ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1482 ゆっくり種8(終)
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ankoss
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『ゆっくり種8』最終回
希少種 独自設定(かなりの無茶設定) 種のパロディ 人間が酷い目にあいます。
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月夜の浜辺に波の音だけがBGMを奏でている。
洞窟の奥でおくうが亡くなった。
黒かった髪は白髪となり肌は乾き、緑色のお飾りは色あせている。
これが今日亡くなったと聞かされなければ、死後数日は経過していると思うところであろう。
その亡骸に寄り添うおりん。
悲しむ風でも無く、優しい笑顔をうかべて見つめている。
『どうしておくうは、えいえんにゆっくりしちゃったの?』
ぱるすぃーは寄り添うおりんの背後から声をかける。
その死は突然であった。
さとりが仲間の下へ飛び出して行った直後から、おくうの身体は衰弱していった。
見る間に老ゆっくりの様な姿へと変貌していく、おりんはその様子をただ見つめているだけだった。
苦しみながらもおくうも言葉にはしなかった、死ぬ覚悟は既に出来ていたのかもしれない。
おりんはおくうの方を向いたまま、静かに語りだす。
『おくうはね・・・ゆっくりがてにいれちゃいけないちからを、てにいれちゃったんだよ・・・・・・
そのちからはおくうには、あつかえなかったんだよ。
えらばれしゆっくりしか、もっちゃだめなちからだったんだよ。』
選ばれし者しか扱え無い力を得た事によって、おくうは死を早めたのだとおりんは言う。
その力がさとりが受け継いだ胴体だと言う事は、なんとなくぱるすぃーにも理解できる。
ではさとりは使いこなす事が出来たのであろうか?
疑問はあるが確かめようも無い話である。
そしてもう一つぱるすぃーには疑問があった。
『どうしておくうがしんだのに・・・うれしそうなの?』
死の間際まで2匹は見つめ合っていた。そして優しい笑顔を浮かべている。
おりんとおくうが、好き合っている者だと言う事はすぐに分かった。
何故、愛する者の死をそれほど安らかに、迎え入れれるのであろう。
ぱるすぃーには理解し難かった。
『うれしい?そうだね・・・・おりんはうれしいんだよ。
だってほら、ここにおくうはいるんだよ。』
おりんは、そう言うとゆっくりと振り返る。
『それは!』
おりんの下腹がポッコリと膨らんでいるのが分かる。おりんは子供を妊娠していたのだ。
『そうだよ、おくうのあかちゃんだよ。おくうはここにいるんだよ。だからおりんはさみしくないよ。』
それは死を迎える前に、おくうがおりんに唯一してあげれる事だった。
『それはねたましいわね・・・・ゆうぎにもおしえてあげなきゃね。いっしょにねたんでもらうんだから。』
ゆうぎにおりんの妊娠を教えようと、洞窟の外へと跳ねて行くぱるすぃー。
外は既に暗く、月明かりだけが海岸を照らしている。ゆうぎを探そうにも雲で月明かりが陰りよく見えなかった。
ぱるすぃーの顔に何かが滴ってきた、雨かと思い見上げてみると、
洞窟の上にある岩の後ろに、ゆうぎの角が微かに見えた。
『ゆうぎったら、そんなところにいたのね・・・ねたましいわ。』
岩上を目指して跳ね進んで行くぱるすぃー。
月明かりで影になっていて、ゆうぎの顔は良く見えなかった、しかし何か違和感を感じる。
近づけば近づく程、違和感は強くなっていった。
『ゆうぎ!ゆっくりしないできいてちょうだい、おりんにあかちゃんができたのよ。
それもおくうのこよ、なんてねたましいのかしら・・・・ってゆうぎきいてる?』
反応が無いゆうぎの後頭部をつついてみる。
するとゆうぎの顔は岩上からゆっくりと、風に流されながら砂浜へと落ちていった。
『!』
ぱるすぃーは言葉を失った、ゆうぎは首だけとなり岩上に置かれていたのである。
砂浜へ落下したゆうぎの顔は落下の衝撃で潰れ、砂浜に中身を飛散させた。
砂にできた痕を波が消していくのが見える。
『ゆ・・・・うぎ?』
波に消されて死体すら残せなかった友の痕を、岩上から見下ろすぱるすぃー。
『ゆ・・・ゆ・・ゆぅぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』
月夜の海岸にゆっくりの悲鳴が木霊する。
希少種の群れでは、新しい長を選出する必要があった。
かなこの後をさなえが継いだと言っても、それは群れの総意とは言えない。
重鎮が集まり、各々が次の長の候補を立てていく、それは長の後見ゆんとしての地位を目論む裏が見てとれる。
しかし群れにいる胴付きはさなえ1匹、これに対抗できる実力者を立てる事は不可能であった。
10匹の重鎮による賛成多数で決められる次の長、さなえの後見ゆんには4匹の重鎮がついた。
だが長の座を欲するらんの裏工作により、4匹はらんについてしまった。
残る2匹に託される希少種の群れの未来、そして次の長はらんへと決まりかけた。
既にこの2匹への手引きも終わっていたのである。
だがそれを神は許さなかった。
『らんしゃまぁぁぁぁやめてぇぇぇぇ!』
ちぇんが長の選出していた場所へ飛び出してくる。
希少種の群れに通常種が紛れ込んで来た為に、議決は中断されてしまう。
仮面まりさことすわこは、先代の長によって群れへの加入が特例として許されていた。
だがこのちぇんは群れへの加入どころか、存在さえ知られていなかった。
らんがこっそりと養っていた番だったのである。
『らんしゃまがおさになっちゃうと、らんしゃまがゆっくりできないよー
ちぇんはむれのそとでゆっくりまてるから、らんしゃまはゆっくりしてほしいよーわかってねぇー』
らんは群れでちぇん暮らしたかった。
ちぇんを群れの一員にするには、何かしらの特例を与えられる程の成果を上げるか、
希少種の掟を変えるしか方法が無かったのである。
しかし通常種の群れから迫害されて彷徨っていたちぇんに、何かしらの成果を出せる力があるはずもなく、
毎日群れから少し離れた場所で、らんが戻って来るのをちぇんはじっと待っているしか出来なかった。
そんな時に長が亡くなったのである。
『らんがおさになれば、きっとちぇんもいっしょにゆっくりできるよ!』
長になれば掟を変える事が出来ると思い、らんは重鎮の懐柔を行った。
自分を長にすれば今後のゆっくりは保障すると・・・・
だが長になると言う事は、自分のゆっくりは捨てなければ群れを維持していけない。
かなこの様に群れを狙う敵と相対し、いつ果てるやも知れなのである。
ちぇんはらんに森で震えていたところを救われた、感謝してもしきれない位の想いを抱いている。
今やらんがゆっくり出来る事が、ちぇんの望みなのだ。
それがこの戦争中に長になると言う事は、自殺行為に等しかった。
想い追い詰められたちぇんの取った行動は、決議を阻止する為の乱入である。
群れの掟を破ったらんは、長になる資格を失ってしまった。
この時点で次代の長はさなえと決まった。
『らんしゃま・・・・ごめんねぇ・・・ごめんねぇ・・・ちぇんは・・・らんしゃまにゆっくりしてほしかったんだよ~だから・・・・・』
何度も謝るちぇんをらんは責めなかった。
『いいんだよちぇん。でもこれでらんはむれをでていかないといけなくなったから、ちぇんもいっしょにきてね?』
らんはちぇんによって教えられたのだ。
群れでなくてもちぇんが一緒ならば、ゆっくり生きていけるのだと。
『ちぇんもいっしょにいっていいの?わがったよぉ~ありがとだよぉ~』
2匹は群れを出て行く事を決める、その様子を重鎮やさなえも見ていた。
『らんもちぇんも出て行く事は、さなえが許しません!』
長となった最初の発言が、らんの追放阻止であった。
周りに居たゆっくりは皆が驚いた、自分と長の座を争った程のゆっくりである。
普通であれば阻害するのがゆっくりの性と言えよう。
だがらんの目指した事の一部は、さなえのやろうとしている事と同じであった。
さなえはらんならば自分の理念を理解してくれると確信したのである。
『長として命じます!本日より掟の希少種のみの群れと言うのを廃止しいたします。』
さなえは皆の前で高らかと宣言する。
『よってここに居るちぇんは、群れの仲間と認めるものとします。よいですね!』
長となった者の決定である、異議を唱える者はいなかった。
こうして希少種の群れに初めて、通常種が仲間入りする事となった。
『らんしゃま~ちぇんもここにいていいんだねぇ?らんしゃまとゆっくりできるんだねぇ?うれしいんだよぉ~』
ちぇんは涙を流し喜んでいた。
らんはさなえを蹴落とそうと、画策していた事を後悔していた。
通常種と仲良く出来るらんを補佐に据えて、群れの新体制は始まる事となった。
さなえにはまず最初に、やらねばならぬ事が2つあった。
1つは通常種との戦争の回避、もう1つはかなこの敵討ちである。
まずはすわこを探さなければならない、飛行能力を持つものを研究所周辺に探索に出す。
そして残りの者は戦いに備えて、研鑽を怠らないように言いつけた。
灯台の群れにも異変は起きていた、見慣れぬ胴付きのゆっくりが尋ねてきたのである。
未だ教授は帰ってきていないので、こいしが対応する事になった。
『こいしのむれになにかようなの?』
いくら尋ねても、胴付きのゆっくりは何も話さなかった。
そして1枚の写真とカチューシャを置いて、何も物言わぬまま帰ってしまった。
『なんなのこれは・・・・・・これは・・・・』
その写真を見てこいしは衝撃を受けた。
そこには見覚えのあるピンクの髪の赤ゆと、薄い緑がかった髪の赤ゆが写っていた。
この赤ゆは間違い無く、さとりとこいしであった。
物心ついた時から教授と過ごしてきた、姉妹がいるなんて話は聞いた事は無かった。
だがこの写真に写っているのは自分である。
何がどうなっているのか、訳が分からなくなりそうだった。
1匹で悩んでいても解決はしない、とりあえずさとりにも見てもらう事にする。
『これはさとりとこいしですね・・・・と言う事はこいしも研究所生まれだったようですね・・・・・』
さとりもこの事実を知ら無かった。
だが自分は研究所生まれ、ならばこいしもそうであろうと判断出来る。
『じゃあさとりは、こいしのおねいさんなの?』
こいしの問いに黙って首を振るさとり。
違うと言う意味では無い。
真実がどうなのかは、さとりも知らないのである。
さとりも物心ついた時には、既に研究所で過ごしていたのである。
姉妹どころか、両親の顔すら知りようが無かった。
もう1つの置き土産が問題であった・・・・・
このカチューシャは、さとりのよく知るゆっくりの物である。
『ありす・・・・生きているのですね・・・・・・』
写真と一緒に持ち込まれた、子ありすのカチューシャ。
これが何を意味するのか、さとりは理解出来ていた。
だがこの隠された事実をさとりは、皆には告げなかった。
『むきゅう!たいへんよぉ!さとりがいないの・・・・どこにもいないのよ!』
翌朝、皆が目を覚ました時には、既にさとりの姿は無かった。
ぱちゅりー達にもすぐに、あの写真と子ありすのお飾りが関係しているのはすぐに分かった。
だが何処に行ってしまったのか知るよしも無かった。
研究所の存在は通常種の群れには、あまり知られていないである。
『さとり・・・・こいしのところに、またもどってきてくれるよね・・・・おねいちゃん・・・・・』
不吉な予感に餡を焦がすこいしであった。
希少種の群れでは、敵討ちに備えての訓練が行われていた。
すわこが研究所に出入りしているのを、偵察に出したれみりあが目撃した。
これで研究所がこの戦争を画策していたのだと、さらに確信を持つ事になる。
社の前に群れ全員を集めてさなえは声を上げる。
『我々は一匹の英雄を失いました!しかし!これは敗北を意味するでしょうか?!
否!!始まりなのです!!通常種にくらべ我が希少種の数は三十分の一以下です!!
にもかかわらず今日まで果敢に戦いぬいてこられたのは何故でしょう!諸君!!
我々希少種の戦争目的こそが正義であるからです!!それはここにいる諸君らが一番よく知っています!
我々は森を追われ流民として通常種から捨て去られました!!
だがそれは研究所につく一部の裏切り者による利己主義にこり固まった一握りのゆっくりが画策した物です!
かつてかなこ様は希少種の革新は、ゆっくりの民たる我々から始まると仰いました!その言葉のとおり!
我々は過酷な森を生活の場としながら、共に苦悩し練磨して今日を築きあげてきました!
