ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1182 まりさのものは俺のもの・後
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俺はまりさに無理難題を突きつけた。
しかも、まりさがお菓子を返すならすべてを元に戻すとまで言った。
当然不可能だ。俺は神ではないから、死んだゆっくりを生き返らしたり、まりさの顔を元に戻すこともできない。
あんなのは口約束だ。
そもそも、まりさがおはぎを返すことなど絶対にできない。
だが、まりさは「元に戻す」という言葉に希望を持ったようだ。
しかも、まりさがお菓子を返すならすべてを元に戻すとまで言った。
当然不可能だ。俺は神ではないから、死んだゆっくりを生き返らしたり、まりさの顔を元に戻すこともできない。
あんなのは口約束だ。
そもそも、まりさがおはぎを返すことなど絶対にできない。
だが、まりさは「元に戻す」という言葉に希望を持ったようだ。
「ゆげぇっ! ゆげっ! ゆげぼっ! ゆぼぶぶぶぶぶっ!」
まりさはいきなり奇妙な顔をすると、何と吐き始めた。
「ゆげええええっ! おかしさん! おかしさん! きいておかしさん! はやくでてきて! でてきてよおお!
ゆぼおおっ! どうじでででごないのおおお! ででぎでよおお! まりざのおぐぢがらおがじざんででぎでよおおお!」
ゆぼおおっ! どうじでででごないのおおお! ででぎでよおお! まりざのおぐぢがらおがじざんででぎでよおおお!」
めちゃくちゃなことをしている。
とっくの昔に消化されたおはぎが、今更奇跡のように口から出てくるわけがない。
しかし、まりさとしてはもうこれしか俺を追い払う方法が思いつかないのだろう。
必死に体をぐにゃぐにゃ動かし、腹部に圧力をかけている。
まりさは世にも気色悪い顔をして、口からなおも餡子を吐く。
とっくの昔に消化されたおはぎが、今更奇跡のように口から出てくるわけがない。
しかし、まりさとしてはもうこれしか俺を追い払う方法が思いつかないのだろう。
必死に体をぐにゃぐにゃ動かし、腹部に圧力をかけている。
まりさは世にも気色悪い顔をして、口からなおも餡子を吐く。
「おげええええっ! えおげええええっ! おがしさん! おがじざああああん! いじわるじないでででぎでええええ!
はやぐ! はやぐ! はやぐうううううう!! まりざのおくちにはいったでしょ! だからはやくでてぎでよおおお!」
はやぐ! はやぐ! はやぐうううううう!! まりざのおくちにはいったでしょ! だからはやくでてぎでよおおお!」
吐く度にものすごい苦しみがまりさを襲うらしく、まりさの顔は見る見るうちにひどいものになる。
それでも、口から吐き戻されるのは汚い餡子だけであり、おはぎではない。
それでも、口から吐き戻されるのは汚い餡子だけであり、おはぎではない。
「ないよおお! おかしなんてないよおおお! やだあ! もうやだああ! ゆわああああああん! もうやだよおおお!!」
とうとうまりさはわんわん泣き始めた。
餡子を吐くことで少しは体力を消費したかと思ったが、まだまだ元気いっぱいではないか。
俺がこうまで執拗なのは、こいつが一度も謝らないからだ。
ここまでやったからには、謝るまでやってみたくなる。
……もう、俺の感覚は正常ではなかった。
餡子を吐くことで少しは体力を消費したかと思ったが、まだまだ元気いっぱいではないか。
俺がこうまで執拗なのは、こいつが一度も謝らないからだ。
ここまでやったからには、謝るまでやってみたくなる。
……もう、俺の感覚は正常ではなかった。
「楽しかったよ! もっとやらせてね!」
まりさの口調を意地悪く真似ると、まりさは恨めしそうな目でこちらを見てからまた泣き出す。
俺はまりさの横をすり抜け、用意していたスコップをこいつの家に突っ込んだ。
巣穴はなかなか大きく、スコップが十分入る。
奥行きもそれなりにあり、俺はひざを屈めなければならなかった。
先端が壁に当たり、俺はスコップを使って巣の中にあるものを掻き出した。
俺はまりさの横をすり抜け、用意していたスコップをこいつの家に突っ込んだ。
巣穴はなかなか大きく、スコップが十分入る。
奥行きもそれなりにあり、俺はひざを屈めなければならなかった。
先端が壁に当たり、俺はスコップを使って巣の中にあるものを掻き出した。
「な、なにしてるのおおおおお! にんげんさん! やめてええええええ!」
「やめてください! そこはれいむたちのおうちなんです! だいじなおうちなんですうううう!」
「やめてください! そこはれいむたちのおうちなんです! だいじなおうちなんですうううう!」
親れいむと親まりさが血相を変えて跳ねてきた。
俺は構わず、もう一度スコップを中に突っ込む。
まだまだ中にはいろいろあるようだ。一度で掻き出すことはできない。
俺は二匹を無視し、その後も数回スコップを巣に入れて中身を地上に引きずり出した。
俺は構わず、もう一度スコップを中に突っ込む。
まだまだ中にはいろいろあるようだ。一度で掻き出すことはできない。
俺は二匹を無視し、その後も数回スコップを巣に入れて中身を地上に引きずり出した。
「あああ……ひどいよお………まりさたちのおふとんが……おさらが……ひどいよお……にんげんさんひどいよお……」
「どうして……どうしてこんなことするのお………れいむたち……にんげんさんにめいわくかけないようにしてきたのに…………」
「どうして……どうしてこんなことするのお………れいむたち……にんげんさんにめいわくかけないようにしてきたのに…………」
ようやく巣穴を空っぽにし、俺は一息ついて戦利品を眺めた。
布団、皿、と親まりさが呟いていたが、確かにそれらしきものが巣から出てきた。
鳥の羽毛と藁を丁寧に組み合わせた籠のようなものが、恐らくベッドだろう。
ゆっくりが作ったものにしては、信じがたいほど精巧な品だ。
皿は葉を折って作ってある。これも丁寧に作ってある。
布団、皿、と親まりさが呟いていたが、確かにそれらしきものが巣から出てきた。
鳥の羽毛と藁を丁寧に組み合わせた籠のようなものが、恐らくベッドだろう。
ゆっくりが作ったものにしては、信じがたいほど精巧な品だ。
皿は葉を折って作ってある。これも丁寧に作ってある。
それ以外のものもたくさんある。
平たく磨かれた石は、多分テーブルだ。ここに皿や食事を並べるのだろう。
乾燥した虫やドライフルーツ、野草の類は保存食で間違いない。
それ以外にはセミの抜け殻、ビールの王冠、ビー玉や壊れた懐中時計まで出てきた。
平たく磨かれた石は、多分テーブルだ。ここに皿や食事を並べるのだろう。
乾燥した虫やドライフルーツ、野草の類は保存食で間違いない。
それ以外にはセミの抜け殻、ビールの王冠、ビー玉や壊れた懐中時計まで出てきた。
「やめてええ! それまりさの! みんなの! みんなのごはんだよ! みんなでむーしゃむーしゃしたくてあつめたんだよ!」
俺のしたことにようやく気づいて、まりさがまたうるさくわめき始めた。
つくづく、このまりさのスタミナには驚かされる。
つくづく、このまりさのスタミナには驚かされる。
「まりさのたからもの! だいじなだいじなたからものなの! さわらないで! いっしょうけんめいあつめたの!
まりさのだよ! まりさのだからね! とらないでね! かってにまりさのたからものをおにいさんのものにしないで!!」
まりさのだよ! まりさのだからね! とらないでね! かってにまりさのたからものをおにいさんのものにしないで!!」
騒ぐまりさの声を俺は聞いたが、だからといって譲歩する理由はない。
「何を言ってるんだ。まりさだって、勝手に俺のものを自分のものにしたじゃないか。忘れたわけじゃないだろ。
だから、俺だって勝手に君のものを自分のものにするよ。勝手に、全部燃やしてあげるよ」
だから、俺だって勝手に君のものを自分のものにするよ。勝手に、全部燃やしてあげるよ」
俺は懐からマッチ箱を取り出し、マッチを擦るとまりさたちの食事と家財と宝物の山に投げた。
マッチは弧を描いて飛び、丁度あの素晴らしい出来のベッドに落ちた。
乾燥した草と羽毛だ。これ以上はない可燃性の素材である。
マッチは弧を描いて飛び、丁度あの素晴らしい出来のベッドに落ちた。
乾燥した草と羽毛だ。これ以上はない可燃性の素材である。
「やめてえええええええええええ!! まりさのだいじなたからものおおおおおおおおお!!」
「やめてえええ! やめてくださいいい! おねがいですからあああ!」
「あああああああ! もやさないで! もやさないでええええ!」
「やめてえええ! やめてくださいいい! おねがいですからあああ!」
「あああああああ! もやさないで! もやさないでええええ!」
一瞬で火に包まれたベッド。
さらに火勢が強まるのを見た三匹は、いっせいに飛びかかった。
点火した俺ではなく、今まさに火によって失われようとしている大事なもの目がけてだ。
さらに火勢が強まるのを見た三匹は、いっせいに飛びかかった。
点火した俺ではなく、今まさに火によって失われようとしている大事なもの目がけてだ。
「危ないよ。火傷したらどうするんだい」
俺はスコップで両親を軽くはじき飛ばした。
「ぶぶべっ!」
「ゆぎゅお!」
「ゆぎゅお!」
そこそこ重量があるはずの二匹は、あっさりと吹っ飛んで木に頭をぶつける。
親まりさと親れいむは殺す必要はない。
むしろ、ここで死んでもらったら困る。
親まりさと親れいむは殺す必要はない。
むしろ、ここで死んでもらったら困る。
「ああ……ゆああ………いっしょうけんめいあつめたごはんが……ごはんがあ………もえちゃうよお…………」
「ゆうう……どうして……ありすにつくってもらったおふとんが……すごくゆっくりしてたのに……ひどいよお……」
「ゆうう……どうして……ありすにつくってもらったおふとんが……すごくゆっくりしてたのに……ひどいよお……」
荒事が苦手なゆっくりだが、この両親は輪をかけて争いが苦手と見える。
人間と自分たちの力の差をはっきり理解できているからか。
両親は一度殴られただけで闘争心がゼロになったらしく、遠巻きに悲しそうに燃える火を見ている。
人間と自分たちの力の差をはっきり理解できているからか。
両親は一度殴られただけで闘争心がゼロになったらしく、遠巻きに悲しそうに燃える火を見ている。
「ゆーしょ! ゆーしょ! きれいないしさん! きれいないしさん! どこなの! ゆっくりしてないででてきてねえ!」
分からないのはまりさだけだ。
まりさは火の恐怖に半泣きになりながらも、まだ燃えていないところに顔を突っ込んだ。
ご飯やベッドには目をもくれず、自分の宝物だけを持ち出すつもりだ。
まりさは火の恐怖に半泣きになりながらも、まだ燃えていないところに顔を突っ込んだ。
ご飯やベッドには目をもくれず、自分の宝物だけを持ち出すつもりだ。
「あぢゅいいいい! あぢゅいよお! いしさんはやくでてきて! どこなの! どこなのおおお!」
舌で掻き分けるものだから、火が触れてまりさは火傷した。
熱さで涙を流しながら、まりさはなおも自分の宝物だけを探す。
熱さで涙を流しながら、まりさはなおも自分の宝物だけを探す。
「あったよ! あったよおおおお! きれいないしさん! ゆっくりでてきてくれてありがとうね!」
まりさは火の中でそれを見つけて、慌てて口の中に放り込んだ。
きれいな石とは、ビー玉のことだ。
落ちていたのを拾って、大事に取っておいたのだろう。
確かに、あの輝きは自然界の中にはない。
きっと、まりさにとって素敵な宝石だったのだろう。
口の中で転がしてつるんとした感触を楽しんだのだろうか。
それとも、光が当たって輝く様子を飽きずに眺めていたのだろうか。
きれいな石とは、ビー玉のことだ。
落ちていたのを拾って、大事に取っておいたのだろう。
確かに、あの輝きは自然界の中にはない。
きっと、まりさにとって素敵な宝石だったのだろう。
口の中で転がしてつるんとした感触を楽しんだのだろうか。
それとも、光が当たって輝く様子を飽きずに眺めていたのだろうか。
「きれいないしさん! よかったね! まりさのだいじなたからものだよ! ぜったいになくさないからね!」
燃える家財と食事に背を向け、まりさは口からプッッとビー玉を吐き出した。
炎できらきら輝くそれを、まりさはうっとりとした顔で見つめている。
舌でつんつんとつついてみたり、ニコニコ笑って頬をくっつけてみたり、こいつの愛着は並々ならぬものだ。
炎できらきら輝くそれを、まりさはうっとりとした顔で見つめている。
舌でつんつんとつついてみたり、ニコニコ笑って頬をくっつけてみたり、こいつの愛着は並々ならぬものだ。
「ずるいよ、まりさ。半分ちょうだいね」
俺は、スコップを振り上げるとまりさの目の前に全力で振り下ろした。
狙いはビー玉だ。
狙いはビー玉だ。
「ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ゙っ゙っ゙!!」
「ごめんごめん。半分にするつもりだったけど、壊しちゃったよ。別にいいよね」
「ごめんごめん。半分にするつもりだったけど、壊しちゃったよ。別にいいよね」
スコップは見事ビー玉に命中し、まりさの目の前でまりさの宝物はこっぱみじんに砕けた。
ガラスの破片が周囲に散弾のように飛び散る。
まりさは最初呆然としていたが、後に残った残骸を見て少しずつ理解したようだ。
大事な宝物は、なくなってしまった。
もう二度と、見ることも触ることもできない。
取り返すこともできない。
ばらばらに砕けてしまったのだから。
ガラスの破片が周囲に散弾のように飛び散る。
まりさは最初呆然としていたが、後に残った残骸を見て少しずつ理解したようだ。
大事な宝物は、なくなってしまった。
もう二度と、見ることも触ることもできない。
取り返すこともできない。
ばらばらに砕けてしまったのだから。
「ゆっ!! ゆうっ!! ゆぅえええええええええええん! ばびざのおおおおお! ばびぢゃのだびじなだがらぼのおおおおおお!!
