帰還を決意する。
果たしてその帰還は公園の群れに何をもたらすのか?
そして依然として謎の行動の多いこの女の真意とは?
物語の舞台は再び巨大な自然公園へと移り変わるのであった。
後編へ続く