我が希少種はかなこ様の夢と理想をまさに形あるものとしてきたのです!!
さなえの妹諸君らが愛してくれたかなこ様は死にました!何故です!!
新しい時代の覇権を、我等選ばれたゆっくりが得るのは歴史の必然です!!
ならばこそ我々はかなこ様の前に襟を正し!士気を高め!この戦局を打開しなければなりません!!
ゆっくり全体の明日のために!!
しかしながら研究所につく愚かなモグラどもは、自分たちのみがゆっくりの支配権を有するとして我々に攻撃を加える!!
諸君の母も子も姉妹も!その無分別な暴力の前に死んでいったのです!!この悲しみを怒りを!忘れてはなりません!!
それをかなこ様は死をもって!我々に示してくれました!!
我々は今!この怒りを結集し研究所に叩きつけるべきです!そうしてこそはじめて真の勝利を得ることができるのです!!
この勝利こそ戦いに斃れた者達への!最大の慰めとなります!
希少種よ!悲しみを怒りにかえて立つのです!ゆっくりよ!!
我等希少種のゆっくりこそゆっくりに選ばれたゆっくりであることを決して忘れてはなりません!!
希少種たる我等こそゆっくりを救い得るのです!!ジーク・ゆっくり!!』
息も切れんばかりの大演説を繰り広げる。
だがいくら通常種よりも知能は高いと言ってもやはりゆっくり、大半の者がさなえの演説の意味を理解できていなかった。
『つまりはれみりあはどうしたらいいんだどぉ?』
この言葉にさなえはガックリと肩を落とす。
だが理解していないのなら尚更、説明しておかないと後々面倒である。
『みんなで研究所にかなこ様の敵討ちにいきます。ゆっくり理解できましたか?』
ゆっくりと優しく丁寧に分かりやすく説明する。
『わかったんだどぉ~おぜうさまはがんばるんだどぉ~』
気の抜ける返答ではあったが理解は得られたようである。
こうして全戦力を持って研究所に挑む希少種群であった。
さとりは1匹で研究所に来ていた、写真が自分の生まれて間もない時の物であるならそこは研究所である。
カチューシャを写真と一緒に持ってきたのは、研究所に子ありすがいると言う事を暗示していた。
もうゆっくりには死んで欲しくない、ならば研究所へ行くしか無かったのである。
しかし罠と解っていて仲間を連れて行く訳にもいかない、さとりは1匹で子ありすの救出に向かう事にしたのだ。
窓の外から中を窺う、暗闇の中で計器の放つ光が点々と見える。だが人の気配は感じられなかった。
キィィィィィィィィ
誰もいないのに裏口のドアが開く。
『やはり入れと言う事なのでしょうね・・・・・・』
罠と解っていてここまで来たのだ、さとりには進むしか道は無かった。
研究所の中は、間接照明が薄暗く廊下を照らしていて奥は見えない。
慎重にゆっくりと廊下へと足を進めて行く、かつて暮らしていた場所である。
ここの内部は全部覚えている。
第3研究室に明かりが灯っていた、どうやらここに来いと言う事らしい。
さとりが部屋に入ると扉が閉まって開かなくなった、想定はしていたが退路を絶たれた事に少し焦る。
『ようこそ・・・と言うよりお帰りと言うべきかな・・・・』
部屋の奥から声がした、その声の主はゆっくりと近づいて来る。
現れたのは黄色い帽子を被った胴付きのゆっくり、灯台の群れにやってきたゆっくりである。
『ありすはどこですか?』
さとりのいきなりの質問に驚く様子もなく答える。
『おやおや挨拶もなしとは・・・・・まぁいいでしょう。あなたの目の前にいますよ、気が付きませんか?』
さとりの目の前には胴付きのゆっくりが1匹いるだけである。
後は机や棚があるだけで、子ありすの姿は確認出来なかった。
そのゆっくりは、子ありすを見つけられないさとりを面白そうに眺める。
『ここですよ。』
そしてゆっくりと指差した場所は自らの帽子、決して帽子の中と言う意味では無い、帽子その物でなのである。
戸惑うさとり、その時帽子の上についた目がギョロリさとりの方に向いた。
その目には一杯の涙が溢れていた。
『ま・・・まさか・・・・あり・・・・す?』
さとりは、真実を見つめながらも受け入れられずにいる。
その様子を見て満足そうに頷く胴付きのゆっくり。
『実に愉快です。期待していた通りの反応だ!説明の前にまずは、自己紹介を先にさせて頂きますよ。
私はすわこと言います。気づいてはおられるでしょうが、ここの研究所の生まれのゆっくりです。』
すわこと名乗るゆっくりは、両手を大きく広げ自らの事を語りだす。
『私はさとり!あなたのプロトタイプなのですよ。ここでは様々なゆっくりが開発されてきました。
あなたはその「進化の種」を完成させるべく生まれたゆっくりなのですよ。』
さとりは進化の種とは何なのか聞いた事もない、だがすわこがさとりの事をよく知っているのは理解出来た。
『進化の種?』
聞くつもりは無かった、だがついオウム返しに尋ねてしまった。
『そう「進化の種」です!ゆっくりが人間に並ぼうとする、神をも恐れぬ計画ですよ。
あなたのその身体を安定させるのに大量のゆっくりが犠牲になりました。皆がその身体があれば、ゆっくりの神になれると頑張り死んでしまいました。私も神になりたかった・・・・・・だが神の身体に拒絶されて弾かれてしまった、それがあなたの身体です。
あなたが覚醒するまでの間は、あなたの遺伝子を使い生まれたゆっくり「おくう」が預かっていたのですが、今頃は身に余る力の余波で干からびている頃でしょうね。』
すわこはさとりの身体の秘密を淡々と話す。
『そしてあなたは神の身体を得た!ゆっくりが進化するための種をその身に宿したのです。
まさにゆっくりの王だ・・・・いや神でしたね・・・・・皆があなたのように、特別なゆっくりに生まれたかったでしょう。
だが神になれるのは一人だけ・・・・・あなたのために何千何百と言うゆっくりが犠牲になったのですよ!』
さとりの身体の中に、沢山のゆっくりの想いが残っているのは知っていた。
だがこの想いの裏に、凄惨な事実があるとは思いもよらなかった。
だが今は自分の事なぞどうでもいい、子ありすの事が先である。
『そ・・・そんな事よりありすを返して下さい!』
すわこは話の腰を折られて興ざめしたのか、やれやれと言った感じで答える。
『あぁあの子供ですか・・・ゆっくりと言う生き物は実にいい加減な生き物でしてね。
人の手によって無茶な改造をうけても中々死な無いのですよ。
私の帽子に生きた飾りが欲しかったので融合させて頂きました。なかなか素敵でしょう?』
帽子の上に付いた2つの目玉は、大粒の涙を湛えながらキョロキョロと動いている。
死ぬ事も許されずに、帽子の中で生かされているのだ。
『ありす・・・ゆっくり・・・なんてできないよね・・・どうすればいいの・・・・さとりもうわからないよ・・・・』
さとりは、動揺に心が押し潰されそうになるのを必死に耐える。
すわこはその様子を眺めるだけであった。
研究所の周りは希少種群で取り囲んだ、後は突入の合図を待つだけである。
群れを出発する直前に山向こうの群れに向かった、ゆうか隊の生き残りが帰還した。
ゆうかは新長となったさなえから、かなこがすわこに殺された事を教えられた。
そしてすわこは研究所の手先で、この戦争の張本人である事も聞かせられる。
『そのすわこが、なにものだろうがかんけいないわ!このゆうかをだましたというだけでじゅうざいよ!』
かなこの命令だったとは言え、一時的に部下となり手足となって働いた。
ゆうかはそんな自分が許せなかった。
一応さなえだけには、さとりの生存を報告しておいた。
自分やここにいる生き残りの中に、さとりに命を助けられた者もいる事も話した。
『そうですか・・・・』
そう言うとさなえはさとりの事は後回しにした、今は襲撃に集中すなければならい。
こうして希少種群は生き残りも加えて、残存戦力全てをこの襲撃に注ぎこむ。
戦力は100匹を超えてはいた。
しかし圧倒的に不足している事は、さなえには理解出来ていた。
『これでふらんたちのしょうりはまちがいないね!』
『さすがはおぜうさまのいるむれなんだどぉ』
『こぼねこぼね!』
『うらぎりものにはせいさいね!ないてもゆるさないんだから!』
『くろまく~』
しかし他の者には、これは勝利間違い無しと錯覚させる程の数であった。
さなえは、ここに来て迷いを感じていたこれは罠ではないのかと、研究所に人の気配が感じられないのである。
だが士気が高まっているこの時を逃せば、もう攻め入る隙は無いかも知れない。
すわこがここに居るのは目撃されている、後戻りは出来ない。
ついに意を決して号令を下す。
『うてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
研究所の窓全てに石礫が放たれる。
パキィィィィィィィィィン・・・・ガシャガシャガシャーン!
実験室の窓は流石に、強化ガラスだったのか罅すら入らなかったが、事務所や廊下の窓は全て砕け散った。
割れた窓から次々と侵入して行くれみりあやふらん。
『うぅ?うぎぃぃぃぃ!!!いたいんだどぉぉ!!』
『あづいよぉぉぉ!ねえさまかわいぃふらんをたすけてぇぇぇぇ!!』
『いだぃいだぃいだぃぃぃぃ!!!』
『めがやけるんだどぉぉぉぉ!!!』
『うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
中に侵入した者の悲鳴が響き渡る。
部屋の中には紅い霧のような物が浮かんでいた。
それはカプサイシンを噴霧状にした物で、ゆっくり撃退によく使われる者だった。
多くのレミリア達は先に侵入してしまい、部屋の中でのた打ち回り苦しんでいる。
だが助けたくても霧がある限り中へは侵入出来ない、仲間が苦しむのを見ているしか出来なかった。
さなえは作戦の変更を余儀無くされてしまう。
別の侵入ルートを確保して小数精鋭で突入しなければ、被害は広がるばかりである。
だが研究所は鉄筋コンクリートで出来ていた、ドアや窓以外からの侵入は人間でも難しいであろう。
キィィィィィィィィ
その時、さとりが侵入した裏口のドアがゆっくり開いた。
先程の紅霧の件もあり、いきなり飛び込む者はいなかった。
中を覗くと、間接照明で薄暗く照らされた廊下で奥の様子は伺えない、だが誰かが話をしている声は微かに聞こえた。
紅霧の心配は無さそうである。
さなえは、ゆうかやふらん等の精鋭5匹で突入する事にした。
たった5匹で対抗できるとは思わなかったが、多くで入っても全滅する可能性の方が高いと判断したからである。
『さなえが先に入ります!何かあったら確認する必要はありませんから逃げて下さい!』
『ゆっくりりかいしたよ!』
『わかったわ』
『さなえだけにいいかっこはさせないわよ!』
『まかせるんだどぉ』
紅霧が用意されていたので、この先にも罠は用意されている事は容易に予測できた。
仲間には逃げろと言いつけたが恐らくこの者達は守らない、ゆっくりに急な出来事に対応を望むのは無茶と言う物である。
だからこそ先頭に立って、皆を守る必要があったのだ。
さなえは建物の中へゆっくりと入って行く、その後を4匹がついて行く。
ギィィィィバタン!
そしてさとりの時同様に、5匹全部が入った瞬間に扉は閉まる。
『おそとさんにでれないよぉぉぉ!』
『こわいんだどぉぉぉぉ!』
さなえとゆうか以外の者は、退路を絶たれた事にパニックとなった。
この様な状態では戦力として期待出来そうもない、ここに置いて行くしか無かった。
『フフフ・・・ゆうかも怖いですか?』
さなえは冷汗をかきながら、壁に背をあて前へと進んで行く。
『こ・・・このゆうかさまをなめるんじゃないわよ!』
『それは心強いですね・・・・』
お互いに強がっているのは分かっていた、だが進むしかないのだから弱音を吐いてはいられない。
先程から聞こえていた声が奥の部屋からする。
研究所出身であるさなえやゆうかには、見覚えのある部屋だった。
そっと覗くとすわこと一緒にピンクの髪の胴付きゆっくりが確認出来た。
『さ・・・さとり!』
ゆうかから生存の報告は聞いていたが、これ程早く出くわすとは考えていなかった。
だが目標はすわこの命、気を取り直し身を潜めて機会を窺う。
『さてさとり・・・そろそろ終わりにしましょか・・・・・あなたの神の身体は私が頂きますよ。』
さとりの首に手をかける、そしてその手に力が込められていく。
絞殺されそうになりながらもさとりの目には、帽子と同化してしまった子ありすしか映っていなかった。
もうどうしようもない事は理解しているが、どうしても諦めきれないでいる。
ゆっくりに呼吸は必要無いので窒息死する事は無いが、代わりに内部物が押しやられての破裂する苦しみがあった。
痛みと後悔で意識が混濁してくる。
『もう駄目かもしれない・・・・』
さとりの身体から力が抜けて、そのまま首を持つすわこにぶら下がってしまう。
それでも視線は、虚ろながらも子ありすを捉えていた。
『やらせないよぉぉ!!!』
ゆうかが堪えられずに飛び込んで行った。
さとりに助けられた借りを返さぬまま死なれては、とてもではないが寝覚めが悪い!