ひどいよおおおおおおお! ひどいよおおおおおおお! がえじでええ! ばりざのだがらものがえじでええええええ!!」
ひどいよおおおおおおお! ひどいよおおおおおおお! がえじでええ! ばりざのだがらものがえじでええええええ!!」
顔中を口にして、涙を滝のように流しまりさは号泣した。
その泣き方は、もしかすると自分の片目を失った時よりひどいかもしれない。
あの時は、肉体的な苦痛と恐怖の方が大きかった。
今回は、純粋に精神的な苦痛だ。
大事な宝物を、目の前で粉砕されたのだ。
その泣き方は、もしかすると自分の片目を失った時よりひどいかもしれない。
あの時は、肉体的な苦痛と恐怖の方が大きかった。
今回は、純粋に精神的な苦痛だ。
大事な宝物を、目の前で粉砕されたのだ。
「こんな家に住んでいてまりさはずるいね。だから、これももらうよ」
俺はそろそろ灰になりつつある、かつての家財と食事と宝物をスコップですくい上げた。
勢いを付けて、それらを家の中に放り込んでいく。
勢いを付けて、それらを家の中に放り込んでいく。
「やめてえええ! そんなことしたら! おうちが! まりさのおうちがなくなっちゃうよおお!」
「やめてください! やめてください! どうしてこんなことするの! どうしてええええ!」
「やめてください! やめてください! どうしてこんなことするの! どうしてええええ!」
再び両親が騒ぎ出す。
「ゆええええええええん! ゆあああああん! まりさのいしさん! いしさああああん! かえってきてよおおお!
もとにもどってよおおおおお! おねがいだよおおお! まりさのいしさん! いしさあああん! だいじないしさあああん!」
もとにもどってよおおおおお! おねがいだよおおお! まりさのいしさん! いしさあああん! だいじないしさあああん!」
対するまりさは、のんきにビー玉の破片を集めては泣いているだけだ。
あれでは、好きこのんでビー玉がなくなった悲しみを深めているだけだが。
破片を集めれば集めるほど、もう宝物が修復不可能であるという現実を突きつけられる。
そんなことも、まりさは分からないらしい。
あれでは、好きこのんでビー玉がなくなった悲しみを深めているだけだが。
破片を集めれば集めるほど、もう宝物が修復不可能であるという現実を突きつけられる。
そんなことも、まりさは分からないらしい。
燃えかすを全部放り込んでも、まだ巣穴は塞がらない。
少し肉体労働になるが、ここまで来たら乗りかかった船だ。
とことんまでやってやろうじゃないか。
俺は悪ノリに近い勢いで、スコップを地面に突き立てた。
土をすくっては、どんどん巣穴にぶち込んでいく。
少し肉体労働になるが、ここまで来たら乗りかかった船だ。
とことんまでやってやろうじゃないか。
俺は悪ノリに近い勢いで、スコップを地面に突き立てた。
土をすくっては、どんどん巣穴にぶち込んでいく。
しばらく、すすり泣く両親と泣きわめくまりさの声を聞きながら黙々と作業を進めた。
結果がこれだ。
結果がこれだ。
「おうちが! まりさのおうち! おうちいいいいい! ないよ! なくなっちゃったよおおお!」
「ないよおお! なにもない! おうちも! ごはんも! れいむたちなにもなくなっちゃったあああ!」
「ゆえええん! ゆええん! まりさのおうちいいい! ゆっくりしてたのに! いっぱいむーしゃむーしゃしたのに!
ないよおお! おうちがないよおお! おにいさんひどいよおお! まりさのおうちかえして! かえしてよおお!」
「ないよおお! なにもない! おうちも! ごはんも! れいむたちなにもなくなっちゃったあああ!」
「ゆえええん! ゆええん! まりさのおうちいいい! ゆっくりしてたのに! いっぱいむーしゃむーしゃしたのに!
ないよおお! おうちがないよおお! おにいさんひどいよおお! まりさのおうちかえして! かえしてよおお!」
大木の根元には、穴などもはや空いていない。
俺はまりさたちの家を完全に住めないようにしてやった。
かつてのお家には、家財と食事と宝物の燃えかす、それにチビれいむとチビまりさの死体が埋まっている。
もう一度同じ場所に巣を作ろうとするならば、変わり果てたチビたちの死体を掘り起こすことになるだろう。
俺はそのことを丁寧に説明してやると、三匹はそろって涙を流した。
俺はまりさたちの家を完全に住めないようにしてやった。
かつてのお家には、家財と食事と宝物の燃えかす、それにチビれいむとチビまりさの死体が埋まっている。
もう一度同じ場所に巣を作ろうとするならば、変わり果てたチビたちの死体を掘り起こすことになるだろう。
俺はそのことを丁寧に説明してやると、三匹はそろって涙を流した。
さて、これからが少々厄介だ。
とことんまでやってやる、とは思っているが、面倒なことになるだろう。
俺がまりさに、友達がどこに住んでいるのか聞こうとした。
とことんまでやってやる、とは思っているが、面倒なことになるだろう。
俺がまりさに、友達がどこに住んでいるのか聞こうとした。
「な、なんなのこれえええええ! まりさ! どうしたのおおお!?」
「まりさ! なんでないてるんだぜ! それにまりさのおとうさんとおかあさんも!」
「まりさのおうちがなくなってるわ! どういうことなの?」
「み…みんな……みんなああああああ! ゆわあああああん! まりさこわかったよおおおお!!」
「まりさ! なんでないてるんだぜ! それにまりさのおとうさんとおかあさんも!」
「まりさのおうちがなくなってるわ! どういうことなの?」
「み…みんな……みんなああああああ! ゆわあああああん! まりさこわかったよおおおお!!」
俺が振り向くと、そこにはまりさとほぼ同じサイズのゆっくりが三匹そろっていた。
れいむ、まりさ、ありすという顔ぶれだ。明らかに、まりさの言っていた友達だろう。
遊びに誘ってきたのか、それともうるさくて不審に思って出てきたのか。
鴨が葱を背負ってきた。
まりさにとっては不幸だが、俺にとっては棚からぼた餅だ。
れいむ、まりさ、ありすという顔ぶれだ。明らかに、まりさの言っていた友達だろう。
遊びに誘ってきたのか、それともうるさくて不審に思って出てきたのか。
鴨が葱を背負ってきた。
まりさにとっては不幸だが、俺にとっては棚からぼた餅だ。
「みんなああ! おにいさんが! にんげんさんが! まりさをいじめるんだよおおおおお! ひどいよおおお!
いもうとをころしちゃったよおおお! おうちも! ごはんも! まりさのたからものも! ぜんぶおにいさんがああああ!
ひどいよおおお! まりさなにもわるいことしてないのに! おにいさんのおかしたべたかっただけなのにいいいい!」
いもうとをころしちゃったよおおお! おうちも! ごはんも! まりさのたからものも! ぜんぶおにいさんがああああ!
ひどいよおおお! まりさなにもわるいことしてないのに! おにいさんのおかしたべたかっただけなのにいいいい!」
こいつは妹たちが俺に惨殺されたことに、まったく懲りていないらしい。
今度は何と、自分の友達に泣きついた。
状況が分かっているのは、こいつの両親だけだ。
今度は何と、自分の友達に泣きついた。
状況が分かっているのは、こいつの両親だけだ。
「おちびちゃんたち! ここはあぶないよ! かえりなさい! はやくおうちにかえって!」
「れいむたちはだいじょうぶだからね! ね? はやくかえって! あぶないからあああ!」
「やだよお! かえっちゃやだああ! まりさをひとりにしないで! しないでよおおお!」
「れいむたちはだいじょうぶだからね! ね? はやくかえって! あぶないからあああ!」
「やだよお! かえっちゃやだああ! まりさをひとりにしないで! しないでよおおお!」
真っ青な顔で、しきりに三匹を追い払おうとする親れいむと親まりさ。
しかし、親の必死の説得も分からず、まりさはめそめそ泣きながら友達にすがりつく。
友達を盾にするつもりなのか。
人間とゆっくりの力の差が、妹たちが死んでも分からないのか。
しかし、親の必死の説得も分からず、まりさはめそめそ泣きながら友達にすがりつく。
友達を盾にするつもりなのか。
人間とゆっくりの力の差が、妹たちが死んでも分からないのか。
「わかったぜ! あんしんするんだぜ! まりさがまりさをいじめるにんげんさんをこらしめてやるんだぜ!」
「まりさだけじゃないわ! ありすもいっしょよ! いっしょにいなかもののにんげんさんをおいはらいましょう!」
「おいはらうだけじゃだめだよ! まりさをいじめたわるいにんげんさんだよ! ちゃんとあやまってもらうからね!」
「だめだよおおおお! やめて! にんげんさんにかなうわけないよおおおお!」
「かえって! かえってよおおおお! みんなしんじゃうよおおおおおお!」
「みんなあああああ! まりさうれしいよおおおお! たすけてくれてありがとう! ほんとうにありがとうね!」
「まりさだけじゃないわ! ありすもいっしょよ! いっしょにいなかもののにんげんさんをおいはらいましょう!」
「おいはらうだけじゃだめだよ! まりさをいじめたわるいにんげんさんだよ! ちゃんとあやまってもらうからね!」
「だめだよおおおお! やめて! にんげんさんにかなうわけないよおおおお!」
「かえって! かえってよおおおお! みんなしんじゃうよおおおおおお!」
「みんなあああああ! まりさうれしいよおおおお! たすけてくれてありがとう! ほんとうにありがとうね!」
俺を懲らしめてやると息巻くまりさの友達。
この上さらに死人を増やされてはたまらないと叫ぶ親れいむと親まりさ。
そして、さらなる捨て駒を手に入れて大喜びのまりさ。
たぶん、こいつは次々と襲いかかる不幸に頭が付いていかないのだろう。
どうすれば事態が好転するか考えるのではなく、ただ我が身の不幸を嘆くだけ。
だから、自分が事態をさらに悪化させていることに気づかない。
この上さらに死人を増やされてはたまらないと叫ぶ親れいむと親まりさ。
そして、さらなる捨て駒を手に入れて大喜びのまりさ。
たぶん、こいつは次々と襲いかかる不幸に頭が付いていかないのだろう。
どうすれば事態が好転するか考えるのではなく、ただ我が身の不幸を嘆くだけ。
だから、自分が事態をさらに悪化させていることに気づかない。
「ゆっ! ゆっ! にんげんさん! どうだぜ! まりさのたいあたりは! いたいのぜ? くるしいのぜ?」
一番槍はまりさだった。
気合いを入れて、まりさは俺の足に体当たりを始める。
先程のチビたちの体当たりに比べれば、かろうじて威力がある。
気合いを入れて、まりさは俺の足に体当たりを始める。
先程のチビたちの体当たりに比べれば、かろうじて威力がある。
「まりさにつづくわ! ゆっ! ゆっ! ゆーっ! どう? にんげんさん! ありすのたいあたりはいたいでしょ!」
「れいむもやるよ! ゆっくりーっ! がんばろうね! にんげんさんはくるしんでるよ! いたがってるよ!」
「そうだぜ! ゆっ! まりさたちの! ゆっ! さいきょうのこうげきに! ゆっ! にんげんさんはいちころだぜ!」
「れいむもやるよ! ゆっくりーっ! がんばろうね! にんげんさんはくるしんでるよ! いたがってるよ!」
「そうだぜ! ゆっ! まりさたちの! ゆっ! さいきょうのこうげきに! ゆっ! にんげんさんはいちころだぜ!」
ぽむぽむとコミカルな効果音と共に、三匹は体当たりを繰り返す。
しかし、こいつらはいったい何を言っているんだ?
俺が苦しんでる? 痛がってる? いちころ?
どう見ても、俺は棒立ちに突っ立って、ダメージらしいダメージなど受けてないのに。
こいつらは、自分の空想を本当だと思い込んでいるのだろうか。
しかし、こいつらはいったい何を言っているんだ?
俺が苦しんでる? 痛がってる? いちころ?