足元からすわこの腕めがけて石礫を放った。
『おっと・・・・これはいけませんね・・・』
ゆうかと言えども所詮はゆっくり、動きはたかが知れていた。
胴付きのすわこにはとても遅く見えた。
だがすわこの意識がゆうかに向いてしまった隙を、さなえは見逃さなかった。
石礫を余裕でかわしたすわこの側面から、烈風の如く空気を吐き出す。
ブォォォォォォォォォォーーーーーーーーー!!!
風はすわこの体勢を崩し転倒させる。
首から手が離れたのを確認すると、さなえは2匹の間に割って入った。
さとりは混濁する意識の中で、圧迫感から開放されたのを感じた。
ぼんやりする視界に映ったのは、白に緑を配した服を纏ったさなえの背中だった。
『こんな所で死んで良いとでも思っているのですか!さとりの志とはこの程度の物では無いでしょう!』
聞き覚えのある声に意識を取り戻す。
『・・・・・さなえ?』
『早く立ちなさい!奇跡とは起きる物ではありません!起こす物です!
ゆん事を尽して天命を待つのは、最後まで努力した者だけが許されるのですよ?
さとり!あなたにはまだやれる事があるはずです!』
さとりはかつての友人に、気合を入れられて我に帰る。
まだ諦めるには早過ぎた。
すわこから帽子と同化してしまった子ありすを、奪い返してから考える事も出来るのだから。
瞳に気力を取り戻したのを確認すると、さなえは満足したように話す。
『積もる話は後です。今はすわこを倒すのが先!ここは共同戦線といきましょう!』
さとりは黙って頷き、さなえと並んですわこと対峙する。
ここにかつて敵同士となった、旧友の同盟が再び結ばれたのだった。
『さてはて・・・・どうした物ですかね?1対2?嫌・・ゆうかも居ましたね・・・』
すわこの言葉とは裏腹に、不利になって困ったと言う様子は感じられ無かった。
対峙する3匹を相手にしても、ニヤニヤと薄笑いを浮かべている。
その姿にゆうかは怒りを覚えた。
1匹で複数と対峙しての余裕と、ゆうかを戦力として見てはいない態度が許せなかった。
『なめるなぁぁぁぁぁぁ!!!』
ゆうかは、ガラス片を咥えてすわこに飛び掛った。
ガシィィ
だがすわこの左手が、ゆうかの顔を掴み阻止されてしまう。
そしてゆうかは、その手の平に線が入っているのを見た。
そしてその線がゆっくりと開いていく・・・・・
『ぎゃぁぁぁ!!がぁぁぁ!!ぎぃぃぃぃ!!あ”あ”あ”あ”!』
ゆうかの悲鳴が木霊する。
そしてゆうかは、そのまま床に投げ捨てられた。
何が起こったのかさとり達どころか、実際にやられたゆうかも分からなかった。
ゆうかの左目の付近が、何かによって抉られている。
鼠にでも齧られたかのような痕がついていた。
すわこは薄笑いを浮かべながら、両手の平を3匹に見せた。
その手には歯を剥き出しにした口がついていた。
『まったくもってゆっくりとはいい加減な生き物です・・・・
取り付けただけでどんな場所でも口を作れてしまうのですから・・・・』
ゆうかはすわこの手の平を残った右目で見ながらも、現状が理解出来なかった。
あれは何だろう?どうして左目は見えないのだろう?
傷口から内容物が、記憶と一緒に漏れていく。
意識が白濁しながら最後に見たのは、すわこの両手の口が迫り来る様子だった。
『があ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”』
すわこは3つの口を使ってゆうかを食らっていく、3方から生きながら齧られて悲鳴を上げるゆうか。
その悲鳴が止んだ時ゆうかの身体は、原型を留めないくらいに無くなっていた。
喰い残しを放り捨てるとまた薄笑いを浮かべる。
余りに凄惨な光景に唖然としていた2匹は、ゆうかが床に捨てられた音で我に帰った。
ジリジリと間合いと詰めてくるすわこに対して、2匹は後ろへ下がる事しか出来ない。
やがてその後退も壁に阻まれる事となる。
追い詰められた2匹は、左右に別れて両方から飛び掛っていった。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
さとりはすわこの背後から、両手を抱えて動けなくした。
これで両手の口を使え無い!
正面を取ったさなえはすわこに殴りかかる。
ドウゥーーーーーーーーーーーーーン
閃光がさなえの身体を貫いていく、その衝撃で其々前後へ吹き飛ばされる。
激痛がなさえを襲う。
身体には大きく焼け焦げた穴が空いていた。
『だから言いましたよね?どんな場所にも口をつけられると・・・・』
すわこの腹には大きな口が開いていた。
ドスまりさの口だったらしく、さなえは近距離でドススパークを放たれたのだ。
焼けているために傷口から内容物が漏れる事は無かったが、動くどころか生命の維持も危うい状態である。
『お・・・・・おの・・・れ・・・ぐ・・・う・・・・・』
これで戦えるのは、さとり1匹だけが残される。だがこの化物にどう戦えば良いのか考えつかない。
戸惑っているさとりにすわこは、容赦無く襲い掛かってきた。
『降参ですか?あっけないですねぇ!』
「神の身体」を狙うすわこは、さとりの身体を傷つける事は出来ない。
あくまで首を取る事が目的だったのである。
フェイントも入るとは言え、首上だけを狙った攻撃である。怯んださとりでもかわす事はなんとか出来た。
だからこそすわこは、さとり動きを封じるために先に心を折ろうとしていたのだ。
その事に気が付いている者がいた、間近で攻撃を見せられ続けていた子ありすである。
なんとかさとりに知らせたい、その思いが奇跡を呼ぶ。
『こいちゅのにぇらいはくびだけだよぉぉぉぉぉ』
すわこの右手についた口が声を上げたのだ!
子ありすの強い想いは、すわこの帽子を通して右手を口に届いたのだ。
これを1番驚いたのはすわこだった、もう話す事なぞ出来ないはずの子ありすの声が自分から出たのだ。
いい加減な生き物で片付けるにも限度と言う物がる。
正に奇跡と呼ぶに相応しい出来事だった。
『ウオォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!』
すわこの攻撃の軌跡の予測を潜って、さとりの渾身の一撃が放たれる。
その手には紅く光る刃が握られていた。
『そんな馬鹿な・・・・私の計画は完璧だった・・・・こんなチビに潰されるなんて・・・』
すわこ顔に中枢餡にまで届く、大きな切り傷が開いていた。
何かを言いかけてそのまま息絶える。
さとりは皆の犠牲によって、なんとか勝利を?ぎ取る事が出来たのだ。
呆然としている暇は無かった、さなえはまだ生きているのだ。
しかしどうやって助けたらいいのか分からなかった。
痛みを堪えていたさなえに眠気が襲いだす。
『これが死ぬと言う事なのかも知れませんね・・・・まぁかなこ様の仇は討ちましたし・・・・もういいかもしれませんね・・・』
『駄目!さなえ目を閉じちゃだめぇ!さなえぇぇぇ!!』
ゆっくりとさなえの瞳は閉じていく、さとりの必死に呼ぶ声も聞こえては無かった。
その時さとりの中で、何者かが話しかけてきた。
さとりはその声に促されるまま、再び紅い刃を振り下ろす。
『お願いぃ!間に合ってぇぇぇーーーーーーーー!!!』
さなえの首を刎ねると続け様に、既に死んでいるすわこの首も刎ねた。
そしてさなえをすわこの身体の上に置いた。
首は光と煙を上げて定着していく・・・・
意識を取り戻したさなえが最初に見たのは、さとりの泣き崩れる顔だった。
『良かった・・・・さなえ・・・本当に良かった・・・・』
『さとり・・・・・私助かったんだ・・・・』
さなえは抱きつき涙を流すさとりを、呆然と見ながら生き残った事を実感する。
外に待機している希少種以外は、ほとんど死んでしまった。
すわこの死骸から、帽子と同化した子ありすを帽子ごと取り上げる。
だが本体が死んでしまった為であろうか?子ありすは目を閉じて動かなくなっていた。
辺りは静まり返っていた。
これが本当に勝利と言えるのかは2匹にも分からなかった。
だが何かが大事な残っている気はしていた。
勝利の代償は大きい、大半の者が研究所に突入して命を失ってしまったのである。
さなえは外に待機していた者を群れへと帰した。
そして自分達は子ありすを、元の姿に戻す方法を探さなければならない。
だがゆっくりの力ではどうにかなるとは思えない、人間の力を借りるしか無い。
灯台の群れに「教授」と呼ばれている人間がいた、彼しか相談出来そうな相手は思い浮かばなかった。
2匹は子ありすを、灯台の群れまで連れて行く事にする。
『ところで教授ってどんな人なの?』
さとりが灯台の群れを訪れた時は教授は不在だったので、どんな人なのか知らなかった。
だがさなえも1回会っただけで、こいしに溺愛している以外の印象は持って無い。
何故だか分からないが、好きにはなれそうも無かった。
教授に何かゆっくりできない雰囲気を感じてそう思ったのだ。
2匹の様子を映すパソコンのモニター。
監視カメラで、一部始終見ていた者がいたのだ。
起こった事全てを記録に撮り分析をする。
『あぁ・・・こりゃ駄目だな・・・・1回白紙に戻すか・・・』
パソコンの画面を見つめながら呟いた。
デスクの隅に置いてあった瓶を手に取ると、男性はそのまま部屋を出て行った。
さとりが灯台の群れに辿り着く頃には、すっかり夜も明けて朝日が眩しかった。
昨日から一睡もしていない、流石に2匹とも疲労もピークを迎えている。
この2匹を出迎えてくれる者がいた。
2匹のゆっくりと人間が逆行のシルエットで見える。
さとりは自分にはまだ帰れる所があるんだ こんなに嬉しいことはないと感じていた。
迎えてくれたのはれいむとこいしだった。
一緒にいた男性の顔を見て、さとりの心は一瞬にして凍りつく。
全身から汗と震えが止まらない・・・・
さなえも同様にあった。
前に会った時に何故気が付かなかったのかと、何度も自問自答を繰り返す。
2匹の様子を見て男性は、正体がばれている事に気が付く。
男性は片足を持ち上げる。
その姿を見て凍りついていたさとりは我に帰る。
『れいむぅぅぅぅ!その人の傍にいては駄目ぇぇぇーーーーーーーーーー!!!』
れいむとこいしの側にいたのは教授だった。
ゆっくりした優しい人なのに、さとり何を言っているのかと不思議に思う。
れいむは暗い影がかかったので、空が曇ったのかと上を見る。
そこに見えたのは靴底だった。
『ゆゅ?』
れいむは状況を理解出来ないでいた、これは何だろう?と不思議な物でも見ているようであった。
グチュゥゥゥゥゥゥ!!
靴底はそんなれいむを一気に踏み潰した。
周囲に餡子が飛び散っていく。
隣にいたこいしにも、黒い餡子の雨が降り注いだ。
今れいむに何が起こったのか、こいしは理解出来ないでいた。
目前にあるれいむを踏み潰した足を辿って、ゆっくりと視線を上げて行く。
そこにあるのはいつも同じ教授の顔・・・・・
『きょうじゅ・・・・なにしてるの?れいむに・・・・なにをするの?はや・・くあんよさん・・・・のけてよ』
こいしは信じられなかった、今起こった事を受入れられなかった。
溺愛されうざいとは思いながらも、全てのゆっくりに優しい教授が大好きだった。
その教授が今、れいむを踏み潰したのである。
『嫌ぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!』
さとりの絶叫が砂浜に響き渡る。
それを合図にするかのように、教授は手に持っていたリモコンのボタンを押す。
すると灯台に設置されたプレハブ小屋から沢山の悲鳴が聞こえてきた。
『おみずさんはゆっくりできないぃぃぃぃ!』
『なんなんだどぉぉぉぉうごけないんだどぉぉぉぉ!!』
『きょうじゅぅぅぅぅ!たすけてぇぇぇぇぇぇ!』
悲鳴にこいしは、仲間のもとへと急いで駆けつける。
だがいつも開いている扉は、今日は堅く閉ざされていた。
『きょうじゅ?はやくこのとびらをあけてね?ゆっくりしないでね?』
先程れいむが踏み潰された事を、仲間の悲鳴によって記憶が吹っ飛んだのか、教授に扉の開放を頼むこいし。
そんなこいしを教授は拾い抱き上げる。
『どうしたのきょうじゅ?なにを・・・・』
戸惑うこいしに教授は笑顔で話す。
「心配しなくてもいい、今、酵素入りの水をスプリンクラーから放射しているんだ・・・・
酵素が蛋白質を分解してくれるから、短時間でゆっくりを溶かしてくれるよ。」
教授が何を言っているのか理解出来ない。
酵素?蛋白質?溶かす?