どう見ても、俺は棒立ちに突っ立って、ダメージらしいダメージなど受けてないのに。
こいつらは、自分の空想を本当だと思い込んでいるのだろうか。
「がんばって! みんながんばって! おにいさんをやっつけて! まりさおうえんするよ! ゆっゆっゆ~♪ ゆゆゆ~♪
みんながんばって~♪ ゆっくりがんばって~♪ ゆっくりゆっくり~♪ にんげんさんなんかにまけないぞ~♪」
みんながんばって~♪ ゆっくりがんばって~♪ ゆっくりゆっくり~♪ にんげんさんなんかにまけないぞ~♪」
肝心のまりさは、友のために健気に奮闘する三匹の後ろで、即席の応援歌を歌っているだけだ。
自分も攻撃に加わろうともしない。
ぴょんぴょんと跳ねているこいつの顔には、悲壮感など何もなかった。
もうこれで勝負は決まった、と信じて疑わない。
自分も攻撃に加わろうともしない。
ぴょんぴょんと跳ねているこいつの顔には、悲壮感など何もなかった。
もうこれで勝負は決まった、と信じて疑わない。
「おにいさん! もうわかったよね! まりさたちはつよいんだよ! わかったらはやくぜんぶもとにもどしてね!」
「まりさ、そんなことどうでもいいからさ。この友達、全員俺がもらうからね」
「まりさ、そんなことどうでもいいからさ。この友達、全員俺がもらうからね」
俺はスコップを振り上げた。
両親の方を横目で見ると、二匹ともぎゅっと目をつぶっていた。
いい選択だ。
両親の方を横目で見ると、二匹ともぎゅっと目をつぶっていた。
いい選択だ。
「しぶといわね! いなかもののくせに! ありすのほんきがみたぶびびぶっ!!」
振り下ろしたスコップは、ありすの正中線に突き刺さっていた。
ざっくりと刺さったそれは、きれいにありすを真っ二つにしている。
ざっくりと刺さったそれは、きれいにありすを真っ二つにしている。
「ゆ?……ゆ?……ゆっ?……ゆ゙! ゆ゙! ゆ゙ゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔ!!」
ありすは目を白黒していたが、すぐに自分の体にスコップが突き刺さっていることが分かった。
体を切り裂く激痛に、ありすは跳ね回りたいのを必死で我慢している。
「とって! これとって! おねがい!」と目で訴えている。
俺はすぐに望み通りにしてやった。
体を切り裂く激痛に、ありすは跳ね回りたいのを必死で我慢している。
「とって! これとって! おねがい!」と目で訴えている。
俺はすぐに望み通りにしてやった。
スコップを引き抜く。
同時に、ありすの体は左右に分かれ、汚らしくカスタードクリームを垂れ流して地面に転がった。
ありすは初めて見る自分の断面を、見ているこちらもぞっとするような顔で見ていた。
口を何度かぱくぱくと動かし、最後にカスタードが混じった涙を流してから、ありすは息絶えた。
同時に、ありすの体は左右に分かれ、汚らしくカスタードクリームを垂れ流して地面に転がった。
ありすは初めて見る自分の断面を、見ているこちらもぞっとするような顔で見ていた。
口を何度かぱくぱくと動かし、最後にカスタードが混じった涙を流してから、ありすは息絶えた。
「あ! あでぃずうううううううう!!」
「ありぢゅがあああああああ!!」
「ゆっくり~♪ あ? え? ゆ? あ、ありすううううううう!?」
「ありぢゅがあああああああ!!」
「ゆっくり~♪ あ? え? ゆ? あ、ありすううううううう!?」
まずは脇にいたまりさとれいむが、そして最後にへたくそな歌を歌っていたまりさが友の死に絶叫した。
こいつらにとってまさかの出来事に、どいつも動きが停止する。
れいむの立ち直りが一番早かった。
この中で、もしかすると一番賢かったのかもしれない。
こいつらにとってまさかの出来事に、どいつも動きが停止する。
れいむの立ち直りが一番早かった。
この中で、もしかすると一番賢かったのかもしれない。
「ゆっくりしないでにげるよおおおおお! おうちにかえるううううう!」
まだ恐怖でわめいているまりさ二匹をあっさり見捨て、れいむは背を向けて跳ねようとした。
敵前逃亡か。
しかし、ゆっくりとしては賢明な行動になるだろう。
結果は変わらないのは仕方ないが。
敵前逃亡か。
しかし、ゆっくりとしては賢明な行動になるだろう。
結果は変わらないのは仕方ないが。
「ばびゅゔぇ゙っ゙っ゙!」
体を折り曲げ、跳ねるための力を溜めている無防備な背中に、俺はスコップの平たい部分を振り下ろした。
上から叩きつける鈍器の一撃に、れいむはドラ焼きと見間違えるほどに平たく潰れる。
上から叩きつける鈍器の一撃に、れいむはドラ焼きと見間違えるほどに平たく潰れる。
「ばぶっ! ぶぶばぅ! ばぎひっ!」
口と尻から餡子を吹き出してのたうつれいむに、俺は二度、三度、四度とスコップを叩きつける。
その度に、れいむは口から餡子を吹き、それは硬直するまりさの顔にかかった。
顔はこちらから見えないが、きっとれいむの顔は苦痛でぐちゃぐちゃだろう。
その度に、れいむは口から餡子を吹き、それは硬直するまりさの顔にかかった。
顔はこちらから見えないが、きっとれいむの顔は苦痛でぐちゃぐちゃだろう。
「ゆばっ……ばゆっ………だず……げ……で……びぶっ……ばり……ざ……だずげ……で…よ……」
もう呻くだけになったれいむに、俺はとどめのスコップを食らわした。
「ばっぼぉいいっ!」
れいむの体から餡子が出尽くし、小さく震えてから動かなくなった。
最後は、勇ましくも俺に一番最初に体当たりしたまりさだ。
まりさはすっかり怯えてしまい、足元にしーしーの水たまりを作って動けないでいる。
俺が微笑んでやると、まりさは露骨にこびへつらった顔をした。
最後は、勇ましくも俺に一番最初に体当たりしたまりさだ。
まりさはすっかり怯えてしまい、足元にしーしーの水たまりを作って動けないでいる。
俺が微笑んでやると、まりさは露骨にこびへつらった顔をした。
「にんげんさん! まりさはたすけるんだぜ! まりさはわるくないんだぜ! まりさはこんなことほんとはしたくなかったんだぜ!」
何とかして殺さないでもらおうと、まりさはべらべらと喋り始めた。
命乞いは悪くないが、どうせするなら言葉をもっと選んで欲しいものだ。
命乞いは悪くないが、どうせするなら言葉をもっと選んで欲しいものだ。
「まりさをころすなら、あっちのまりさにするんだぜ! あっちのまりさが、ぜんぶわるいんだぜ!」
「まりさ? まりさああ? どうして? どうしてそんなこというの? ひどいよおおお!?」
「まりさ? まりさああ? どうして? どうしてそんなこというの? ひどいよおおお!?」
まりさは俺の方に寝返るつもりだ。
にやにや笑いながら、俺にまりさを殺すよう言ってくる。
当然、友にそんなことを言われるとは思っていなかったまりさは目を剥いて驚いている。
にやにや笑いながら、俺にまりさを殺すよう言ってくる。
当然、友にそんなことを言われるとは思っていなかったまりさは目を剥いて驚いている。
「ともだちでしょ! ともだちだよねえ! なんで? なんでそんなこというの? まりさととおともだちでしょおおお!?」
「うるさいんだぜ! さっさとそのきたないくちをとじるんだぜ! このげす! くずゆっくり!」
「ゆ……ゆええええええん! ひどいよおおお! まりさのこと、おともだちだとおもってたのにいいいい!!」
「まりさはともだちだとおもったことなんかいちどもないんだぜ! おまえなんかはやくころされるといいぜ!」
「うるさいんだぜ! さっさとそのきたないくちをとじるんだぜ! このげす! くずゆっくり!」
「ゆ……ゆええええええん! ひどいよおおお! まりさのこと、おともだちだとおもってたのにいいいい!!」
「まりさはともだちだとおもったことなんかいちどもないんだぜ! おまえなんかはやくころされるといいぜ!」
こうすれば、俺に殺されないと思っているのだろう。
まりさは口汚く向こうのまりさを罵る。
向こうのまりさはまだ状況が分からず、突然の友の裏切りに涙を流してわめくだけだ。
俺はスコップを振り上げた。
まりさは口汚く向こうのまりさを罵る。
向こうのまりさはまだ状況が分からず、突然の友の裏切りに涙を流してわめくだけだ。
俺はスコップを振り上げた。
「やっ! やだあっ! やめるんだぜ! やめるんだぜ! やだあ! やああああ! やぎゃげっ!」
首をぶんぶんと左右に振るまりさの顔に、スコップの先端を浅く刺す。
片方の目が潰れ、顔が半分陥没する。
片方の目が潰れ、顔が半分陥没する。
「びぎゃ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙! い゙ぢゃい゙! い゙ぢゃい゙い゙い゙い゙! あっ! やべでぇ! ぼうやべでえ! ぎゃげびゅっ!」
もう一度だ。
反対側の目が潰れ、顔が完全に歪む。
俺は黙々と同じことを繰り返した。
饅頭が潰れないように慎重に、少しずつまりさの顔と体を潰していく。
反対側の目が潰れ、顔が完全に歪む。
俺は黙々と同じことを繰り返した。
饅頭が潰れないように慎重に、少しずつまりさの顔と体を潰していく。
「ぎゅげぇっ! ぐぞおっ! おばえのっ! おばえのぜいだああ! おばえのぜいでばりざがじぬっ! ぐぞおおお!
ぎゃぎゅっ! ぎいでるのがあああ! おばえぼじねえ! ありずもれいぶもっ! おばべのぜいでじんだんだあ! ばりざもっ!
あぎゅうっ! あんごがっ! ばりざのあんごがでぢゃうっ! いやだあっ! じにだぐないっ! じにだぐないいいい!」
ぎゃぎゅっ! ぎいでるのがあああ! おばえぼじねえ! ありずもれいぶもっ! おばべのぜいでじんだんだあ! ばりざもっ!
あぎゅうっ! あんごがっ! ばりざのあんごがでぢゃうっ! いやだあっ! じにだぐないっ! じにだぐないいいい!」
次第にまりさの叫び声は、突っ立って一部始終を見ているだけのまりさに向けられていった。
今では、俺など無視してまりさをひたすら呪っている。
気にせず俺はひたすらまりさを切り刻む。
今では、俺など無視してまりさをひたすら呪っている。
気にせず俺はひたすらまりさを切り刻む。
「おばえのぜいだ……おばえの……ぜいだ……おばえが……わるいんだ……ゆ゙ゆ゙っ!……ゆ゙……ゆ゙……」
餡子と皮のミンチになった状態で、まりさはなおもまりさを恨んでいた。
餡子の中からそこだけぐにゃぐにゃと動く舌が、まりさを呪う言葉を吐く。
俺は最後にその舌を真っ二つに切り、まりさを殺した。
これで、こいつの友達も全部もらったことになる。
こいつの友達の「命」をもらったのだが。
餡子の中からそこだけぐにゃぐにゃと動く舌が、まりさを呪う言葉を吐く。
俺は最後にその舌を真っ二つに切り、まりさを殺した。
これで、こいつの友達も全部もらったことになる。
こいつの友達の「命」をもらったのだが。
「やめて……やめてよお………もう……とらないで……まりさのだいじなもの……とらないでよお……」
ようやく、まりさは察したのだろう。
俺によって、まりさの大事なものが一切合切奪い取られたことが。
俺によって、まりさの大事なものが一切合切奪い取られたことが。
もうかわいい妹たちには会えない。
ゆっくりできたお家は土の下だ。
お気に入りの宝物は、目の前で粉々になった。
友達はみんな死んでしまった。
まりさに至っては、死ぬ前に自分を恨んでいた。
そして自分は、片目と髪の毛、それに歯を失った。
全部、俺のものにされて奪われていく。
ゆっくりできたお家は土の下だ。
お気に入りの宝物は、目の前で粉々になった。
友達はみんな死んでしまった。
まりさに至っては、死ぬ前に自分を恨んでいた。
そして自分は、片目と髪の毛、それに歯を失った。
全部、俺のものにされて奪われていく。
「親がいるなんてまりさはずるいね。まりさのお父さんとお母さんも俺がもらうよ」
俺は涙をぽろぽろこぼしているまりさから、こいつの両親に顔を向けた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! まりさたちがわるかったです! だからころさないでください!」
「れいむたちがわるいです! あやまります! あやまりますから! ころさないで! ころさないでえええ!」
「………ならば殺さないであげるけど、一つ聞くよ。君たちは誰のもの?」
「おにいざんのでず! ばりざはおにいざんのものでず! ばりざをおにいざんにあげまず!」
「れいぶもおにいざんのものでず! れいむのぜんぶ、おにいざんがもらっでぐだざい!」
「うん。その通りだ。君たちのものは全部、俺のものなんだよ。分かったかい?」
「はい! はいいいいい! ゆっぐりりがいじまじだああああ!」
「わかりまじだ! わがりまじだがら! おねがいだがらごろざないでえええええ!!」
「れいむたちがわるいです! あやまります! あやまりますから! ころさないで! ころさないでえええ!」
「………ならば殺さないであげるけど、一つ聞くよ。君たちは誰のもの?」
「おにいざんのでず! ばりざはおにいざんのものでず! ばりざをおにいざんにあげまず!」
「れいぶもおにいざんのものでず! れいむのぜんぶ、おにいざんがもらっでぐだざい!」
「うん。その通りだ。君たちのものは全部、俺のものなんだよ。分かったかい?」
「はい! はいいいいい! ゆっぐりりがいじまじだああああ!」
「わかりまじだ! わがりまじだがら! おねがいだがらごろざないでえええええ!!」
跳びはねながら土下座する両親。
この二匹を殺す必要はない。
なぜなら、こいつらははっきりまりさの前で言ったのだ。
自分たちは、俺のものだと。
自分たちのものはすべて、俺のものだと。
それはつまり、こういうことだ。
この二匹を殺す必要はない。
なぜなら、こいつらははっきりまりさの前で言ったのだ。
自分たちは、俺のものだと。
自分たちのものはすべて、俺のものだと。
それはつまり、こういうことだ。
「まりさ、お父さんとお母さんは、もうまりさのお父さんとお母さんじゃないんだよ。分かったか?」
「ゆっ? えっ? どうして? ねえどうして?」
「ゆっ? えっ? どうして? ねえどうして?」
まりさは目を丸くした。
嘘、とすぐ断じるつもりだっただろう。
だが、悲しそうに目を逸らす両親を見て、まりさは震え始めた。
最後の支えが、崩れようとしている。
嘘、とすぐ断じるつもりだっただろう。
だが、悲しそうに目を逸らす両親を見て、まりさは震え始めた。
最後の支えが、崩れようとしている。
「そんなことないよね? まりさはおとうさんのまりさだよ。おかあさんのまりさだよ。そうだよね! そうだよね!
ねえ? なんでそうだっていってくれないの? ねえなんで? なんでなんでなんでええ? そうだっていってよおおおおお!!」
「ごめんね……ごめんね……ごめんねおちびちゃん…………」
「ごめんね……ほんとうにごめんね……もうだめなんだよ……おちびちゃん」
「やだああああ! そんなこといわないで! まりさだよ! かわいいまりさだよ! まりさはここにいるのにいい!