全てのキーワードがこいしの理解の範疇を超えている。
『所長ぅぅ!何故あなたがここにいるんだぁぁぁ!ぱちゅりー達に何をしたぁぁ!!』
さとりは何故ここに、特餡研究所の所長がいるの分からなかった。
教授と特餡研究所の所長は同一人物だったのである。
殆どのゆっくりはお飾りでしか、仲間を区別をつける事は出来ない。
ましてや相手は人間である。
所長が研究所でウィッグを着用していただけで、まったくの別人と認識してしまう。
さなえとさとりは、胴付き化する事でやっと認識出来たのだ。
『開けてぇぇ!!ぱちゅりぃぃぃ!!』
さとりはプレハブ小屋の扉を必死に引っ張る、だが扉には鍵がかかっていて開ける事は出来無い。
ついには疲労も忘れ、すわこを倒した紅い刃を振るう。
扉は切り裂かれ、1部が崩れ中の様子が見えた。
すでに大半のゆっくりは溶けてしまったのか、ドロドロの液状が床一面に広がっている。
その中で大きな塊が、扉に向かって突っ込んできた。
『あとは・・・まかせた・・・んだ・・・・ぜ』
その塊の衝突によって扉に空いた隙間から、2匹のゆっくりが飛び出してくる。
所々は、溶けかかっているようだが生きてはいた。
扉の向こうに見えた塊は、ドスまりさだった。
2匹を自分のお帽子に匿って、ギリギリまでチャンスを待っていたのである。
ドスまりさは通常のゆっくりより耐水性があるとは言え、流石に酵素による分解は防げなかった。
最後の力を振り絞って扉へ体当たりして、2匹を外に脱出させて力尽きたのである。
密かに惚れていたれいむが先に死んだのを、知る事無く逝けたのは唯一の救いであった。
『むきゅぅぅ!どすぅぅぅ!へんじをしてぇ~』
『どうしてまりさなんかをたすけたのぉ~!』
扉の前で泣き喚く2匹のゆっくり。
ドスまりさによって助けられたのは、ぱちゅりーとスィまりさだった。
あの状況で群れを託す事が出来ると認めれるのは、思いやりがあり判断力もあるこの2匹以外いなかった。
スプリンクラーで酵素水が降り注ぐ中で、咄嗟に2匹を自分の帽子に匿ったまでは良かった。
だが自分も早々と溶け出した事から、ただの水では無い事を知る。
扉を壊そうにもスパーク茸は、前の戦で奪われて持ってはいない。
ただひたすら耐えるしか方法が無かったのである。
扉が壊れて隙間が見えた時には、ドスまりさは考えるより先に身体が動いていた。
体当たりと同時に、帽子ごと2匹を隙間に押し込んだ。
それを最後に身体は崩れていった。
薄れる意識の中で扉向こうに、さとりの姿を見つけて安心して死んでいった。
「おやおや・・・困りますねぇ、あなた達はもう用済みで、廃棄処分しないといけないのですから・・・」
そう言いながら教授は、ぱちゅりーを踏み潰そうと足を上げる。
だが横から突風を受けて転倒してしまう。
さなえが渾身の力を込めて放った風であったが、ゆっくりは吹き飛ばせても人は転倒させるのがやっとである。
「やれやれ・・・・私も詰めが甘いようですねぇ・・・ゆっくり如きに転ばされるとは情けない」
耐えようと思えば堪えれたのであろうが、こいしを抱えていた為にバランスが取れなかったのである。
懐に手を入れるとゆっくりと引き抜いた。
ドォォォォォーーーーーン!!
大きな音が鳴り響く、そしてさなえが吹き飛ばされる。
教授の手には銃が握られていて、そこから硝煙が立ち昇っていた。
『うぐ・・・・・いたいです・・・・・』
さなえは胸を撃たれた、だがゆっくりには心臓は無い。
頭の中にある枢餡を撃たれなければ、すぐに死ぬ事は無いが動けそうも無い。
人であっても対処出来そうもない武器、それがゆっくり如きに使われたのである。
教授は続いてぱちゅりーに照準を定める。
ゆっくりには抗う事の出来ない武器を向けられて、ぱちゅうりーは動けなかった。
『止めてぇぇ!どうしてこんな事をするのですか!ゆっくりも生きているのですよ!』
さとりが教授の足にしがみついて止める。
しかし足を軽く払われただけで、さとりは吹っ飛ばされてしまう。
「生きてる?そんな台詞は、常識の範囲で生きてから語っていただかないとねぇ・・・・」
教授は話ながら引き金を引いた。
銃弾はぱちゅりーを貫くはずだった・・・・・
死を覚悟したぱちゅりーは、目を伏せて恐怖に固まっている。
だが吹き飛んでいったのはスィまりさだった。
『まりさは・・・・・・ふかのう・・・を・・かのうにする・・・ゆ・・・ゆっくり・・・なんだ・・・・』
ぱちゅりーを横から体当たりで庇って、代わりに被弾したのである。
中枢餡を貫かれて、言葉言い切れぬまま事切れるスィまりさ。
『ま!・・・むきゅぅぅぅう・・・・』
ぱちゅりーはそのまま気絶してしまう。
教授にとっては、ぱちゅりーだろうがスィまりさだろうが、順番が違うだけでやる事は同じであった。
再び照準がぱちゅりーに向けられる。
『駄目ぇぇぇ!』
さとりがその間に割って入り、両手を大きく広げて壁となって阻む。
だがその銃弾を止める事は出来ない、教授はさとりの腕を銃で吹き飛ばした。
何の躊躇も無く引き金は引かれる。
片手を失って激しい痛みに襲われながらも、さとりは壁となり阻み続けた。
その様子はまるで武蔵坊弁慶である。
『・・・・きょうじゅ?』
呆然としていたこいしが我に帰る。
抱えられながら教授に問いかけた。
『きょうはこいしやゆっくりのことを、きらいになっちゃったの?
こいしがわるいのならゆっくりあやまるよ?どうしてこんなことするの?
ねぇ・・・・やさしいきょうじゅにもどってよ・・・こんなのいやだよ・・・』
ポロポロと涙を流しながら懇願する。
そんなこいしを教授は、両手に抱えて自分の顔の高さにまで持ってくる。
そうして語りだす。
「こいしは覚えてないようだが、昔こいしが生まれてすぐに私と賭けをしたんだよ。
私はさとりを実験台にしてこいしは処分しようとした、だが真直ぐな目で私を見つめる君を見ていて思ったのだよ。
もし私がこいしを好きになれるなら、ゆっくりの平和のための研究をするのもいいかもしれないと・・・・・
だからまだ生まれて間もない君と賭けをした。
君を好きになる努力をしよう・・・・もし本当にこいしを好きになる事が出来たのであれば、ゆっくりを殺すのは止めようと・・・・
そうして今日まで一緒に暮らしてきた。
だが結果はこの通りだ・・・・私はゆっくりを殺すのに何の罪悪感も感じない。それにほら・・・・」
教授はこいしの右目を抉って握り潰す。
『がぁあ”あ”あ”あ”あ”!!!いだいぃぃぃぃぃ!!!』
こいしは教授に腕の中で、痛みに苦しみ悶える。
「ほら・・君にこんな酷い事をしても欠片程の感傷も感じない・・・・・これが結論だよ。」
そして銃口はさとりへと向けられ放たれた、銃弾は残りの腕をも吹き飛ばす。
これで両手を失なったさとりは、立っているのがやっとの状態であった。
既に気力体力共に尽きていた、なのにさとりは立ち上がる。
自分勝手で欲望に弱いはずのゆっくり。
それがどうして他ゆの為にここまで戦えるのだろうか?教授の中に疑問が湧く。
「なんなんでしょうねぇ・・・・・・ここまでしつこいと逆に興味が湧きますよ。実験体として回収しておきま・・・・・」
ブウォォォォォォォォーーーーーーーーー
さとりに手を伸ばした刹那、教授とさとりは黒い霧に包まれて見えなくなってしまう。
視界ゼロの状態で教授はさとりの腕を掴んだ。
「え?腕?」
吹き飛ばしたはずの腕がどうしてあるのか疑問に思った時、教授は逆に手を掴まれて引き寄せられる。
その力に思わず地面に膝を着いてしまい、抱えていたこいしを放してしまう。
前を見上げたそこには、暗闇の中で顔らしき物が微かに見えたかと思うと、
紅くその目が光を放ちだす。
『・・・・・そんなに興味がおありなら・・・・・どうぞ体験していって下さい・・・』
さとりの声が頭の中で響くように聞こえる。
声を聞いた瞬間に教授の身体から力が抜けて行く、地面に倒れ起き上がる事が出来なくなった。
やがて身体は軽くなった、だが何か宙に浮いたかの様な違和感を感じる。
暗闇が晴れて視界を取り戻して驚く、やはりさとりは腕を失ったままであった。
だが1番の驚きはさとりの額に蔓が生えていて、そこに自分がぶら下がっている事だった。
前をみると地面に伏している自分が見えた。
何が起こったのか理解出来ないまま、蔓から教授は生まれ落ちる。
何度確認しても、手足の無いゆっくりになっていた。
そして地面に伏していた自分の身体が、ゆっくりと立ち上がっていく。
そして銃口が自分に定められる。
「ま・・・まてぇ!何をするんだ!私を殺す気か!私は・・・・私は・・・・」
引き金は無常にも引かれ、教授は木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
そして教授の身体だったものは、再び地面に倒れ落ち動かなくなってしまった。
さなえやこいしには何が起こったのか分からなかった。
急に暗闇が発生したかと思うと、教授が見知らぬゆっくりを銃で撃ち。
そしてそのまま倒れたようにしか見えなかったのである。
『さとりぃ!さとりってば!ねえへんじをしてよ!』
腕を失いながらも、仁王立ちで佇むさとりの足元でこいしが騒ぐ、だがまったく反応を見せなかった。
さなえが慌てて側に駆け寄る。
『・・・・・・・・・。』
さとりは既に死んでいた。
何がどうなったのかまったく理解出来ない。
やがて前のめりに倒れてしまう。その身体は脆く崩れて辺りに内容物を撒き散らした。
倒れた教授がモゾモゾと動きだす。
「えひゃ~わたしわねぇ~わたしわねぇ~えひゃひゃひゃひゃひゃ~」
だが精神を崩壊してしまい、涙と涎に塗れてただ笑うばかりであった。
3匹は灯台の群れを離れる。
銃声を聞きつけた人によって教授は保護されたが、最後まで精神や記憶を回復する事無く終わった。
さなえの傷はたいした事は無く、ゆっくりの超回復力のお陰ですぐに塞がった。
動けるようになるとさなえは、こいしとぱちゅりーを群れへと連れて帰った。
通常種と憎みあってきた関係を改善する為に、2匹の持つ経験と考え方は必要不可欠だと判断したのである。
これからは通常種のゆっくりの性を理解した上で、関係を構築していかなければならない。
阻害され争う事もあるであろう。
だが同じ生き物なのだから、良好な関係を築く事も可能である。
これから新しいゆっくりの時代が始まろうとしてた・・・・・
終わり
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ようやく終わらせる事が出来ました、ここまでお付き合い頂いて感謝の極みです。
まさかここまでクダクダに進むとは考えもしませんでした。
でも色々と勉強にはなりました、今後活かせていければ良いなと思っております。
誤字・脱字と無茶設定が酷いかもしれませんが勘弁して下さい。
これまで書いた物
anko1218 ゆ虐ツアー
anko1232 ゆ虐ツアー お宅訪問編
anko1237 デスラッチ01 雪原のまりさ
anko1243 ゆヤンワーク
anko1250 デスラッチ02 まりさの思い出
anko1274 デスラッチ03 まりさとつむり
anko1276 ゆっくり種
anko1278 ゆっくり種2
anko1282 デスラッチ04 まりさとおにいさん
anko1291 ゆっくり種3
anko1296 デスラッチ外伝01 まりさとまま
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anko1314 デスラッチ05 まりさとおちびちゃん
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anko1337 デスラッチ06 まりさとリボン
anko1341 デスラッチ07 まりさと春
anko1350 ゆっくり種6
anko1362 ケーキ
anko1391 ゆっくり種7
希少種 独自設定(かなりの無茶設定) 種のパロディ 人間が酷い目にあいます。
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月夜の浜辺に波の音だけがBGMを奏でている。
洞窟の奥でおくうが亡くなった。
黒かった髪は白髪となり肌は乾き、緑色のお飾りは色あせている。
これが今日亡くなったと聞かされなければ、死後数日は経過していると思うところであろう。
その亡骸に寄り添うおりん。
悲しむ風でも無く、優しい笑顔をうかべて見つめている。
『どうしておくうは、えいえんにゆっくりしちゃったの?』
ぱるすぃーは寄り添うおりんの背後から声をかける。
その死は突然であった。
さとりが仲間の下へ飛び出して行った直後から、おくうの身体は衰弱していった。
見る間に老ゆっくりの様な姿へと変貌していく、おりんはその様子をただ見つめているだけだった。
苦しみながらもおくうも言葉にはしなかった、死ぬ覚悟は既に出来ていたのかもしれない。
おりんはおくうの方を向いたまま、静かに語りだす。
『おくうはね・・・ゆっくりがてにいれちゃいけないちからを、てにいれちゃったんだよ・・・・・・
そのちからはおくうには、あつかえなかったんだよ。
えらばれしゆっくりしか、もっちゃだめなちからだったんだよ。』
選ばれし者しか扱え無い力を得た事によって、おくうは死を早めたのだとおりんは言う。
その力がさとりが受け継いだ胴体だと言う事は、なんとなくぱるすぃーにも理解できる。
ではさとりは使いこなす事が出来たのであろうか?
疑問はあるが確かめようも無い話である。
そしてもう一つぱるすぃーには疑問があった。
『どうしておくうがしんだのに・・・うれしそうなの?』
死の間際まで2匹は見つめ合っていた。そして優しい笑顔を浮かべている。
おりんとおくうが、好き合っている者だと言う事はすぐに分かった。
何故、愛する者の死をそれほど安らかに、迎え入れれるのであろう。
ぱるすぃーには理解し難かった。
『うれしい?そうだね・・・・おりんはうれしいんだよ。
だってほら、ここにおくうはいるんだよ。』
おりんは、そう言うとゆっくりと振り返る。
『それは!』
おりんの下腹がポッコリと膨らんでいるのが分かる。おりんは子供を妊娠していたのだ。
『そうだよ、おくうのあかちゃんだよ。おくうはここにいるんだよ。だからおりんはさみしくないよ。』
それは死を迎える前に、おくうがおりんに唯一してあげれる事だった。
『それはねたましいわね・・・・ゆうぎにもおしえてあげなきゃね。いっしょにねたんでもらうんだから。』
ゆうぎにおりんの妊娠を教えようと、洞窟の外へと跳ねて行くぱるすぃー。
外は既に暗く、月明かりだけが海岸を照らしている。ゆうぎを探そうにも雲で月明かりが陰りよく見えなかった。
ぱるすぃーの顔に何かが滴ってきた、雨かと思い見上げてみると、
洞窟の上にある岩の後ろに、ゆうぎの角が微かに見えた。
『ゆうぎったら、そんなところにいたのね・・・ねたましいわ。』
岩上を目指して跳ね進んで行くぱるすぃー。
月明かりで影になっていて、ゆうぎの顔は良く見えなかった、しかし何か違和感を感じる。
近づけば近づく程、違和感は強くなっていった。
『ゆうぎ!ゆっくりしないできいてちょうだい、おりんにあかちゃんができたのよ。
それもおくうのこよ、なんてねたましいのかしら・・・・ってゆうぎきいてる?』
反応が無いゆうぎの後頭部をつついてみる。
するとゆうぎの顔は岩上からゆっくりと、風に流されながら砂浜へと落ちていった。
『!』
ぱるすぃーは言葉を失った、ゆうぎは首だけとなり岩上に置かれていたのである。
砂浜へ落下したゆうぎの顔は落下の衝撃で潰れ、砂浜に中身を飛散させた。
砂にできた痕を波が消していくのが見える。
『ゆ・・・・うぎ?』
波に消されて死体すら残せなかった友の痕を、岩上から見下ろすぱるすぃー。
『ゆ・・・ゆ・・ゆぅぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』
月夜の海岸にゆっくりの悲鳴が木霊する。
希少種の群れでは、新しい長を選出する必要があった。
かなこの後をさなえが継いだと言っても、それは群れの総意とは言えない。
重鎮が集まり、各々が次の長の候補を立てていく、それは長の後見ゆんとしての地位を目論む裏が見てとれる。
しかし群れにいる胴付きはさなえ1匹、これに対抗できる実力者を立てる事は不可能であった。
10匹の重鎮による賛成多数で決められる次の長、さなえの後見ゆんには4匹の重鎮がついた。
だが長の座を欲するらんの裏工作により、4匹はらんについてしまった。
残る2匹に託される希少種の群れの未来、そして次の長はらんへと決まりかけた。
既にこの2匹への手引きも終わっていたのである。
だがそれを神は許さなかった。
『らんしゃまぁぁぁぁやめてぇぇぇぇ!』
ちぇんが長の選出していた場所へ飛び出してくる。
希少種の群れに通常種が紛れ込んで来た為に、議決は中断されてしまう。
仮面まりさことすわこは、先代の長によって群れへの加入が特例として許されていた。
だがこのちぇんは群れへの加入どころか、存在さえ知られていなかった。
らんがこっそりと養っていた番だったのである。
『らんしゃまがおさになっちゃうと、らんしゃまがゆっくりできないよー
ちぇんはむれのそとでゆっくりまてるから、らんしゃまはゆっくりしてほしいよーわかってねぇー』
らんは群れでちぇん暮らしたかった。
ちぇんを群れの一員にするには、何かしらの特例を与えられる程の成果を上げるか、
希少種の掟を変えるしか方法が無かったのである。
しかし通常種の群れから迫害されて彷徨っていたちぇんに、何かしらの成果を出せる力があるはずもなく、
毎日群れから少し離れた場所で、らんが戻って来るのをちぇんはじっと待っているしか出来なかった。
そんな時に長が亡くなったのである。
『らんがおさになれば、きっとちぇんもいっしょにゆっくりできるよ!』
長になれば掟を変える事が出来ると思い、らんは重鎮の懐柔を行った。
自分を長にすれば今後のゆっくりは保障すると・・・・
だが長になると言う事は、自分のゆっくりは捨てなければ群れを維持していけない。
かなこの様に群れを狙う敵と相対し、いつ果てるやも知れなのである。
ちぇんはらんに森で震えていたところを救われた、感謝してもしきれない位の想いを抱いている。
今やらんがゆっくり出来る事が、ちぇんの望みなのだ。
それがこの戦争中に長になると言う事は、自殺行為に等しかった。
想い追い詰められたちぇんの取った行動は、決議を阻止する為の乱入である。
群れの掟を破ったらんは、長になる資格を失ってしまった。
この時点で次代の長はさなえと決まった。
『らんしゃま・・・・ごめんねぇ・・・ごめんねぇ・・・ちぇんは・・・らんしゃまにゆっくりしてほしかったんだよ~だから・・・・・』
何度も謝るちぇんをらんは責めなかった。
『いいんだよちぇん。でもこれでらんはむれをでていかないといけなくなったから、ちぇんもいっしょにきてね?』
らんはちぇんによって教えられたのだ。
群れでなくてもちぇんが一緒ならば、ゆっくり生きていけるのだと。
『ちぇんもいっしょにいっていいの?わがったよぉ~ありがとだよぉ~』
2匹は群れを出て行く事を決める、その様子を重鎮やさなえも見ていた。
『らんもちぇんも出て行く事は、さなえが許しません!』
長となった最初の発言が、らんの追放阻止であった。
周りに居たゆっくりは皆が驚いた、自分と長の座を争った程のゆっくりである。
普通であれば阻害するのがゆっくりの性と言えよう。
だがらんの目指した事の一部は、さなえのやろうとしている事と同じであった。
さなえはらんならば自分の理念を理解してくれると確信したのである。
『長として命じます!本日より掟の希少種のみの群れと言うのを廃止しいたします。』
さなえは皆の前で高らかと宣言する。
『よってここに居るちぇんは、群れの仲間と認めるものとします。よいですね!』
長となった者の決定である、異議を唱える者はいなかった。
こうして希少種の群れに初めて、通常種が仲間入りする事となった。
『らんしゃま~ちぇんもここにいていいんだねぇ?らんしゃまとゆっくりできるんだねぇ?うれしいんだよぉ~』
ちぇんは涙を流し喜んでいた。
らんはさなえを蹴落とそうと、画策していた事を後悔していた。
通常種と仲良く出来るらんを補佐に据えて、群れの新体制は始まる事となった。
さなえにはまず最初に、やらねばならぬ事が2つあった。
1つは通常種との戦争の回避、もう1つはかなこの敵討ちである。
まずはすわこを探さなければならない、飛行能力を持つものを研究所周辺に探索に出す。
そして残りの者は戦いに備えて、研鑽を怠らないように言いつけた。
灯台の群れにも異変は起きていた、見慣れぬ胴付きのゆっくりが尋ねてきたのである。
未だ教授は帰ってきていないので、こいしが対応する事になった。
『こいしのむれになにかようなの?』
いくら尋ねても、胴付きのゆっくりは何も話さなかった。
そして1枚の写真とカチューシャを置いて、何も物言わぬまま帰ってしまった。
『なんなのこれは・・・・・・これは・・・・』
その写真を見てこいしは衝撃を受けた。
そこには見覚えのあるピンクの髪の赤ゆと、薄い緑がかった髪の赤ゆが写っていた。
この赤ゆは間違い無く、さとりとこいしであった。
物心ついた時から教授と過ごしてきた、姉妹がいるなんて話は聞いた事は無かった。
だがこの写真に写っているのは自分である。
何がどうなっているのか、訳が分からなくなりそうだった。
1匹で悩んでいても解決はしない、とりあえずさとりにも見てもらう事にする。
『これはさとりとこいしですね・・・・と言う事はこいしも研究所生まれだったようですね・・・・・』
さとりもこの事実を知ら無かった。
だが自分は研究所生まれ、ならばこいしもそうであろうと判断出来る。
『じゃあさとりは、こいしのおねいさんなの?』
こいしの問いに黙って首を振るさとり。
違うと言う意味では無い。
真実がどうなのかは、さとりも知らないのである。
さとりも物心ついた時には、既に研究所で過ごしていたのである。
姉妹どころか、両親の顔すら知りようが無かった。
もう1つの置き土産が問題であった・・・・・
このカチューシャは、さとりのよく知るゆっくりの物である。
『ありす・・・・生きているのですね・・・・・・』
写真と一緒に持ち込まれた、子ありすのカチューシャ。
これが何を意味するのか、さとりは理解出来ていた。
だがこの隠された事実をさとりは、皆には告げなかった。
『むきゅう!たいへんよぉ!さとりがいないの・・・・どこにもいないのよ!』
翌朝、皆が目を覚ました時には、既にさとりの姿は無かった。
ぱちゅりー達にもすぐに、あの写真と子ありすのお飾りが関係しているのはすぐに分かった。
だが何処に行ってしまったのか知るよしも無かった。
研究所の存在は通常種の群れには、あまり知られていないである。
『さとり・・・・こいしのところに、またもどってきてくれるよね・・・・おねいちゃん・・・・・』
不吉な予感に餡を焦がすこいしであった。
希少種の群れでは、敵討ちに備えての訓練が行われていた。
すわこが研究所に出入りしているのを、偵察に出したれみりあが目撃した。
これで研究所がこの戦争を画策していたのだと、さらに確信を持つ事になる。
社の前に群れ全員を集めてさなえは声を上げる。
『我々は一匹の英雄を失いました!しかし!これは敗北を意味するでしょうか?!
否!!始まりなのです!!通常種にくらべ我が希少種の数は三十分の一以下です!!
にもかかわらず今日まで果敢に戦いぬいてこられたのは何故でしょう!諸君!!
我々希少種の戦争目的こそが正義であるからです!!それはここにいる諸君らが一番よく知っています!
我々は森を追われ流民として通常種から捨て去られました!!