まりさこれからどうすればいいの? まりさひとりぼっちだよ! そんなのやだよ! やだおおおおおおおお!!」
ねえ? なんでそうだっていってくれないの? ねえなんで? なんでなんでなんでええ? そうだっていってよおおおおお!!」
「ごめんね……ごめんね……ごめんねおちびちゃん…………」
「ごめんね……ほんとうにごめんね……もうだめなんだよ……おちびちゃん」
「やだああああ! そんなこといわないで! まりさだよ! かわいいまりさだよ! まりさはここにいるのにいい!
まりさこれからどうすればいいの? まりさひとりぼっちだよ! そんなのやだよ! やだおおおおおおおお!!」
俺は、まりさから親まで奪った。
たとえ家がなくても、妹たちが死んでしまっても、親さえいればまだ救いはある。
悲しい時には慰めてもらえる。すりすりしてもらえる。ぺろぺろしてもらえる。
幼いまりさには、親さえいれば助けになるだろう。
だが、もはやまりさにはそれさえない。
たとえ家がなくても、妹たちが死んでしまっても、親さえいればまだ救いはある。
悲しい時には慰めてもらえる。すりすりしてもらえる。ぺろぺろしてもらえる。
幼いまりさには、親さえいれば助けになるだろう。
だが、もはやまりさにはそれさえない。
「やだよおお! すてないで! すてないでよおおお! まりさいきてるよ! ゆっくりしてるよ! もっとゆっくりしたいよお!
ゆっくりさせて! ゆっくりさせてよお! おとうさんとおかあさんといっしょにゆっくりさせてよおおおお!!」
「悲しむことはないよ、まりさ。だって、君は丸ごと両親のものから俺のものになったんだからね」
ゆっくりさせて! ゆっくりさせてよお! おとうさんとおかあさんといっしょにゆっくりさせてよおおおお!!」
「悲しむことはないよ、まりさ。だって、君は丸ごと両親のものから俺のものになったんだからね」
俺は、現実を受け入れられずに涙をぼろぼろこぼして泣くまりさを片手で持ち上げた。
もう片手で、その辺にあった尖った木の枝をつまむと、まりさの顔に突き刺す。
もう片手で、その辺にあった尖った木の枝をつまむと、まりさの顔に突き刺す。
「いぢゃいいいいいい! いぢゃい! いぢゃいよおおおお! まりさいだいっ! いだいいい!」
「そうだね。痛いだろうね。もう一本刺すよ」
「やめてええええ! いたいよ! すごくいたいよおお! いぢゃいっ! いぢゃいいぢゃいいぢゃいいいい!」
「そうだね。痛いだろうね。もう一本刺すよ」
「やめてええええ! いたいよ! すごくいたいよおお! いぢゃいっ! いぢゃいいぢゃいいぢゃいいいい!」
弾力のある皮を貫いて、鋭い枝がまりさの体を貫く。
経験したことのない痛みに、まりさは必死になって体をよじる。
俺はさらに枝を刺す。
経験したことのない痛みに、まりさは必死になって体をよじる。
俺はさらに枝を刺す。
「いぢゃよおおお! まりさのおかおがいたいよおお! たすけてよお! おとうさああん! おかあさあああん!
まりさいたいよ! すごくいたいよおおおお! たすけて! たすけてえええ! どうしてたすけてくれないの! たすけてよお!」
「見てごらん、まりさ。君がどんなに助けを求めても、お父さんもお母さんも助けに来ないよ。君はもう、両親の子どもじゃないからね」
まりさいたいよ! すごくいたいよおおおお! たすけて! たすけてえええ! どうしてたすけてくれないの! たすけてよお!」
「見てごらん、まりさ。君がどんなに助けを求めても、お父さんもお母さんも助けに来ないよ。君はもう、両親の子どもじゃないからね」
意地悪く俺が言うと、まりさはもはや泣きすぎてふやけた顔で両親の方を向いた。
最後の救いを、一生懸命探しているのだろう。
まりさは、すすり泣きながら親まりさと親れいむにすがりつく。
最後の救いを、一生懸命探しているのだろう。
まりさは、すすり泣きながら親まりさと親れいむにすがりつく。
「おとう……さん……おかあ……さん……。たすけてよ……まりさを……たすけて…………おねがい……たすけてよお……」
「ごめんね…ごめんねおちびちゃあん…………できないの。……おかあさんにはできないよお…………」
「にんげんさんに……まりさたちはかてないよ………。できないよ……ごめんね…ごめんね……」
「ごめんね…ごめんねおちびちゃあん…………できないの。……おかあさんにはできないよお…………」
「にんげんさんに……まりさたちはかてないよ………。できないよ……ごめんね…ごめんね……」
親まりさと親れいむは、まりさの呼びかけに目をそらした。
まりさの助けを求める声を、切って捨てたのだ。
まりさの顔はその瞬間、生きる意欲さえ失った死んだゆっくりの顔のようだった。
まりさの助けを求める声を、切って捨てたのだ。
まりさの顔はその瞬間、生きる意欲さえ失った死んだゆっくりの顔のようだった。
「うそだ……うそだ……うそだああああああああ!! そんなの! そんなのひどいよ! ひどいよおおお!
かえして! おにいさんかえして! まりさにかえして! いもうとも! おともだちも! おうちも! たからものも!
ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶううううううううううう!! かえしてよおおお! まりさにかえして! かえしてえええ!!」
かえして! おにいさんかえして! まりさにかえして! いもうとも! おともだちも! おうちも! たからものも!
ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶううううううううううう!! かえしてよおおお! まりさにかえして! かえしてえええ!!」
何かも奪われたまりさは絶叫する。
信じたくなくて、しかし現実は変化せず、まりさはもう絶望しかない。
絶望で死にたくないから、まりさは俺にすべてを元通りにするよう迫る。
聞くわけがない。
信じたくなくて、しかし現実は変化せず、まりさはもう絶望しかない。
絶望で死にたくないから、まりさは俺にすべてを元通りにするよう迫る。
聞くわけがない。
「返すわけないだろ。まりさのものは全部俺のものなんだから。君と同じように、欲しいって言えばすぐに手に入れられるんだ。
もちろん、君のお帽子もだ。まりさにはもったいないね。こんな帽子をかぶってまりさはずるいよ。俺がもらおう」
もちろん、君のお帽子もだ。まりさにはもったいないね。こんな帽子をかぶってまりさはずるいよ。俺がもらおう」
俺は絶望で顔を歪めたまりさから、最後の大事なものを取り上げた。
こいつの帽子だ。
手に取ると、屋外で生活しているゆっくりにしては汚れていない。
ほつれや染みもない。まりさがとても大事にしていたのが、人間の俺でも分かる。
さぞかし、これを自慢にしていたことだろう。
ぴんと尖った帽子を頭に乗せ、得意そうに庭を跳ねていたまりさの姿を思い出す。
こいつの帽子だ。
手に取ると、屋外で生活しているゆっくりにしては汚れていない。
ほつれや染みもない。まりさがとても大事にしていたのが、人間の俺でも分かる。
さぞかし、これを自慢にしていたことだろう。
ぴんと尖った帽子を頭に乗せ、得意そうに庭を跳ねていたまりさの姿を思い出す。
「まりさのおぼうしいいい! かえして! かえして! すぐかえして!……おとうさん? おかあさん? どうしたの?」
帽子を取られたまりさは案の定わめき始めたが、不意に驚いた顔で向こうを向いた。
まりさと同じ表情をした両親がいる。
まりさと同じ表情をした両親がいる。
「おちび……ちゃん……どうしたの……そのあたま…………」
「ひどいよ……おちびちゃんのかみのけが……ないよ…………」
「ひどいよ……おちびちゃんのかみのけが……ないよ…………」
そこでようやくまりさは気づいたようだ。
自分の頭には、家族や友達に誉めてもらったきれいな金髪がもうないことに。
今やまりさの頭にはまばらに金髪が残っているだけで、帽子がなければただの禿饅頭だ。
中途半端に残っているのが、また無様だ。
自分の頭には、家族や友達に誉めてもらったきれいな金髪がもうないことに。
今やまりさの頭にはまばらに金髪が残っているだけで、帽子がなければただの禿饅頭だ。
中途半端に残っているのが、また無様だ。
「あ……ああ……やだやだやだああああああ! みないで! みないでえええ! まりさをみないで! みないでよおおお!
みないでえええ! まりさのかみのけ! まりさのかみのけないの! ないのみちゃやだああああ! やだああああ!」
みないでえええ! まりさのかみのけ! まりさのかみのけないの! ないのみちゃやだああああ! やだああああ!」
まりさは最も恥ずかしい自分の姿を見られたことで、声が嗄れるほど泣いた。
今日一日で、まりさはこれまで生きていた中で流した涙を上回る量の涙を流したに違いない。
顔をぐしゃぐしゃにして、まりさは無様な自分を見られたことで恥ずかしがる。
きっと、こいつとしてはもう死にたいくらいだろう。
今日一日で、まりさはこれまで生きていた中で流した涙を上回る量の涙を流したに違いない。
顔をぐしゃぐしゃにして、まりさは無様な自分を見られたことで恥ずかしがる。
きっと、こいつとしてはもう死にたいくらいだろう。
「そうか、禿になったからまりさには帽子が必要か」
「そうだよ! おにいさんのせいだよ! ひどいよ! はやくかえして! まりさのすてきなゆっくりしたおぼうしさんかえしてよお!」
「いいよ。返してあげる。ほらっ……」
「そうだよ! おにいさんのせいだよ! ひどいよ! はやくかえして! まりさのすてきなゆっくりしたおぼうしさんかえしてよお!」
「いいよ。返してあげる。ほらっ……」
俺は、帽子をまりさの頭に返してやった。
「あ゙あ゙あ゙っ!!」
頭に帽子を乗っけたまりさの目は、限界まで大きく見開かれていた。
信じられない。信じたくない。
これだけは、どんなことがあっても信じたくなかった。
しかし、現実はまりさの願いとは裏腹に残酷なままだ。
信じられない。信じたくない。
これだけは、どんなことがあっても信じたくなかった。
しかし、現実はまりさの願いとは裏腹に残酷なままだ。
「あ……あ……あ……まりさの……おぼうしさん……すてきなおぼうしさん……おぼうしさんが……おぼうしさんがあぁぁぁぁ……」
まりさの体がガタガタと震え始めた。
涙がぴたりと止まり、代わって全身から冷や汗らしきものが流れ出す。
よく分かるだろう。生まれた時から頭の上にあるものだから、ちょっとした違いでも分かるだろう。
ましてや、帽子の重さが半分になってしまったことぐらい、こいつはすぐに理解できるだろう。
そもそも、俺の手には引き裂いた帽子の半分が握られている。
涙がぴたりと止まり、代わって全身から冷や汗らしきものが流れ出す。
よく分かるだろう。生まれた時から頭の上にあるものだから、ちょっとした違いでも分かるだろう。
ましてや、帽子の重さが半分になってしまったことぐらい、こいつはすぐに理解できるだろう。
そもそも、俺の手には引き裂いた帽子の半分が握られている。
「まりさが独り占めしてずるいから、半分もらったけどね」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! ばびぢゃ゙の゙じゅでぎな゙お゙びょゔぢぢゃんがあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! ばびぢゃ゙の゙じゅでぎな゙お゙びょゔぢぢゃんがあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
無惨にもただの布きれになった帽子を頭に載せ、まりさは今までで一番の絶叫を張り上げた。
その声は極限まで高められた負の感情によって、耳を塞ぎたくなるほど濁っていた。
もう、まりさの精神は限界だった。
その声は極限まで高められた負の感情によって、耳を塞ぎたくなるほど濁っていた。
もう、まりさの精神は限界だった。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! ゆ゙ぎゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! あ゙あ゙あ゙あ゙っ゙!! ゆ゙がぎゃ゙ぐぎゃ゙げぎょ゙ぎょ゙げえ゙え゙え゙え゙え゙え゙!!」
俺の手の中で、まりさはでたらめな声を発しながら、よだれをまき散らし体を捻る。
その目には理性もなければ感情もない。
次々と襲いかかるストレスに、まりさの心は潰れてしまったのだろう。
何も分からず、ただひたすら積もりに積もった苦しみから逃れようと、まりさはわめき散らす。
その目には理性もなければ感情もない。
次々と襲いかかるストレスに、まりさの心は潰れてしまったのだろう。
何も分からず、ただひたすら積もりに積もった苦しみから逃れようと、まりさはわめき散らす。
「それじゃあ、もらっていくよ。まりさの素敵なゆん生は、全部俺のものだ」
「びゃびゃあああ! びゃっびゃあああああ! ゆっびぇえええええ!! ゆっゔぁあああああ!!」
「びゃびゃあああ! びゃっびゃあああああ! ゆっびぇえええええ!! ゆっゔぁあああああ!!」
何を言っても反応しないまりさを俺は手で持ち、森を後にした。
親れいむと親まりさは悲しそうな顔で俺を見ていたが、その場から一歩も動かなかった。