だがそれは研究所につく一部の裏切り者による利己主義にこり固まった一握りのゆっくりが画策した物です!
かつてかなこ様は希少種の革新は、ゆっくりの民たる我々から始まると仰いました!その言葉のとおり!
我々は過酷な森を生活の場としながら、共に苦悩し練磨して今日を築きあげてきました!
我が希少種はかなこ様の夢と理想をまさに形あるものとしてきたのです!!
さなえの妹諸君らが愛してくれたかなこ様は死にました!何故です!!
新しい時代の覇権を、我等選ばれたゆっくりが得るのは歴史の必然です!!
ならばこそ我々はかなこ様の前に襟を正し!士気を高め!この戦局を打開しなければなりません!!
ゆっくり全体の明日のために!!
しかしながら研究所につく愚かなモグラどもは、自分たちのみがゆっくりの支配権を有するとして我々に攻撃を加える!!
諸君の母も子も姉妹も!その無分別な暴力の前に死んでいったのです!!この悲しみを怒りを!忘れてはなりません!!
それをかなこ様は死をもって!我々に示してくれました!!
我々は今!この怒りを結集し研究所に叩きつけるべきです!そうしてこそはじめて真の勝利を得ることができるのです!!
この勝利こそ戦いに斃れた者達への!最大の慰めとなります!
希少種よ!悲しみを怒りにかえて立つのです!ゆっくりよ!!
我等希少種のゆっくりこそゆっくりに選ばれたゆっくりであることを決して忘れてはなりません!!
希少種たる我等こそゆっくりを救い得るのです!!ジーク・ゆっくり!!』
息も切れんばかりの大演説を繰り広げる。
だがいくら通常種よりも知能は高いと言ってもやはりゆっくり、大半の者がさなえの演説の意味を理解できていなかった。
『つまりはれみりあはどうしたらいいんだどぉ?』
この言葉にさなえはガックリと肩を落とす。
だが理解していないのなら尚更、説明しておかないと後々面倒である。
『みんなで研究所にかなこ様の敵討ちにいきます。ゆっくり理解できましたか?』
ゆっくりと優しく丁寧に分かりやすく説明する。
『わかったんだどぉ~おぜうさまはがんばるんだどぉ~』
気の抜ける返答ではあったが理解は得られたようである。
こうして全戦力を持って研究所に挑む希少種群であった。
さとりは1匹で研究所に来ていた、写真が自分の生まれて間もない時の物であるならそこは研究所である。
カチューシャを写真と一緒に持ってきたのは、研究所に子ありすがいると言う事を暗示していた。
もうゆっくりには死んで欲しくない、ならば研究所へ行くしか無かったのである。
しかし罠と解っていて仲間を連れて行く訳にもいかない、さとりは1匹で子ありすの救出に向かう事にしたのだ。
窓の外から中を窺う、暗闇の中で計器の放つ光が点々と見える。だが人の気配は感じられなかった。
キィィィィィィィィ
誰もいないのに裏口のドアが開く。
『やはり入れと言う事なのでしょうね・・・・・・』
罠と解っていてここまで来たのだ、さとりには進むしか道は無かった。
研究所の中は、間接照明が薄暗く廊下を照らしていて奥は見えない。
慎重にゆっくりと廊下へと足を進めて行く、かつて暮らしていた場所である。
ここの内部は全部覚えている。
第3研究室に明かりが灯っていた、どうやらここに来いと言う事らしい。
さとりが部屋に入ると扉が閉まって開かなくなった、想定はしていたが退路を絶たれた事に少し焦る。
『ようこそ・・・と言うよりお帰りと言うべきかな・・・・』
部屋の奥から声がした、その声の主はゆっくりと近づいて来る。
現れたのは黄色い帽子を被った胴付きのゆっくり、灯台の群れにやってきたゆっくりである。
『ありすはどこですか?』
さとりのいきなりの質問に驚く様子もなく答える。
『おやおや挨拶もなしとは・・・・・まぁいいでしょう。あなたの目の前にいますよ、気が付きませんか?』
さとりの目の前には胴付きのゆっくりが1匹いるだけである。
後は机や棚があるだけで、子ありすの姿は確認出来なかった。
そのゆっくりは、子ありすを見つけられないさとりを面白そうに眺める。
『ここですよ。』
そしてゆっくりと指差した場所は自らの帽子、決して帽子の中と言う意味では無い、帽子その物でなのである。
戸惑うさとり、その時帽子の上についた目がギョロリさとりの方に向いた。
その目には一杯の涙が溢れていた。
『ま・・・まさか・・・・あり・・・・す?』
さとりは、真実を見つめながらも受け入れられずにいる。
その様子を見て満足そうに頷く胴付きのゆっくり。
『実に愉快です。期待していた通りの反応だ!説明の前にまずは、自己紹介を先にさせて頂きますよ。
私はすわこと言います。気づいてはおられるでしょうが、ここの研究所の生まれのゆっくりです。』
すわこと名乗るゆっくりは、両手を大きく広げ自らの事を語りだす。
『私はさとり!あなたのプロトタイプなのですよ。ここでは様々なゆっくりが開発されてきました。
あなたはその「進化の種」を完成させるべく生まれたゆっくりなのですよ。』
さとりは進化の種とは何なのか聞いた事もない、だがすわこがさとりの事をよく知っているのは理解出来た。
『進化の種?』
聞くつもりは無かった、だがついオウム返しに尋ねてしまった。
『そう「進化の種」です!ゆっくりが人間に並ぼうとする、神をも恐れぬ計画ですよ。
あなたのその身体を安定させるのに大量のゆっくりが犠牲になりました。皆がその身体があれば、ゆっくりの神になれると頑張り死んでしまいました。私も神になりたかった・・・・・・だが神の身体に拒絶されて弾かれてしまった、それがあなたの身体です。
あなたが覚醒するまでの間は、あなたの遺伝子を使い生まれたゆっくり「おくう」が預かっていたのですが、今頃は身に余る力の余波で干からびている頃でしょうね。』
すわこはさとりの身体の秘密を淡々と話す。
『そしてあなたは神の身体を得た!ゆっくりが進化するための種をその身に宿したのです。
まさにゆっくりの王だ・・・・いや神でしたね・・・・・皆があなたのように、特別なゆっくりに生まれたかったでしょう。
だが神になれるのは一人だけ・・・・・あなたのために何千何百と言うゆっくりが犠牲になったのですよ!』
さとりの身体の中に、沢山のゆっくりの想いが残っているのは知っていた。
だがこの想いの裏に、凄惨な事実があるとは思いもよらなかった。
だが今は自分の事なぞどうでもいい、子ありすの事が先である。
『そ・・・そんな事よりありすを返して下さい!』
すわこは話の腰を折られて興ざめしたのか、やれやれと言った感じで答える。
『あぁあの子供ですか・・・ゆっくりと言う生き物は実にいい加減な生き物でしてね。
人の手によって無茶な改造をうけても中々死な無いのですよ。
私の帽子に生きた飾りが欲しかったので融合させて頂きました。なかなか素敵でしょう?』
帽子の上に付いた2つの目玉は、大粒の涙を湛えながらキョロキョロと動いている。
死ぬ事も許されずに、帽子の中で生かされているのだ。
『ありす・・・ゆっくり・・・なんてできないよね・・・どうすればいいの・・・・さとりもうわからないよ・・・・』
さとりは、動揺に心が押し潰されそうになるのを必死に耐える。
すわこはその様子を眺めるだけであった。
研究所の周りは希少種群で取り囲んだ、後は突入の合図を待つだけである。
群れを出発する直前に山向こうの群れに向かった、ゆうか隊の生き残りが帰還した。
ゆうかは新長となったさなえから、かなこがすわこに殺された事を教えられた。
そしてすわこは研究所の手先で、この戦争の張本人である事も聞かせられる。
『そのすわこが、なにものだろうがかんけいないわ!このゆうかをだましたというだけでじゅうざいよ!』
かなこの命令だったとは言え、一時的に部下となり手足となって働いた。
ゆうかはそんな自分が許せなかった。
一応さなえだけには、さとりの生存を報告しておいた。
自分やここにいる生き残りの中に、さとりに命を助けられた者もいる事も話した。
『そうですか・・・・』
そう言うとさなえはさとりの事は後回しにした、今は襲撃に集中すなければならい。
こうして希少種群は生き残りも加えて、残存戦力全てをこの襲撃に注ぎこむ。
戦力は100匹を超えてはいた。
しかし圧倒的に不足している事は、さなえには理解出来ていた。
『これでふらんたちのしょうりはまちがいないね!』
『さすがはおぜうさまのいるむれなんだどぉ』
『こぼねこぼね!』
『うらぎりものにはせいさいね!ないてもゆるさないんだから!』
『くろまく~』
しかし他の者には、これは勝利間違い無しと錯覚させる程の数であった。
さなえは、ここに来て迷いを感じていたこれは罠ではないのかと、研究所に人の気配が感じられないのである。
だが士気が高まっているこの時を逃せば、もう攻め入る隙は無いかも知れない。
すわこがここに居るのは目撃されている、後戻りは出来ない。
ついに意を決して号令を下す。
『うてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
研究所の窓全てに石礫が放たれる。
パキィィィィィィィィィン・・・・ガシャガシャガシャーン!
実験室の窓は流石に、強化ガラスだったのか罅すら入らなかったが、事務所や廊下の窓は全て砕け散った。
割れた窓から次々と侵入して行くれみりあやふらん。
『うぅ?うぎぃぃぃぃ!!!いたいんだどぉぉ!!』
『あづいよぉぉぉ!ねえさまかわいぃふらんをたすけてぇぇぇぇ!!』
『いだぃいだぃいだぃぃぃぃ!!!』
『めがやけるんだどぉぉぉぉ!!!』
『うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
中に侵入した者の悲鳴が響き渡る。
部屋の中には紅い霧のような物が浮かんでいた。
それはカプサイシンを噴霧状にした物で、ゆっくり撃退によく使われる者だった。
多くのレミリア達は先に侵入してしまい、部屋の中でのた打ち回り苦しんでいる。
だが助けたくても霧がある限り中へは侵入出来ない、仲間が苦しむのを見ているしか出来なかった。
さなえは作戦の変更を余儀無くされてしまう。
別の侵入ルートを確保して小数精鋭で突入しなければ、被害は広がるばかりである。
だが研究所は鉄筋コンクリートで出来ていた、ドアや窓以外からの侵入は人間でも難しいであろう。
キィィィィィィィィ
その時、さとりが侵入した裏口のドアがゆっくり開いた。
先程の紅霧の件もあり、いきなり飛び込む者はいなかった。
中を覗くと、間接照明で薄暗く照らされた廊下で奥の様子は伺えない、だが誰かが話をしている声は微かに聞こえた。
紅霧の心配は無さそうである。
さなえは、ゆうかやふらん等の精鋭5匹で突入する事にした。
たった5匹で対抗できるとは思わなかったが、多くで入っても全滅する可能性の方が高いと判断したからである。
『さなえが先に入ります!何かあったら確認する必要はありませんから逃げて下さい!』
『ゆっくりりかいしたよ!』
『わかったわ』
『さなえだけにいいかっこはさせないわよ!』
『まかせるんだどぉ』
紅霧が用意されていたので、この先にも罠は用意されている事は容易に予測できた。
仲間には逃げろと言いつけたが恐らくこの者達は守らない、ゆっくりに急な出来事に対応を望むのは無茶と言う物である。
だからこそ先頭に立って、皆を守る必要があったのだ。
さなえは建物の中へゆっくりと入って行く、その後を4匹がついて行く。
ギィィィィバタン!
そしてさとりの時同様に、5匹全部が入った瞬間に扉は閉まる。
『おそとさんにでれないよぉぉぉ!』
『こわいんだどぉぉぉぉ!』
さなえとゆうか以外の者は、退路を絶たれた事にパニックとなった。
この様な状態では戦力として期待出来そうもない、ここに置いて行くしか無かった。
『フフフ・・・ゆうかも怖いですか?』
さなえは冷汗をかきながら、壁に背をあて前へと進んで行く。
『こ・・・このゆうかさまをなめるんじゃないわよ!』
『それは心強いですね・・・・』
お互いに強がっているのは分かっていた、だが進むしかないのだから弱音を吐いてはいられない。
先程から聞こえていた声が奥の部屋からする。
研究所出身であるさなえやゆうかには、見覚えのある部屋だった。
そっと覗くとすわこと一緒にピンクの髪の胴付きゆっくりが確認出来た。
『さ・・・さとり!』
ゆうかから生存の報告は聞いていたが、これ程早く出くわすとは考えていなかった。
だが目標はすわこの命、気を取り直し身を潜めて機会を窺う。
『さてさとり・・・そろそろ終わりにしましょか・・・・・あなたの神の身体は私が頂きますよ。』
さとりの首に手をかける、そしてその手に力が込められていく。
絞殺されそうになりながらもさとりの目には、帽子と同化してしまった子ありすしか映っていなかった。
もうどうしようもない事は理解しているが、どうしても諦めきれないでいる。
ゆっくりに呼吸は必要無いので窒息死する事は無いが、代わりに内部物が押しやられての破裂する苦しみがあった。
痛みと後悔で意識が混濁してくる。
『もう駄目かもしれない・・・・』
さとりの身体から力が抜けて、そのまま首を持つすわこにぶら下がってしまう。
それでも視線は、虚ろながらも子ありすを捉えていた。
『やらせないよぉぉ!!!』
ゆうかが堪えられずに飛び込んで行った。
さとりに助けられた借りを返さぬまま死なれては、とてもではないが寝覚めが悪い!