親れいむと親まりさは悲しそうな顔で俺を見ていたが、その場から一歩も動かなかった。
俺は庭に出て、透明な箱に向かった。
庭の隅っこの、一番日当たりが悪い場所にまりさを入れた透明な箱がある。
あれから、俺はこいつを飼っていた。
いや、飼うと言っても飼い主らしいことは何一つしていない。
単に、まりさを閉じ込めていた。
庭の隅っこの、一番日当たりが悪い場所にまりさを入れた透明な箱がある。
あれから、俺はこいつを飼っていた。
いや、飼うと言っても飼い主らしいことは何一つしていない。
単に、まりさを閉じ込めていた。
俺が近づいても、頭に半分になった帽子を乗せたまりさはまだ気づかない。
まりさはうつろな表情で、ずりずりと這っては透明な壁にぽよんとぶつかっている。
ぶつかった衝撃で後ろに転がると、再びずりずりと這って近づいてはぽよんとぶつかる。
いつもの行動だ。最初それを見た時、頭がかゆいのかと思ったがそうではない。
まりさはうつろな表情で、ずりずりと這っては透明な壁にぽよんとぶつかっている。
ぶつかった衝撃で後ろに転がると、再びずりずりと這って近づいてはぽよんとぶつかる。
いつもの行動だ。最初それを見た時、頭がかゆいのかと思ったがそうではない。
「だして…かべさん……まりさをだして………。おうちにかえりたいよ……まりさのおうち……おうちぃ………
だしてよぉ……かべさんいじわるしないでぇ……まりさをだしてよぉ……。おうちにかえって……いっぱいいっぱいゆっくりしたいよぉ……」
だしてよぉ……かべさんいじわるしないでぇ……まりさをだしてよぉ……。おうちにかえって……いっぱいいっぱいゆっくりしたいよぉ……」
呆れたことに、まりさは壁を壊そうとしていたのだ。
あれは加工場で購入した透明な箱だ。ゆっくりの力で壊れるわけがない。
それでも、まりさはあきらめきれないらしく、一日の大部分を無意味な行動に費やしている。
あれは加工場で購入した透明な箱だ。ゆっくりの力で壊れるわけがない。
それでも、まりさはあきらめきれないらしく、一日の大部分を無意味な行動に費やしている。
「どうしてでられないのぉ……。ゆええん……ゆええん……。でたいよお……。おとうさんとおかあさんにあいたいよお……」
やがてスタミナが切れたらしく、まりさは箱の中でめそめそ泣き始めた。
その泣き声には、かつてのようなかん高く耳障りな音量はない。
今にも消え入りそうで、我が身の不幸をただ嘆くだけといった感じだ。
その泣き声には、かつてのようなかん高く耳障りな音量はない。
今にも消え入りそうで、我が身の不幸をただ嘆くだけといった感じだ。
箱の中は俺が定期的に掃除するため、そんなに汚れていない。
隅に小さな皿を置き、トイレとして使わせている。
だが、ほかには何もない。
俺は餌を一日二回入れるだけで、後は何もしていない。
隅に小さな皿を置き、トイレとして使わせている。
だが、ほかには何もない。
俺は餌を一日二回入れるだけで、後は何もしていない。
まりさの一日は涙と共に始まり、涙と共に終わる。
朝、目を覚まして楽しい夢が終わってしまったことを知り、まりさは泣く。
野菜の切れ端や生ゴミを食べながら、家族が誰もいないことでまりさは泣く。
暗い日陰から庭の草花や昆虫を見ながら、自分がそこに行けないゆえにまりさは泣く。
何度も壁に体当たりし、自由になれないことと腫れ上がった顔の痛さでまりさは泣く。
友達と遊んだ記憶を思い返しては、自分がひとりぼっちだという事実でまりさは泣く。
陽が傾き、今日も一日全然ゆっくりできなかったことでまりさは泣く。
温かいベッドも一緒に眠るゆっくりもいないで、冷たい床に一人で寝る寂しさに泣く。
眠れば、恐らく妹と友達が死に、親に捨てられる悪夢を見るのかやはりまりさは泣く。
朝、目を覚まして楽しい夢が終わってしまったことを知り、まりさは泣く。
野菜の切れ端や生ゴミを食べながら、家族が誰もいないことでまりさは泣く。
暗い日陰から庭の草花や昆虫を見ながら、自分がそこに行けないゆえにまりさは泣く。
何度も壁に体当たりし、自由になれないことと腫れ上がった顔の痛さでまりさは泣く。
友達と遊んだ記憶を思い返しては、自分がひとりぼっちだという事実でまりさは泣く。
陽が傾き、今日も一日全然ゆっくりできなかったことでまりさは泣く。
温かいベッドも一緒に眠るゆっくりもいないで、冷たい床に一人で寝る寂しさに泣く。
眠れば、恐らく妹と友達が死に、親に捨てられる悪夢を見るのかやはりまりさは泣く。
四六時中観察しているわけではないが、つくづくまりさはよく泣いている。
泣く理由に事欠かないのは事実だが、この囚人のような生活にちっとも慣れないようだ。
それも無理はない。
目の前には庭が広がっている。
まりさが散歩した、自然の豊かなゆっくりプレイスがすぐ近くにある。
そこに行きたい。花のいい匂いを嗅いで、イモムシなどをお腹いっぱい食べたい。
それが終わったら、群のゆっくりたちの所に行きたい。
お父さんとお母さんともう一度一緒に暮らしたい。
新しい友達を作って、いつか誰かと祝福されながら結婚したい。
泣く理由に事欠かないのは事実だが、この囚人のような生活にちっとも慣れないようだ。
それも無理はない。
目の前には庭が広がっている。
まりさが散歩した、自然の豊かなゆっくりプレイスがすぐ近くにある。
そこに行きたい。花のいい匂いを嗅いで、イモムシなどをお腹いっぱい食べたい。
それが終わったら、群のゆっくりたちの所に行きたい。
お父さんとお母さんともう一度一緒に暮らしたい。
新しい友達を作って、いつか誰かと祝福されながら結婚したい。
まりさの願いは、ゆっくりでなくても分かる。
だが、まりさの願いは叶わない。
今日もこうして、透明な箱の中で手の届かないユートピアを見ているだけだ。
まりさの顔は、かつてのような無邪気で輝いた表情を見せはしない。
いつも、半分死んでいるような、どんよりと暗い空虚な顔しか作らない。
だが、まりさの願いは叶わない。
今日もこうして、透明な箱の中で手の届かないユートピアを見ているだけだ。
まりさの顔は、かつてのような無邪気で輝いた表情を見せはしない。
いつも、半分死んでいるような、どんよりと暗い空虚な顔しか作らない。
俺は透明な箱に近づき、蓋を開けた。
生きる意欲のない目をしたまりさが、俺の方を見る。
生きる意欲のない目をしたまりさが、俺の方を見る。
「おにいさん……。だして。まりさを…ここから……だして。……おねがいだから、だしてよお…………」
語尾は震え、まりさは半分泣いていた。
俺は箱の中に野菜の切れ端を入れ、うんうんが入った皿を新しいものと取り替えて蓋を閉めた。
会話もせず、まるでまりさがいないかのように俺は振る舞う。
俺が背を向けると、まりさの泣き声が聞こえた。
俺は箱の中に野菜の切れ端を入れ、うんうんが入った皿を新しいものと取り替えて蓋を閉めた。
会話もせず、まるでまりさがいないかのように俺は振る舞う。
俺が背を向けると、まりさの泣き声が聞こえた。
「ぐすっ…ゆぐっ……ゆええん………むーしゃむーしゃ…するよ……ふしあわせぇ……ふしあわせぇぇぇ……」
森にいた時では味わえないおいしい野菜を食べていても、まりさは押し寄せる悲しみに疲れ切っていた。
これを、妹たちと一緒に食べられたら。
両親と一緒にむーしゃむーしゃできたら。
友達と一緒に分け合えたら。
今は、まりさはたった一人で食事をしなくてはならない。
寂しがりなゆっくりにとって、それはゆっくりと死んでいくのに等しい状況だろう。
これを、妹たちと一緒に食べられたら。
両親と一緒にむーしゃむーしゃできたら。
友達と一緒に分け合えたら。
今は、まりさはたった一人で食事をしなくてはならない。
寂しがりなゆっくりにとって、それはゆっくりと死んでいくのに等しい状況だろう。
毎日のように、親れいむと親まりさがこいつの様子を見に来た。
俺に何度も頭を下げて「おちびぢゃんをゆるじでぐだざい!」「おぢびぢゃんをがえじでぐだざい!」と頼んでいた。
俺が応じないでいると、その内あきらめたようだ。
俺が餌をやり終えて家に入ると、まりさのいる透明な箱に近づいては壁越しにすりすりしていた。
壁越しにお互いにぺろぺろしていることもあった。
だが、感触は最悪だろう。饅頭皮の柔らかさはなく、あるのは冷たく固い壁だけだ。
俺に何度も頭を下げて「おちびぢゃんをゆるじでぐだざい!」「おぢびぢゃんをがえじでぐだざい!」と頼んでいた。
俺が応じないでいると、その内あきらめたようだ。
俺が餌をやり終えて家に入ると、まりさのいる透明な箱に近づいては壁越しにすりすりしていた。
壁越しにお互いにぺろぺろしていることもあった。
だが、感触は最悪だろう。饅頭皮の柔らかさはなく、あるのは冷たく固い壁だけだ。
まりさはそれでも、両親との面会を心から楽しみにしていた。
たとえ壁越しでも両親に会える。
会話ができる。一緒にいることができる。
両親とまりさは、午前中から夕方になるまで一緒にいることさえあった。
たとえ壁越しでも両親に会える。
会話ができる。一緒にいることができる。
両親とまりさは、午前中から夕方になるまで一緒にいることさえあった。
しかし、徐々に親れいむと親まりさがこいつの元を訪ねることは少なくなっていった。
それに反比例して、二匹の体に傷が増えていった。
俺はその理由が分からなかったが、ついにある日両親は悲愴な顔付きでまりさに言った。
それに反比例して、二匹の体に傷が増えていった。
俺はその理由が分からなかったが、ついにある日両親は悲愴な顔付きでまりさに言った。
「ごめんね……。おちびちゃん、ほんとうにごめんね……。まりさたちは、ひっこすことにしたよ」
「もう……おちびちゃんにはあえないよ。おにいさんをおこらせないで、ゆっくりしていってね」
「もう……おちびちゃんにはあえないよ。おにいさんをおこらせないで、ゆっくりしていってね」
突然の引っ越しだった。
二匹は巣を俺によって潰されてもしばらく森で暮らしていたが、ついに別の森を目指して出ていくことにしたらしい。
まりさの騒ぎ方は尋常ではなかった。
二匹は巣を俺によって潰されてもしばらく森で暮らしていたが、ついに別の森を目指して出ていくことにしたらしい。
まりさの騒ぎ方は尋常ではなかった。
「どうじでええええ! まりざごごにいるよ! どうじでばりざをおいでぐのおおおお!!」
「まりさのおともだちが……しんじゃったでしょ。だから、おともだちのおとうさんとおかあさんがすごくおこってるんだよ」
「こどもがしんだのは、おちびちゃんのせいだっていっておかあさんたちをいじめるんだよ。……もう、れいむはたえられないよ」
「そんな……そんなの……そんなのひどいよおおおおお!! まりさも! まりさもつれてって! おいてかないでえええ!」
「むりだよ。おとうさんたちは、おちびちゃんをたすけられないんだよ。ゆっくりりかいしてね」
「まりさのおともだちが……しんじゃったでしょ。だから、おともだちのおとうさんとおかあさんがすごくおこってるんだよ」
「こどもがしんだのは、おちびちゃんのせいだっていっておかあさんたちをいじめるんだよ。……もう、れいむはたえられないよ」
「そんな……そんなの……そんなのひどいよおおおおお!! まりさも! まりさもつれてって! おいてかないでえええ!」
「むりだよ。おとうさんたちは、おちびちゃんをたすけられないんだよ。ゆっくりりかいしてね」
どうやら、あの時俺が殺したまりさの友達の両親が、まりさを目の仇にしていたようだ。
この所急に増えた二匹の体の傷は、死んだ子どもの両親によるもので間違いないだろう。
まりさは今度こそ両親と会えなくなることが分かり、箱の中でめちゃくちゃに暴れた。
壁に体当たりしながら、まりさは泣き叫ぶ。
この所急に増えた二匹の体の傷は、死んだ子どもの両親によるもので間違いないだろう。
まりさは今度こそ両親と会えなくなることが分かり、箱の中でめちゃくちゃに暴れた。
壁に体当たりしながら、まりさは泣き叫ぶ。
「やだああああ! やだああああ! おとうさん! おかあさん! まりさここにいるよ! ここにいるのにいいいいい!!
いなくなっちゃやだあああ! まりさといっしょにいてよ! すーりすーりしてよ! ぺーろぺーろしてよおおおおお!!」
いなくなっちゃやだあああ! まりさといっしょにいてよ! すーりすーりしてよ! ぺーろぺーろしてよおおおおお!!」
ついに、両親に我慢の限界が訪れた。
俺は、温厚そうな親れいむが怒るのを初めて見た。
俺は、温厚そうな親れいむが怒るのを初めて見た。
「うるさいよ! そうやってじぶんでなにもしないでたよってばかり! れいむのおなかにはあかちゃんがいるんだよ!」
「そうだよ! あかちゃんのためにまりさたちはひっこすってきめたんだよ! そこでずっとひとりでゆっくりしていってね!」
「あああああああ! すてないでええ! すてないで! すてないで! まりさをわすれないでえええ! わすれちゃやだあああ!
まりさかわいそうだよ! ひとりぼっちだよ! どうして! ねえどうして! どうしてまりさをすてるの! ひどいよおおおおお!」
「そうだよ! あかちゃんのためにまりさたちはひっこすってきめたんだよ! そこでずっとひとりでゆっくりしていってね!」
「あああああああ! すてないでええ! すてないで! すてないで! まりさをわすれないでえええ! わすれちゃやだあああ!