足元からすわこの腕めがけて石礫を放った。
『おっと・・・・これはいけませんね・・・』
ゆうかと言えども所詮はゆっくり、動きはたかが知れていた。
胴付きのすわこにはとても遅く見えた。
だがすわこの意識がゆうかに向いてしまった隙を、さなえは見逃さなかった。
石礫を余裕でかわしたすわこの側面から、烈風の如く空気を吐き出す。
ブォォォォォォォォォォーーーーーーーーー!!!
風はすわこの体勢を崩し転倒させる。
首から手が離れたのを確認すると、さなえは2匹の間に割って入った。
さとりは混濁する意識の中で、圧迫感から開放されたのを感じた。
ぼんやりする視界に映ったのは、白に緑を配した服を纏ったさなえの背中だった。
『こんな所で死んで良いとでも思っているのですか!さとりの志とはこの程度の物では無いでしょう!』
聞き覚えのある声に意識を取り戻す。
『・・・・・さなえ?』
『早く立ちなさい!奇跡とは起きる物ではありません!起こす物です!
ゆん事を尽して天命を待つのは、最後まで努力した者だけが許されるのですよ?
さとり!あなたにはまだやれる事があるはずです!』
さとりはかつての友人に、気合を入れられて我に帰る。
まだ諦めるには早過ぎた。
すわこから帽子と同化してしまった子ありすを、奪い返してから考える事も出来るのだから。
瞳に気力を取り戻したのを確認すると、さなえは満足したように話す。
『積もる話は後です。今はすわこを倒すのが先!ここは共同戦線といきましょう!』
さとりは黙って頷き、さなえと並んですわこと対峙する。
ここにかつて敵同士となった、旧友の同盟が再び結ばれたのだった。
『さてはて・・・・どうした物ですかね?1対2?嫌・・ゆうかも居ましたね・・・』
すわこの言葉とは裏腹に、不利になって困ったと言う様子は感じられ無かった。
対峙する3匹を相手にしても、ニヤニヤと薄笑いを浮かべている。
その姿にゆうかは怒りを覚えた。
1匹で複数と対峙しての余裕と、ゆうかを戦力として見てはいない態度が許せなかった。
『なめるなぁぁぁぁぁぁ!!!』
ゆうかは、ガラス片を咥えてすわこに飛び掛った。
ガシィィ
だがすわこの左手が、ゆうかの顔を掴み阻止されてしまう。
そしてゆうかは、その手の平に線が入っているのを見た。
そしてその線がゆっくりと開いていく・・・・・
『ぎゃぁぁぁ!!がぁぁぁ!!ぎぃぃぃぃ!!あ”あ”あ”あ”!』
ゆうかの悲鳴が木霊する。
そしてゆうかは、そのまま床に投げ捨てられた。
何が起こったのかさとり達どころか、実際にやられたゆうかも分からなかった。
ゆうかの左目の付近が、何かによって抉られている。
鼠にでも齧られたかのような痕がついていた。
すわこは薄笑いを浮かべながら、両手の平を3匹に見せた。
その手には歯を剥き出しにした口がついていた。
『まったくもってゆっくりとはいい加減な生き物です・・・・
取り付けただけでどんな場所でも口を作れてしまうのですから・・・・』
ゆうかはすわこの手の平を残った右目で見ながらも、現状が理解出来なかった。
あれは何だろう?どうして左目は見えないのだろう?
傷口から内容物が、記憶と一緒に漏れていく。
意識が白濁しながら最後に見たのは、すわこの両手の口が迫り来る様子だった。
『があ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”』
すわこは3つの口を使ってゆうかを食らっていく、3方から生きながら齧られて悲鳴を上げるゆうか。
その悲鳴が止んだ時ゆうかの身体は、原型を留めないくらいに無くなっていた。
喰い残しを放り捨てるとまた薄笑いを浮かべる。
余りに凄惨な光景に唖然としていた2匹は、ゆうかが床に捨てられた音で我に帰った。
ジリジリと間合いと詰めてくるすわこに対して、2匹は後ろへ下がる事しか出来ない。
やがてその後退も壁に阻まれる事となる。
追い詰められた2匹は、左右に別れて両方から飛び掛っていった。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
さとりはすわこの背後から、両手を抱えて動けなくした。
これで両手の口を使え無い!
正面を取ったさなえはすわこに殴りかかる。
ドウゥーーーーーーーーーーーーーン
閃光がさなえの身体を貫いていく、その衝撃で其々前後へ吹き飛ばされる。
激痛がなさえを襲う。
身体には大きく焼け焦げた穴が空いていた。
『だから言いましたよね?どんな場所にも口をつけられると・・・・』
すわこの腹には大きな口が開いていた。
ドスまりさの口だったらしく、さなえは近距離でドススパークを放たれたのだ。
焼けているために傷口から内容物が漏れる事は無かったが、動くどころか生命の維持も危うい状態である。
『お・・・・・おの・・・れ・・・ぐ・・・う・・・・・』
これで戦えるのは、さとり1匹だけが残される。だがこの化物にどう戦えば良いのか考えつかない。
戸惑っているさとりにすわこは、容赦無く襲い掛かってきた。
『降参ですか?あっけないですねぇ!』
「神の身体」を狙うすわこは、さとりの身体を傷つける事は出来ない。
あくまで首を取る事が目的だったのである。
フェイントも入るとは言え、首上だけを狙った攻撃である。怯んださとりでもかわす事はなんとか出来た。
だからこそすわこは、さとり動きを封じるために先に心を折ろうとしていたのだ。
その事に気が付いている者がいた、間近で攻撃を見せられ続けていた子ありすである。
なんとかさとりに知らせたい、その思いが奇跡を呼ぶ。
『こいちゅのにぇらいはくびだけだよぉぉぉぉぉ』
すわこの右手についた口が声を上げたのだ!
子ありすの強い想いは、すわこの帽子を通して右手を口に届いたのだ。
これを1番驚いたのはすわこだった、もう話す事なぞ出来ないはずの子ありすの声が自分から出たのだ。
いい加減な生き物で片付けるにも限度と言う物がる。
正に奇跡と呼ぶに相応しい出来事だった。
『ウオォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!』
すわこの攻撃の軌跡の予測を潜って、さとりの渾身の一撃が放たれる。
その手には紅く光る刃が握られていた。
『そんな馬鹿な・・・・私の計画は完璧だった・・・・こんなチビに潰されるなんて・・・』
すわこ顔に中枢餡にまで届く、大きな切り傷が開いていた。
何かを言いかけてそのまま息絶える。
さとりは皆の犠牲によって、なんとか勝利を?ぎ取る事が出来たのだ。
呆然としている暇は無かった、さなえはまだ生きているのだ。
しかしどうやって助けたらいいのか分からなかった。
痛みを堪えていたさなえに眠気が襲いだす。
『これが死ぬと言う事なのかも知れませんね・・・・まぁかなこ様の仇は討ちましたし・・・・もういいかもしれませんね・・・』
『駄目!さなえ目を閉じちゃだめぇ!さなえぇぇぇ!!』
ゆっくりとさなえの瞳は閉じていく、さとりの必死に呼ぶ声も聞こえては無かった。
その時さとりの中で、何者かが話しかけてきた。
さとりはその声に促されるまま、再び紅い刃を振り下ろす。
『お願いぃ!間に合ってぇぇぇーーーーーーーー!!!』
さなえの首を刎ねると続け様に、既に死んでいるすわこの首も刎ねた。
そしてさなえをすわこの身体の上に置いた。
首は光と煙を上げて定着していく・・・・
意識を取り戻したさなえが最初に見たのは、さとりの泣き崩れる顔だった。
『良かった・・・・さなえ・・・本当に良かった・・・・』
『さとり・・・・・私助かったんだ・・・・』
さなえは抱きつき涙を流すさとりを、呆然と見ながら生き残った事を実感する。
外に待機している希少種以外は、ほとんど死んでしまった。
すわこの死骸から、帽子と同化した子ありすを帽子ごと取り上げる。
だが本体が死んでしまった為であろうか?子ありすは目を閉じて動かなくなっていた。
辺りは静まり返っていた。
これが本当に勝利と言えるのかは2匹にも分からなかった。
だが何かが大事な残っている気はしていた。
勝利の代償は大きい、大半の者が研究所に突入して命を失ってしまったのである。
さなえは外に待機していた者を群れへと帰した。
そして自分達は子ありすを、元の姿に戻す方法を探さなければならない。
だがゆっくりの力ではどうにかなるとは思えない、人間の力を借りるしか無い。
灯台の群れに「教授」と呼ばれている人間がいた、彼しか相談出来そうな相手は思い浮かばなかった。
2匹は子ありすを、灯台の群れまで連れて行く事にする。
『ところで教授ってどんな人なの?』
さとりが灯台の群れを訪れた時は教授は不在だったので、どんな人なのか知らなかった。
だがさなえも1回会っただけで、こいしに溺愛している以外の印象は持って無い。
何故だか分からないが、好きにはなれそうも無かった。
教授に何かゆっくりできない雰囲気を感じてそう思ったのだ。
2匹の様子を映すパソコンのモニター。
監視カメラで、一部始終見ていた者がいたのだ。
起こった事全てを記録に撮り分析をする。
『あぁ・・・こりゃ駄目だな・・・・1回白紙に戻すか・・・』
パソコンの画面を見つめながら呟いた。
デスクの隅に置いてあった瓶を手に取ると、男性はそのまま部屋を出て行った。
さとりが灯台の群れに辿り着く頃には、すっかり夜も明けて朝日が眩しかった。
昨日から一睡もしていない、流石に2匹とも疲労もピークを迎えている。
この2匹を出迎えてくれる者がいた。
2匹のゆっくりと人間が逆行のシルエットで見える。
さとりは自分にはまだ帰れる所があるんだ こんなに嬉しいことはないと感じていた。
迎えてくれたのはれいむとこいしだった。
一緒にいた男性の顔を見て、さとりの心は一瞬にして凍りつく。
全身から汗と震えが止まらない・・・・
さなえも同様にあった。
前に会った時に何故気が付かなかったのかと、何度も自問自答を繰り返す。
2匹の様子を見て男性は、正体がばれている事に気が付く。
男性は片足を持ち上げる。
その姿を見て凍りついていたさとりは我に帰る。
『れいむぅぅぅぅ!その人の傍にいては駄目ぇぇぇーーーーーーーーーー!!!』
れいむとこいしの側にいたのは教授だった。
ゆっくりした優しい人なのに、さとり何を言っているのかと不思議に思う。
れいむは暗い影がかかったので、空が曇ったのかと上を見る。
そこに見えたのは靴底だった。
『ゆゅ?』
れいむは状況を理解出来ないでいた、これは何だろう?と不思議な物でも見ているようであった。
グチュゥゥゥゥゥゥ!!