まりさかわいそうだよ! ひとりぼっちだよ! どうして! ねえどうして! どうしてまりさをすてるの! ひどいよおおおおお!」
新しい子どもたちのために、安全な場所に引っ越すのか。
そして、新しく子どもができたことで、今いるまりさを優先することがなくなったのか。
二匹は寄り添いながら、振り向きもせずに庭から出て行った。
後に残されたまりさは、その日一日声が嗄れるまでまで泣き続けていた。
そして、新しく子どもができたことで、今いるまりさを優先することがなくなったのか。
二匹は寄り添いながら、振り向きもせずに庭から出て行った。
後に残されたまりさは、その日一日声が嗄れるまでまで泣き続けていた。
次の日から、俺の庭は急に騒がしくなった。
やって来たのは、六匹のゆっくりだ。
明らかに、まりさの友達の両親だと分かる言動をしている。
それはこんなものだ。
やって来たのは、六匹のゆっくりだ。
明らかに、まりさの友達の両親だと分かる言動をしている。
それはこんなものだ。
「じねええ! このぐぞまりざああああ! おぢびじゃんがじんだのに、どうじでおまえだげいぎでるんだ! そくざにじねえええ!」
「ゆええええん! ゆえええええん! やめてよおお! こわいよおお! まりさをおこらないでよおおお!」
「おばえだげは! おばえだげはぜっだいゆるざない! ごろじでやる! ごろじでやるうう! このゆっぐりごろじいい!!」
「ちがうよ! ちがうよおおお! みんなをころしたのはおにいさんだよ! まりさじゃないよおおおお!」
「にんげんざんをおごらぜだのはおばえだろうがあああああああ!! おばえのぜいで! おばえのぜいでみんなじんだんだあああ!」
「ごろず! おばえがぞごがらでだらぜっだいごろじでやる! ごろじで! ごろじで! ゆっぐりゆっぐりごろじでやるがらなああああ!!」
「ゆええええん! ゆえええええん! やめてよおお! こわいよおお! まりさをおこらないでよおおお!」
「おばえだげは! おばえだげはぜっだいゆるざない! ごろじでやる! ごろじでやるうう! このゆっぐりごろじいい!!」
「ちがうよ! ちがうよおおお! みんなをころしたのはおにいさんだよ! まりさじゃないよおおおお!」
「にんげんざんをおごらぜだのはおばえだろうがあああああああ!! おばえのぜいで! おばえのぜいでみんなじんだんだあああ!」
「ごろず! おばえがぞごがらでだらぜっだいごろじでやる! ごろじで! ごろじで! ゆっぐりゆっぐりごろじでやるがらなああああ!!」
六匹のゆっくりは箱を取り囲み、般若の形相で罵声を浴びせ、箱に体当たりを繰り返す。
その怒り方は正気とは思えない。
案外、両親たちは子どもが死んだことで気が触れたのかもしれない。
人間の俺でさえ引くような憎悪を見せつけられ、まりさは箱の中で縮こまる。
その怒り方は正気とは思えない。
案外、両親たちは子どもが死んだことで気が触れたのかもしれない。
人間の俺でさえ引くような憎悪を見せつけられ、まりさは箱の中で縮こまる。
「やだよおおお! そんなのやだああああ! ゆああああん! れいむうう! まりさああああ! ありすうううう!」
「おちびぢゃんだぢのなまえをぎやずぐよぶなああああああ! おばえなんがが! おばえなんががあああああ!」
「おばえなんが! うばれでごなげればよがっだ! じねばよがっだ! じねええ! ざっざのじねえええええええ!!」
「じなないならごろじでやる! おぢびぢゃんのがだぎだ! ごろじでやる! ごろじでやるがらででごいいい!」
「いわないでええええ! れいむおばさん! ありすおばさん! まりさおばさん! まりさをいじめないでえええ!!」
「おちびぢゃんだぢのなまえをぎやずぐよぶなああああああ! おばえなんがが! おばえなんががあああああ!」
「おばえなんが! うばれでごなげればよがっだ! じねばよがっだ! じねええ! ざっざのじねえええええええ!!」
「じなないならごろじでやる! おぢびぢゃんのがだぎだ! ごろじでやる! ごろじでやるがらででごいいい!」
「いわないでええええ! れいむおばさん! ありすおばさん! まりさおばさん! まりさをいじめないでえええ!!」
この上なく醜い寸劇はしばらくの間続いた。
ほぼ日をおかずに六匹はやって来ては、まりさを罵り箱を壊そうとする。
しかし、どれだけやってもまりさを殺せないと分かったのか、しばらく経つと来なくなった。
けれども、まりさの心に刻まれた傷は相当なものだったようだ。
ほぼ日をおかずに六匹はやって来ては、まりさを罵り箱を壊そうとする。
しかし、どれだけやってもまりさを殺せないと分かったのか、しばらく経つと来なくなった。
けれども、まりさの心に刻まれた傷は相当なものだったようだ。
「ゆっくり………ゆっくり。………ゆっくり? ………ゆっくりって……なんだっけ? ……わからないよ……ゆっくり…ゆっくり………」
まりさはだんだん食欲を失い、毎日白痴のような顔で外を眺めているだけになった。
排泄さえもどうでもよくなったらしく、トイレではなくその辺でしーしーやうんうんを垂れ流している。
排泄さえもどうでもよくなったらしく、トイレではなくその辺でしーしーやうんうんを垂れ流している。
「まりさが……まりさがわるいんだ……わるいのはまりさ……わるいまりさ………まりさはわるいこ……どうしてわるいこなんだろ?」
俺は、たとえようもなくうんざりしていた。
俺は駆除でゆっくりは殺すことはしても、痛めつけたところで別段面白くもない人間だ。
一時の怒りにまかせて、ずいぶんと面倒なことをしてしまった。
不思議なことに、まりさの目を潰し、歯を抜き、帽子を破った時、俺は嫌悪感を感じなかった。
まりさの大切なものを壊していくことに、まったく躊躇はなかった。
むしろ、破壊に快感さえ感じていた。
あの時の俺は、異常だったとしか言いようがない。
俺は駆除でゆっくりは殺すことはしても、痛めつけたところで別段面白くもない人間だ。
一時の怒りにまかせて、ずいぶんと面倒なことをしてしまった。
不思議なことに、まりさの目を潰し、歯を抜き、帽子を破った時、俺は嫌悪感を感じなかった。
まりさの大切なものを壊していくことに、まったく躊躇はなかった。
むしろ、破壊に快感さえ感じていた。
あの時の俺は、異常だったとしか言いようがない。
ゆっくりとは、そういう存在なのかもしれない。
俺は常々、なぜこんな危険でもない饅頭がこれほど人間から憎まれ、虐待されているのか分からなかった。
今なら分かる。
些細なことから難癖を付けて、まりさを虐待した今ならよく分かる。
ゆっくりとは、とにかく人間を苛立たせる饅頭なのだ。
俺は常々、なぜこんな危険でもない饅頭がこれほど人間から憎まれ、虐待されているのか分からなかった。
今なら分かる。
些細なことから難癖を付けて、まりさを虐待した今ならよく分かる。
ゆっくりとは、とにかく人間を苛立たせる饅頭なのだ。
俺のものと分かっていながら、菓子を勝手に食べるだけではない。
謝りもせず、もっとよこせと臆面もなく要求する。
しかも、要求が通るまで口うるさくぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。
これほど人間の感情を逆なでする存在には、まりさ以外に出会ったことがない。
謝りもせず、もっとよこせと臆面もなく要求する。
しかも、要求が通るまで口うるさくぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。
これほど人間の感情を逆なでする存在には、まりさ以外に出会ったことがない。
だが、熱はすぐに冷める。
腹立ち紛れにまりさを虐めている時は感じなかったが、俺はゆっくりに関心がないのだ。
そもそも、俺が失ったものはおはぎが一つだけだ。
もしまりさが我が家の家宝を壊したら話は別だが、もう俺の怒りはとっくに収まっている。
こうやってまりさを手元に置いておくだけで、俺はほとほとうんざりしていた。
飼い続ける気などさらさらない。
いっそ潰してしまうかとさえ思ったが、熱が冷めた今殺すのは気が引けた。
まさに惰性で、俺はまりさを飼っていた。
腹立ち紛れにまりさを虐めている時は感じなかったが、俺はゆっくりに関心がないのだ。
そもそも、俺が失ったものはおはぎが一つだけだ。
もしまりさが我が家の家宝を壊したら話は別だが、もう俺の怒りはとっくに収まっている。
こうやってまりさを手元に置いておくだけで、俺はほとほとうんざりしていた。
飼い続ける気などさらさらない。
いっそ潰してしまうかとさえ思ったが、熱が冷めた今殺すのは気が引けた。
まさに惰性で、俺はまりさを飼っていた。
ようやくこの下らない日々が終わったのは、ある休日の午後のことだった。
餌をやろうと箱の蓋を開けた時、久しぶりにまりさが俺の方を見た。
餌をやろうと箱の蓋を開けた時、久しぶりにまりさが俺の方を見た。
「おにいさん……きいてね…………」
まりさの意味のある言葉を聞いたのはどれほどぶりだろうか。
無視できず、俺はまりさの次の言葉を待った。
頭に半分だけになった帽子を乗せた、まだ禿が残っている無様なまりさは、俺に向かって頭を下げた。
体を折り曲げて、謝罪の意を示したのだ。
無視できず、俺はまりさの次の言葉を待った。
頭に半分だけになった帽子を乗せた、まだ禿が残っている無様なまりさは、俺に向かって頭を下げた。
体を折り曲げて、謝罪の意を示したのだ。
「あのね…………。かってに、おにいさんのおかしをたべてごめんなさい。まりさがわるかったよ」
俺は、何も言えなかった。
ようやくだ。
ようやく、俺は待ち望んでいた言葉を聞いたのだ。
だが、遅すぎた。
もはや俺は、まりさの謝罪を聞いても感動はしなかった。
ようやくだ。
ようやく、俺は待ち望んでいた言葉を聞いたのだ。
だが、遅すぎた。
もはや俺は、まりさの謝罪を聞いても感動はしなかった。
「たべちゃだめだっておにいさんがいったけど、まりさはがまんできなくてたべちゃったよ。まりさはわるいゆっくりだね」
今まで狂ったゆっくりのようだったのが嘘のように、まりさははっきりした言葉を発する。
まりさの片方の目には、今はちゃんと理性の光がある。
まりさの片方の目には、今はちゃんと理性の光がある。
「おにいさん、おかしをかえしたいけど、まりさはかえせないよ。ほんとうにごめんなさい」
まりさはもう一度、俺に向かって謝った。
いったいどういう心境の変化だろうか。
最初から、自分が悪いことをしたことが分かっていたのだろうか。
だとしたら、なぜ今まで謝らなかった?
俺が人間だから馬鹿にしていたのか? それとも、言い出すきっかけがなかったのか?
いや、やはりまりさにとってあれは悪いことではなかったのか。
ここ数日ずっと考えていて、ようやく分かったのだろうか?
そうではないだろう。こいつの両親はこいつが悪いことをしたのだと分かっていた。
いったいどういう心境の変化だろうか。
最初から、自分が悪いことをしたことが分かっていたのだろうか。
だとしたら、なぜ今まで謝らなかった?
俺が人間だから馬鹿にしていたのか? それとも、言い出すきっかけがなかったのか?
いや、やはりまりさにとってあれは悪いことではなかったのか。
ここ数日ずっと考えていて、ようやく分かったのだろうか?