靴底はそんなれいむを一気に踏み潰した。
周囲に餡子が飛び散っていく。
隣にいたこいしにも、黒い餡子の雨が降り注いだ。
今れいむに何が起こったのか、こいしは理解出来ないでいた。
目前にあるれいむを踏み潰した足を辿って、ゆっくりと視線を上げて行く。
そこにあるのはいつも同じ教授の顔・・・・・
『きょうじゅ・・・・なにしてるの?れいむに・・・・なにをするの?はや・・くあんよさん・・・・のけてよ』
こいしは信じられなかった、今起こった事を受入れられなかった。
溺愛されうざいとは思いながらも、全てのゆっくりに優しい教授が大好きだった。
その教授が今、れいむを踏み潰したのである。
『嫌ぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!』
さとりの絶叫が砂浜に響き渡る。
それを合図にするかのように、教授は手に持っていたリモコンのボタンを押す。
すると灯台に設置されたプレハブ小屋から沢山の悲鳴が聞こえてきた。
『おみずさんはゆっくりできないぃぃぃぃ!』
『なんなんだどぉぉぉぉうごけないんだどぉぉぉぉ!!』
『きょうじゅぅぅぅぅ!たすけてぇぇぇぇぇぇ!』
悲鳴にこいしは、仲間のもとへと急いで駆けつける。
だがいつも開いている扉は、今日は堅く閉ざされていた。
『きょうじゅ?はやくこのとびらをあけてね?ゆっくりしないでね?』
先程れいむが踏み潰された事を、仲間の悲鳴によって記憶が吹っ飛んだのか、教授に扉の開放を頼むこいし。
そんなこいしを教授は拾い抱き上げる。
『どうしたのきょうじゅ?なにを・・・・』
戸惑うこいしに教授は笑顔で話す。
「心配しなくてもいい、今、酵素入りの水をスプリンクラーから放射しているんだ・・・・
酵素が蛋白質を分解してくれるから、短時間でゆっくりを溶かしてくれるよ。」
教授が何を言っているのか理解出来ない。
酵素?蛋白質?溶かす?
全てのキーワードがこいしの理解の範疇を超えている。
『所長ぅぅ!何故あなたがここにいるんだぁぁぁ!ぱちゅりー達に何をしたぁぁ!!』
さとりは何故ここに、特餡研究所の所長がいるの分からなかった。
教授と特餡研究所の所長は同一人物だったのである。
殆どのゆっくりはお飾りでしか、仲間を区別をつける事は出来ない。
ましてや相手は人間である。
所長が研究所でウィッグを着用していただけで、まったくの別人と認識してしまう。
さなえとさとりは、胴付き化する事でやっと認識出来たのだ。
『開けてぇぇ!!ぱちゅりぃぃぃ!!』
さとりはプレハブ小屋の扉を必死に引っ張る、だが扉には鍵がかかっていて開ける事は出来無い。
ついには疲労も忘れ、すわこを倒した紅い刃を振るう。
扉は切り裂かれ、1部が崩れ中の様子が見えた。
すでに大半のゆっくりは溶けてしまったのか、ドロドロの液状が床一面に広がっている。
その中で大きな塊が、扉に向かって突っ込んできた。
『あとは・・・まかせた・・・んだ・・・・ぜ』
その塊の衝突によって扉に空いた隙間から、2匹のゆっくりが飛び出してくる。
所々は、溶けかかっているようだが生きてはいた。
扉の向こうに見えた塊は、ドスまりさだった。
2匹を自分のお帽子に匿って、ギリギリまでチャンスを待っていたのである。
ドスまりさは通常のゆっくりより耐水性があるとは言え、流石に酵素による分解は防げなかった。
最後の力を振り絞って扉へ体当たりして、2匹を外に脱出させて力尽きたのである。
密かに惚れていたれいむが先に死んだのを、知る事無く逝けたのは唯一の救いであった。
『むきゅぅぅ!どすぅぅぅ!へんじをしてぇ~』
『どうしてまりさなんかをたすけたのぉ~!』
扉の前で泣き喚く2匹のゆっくり。
ドスまりさによって助けられたのは、ぱちゅりーとスィまりさだった。
あの状況で群れを託す事が出来ると認めれるのは、思いやりがあり判断力もあるこの2匹以外いなかった。
スプリンクラーで酵素水が降り注ぐ中で、咄嗟に2匹を自分の帽子に匿ったまでは良かった。
だが自分も早々と溶け出した事から、ただの水では無い事を知る。
扉を壊そうにもスパーク茸は、前の戦で奪われて持ってはいない。
ただひたすら耐えるしか方法が無かったのである。
扉が壊れて隙間が見えた時には、ドスまりさは考えるより先に身体が動いていた。
体当たりと同時に、帽子ごと2匹を隙間に押し込んだ。
それを最後に身体は崩れていった。
薄れる意識の中で扉向こうに、さとりの姿を見つけて安心して死んでいった。
「おやおや・・・困りますねぇ、あなた達はもう用済みで、廃棄処分しないといけないのですから・・・」
そう言いながら教授は、ぱちゅりーを踏み潰そうと足を上げる。
だが横から突風を受けて転倒してしまう。
さなえが渾身の力を込めて放った風であったが、ゆっくりは吹き飛ばせても人は転倒させるのがやっとである。
「やれやれ・・・・私も詰めが甘いようですねぇ・・・ゆっくり如きに転ばされるとは情けない」
耐えようと思えば堪えれたのであろうが、こいしを抱えていた為にバランスが取れなかったのである。
懐に手を入れるとゆっくりと引き抜いた。
ドォォォォォーーーーーン!!
大きな音が鳴り響く、そしてさなえが吹き飛ばされる。
教授の手には銃が握られていて、そこから硝煙が立ち昇っていた。
『うぐ・・・・・いたいです・・・・・』
さなえは胸を撃たれた、だがゆっくりには心臓は無い。
頭の中にある枢餡を撃たれなければ、すぐに死ぬ事は無いが動けそうも無い。
人であっても対処出来そうもない武器、それがゆっくり如きに使われたのである。
教授は続いてぱちゅりーに照準を定める。
ゆっくりには抗う事の出来ない武器を向けられて、ぱちゅうりーは動けなかった。
『止めてぇぇ!どうしてこんな事をするのですか!ゆっくりも生きているのですよ!』
さとりが教授の足にしがみついて止める。
しかし足を軽く払われただけで、さとりは吹っ飛ばされてしまう。
「生きてる?そんな台詞は、常識の範囲で生きてから語っていただかないとねぇ・・・・」
教授は話ながら引き金を引いた。
銃弾はぱちゅりーを貫くはずだった・・・・・
死を覚悟したぱちゅりーは、目を伏せて恐怖に固まっている。
だが吹き飛んでいったのはスィまりさだった。
『まりさは・・・・・・ふかのう・・・を・・かのうにする・・・ゆ・・・ゆっくり・・・なんだ・・・・』
ぱちゅりーを横から体当たりで庇って、代わりに被弾したのである。
中枢餡を貫かれて、言葉言い切れぬまま事切れるスィまりさ。
『ま!・・・むきゅぅぅぅう・・・・』
ぱちゅりーはそのまま気絶してしまう。
教授にとっては、ぱちゅりーだろうがスィまりさだろうが、順番が違うだけでやる事は同じであった。
再び照準がぱちゅりーに向けられる。
『駄目ぇぇぇ!』
さとりがその間に割って入り、両手を大きく広げて壁となって阻む。
だがその銃弾を止める事は出来ない、教授はさとりの腕を銃で吹き飛ばした。
何の躊躇も無く引き金は引かれる。
片手を失って激しい痛みに襲われながらも、さとりは壁となり阻み続けた。
その様子はまるで武蔵坊弁慶である。
『・・・・きょうじゅ?』
呆然としていたこいしが我に帰る。
抱えられながら教授に問いかけた。
『きょうはこいしやゆっくりのことを、きらいになっちゃったの?
こいしがわるいのならゆっくりあやまるよ?どうしてこんなことするの?
ねぇ・・・・やさしいきょうじゅにもどってよ・・・こんなのいやだよ・・・』
ポロポロと涙を流しながら懇願する。
そんなこいしを教授は、両手に抱えて自分の顔の高さにまで持ってくる。
そうして語りだす。
「こいしは覚えてないようだが、昔こいしが生まれてすぐに私と賭けをしたんだよ。
私はさとりを実験台にしてこいしは処分しようとした、だが真直ぐな目で私を見つめる君を見ていて思ったのだよ。
もし私がこいしを好きになれるなら、ゆっくりの平和のための研究をするのもいいかもしれないと・・・・・
だからまだ生まれて間もない君と賭けをした。
君を好きになる努力をしよう・・・・もし本当にこいしを好きになる事が出来たのであれば、ゆっくりを殺すのは止めようと・・・・
そうして今日まで一緒に暮らしてきた。
だが結果はこの通りだ・・・・私はゆっくりを殺すのに何の罪悪感も感じない。それにほら・・・・」
教授はこいしの右目を抉って握り潰す。
『がぁあ”あ”あ”あ”あ”!!!いだいぃぃぃぃぃ!!!』
こいしは教授に腕の中で、痛みに苦しみ悶える。
「ほら・・君にこんな酷い事をしても欠片程の感傷も感じない・・・・・これが結論だよ。」
そして銃口はさとりへと向けられ放たれた、銃弾は残りの腕をも吹き飛ばす。
これで両手を失なったさとりは、立っているのがやっとの状態であった。
既に気力体力共に尽きていた、なのにさとりは立ち上がる。
自分勝手で欲望に弱いはずのゆっくり。
それがどうして他ゆの為にここまで戦えるのだろうか?教授の中に疑問が湧く。
「なんなんでしょうねぇ・・・・・・ここまでしつこいと逆に興味が湧きますよ。実験体として回収しておきま・・・・・」
ブウォォォォォォォォーーーーーーーーー
さとりに手を伸ばした刹那、教授とさとりは黒い霧に包まれて見えなくなってしまう。
視界ゼロの状態で教授はさとりの腕を掴んだ。
「え?腕?」
吹き飛ばしたはずの腕がどうしてあるのか疑問に思った時、教授は逆に手を掴まれて引き寄せられる。
その力に思わず地面に膝を着いてしまい、抱えていたこいしを放してしまう。
前を見上げたそこには、暗闇の中で顔らしき物が微かに見えたかと思うと、
紅くその目が光を放ちだす。
『・・・・・そんなに興味がおありなら・・・・・どうぞ体験していって下さい・・・』
さとりの声が頭の中で響くように聞こえる。
声を聞いた瞬間に教授の身体から力が抜けて行く、地面に倒れ起き上がる事が出来なくなった。
やがて身体は軽くなった、だが何か宙に浮いたかの様な違和感を感じる。
暗闇が晴れて視界を取り戻して驚く、やはりさとりは腕を失ったままであった。
だが1番の驚きはさとりの額に蔓が生えていて、そこに自分がぶら下がっている事だった。
前をみると地面に伏している自分が見えた。
何が起こったのか理解出来ないまま、蔓から教授は生まれ落ちる。
何度確認しても、手足の無いゆっくりになっていた。
そして地面に伏していた自分の身体が、ゆっくりと立ち上がっていく。
そして銃口が自分に定められる。
「ま・・・まてぇ!何をするんだ!私を殺す気か!私は・・・・私は・・・・」
引き金は無常にも引かれ、教授は木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
そして教授の身体だったものは、再び地面に倒れ落ち動かなくなってしまった。
さなえやこいしには何が起こったのか分からなかった。
急に暗闇が発生したかと思うと、教授が見知らぬゆっくりを銃で撃ち。
そしてそのまま倒れたようにしか見えなかったのである。
『さとりぃ!さとりってば!ねえへんじをしてよ!』
腕を失いながらも、仁王立ちで佇むさとりの足元でこいしが騒ぐ、だがまったく反応を見せなかった。
さなえが慌てて側に駆け寄る。
『・・・・・・・・・。』
さとりは既に死んでいた。
何がどうなったのかまったく理解出来ない。
やがて前のめりに倒れてしまう。その身体は脆く崩れて辺りに内容物を撒き散らした。
倒れた教授がモゾモゾと動きだす。
「えひゃ~わたしわねぇ~わたしわねぇ~えひゃひゃひゃひゃひゃ~」
だが精神を崩壊してしまい、涙と涎に塗れてただ笑うばかりであった。
3匹は灯台の群れを離れる。
銃声を聞きつけた人によって教授は保護されたが、最後まで精神や記憶を回復する事無く終わった。
さなえの傷はたいした事は無く、ゆっくりの超回復力のお陰ですぐに塞がった。
動けるようになるとさなえは、こいしとぱちゅりーを群れへと連れて帰った。
通常種と憎みあってきた関係を改善する為に、2匹の持つ経験と考え方は必要不可欠だと判断したのである。
これからは通常種のゆっくりの性を理解した上で、関係を構築していかなければならない。
阻害され争う事もあるであろう。
だが同じ生き物なのだから、良好な関係を築く事も可能である。
これから新しいゆっくりの時代が始まろうとしてた・・・・・
終わり
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ようやく終わらせる事が出来ました、ここまでお付き合い頂いて感謝の極みです。
まさかここまでクダクダに進むとは考えもしませんでした。
でも色々と勉強にはなりました、今後活かせていければ良いなと思っております。
誤字・脱字と無茶設定が酷いかもしれませんが勘弁して下さい。
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