そうではないだろう。こいつの両親はこいつが悪いことをしたのだと分かっていた。
まりさの心境の変化は、俺には分からなかった。
だが、もう俺はどうでもよかった。
仮にこいつが俺を騙すつもりで謝っていても、興味はない。
まりさの謝罪は、俺にとってまりさを解放する格好の口実にしかならなかった。
だが、もう俺はどうでもよかった。
仮にこいつが俺を騙すつもりで謝っていても、興味はない。
まりさの謝罪は、俺にとってまりさを解放する格好の口実にしかならなかった。
「外に出たいのか」
「……ゆ?」
「外に出たいのかと聞いたんだ」
「……ゆ?」
「外に出たいのかと聞いたんだ」
俺の問いかけに、まりさはぽかんとしていた。
外に出る。
その響きは、まりさにとってもう絶対に聞けないものだと思っていたに違いない。
外に出る。
その響きは、まりさにとってもう絶対に聞けないものだと思っていたに違いない。
「……でたいよ。おうちはなくなっちゃったけど、まりさはもりにかえりたいよ」
まりさとの関係にうんざりしていた俺にとっても、その言葉は朗報だった。
俺は箱をひっくり返し、まりさを地面に転がした。
俺は箱をひっくり返し、まりさを地面に転がした。
「出て行け。もう二度とここに来るんじゃないぞ」
まりさは、しばらくその場で固まっていた。
現実が信じられず、まりさはぼーっとその場で突っ立っている。
だが、徐々に理解できたらしい。
きっと、足の感触の違いで分かったのだ。
もう、自分が踏んでいるのは固い人工の床ではない。
柔らかい土の感触が、足から伝わってくる。
現実が信じられず、まりさはぼーっとその場で突っ立っている。
だが、徐々に理解できたらしい。
きっと、足の感触の違いで分かったのだ。
もう、自分が踏んでいるのは固い人工の床ではない。
柔らかい土の感触が、足から伝わってくる。
外だ。
外に出られたのだ。
まりさは待ち焦がれた自由に、隻眼からぽろりと涙をこぼした。
外に出られたのだ。
まりさは待ち焦がれた自由に、隻眼からぽろりと涙をこぼした。
「……ごめんなさい、おにいさん。……ほんとうに、ごめんなさい…………」
「分かったから行くんだ。森で、人間にかかわらず生きていけ」
「わかったよ……。まりさは、もりにかえるんだ……。ゆっくりかえるよ……。まりさは……おうちをみつけて…ゆっくりするんだよ。
ごはんさん……むしさん……おはなさん……まっててね。まりさは……いっぱいみつけて……おうちでいっぱい……むーしゃむーしゃするよ。
それで……ゆっくりおやすみして……いっぱい……いっぱいおともだちみつけて……いっぱいあそんで……いっしょにゆっくりして………」
「分かったから行くんだ。森で、人間にかかわらず生きていけ」
「わかったよ……。まりさは、もりにかえるんだ……。ゆっくりかえるよ……。まりさは……おうちをみつけて…ゆっくりするんだよ。
ごはんさん……むしさん……おはなさん……まっててね。まりさは……いっぱいみつけて……おうちでいっぱい……むーしゃむーしゃするよ。
それで……ゆっくりおやすみして……いっぱい……いっぱいおともだちみつけて……いっぱいあそんで……いっしょにゆっくりして………」
尽きない望みを次々と口にしながら、まりさは嬉し涙を流していた。
俺の目の前で、まりさはずりずりと這って生け垣に向かう。
以前、俺から逃げようと必死で跳び込んだ元気さは、もう今のまりさにはない。
俺の目の前で、まりさはずりずりと這って生け垣に向かう。
以前、俺から逃げようと必死で跳び込んだ元気さは、もう今のまりさにはない。
それでも、まりさは生きている。
生きて、森に帰ることができるのだ。
失ったものは多いが、まだ希望はある。
まりさは生け垣に潜り込み、俺の前から姿を消した。
生きて、森に帰ることができるのだ。
失ったものは多いが、まだ希望はある。
まりさは生け垣に潜り込み、俺の前から姿を消した。
「……やれやれ。長かった」
俺はまりさの這う音が聞こえなくなってから、大きくため息をついた。
つくづく、我ながら馬鹿らしいことをした。
たかが菓子一つのことで、ずいぶんむきになったと自分でも思う。
それだけ、俺にとっては父に怒られた経験がトラウマになっているのか。
つくづく、我ながら馬鹿らしいことをした。
たかが菓子一つのことで、ずいぶんむきになったと自分でも思う。
それだけ、俺にとっては父に怒られた経験がトラウマになっているのか。
だが、茶番もこれで終わりだ。
まりさとはもう、二度と会うこともあるまい。
これでよく分かった。
ゆっくりと人間は、言葉こそ通じるがまったく別の思考を持つ生物なのだ。
俺の価値観をまりさに押しつけようとして、こんな馬鹿らしい事態を招いた。
ゆっくりを人間扱いした結果がこれだ。
まりさを謝らせようなどと考えなければよかったのだ。
まりさとはもう、二度と会うこともあるまい。
これでよく分かった。
ゆっくりと人間は、言葉こそ通じるがまったく別の思考を持つ生物なのだ。
俺の価値観をまりさに押しつけようとして、こんな馬鹿らしい事態を招いた。
ゆっくりを人間扱いした結果がこれだ。
まりさを謝らせようなどと考えなければよかったのだ。
まりさのように菓子をせがむゆっくりがいれば、蹴り飛ばすか菓子を隠してしまえばいい。
どうせ、その程度の存在なのだ。まりさが謝ったのも、せいぜい偶然だ。
そういうふうに思えば、遙かに楽だ。
俺は肩の荷が下りた気分だった。
どうせ、その程度の存在なのだ。まりさが謝ったのも、せいぜい偶然だ。
そういうふうに思えば、遙かに楽だ。
俺は肩の荷が下りた気分だった。
一週間ほど経った。
透明な箱を片づけたことで、俺は早くもまりさのことを忘れかけていた。
もう、ゆっくりには駆除以外で関わることはないと思っていた。
それは、山芋を見つけに森に入った時のことだった。
透明な箱を片づけたことで、俺は早くもまりさのことを忘れかけていた。
もう、ゆっくりには駆除以外で関わることはないと思っていた。
それは、山芋を見つけに森に入った時のことだった。
「いたい? いたいいいいい!? そうだよねえ! いたいよねえ!」
「おちびちゃんはもっといたかったのよおおおお! もっとくるしかったわああああ!」
「くるしいよねえ! しにたいよねえ! まだころさないよ!」
「もっともっと! もっともっともっともっと! まだたりないぜえええええ!」
「あはははははは!! いたそう! すごくいたそうだよ! いいきみだよおおおお!」
「もっとくるしめようね! おちびちゃんのかたきだよおおお! こいつはああああ!」
「おちびちゃんはもっといたかったのよおおおお! もっとくるしかったわああああ!」
「くるしいよねえ! しにたいよねえ! まだころさないよ!」
「もっともっと! もっともっともっともっと! まだたりないぜえええええ!」
「あはははははは!! いたそう! すごくいたそうだよ! いいきみだよおおおお!」
「もっとくるしめようね! おちびちゃんのかたきだよおおお! こいつはああああ!」
聞くに堪えない耳障りな声が聞こえてきた。
あまりに騒がしく異様な雰囲気だったので、俺は声がする方を見た。
少し離れたところに、背の高い木がない小さな空き地がある。
そこで、六匹のゆっくりが何かを取り囲み、やたらと興奮した様子で叫んでいる。
俺が近寄っても、こちらを見るゆっくりは一匹もいない。
あまりに騒がしく異様な雰囲気だったので、俺は声がする方を見た。
少し離れたところに、背の高い木がない小さな空き地がある。
そこで、六匹のゆっくりが何かを取り囲み、やたらと興奮した様子で叫んでいる。
俺が近寄っても、こちらを見るゆっくりは一匹もいない。
顔付きからして不気味だ。
ゆっくりらしいのんびりした顔をしているゆっくりなどいない。
どのゆっくりも、歯をむき出しにして憎悪の表情を浮かべている。
ゆっくりらしいのんびりした顔をしているゆっくりなどいない。
どのゆっくりも、歯をむき出しにして憎悪の表情を浮かべている。
「ぶっ………ぶっ………ぎゅっ………ゆ゙っ………ゆ゙っ………ぢぢっ……」
六匹のゆっくりが取り囲んでいたもの。
俺は最初、ゆっくりが木の枝で作った人形ではないかと思った。
あのベッドのような複雑なものを作るゆっくりだ。自分たちそっくりの人形くらい作るだろう。
まじまじと観察してようやく、何なのか分かった。
俺は最初、ゆっくりが木の枝で作った人形ではないかと思った。
あのベッドのような複雑なものを作るゆっくりだ。自分たちそっくりの人形くらい作るだろう。
まじまじと観察してようやく、何なのか分かった。
それは、生きたゆっくりだった。
おびただしい数の木の枝を全身に突き刺され、なおも生き続けているゆっくりだった。
髪の色からかろうじてまりさだと判別が付くが、地肌がそもそも見えない。
隙間が見あたらないほどびっしりと、まりさの表面に木の枝が刺さっている。
両目と無理矢理開かされた口には、特に大量の枝が突っ込まれている。
両方の目は枝で完全に埋まり、口は枝によって閉じられない。
さらには引きずり出された舌まで、不気味な剣山となっていた。
おびただしい数の木の枝を全身に突き刺され、なおも生き続けているゆっくりだった。
髪の色からかろうじてまりさだと判別が付くが、地肌がそもそも見えない。
隙間が見あたらないほどびっしりと、まりさの表面に木の枝が刺さっている。
両目と無理矢理開かされた口には、特に大量の枝が突っ込まれている。
両方の目は枝で完全に埋まり、口は枝によって閉じられない。
さらには引きずり出された舌まで、不気味な剣山となっていた。
「ぼぉ………ぼぼぉ………ごっ………びっ…………」
どう見ても生きているはずがないのに、まだまりさは生きている。
かすかに痙攣していることと、口から呻き声が聞こえることが、こいつが生きてることの証だ。
いったいどれだけの苦痛を感じているのか、想像することさえできない。
かすかに痙攣していることと、口から呻き声が聞こえることが、こいつが生きてることの証だ。
いったいどれだけの苦痛を感じているのか、想像することさえできない。
「……何だ、これは」
あまりに凄惨なまりさの姿を見て、俺は思わずそう言っていた。
ようやく興奮していたゆっくりたちも、すぐ側まで人間が近づいていることに気づいたらしい。
口々に俺にまくし立ててくる。
ようやく興奮していたゆっくりたちも、すぐ側まで人間が近づいていることに気づいたらしい。
口々に俺にまくし立ててくる。
「にんげんさん! じゃましないでね! れいむたちはおちびちゃんのかたきをとってるだけだよ!」
「にんげんさんにはかんけいないよ! さっさときえてね!」
「そうだぜ! まりさたちはおちびちゃんのかなしみとくるしみをこいつにあじわわせているだけだぜ!」
「これくらいじゃぜんぜんだめだよ! しんじゃったおちびちゃんはこれくらいじゃよろこばないよね!」
「たりないわあああ! こんなんじゃぜんぜんたりない! もっといためつけないと! まだころすなんてできないわああ!!」
「そうよ! もっとさしましょう! まださすところはたくさんあるわ!」
「にんげんさんにはかんけいないよ! さっさときえてね!」
「そうだぜ! まりさたちはおちびちゃんのかなしみとくるしみをこいつにあじわわせているだけだぜ!」
「これくらいじゃぜんぜんだめだよ! しんじゃったおちびちゃんはこれくらいじゃよろこばないよね!」
「たりないわあああ! こんなんじゃぜんぜんたりない! もっといためつけないと! まだころすなんてできないわああ!!」
「そうよ! もっとさしましょう! まださすところはたくさんあるわ!」
ゆっくりたちは怒りと憎しみに歪みきった顔で、俺に訴えてくる。
俺は、もう一度死んだ方が遙かにましな目に遭っているまりさを見てみた。
気づいた。
帽子をかぶっていないと思ったら、そうではない。
まりさの頭には、よく見ると帽子の残骸らしきものが乗っている。
きれいに、半分に破かれたそれ。
……合点が行った。
俺は、もう一度死んだ方が遙かにましな目に遭っているまりさを見てみた。
気づいた。
帽子をかぶっていないと思ったら、そうではない。
まりさの頭には、よく見ると帽子の残骸らしきものが乗っている。
きれいに、半分に破かれたそれ。
……合点が行った。
「こいつは、お前たちの子どもを殺したのか」
「そうだぜ! まりさたちのおちびちゃんは、こいつがばかなことをしてにんげんさんをおこらせたせいでころされたんだぜ!」
「ゆるせないよね! ぜったいにゆるせないよね! にんげんさんをおこらせたこいつはしんでとうぜんだよ!」
「そうよ! おちびちゃんは……おちびちゃんはああああ! ころされたの! にんげんに! にんげんにいいいい!」
「こいつがにんげんさんをおこらせなければ! おこらせなければあああああ! おちびちゃんはしななかったのにいいいいい!」
「いきなりこいつがおうちにやってきていったのよ! 「まりさがわるかったよ。ありすがしんじゃってごめんなさい」って!」
「ゆるすわけないでしょおおおお! ゆるせるわけないでしょおおおお! おちびちゃんがしんでどうしてこいつだけいきてるのおおおお!」
「そうだぜ! まりさたちのおちびちゃんは、こいつがばかなことをしてにんげんさんをおこらせたせいでころされたんだぜ!」
「ゆるせないよね! ぜったいにゆるせないよね! にんげんさんをおこらせたこいつはしんでとうぜんだよ!」
「そうよ! おちびちゃんは……おちびちゃんはああああ! ころされたの! にんげんに! にんげんにいいいい!」
「こいつがにんげんさんをおこらせなければ! おこらせなければあああああ! おちびちゃんはしななかったのにいいいいい!」
「いきなりこいつがおうちにやってきていったのよ! 「まりさがわるかったよ。ありすがしんじゃってごめんなさい」って!」
「ゆるすわけないでしょおおおお! ゆるせるわけないでしょおおおお! おちびちゃんがしんでどうしてこいつだけいきてるのおおおお!」
唾を飛ばしてゆっくりたちはまりさを責めると、また落ちている枝を口にくわえた。
六匹がいっせいにまりさにそれを突き刺す。
六匹がいっせいにまりさにそれを突き刺す。
「……びゅっ!!」
まりさの体がびくんと大きく震えた。
痛覚は決して鈍っていない。
まりさは今この瞬間も、発狂しそうな量の激痛に苦しんでいる。
痛覚は決して鈍っていない。
まりさは今この瞬間も、発狂しそうな量の激痛に苦しんでいる。
「ぜったいにゆるさないよ! こいつはえいえんにゆっくりするまでいっぱいいっぱいいためつけてやるんだよ!」
「もうこいつにぷすぷすしてからおひさまがいっぱいのぼったね! まだたりないよ! もっともっとぷすぷすしてやるよ!」
「このくそゆっくり! しね! しね! おちびちゃんのいたみをおもいしれ! どう? いたい! いたいでしょ!?」
「もうこいつにぷすぷすしてからおひさまがいっぱいのぼったね! まだたりないよ! もっともっとぷすぷすしてやるよ!」
「このくそゆっくり! しね! しね! おちびちゃんのいたみをおもいしれ! どう? いたい! いたいでしょ!?」
俺はまりさを眺めた。
かすかに痙攣しながら、まりさは何かを言おうとしている。
かすかに痙攣しながら、まりさは何かを言おうとしている。
「ぶぶっ……ぼっ………ごぉ…………ゆ゙っ……」
だが、口の中いっぱいに詰め込まれた木の枝のせいで、その声はただの呻き声にしかならない。
それでも、まりさはひたすら同じ言葉を繰り返している。
それでも、まりさはひたすら同じ言葉を繰り返している。
「まだころしてあげないよ! ころすなんてできるわけないでしょおおおおお!!」
「にんげんさん! はやくかえるんだぜ! まりさたちはいまいそがしいんだぜ!」
「はやくあっちにいって! にんげんさんにはかんけいないでしょ!」
「ああ、それは無理だ」
「にんげんさん! はやくかえるんだぜ! まりさたちはいまいそがしいんだぜ!」
「はやくあっちにいって! にんげんさんにはかんけいないでしょ!」
「ああ、それは無理だ」
俺は、山芋掘りに使っていたスコップを振り上げた。
奇しくもそれは、こいつらの子どもを殺したスコップと同じものだった。
奇しくもそれは、こいつらの子どもを殺したスコップと同じものだった。
三分とかからなかった。
俺は餡子とカスタードにまみれたスコップを、地面に突き刺す。
周囲には、体の中身を飛び散らせたゆっくりが六匹転がっている。
あの時俺が殺した、まりさの友達だった三匹の両親たちだ。
俺は餡子とカスタードにまみれたスコップを、地面に突き刺す。
周囲には、体の中身を飛び散らせたゆっくりが六匹転がっている。
あの時俺が殺した、まりさの友達だった三匹の両親たちだ。
「どっ……ど…ぼ…じ……で…………」
「おぢ……び……ぢゃ……がだ……ぎ……」
「じに……だ……ぐ……ない……よ…………」
「おぢ……び……ぢゃ……がだ……ぎ……」
「じに……だ……ぐ……ない……よ…………」
しばらくの間、即死しなかった数匹が呻いていたが、やがて静かになった。
こいつらは最後まで、俺が自分の子どもを殺した張本人だと気づかなかったらしい。
思えば、こいつらが庭でまりさを罵っている時、俺は側にいなかった。
結果としてまりさを拷問から救うことになったが、俺はまりさを助けたかったわけではない。
ただひたすら、おぞましかったのだ。
憎悪をむき出しにするゆっくりたちが、見るに堪えなかっただけだ。
こいつらは最後まで、俺が自分の子どもを殺した張本人だと気づかなかったらしい。
思えば、こいつらが庭でまりさを罵っている時、俺は側にいなかった。
結果としてまりさを拷問から救うことになったが、俺はまりさを助けたかったわけではない。
ただひたすら、おぞましかったのだ。
憎悪をむき出しにするゆっくりたちが、見るに堪えなかっただけだ。
あれは、あまりにもおぞましすぎた。
我が子が殺された恨みをまりさにぶつける姿は、寒気がする程不気味なものだった。
俺は、あんなものがいることに我慢できなかった。
きっと、俺以外の誰かがあの場面を見ても、俺と同じようにするだろう。
我が子が殺された恨みをまりさにぶつける姿は、寒気がする程不気味なものだった。
俺は、あんなものがいることに我慢できなかった。
きっと、俺以外の誰かがあの場面を見ても、俺と同じようにするだろう。
そして同時に、俺はゆっくりたちに自分の姿を重ねていた。
子どもを殺されたことを絶対に許さず、おぞましい拷問を行うゆっくり。
菓子を食べたことを謝らなかったから、まりさからあらゆるものを奪った俺。
自分のしたことがあまりにも低レベルなことに思え、俺はぞっとした。
子どもを殺されたことを絶対に許さず、おぞましい拷問を行うゆっくり。
菓子を食べたことを謝らなかったから、まりさからあらゆるものを奪った俺。
自分のしたことがあまりにも低レベルなことに思え、俺はぞっとした。
俺は死んだゆっくりたちを踏み越え、今もまだ弱々しく痙攣しているまりさに近づいた。
生きているのが不思議な状態だ。
俺はしばらく考えてから、舌に突き刺さっている枝と、口を塞いでいる枝を抜いた。
生きているのが不思議な状態だ。
俺はしばらく考えてから、舌に突き刺さっている枝と、口を塞いでいる枝を抜いた。
「ゆ゙っっ!!」
傷口を引っかき回される苦痛に、まりさがびくんと痙攣した。
一瞬だけ動いたその体は、次の瞬間ぐったりとして地面に潰れる。
一瞬だけ動いたその体は、次の瞬間ぐったりとして地面に潰れる。
「まりさ。まりさ。聞こえるか」
「だ……れ……? だれ……な……の? おと……さ……ん? おとう……さん……だよ……ね……」
「だ……れ……? だれ……な……の? おと……さ……ん? おとう……さん……だよ……ね……」
まりさはもはや瀕死なのがよく分かった。
俺が手を下さなくても、今日一日保つか保たないかだっただろう。
まりさは弱々しく頭を動かし、声の主を捜す。
聴覚も鈍り、俺の声と親まりさの声と区別が付かないらしい。
俺が手を下さなくても、今日一日保つか保たないかだっただろう。
まりさは弱々しく頭を動かし、声の主を捜す。
聴覚も鈍り、俺の声と親まりさの声と区別が付かないらしい。
「い…た…い……よ……。くる…しい……よ……。こわ…い……よ……。しにたく……な……いよ……」
まりさは全身の苦痛と、死の恐怖からぶるぶると震えていた。
あまりにも、その姿は哀れだった。
一番最初にまりさを見た時に感じた、あの天真爛漫なはつらつとした様子はない。
ここにいるのは、死にかけた惨めで汚らしいごみのような饅頭だ。
あまりにも、その姿は哀れだった。
一番最初にまりさを見た時に感じた、あの天真爛漫なはつらつとした様子はない。
ここにいるのは、死にかけた惨めで汚らしいごみのような饅頭だ。
「おと……さ……ん。まり……さ……ここ…に…いる……よ。ゆっく…し……て……ね…………」
「ゆっくりしているよ。まりさももう、ゆっくりするといい」
「うれ……しい……な……。おとう……さん……ありが……と……う………」
「ゆっくりしているよ。まりさももう、ゆっくりするといい」
「うれ……しい……な……。おとう……さん……ありが……と……う………」
ずたずたになった顔で、まりさはかすかに微笑んだ。
最後の最後で、まりさはわずかばかりのゆっくりを手に入れることができた。
それが、ほんの数秒であっても、ゆっくりであることに変わりはない。
まりさの体が、弱々しく痙攣しだした。
最後が近い。
最後の最後で、まりさはわずかばかりのゆっくりを手に入れることができた。
それが、ほんの数秒であっても、ゆっくりであることに変わりはない。
まりさの体が、弱々しく痙攣しだした。
最後が近い。
「……いや…だ…よ……。やっと……おと…うさんに……あえた……のに…しにたく………ない……よお……。
まりさ…しにたく…ない……しにたく………ないよぉぉ……どうし…て……まりさ……しんじゃう……の……?
ど……う……し……て……? ごめ…な……さい……ごめん……な……さい……ごめ……な……さ…………」
まりさ…しにたく…ない……しにたく………ないよぉぉ……どうし…て……まりさ……しんじゃう……の……?
ど……う……し……て……? ごめ…な……さい……ごめん……な……さい……ごめ……な……さ…………」
まりさは一度だけ「ゆ゙っ……」と鳴いてから、動かなくなった。
木の枝がいっぱいに刺さった目から、じわりと餡子混じりの涙が滲み出る。
まりさは死んだ。
最後に少しだけ安らぎがあったとしても、あまりにも無惨な最後だった。
むしろ、小さな希望が与えられたことで、かえって絶望しつつまりさは死んだのかもしれない。
俺は、変わり果てたまりさを手で掴んで持ち上げた。
木の枝がいっぱいに刺さった目から、じわりと餡子混じりの涙が滲み出る。
まりさは死んだ。
最後に少しだけ安らぎがあったとしても、あまりにも無惨な最後だった。
むしろ、小さな希望が与えられたことで、かえって絶望しつつまりさは死んだのかもしれない。
俺は、変わり果てたまりさを手で掴んで持ち上げた。
「なぜ、もっと早くに謝らなかったんだ、まりさ」
死んで動かないまりさに俺は問いかける。
こいつは、即座に謝るという選択肢が思いつかなかったわけでもあるまい。
もし、何でもいいから、どんな形でもいいから一度でも「ごめんなさい」と言っておけば。
まりさは何一つ失うことなく、今も家族と友達と仲良く暮らしていただろう。
こいつは、即座に謝るという選択肢が思いつかなかったわけでもあるまい。
もし、何でもいいから、どんな形でもいいから一度でも「ごめんなさい」と言っておけば。
まりさは何一つ失うことなく、今も家族と友達と仲良く暮らしていただろう。
まりさからすべてを奪った張本人が言うのもおかしいが、俺はそう感じていた。
せめて、「もっとちょうだいね!」などと言わなければ良かったのに。
俺の過去のトラウマを、引きずり出すようなことをしなければ良かったのに。
俺は誰からも悲しまれずに死んだまりさを持ち帰り、庭の片隅に埋葬した。
それが、俺なりの終わらせ方だった。
せめて、「もっとちょうだいね!」などと言わなければ良かったのに。
俺の過去のトラウマを、引きずり出すようなことをしなければ良かったのに。
俺は誰からも悲しまれずに死んだまりさを持ち帰り、庭の片隅に埋葬した。
それが、俺なりの終わらせ方だった。
……ということがあったのだが、俺はそれを余すことなくありすに伝えることはなかった。
単にかいつまんで、昔人間に関わってゆっくりできなかったゆっくりがいたことを教えただけだ。
名前も場所も伏せて、俺は自分の過去をまるで伝え聞いたかのようにありすに教えた。
単にかいつまんで、昔人間に関わってゆっくりできなかったゆっくりがいたことを教えただけだ。
名前も場所も伏せて、俺は自分の過去をまるで伝え聞いたかのようにありすに教えた。
「……わかったわ。きっとそうなのね。おじさんとありすたちとは、ぜんぜんちがういきものなのね」
「俺もそう思う。俺たちはたまたま同じ言葉を話せるだけで、考えていることはまったく違うんだよ。
それを忘れると、お互いひどい目に遭う。もし忘れなくても、きっと些細なことから行き違いが生じて、やっぱり不幸になるだろう」
「ありすにはよくわからないけど、おじさんのいうとおりよ。できないことをできるようにいうのは、とかいはじゃないわ」
「俺もそう思う。俺たちはたまたま同じ言葉を話せるだけで、考えていることはまったく違うんだよ。
それを忘れると、お互いひどい目に遭う。もし忘れなくても、きっと些細なことから行き違いが生じて、やっぱり不幸になるだろう」
「ありすにはよくわからないけど、おじさんのいうとおりよ。できないことをできるようにいうのは、とかいはじゃないわ」
ありすは明らかに残念そうだったが、それでも泣き言を言うことなく笑って見せた。
俺は前言を撤回したい気持ちに囚われたが、それでも首を左右に振る。
俺は前言を撤回したい気持ちに囚われたが、それでも首を左右に振る。
「さよなら。森で人間にかかわらず静かに暮らしなさい。ここは君たちにとって危険な場所だからね」
「わかったわ。おじさんもゆっくりげんきでね。てぃーぱーてぃーはたのしかったわ。さよなら」
「わかったわ。おじさんもゆっくりげんきでね。てぃーぱーてぃーはたのしかったわ。さよなら」
くるりと背を向けて、ありすは夜の闇の中に消えていった。
きっと、森のどこかにある巣穴に帰るのだろう。
もしかしたら家族がいるのかもしれない。
両親に、それとも番に、今日会った人間についてどんなことを話すのだろうか。
きっと、森のどこかにある巣穴に帰るのだろう。
もしかしたら家族がいるのかもしれない。
両親に、それとも番に、今日会った人間についてどんなことを話すのだろうか。
森の奥にいる限り、余程のことがなければ人間によって駆除されることはない。
ゆっくりが名前の通りゆっくり暮らしていくには、人間と接触するべきではないのだ。
ゆっくりが名前の通りゆっくり暮らしていくには、人間と接触するべきではないのだ。
俺は、あのまりさからそれを学ばされた。
ゆっくりと人間とは、言葉こそ通じるがその思考はあまりにも違いすぎる。
俺は人間の思考をまりさに押しつけようとして、結果あまりにも馬鹿げたことをした。
あの時、まりさが何を考えて謝らなかったのか分からないし、何を考えて謝ったのかも分からない。
唯一つ言えるのは、お互いに関わらなければ何もなかったということだけだ。
ゆっくりと人間とは、言葉こそ通じるがその思考はあまりにも違いすぎる。
俺は人間の思考をまりさに押しつけようとして、結果あまりにも馬鹿げたことをした。
あの時、まりさが何を考えて謝らなかったのか分からないし、何を考えて謝ったのかも分からない。
唯一つ言えるのは、お互いに関わらなければ何もなかったということだけだ。
「人間とゆっくりとは、関わるべきじゃないんだよ」
俺がそう呟いたのを、奥にいた妻が小耳に挟んだらしい。
向こうから妻の返事が返ってきた。
向こうから妻の返事が返ってきた。
「あなたがそうおっしゃっても、説得力に欠けますけどね。おお矛盾矛盾」
編み物の手を休め、妻は首を左右にシェイクする。
お分かりだろう。俺の妻は、きめぇ丸なのだ。
彼女は、かつては俺の茶道教室に通う生徒の一人だった。
お分かりだろう。俺の妻は、きめぇ丸なのだ。
彼女は、かつては俺の茶道教室に通う生徒の一人だった。
「突然の訪問恐れ入ります。私、実は茶道を勉強したいのですがよろしいでしょうか。おお勉強勉強」
最初はあっけにとられたが、普通のゆっくりとは違い手足があるため、俺も入門を拒まなかった。
教え始めてから俺は驚いた。
彼女は人間や妖怪の先輩たちを見る見る追い抜き、俺の教える茶道をたちまち自分のものにしてしまったのだ。
誰よりも勉強熱心で、誰よりもひたむきに茶道を学ぼうとするきめぇ丸。
俺は、生まれて初めて恋に落ちた。
今では結婚し、子どもこそいないものの夫婦で仕事をがんばっている。
教え始めてから俺は驚いた。
彼女は人間や妖怪の先輩たちを見る見る追い抜き、俺の教える茶道をたちまち自分のものにしてしまったのだ。
誰よりも勉強熱心で、誰よりもひたむきに茶道を学ぼうとするきめぇ丸。
俺は、生まれて初めて恋に落ちた。
今では結婚し、子どもこそいないものの夫婦で仕事をがんばっている。
……これがいわゆる、ダブルスタンダードという奴だろうか?

挿絵:キモあき